恋姫†OROCHI 外史降臨   作:日立インスパイアザネクス人@妄想厨

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遅れて超ごめんなさい。
何故か急に文章が書けなくなり書き直しなどを行なって気づけば9か月経っていました。
尊敬する作家さんを参考にして三人称と一人称が混じる感じにしてみたかったのですが、かなり読みづらい上に文章も変だと思います……。ご注意ください。


楼桑村撤退戦 後編

 ドスッ!!と。

 肉を裂く生々しい音が耳に残る。

 続けざまにこすれ合う金属音が空気を震わせた。

 

 結論から言うと成政(なりまさ)は無事だった。

 突然の奇襲で面食らった成政だが、すぐに馬上から飛び降りその場で一転した。襟立て衣(えりだてごろも)の一突きは成政の直線状に居た騎馬に突き刺さったのだ。腕に刺さった騎馬という枷による隙を見逃さず、受け身を取った成政はすぐさま襟立衣に自身の得物を振り抜いた!

 しかし、単眼の妖魔は巨躯を持ちながら俊敏で、成政の一撃をもう片方の手甲で容易く受け止めてしまう。

「矢ぁ、放て!」

 恐ろしいほど低い声が命令を下すと再び成政と襟立衣の上を矢が通過する。

「テメェ、弱い奴から狙いやがって! 新介と何人かはそいつら連れて撤退!流れ弾に気を付けろ!」

「はっ! 楼桑村の皆さんは私に着いて来てください。黒母衣衆は彼らを守りつつ矢を放って迎え撃って!!」

 黒母衣衆の黒髪の後ろ部分を赤いリボンで結んだ赤い衣服の少女が代表するように声を上げる。

「残った奴らは長柄で牽制して間合いを詰めさせるな! いいか、一兵も通すんじゃねぇぞっ! 全力で食い止めろ!!」

 

 黒母衣衆に促された楼桑村の民は一直線に逃げようとし、背中を向けた数人に矢が突き刺さった。成政は苦々しい顔を見せ、すぐさま立ちふさがる単眼の妖魔に目を戻す。

 北郷の頬にも矢が掠って赤い線を作る。ハッと醒めた北郷は楼桑村の人達の方へ駆けだそうとして、

 

「あっ……」

 見てしまった。地面に這いつくばって目を見開いたままのそれを。たった数分前まで共に作業していた彼は、桃香(とうか)との約束を守れず悔しげに顔を歪ませてるようだ。少なくとも北郷にはそう見える。

 

 不意に、背中に強い衝撃を受けた。一瞬死んだかと思った北郷は、そのぶつかってきたものが成政だとわかり思わず息を吐いた。

「ぼさっとすんな! さっさと逃げねえとホントに死ぬぞ!?」

 若干成政の声は()せていた。腹を押さえている所を見ると強く打ち付けられたようだ。

「でも君は―――」

「こいつらをここで始末しねぇとこの撤退は困難になる! それに元々ボクらが連れてきたんだ。尻拭いすんのは当然だろ?」

 再び北郷は成政に押されて地面に倒れこみ、刹那、ギャインッ! という高い音が響き渡った。成政の槍と襟立衣の手甲が奏でる金属音だ。会話している途中で北郷を狙って一気に迫ったようだ。

「これ以上犠牲を出しちゃ、桃香(とうか)との約束を果たせない! 早く行け!!」

 成政の叱咤に北郷は駆けだした。

 今度は振り返らず。周囲を気にせず。しっかりと前だけを見て。

 

 

     ◆

 

 苦しげな息遣いが周囲を包んでいる。男はそう感じた。

 死にたくない一心で矢が降る戦場を駆け抜けた為か、あの林から離れたこの辺りは汗の匂いと熱気がむわっと立ち込めている。周囲に居るのは見慣れた義勇軍の男達と黒母衣衆とか言う連中が2,3人。その中に御遣いは居ない。ちらりと男連中を見ると安堵の表情と妙に強張(こわば)った表情が混ざったような顔をしている。恐らく男自身も同じ顔をしているはずだ。

 

