聞き覚えの無い鳥類の鳴き声で目を覚ます。ゆっくりと意識が覚醒していく。自分は壁を向いて寝ていて、右耳が押し潰されていた。白い壁、青いカーテン、黒い枕カバー。そのどれもが見覚えの無い物で、意識の覚醒具合が加速していく。
「……なっ、はぁ?」
身体を起こす。手は小さいし身体を覆っている毛布はやはり見覚えが無い。ペタペタと頬を触る。ニキビだらけだった筈の自分の肌はツルツルと心地良い。
「……待て、待て、まてまてまてまてまて!!!」
考える。俺は28歳で、日本人で、昨晩はお気に入りのセクシー女優のコスプレ物で致してから寝た筈で、そしてその手はこんなに小さくなくて──。
「……え、テクノブレイク……?」
母親が俺を呼びに来る、15分前の出来事である。
「朝からカレーだけど良い?」
「あ、あぁ……うん。ありがとう」
「……ふーん? どういたしまして」
母親──名前など当然分からない──の案内の元食卓に着く。
あれから部屋で状況の整理に努めたが分かった事はそう多くない。
一つ、恐らく俺は今まで生きてきた『盛田 真一』という個体では無いという事。
一つ、現在の俺は小学校入学以前程度の少年であるという事。
一つ、俺が少なくとも身体と精神を現在間借りしているこの少年の部屋には動物だか何かしらのキャラクターのぬいぐるみがたくさんある事。
以上までを理解した時に母親が俺の事を呼びに来た。
この母親というのがとんでもない美人で、俺と本当に血が繋がっているのかと疑ってしまった。2秒後には俺が想定していた「俺」が前世の盛田 真一であり、現世は母親から「シン」と呼ばれている少年である事を思い出したのだが。
それにしても、略称か分からないが現世のこの少年と前世の俺の名前が似ているのは何かの偶然なのだろうか。偶然も何も今のこの状況が意味不明過ぎて正直どうすればいいのかさっぱり分からない、なんなんだよ本当に!
俺は死んだのか? 確かにあの一発は天に昇る程気持ち良かったけれど、いくらなんでも本当に昇天するなんてそりゃあんまりだ。明日花ピララだってそんなの本意じゃない筈だ。自分の作品で死者が出たら寝覚めが悪いなんてもんじゃない。
というか仮に前世の俺が死んでたとして、今のこの状況はどういう事だ? 死後? 天国? 天国って茶髪の腰までのロングヘアーのデカ乳マッマに世話される所なのか? いくらだ? いくら払えば良い? オプションはどこまでオーケー?
冗談はさておき、分からない事が多すぎる。ここは日本なのか? 母親の話す言語は理解できるし、俺もきっと話す事が出来ているのだと思う、けれど。どうにもそれは日本語とは異なる気がしてならない。
もう一つある。『シン』少年の精神はどこに行った? 俺は現在、彼の身体と精神を間借りしている。目覚めてから15分強が経つけれど少年がアプローチを取ってくる様子は無い。「奪い取って」しまったのか? こんな若い、未来のある少年の人生を乗っ取ったのか? 28歳の、冴えないおっさんが? そんな残酷な事って──
「……シン? 食べないの?」
母親に声を掛けられる。しまった、考え込んでしまった。
「食べるよ、ママ」
「……具合でも悪い?」
心なしか母親は疑うような目線を向けている気がする。4人掛けテーブル、肘を突きながらこちらをジッと見下ろしてくる。前世ではボーナス後にしか絡めなかったようなどえらい美人さんにそんな目されたら、少年ながらクる物があるんだけどな。
「あー、ううん。大丈夫だよ、ごめんママ」
「じゃあなんで今日はそんなお利口さんなの?」
「え……?」
「スプーンもちゃんと持てて、ちゃんと椅子に座れて、ママの事「おばさん」じゃなくてママって呼べて──」
「っ!」
「──起きた瞬間にお庭に行ってブイブイ達と遊ぶ訳でも無い。ねぇ……なんで?」
普段どんだけヤンチャだったんだよシン少年!!!!
馬鹿かてめー母親におばさんとか言っちゃいけません!!!
