駆逐艦雪風の業務日誌   作:りふぃ

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戦艦の見た夢

 

 

二隻の艦娘が海を行く。

一隻は高速戦艦比叡。

そしてもう一隻は駆逐艦雪風である。

二隻は同じ連合鎮守府に参加していたのだが、喧嘩沙汰を起こしてしまったのだ。

ただの参加者であるならば、苦情と共に送り返してしまえば良い。

しかしこの二隻は連合としても簡単には手放せない艦娘だった。

比叡は参加艦娘中最高位の錬度を誇り、最大の戦果を上げた戦艦である。

また雪風は補給運用と出撃計画立案に多大な貢献を果たしている上、その鎮守府は最初に救援を差し向けてくれた恩があった。

妥協案として、参加者の誰もやりたがらない輸送任務を申し付けられる。

実際比叡はこれ以上戦果を上げると全体のバランスが悪くなり、周囲から悪感情を招きかねない。

元々連合の必要もない大きな鎮守府に居た上、姉の金剛が気まぐれに戻ってしまっているのだ。

かといって比叡本人は今まで露骨に後方に下げるだけの失態も犯していない。

この機会に罰としての補給任務という選択は、決して悪い話ではないと思われたのだ。

 

「比叡さんは、どうお考えですかぁ?」

「ていの良い厄介払い……に見せかけて、この鎮守府に居る艦娘中最も錬度の高いものを補給に当てたとも解釈できますね」

「……本気でそうお考えなら、雪風は比叡さんも天使に認定いたしますよー」

「すいません雪風。唯の脳筋だと思います」

「今までは古鷹さんが余程上手にやりくりなさっていたんでしょうが、あの提督さんってば本当に戦うことばっかりですからね。そっち方面では優秀な方だと感じましたが」

 

雪風が見る限り、この鎮守府の提督は無能ではない。

人を上手く使う上司の下につき、その戦意にしっかりと首輪を付けられれば相当の戦果を挙げる気がする。

 

「ところで、良かったんですか? せっかく良い子ぶっていても、今回の素行不良は減点でしょう」

「良くはないのですが、仕方の無い所です。あの提督さん、雪風の後ろにしれぇの影を見ていましたからね。まぁ、雪風が一隻で来たからだと思うんですが、少し警戒させすぎました。こっちの致命にならないように攻撃材料をやっておかないと逆に信用が得られません。良い子が過ぎる故に疑念を招くとか……榛名さんや羽黒さんの例が無ければ気が回りませんでした。人付き合いって本当に面倒ですよねぇ」

「全くです。早く俗世から足を洗って、無人島にでも引き篭もりたいわ」

「雪風は四季の移ろいが感じられる山の一軒屋に引き篭もりたいですね! そこで時津風を飼って、掘り炬燵で蜜柑です」

「……何を飼うって?」

「時津風。うちの鎮守府に住んでる犬さんなんですが、可愛いのですよぅ」

「あぁ、名前……犬の名前ね」

 

不穏にしか聞こえない雪風の発言に、比叡は深い息をつく。

発言の中に篭められる虚実を逐一把握してしまう比叡にとって、他人との会話はそれだけで苦痛になる。

雪風は一貫して嘘は殆ど吐いていない。

しかし本当のことも全て語っていないという、常に何かを隠しているスタンスを取っている。

はっきり言えば比叡が最も会話をしたくない相手。

それでも最初の頃に比べれば、雪風への態度を軟化する事が出来たと思う比叡だった。

原因は月並みではあるが、本気で対立したからだ。

どんな相手にも楽しそうに会話をし、その中で平然と本心を隠すこの駆逐艦が、羽黒を侮辱されたと感じた瞬間に激怒した。

身内が貶められた時、相手が誰であろうと怒れる姿勢には好感が持てる。

その後酒を酌み交わした事もあり、雪風への壁はほんの少し薄くなった比叡である。

妹を手近で済ます面食いと言った雪風に、無条件で好意を持つことは出来なかったが。

 

「鎮守府のお財布は今まで貴女が握っていました。もし私達が失敗した場合、連合はどうなると思いますか?」

「んー……金剛さんが抜けて比叡さんも抜けて……でも古鷹さんが戻って加古さんが動けます。まぁ何とかなると思いますよ」

「ふむ」

「元々連合は後半ある程度失速するものっぽいじゃないですか。前の時もそうでしたし」

「ええ。十分な戦果を稼いだり、戦闘意欲を満足させた艦娘などは後半士気が落ちますからね」

「そうしない為に、雪風はしれぇにお願いしていたのです。最終出撃で皆さんがやる気出るように資材集めておいてくださいって」

「つまり、この補給は皆さんの戦意高揚の為の材料。決して必要不可欠なものではなかったのですね」

「はい。ちなみに、雪風は喧嘩しなくても比叡さんに行って貰おうと思っていました」

「……」

「それで、比叡さん?」

「……」

 

雪風は双眼鏡を使い周囲を見渡す。

比叡は手元の端末から海図を見る。

現在位置が分からない。

どんな鎮守府に行っても第一線で通用する錬度を誇る雪風と比叡。

そんな二隻は現在、迷子の真っ只中だった。

 

「何処なんですかここはぁ!? 比叡さん、近道は任せてとか言っていたじゃないですかぁ!」

「うーん。おかしいですねぇ……羅針盤はこっちを指してるんだけどー」

「羅針盤妖精は決戦海域とか、海図が無い時に仕方なく使うものじゃないですかっ。素直に海図通りに向かっていればこんな苦労しないで良かったのです」

「実は私、図とか見るの苦手なんですよねぇ」

「はぁ!? いまさら何カミングアウトしちゃってるんですか比叡さんっ。もしかして、今まで旗艦したこと無かったりします? 全部羅針盤妖精におんぶに抱っこだったんですか!?」

「いや、そうなんですけど……。私、羅針盤妖精に嫌われたこと無かったんです」

「……一回も?」

「はい、記憶にある限り」

「ですが、今はどうなんですか?」

「……迷ってます」

「比叡さぁん……」

 

鎮守府を出て二日間。

遭難が判明したのは先程で、それまで比叡について動き続けていたのだ。

もしも見当違いの方向に進んでいたら、目的地から相当に離れているだろう。

空を見上げれば厚い雲が一面に広がっている。

風は潮以外の湿気のにおいを運んできており、雨の気配が漂っている。

 

「うぅ……せめて、せめて星が見えればいろいろ分かるんですが……」

「この感じでは無理でしょう。直に雨が降り、しかもしばらくやみそうにありませんよ」

「ですよねぇ。あぁ、しれぇに会いたいですよぅ」

 

雪風にしては珍しい、混ざり物の無い本音だった。

比叡は肩越しに振り返り、雪風を見る。

後ろをついてくる駆逐艦は、深々とため息を吐いていた。

 

「比叡さん、まだ妖精さんですか?」

「現在位置がわからない以上、頼れるものは一つです」

「確かに……今の雪風達にはそれしか縋る物が無いですけどー」

 

