美人が多すぎて俺の俺が俺なんだけど   作:

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先行き不透明すぎて俺の俺が俺なんだけど

 

 

 

 何着かの着替えやスクールで使用した中でも最重要だと思われる参考書などをリュックサックに詰め込む。こんな所だろう。教科書がやはり重いがしょうがない。旅は身軽な方が良いが、知識はあった方が良い。

 この世界において、知恵は時に武力よりも強い。木の実の効用やポケモン卵の発見について、などの既に十分叩き込まれているであろう知識から他地方で確認された巨大化現象や新たな進化現象の事まで、得する知識は多い。長い旅路では何が役立つか分からない。俺らは純粋に旅をするつもりだが、もしかしたら謀略が暴力を上回る瞬間も存在するかもしれない。

 重いリュックサックをポンポンと叩き、旅の安全を願う。

 

 

「シンー。準備出来たー?」

 

 俺の家の玄関の扉を開きながら聞き馴染みのある声が俺を呼ぶ。

 

「出来たよ。ブルーは?」

「私も大丈夫! ねぇ、『他地方に於けるポケモンバトルの変遷』持った方が良いかな?」

「俺が持ったから大丈夫」

「わー本当!? ありがとうシン」

「いや、大丈夫だよ。……行こう、マサラに」

 

 

 卒業式から一週間が経過した現在、俺らの旅支度は完了し、とうとう旅立ちの時である。この後一度マサラに戻り家族に挨拶をした後に広いカントー地方を巡る旅に出る。

 6年間世話になった寮ともお別れである。女子階の最下階であるブルーと男子階の最上階である俺はつまり一階分しか変わらず、ブルーは時折俺の部屋に訪れていた。男子が女子の部屋を──なんなら女子階に──訪ねるのは御法度であるが、逆はそうでは無い。ブルーには幾度となく朝寝坊を防いでもらったし、家事の手伝いもしてもらった。

 すっかり何も無くなった……訳では無い部屋を見渡す。家具は備え付けの物だし、そもそも広いとは言えない物件である。実家に荷物を送った今もそこまで変化は無いように見えるが、二度とこの部屋で生活する事は無いと考えると寂しさも僅かに感じられる。

 ブルーは料理がとても上手だ。よく作ってもらったなぁ。

 前世で女子の手作り料理を味わおうとしたら少なくない金銭を払う必要があったが、今世では安全安心の無料である。無論、相応のお礼は常々していたが。

 

 

「歩くけど大丈夫か? 荷物持つぞ」

「ううん、今持ってもらってもどうせ旅に出るんだし。このくらい持てなきゃ」

「そっか。キツくなったら言えよ、疲れてなかったら持つから」

「予防線張りながらも優しいのね?」

「油断したら一生持たされそうだからな」

「あら? 一生一緒にいてくれるんだ?」

「……言葉の綾だろ」

 

 

 スクール生時代も時折実家には帰省していた。遠い訳では無いし、この世界でも当然休日という概念は存在する。俺とブルーは最低でも半年に一度は戻っていたが、今回戻ったら次帰るのはいつになるか分からない。どことなくブルーと俺の間に緊張が流れる。

 

 

「……ありがとね?」

「なにが?」

「一緒に来てくれて」

「……別に、旅が嫌な訳では無いしな」

「でも絶対一回は断られると思ったの」

「……負けは負けだからな」

 

 

 卒業後、どの職業に就くかは特に決めてなかった。今思うと上級生になってからひた隠しにしていたブルーは既に覚悟を決めていたのだろう。彼女は俺らの学年でもトップスリーには入る優秀な生徒だった。タマムシ大への推薦枠もあった筈だが、断っていた。

 俺は中の上くらいの成績だった。行こうと思えば──推薦では無いが──タマムシ大にも行けただろうし、ポケモン学の権威オーキド博士の研究所に就職する事も不可能では無かっただろう。成績とコネを考慮すれば。

 そのどれもがしっくり来なかった。不得意な事は無いが、得意な事も無い。そんな自分に向いている職業が何なのか、見極める事が出来るかもしれない。あの日ブルーに誘われた時、俺は少し考えて、その「お願い」を許可した。

 

 

 

 

 

 

「おかえり!」

「ただいま母さん、チュー」

 

 

 母さんも、ピカチュウも、いつも通りだった。ボールからエーフィを出してやると直ぐにピカチュウの元に駆け寄り戯れ始めた。

 

「ご飯食べてから行くの?」

 

 現在は昼食時ど真ん中である。そうしようとブルーとは相談していた。ブルーもブルーの家で今頃食べている筈だ。

 

