大型建造。
それは多くの提督達の憧れであり、夢だった。
大量の資材をつぎ込み、普通の工廠では建造不可能な大型船を作り出す。
鎮守府の提督になったなら、何時かは此処で大和や武蔵を手に入れたい。
そう夢見た提督達が、今日も資材を投げ打って妖精さんに祈りを捧げる。
妖精と人間。
どちらが上でどちらが下という事は無いが、その姿を見れば立場の上下など言わずもがなである。
出る人は一発で作れてしまうし、出ない人は数百回回しても出ない。
一部では艦娘の絵姿を描けば妖精が微笑む、などというデマまで流行る始末だった。
「どうでぇ! 新任のお嬢にゃ、もったいねぇ一品だぜ?」
「……」
「大和型一番艦、戦艦大和、着任いたしました」
「……」
水雷戦隊結成の翌日。
長い長い建造時間を終え、その艦娘がお出まししたのが今しがたのことである。
この子を見届けてから眠ろうと不眠で仕事を続けていた彼女にとって、最良の結果を迎えられたといっても過言ではない。
……ある一点に目を瞑ればだが。
「……なんぞこれぇ」
祈る様に指を組み、その上に額を当てて呟く提督さん。
その痛ましい姿に、秘書官たる雪風はそっと目頭を抑えずには居られなかった。
「あの……司令官?」
挨拶を沈黙で返されるのは、大和にとっても愉快ではない。
しかしその相手が上官であり、しかも泣きそうな表情で俯いたなら如何すればいいというのだろう。
大和は助けを求めるように周囲を見渡し、唯一の顔見知りである雪風に目を留めた。
「あー……大和さん、お久しぶりですー」
「あ、はい。お久しぶりですね雪風」
「しれぇは多分、しばらく戻って来られないと思いますので、再起動するまで居室で待機を……」
「ど、如何なさったのでしょうか、彼女は?」
「雪風にそれを言えとおっしゃいますかっ」
というより、自分で気づいていないのかと喚き散らしたくなる雪風だった。
だって誰が見てもおかしいじゃないか。
戦艦大和といえば、代名詞ともいえるのがその主砲。
46㌢砲という規格外というか、もう頭がおかしいのではないかという程の超大型砲である。
誰が見ても一目で分かるそれが、見間違うはずの無いその兵装が……
「部長さん」
「なんでぇ雪ちゃん」
「なんで大和さん。主砲、つけて無いんですか?」
無かった。
何処にもなかった。
というか、建造された大和はあらゆる武装を積んでいなかった。
こんなはずではなかった。
提督の嘆きも尤もだろう。
「いやー、提督が大型建造に、2000.2000.3000.1500までしか出せねぇって言うしよぉ。しかしこっちとしても作る以上は、大物作って喜ばせてやりてぇって思うじゃん? 其処で、この大和って訳よ。武装の開発を最初から放棄する代わりに、超低コストで艦娘の本体だけは確保したっつぅ一品よ! いやぁ俺、凄くね? これノーベル賞とか貰えちゃう発明じゃね? 兵装いらないけど艦娘たんぺろぺろしたいっていう世の提督の八割方の需要はコレで満たせるという――」
「兵装の無い大和さんがどうやって深海棲艦と戦うんですか! っていうか丸腰の大和さんとか普通にホテルじゃないですか! 豪華客船ですよこれぇ!」
「ひ、酷いっ」
身長160cmに満たない雪風に、190cm近い大和が泣かされるという奇妙な光景が展開される。
そんな様子を微笑ましく見守りながら、シャッターを切る部長。
彼は紳士な妖精であり、こういう光景こそが燃料であった。
もちろん彼の部下達も同様である。
雪風も大和も普段なら注意したのだろうが、自分の事が手一杯な今の状態では無理だった。
「泣いて済んだら憲兵さんは要らないんですよ! 大和さん、浮き砲台にもなれないとか大戦中よか尚悪く……」
「――お待ちなさい」
言えと言うなら、言いたい事は全て言おうと大和と部長に詰め寄る雪風。
そんな部下に待ったを掛けたのは、真っ白になって固まっていた提督だった。
「……先ほどは失礼いたしました。私がこの鎮守府を預かる提督です。戦艦大和。我々は貴女を歓迎します」
「はっ!」
雪風に泣かされていた和風美女は、その声に反応してすぐに敬礼を返す。