「―――くそ!」

 頭が冷えて胸の奥からジンと悔しさが湧き上がる。

 黒母衣衆やかつて劉備を支えた義勇軍の猛者達のような立ち回りをするほどの力は自分には無い。力仕事が得意だからって、それがケンカが強いと繋がらない。そういった剣も弓も使えない自分への失望感が男を蝕んでいく。

 村人たちの重い空気が蔓延する中、逃げ遅れた救世主様(かずと)がやっと追いついた。誰かが来たことに気付いた人は居たのだが、今にも全て投げ出しそうな雰囲気の彼らはそれが一刀で、やけに神妙な顔付きになっていることに気づいていなかった。

 

 しばらくすると、一刀の方から声がかかる。

 それはもう、軽い感じで。

 

「木に止まった鳥を取るのって得意?」

 

       ◆

 

 

 軍と軍の戦いは個人の力が物を言うのではない。指揮する者の裁量が敵の指揮者の首までの道を最適に取ることもあるし、軍の錬度(しつ)が数を押し返すことも歴史が証明している。数の力が個人の武を蹂躙するなど当たり前だ。

 

 この戦いでの構図はこうだ。

 織田の三若・佐々成政率いる黒母衣衆の手勢は20にも満たない。劉備の義勇軍の戦える人を足してやっと30余りといったところだ。が、彼らは織田信長の馬廻衆として、特に鉄砲の扱いに秀でているいわゆるエリート集団だ(その筆頭は鉄砲よりも直接槍でぶっさす方が好みなのだが)。まだ経験が足りない若輩者と寡兵の集団とはいえ、そこらの山賊辺りを蹴散らせるほどの実力はある。

 

 その一方で襟立衣率いる妖魔部隊は成政と50前後。しかし、黒母衣衆が相手をしてるのは人間ではないのだ。

 人より優れた膂力(スペック)。人を超えた体力(フィジカル)。そして死を恐れない精神面(メンタル)

 それを指揮する単眼の妖魔は成政よりも苛烈で冷酷で残酷だった。

 

 

「うあっ!?」

 襟立衣の強烈な掌底をマトモに喰らった成政が軽々と吹き飛んだ。

 少女の柔らかい腹部に受けた強烈な痛みで、思わず自らの獲物を手放して地面に転がり落ちた。彼女の周囲には同じように叩きのめされた黒母衣の兵士が居る。

 それらを見据えてるのは、当然妖魔の部隊だ。

 

「こん、のゃろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 成政の雄叫び。

 得物の槍を諦め、主を亡くして血が付いた刀を拾い上げ、妖魔達に立ち向かう!

 一刀目。――亡者の持つ槍の穂先を断ち。

 二刀目。――亡者を袈裟懸けに切り裂いて次の獲物へ。

 三刀目。――襟立衣の伸びる拳を受け止め、仕返しとばかりに斬りかかる。

 四刀目。――成政の斬撃は間に入ってきた亡者に邪魔されて止まってしまう。

 

 命を犠牲にした肉盾は刺されてもなお成政に手を伸ばしてくる。その不気味な行動に成政は怯んでしまい――

「―――ぬんっ!!」

「うぐ!」

 襟立衣の蹴りを受け、ゴムボールのように跳ぶ。痛みで視界があやふやで、今何がどうなってるかなんて成政にはわからない。

 

 圧倒的だった。

 元々の地力が違う妖魔。ヒトとは一線を越えた相手。

 (かず)も、(ちから)も、士気(さつい)も。

 ソレに立ち向かうには何もかも足りてない。

 

 ゴガッ! と。

 妖魔の具足の先がわき腹に突き刺さる。為されるがまま、少女は無様に転がされるのだった。

 単眼の妖魔から見れば、彼らはあの以津真天が苦戦するのか理解できないほどの小物。さっさと潰して本軍に帰隊して、あんな無能から離れたい所だ。

 が、ここまで引っ掻き回されてイラついてないといえば嘘になる。

 甚振(いたぶ)り嬲りゆっくりと踏み潰して殺さないと怒りが収まらない。

 鋭く尖った具足の次の狙いは少女の顔。人間の美醜感などよくわからないが、この女の顔を滅茶苦茶にしたらさぞ爽快だろう。

 