せめて深海棲艦でも出てきてくれれば鬱憤の晴らしようもある。

たった二隻ながら雪風と比叡の錬度なら、空母部隊に囲まれでもしない限り撃破、もしくは逃げ切る自信があった。

最も、羅針盤妖精は距離の長短に関わらず、ひたすら敵の少ない所を目指して目的地に向かうと言われている。

比叡がそれをあてにしている以上、遭遇戦の機会も少ないだろう。

頼りない道案内にすがって航海を続ける二隻の元に、ついに雷雨が訪れた。

横殴りの雨と、稲光から時差の殆ど無い轟音が響き渡る。

激しく上下する波に翻弄されつつも、艤装の推進力で進行方向だけは捉え続ける。

 

「ちょっ、これ洒落になってませんよぅ」

「雪風、はぐれないで」

「は、はいっ」

 

やがて二隻はどちらからと無く手を繋ぐ。

悪天候の中の航海は、この二隻にとってすら表面上のわだかまりを意識して乗り切れるものではなかった。

 

「あぁ、それにしても……艦に戻りたい!」

「全くですよぅ。二足で時化を行くなんて正気の沙汰じゃありません」

「……それにお互い、余計なことを考えないですんだでしょうね」

「……そうですね。此処に来てから、雪風はどんどん欲張りになっています。比叡さんは如何です?」

「私ですか? 私はお姉さまがお幸せになってくだされば十分ですよ」

「比叡さん御自身で幸せにしようとは、思いませんので?」

「そうすることが出来れば、幸せだろうなー」

「……時雨といい比叡さんといい、本当にいろいろ面倒くさいんですから」

 

変わらぬ雷雨の中、行軍を続ける二隻。

荒れ狂う雷光と轟音は際限なく繰り返される。

 

「貴女も、人の事は言えませんよ?」

「まっさかー。雪風ほど単純明快で分かりやすい欲張りさんはいませんよぅ」

「ふむ。目下は何が欲しいんですか?」

「増員」

「……切実だなぁ」

「とにかく今の戦闘組みが強くなってきたんで、少しずつ前線から中核に移って貰って後進を育て始めないと……駆逐艦として言わせていただけば、矢矧さんと五十鈴さんを艦隊から引き抜いて、増員した駆逐艦を訓練していただいて、輸送部隊と各艦隊の対潜要員を補強して……稼ぎを増やして、第一艦隊も燃費の悪い大和さんが出ずっぱりは効率悪いし……戦力と資材のバランスを見直して、艦隊を再編成したいです」

「連合から思っていましたが、貴女は提督みたいですねぇ」

「所詮雪風のは真似事ですよぅ。提督はしれぇしかいらっしゃいません」

「……貴女は、本当に提督が好きなのね」

「はい。世界一のしれぇですよぅ」

「そっか」

「比叡さん?」

「……うん。かつての仲間が自分の居場所を作って、元気でやってるのは良いものだなって」

 

比叡の手にした小さな羅針盤を妖精が回す。

羅針盤は回すものではないのだが、妖精のする事に突っ込みを入れても徒労だろう。

並みの艦娘ならば転覆もありえる荒れた海。

高波をいなして進む二隻の目には、それぞれに違う港と仲間が見えていた。

 

 

§

 

 

戦艦棲姫は大破した少女を伴い、北の泊地を目指していた。

僅か四半日の戦闘で負った損傷は、此処最近では覚えが無い程である。

まして、傍らの少女と共闘しての戦闘。

連戦の末とはいえ、敵艦隊の粘りは驚異的であった。

戦艦棲姫が見る限り、あの艦隊はかなり若い印象がある。

各自の戦闘能力は非常に高いが、有機的な連携は取りきれていなかった。

自分が迷っていた前半、有利な筈の敵も最善の戦闘を行えていなかったと感じるのだ。

あの部隊がもっと艦隊経験を積み、青臭さが抜ければますます強くなるだろう。

それは自分達の脅威になる敵の誕生を意味するが、戦艦棲姫としてはむしろ楽しみだった。

 

「アァ、楽シカッタワ」

「オ前モ収穫アッタンダ?」

「凄イ敵ニ出会ッタ。次ニ会ウ時ガ楽シミネ」

「ソリャヨカッタ」

「貴女ハドウダッタ?」

 

少女は全身に被弾しており、ぼろぼろの衣服と身体が痛ましい。

コレだけやられれば、この少女の性格からして上機嫌のはずがなかった。

だから戦艦棲姫も聞いてから後悔したのだが、予想外に少女は笑顔である。

 

「僕モ凄イノヲ見テキタヨ」

「凄イノ?」

「ウン! デモ今ハナイショ。早ク戻ッテ引キ篭リテェ……」

「引キ篭ルッテ……貴女ネェ」

「ア、今度ハ研究ノ為ダカラ。コレガ形ニ出来タラ、オ前絶対驚クヨ」

「オォ! 凄イ自信ネ」

「ア……」

「ン?」

「ゴメン、オ前ダト驚カナイカモ……」

 

少女がこれから求めるものは、自分がかじって来たあらゆる艤装を全て使い切る戦法である。

これは正に自分しか出来ない戦い方になるはずだが、戦艦棲姫が驚くほどかと言えば全く自信がない。

あの赤い雷は反則だと思う。

 

「アノ雷、ナンナノサ?」

「アー……小型艦ノ群レヲ一薙ギデ払ウ為ニ練習シテイタノ。実戦デ使ッタノハ初メテダッタ。身体ハ焼ケルシ電探壊レルシ……少シ艤装ノ耐電考エナイト駄目ネ」

「オ前ソロソロ戦艦ヤメテネェ?」

「真ニ遺憾デアル」

「……ハァ」

 

直ぐ隣にいるはずの戦艦棲姫が、とても遠くに感じる少女。

少女が生まれた時、戦艦棲姫は既に圧倒的に強い戦艦だった。

戦艦の売りである火力と装甲で他の追随を許さぬ姫。

どれだけ強くなろうとも埋まらない地力の差は、少女から向上の意欲と熱を奪っていった。

それでも諦めきれない少女は様々な艤装に手を出し、航空戦艦としての可能性に行き着いた。

この分野ならば戦艦棲姫にも勝てるかもしれない。

やがていつの間にか、正規空母よりも多くの艦載機を扱えるようにもなっていた。

姫と話したのはそんな時だ。

 

―――貴女、ドウシテ空母ニナラナイノ?

