恋姫†OROCHI 外史降臨   作:日立インスパイアザネクス人@妄想厨

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あとから考えたら陣地会話があったじゃないですかーやだー。
今回は軽いギャグ回のつもりです。


陣地会話 蜂須賀正勝

 ――日が完全に落ち切った頃。

 一刀は驚いた。この予想外の暗さに。

 上を見上げれば月と星々が光を放っているが、林の中ということもあってか、たき火や篝火(かがりび)の明かりが照らす場所以外はほとんど真っ暗だ。現代日本の深夜でも明るい街並みに慣れた一刀には新鮮に感じる光景だった。

 

 

 何が言いたいかというと。

 こんな暗さでも篝火も付けずにがさごそと作業してるシルエットがひじょ~に気になってしまうのだ。

 

(……泥棒……なわけないよな。火事場泥棒でも切羽詰まった状況でそんなことする意味ないし、こんなとこまで泥棒に来る奴なんていないしな)

 よく見ればそのシルエットは一人ではなく十数人も居る。

(もしかして夜逃げ? ……あり得る。誰でも自分の命が大事だし)

 一刀はそう結論付けて、どうしようかと悩んだ。

 元々楼桑村から無理やり連れてきた手前、逃げた先が行き止まりで逃げれません妖魔に食べられるだけですと言われて納得できるわけがない。その上勝手に逃げないでと引き留めるのも間違ってる気がする。けど何も言わずに消えられるのはこちらとしても後味が悪いものだ。

「一応話を聞いてみようか」

 桃香(とうか)は居ないけど、話を聞いてから引き止めるか見送るかを決めよう。そう考えて一刀はシルエットに近づいた。

       ◆

 

 お~い、と声を掛けるとビョコンッとサイドテールのシルエットが跳ねた。……そのサイドテールの持ち主を一刀は一人しか知らない。

「み、御遣い様?」

「やあ、蜂須賀さん。こんな暗がりで何してるんだ?」

 一刀は緊張させないようにフランクに話しかけたが、当の彼女は何が落ち着かないのか目を回していた。

 

 と、それよりも、

「御使い様って何だ?」

 何か呼び方が変わっている。

「あっ、え~と、その~……」

 語尾がだんだんとか細くなる正勝。そんな彼女を遠巻きに見てる川並衆の面々はお頭を困らせんじゃねー的な視線を一刀に送っていた。

 

「先の撤退の際に強風が吹いたじゃないですか? 実はあの風は御使い様が起こした奇跡なんじゃないかっていう話が川並衆の一部で囁かれていて……現実的にありえないってわかってるんですけど、御遣い様の服も見たことが無い素材で出来てますし、凄いお力持っていてもおかしくないって言う人も出てますからね。それに御遣い様は義勇軍の長である劉備さんより偉い方ですから敬意を払わないといけないと思ったんですけど……迷惑でしたか?」

 悪戯がバレた子供のように上目使いで怯えるように告げた。

 正勝の説明を聞いた一刀は……手を額に当てた。

 確かに自分は『流星に乗って地上に降りた救世主』という触れ込みの天の御遣いを名乗っていて、この学生服もポリエステルというこの時代では製造不可の素材であるし、この時代(世界?)の人達から見たら超常的な存在と観られているだろう。

 だからあの不自然な突風が一刀と結びつかれることは何となく理解できる。

 

 

 が、しかし何だろうか。この黒歴史を勝手に作られてるようなスッキリしない感じは。

 

 そんなことを思いつつ、一刀はそれらのことを放り出すことにする。自ら天の御遣いと名乗っておきながら、下手に否定して周囲に疑心を持たせるわけにはいかないのだ。決して面倒だから、ではない。

「そんな仰々しい呼び方じゃなくても良いんだけど。普通に名前で呼んでくれるとこっちとしても気が楽だからさ」

「そそそそんなの恐れ多くで出来ませんよぅ!」

 ブンブンブンブンっ! 首を横に振りまくるとする正勝。その彼女の背後に居る川並衆の皆さんの視線がどんどん強くなるのを感じる。どうしろと。

 

 

「お~終わったか~……って、何やってんだ?」

 いつの間にか来ていた成政の若干疲れが入った気の抜けた声でようやく正勝の動作が止まった。

 一刀への注意が成政に向けられホッと一息ついた。

「お疲れ様です佐々様」

「ああ、お疲れ佐々さん」

 軽く挨拶を交わし、

「お疲れさん……で? なに遊んでたんだ?」

「す、すいません!」

「遊んでたわけじゃないんだけどな……」

 そう反論しても成政は三角形に尖らせた目を和らげない。

 

 彼女の剣呑さを感じ取った一刀は当初の目的を思い出して二人に尋ねた。

「佐々様に頼まれて矢とか竹槍を作ってました」

「明日何をするにせよ必要になってくると思ってさ、作らせてたんだよ。いくらあっても足りないからな」

 なるほど、と一刀は頷く。

 元から楼桑村には物資が足りてなかったため、先の撤退戦で使われた弓矢はもう残されていない。更に、成政が持ってきた鉄砲。これは絶対数が少ない上、火薬も貴重――というか、戦国勢しか所持していない――なので弾と火薬が尽きてしまえばただの鉄の筒になる。故に弓矢と槍などの距離を置いた武器が必要だった。幸いここには矢の材料となる竹材はすぐに調達できるし、竹を切っただけでも十分に武器の代わりになる。