 

 そんな考えに浸っていたからだろう。

 飛んできたこぶし大の(つぶて)が横っ面にぶち当たるまで気が付かなかったのは。

 

「――っっっ!!?? っ!?」

 グワングワンと視界が揺れ、一つしかない眼球が宙を彷徨(さまよ)う様は不気味の一言。

 そのフラついた一瞬をつき、飛び出してきたいくつかの影が倒れた成政を引きずり、槍を待ち去って妖魔から距離を取った。

 

 

「――……! ……っ!」

 そんな中で一番驚いたのは成政だった。

 固い物がぶつかった音がしたと思ったらずりずりと引っ張られ、状況の変化を飲み込めないでいた。

「な、なん……?」

「――じかっ? ケガ無いか成政!」

「……北郷?」

 声を掛けた現在進行形で成政を引きずる相手が目に入った途端、

「――って、何してんだ?!」

「助けに来た!」

「助けにって、逃げろっつっただろうが! 何で戻ってきてんだわぁ!?」

「ごちゃごちゃ言う前に逃げるぞ! ギャー矢ぁ飛んできた!!」

 指揮官がやられて焦ってるのか、いくつもの矢の空気を裂く音が耳元から聞こえて背筋が寒くなる。

「皆さん妖魔から距離を取って!」

 成政には聞き慣れた黒髪の少女の声が響き渡る。

 正気を取り戻した成政は自分の足で立とうとするが今は引きずられてる真っ最中。為されるがまま引っ張られていった。

 

 

 

 

 襟立衣の眩暈が治った時には、成政たちははるか遠く。

「己ェ……!」

 この程度の距離(・・・・・・・)、妖魔の脚力ならばあっという間に追いつける。

 が、一旦背を向けた者達がこうして戻ってきたのなら、待ち伏せしたかもしれない。このまま追撃してしまえば恐らく以津真天の二の舞になってしまう可能性がある。

 そして、

「(……亡者どもも限界か……)」

 妖魔が人間を超えたスペックを持ってると言っても、流石に騎馬より速く走るのは無理がある。いくら手塩を掛けた手練れでも疲労を感じるもの。

 

 加えて、先の奇襲で死傷は無かったものの、負傷者がいくらか出た。

「(印地、か)」

 縄に巻き付けた石を振り回し、遠心力を推進力へ変換させて敵に打擲(ちょうちゃく)する技術。単に投石ともいう。

 印地は北郷が生きてきた時代ではほとんど普及していないが、劉備や成政の時代は子供の遊び感覚でできる。

 そしてその威力は生き物の骨を砕き、鎧に当たろうがその衝撃でダメージを与えられるほど危険なものだ。

 兜の当たった部分を触ると今まで無かった凹みがあり、正直フラつく程度で良かったと息を吐いた。

 

 亡者は多数負傷し、この先は待ち伏せがあるかもしれない。

 とてつもなく遺憾だが、次の手は決まった。

「……撤退……」

 ぼそりと一言。それだけで亡者は負傷者を担ぎながら本隊が居るであろう方向へ歩を進める。

 先行し一気に片付けたかったが叶わなかった襟立衣は――取りあえずこのイライラを以津真天を殴って解消しようと心に決めた。

 

       ◆

 

 成政を助け、必至に走ってたらいつの間にか河川まで来ていたので一安心してたら、目一杯殴られた。 by一刀

「ばっかじゃねぇの!? 丸腰で飛び出したから何か秘策があるかもって思ったのに、待ち伏せとか罠とか何もしてねぇし、揚げ句全速力で走ったから全員足ガクガクだしお前っ、ばっかじゃねぇの!?」

「あの、北郷様のお顔が真っ赤に腫れ上がってきたのでその辺で許していただけませんか……?」

「ていうか新介!! お前は引きずってでも止める役なのに何でボクを引きずってんだよああ!?」

「ひぃぃぃっ! だってだって、楼桑村の人達の勢いが怖かったんです! そこらの山賊より凄味があったんですよ!?」

「ああああああああああああああああああああああああああああもぉぉぉおおおおおおおおおおおおう! 武士が農民に気圧されんなぁぁぁああああああああああああああああああっ!!」

