恋姫†OROCHI 外史降臨 作:日立インスパイアザネクス人@妄想厨
しかしOROCHIっぽくこれで行ってみたいと思います。
あと2話ぐらい挟んで本編に戻ります
……正直急に詰め込み過ぎた感が……。それと一刀の初対面の人の呼び方は現代の高校生らしく苗字+さん付けでやってます。戦国恋姫しかやった事ないので、一刀の細かい所がわからないのです……。
簡易的な野営地が立つと、今までの喧騒が嘘のように静まり返った。
長距離の移動という慣れない運動ですっかり寝入ってる……ことはないだろう。
何せ彼らの運命は明日で終わるかもしれない。そんな時に寝れる奴なんてよほどの大物か、神経が図太いただの阿保のどちらか。
そんな静寂の中を一刀は立っていた。
何か目的があるわけでもなく、目の前の変わらない景色を見ている。だが湖畔に浮かぶ白鳥のように、その脳裏はあらゆる考えで埋め尽くされていた。
(成政が言うには早くても明日。良い方に見積もっても夜明けにはここまで辿り着く。500の妖魔が、俺たちを殺しに来る)
確定した未来。
反抗しても無駄に時間を延ばすだけ。
(今すぐ逃げないと追いつかれるだろうけど、皆、焦燥しきってるしな。俺がごちゃごちゃ言ってもストレスが溜まるだけだ。それに逃げ場所なんて……)
身を守る武器を奪われ、希望をへし折られ、盤上の隅まで追い詰められ。すでに抵抗すら考えられないほど疲れきっている。この静寂の中に聞こえる誰かの嗚咽は明日の不安の表れ―――。
「御使い様? どうしたんですか?」
声に反応して顔を上げると川並衆の女棟梁さんが居た。
「やぁ蜂須賀さん。……ちょっと考え事をね」
炊き出しの手伝いをした後、各自自由行動を取っていたのだが、彼女たちのグループの姿が無かったので一刀は内心心配してたのだ。
「蜂須賀さんは何をしてたんだ?」
「え? 備品の整備をしてましたけど……」
「一番大変だったのは川並衆の人達だから、しっかり休まないと」
「船頭の人達には休みを与えてますので、今動いてるのは主に誘導の人達です。私は
むんっ、と腕を振り上げ元気を示す正勝。空元気だというのは明らかなのだが、彼女もまた棟梁。弱音なんて言えないのだ。そんな健気な姿にほころんでしまう。
「そうだ。さっき佐々様が御使い様を探してましたけど、まだ会ってないですよね?」
と、思い出したように一刀に伝える正勝。一体なんだろう?と一刀は思って、やはり首を傾げる。一通りの作業も終わったし、成政に呼ばれる心当たりが全く無い。
「ホントか? 何処に居るか知ってるかい?」
「さっきは劉備さんと一緒に居ましたよ」
正勝に軽く礼を言って、指定場所へ向かった。
◆
正勝が見たという劉備の所には既に居らず、あちこち巡って街道と荒野の境界線へ辿り着く一刀。
何故そっちに足が向いたのかは自分でもわからないが、目的の人物と見慣れた少女に会うことが出来た。
「
「あ、ごしゅじ」
「遅い!」
劉備の言葉を遮って吼える成政だが、そこまで怒ってないようだ。何となくノリで言ってると思う一刀。ただ遮られてしまった劉備は次の言葉が出てこず、視線を右往左往させていた。
大きく傾いた日が一刀達を赤く照らす。
楼桑村の人々がいる簡易的な陣営も、一刀達も、荒野の果てまで赤く紅く染まっている。
「……どこまで続いてるんだろうね」
ポツリと。
劉備の呟きが酷く耳に残る。
一刀も成政も、その独り言の答えを持ち合わせてない。
この突然現れた『境界』。
いや、突然ではなく、地震が起きてからずっとこの荒野との境になっていたのかもしれない。
地震が発生した後に出来ただろうこれは、土地の環境すら区切ってるらしい。試しに荒野に入ると突然砂埃と乾燥した空気が襲い掛かってきて、林に戻ると樹林地特有の匂いが喉を癒した。妖魔軍討伐のため諸国を廻った成政がいうには、夏のような暑さだったのに1里先では雪が降ってた場所もあったそうだ。そんな摩訶不思議な境界線。
境界の先に広がる荒野に果ては見えず、ただ地平線があるだけ。この先、地平線の向こうに何があるのかわからない。
一体この境界は何処と繋がってしまったんだろう?
