美人が多すぎて俺の俺が俺なんだけど   作:

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隣人の押しが強すぎて俺の俺が俺なんだけど

 

「朝か……。雨じゃん、ブイブイたち、散歩行けないな……」

 

 この世界で盛田 真一(前世の俺)シン少年(今世の俺)として目覚めてから1週間が経った。ある程度この──ポケットモンスターが存在するという前世の俺からしたら奇妙な──世界にも慣れてきた。

 俺は前世で動物をペットとして飼った事は無いが、多分、似たような感じなのだと思う。当然前世の動物とはかなり異なるが、根幹の部分は同じだ。共存している。

 例えば俺の家には現在俺が知る限り2個体のモンスターがいる。ブイブイことイーブイと、チューちゃんことピカチュウである。イーブイは前世の犬にかなり似ているし、ピカチュウは鼠をでっかくしたようなもんだ。大事な部分は、前世の犬よりもかなり運動能力が高い点やら、前世ではそもそも鼠があそこまで高電圧の電気を繰り出す事など無かった、という点なのだが──彼らは俺と母親を主として懐いてくれている。前世では叶わなかった母親の愛も、ペットとの生活もこの世界にはある。それはとても素敵で俺にとっては慈しむべきモノだと思う。

 

 

 

「シンー。ブルーちゃんが来るわよー! 早く起きなさい?」

 

 

 階下から母親が俺を呼ぶ声が聞こえて、階段を駆け上る足音が二つ聞こえてくる。きっとブイブイとチューちゃんだろう。ドアを開けて待っていると、彼らが勢いそのままに足に抱きついてくる。愛いものである。

 

 

「分かったよ、ママ! ありがとう!」

 

 

 気持ち声を張り上げながら母親に返す。顔を洗っておこう。ブルーならきっと、朝食を()()()食べたがる筈だ。

 

 

 

「──おっはよーシン! 雨だよ〜!」

 

 

 10分もすると玄関の扉が開き、活発な少女が顔を覗かせる。俺はブイブイを手に抱きながらそれを迎える。

 

 

「おはようブルー、朝飯は? 一緒に食うんだろ?」

「うん! トキコさんおはようございます! これ、ママが。セキチクのおばあちゃん家から届いたモモンの実のおすそわけ!」

「あらあらありがとう、ブルーちゃんはしっかりしてるね」

「えへへ、シンの奥さんですから!」

「嘘を真実のような顔で言うのはやめろ、俺らまだ6歳なんだぞ」

「じゃあ18さいならいいの? シンったらだいたん!」

 

 

 いつもの調子のブルーに溜息を吐きたくなる。気分は都合の良い漫画の大モテ主人公である。つーかシン少年は正にそれで、先日偶然会ったカスミちゃんやらこの幼馴染のブルーちゃんやら、可愛らしい少女達から想われているようだ。彼女達が惹かれたのはシン少年であり、盛田真一では無い訳だから勘違いせずに済むのは不幸中の幸いと言えるかもしれない。

 

 

「今日は散歩行けないな」

「そうだね、おうちでゆっくりしよう?」

「あー……そうだな」

「きょうは10じからポケモンリーグの試合もあるし、それ見よう?」

「ブルーは……トレーナーになりたいのか?」

 

 

 この世界では当然ながら就職云々にもポケモンが深く関わる事になる。生活にポケモンとの共存が根付いている為当然と言えるのだが、それはあまりにも膨大な歴史であり、1週間経った今でも把握できてない部分は多いと思われる。

 まず、前世の格闘技同様、この世界でも往々にして闘う事が金銭の取得に繋がる。この世界での戦闘はつまりポケモンを用いたそれであり、それを生業とする──或いは生業にしようと試みる人間を一般にトレーナーと呼ぶ。「ポケモンを育てている」という意味では殆どの人間がトレーナーと呼べるのだが、この場合は専門として戦闘を行なっている人間たちに絞られると見て間違い無いと思う。

 

 他にもポケモンを育てるブリーダーも居れば、この世界における隣人──ポケモンを研究する学者もいる。勉学もポケモンを基礎としており、前世における一般教養も学ぶのだろうが、ポケモン学が根底にある、と思われる。これはあくまで家にある本やこの小さな町の住人達の会話からの推測であるが、大まかには合っていると思う。

 

 話をトレーナーに戻すと、トレーナーを志す少年少女はトレーナーズスクールに通う事になる。このトレーナーズスクールというのが面白い施設で、まず入学年齢に制限が無い。例えば通おうと思えば6歳の俺らでも通う事が出来るし、一念発起した80歳のご高齢の方でも学ぶ事が出来る。門の開かれ方がエグい。それだけこの世界における商業化された戦闘──通称ポケモンバトル──が人気という事なのかもしれない。

 トレーナーズスクールは別にトレーナーになりたいと思っていなくても通う事が出来る。この世界においてポケモンの扱い方とは箸の持ち方よりも大事な概念だ。バトルに興味が無くてもブリーダーになりたい者や、生活の中でポケモンと手を取り合って生きていきたい者が入学する事も多いようだ。実質的な教養を学ぶ場でもある。

 授業料や入学料も高いものでは無い。この地方──カントー地方では、ここマサラタウンから一つ隣のトキワシティにスクールがある。俺もブルーもいつかは通う予定であるし、そうなると自ずと家を出る事になる。マサラからトキワに向かうには近いとは言っても通学には不便だからである。自然と寮生活を強いられる事になる。

 

 

「うーん。別にトレーナーになりたいとは思ってないけど、バトルが面白いなとは見てて思うよ」

 

 

 やけに大人びた表情のブルーが答える。

 

「そっか」

「シンは?」

「俺は……闘うとかは、なぁ? ブイ、チュー?」

 

 俺の問いかけに2匹は首を傾げているように見える。人間語は理解できていないだろうな。

 

「まぁ、扱い方とかを学ぶのは良い事だと思うから通うよ」

「……ふーん?」

 

 

 カスミはシン少年とブルーの進展を気にかけていたようであるが、彼女もトレーナーズスクールに通う場合それは杞憂に終わるのでは無いだろうか。ハナダからトキワも中々距離があるようだし、そうなると寮生活をする事になるだろう。通うタイミングが重なれば、の話に限定されてしまうが。

 

 

「何歳になったら入るの?」

 

 

 母親が俺らに問う。

 

「俺は……10歳くらい? 遅い? かな」

「良いんじゃない? 別に」

「じゃあわたしもシンとおなじタイミングで入るー!」

「うふふ、あらあら」

 

 

 

 母親がそんなブルーを見て笑う。ブルーの猪突猛進ぷりは凄い。狙ってやってるなら大したものである。3日に1度はシン少年の家に来て遊び、母親にもこうしてアピールをしている。カスミはブルーに比べると家が離れている事もあるし、そもそも今は荷作りで忙しいのだろう。1週間前に会ってから、顔を見ない日が続いていた。

 

 

 トレーナーズスクールに入った後は自立する事になるだろう。この世界における一般的な流れとはそんな感じなのだと思う。ここマサラが田舎町なのもあるが、そもそもが前世の世界よりも早熟な世界なんだろう。

 後4年は、こうして母親と共に暮らしたい。俺は本物のシン少年では無いが、彼女は愛を注いでくれる。その愛は俺にとってとても美しくて、前世では得られなかったモノだ。いっぱいに受け取ってから巣立ちたいと思うのである。

 

 

 膝の上のブイブイを撫でながら、そんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 




 めっちゃ好きな書き手さんから評価をいただいていて一人で沸きました。本当は更新する予定では無かったのですが、テンションのままに投稿です。僕もあくタイプは好きです。
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