 

どちらにでも成れるなら、空母の方が強いだろう……

そんな含みを持った問いだったと思う。

少女にとって、遥かなる高みで輝いていると思っていた戦艦棲姫の、それは弱音だった。

半ば信じられない想いで、戦艦の方が格好いいと答えた少女。

その答えに心底感動したらしい戦艦棲姫だが、本当は違う。

格好良いのは戦艦じゃない。

戦艦棲姫に追いつきたかったから、彼女が格好良かったから戦艦になりたかったのだ。

 

「デカブツサァ……」

「シバクゾチビ」

「コノ研究完成シタラ、僕ハデカブツノ次クライニハ強クナルヨ」

「デカブツッテ言ウナッテノッ」

「時間モ、ソンナニ掛カラナイト思ウ。ナニセ完成形ト戦ッタシ……」

「無視!? 無視カチビッ」

「ダカラ、ソウナッタラサ……」

「聞イテヨー……」

「僕ガイレバ、良イダロ?」

「ダカラ聞イテッ……ウン?」

「ッ! ヤ、約束ダカラナ。浮気スンナヨ」

「約束……浮気……ウン?」

 

正直少女の言葉も話半分にしか聞いていなかった戦艦棲姫。

しかしなにやら上機嫌で顔を赤くしている少女を見ていると、まぁいいかと追求を止める。

いつの間にか風が吹き、波が高くなってきた。

曇天の空からは何時雨粒が落ちてきてもおかしくない。

 

「時化カヨ……面倒臭ェノ」

「マァ、後ハノンビリ帰――」

 

その発言は空から飛来する砲弾に遮られた。

反射的に艤装を操作し、傍らの少女ごと抱き込む姫。

 

「ンナ!?」

「喋ラナイノ。舌噛ムヨ」

 

右舷後方から撃ち込まれた砲撃は、姫の艤装の腕に着弾した。

衝撃が艤装の表面を破壊する。

少女の頬に滴る液体。

ついに雨が降ってきたかと眉を寄せ、不快気に頬を拭う。

雨粒よりもやや粘度の高い雫。

手元を見た少女は、その液体が同族の血である事を知った。

それは上から降ってきたのだ。

今、そんな所から血が降るとすれば、それは自分を抱き寄せている姫のもので……

 

「オイ!」

「ン、何処カ当タッタ?」

「オイ……」

 

間近で感じる戦艦棲姫の吐息からも血の香りがする。

戦艦棲姫は艤装部分を完全に外してしまえるタイプだが、接続中に被弾をすればフィードバックは普通に起る。

大和達によって此処まで破壊された以上、本体のダメージが軽い筈がない。

更に立て続けに降り注ぐ弾丸。

戦艦棲姫は艤装を解きつつ、少女を突き飛ばす。

同時に最初の着弾位置から方位を割り出し、全砲門をそちらに向けた。

見上げた空から黒点が徐々に大きくなり、空気を引き裂く音と共に襲ってくる。

電探が生きていれば、この時点で撃ち落していただろう。

しかしそれが破損している今、姫が頼るのは自分の感覚と肉視のみ。

適当に張った弾幕などで落とせるものではない。

先程大和がやったように至近距離までひきつけ、16inch三連装砲を丁寧に合わせて行く。

 

『待チ伏セカ?』

『そんなに格好良いもんじゃないネ』

 

戦艦棲姫はこの声には覚えがある。

以前戦った、妙に足の速い戦艦だろう。

内心だけで舌打ちする。

この状況で更なる交戦をするとなるとかなり面倒なことになる。

嘆息しつつゆっくりと回頭する戦艦棲姫。

其処を撃たれたりはしなかった。

先程の砲撃も主砲ではなく、副砲によるもの。

相手からすれば挨拶代わり以上の意味は無いのだろう。

 

『追いかけて来たんダヨ……あの夜から、ずーーっとネ』

『シツコイ女ハ、モテナイワヨ?』

『……Shut up』

『ア……ハイ』

 

からかった心算の姫だったが、返答には静謐な怒気があった。

地雷を踏んだらしいと理解した戦艦棲姫は、肩をすくめて話題を変える。

 

『モシカシテ、一隻デ来タノカシラ?』

『まぁ、恨みがあるのは私だけだしネー』

『フーン……』

 

戦艦棲姫は無造作に右足を上げると、勢い良く踏みおろす。

自分と少女ごと広大に陥没した海面に飲まれ掛けるが、直ぐにもとの高さに押し上げられた。

隣で少女が喚いているが、片手を上げて制する姫。

潜水艦の気配も無い。

本当に一隻で着たらしい敵に、戦艦棲姫は首を傾げた。

 

『一騎撃チネェ……意気ハ買ウケド、無理ジャナイ?』

 

戦艦棲姫は20000㍍程の距離にいる金剛に主砲を放つ。

砲弾は荒れた空をものともせずに突き進み、敵の座標に吸い込まれる。

姫が冷めた意識で命中を確信した瞬間、金剛の身体がふらりと傾ぐ。

そのまま旋回した金剛の真横に着弾した砲撃。

眉をひそめた戦艦棲姫が、今度は全砲門で狙い打つ。

 

『その砲火は、前に見たヨ?』

 

降り注ぐ無数の弾雨を全て紙一重で避ける金剛。

戦艦棲姫の表情から笑みが消える。

強くなっていた。

以前も決して弱くなかったが、あの時よりも更に。

舐めて掛かれる相手ではない。

まして今は……

 

「……水マフ、先ニ戻ッテ」

「……」

「アレハ私ヲ追ッテ来タ、私ノ獲物……デショ?」

「……判ッタ。先ニ行ク」

「……ア、戻ッタラ私ノ資材モ用意シテオイテネ? 流石ニオ腹空イタカラ」

「了解。サッサト戻レヨナ」

「任セナサイ」

 

戦艦棲姫は少女の髪をくしゃくしゃにし、風ではだけたフードを被せてやる。

正直、大破した少女を抱えて戦える相手ではなかった。

先程から見ていると、敵戦艦は少女を積極的に巻き込んで盾にしようとする意図は感じない。

しかし戦況しだいでどうなるかなど分かったものではないのだ。

少女も理解していたのだろう。

苦い表情はしたものの、素直に聞き入れてくれた。

大破した艤装を酷使し、姫から離れて行く少女。

 

『もう良いネ? 全砲門、Fire!』

 

ついに金剛の主砲、35.6㌢三連装砲が解き放たれる。

姫自身とその周囲を押し潰すかの様な砲撃。

威力重視らしいその砲弾は、普通に放った時よりもやや遅い。

戦艦棲姫は迫る砲弾を見つめると、意地の悪い笑みを向ける。

胸の下で腕を組み、待ち構える姫を訝しげに見つめる金剛。

その視線の先で戦艦棲姫の艤装が動く。

姫は艤装の手のひらで砲弾を受けると、間髪入れずに握り潰した。

 

『What!?』

『ダカラ無理ダト言ッタデショウ。ソンナ豆鉄砲デ、私ニ勝テルト思ッテイルノ?』

 

戦艦棲姫は化け物である。

それは最初に対峙した時から身にしみてわかっていた。

こちらが最悪の予想を立てても、その斜め上を平然と行く最強の戦艦。

 

『此方モ、結構シンドイノ。逃ゲルナラ追ワナイデアゲルワヨ?』

『……追いかけて来たって言ったデショ。此処で逃げ帰るくらいなら最初から来ないネ』

『……ソレハソウネ。ダケド不思議ダワ……私ハ、ドウシテ貴女ニ狙ワレテイルノ?』

 

かつて金剛の所属する鎮守府は戦艦棲姫を討伐しようとし、果たせなかった。

金剛の中では自分達の失態だが、大本営はそう見ない。

戦艦棲姫討伐を果たせなかったのは、上司たる提督の責任。

彼が資材と労力を浪費し、何の戦果も認められなかったと言われた事が金剛には許せない。

その後他の鎮守府も戦艦棲姫討伐に乗り出し、その全てが惨敗した。

その為、彼の評価が致命的に傷つくことは無かったが、輝かしい戦歴の中の汚点になった事は間違いない。

金剛には後悔がある。

一番最初、自分達がこの姫を発見した時に沈めていればこんな事にはならなかった。

あの時姫の随伴艦は全て駆逐艦であり、当人以外の戦力はほぼ皆無だったのだから。

 