頭に浮かんだ疑問に対する答えも、この場に居る誰もが知ることはできない。
しばし沈黙が生まれた
「そうだ」
静寂を破ったのはまたしても劉備だった。
「
「は?」
「ずっと聞きたかったんだけど、色々あったから聞きそびれちゃってたしね。和奏ちゃんのこと、もっと知りたいんだ」
「あ、え~と……(どうすりゃいいんだこれ?)」
成政は劉備の屈託のない笑みにたじろぎ、一刀に視線で助けを求める。
が、一刀も成政のことをもっと知りたいし、劉備の押しの強さは一刀がどうにか出来るものじゃないと思うので、
「(素直に応えてあげなさい)」
とアイコンタクトを返しておく。通じるかわからないが。
◆
「じゃあ、これまであった事を言うぞ。最初にボクらが妖魔の存在を知ったのは三河からの報せを受けたからなんだ」
教えて教えて~、としきりにせがむ劉備に折れた成政は語り始めた。
「三河ってお団子が美味しかった所!」
「お団子って……まあいいや。三河の殿さまは久遠様――織田信長さまと同盟を築いてるんだ。けど地震が起きた半月後、三河から先触れが来た」
遠くを眺めながら当時を振り返る成政。
当時、原因不明の地震で領地の方々に被害が及んでおり、成政を始め、織田家臣総出で問題消化に当たっていた。ようやく倒壊した建物の普請に着工しようとしたおり、三河の伝令が城へ走り抜けていく姿を見た。
ただならぬ様子に彼女は同僚らと共に城へ趣き、そして事の重大さを知ったのだった。
「三河を攻めてきた異形の集団、それに対抗して三河周囲から豪族を集おうとしたら僅かを残して消えていた――完全に陸の孤島になってたんだ」
「……その、消えた豪族さんたちは?」
「わかんねぇ。たまたま尾張の領地にいた奴ら以外見つからなかったし、連中の居所を廻ったけど
それが何度も続いたのか。
疲弊する民に消耗する物資。終わらぬ襲撃は彼女らに多大な被害を及ぼしたのだろう。
それは苦々しい表情の成政を見てれば一刀達も理解できる。
「そういった襲撃が何度も続いて、ついに久遠様は妖魔に反撃することを決断された! 消極的な豪族たちに妖魔の危険性を説き廻って、残った戦力をかき集めていったんだ」
不意に、誇らしげに。ちょっと大げさな手振りをしながら。
「久遠様の呼びかけに多くの豪族たちが応えてくれた。敵だった美濃の斎藤龍興も少ねぇけど兵を出してくれた。妖魔軍を蹴散らすたびに周りからの援助も増えてきて、すっげぇ嬉しかった! 尾張武士は弱卒、なんて悪口言われてたけど、久遠様の采配を前にして言ってた奴ら何も言えなかったんだぜっ?」
まるで自分の手柄のように、成政は胸を張って語った。
一刀が知る歴史での織田信長という人物は、悪逆非道・敵に対して無慈悲で時には自分の民すら殺す、という魔王のような男。それが一般的なイメージだが、それは誇張されてる上に織田信長の側面の一つに過ぎない。
彼が生きた時代にしては先進的で、合理的。当時、絶対の権力を有していた室町幕府を滅ぼし、畿内を中心に強力な織田政権を確立。戦国時代の終結に最大の影響を与えた人物である。
が、彼の思想は古きを重んじる者達から疎まれ、多くの敵を作った。
「立派な人なんだね織田さん」
劉備の呟きに一刀は確かに、と思った。
そして、一度実際に会ってみたい、という思いが二人に生まれた。
劉備は純粋に凄いから見てみたいという興味で、一刀はこの世界の織田信長はどんな人なのか知りたかったから。
「妖魔共を蹴散らしていって、妖魔を指揮してる奴の根城まで追い詰めた。……けど、妖魔に仕掛ける直前に――裏切られた」
先ほどのテンションが嘘のように、成政は顔を伏せた。
「松永久秀……あいつは裏で妖魔と繋がってやがったんだ」
成政の方が震える。ふと目線を落とすと彼女の拳は変色するほど強く握られてる。
それが怒りの表れであることは一目でわかり、
「いざ決戦って時にあいつが久遠様に刀を突きつけて。助けようとした時に妖魔が陣地に攻めてきて。そうこうしてるうちにあっという間にバラバラになっちまって。……ボクの手下以外誰も居なくなった」
「和奏ちゃん……」
「後は知ってのとおり、必死に逃げ回って楼桑村に逃げ込んだわけだ。……今更だけど、ワリィな。厄介ごと持って来ちまって――」
「大丈夫だよ和奏ちゃん」
「え?」
劉備が不意にそんな言葉を掛けた。