その敬礼を受け、一つ頷いた彼女は静かに告げる。
「我々には戦力が不足しています。求めていたのは即戦力となる戦艦です」
「はい。艦隊決戦でしたら、お任せください」
「頼もしい。わたくしは事務屋ですので、正直艦娘の性能や戦歴には詳しくありません。雪風、具体的に兵装無しで深海棲艦と戦えるものなのですか?」
「無理に決まっているじゃないですか」
やる気満々の大和だが、雪風は頭痛を堪える表情で否定する。
戦艦同士の砲撃戦は30000㍍前後から撃ち合う事も可能だし、大和の主砲に至っては自称射程距離は42000㍍もある。
しかし実際の砲戦は命中精度の兼ね合いから15000から20000強が中距離と呼ばれる射程距離である。
つまり最低20000前後。
出来ることなら25000㍍を確実に狙える攻撃手段がなければ、艦隊決戦に持ち込む前に一方的に打ち込まれるのだ。
雪風の説明を聞くうちに、提督の頬が引きつっていく。
大和もしょんぼりと俯いたところを見るに、反論はなさそうだった。
「しかも低速な上に艦型も大きい大和さんですよ? 遠距離から支援砲撃も出来ない現状、ただの標的艦ですよコレ」
「み、皆さんの盾くらいは……」
「大和ちゃんの装甲、鉄鋼大量に圧縮して特殊な加工してっから、小破しようものなら修理に三桁。中破なら四桁、大破でもしようモンなら最悪五桁の鋼材つかうぞ?」
「……おぃ」
「ひぅっ」
地の底から響くような提督のうなりに、涙目の大和が震え上がる。
要するに、どういうことだ?
自分の信頼する秘書官と、工廠部長の発言を整理するとこうなる。
この戦艦は、役に立たないポンコツであると。
信じたくなかった。
だって、新任の彼女に四桁の資材投下は冒険だったのだ。
別に大和型なんて来なくてもよかった。
ちゃんと戦える戦艦だったら、伊勢でも長門でも金剛でも扶桑でも……
速力はあっても火力と装甲の薄い雪風を、しっかり守ってくれる艦娘が欲しかったのだ。
戦場では、自分は傍にいられないから。
彼女は大きく息をつき、気持ちを整理して一同を見渡した。
視線が合った全員が、地獄で閻魔にでも遭遇したような表情で震えていたのはきっと気のせいに違いない。
「雪風」
「はいっ、しれぇ!」
「大和さんをご案内してさしあげて」
「あ、はい……では居住区へ……」
「違います」
「ふぇ?」
「工廠です。近代化改修の素材でしたら、きっと雪風の役に立てますよね彼女も」
「ひぅうううううううううっ」
「えっ? しれぇ、ちょっ……まっ――」
「事務屋としましては、今の大和さんに任せられるお仕事がコレしか思いつきません。何か、他にございますか?」
雪風は助けを求めるように周囲を見渡すが、そんな都合の良い存在はいない。
部長は提督に睨まれた瞬間に逃げおおせていたし、大和自身は当事者である。
せめて羽黒が居てくれればと思ったが、彼女は現在夕立、島風を率いて近海の警備に出ていたのだ。
しかし雪風としては、このまま大和をスクラップにする事だけは絶対に認められない。
ホテルだ豪華客船だと散々に言った雪風だが、今一度戦艦大和と肩を並べるというのは、艦娘としての夢でもあった。
「しれぇ! お願いします。や、大和さんにお慈悲をっ」
「えー……?」
「今は兵装がない唯のホテルですけど、逆に言えば兵装さえあればその戦力はビッグセブンすら凌ぐ規格外です。この機会を逃して今、大和さんを失ったら、もう二度とめぐり合うことは出来ないかもしれません! また、いざその時にかかる資材がどれ程の量に上る事か……」
「……それは維持費と相殺じゃないですかぁ?」
「維持費は雪風が稼ぎますっ。へ、兵装にかかる素材だってきっと集めて見せますから!」
「ふむぅ……」
彼女は腕組みをして黙考する。
雪風の大和に対する入れ込みようは十分に伝わった。
コレを強行に素材行きにした場合、雪風のモチベーションに甚大な悪影響が出ることくらいは事務屋にも理解出来る。
大和の素材行きは、もう出来ない。