『Darlinが、貴女を討伐するように命じたネ』                       

『……モウ少シ主体性ヲ持ッテ人生送レバ?』

『Darlinの希望に沿う事、願いを適える事が私のLife workデース! …………だって道具ってそういうモノでしょう?』

『道具? ……道具ネェ。人ノ形ヲシテ自我ヲ持ッテイル固体ガ道具ネェ。本当ニ、オ前ラハ進歩ガナイワ。所詮亡霊ハ亡霊カ』

『何とでも言いなサーイ…………私にとってDarlinでも、DarlinのHoneyは私じゃないネ。女として一番になれないなら、私は彼の完璧な道具になるヨ』

 

彼が沈めと言うなら、姫は生きていてはいけない。

戦艦棲姫は既に存在しているだけで金剛の存在意義を脅かす。

彼女を沈めない限り、自分の魂は前に進めない。

戦艦棲姫を討ち取り、その首を提督に捧げてこそ、金剛はやっと彼の傍にいる自分を肯定してやれるのだ。

 

『……ナルホド。私ハ、海ニ浮カンデイルダケデ貴女ヲ傷ツケテシマウノネ』

『Understand?』

『エェ。ヨク、分カッタ』

 

些か疲れたように息を吐く戦艦棲姫。

その仕草も金剛の心を逆なでする。

この姫が敵である事は間違いないが、本質的に邪悪ではない事も分かっているのだ。

どうせなら、全否定の対象になってくれるような存在であれば金剛も気が楽だったのに。

 

『見逃シテクレル心算ハ、無イ?』

『無いヨ』

『デハ……ドチラカガ沈ムシカ無イ』

『上等ネ! 鮫の餌にしてあげるヨ!』

 

嵐の中で対峙する戦艦二隻。

金剛の砲撃を戦艦棲姫の艤装が殴り落す。

撃ち返される砲撃は完璧な見切りで回避する。

千日手の様相を見せる海戦の中、両者は旋回しつつ距離をつめる。

金剛が避けきれなくなるのが先か、戦艦棲姫が耐え切れなくなるのが先か。

勝利の女神は、いまだどちらを祝福するか決めかねているようだった。

 

 

§

 

 

葬列が第二鎮守府に帰還した。

既に通信が取れており、五十鈴の訃報は伝えてある。

港には蒼白の羽黒と陰鬱な山城が待っていた。

山城の砲塔にはベネットがおり、不機嫌な顔で沈思している。

戻ってきた大和達の中に無傷なものは殆ど居らず、戦闘の激しさを物語っていた。

特に大和と加賀は損傷が大きく、今もそれぞれが赤城と矢矧に肩を借りているのだ。

しかし大和は全員が入港したのを見届けると、矢矧に礼を言って前に出た。

少し硬い、無機質な声と共に敬礼する。

 

「…………戦艦大和、以下迎撃部隊各員、帰港しました」

「お帰りなさい、大和さん」

「お疲れ様」

「おぅ。よく戻ったな」

 

大和は視線を巡らせるが、今一人の僚艦の姿が見えない。

何時もは真っ先に出迎えてくれる仲間なだけに、やや意外な思いがある。

 

「足柄さんは、まだ入渠なさっていますか?」

「……姉さんは、自室に篭っています」

「……」

「酒瓶の束を抱えてね。まぁ、あんたらが戻ってきたら教えてくれとは頼まれてるから、呼んでくるわよ」

「あ、それには及びません。自分で、会いに行きますから」

「……そう」

 

それぞれに思うことはあるのだが、今後の方針を固める必要もある。

現在直ぐに戦えるのは、留守番中に入渠を済ませた山城、羽黒、足柄のみ。

損傷具合なら極軽微の時雨や小破の矢矧も戦えるが、補給はこれから済まさなければならない。

そしてこの鎮守府をこれから維持するか、それとも放棄して撤退するか。

その結果によって入渠する順番も変わってくる。

しかしどう定まるにしろ、決定は早いに越した事は無いのだ。

その話し合いには、足柄を欠かす事は出来ないだろう。

後ろから大和の肩に手が置かれる。

振り向くと、自分と同じように大破した加賀と目が合った。

 

「お行きなさい」

「加賀さん……」

「此処は、私が引き受けます。貴女は僚艦と話していらっしゃい」

「……ありがとうございます」

 

大和はそういって頭を下げる。

一つ頷いて応えた加賀は、自分の後ろに並んだ仲間達に告げた。

 

「各員、当時刻から半日は休息に当てて。その間に補給と、艤装の整備が必要なものは工廠の妖精に提出を」

「了解」

「分かったっぽい」

「休み明けに今後の会議になるでしょうが、入渠はその結果待ち。ただし矢矧さん、貴女の損傷なら半日溶液に浸かっていれば治るでしょう。入っておいて頂けますか」

「はい。承知しました」

「後は、島風さん」

「おぅ?」

「貴女と夕立さんも半日で治るでしょうが、先に入ってください。そして……」

「……私に、行けって?」

「……はい。私達に先行して本拠地に戻り、戦闘結果を提督にお知らせしてください」

「…………どんな貧乏くじよ、それ」

 

五十鈴の戦没を、司令官に伝える。

誰もやりたがらないだろうその役目を負わされたのは島風だった。

思うところもあるのだが、自分が指名される理由も理解できる。

 

「悪いわね。だけど、情報の伝達は早いに越した事は無い」

「……分かった。今度アイス一個は奢りなさいよ?」

「二つは奢るわ。えぇと……はい、食券」

「っぽい?」

「……おぃ加賀。そっちはぽいぬよ」

「……ごめんなさい。髪の色と長さが似ていて」

「服を……服を見て欲しいっぽい!」

「そうよ。白露型とか旧式でやぼったいんだから、ハイセンスな私と間違えないで」

「……その傷じゃ歩きづらいだろう島風。夕立、そっち抱えて」

「ちょっ? 時雨!」

「了解。ソロモンの悪夢、見せてあげる」

「ぽいぬ台詞おかしいでしょっ。ドックよね? 傷治しに行くのよねぇ!?」

 

時雨と夕立に両脇を抱えられ、連行される次世代型駆逐艦。

その馬力は扶桑方戦艦にも迫るはずだが、一方の時雨はほぼ無傷。

さらに二隻掛りということもあり、ずるずると引きずられていった。

多少心配になった加賀だが、一応ドックの方に連れて行かれたので大丈夫だろう。

駆逐艦の退場をきっかけに、港から解散するメンバー。

大和は一人、重い体を引きずって足柄の元に向かう。

それ程の時間はかけずに足柄に割り振られた一室の前にたどり着く。

ノックをして呼びかけるが、返答は無い。

 

「足柄さん……?」

 

扉越しではあるものの、室内からは全くといって良いほど動くものの気配が無い。

間をおいて呼びかける大和。

一分が過ぎ、二分が過ぎ……五分になる頃には嫌な予感が胸によぎる。

 