「和奏ちゃんがこうやって生きていたんだもの。――だから大丈夫。きっと皆も生きてる。それに迷惑だなんて思ってないよ? 和奏ちゃんが楼桑村に来てくれなかったら、何も知らないまま妖魔たちに蹂躙されてたかもしれない。和奏ちゃんが来てくれたから、私たちは生きてるんだから」
何か言いたげな成政に有無を言わせないようにまくし立てる。
「和奏ちゃんが私たちを助けてくれた。……だからさ! この戦が終わったら、今度は私たちが和奏ちゃんを助ける番だよ!」
ぎゅっ、と。
成政の手を取って劉備は言い放つ。
その言葉を受けた成政は呆気にとられた顔をした。
退路を失い戦力が充実していない今後に及んでも、彼女はまだ『この次』を信じていたのだから。
彼女の言葉は楽観的。かつ短絡的なことばかりのことを並べられているが、それは彼女が一番欲しかった
成政は劉備の目を見る。
彼女の碧眼は成政をしっかりと捉え、微動だにしない。
(綺麗な目……)
見入ってしまいそうな純粋さを秘めた瞳は、まるで心内を見透かしてるようで、成政はつい目を逸らしてしまった。
「和奏ちゃん?」
不安そうな声がかけられる。不意に目を逸らしたから、何か傷つけるようなことを言ったのだろうかと勘違いしてるのだろうか。
「なぁ桃香――」
成政は劉備に何か言おうとして、やめた。
何を言おうとしたのかは劉備も一刀もよくわからない。が、ほじくり返してもしょうがない事だと思った。
「そういえば」
不意に、二人の様子を見守っていた一刀が成政に尋ねた。
「成政はなんで俺を探してたんだ?」
「北郷をっていうか、桃香も探してたんだ実は」
「それで、用件はなんだったんだ?」
「……それはもう良いや。ありがとな」
成政はそう言うや否や走り去ってしまった。黒母衣衆の長としての作業に戻ったのだろう。
「……」
「どうしたのご主人様?」
「ああいや、大したことじゃないんだけどさ、結局何が言いたかったんだろうって」
一刀は最後、彼女が少し考え込んで言い淀んだのが気になった。
自分に用があったと言っていたが、それを引きずるのは良くないと思い、何気なしに桃香に口ずさんでいた。
「大丈夫だよご主人様」
一方の桃香は微笑みながら断言した。
「多分私と話してる内に自分の中で納得しちゃったんじゃないかな。だから私たちがどうこう言わなくても自分で答えを見つけてる、と思う」
それに、と付け足し、
「和奏ちゃんって案外気弱なところがあるみたいだし、私たちに話を聞いてもらって整理を付けたかったんじゃないかな? ……まぁ、全部私の推測だけどね」
そう言って劉備は苦笑交じりの笑みを浮かべる。
対して、それを聞いた一刀は呆けた表情。
「やっぱ桃香はすごいな」
「な、何が?」
一刀の賛辞に狼狽えた様子の劉備。一刀の言ってることがよくわからずパチクリと目を瞬かせる。
「人心掌握、っていうのかな。俺が佐々さんに何か言ってもきっと伝わらなかったと思う。けど、桃香が語ったらスッと胸に沁みこむ感じがするよ。佐々さんと出会ってまだ日も経ってないのにどういう人か理解出来た桃香だからこそ言えたんじゃないか?」
正直、本人は無自覚だろうが、
相手がどういう思いなのかを敏感に察知し、どうしてあげれば相手は慰められるかを思いやる気遣いがある。彼女の言動には人を安心させる何らかの力を感じるのだ。
「……そう、かな」
不意に聞こえた消えるような返事。
彼女のらしくない様子に一刀は桃香? と劉備を見る。が、何故か劉備は俯いて、彼女の暖かさを感じる桃色の髪が顔を隠し、顔色は窺えなかった。
◆
一刀らから少し離れた所で、成政は自分の脇差を抜いてその白刃を見る。
「……言えねぇよなぁ……怖い、なんて……」
刃に映る自身の顔から眼をそらさない。自分の心に語り掛けて、自分の為すべきことを見つめなおす。
ふと思い返すのは妖魔討伐の直前の頃の記憶。
『和奏ちゃん!』
『和奏ちん』
『ちょっと
『じゃあ〜、
『うん! 良いよ! ――え? どうしてこんなことするのかって?』
『相手は妖魔だからね~。もし敗けちゃったら雛たち食べられちゃうかも』
『……う~ん。
―――そう約束した彼女達とはもうどのくらい会っていないのだろうか?
「桃香も一刀も諦めてないんだ。ボクも諦められるか!」
不安はある。
夜が明けたら自分たちはどうなってるか見当もつかない。
けど、劉備は次が来ると信じていた。
妖魔を引き連れて巻き込んだ自分を信頼してくれた。
だったら――全力を尽くすしかないだろう。
自分にはまだやり残したことがたくさんあるんだ!
チンッ! と刃を鞘に納め、成政は前を見据えると決めた。