そうなると大和を維持しつつ現状の赤字を将来のための投資に変えて、黒字に持っていかなくてはならない。
中々の難事業だった。
彼女は小さくなって俯いている艦娘を見る。
下を向いているから見えるのは旋毛だが、思えば大和も哀れである。
工廠部によって丸腰で生み出されてしまったのは、彼女自身のせいではないのだから。
その辺りの機微にまで気が回らない辺り、自分はあくまで補佐であり、事務屋なんだろうなと苦笑する新任提督。
だからこそ、彼女には雪風のような補佐が必要なのだろう。
果たして、大和にそれを期待してもいいものか……
「雪風」
「はい」
「貴女の第一艦隊旗艦、兼秘書官の任を解きます」
「っ……はい」
「変わって、貴女に命じます。第二艦隊旗艦兼、第二水雷戦隊の指揮官へ就任してください。第二水雷戦隊は、それまでの貴女の艦隊をそのまま当てます」
「は、はいっ」
敬礼しつつ命令を受諾する雪風。
司令官の命令が自分にとって吉となるか凶とでるか、未だにわからない緊張がその声を硬くする。
しかし次の上司の命令は雪風と、そして大和の心に暖かい風を吹き込んだ。
「第一艦隊旗艦、兼秘書官の後任は、大和さんを持ってその任に当たって頂きます」
「拝命いたしました」
「雪風は羽黒さんが帰還し、補給が済み次第素材収集に遠征せよ」
「了解いたしました」
「他になにか?」
雪風と大和は互いに視線を交わすが、お互いにこれ以上の質問はない。
最上に近い形で要求が通った雪風は内心で安堵と疲労を感じていた。
最も、それは生まれてそのまま素材にされかけた大和のほうが上だったろうが。
「羽黒さんが戻るまで、大和さんと施設を回ってもいいですかー?」
「そうですね。私が案内しようかと思いましたが、そういうことでしたらお願いします」
「では大和さん、参りましょう!」
「ひ、引っ張らないでください」
仲の良い姉妹というか、散歩中の犬に引き摺られる飼い主というか……
大和と連れ立って退出した雪風に、苦笑して肩を竦めた彼女だった。
§
「と、言うわけでして、私達の名称の変更及び主な任務が決定いたしましたー」
「いぇーい……っぽい?」
「うー」
「わ、わかりましたぁ」
帰還した羽黒達と合流した雪風は、補給を受ける傍らに朝のやり取りを説明した。
幸いなことに第一艦隊に拘るプライドの高い艦は居ないようであり、遠征補給任務への就任も拒否はなかった。
雪風としては島風がごねると思っていただけに、やや意外な印象ではある。
「他の二人はともかく、島風は嫌がると思ってましたー」
「うー……はっきり言うわね。まぁ思うところもあるけどさ」
「ふむ……この際言っちゃってもいいですよ? 正直大和さん贔屓してうちの艦隊に割り食わせたなーって自覚があったので、愚痴くらいは聞いちゃいます!」
「ふん。殊勝な事ね。でもいいの。大方あんたと一緒だから」
「一緒というと……?」
「……30ノットも出せないノロマだけど、やっぱり連合艦隊旗艦と共に戦うって、私達にとって夢じゃない」
「……ですよね。ありがとうございます」
島風も雪風もそれ以上は語らず、互いの胸のうちにある共通の想いを感じあった。
この二人が意見を同じくするのなら、基本方針は固まるのがこの艦隊である。
「それで、何処に遠征して補給するっぽい?」
「一応、数箇所の物資集積地を確認してありますけど……」
物資の集積地には殆どの場合、深海棲艦が回遊している。
深海棲艦に物資は必要ではない為、何のために居座っているのかは分かっていない。
一説によれば、物資欲しさにつられた人間や艦娘と戦う為だと言われているが、確証と呼べるものは提出されていなかった。
ともかく今重要なのは、遠征によって物資を補充する必要が出来たこと。
そして其処に向かう為には、深海棲艦との遭遇が必至であるということだ。
「索敵が心もとないっぽい?」」
「私、零式水上偵察機つめますけど……」
「是非お願いします羽黒さん。それと島風は基本、遊撃と敵の遅延攻撃担当。私と夕立が荷物運びで行きましょう」
「うー」
「羅針盤は艦隊の先頭にいる人が担当してください。先頭から海戦に入ったら、二列目がその役を引き継ぐということで」