「足柄さん……ちょっと! 大丈夫ですっ? ちょっと……足柄さん!?」

 

眉をひそめた大和はノックしていた手を開き、扉中央に押し当てる。

一つ息を吐き、接触した状態から腰の体幹を回して思い切り腕を伸ばす。

足をしっかりと踏み締め、密着間合いから伸ばしきられた大和の腕は、扉をくの字にへこませなが室内に食い込ませる。

そのまま前蹴りで扉を押し込み、完全に倒壊させた。

しかしこの時、室内に駆け込もうとした大和の後ろから聞きたかった声が掛かる。

 

「……大和ちゃん、何してるの?」

「ひぅあ!?」

 

あわてて振り向いた大和が見たのは、未開封の酒瓶を袋に詰めた足柄だった。

 

「うちの扉が、何か失礼しちゃったかなー?」

「足柄さん……」

「留守にしててごめんねー。おねーさんちょーっと酒が足んなくてさぁ」

「……」

 

発言ではなく、表情が大和の言葉を詰まらせた。

何時もならば、笑っていただろう。

今の足柄に常の快活な様子は無く、淡々と無表情に事実だけを告げていた。

 

「酔って……らっしゃいます?」

「うん。でも醒めちゃった。お酒補充にいって、戻ってきたら大和ちゃんがかち込み掛けてるし」

「本当に、申し訳が……」

「手首でも切ってるとか思った?」

「……少し」

「あっはっは。まっさかねぇ」

 

足柄は役目を果たせなくなった扉の残骸を蹴り飛ばして部屋に入る。

大和も少し躊躇したが、肩越しに振り向いた足柄に促されて入室した。

不意に、大和の顔付近に飛来したものがある。

反射的に受け止めた大和。

酒瓶かと思ったそれは、未開封のシャンメリーだった。

 

「これは……」

「五十鈴ちゃんお酒だめでさ。前此処で宴会やった時、それ一緒に飲んだのよね」

「……」

「大和ちゃん戻ったら、一緒にそれ空けようと思って……あー……ちきしょう」

 

足柄は軽く壁を殴りつける。

重巡洋艦に八つ当たりされた壁は拉げ、破砕音で抗議する。

大和が室内を見ると、同じような跡がそこかしこに散見された。

 

「お互い、聞いて欲しい愚痴ってあるじゃない? それとも、雪風ちゃんに会うまで取っておく?」

「いいえ。もうだめ……吐き出さないと、沈みそう」

「あぁ……一緒だね」

 

艦列を並べて戦った、戦友の死。

かつては多く経験した事だが、自分自身の心を得てからは始めての事。

足柄と大和。

人それぞれ心の作りは違うモノだが、感じる悲哀は共通している。

傍にいながら救えなかった。

傍で戦う事すら出来なかった。

あの時こうしておけば……既に起きてしまった現実に対し、なんと無意味な後悔だろう。

分かっていながら、直ぐには精神を回復出来ない。

特に足柄は、自分が此処まで荒むと思っていなかった。

感情のよりどころを自分の中に見出せず、だからこそ大和達の出迎えを妹に任せて引き篭もったのだ。

 

「……戦闘部隊は十二時間休憩。その後、全員で会議です」

「……」

「足柄さん?」

「……いや、そうなると私らは警戒待機かなって。羽黒と山城ちゃんに悪いなぁ」

「……今の足柄さんが、緊急出撃かかったとしても任せられない」

「言うわねぇ……だけど、正しいわ」

「……」

「おっかしぃな……むっちゃんと話した時は、ある程度覚悟出来てるつもりだったんだけどなぁ……五十鈴ちゃん居ないってこんなに寂しいんだ。知らなかったなぁー」

 

それは大和に向けて発した言葉ではないだろう。

だから答えなかった。

大和が無言でやったのはシャンメリーの口を空ける事。

そしてグラスに注ごうとしたが、そんなものは見当たらなかった。

 

「えっと……」

 

困ったように足柄に視線を向けると、早く回せと訴えられる。

このまま足柄に渡したら、なんとなくラッパにされて終わりそうな気がする。

残してくれたとしても、グラスが無い事に変わりはないのだ。

意を決した大和は、両手持ちでボトルに口をつける。

足柄から見ればまだ上品過ぎるが、精一杯頑張って一口飲んだ。

おずおずと足柄を見れば、なんとか及第点を貰えたらしい。

今日始めて、おそらく無意識に微笑した足柄は手持ちの袋からグラスを取り出した。

 

「あ! ずるいです」

「大和ちゃんはもう少し下品になっても良いと思うわよ?」

「げ、下品って……」

「何するにしても、品があるのよねー」

「それって悪いことじゃないですよねぇ?」

「取っ付きやすさが変わるわよ。幸い、うちで大和ちゃんに気後れするような可愛気のある子は居なかったけどね」

 

足柄はグラスを傾け、安っぽい甘味を飲み干した。

あまりおいしいと感じない。

五十鈴と二人で飲んだときはもっと……

いや、あの時は味など気にならなかったのだ。

ただ、楽しかったから。

 

「五十鈴ちゃんが真っ直ぐ飛んでくる砲弾にそうそう捕まる筈が無い。ねぇ、あの子なんで沈んだの?」

「……敵戦艦の性能は、最早異次元の領域でした。全ての事情を正確に把握している訳ではありませんが……五十鈴さんは敵の攻勢を察知しながら艦隊の回避を優先し、自分は危険域に踏みとどまったんだと思います」

「そっか。じゃあ五十鈴ちゃんは、自分の意思で死に場所を定めたのね」

「……」

「……なんだかなぁ。ドジ踏んだってんなら、写真でも指差してぷげら! って笑ってやる心算だったのに」

「写真?」

「ほら、第一艦隊の初任務の前に四隻で取ったじゃん」

「あぁ、あ号の時かぁ……懐かしいなぁ」

「……懐かしいよね。でもほんの何ヶ月かしか経ってないのよ」

「……」

 

大和は足柄の空けたグラスに酌をする。

そして残ったボトルの中身を、今度は躊躇わずに飲み干した。

一言交わすごとに寂寥感が実態を帯びて大和に現実を意識させる。

自分達の五十鈴は、もう居ないのだ。

 

「……ふぐぅ」

「おぅ、泣け泣け。大和ちゃんみたいな美人の涙を駄賃に逝けるたぁ、五十鈴ちゃんも幸せもんよ」

「あ、足柄さん」

「ん?」

「私は、何処で間違ったの?」

「何処でったってねぇ……」

「あそこで戦っちゃ、駄目だったですか? 水雷戦隊を作って任せたのが不味かったですか? 何で五十鈴さんが沈んじゃったんですか! あんなふざけた、魔法みたいな反則でぇ!」

「……戦わなかったら、入渠中の私と羽黒は動けないまま沈んでたね。水雷戦隊を別にしなけりゃ、皆は大和ちゃんの周りだけで回避しなけりゃいけなかったね。五十鈴ちゃん以下の錬度でそれは無理だから、被害はもっと増えたろうね。五十鈴ちゃんが沈んだのは、守りたかったからだろうね。敵の性能を読み切れなかったのは……最初の接敵で無様に大破した私を恨んで良いよ」