 

「御使い様は様子を見に来たんですか?」

「見に来たと言うかたまたま見かけたって言うか……あと名前で呼んで良いからな」

「無理です!」

 む~り~と拒否する正勝に対してだんだんへこみそうだ。これはもう諦めた方が良いか……。

 

 と思ってたら思わぬ所から助け船(?)が渡された。

「そういやお前ら何でボクを通称で呼ばないんだ?」

 筆頭さんの借問に一刀は目が点になる。

 一刀にとって通称は真名と同じようなもの、だからある程度親しくないと呼んじゃいけない、と解釈してる。だからやたら無暗に口に出すことを避けていたのだが……。

 そう伝えると成政は、

「別に良いぜ。つーか一番最初に名乗ってただろ? 北郷は桃香と同じ義勇軍の長だし、川並のお前だって助けてもらってるしな。ボクは通称で呼ばれても良いって思ってるからさ。……ボクは呼ばれても斬りかかったりしないぞ?」

 歯を見せながら悪戯っぽく笑った。

 成政にここまで言わせて通称呼びを断る道理はない。自分のことを認めてくれた成政のお願いを断るほど甲斐性のない男ではないのだ。

 成政の笑みに応えるように一刀も微笑みながら手を差し出した。

「ああわかった。改めて、よろしくな――和奏(わかな)

 一方、手を差し出された成政は目を丸くしていたが、その意図はわからずとも何と無く一刀の手を取った。

「よろしくな一刀!」

 

    ◆

 

 互いに名を呼び認め合う関係になった二人は、合わせることなく同時に残されていた正勝に期待の目を向ける。当の正勝は猛獣に睨まれた小動物のように体をビクつかせた。

 ――やがて、諦めたように(かぶり)を振った。

「わかりましたよぅ……お二人も私のことを転子(ころこ)って呼んでくださいね」

 いえーい、とハイタッチする一刀と成政に正勝はもう何もかも放り出したい気分になった。

 

 

 

 そんなこんなの一幕があった後、正勝は武器作りの作業に戻り、成政はその監督、一刀は正勝の力になれるように手伝いを申し出た(正勝はこの時恐れ多いと以下略)。

 渡された小刀で竹を削る作業は思いのほか難しかった。カッターで鉛筆を削る感覚でやってみたが、木の節が固くて危うく指を切り落としかけ、出来たと思って正勝に見せたが真っ直ぐに飛ばないと言われて削り直し。

 せっかく申し出たのに結果が人並み以下というのはよろしくない。

 そもそもこの暗がりじゃ手元も見えないからとても不便だ……と考えて一刀はふと思いついた。

 

 不意に立ち上がってごそごそと服をまさぐる一刀を尻目に、正勝らは一心不乱に矢を整えていく。本来必要な製作過程をすっ飛ばして作った即席の矢はあまり良質とは言えないが、あっても困らないだろう。それに、こうして地味な作業を行なうのは意外と正勝の精神を落ち着かせることが出来た。明日に迎えるだろう己の運命はやはり不安で仕方がない。だから目の前の事に集中して少しでも余計なことを頭から排除したかった。

 黙々と手を動かす川並衆(と矢を1本1本籠に入れて数える几帳面な黒母衣衆の筆頭さん)。

 そんな時、彼女たちの集中を乱す出来事が起きる。

 

 

 目を凝らして手元を見ていた正勝。

 彼女の視界が一瞬にして白く塗りつぶされた。

 

「~~~~~~~~~~っ!?!?」

 原因は小刀に反射した蛍光。だが今まで感じたことの無い強烈な照度が正勝の網膜を刺激した。

 混乱のあまり声にならない悲鳴を上げ、つい手に持っていた小刀を放って、

「え? ぇうおあぁぁぁあああああ!?」

 ひゅんっ! と顔の横すれすれに飛んできた小刀を避けた成政は、その拍子に矢を踏んづけて盛大に転んだ。

 さらに持っていた籠が宙を舞い、

「うおっ!?」

「あぶね!!」

 反応が遅れた川並衆の(イカ)つい荒くれ者に矢が降り注ぐ。

 さらにさらにほんわかとした声が近づいてくる。

「和奏ちゃ~ん手伝いに来たよ~」

 暗闇から矢が降り注いでるのに全く気付かず、手を振って成政達の元へ歩いてくる劉備。

 矢は当たるか当たらないかの軌道を描いて劉備以外のものに被害をもたらす。

 

 カっ、と最後の一本が劉備の背後の地面に刺さった音がした。

 

 「目が~!」と未だに混乱してる正勝。

 自身が起こしたミラクルでとんでもないことが起きたのを理解してあわわわわとわななく成政。

 何で皆が慌てているのかわからずにこやかながらも頭に疑問符を浮かべる劉備。

 

 この大参事を目の当たりにした一刀は発光元のケータイ電話を片手に茫然と立ち尽くすしかなかったのであった。

 

 

 

 

 落ち無し。




今までの話が長い間開けていたのでかなり矛盾点が目立ってきたので大幅に修正します。

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