「……その、怖い、夢見て」
咄嗟の逃げだけは前世からの特技だった。5歳児と仮定して、5歳児が急に態度を改めるなんてこんなもんで十分な筈だ。
「……でっかい、その、おにさんみたいのに、怒られたんだ」
前世では大学で2ヶ月半演劇サークルに所属していた俺だ、口調から何まで完璧だった筈。友達を作ろうと一念発起して入ってぼっちを貫いてやめた前世の経験がこんな形で活きるとは! 初の同期飲み会で思いっきり吐き散らかしてから一度も行ってないから、演技のえの字も学んでいないけどな。
「そっか、怖かったね。でもお利口さんになれて偉いね〜」
母親は心配そうに眉を下げ、俺の頭を撫でてくれた。前世含めてそんな事をされたのは初めてで、俺はうっかり泣きそうになってしまった。シン少年が泣き虫だったのかどうかは知らないが、俺は母親を騙せてしまった安心感と騙してしまった罪悪感と、その手のひらの暖かさで胸の中がぐちゃぐちゃだった。
食事を終え部屋に戻る。
それにしても父親が来てくれないと俺は母親の名前すら分からない。身体はシン少年の物であると言うのに、脳みそは残念ながら『盛田 真一』の物である。俺はここが日本の東京なのかも分からなければ家族の名前すらも分からない。そのくせ会話だけは一丁前に出来る。どういう原理かは分からないが。
少年の本棚を漁る。
絵本が大量にある。と言うか、シン少年、こんな若いのに立派な一人部屋を与えられてるんだな。裕福な家庭なんだろう。先程俺が名演技を繰り広げたリビングは一階で、少年の部屋は二階にある。探検はちょっとまだ怖くて出来ていないが、チラッと見た感じ少年の部屋を出て奥に行くと両親の部屋があるのだと推察される。
絵本を開く。
文字は読める。案の定、日本語では無い。英語でも無ければフランス語でも無い。俺は言語学に明るかった訳では無いがそれでも分かる。これは間違いなく異界の言語だ。だって古代文字みてーなんだもん。
整理をする。前世から俺は、パニックになりかけると同時に冷静になるように訓練してきた。訓練のおかげで小学校の帰り道に外履きが無くなっていても即座に周囲のゴミ箱を漁るようになれた。「努力は裏切らない」は真である。
ここは日本じゃない、つーか地球なのかすら怪しい。ただ、カレーと言う耳馴染みのある単語が登場してしまっている以上、なんらかの構成要素が近しい世界では無いだろうか。
起床してから一時間以上経つが俺の身体に異常は現れない。つまり俺は『盛田 真一』からシン少年に変身してしまった。明日の朝までは本決定とはしないが、これからは『シン』として生きていく事が前提になるだろう。
ベッドに横になる。
フカフカのベッド。シン少年、俺の中に居るなら聞いてくれよ。
原因は分からないが、今君のナカに居るのは俺、盛田 真一だ。
俺は君が戻って来れるのなら今すぐにでも出て行こうと思う。出ていく方法はちょっと今のところ分からないし、どうやって君の身体を借りたのかも一切分からないが、本当だ。
君はどうやら母君に大変愛されているようだし、貧しい家庭でも無いみたいだ。そのアドバンテージは非常に大きい。明るい未来が約束されているようなもんだ。だから、出来る事なら君の人生は君に生きてほしい。
だから、どうか、戻ってき──
「シン! ブイブイ達のお散歩行かなくて良いのー?」
母親に階下から声を掛けられる。
犬の散歩か? 良いな、俺、犬って飼ってみたかったんだ。
まぁ、シン少年よ、返答を待ってるよ──部屋をグルリと見渡し、俺は慌てて母親に返事をしながら部屋を出た。
「いーい? 寄り道しちゃダメよ? 他の子たちに出会っても遊び過ぎちゃダメ。後……そうね、トキワの森には行っちゃダメだからね?」
母親に言いつけられる。そういうプレイをしているみてえだな、としか考えていなかった為、正直何を注意されたのかサッパリ覚えていないが大丈夫だろう。犬の散歩くらい、実年齢28歳のおっさんには楽勝だ。
「分かったよ、ママ」
「あら、お利口な返事だね〜よしよし。じゃあ一緒にお庭に行こっか」
また、頭を撫でられる。正直、今の俺にまともな生殖能力が無くて安心している。シン少年の『シン少年』がウェイクアップしない為、いくらマッマに愛でられても屈まなくて済む。
「ブイブーイっ、チューちゃんっ!」
母親の呼びかけに、これまた広い庭の奥の方から2匹の犬らしき動物が走ってくる。
……はっ!?
え! なんで!?
その走ってきた動物の一方の見覚えは無いが、一体はテレビを見ない俺でも分かる、子供の大スターだった。
なんでピカチュウがここにいんの!?!?
はぁ!? え、ここって、ポケなんちゃらの世界なの!?!?!?!?
初投稿です。
展開ほとんどなんも考えてません、助けてください(懇願)。
作者はポケモンにわかだし文章力が無いので戦闘シーンとか、そういうポケモン小説ならではの描写は期待しないでください。どっちかと言うと、ポケモンが居るという前提のもと、えっちなお姉さんとかを書きたいです。でもR18描写はしません、文章力が無いので。