「違うんですっ。ごめんなさい! ごめんなさい足柄さん。ごめんなさい、ごめんなさい……」

「うん……分かってる。意地悪な言い方して、ごめんね……」

「雪風ならどうしてたろう。何で、なんで此処に居てくれないの……」

「寂しい?」

「寂しい……寂しいです。傍に居てほしいです。会いたいよぅ……ふぐぅうう……」

 

床に座り込み、後頭部をベッドの縁に乗せ、顔を両腕で伏せた大和が全身を震わせる。

此処は素直に泣ける若い大和が羨ましい足柄だった。

一頻り泣かせ、やがてしゃくりあげる息遣いも小さくなった時、足柄は初めて未来の話をする。

 

「五十鈴ちゃんが記録上からも除籍されるのって、慣例で一月後だっけ?」

「……そうなると思います」

「そっか。じゃあそれまでに、でっかい送別会しよう。あっちで五十鈴ちゃんが悔しがるくらい派手なやつ」

「良い……です、ねぇ」

 

そう答えた大和の視界がくらりと揺れる。

最初は涙で滲んでいるのかと思ったが、何度拭っても戻らない。

そこで初めて視界だけでなく、全ての感覚が遠くなるのを感じる大和。

戦傷と疲労をから身体を支えていた緊張が、徐々にほぐされていたのだろう。

 

「あー。休むならそのままベッド使っていいよ?」

「んぅ……」

「あ、それと……言い忘れてた」

「……」

「お疲れ様。頑張ったね、大和ちゃん」

 

心身ともに限界だったらしい戦艦大和。

滑落する意識の中で聞いた声に、いらえを返すことは出来なかった。

 

 

§

 

 

戦艦棲姫の両腕が、金剛の肩の衣装を掴む。

間髪入れず、鳩尾に打ち込まれる膝。

 

「んぐっ」

 

くの字に折れかけた身体を掬い上げるように右の掌底が顎を捉える。

強制的に起き上がった金剛の顔面を、姫の左手が鷲掴みにした。

そのまま右のローを蹴り抜いて金剛の足を刈り取り、掴んだ左手で押し倒しながら後頭部を海面に叩き付ける。

艤装が浮力を維持しているため、押し付けても沈まない。

しかしその衝撃は本体の運動機能を一時的に奪うには十分だった。

 

「……なんで殴り合いになってるネ?」

「嫌ナラコンナ距離ニナル前ニ被弾シテヨ」

「Shoot! お前固すぎネッ」

「アタリ前デショウ? 戦艦ダモノ」

 

金剛と戦艦棲姫は砲撃戦での決着がつかず、かといって戦闘を中止する事も出来ないままに距離だけが無くなっていった。

そして彼我の間合いが5000㍍を切ったとき、戦艦棲姫は金剛の砲撃をまるで無視して衝突して来たのである。

艦時代ではありえない、人の手が届く距離での殴りあい。

艦娘と深海棲艦の戦史でも稀の珍事が展開された。

小回りが利かない海上で殴り合っても耐久と馬力の勝負になるため、金剛に勝ち目は無かったが。

 

「……それにしても貴女、喧嘩慣れしすぎでショ?」

「ヤンチャナ子ノ相手ガ多カッタカラネ」

 

戦艦棲姫に顔を抑えられたまま、金剛は深く息を吐く。

このまま頭部を握りつぶすなり、副砲の一つも直撃ちされれば沈むだろう。

双方の艤装は此処までの戦いで既に大破している。

お互いにギリギリの所だったのだ。

それでも戦艦棲姫が突っ込んで来たのは、金剛に殴らせてやる為だろう。

状況が飲み込めないまま済し崩しに殴り合い、戦艦棲姫の顔面に一発叩き込んだ時は爽快だった。

返された拳は只管痛かったが、それも悪くないと思う。

あの日に振り上げた拳は、今日やっと役目を果たして下ろすことが出来た。

目的は達せられ無いまでも、妙に晴れた気分の金剛だった。

 

「私の負けネ」

「……」

「最後の相手がYouで良かったデス。きっちり仕留めてネ」

「……」

 

金剛の顔から姫の手が離れる。

とどめの一撃を予期した金剛は、静かに瞳を閉じて待った。

心の中で比叡に詫びる。

しかし何時まで経っても身体を貫く衝撃が来ない。

じれったいのを嫌う金剛が催促しようと目を開ける。

姫は金剛を見ていなかった。

その瞳は遥か遠く、嵐の去った海に浮かぶ月の方角を見つめている。

 

「……ツキハ貴女ニ笑ンダヨウネ」

「え?」

「新手ダワ」

『お姉さまぁ!』

『え? 金剛さん……ちょっ、本当に此処何処なんですかぁ!』

 

広域無線の声に息を呑んだ金剛。

戦艦棲姫は金剛の鳩尾を踵で踏む。

声も出せずに悶絶する老戦艦。

しかし丁寧に数センチへこませた所で止められ、艦の重さを掛けられる事は無かった。

金剛は咳き込むことすら適わず、全身を包む苦痛と痺れの中で波間を漂う事になる。

 

「負ケダト思ッタノナラ、少シ大人シクシテイテネ」

 

そう言って金剛から離れる戦艦棲姫。

金剛が少女を巻き込まなかった様に、戦艦棲姫も金剛を盾にする心算はない。

例え愚かと言われようと、それが戦艦の矜持である。

 

「まっ……グッ、コフッ」

 

遠ざかる姫の背中に手を伸ばす金剛。

視界の中で自分の手と姫が滲む。

それが瞳を守る為の生理現象か、それとも別の何かなのかは分からなかった。

 

『イラッシャイ。歓迎スルワ』

『お前……よくもお姉さまをっ』

 

増援は二隻。

一隻は以前にも見たことのある高速戦艦。

今一隻は始めて見るが、間違いなく軽い艦である。

しかし戦艦棲姫は月下に駆けるその小船から感じる、凄まじい違和感に総毛立った。

戦艦や空母とは違う、もっと危険な何かが駆逐艦の皮を被っている……そんな予感に眩暈がする。

 

「比叡さん、金剛さんを!」

「普通逆でしょう!?」

「雪風にあんな重いの運べません!」

 

言うだけ言って敵戦艦に突入を開始した雪風。

自分がこちらに来てしまえば、金剛を助け起こすのは比叡しかいない。

とにかく雪風は戦いたかったのだ。。

 

『やぁっと見つけましたよぅ深海棲艦! 溜まりに溜まったこの憂さを、全てぶつけてあげましょう』

『物凄イ理不尽ナ発言ヲ聞イタ気ガスルワ……』

『喋ったぁ!?』

『アラ? 可愛イ反応ネ』

 