 

 そんなこんなで髪を掻き乱して喚き散らしてた成政は不意にガクッと脱力した。

「……あんまり無茶な事すんなよな。一応お前も人の上に立ってんだから、もしものことがあったら困るのは下の奴らなんだぞ」

 若干張りが無い声に少し身が強張った。

 その様子に俺は慌てて返答を返そうとした。――顔の腫れが引かず喋りにくいが。

「――げ、けど、ぞうならないために桃香ど二人で(ひぎ)いてるんだし……」

「お前な~……もしお前に何かあったら桃香に申し訳立たねぇだろうが。それに、多分桃香はすっげぇ泣くと思うぜ?」

「……ごべん」

 成政の言う通り、桃香が落ち込む姿が脳裏に浮かぶ。自分の所為で、と自身を責める姿――。

 そうだ、俺はまだ彼女との約束を一つも叶えてない。彼女の笑顔を曇らせるなんて人間、いや男として最低ではないか?

 

「佐々さん」

「なんだよ?」

「ありがとな」

 彼女との付き合いなんてほんの数時間ほどしかないけど、なんとなくわかる。武将としての忠告だけでなく、成政は俺と桃香を心配して、さっきの言葉を掛けたのだと。

 だから感謝を述べたのだが、彼女は一瞬俺の目を覗き、

「わかったんならさっさと行くぞ」

 すぐにさわやかにニカッと笑ってそう言った。

 

          ◆

 

 その後、蜂須賀小六率いる川並衆と合流し、待機していた筏で運河を渡る一行。小六の話を聞けば、先行してる桃香達はそろそろ隣村へ着いてる頃だと言う。徒歩で大よそ6刻(日本の旧暦で1刻=30分、3時間)ほど。谷で入り組んでるため少数人はまだしも、500の軍での行軍はかなり時間がかかる。馬は筏に乗せれないため、河原で逃がすことにした。

「良いのか? 馬って高いんだろ?」

「そうは言っても時間は掛けれないしな。それに馬って案外頭が良いんだ。妖魔どもに食われない限り戻ってくる――はず」

「はずって言った? 今、はずって言ったよな?」

 緊張感の無い俺たちの会話に『こんなとこでイチャつくんじゃねーよばかやろー』という視線が方々から送られるが、それに気づくことはなかった。

 

 成政と、時折同じ筏で櫂を漕いでいた正勝を交えた他愛もない会話は川の中腹付近まで続いた。

 感じたことのない緊張感で口を開いてないとリラックス出来なかったのだと、後で思い返して理解した。

 そんな時。

「――? 何だか後ろが……」

 正勝の訝しげな呟き。

 たまたま彼女の声を聞き取れたため、釣られる様に視線の先を追った。

 

 正勝が操る俺たちが乗る筏の後ろについた筏から悲鳴じみた声が聞こえる。そして、そのさらに後ろ。

 足で水面を叩きながらこの激流を猛然と泳ぐ黒い集団が(せま)ってきていた。

「んなぁっっ!? あんなのありか!!」

 成政は正勝に向かって吼える。

「おおい! (これ)もっと速度出せねぇのか!?」

「無理です! 川を横断するのは簡単な事じゃないんですよ!!」

「てゆうか泳ぐの速いなあいつら。ただのバタ足なのに」

「そんなこと言ってる場合か!!」

 それにしても速い。(思わずほれぼれしそうな)泳ぎもそうだが、この行軍。あの先行隊の情報が届いて進路を変えたとしても速過ぎではないだろうか?

 これが人間と妖魔との越えられない(スペック)だというのか……!

 

「矢で迎撃しろ! 近づいてきたらボコボコにしちまえ!」

 号令が飛ぶ。

射られた矢は弧を描いて妖魔に殺到する。が、

「当たってんのにぜんっぜん減らねぇなちくしょう!」

 筏の揺れの所為か、矢の量が少ないか、はたまた当たっても次の敵が湧いてくるのか。とにかく放っても放っても妖魔が追ってくる。櫂を漕ぐ正勝も苦悶の表情を浮かべて、それでもなお腕を振り続ける。

 

 どうする?

