「ブイブイ! スピードスターを全体に!」
「っ! ピーちゃんかわらわり! ブイブイを守って!」
スピアーの軍勢が襲い掛かる。何匹いるのか数える余裕は無いが、少なくとも倒すのにある程度手間取る数ではある。
トキワタウンを抜け、トキワの森に入って直ぐの出来事である。
「ふぅ、はぁ。ありがとうブルー、助かったよ」
「私の方こそありがとう。久々のダブルバトルだったね!」
「あー、そうだな。ブルーが合わせてくれなきゃ危なかった」
「安心して女房に背中を預けなさい」
「それなら女房を探す所から始めないといけないけどな」
校外学習──学生諸君の認識としては前世で言う「遠足」にかなり近いが──ぶりに訪れたトキワの森は、やはり旅を始めたての初心者には厳しい部分もあった。スピアーの群れから逃れた俺達は、安全と思われる草むらに腰を下ろし休憩を取る。
「レベルはこいつらに比べたら高くないだろうけど、やっぱり数の暴力ってのはあるな」
「先生も居ないからパニックにもなりやすいわね」
「そうだな」
「慌てたからピーちゃん出しちゃった」
「あはは、タイプ相性をご存知でない立ち回りだったよな。俺もだけどさ」
少し休み、再び立ち上がる。日が暮れる前にトキワの森を抜けないと大変な事になりそうだ。
「進もう」
「……夕方までに抜けられるかな?」
「抜けるしかないよな」
いくらガラル産のテントがあるとは言ってもトキワの森だ。何が起きるか分かったもんじゃないし、何よりブルーなら絶対に俺のテントの中に入って来ようとするだろうから、なるべくポケモンセンターの冒険者用施設を利用したい。俺の俺がテントを張る事になってしまう。
「私はこの森でテント張っても良いけどね?」
「(旅の)初日くらいちゃんとシャワー浴びたいだろ?」
「きゃっ、それどういう意味? 初夜だからって事?」
「おまえ口だけは上手いな」
「嫌ねぇ、まだしてあげた事無いじゃない」
「何を言ってもそっちに持っていくならもう話さないけど」
「ごめんなさい」
「よろしい」
スクール入学したての時の校外学習はかなり怖かった。思い出をブルーと話しながら進む。
「誰だっけ? 野生のピカチュウに思いっきりでんきショックされたやつ」
「シンと仲良かった子でしょ? ……あの〜、名前は出てこないけど」
「俺も出てこないんだよな」
「薄情ね」
「どわすれってやつだ」
「まだそのレベルまでいってないのに覚えてたの?」
「まず俺はポケモンじゃないんだけどな」
噂をしているとピカチュウが飛び出してきた。この森で見かける事は本来そう多くない筈だが、運が良いのやら悪いのやら。
「ブイブイ、サイコキネシス」
相手が一体ならこちらも一体で応戦する。家に居るチューよりもようきそうに見えるな、と考えながらブルーの前に立ちエーフィを出すと、後ろからわざとらしい歓声が聞こえた。この世界に来た当初の俺なら図に乗っていたかもしれないが、残念ながらもう10年もブルーと居ると慣れてしまう。嬉しいっちゃ嬉しいけどな。
「ブイブイ本当に強いわね。レベル幾つなの?」
「……内緒。ブルーのピッピこそいくつだよ」
「女の子に年齢聞くなんて出来てない男の子ね。あとピーちゃんだから。名前で呼んで」
「女の子って年齢かは審議入るけどな。ごめんなピーちゃん」
「次それ言ったらフォスるわよ」
「ムーンフォースは対人向けでは無いし、ムーンフォースを放つ事を「フォスる」って言うなよ。悪かったって」
順調に歩き進める。ちょくちょく野生のモンスターに遭遇するも、流石に先程のスピアーのように軍隊みたいな奴らじゃなければ問題は無い。
「そろそろだよな?」
「うん。休憩する?」
「任せるよ。したいか?」
途中少し無言になりながらも、なんとか日暮れ前にトキワの森出口付近に辿り着く。