「分かりました」
基本方針を定めた第二艦隊。
今だ結成してからの日は浅いが、そのベースとなっているのはかつての連合艦隊である。
同じ旗の元、共に戦った記憶と感性は互いの性格や連携を大きく補助してくれる。
ふと雪風が仲間に視線を滑らすと、注目を集めているのが理解できた。
艦隊旗艦として、出撃前の大事な仕事を要求されているのである。
頬をかき、やや緊張しながら雪風は一同に宣言した。
「私達の任務は、補給線の維持と拡張です。補給というと、戦果としては地味な印象を受けがちですが、補給を断たれた船がどれほど惨めな思いをするか、皆さんはもう、お分かりだと思います」
雪風が一堂を見渡すと、それぞれが神妙な顔で頷いた。
当時と今では事情が全く異なるが、戦場における補給の重要性は全く変わっていない。
精神論で覆せる局面は限られており、それすらも戦線としては微々たる物でしかないのである。
「今この鎮守府には、かつての旗艦大和があります。彼女が率いる艦隊を、そして彼女らが撃つ弾薬を、私達が調達するのです! 第一艦隊の勝利こそ、私達の勝利です」
「うー!」
「っぽい」
「はい」
熱っぽい演説をしながら、雪風は正直逃げ出したかった。
艦隊旗艦として、士気を鼓舞するための演説。
なんと自分には似合わない事だろう。
雪風だって本当なら、率いられるほうに回りたかった。
「まぁ、そんな大和さんですが……今は撃つべき砲台も、艦載機も持ってない、普通の豪華客船に成り下がってます。ダメダメな旗艦です。だけど全てが終わったとき、そんな事もあったねって、皆で笑えるように頑張りましょう」
そう締めくくった雪風に、羽黒が優しく微笑んだ。
「素敵ですね」
「おぅ、行くか」
「さっさと終わらせて、ゆっくり休みたいっぽい?」
「皆さんは連続出撃になりますからねー。申し訳ないです」
こうして結成二日目の混成艦隊は、初めての補給任務に臨む事になる。
雪風自身が語ったように、第一艦隊が今後活動し得るか否かは、この第二艦隊にかかっている。
奇しくも第一艦隊の財布の紐を握った雪風達は、陽光煌く海に繰り出していくのだった。
§
自陣の鎮守府からの距離と、集められる物資の最大効率を求められる地点まで片道三日。
現地での積み込み作業に要する時間が半日。
もう半日を休息に当て、帰還にまた三日。
計七日を予想される補給作戦が展開された。
行き道は深海棲艦の襲撃もなく、穏やかな航海が続いている。
しかし歴戦の殊勲艦達はその事実に、嫌な予感を抱かせた。
「襲撃はないっぽい?」
「物資の集積地は分かっている訳ですから、敵としては其処を基点に監視しているだけで、こちらの動向をかなり正確に把握出来てしまいます……」
「その上で襲ってこないって事は、狙ってるんでしょうよ。積み込みの最中か、もしくは重い荷物で足が鈍った帰り道か」
「見敵必殺の脳筋さんばっかりだったらまだ楽だったんですけどねー。羽黒さん、偵察機の展開、お願いします」
「了解しました。飛ばします」
羽黒の艦載機が先行して目的地付近を捜索する。
すると此方の前進に併せるように、所属不明の艦船が遠ざかっていくのが発見された。
嫌な予感しかしない。
「怪しいわね。雪風、あんたちょっと見てきなさいよ」
「きっと漁船ですよぉ」
「おい馬鹿、止めろ」
「雪ちゃんが言うと私達の死亡フラグっぽい?」
「冗談です。しかしきっちり待たれてますねぇ。現地で休憩考えてましたけど急いで帰るべきでしょうか……」
「と、言いますか……私なら休息以前に積み込み作業中に湾を艦隊で封鎖して、対地攻撃で押しつぶす戦術を取りますけど……」
「うー……容赦ないわ羽黒」
「鬼っぽい」
「私達に何か恨みでもあるのですかー?」
「あぅ……御免なさい」
掛け合い等しつつ、四隻はそれぞれの頭で戦術展開を考えている。
正直なところ、遠距離からの砲撃支援や航空戦力による制空権の確保もなく、敵の只中から物資搬入作業というのも無謀な作戦だと思う。
しかし出来たばかりの鎮守府で万全な体制など臨みようも無い。