雪風と比叡が遭難してから始めての接敵である。

羅針盤妖精は目的地までの長短は別にして、深海棲艦の少ないルートを結ぶことが多い。

雪風が思うに、比叡は姉の下に行きたかったのだ。

決して任務を忘れたわけではないだろうが、羅針盤の妖精は比叡の迷いをそのまま海路に反映した。

そして今、彼女の本当の目的地へ導いた。

巻き込まれた雪風としては迷惑なことこの上無いが、眼前に大破転覆している仲間がいる現状で追求している暇はない。

迷うことなく交戦と救助を選択した雪風は、相手がどれ程の化け物かも知らずに突っ込んだ。

比叡も姫の様子を見ながら、雪風の為に砲撃支援を合わせてくれる。

直ぐにでも姉の下へ行きたかったが、比叡から見れば動けない金剛と一緒に狙われる可能性があった。

深い息を吐いた戦艦棲姫は、比叡の砲撃を主砲によって撃ち落す。

同時に副砲で接近中の小船を狙うが、雪風の回避能力は金剛すら凌駕する。

牽制射撃をものともせずに5000㍍まで踏み込むと、八射線の魚雷を泳がせた。

 

「ヒィフゥミィヨゥ……八本ネ」

 

満身創痍の戦艦棲姫は回避せず、自身が最も信じる装甲を持って魚雷を凌ぐ。

雪風が見守る中、一本の魚雷が姫の足元から艤装に刺さる。

てっきり回避行動を取ると思っていたために、逆に当たる数が減ってしまった。

しかしその様子から敵の防御思考と反応速度を観察した雪風。

 

「……副砲の音がヤバイし尋常じゃないくらい硬い……もしかしてめっちゃ強くないですかアレ?」

 

至近距離で砲撃戦を展開しつつ、次なる手段を考える。

現在は比叡が主砲をひきつけてくれるため、雪風自身は副砲だけ捌ければ行動の自由を獲られる。

一発当たればお陀仏なのは一緒だが、砲門の数が純粋に減ってくれるのは有難かった。

雪風は時差をつけて四射線ずつ、二組に分けて魚雷を放つ。

同時に砲撃を交換しながら急加速し、一気に姫の側面に回りこんだ。

戦艦棲姫は雪風に向けて回頭しかけるが、其処に比叡の砲撃が降り注ぐ。

舌打ちしつつ半数を回避し、避け切れないものを撃ち落す姫。

敵の移動と艤装の守りを見据え、機会を伺う駆逐艦。

やがて第一陣の四射線のうち、一本の魚雷が敵に刺さる。

しかし命中の直前に艤装の腕が動き、防御体勢が完成した。

戦艦棲姫は既に雪風の雷撃の速度を測り、防御のタイミングも掴んでいる。

この一事だけでも尋常な相手ではない事が良くわかった。

 

「…………此処だと二番………あー……三番か」

 

雪風は側面取りの旋回から一気に方向を転換し、姫に向かって突進した。

敵艦の砲門に対して真っ直ぐ向かう最大船速。

回避の難度は桁違いに上昇し、雪風の間近を幾重もの弾丸が掠めていく。

駆逐艦の装甲はそれだけで剥がれ落ち、小破に届く損害になる。

しかし雪風は手にした10㌢連装高角砲だけは無傷のまま守っていた。

僅か数分の攻防により、2000㍍の距離に詰めた雪風。

至近距離から狙い済ました主砲が、姫の艤装に着弾する。

小口径の主砲は表面で食い止められ、ダメージは通らない。

戦艦棲姫は小船の主砲に見向きもせず、比叡の主砲に意識を向ける。

 

「カッ……ハッ!?」

 

その瞬間、経験した事の無い衝撃が姫の左胸を貫いた。

首は頭部を支える仕事すら放棄し、かくんと前に崩れる。

それが姫の目線を胸元に落とすことになった。

 

「……何、コレ……魚……雷……ッ?」

 

身体に刺さり、艤装の内側で炸裂した酸素魚雷。

下手人に目をやれば、雪風は無邪気な笑みを浮かべて戦艦棲姫を指差していた。

 

「バンッ……っです」

 

指で作ったピストルで、撃つ真似をする雪風。

戦艦棲姫は喀血し、その血を浴びた艤装は小さな爆発を連鎖させながら自壊していく。

 

『■■ッ■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーッ!』

 

断末魔の悲鳴を上げながら、崩壊していく巨大な艤装。

姫の脊椎から接続が外れ、のたうつ様に剥がれ落ちる。

しばし海上に浮かんだ艤装は、静かに海に没して行った。

それを見届けた比叡は、全速で姉の下に駆け寄った。

戦場に残ったのは激痛に苛まれ、血を吐きながら咳き込む漆黒の美女。

その様子を見守るのは、小さな白い死神だった。

 

『……スリ抜ケタノ?』

『そんな魔法みたいな事、出来るわけ無いじゃないですか』

 

呆れたように呟く雪風は、肩をすくめて解説してやる。

意思疎通の出来る深海棲艦を始めてみた雪風は、その好奇心を大いに刺激されていたのである。

 

『時差をつけて魚雷をばら撒いて、第一陣で防御体勢を取ってもらいました。次いで側面から貴女の艤装の肘を撃ち抜いて、腕を少しずらしただけです。其処に第二陣の魚雷がすべり込んだのですよぅ』

『……魚雷ヲ放ッテカラ数分後ノ私ノ位置ヲ、正確ニ測ッテイタトデモ?』

『だって貴女、最初の八本を避けずに守ったじゃないですかぁ。装甲に自信があったから足を止めたんでしょう? だから比叡さんの主砲で動かされる分だけ計算しました。簡単とは言いませんし絶対成功するものでもないですが、練習すれば誰でも出来ますよ?』

『……イヤ、無理デショウ? 冗談……ヨネ?』

『納得いかなければ、まぐれ当たりしちゃったと思ってくれてかまいませんよ。どっちだって同じですから』

『――ア、ハハッ……ハハハ、グッ……ウ、フフフ、コプッ』

 

心の其処から可笑しそうに、しかし笑うたび苦しそうに咳き込み悶える戦艦棲姫。

なんとか笑いの発作をおさめ、自分を倒した小船と正対する。

 

『貴女、名前ヲ聞イテ良イカシラ?』

『……呪いとか、かけません?』

『カケマセン。自分ヲ沈メタ相手ノ名クライ、水底ニ持ッテイキタイジャナイ』

『……陽炎型駆逐艦、八番艦。雪風です』

 

その名を聞いた戦艦棲姫は、再び笑いの発作に襲われた。

以前鹵獲した駆逐艦からその名を聞いたことがある。

最高の駆逐艦だと、自慢の姉だと言っていた。

左胸に空けられた穴に手を沿える。

あの子の言葉は誇張はあっても事実無根では無かったらしい。

 

『私ヲ沈メルノハ戦艦デモ空母デモ無ク、駆逐艦カァ……見事……ト言ウ他無イワ』

『あのぉ……もしかして、貴女って結構偉い方なんですか?』

『……ナァニ? 知ラナイデ私ト戦ッタノ』

『知ってるも知らないも、雪風達は初対面じゃないですかぁ』

『ウ、フフ……ソウネ。ソレナラ……』

 

戦艦棲姫は胸の穴から手を離し、今度は額の角に触れる。

そして髪を払うように一撫ですると、その手の中には折れた角が残された。

雪風の視線が細くなる。

直上に違和感を感じた雪風は顔をあげると、闇夜の中に目を凝らす。

昼間であれば黒点として視認出来るが、夜では殆ど解らない。

鋭い小船に感嘆しつつ、姫は角を真上に放る。

角は雪風の頭上に送られ、その手元に落ちてきた。

 