「うん。良い?」

「勿論! ホットケーキ」

「おぉ! 良いね」

「シン好きだったもんねぇ……」

 

 

 キッチンに立つ母親が目を細めて言った。6歳の時に盛田真一()シン少年()になってから、彼女は変わる事の無い愛情を注いでくれた。口調が変化した事や素行が落ち着いた事に訝しんだ日もあっただろうが、それでも俺にとって彼女の愛情は暖かいモノだった。

 

「……母さん、ここまで育ててくれてありがとう」

「どうしたの……急に」

「割とみんなさ、10歳とかで旅立っちゃうじゃん」

「うん? ……うん、まぁ、そうね」

「俺は16歳までこうして養ってもらって、しかもまだ就職する訳じゃ無いから、家にお金を入れる事も出来ないし」

「……」

「迷惑ばっかりかけてるなぁって」

「お金はお父さんのがあるから大丈夫だよ。シンが健康に育ってくれた、それだけでお母さんは嬉しいよ」

「……本当に、ありがとう」

 

 

 頭を下げながら、泣きそうになっている事に気が付いた。前世では絶対に出来なかった会話であるし、今世での彼女への恩を考えると、自然とそれは溢れそうになっていた。

 こらえて、堪えて、こらえた。

 ピカチュウが鳴いて、母親がフライパンに意識を戻した。

 会話は終了したが、暖かい雰囲気は依然としてそこにあった。それが、嬉しかった。

 

 

「……そういえばジムは? 行くの?」

 

 唇の端にクリームを付けながら母親が言った。ティッシュを渡しながら答える。

 

「まだ迷ってはいる……けど、多分挑むと思う。ブルーは間違いなく挑むだろうな」

 

 この世界での旅にはポケモンジムが大きく関係する。マサラには無いが大きなシティにはそれぞれジムがあり、そこには各タイプのトレーナーとエキスパートたるジムリーダーが所属している。彼らにポケモンバトルで勝利するとそれぞれ対応したジムバッジが貰える。8個全て集まると、毎期末に行われるポケモンリーグ予選への参加権を得る事が出来る。

 旅をする多くのトレーナーの目的はここにある。プロトレーナーを目指す場合、絶対の指標として取得バッジ数、リーグ順位、カップ獲得数は高い水準で必要になる。トレーナーにならないにしろ、それらの資格は就職にも有利になる。目的達成力の証拠となり得るからだ。

 

 

「ハナダジムに行くのが楽しみね? 1年……くらい? カスミちゃんとは会ってないもんね」

「まぁ……そうだね。ハナダジムに行くのは多分最後になるけどね」

 

 当然ながらジムに挑むのに順番など設けられていない。俺らのようにマサラから旅を始める冒険者もいれば、ヤマブキから始める者もいる。冒険者側が自由に決定できるのである。

 

「へぇ……なんで?」

「どうせ闘うなら強いカスミとやりたいから、ってブルーが」

「あらぁ……相変わらず二人は『ライバル』ねぇ……」

 

 母さんの「ライバル」には様々な意味が含まれている気がするがそこは気にしない事にする。彼女達からの好意には俺も当然気付いているが、それはシン少年に向けられたモノであり、俺が勝手に返事をしてしまうのは良くないからだ。そもそも俺は精神年齢28歳なのに6歳児として生きてきたのだ。同学年にそのような欲を覚えたら倫理的にアウトである。──最近のブルーの、その……ふたごやまには思う所があるが。

 

 

「まぁ……そうなんじゃん? あの二人はバトルが上手いからな。ご馳走様、美味しかったよありがとう」

「はーい。ブルーちゃんのお迎えはいつ来るの?」

「さぁ? 向こうが落ち着い──」

 

 

 ピンポ-ン

 

「──たみたいだな。開けてくる。歯磨いたら行くよ」

「そう……」

 

 

 顔を洗っているとブルーと母親の会話が聞こえてくる。

 

「ブルーちゃん、シンをよろしくね?」

「任せてください! 半同棲生活から完同棲……いや、同棲以上になるので、感動でなんでも出来ます! 嫁なので!」

「あらあら、ふふっ」

 

 

 前途多難な旅の始まりである。やけに露出高めなブルーの服装を見ながら、そう思った。

 

 

 

 

 

 




 お気に入りが約1000になりました、皆さんありがとうございます。
 文体がブレブレだなぁって思いました。

 昨日は中学生の美術ぶりに「評価1」をいただいてショックすぎて更新しませんでした。もしかして私のメンタル……弱すぎ……?って感じですね。
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