美人が多すぎて俺の俺が俺なんだけど   作:

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タケシが猛々しすぎてタケシのタケシがタケシなんだけど

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「いや……来んな、来んな! ブイブイ、リフレクター!」

 

 

 一つ分かった事がある。

 ここは……ニビジムは、ゲイの楽園(ハッテン場)だ。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ブルー。行こっか」

 

 朝食を食べ終えると、俺とブルーは早速ニビジムに向かった。観光やらはバトルが終わった後の方が良い。俺がブルーにそう言った。

 スクールに負けないくらい大きな建物。流石にこんだけポケモンバトルが盛んな地方だと規模が大きいな。他地方の建物を見た事ある訳じゃないが。

 

 

「最初は俺で良いんだよな?」

「ジャンケン……負けたから」

 

 ブルーが頬を膨らませながら答える。ブルーの拗ねた時の癖だが、俺はそれが可愛らしくて好きだった。年相応な言動をとられると妹のように思えてしまう。普段の彼女が口を開けば「嫁」「女房」うるさいことも関係している気がする。

 

 

「折角だしな、ジムも挑めるだけ挑んでみたいし。今回は俺から行くよ」

「はいはい、どーぞ。応援しててあげるわよ」

「どーも」

 

 

 中に入る。まず感じられたのは、やけに籠った空気だった。なんて表現するべきか分からないが、前世で言うサウナのような熱気である。思わずブルーの方を向きそうになるが、それはやめる。集中しろ、集中しろ。

 

 

「すみません、ジムにチャレンジしたいんですが……」

 

 受付のお兄さんに声を掛ける。タンクトップ、筋肉ゴリッゴリ。分かりやすくマッチョだ。え、ここってかくとうタイプのジムでしたっけ?──尋ねかけてやめた。集中しろ、集中しろ。

 

 

「おっ! キュートなボーイだね! ようこそニビジムへ!」

 

 

 両親が美形な為シン少年も幼い頃から整った顔立ちであるが、それを恨みたくなったのは初めてだ。前世では顔が良い人間の苦労など想像も出来なかったが、今出来た。つーか体験している。

 

 

「ここニビジムはリーダータケシさんを筆頭に『カタい』トレーナーの集団だ!」

 

 「かたい」の字が気になる所だが、集中しろ、集中だ。

 

「先ずは我々ジムトレーナーとバトルをしてもらった後に、タケシさんとのバトルに挑んでもらう!」

「はぁ……」

「準備は良いかな!?」

 

 

 説明は無駄が無く丁寧だが、一々ポーズを取るのは控えていただきたい。集中しろ、集ちゅ──

 

 

「因みに負けた場合だが、女の子は最初から挑んでもらう! 男の子の場合は、ニビジムで夜間に行われる研修に参加してもらうよ!」

 

 

 ──はぁああああぁああアァア!?!?!?!?

 

「えっ、と、ちょっとそこで差があるのは何故なんでしょうか……? 研修ってなんですかね…………」

「むっ、聞きたいかね?」

「い、いや結構です……。バトルお願いします」

「良いだろう! トレーナー、カモン!」

 

 

 ジムの奥から受付のマッチョとほぼ同じ服装、体型の男達が歩いてくる。心なしか息が荒いように感じられる。後方からブルーの「ぜっっっっったいに負けんじゃないわよシン!!!!!!」という悲痛にも感じられる声援が聞こえてくる。珍しく意見が一致したなブルー、絶対に負けたくねえよ。

 前世で守り抜いた貞操をこんなとこでぶっ壊されてたまるかよ!

 

 

 

 相手のトレーナーがイシツブテを繰り出してくる。

 さて、ポケモンジムに挑む際、受付で獲得バッジを提示する必要がある。挑戦者の力量によってトレーナー並びにジムリーダーは使用するポケモンを決定するからである。その力量を計る際に最も公平な判断基準と言えるのが、「その時点でのバッジ獲得数」である。連れているポケモンが例えかなり高いレベルだろうと、ルール上は関係無い。

 俺とブルーは当然バッジは0個である為、彼らも初心者用のモンスターを出してくれる。トレーナーズスクール卒業生の利点である。旅に出始めた当初からそこそこのレベルのポケモンと知識を有している為、序盤のジムではアドバンテージを握りやすい。

 このルールがあるから、俺らはハナダとトキワのジムを後回しにした。親友が居るジムとスクール時代の恩師が居るジムだからである。

 ──強い自分達で、強い彼らと。

 

 

 さて、俺もスクール卒業生の例に漏れずこのルールの恩恵を受ける事になった。トレーナー達は立ち回りこそバトル上級者のそれだが繰り出すモンスターのレベルは低く、他の挑戦者と比較すると楽に勝てた方だと思う。

 

 俺に負けたトレーナー達の視線が怖い。バトル後握手を求めてきたトレーナーが居たがてっきり勘違いしてしまった俺は、ブイブイにリフレクターを張ってもらった。自然と尻を守りながら対戦するのは初めての経験だった。

 

 

 

「強い! 強いな君は!」

「……タケシさん」

「そう、俺がジムリーダーのタケシだ! いわタイプのエキスパートとして名が売れているかもしれないな」

「バトル、お願いします」

「あぁ! 俺が勝ったら君をウチのジムの特別研修に招待しよう! 見込みある若者には参加してもらいたからね!」

 

 

 ぜってえ行かねえ!!! 覚悟を決め、このジム戦でずっと頑張ってもらっているエーフィを出す。

 

 

 

「頼むぞ、ブイブイ」

「行ってこい、イワーーーーーク!!!!!!」

 

 

 おいおい、初っ端から切り札か? 確か初心者用のパーティーはイシツブテとイワークだった筈だが……。

 

「君は見込みがあるからね! 少しレベルを上げたバトルにしよう!」

 

 

 ざっっっっけんな!!!!! 勝ちにくんな!!!! 負けても絶対に研修はイかないぞ! つーか負けないから!!