 ここじゃ石みたいなものは無いからさっきみたいに村の人達の手を借りられない。

 妖魔の遊泳力を見るに、後ろの筏が対岸に到着する間もなく襲われるだろう。

 何かないのか?

 ただ窮地を切り抜けてほしいと祈ることしかないなんてわかりきってる。わかってるから尚更手に力が入る――

 

 

 ふと、心地良い風が熱を持った頬を撫ぜた。

 次の瞬間、

 ビュゴオッッッ!! と、圧倒的な圧力が叩きつけられた。

「うおっ!?」

「きゃあ?!」

 立っていた人が筏から落ちるほどの(・・・・・・・・・・・・・・・・)(おろし)

 それは『この川に居るもの全て』に襲い掛かった。

「あいつら……」

 成政が茫然と呟いた。

 どういう原理が働いたのか、俺たちの筏の後方に居た妖魔達は俺たちを襲った風よりも数倍の威力になって(・・・・・・・・・)吹いたらしく、黒い集団は散り散りになって下流へ流されていく。

 ……あっ。

「って、蜂須賀さんは!?」

 さっきの風に煽られて誰かがこの激流に落ちたんだった! そしてさっきまで隣で立って作業してた正勝が居ない!

 

「わぷ、私はだいじょうぶ、です」

 ぶっ、と吹き出す音と共に低い位置から聞こえた声。やはり彼女は落ちていたようだが、一緒に乗っていた誰かが彼女の櫂を掴んでいたようだ。

 正勝を引き揚げながらホッと息を漏らした。

 

「にしても、すっげぇ風だったな」

 成政が妖魔が流れて行った方向を警戒しながら呟く。

「……この地形からして、颪は吹くと思いますが……今のは異常、ですね」

 正勝の言い分は頷く他無い。

 将来仲間になるかもしれない諸葛亮のように気候学に詳しいわけじゃないが、今の現象はあまりにも超常的。というか、こんなタイミングで俺たちだけ被害無く済むなんて――

「――出来過ぎじゃないか?」

 こんなの偶然がいくら重なってもあり得ないだろ? 将棋をしていて負けそうになったから将棋盤をひっくり返したようなそんな感じ。

 もし一連の現象が偶然じゃないとしたら、

「「北郷(さん)?」」

「え? ど、どうしたんだ?」

 二人の声で現実に戻された。二人は不思議そうな、何処か不安げな目をしてる。

「いや、難しい顔をされてたので……」

「もしかして罠とか気づいたのか?」

 しまった。またそんな心配をさせてたのか。っていうかそんなに表情に出やすいのか俺?

「あ、ああごめん。少し考えごとしてた。速く先に進もう」

 そう誤魔化した俺に二人は何も聞かなかった。

「急がないとな」

 

 

         ◆

 

 北郷ら一行が対岸に辿り着いた頃。

 

 木々を失った兀山(こつざん)の頂上に彼は立っていた。そこなら戦場を合間無く見渡せるから。

 そんな彼だが、その表情は完全に冷め切っていた。むしろ失望の色がにじみ出ている。

 彼は観ていた。このちっぽけな戦いを始めから。そして最後まで傍観するつもりだった(・・・)

 

 つまらない。その感情が渦巻いている。

 元から期待はさほど無かった。彼らはこの戦いが始まる時点で義勇軍とは呼べない集まりとなり、その兵も先の戦いで疲弊した体にさらに鞭を打って働いてる。策略も彼から見たらおざなり極まりない。『ある程度戦える敗残兵』を加えても5倍の数を覆すことなど到底無理な話。案の定、行き当たりバッタリの手を用い、奇跡的にここまでやってこれてるだけ。

 

 内心に溜まる(もや)のような感情を抑えながら、彼は数キロ先を見下ろす。

 船の揺れで狂った感覚に戸惑う白い服の少年は赤髪のボーイッシュな少女が背中に張り手で喝を入れた所為で思いっきり悶絶し、茶髪のサイドテールの少女が目を回しながら少年を介抱している。なんとも緊張感の無い光景。

「……」

 

 あの義勇軍に監視をする(・・・・・)ほどの価値はあるのか?