『コレは……』

『私ヲ倒シタ証。ソレヲ見セテ、《わたしがせんかんせいきをしずめた》ッテ言ッテミテ? キット皆、吃驚スルカラ』

『何でしょうねぇ、嫌な予感しかしないんですが……』

『ウ、ッフ……ゴフッ』

 

笑いかけた姫は激しく咳き込み、喀血した。

雪風としてはもう少し、この変わり者の深海棲艦と話してみたい。

しかしもう、姫に残された時間がない。

この会合に迫る終焉がやや勿体無いと思う雪風の目の前で、戦艦棲姫は肩越しに振り向いた。

視線の先にあるのは、比叡に抱き起こされた金剛の姿。

金剛にとって戦艦棲姫は、自分の存在意義を脅かした敵である。

しかし逆に、憎まれることによってその足を支えた支柱でもあった。

最初の出会いから今日までを、ある意味で戦艦棲姫に支えられてきた金剛。

何か言いたげな視線を向けられた姫は、敵の脆さを丁重に無視して告げる。

 

『貴女モ、悪クハ無カッタワヨ? 出来レバ、他人ノ道具カラ卒業シタ貴女ト戦ッテミタカッタワ』

『……貴女に何が解るのデス?』

『サァ? 精々長生キナサイナ、Old lady』

 

戦艦棲姫の胸に空いた穴から、深紅の炎があふれ出す。

やがて炎は姫の内側から焼き尽くすように、その全身から吹き上がる。

深海棲艦最強の戦艦は、ついにその身体を支えきれずに崩れ落ちた。

 

『アァ、知ラナカッタワ……私ハ、コウヤッテ沈ムノネ』

 

身体の至る所から紅蓮の炎を吹き上げ、水面から天を焦がさんばかりに燃え盛る戦艦棲姫。

仰向けに浮かんだ姫が、炎の中から空を見上げる。

戦艦棲姫が最後に見た空は月と星と、少女が残したであろう飛び魚艦爆の姿だった。

 

「ウソ……ツイチャッタネ。ゴメンネ……」

 

駆逐艦と高速戦艦姉妹が見守る中、戦艦棲姫は業火を伴い沈んでいった。

同時刻。

同じ海上には大破した艤装とぼろぼろの身体を引き摺って、北へ向かう戦艦少女の姿が在った。

戦場を離脱する際、超高空に一機だけ放った艦爆から送られてきた姫の最後。

泣きながら水面を踏みしめる少女の鼓膜には、亡き姫の声が響いていた。

 

――良カッタネ……

 

直ぐにでも彼女の元に逝きたかった。

だが、今逝っても彼女は笑ってくれないだろう。

少女はこの旅で獲たものを形にしなければならないのだ。

自分はその為に、戦艦棲姫を連れ出したのだから。

その為に、戦艦棲姫は沈んだのだから。

 

――良カッタネ……

 

耳の奥でリフレインする姫の声。

戦艦棲姫はずっと本気になれなかった少女の事を心配していた。

半分は強すぎた姫自身のせいだと気づいていなかったのが腹立たしいが、誰よりも少女の未来を嘱望していたのは間違いなく彼女だった。

だからこそ、少女が自発的に何かを成そうとしたときは必ず協力してくれたのだ。

そんな彼女が、とても嬉しそうに語った言葉。

 

――良カッタネ、戦ウ理由ガ見ツカッテ

 

「チカラヲ貸シテ……ナンテ、都合ノ良イ事ハ言ワナイ。僕ハ最強ノ戦艦ニナルカラ、其処デ見テイテヨネグリジェ……」

 

そう呟いて瞳を閉じた、年若い深海棲艦。

今はもういない少女の姫は瞼の裏で微笑み、頷いていた。

 

 

§

 

 

――雪風の業務日誌

 

ひえいさんとうちにむかっています。

でもまいごになりました。

ひえいさんはほうこうおんちだったです。

ようせいさんたよりにすすんだら、こんごうさんとしんかいせいかんがたたかっていました。

どっちもたいはしていました。

てきはめずらしく、しゃべることができました。

なりゆきでしずめてしまいましたが、もうすこしおはなししてみたかったです。

『せんかんせいき』っていっていました。

なんかえらそうっぽかったので、かこのせってきでーたにあるかもしれません。

おじかんあるときでいいので、しらべておいてくださいです。

いまはこんごうさんもいっしょに、さんせきでおうちにむかっています。

うちでにゅうきょしていただこうとおもうので、どっくのよういもおねがいします。

 

 

――提督評価

 

(返信がありません)

 

 

§

 

 

――極秘資料

 

No7.駆逐艦時雨

 

通常の建造だが、巡洋艦レシピから作られた白露型駆逐艦。

第三艦隊の旗艦を勤めている。

特定の個人に対して情緒が安定しない。

 

 

・直感

 

機能1.知らないはずの事を知ってしまうことがあります。

機能2.判定に成功すると敵の攻撃寸前にそれを察知します。

機能3.成功すると回避値が上方修正され、固有スキルの場合は初見属性を打ち消します。

 

・雨の記憶

 

機能1.止まない雨のように耳鳴りが鼓膜に残り続けています。

機能2.コンディション値に常に-5の補正が掛かります。

機能3.上昇、下降問わずコンディション値の変動を抑制します。。

 

・運命変転

 

機能1.定まった未来を覆す力です。

機能2.結果の出た判定の目を海戦の中で一度だけ裏返します。

機能3.発動は幸運に属するものであり、当人はこの力を認識する事は出来ません。

 

 

 

 

 




§


後書き

戦艦棲姫没す。
此処で沈んだか……お姫様。
彼女だけは登場時から沈んでいただく心算でした。
だけど書いているうちに愛着がわきまして、生存ルートを作ろうかと真剣に悩むようになったキャラでもありました……
因みに此処は戦艦棲姫が沈む三パターンのうちの真ん中です。
一番来る可能性が高かったルートでした。
ラストアタックは雪風でしたが、作者サイドからするとMVPは比叡さん。
2D平均9以上を出し続けないと間に合わなかった金剛お姉さま救出を間に合わせ、死亡フラグを力ずくでへし折った比叡さんマジぱねぇっす。
追いつく確立は高かったんですけどね……比叡さんよくやった!
そしてついに出てきた固有スキル運命変転。
知ってる人には超有名なアレですね。
ある意味主役の証と言えるスキルかもしれませんw

近況としましては夏イベも終わり、まったりと資材集めを繰り返しております。
401ちゃんも建造落ちしましたし、宿毛にも希望の夜明けが近いようです。
えぇ、夜戦マップまだはまっておりますともorz
とりあえずある日、集めた資材で35 35 40 20 20 で5回ほど回してみたところ、山城→扶桑→まるゆ×3という結果でした。
なんなんでしょうねこれ。
システムにぷげら! されたとしか思えませんw
不幸姉妹は同じく不幸な姉鶴様が、まるゆは雪風がおいしくいただきました。

寒くなってまいりますが、皆様もどうかお風邪などめされぬようお気をつけくださいませ。
それでは次のお話でお会いできることを……





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