 

 

「っブイブイ! リフレクターを張ってくれ!! 気持ち厚めに!」

 

 ブイブイが俺の声に応じて念の防御壁を展開する。

 

「イワーク! か た く な れ !!」

「……サイコキネシスで良いよ」

「なに!? イワーーーーーク!!」

 

 

 焦ってしまったが、そうだ。そもそもブイブイのレベルは相当高いし、相手が出してくるのはとくぼうの低いモンスターが多い。エーフィの念波なら仕留められる。防御力を高めボディプレスでも指示するつもりだったのかもしれないが、その前に倒せば良い。

 

 

「やるな少年! 名前はなんと言うんだ!」

「あー……そうですね、グリーンと言います」

 

 

 咄嗟にスクール時代の友人の名前を出してしまった。絶対に本名を知られたくなかったからだ。

 

「そうか! グリーン少年よ! ……君にとってポケモンとはなんだ?」

 

 いきなりタケシさんが真剣な面持ちで言った。思わず声を出してしまいそうになるがしょうがない。もう嫌だよこのジム、ノリが分かんねぇよ!

 

「そうですね……。ペットでは無いし、なんだろうなぁ……」

 

 

 一応真面目に回答しようと考える。以前ブルーにペットと言ったら怒られた事を思い出す。スクールに通い、バトルやモンスターへの知識を深めるに連れその認識は変化していった。

 タイムアップなのか、タケシさんが腰に手をやった。彼がボールからポケモンを出す。何故か着ていたタンクトップが破けた。どういう原理? もしかしてこいつはエスパータイプなんじゃないか? エスパー・かくとうの複合だろ? なぁ? むしろそうと言ってくれ?

 

 

「出てこい! ゴローン! ……少年よ、それが直ぐに答えられないと君はどこかで躓く事になる! その傷はもしかしたら君を一生痛めつけるかもしれない! 剥がせない瘡蓋になるかもしれない! 俺たちジムリーダーは答えに違いはあれど、それを信念として持っている!」

「…………」

「俺の『カタくて ツヨい』パートナーの攻撃を受けてみろ! じしん!」

「っ! ブイブイ落ち着け! リフレクターがある!」

 

 

 「じしん」は高威力の技だ。性質上、飛行しているか浮遊していなければ躱す事も難しい。先程展開した防御壁を通じてその衝撃がエーフィに襲い掛かるが、ブイブイは倒れない。

 

 

「……じゃあその答えを、俺はブイブイと一緒に探しますよ。ブイブイ、サイコキネシス!」

 

 ゴローンは目を回して倒れた。大きな音がジムに響く。正直あまり難しいバトルでは無かったが変な恐怖が纏わり付いてくるようなバトルだったな。

 タケシさんがゆっくりと歩いてきた。かなり怖いが、バッジを受け取らなければいけない。彼は握手を求めてきた。

 

 

「ふむ、その旅もまた……良いだろう。見つかった答えをまた教えに来てくれ」

「……タイミングが合えば」

「これはグレーバッジだ! このタケシの壁を容易く越えた事を誇るが良い!」

「ありがとうございます」

「次はハナダに行くのか? 今期からジムリーダーになったカスミちゃんは強いぞ」

 

 えっ! カスミ、ジムトレーナーからジムリーダーに昇格してたのか!? なんで教えてくれなかったんだよ!

 

「……あーまぁ、考えてます」

「迷ったらここに来ると良い、歓迎するよ」

「……あーまぁ、考えときます」

「うむ! では次の挑戦者とのバトルがあるので、またな」

 

 

 

 怖かったぁ……。前世今世含めて初めて尻に危機感を覚えたよ。

 ブルーのバトルはあっという間だった。事前の宣言通り、ムーンフォースをひたすら打ち当てて勝利した。し続けた。トレーナー達も先程よりも落ち着いた様子でバトルをしていた。

 それにしてもブルーの目が怖い、雰囲気が普通じゃない。シン少年の貞操の危機にブチギレモードである。オコリザルよりも怖い、ヒヤリとする怖さである。

 

 

「き、君は強いな……」

 

 タケシさんもタジタジである。

 

「……早く。バッジ」

 

 ブルーは口数が少ない。関わりたくも無いようだ。

 タケシさんも恐怖を感じたのか、ブルーには俺にした質問はしなかった。いや、貫けや。……それとも、ブルーはその答えが分かっているのだろうか、見つけているのだろうか。

 

 

 

「さっ、シン帰ろ」

「あ、うん……」

「「あ、ありがとうございました……」」

 

 受付のマッチョ、そしてジムリーダータケシが見送ってくれた。彼らが震えているように見えたのは目の錯覚であって欲しいが、俺の左腕に絡みつくブルーの右腕が、その強さが、俺の目を覚まさせる。シンプルに痛い。

 

 

 こうして俺達は最初のジムをクリアしたのである。

 

 

 

 

 

 

 




 悪ノリ回です。苦手な方はすみませんでした。

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