 それが彼を埋め尽くす疑問の元だ。

 先ほどから語っているがあの義勇軍は崖っぷち。将来大物に成ろう人材は居たが、今は居ない。この大陸――この世界を探せばあの程度の勢力などすぐにでも見つかるだろう。

 確かに見過ごせないものはあるが、それは彼に与えられた使命とは別の問題だ。

 

「……」

 これ以上の監視は無意味。彼らがここで散っても彼にはあずかり知る所ではない。

 そう決めつけて風と共に消えるように立ち去った。

 

         ◆

 

 ふと、数キロ先にある『颪が吹いた兀山』へ目を向けた。

 頂上付近に人が居たような気がしたのだが、視線の彼方には動くものなど無かった。遠目だったから単なる見間違いだろう、と結論付けた。

 

 曲がりくねった谷を通り、林の中の湖でのどを潤し、整備されてない道なき道を足の疲れを我慢して歩いた。

 そして桃香の姿が見え、肩の荷が下りたと内心小躍りして桃香と合流した時、ようやく彼女の様子がおかしい事に気づいた。

 何処となく落ち着いてない桃香に俺を始め、成政や正勝の顔が曇りだす。どうしたのかを聞いてみると桃香は俯いて、

「……着いて来て」

 ただならぬ雰囲気に誰も言葉を出せない。

 素直に桃香の背を追う一同は、得体の知れない不安に心臓の鼓動が速まっていくのを感じる。

 少し行くと楼桑村の村人達が地べたに座り込んでるのが見え、いよいよもって悪い予感しか感じなくなってきた。何故かと聞かれたら、楼桑村の人々全員が一様に顔を俯かせて一言も喋らないから。もう、空気が死んでるとしか表現できない感じだ。

 

 と、

 暗い空気に飲み込まれかけた時に桃香が立ち止った。連れて来たかった場所に着いたようだ……?

「と、桃香?」

 思わず上ずった声と掛ける。きっとこの場に居る桃香以外の全員が戸惑ってるはずだ。

 俺たちの前には桃香以外何も無い。

 

 これは比喩ではない、本当に何も無い。

 目の前には桃香の足元を区切りとするように不自然な荒野が広がっていた。

 地平線が広がっており、この先は何も無いと語ってるよう。

 茫然とする俺たちに追い打ちをかけるように桃香が口を開く。

「ここ。ここがね、徳然ちゃんが居る村なんだ」

 

 ………………………………………………………………………………………………。

 思考が止まってしまった。

「何を、言ってるんですか、劉備さん?」

 皆の心を代弁するように正勝が恐る恐る聞く。

 すると、桃香は覚束ない足取りで道のわきにある木に近寄って、木製の何かを持ってきた。

「私もね。道に間違えたのかなって思ったりこの先にあるんじゃないかって思ったりしたんだよ? でも、これを見つけちゃってそんな考えが全部吹き飛んじゃったんだ」

 その木製の物体は看板だった。何故か字が書いてある部分の半分が黒く焦げている。

「この看板の文字、昔私と徳然ちゃんが一緒に書いたものなんだ。忘れるわけがないよ」

 半分しか読めない看板だが、間違いなく自分の字だと桃香は言う。多分彼女が言うことは本当の事だろう。こんなとこで悪い冗談をいう娘じゃない。

「待てよ……じゃあ何か? この先から進めねぇってのか!?」

「それより村の人は!? 誰か残っていなかったんですか!?」

 その質問に桃香は応えず、ただ首を横に振るだけだった。

 

 それは援軍は無い、ということ。

 

 前はいつまで続くとわからない荒野。後ろは5倍以上の妖魔の軍隊。

 

 俺たちに逃げ場は、無い。

 

 




7/9 最後の和奏の台詞が次の回と矛盾したので勝手ながら変えました
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