「んー……うん。しよっ」
前世の俺からしたら女性に「しよっ」などと言われたら想像する事は
「うおっ、ビックリした。ポッポか。そういえば俺らひこうタイプ持ってないけど欲しいか?」
「うーん……、いや、私はこの子じゃないかな」
「俺もだ。倒して良いか?」
「コイコイ?」
「そう。そろそろ進化する気がするんだけどな」
「良いわよ。私今日は結構経験値稼げたと思うし」
「ありがと」
「頼むぞ、コイコイ」
放ったボールから一つ目のモンスター、コイルが登場する。
滅多に帰ってこない父親から、スクール2年生の時に貰ったモンスターだ。
「でんきショック」
「いつ見ても可愛いわねぇ」
「ほんっとにな」
俺とブルーは心底このコイルを可愛がっている。一度ブルーがコイコイを「私たちの愛の結晶」と呼んだ時は反応に非常に困ったが、それも昔の話である。
「一つ目はニビジムで良いのよね?」
「あぁ。まだプランが崩れるような事は起こってないしな」
「作戦は決まってるの?」
「ブイブイでゴリ押す」
「野蛮人?」
「ブルーは決まってるのか?」
「フォスる」
「つまりゴリ押しじゃねえか」
森を抜け、ニビシティに辿り着いた。ポケモンセンターで一通り回復を依頼し、その間に各々シャワーを浴びる。
ポケモンセンターは二階に冒険者用宿泊施設がある。トレーナーズカードを提示すれば無料で利用する事が出来、そしてそれはやはりこの世界のポケモンバトルの権力・規模の強さを示している気がした。
「夕飯どうする?」
シャワーを浴び終え、乾かし漏れで少し濡れたブルーの髪の毛を拭いてやりながら問う。センターにいる若い男どもの視線を集めているのを見るに、やっぱりこの少女──しかも大人になりかけている、という時期の──は容姿が整っているのだなと実感する。
「んー……パスタ食べたいかな」
「おっけー、どこか探そう」
「次シンが私の手料理を食べられるのはいつになるのかしらね? おほほほほ」
機嫌の良さそうなブルーが言った。
「さぁ。でもまた食べさせてくれよ。(ブルーの料理が)好きなんだ」
「っ! ……素直ね」
「いつもな」
「たまによ」
センターの近くの大衆向けの料理屋に入る。モモンの実から作られたジュースで乾杯し、マサラや寮では食した事のない味に舌鼓を打つ。
「じゃあ男子部屋こっちだから」
「うん。明日寝坊しないでね? 寮とは違って気軽に迎えに行けないんだから」
「寮とは違って見知らぬ人も居るしな、そんな熟睡しないと思うよ。気をつける」
「ふふっ、なら良いけど。おやすみ!」
「おやすみ、ブルー」
ブイブイとコイコイ、二体が入ったボールを枕元に置き、毛布に包まれる。最初こそ小さなハプニングがあったものの無事にニビまで来れた。初日としては十分すぎるほどでは無いだろうか。そういえば前世は寝る前に俺の俺を俺していたな、と思い出す。不思議と今世ではそんな気が起きない。前世よりもそれが商業化されていないからだろうな、と思う。俺は前世でもプラトニックな人生を送っていたが、今世ではよりそうなりそうだ。それは果たして俺にとって都合が良いのか。シン少年にとっては良い事だろうけどな──そうして俺は眠りに就いた。
主人公二体目はコイルです。個人的にかなり好きな見た目です。
「16歳で二人旅は……(危ないのでは?)」などのコメントを頂きましたが安心してください、シンは根っからの童貞です。
今回は会話パートを多めにしてみました。
前回後書きにて弱音を吐いたところ多くの方から高い評価をいただきました。メンヘラな書き手ですみません、本当にありがとうございました。お気に入りも1.500に近い数字いただいています、併せてお礼申し上げます。
また、コメントをいただけるようになってきました、本当にとても嬉しいです、ありがとうございます。