その上で維持費のかかる超大型戦艦など養おうとしているのだから、多少の不利など覆して見せねばならないだろう。
事務屋とは言え、提督は雪風ならそれが出来ると信じて送り出した筈である。
此処は見事使命を完遂し、この艦隊の力を示さねばなるまい。
その上で、今度は軽空母か水上機母艦を作ってもらおう。
「羽黒さん。あれが敵影だと仮定して、数と航空戦力の有無を教えてください」
「船影は二隻。速度からして軽巡クラスだと思います。敵艦載機は見受けられません。私の艦載機も全機、攻撃を受けずに帰還しています」
「あれが敵の哨戒だとしてぇ……あの近海に戦力を隠せて、半日以内に現地に展開出来て、さらに湾を封鎖してしまえる戦力というと……主力は重巡部隊になりますかねぇ?」
「敵の前衛はそれっぽい。最悪、戦艦とか空母が後着して、頭越しにいろいろ撃ってくるっぽい?」
「敵の布陣が完成した段階からの逆転は無理よ? こっちの利点って小回りしかないんだし」
「ふむ……分かりました」
状況を整理した雪風が作戦を告げる。
島風自身が言ったように、こちらの利点は小回り。
それを最大限に生かして、相手の仕掛けるタイミングを外す。
「私と羽黒さんと夕立は、燃料の四分の一を島風に渡して進路を転換。物資集積地のやや北側にある島群に潜んで待機。此処で休憩します」
「了解っぽい」
「島風は今から私達を置いて、最大船速で目的地へ急行。艦隊ならともかく貴女一隻が全力で向かえば、当初の予定より相当に早く到着できます。この時差を利用して搬入を行い、離脱。敵が包囲を完成させるまでに、何とか逃げおおせて下さい」
「おぅ」
「敵の展開が早まるようなら、物資の集積は切り上げても構いません。というか、最悪物資など捨てて逃げてください。その時は私達が譲渡した燃料を使い、元来た航路とは別の航路を使って振り切って、帰ってきてください」
「ん」
「羽黒さんは私達と同道していただきますが、道中は艦載機を使って島風を援護してください。物資搬入中の索敵がこの作戦の生命線です」
「わ、分かりました」
此処で雪風が一堂を見渡すと、緊張した面持ちの中に一人だけ不敵に笑う駆逐艦が居た。
一番こき使われるというのに、その速度を最大限に買われた島風である。
ある意味でとても分かりやすく、雪風としては使いやすい。
もっとも、状況によっては融通が利かない一面に苦労もするのだろうが。
「島風が無事、物資を運んで合流した場合ですが、その時は荷物を夕立と私に積みなおして撤退です。追撃を受けることも予想されますが、どんな戦力に追われるかによって対処も変わってきますから、後はその場で考えましょう」
「了解っぽい」
「うー」
「分かりました」
方針を決めた第二艦隊は、分散して行動を開始した。
雪風率いる本体は丸一日の航海の末、敵の遭遇や索敵にあうことなく目的地へたどり着く。
「……けっこう疲れたっぽい」
「連続出撃ですからねー。少し休んでいてください」
「そうするー。ごはんーごはんー」
そう言って携帯燃料をかじる夕立。
連続出撃という点では羽黒も同様だが、重巡洋艦と駆逐艦だとスタミナも違う。
羽黒も疲労が無いではないが、この先は自分の仕事に島風の安全がかかっているのだ。
いい具合に張り詰めた緊張が、一時的に疲労を凌駕していた。
「艦載機より連絡。島風さんは既に現地に到着し、物資の集積作業に従事しているとの事です」
「早っ!? どれだけ急いだんですか彼女……」
「自分の速度が切り札に使われたのが嬉しかったんだと思いますよ」
「島ちゃんはあれで、寂しがり屋っぽいから頼られると弱いと思うの」
「尖がった性能をしているだけに、はまり込んだ時の戦果は凄まじいものがありますから、其処を評価しての起用ですよぅ」
性格に付け込んだわけじゃないと苦笑する雪風。
初対面から妙に島風から意識されているのは、気づいているだけに複雑だったが。
雪風が到着してから七時間。
島風が搬入作業を始めてから八時間。
羽黒が飛ばす偵察機が、島風の作業する海域の遠方に船影を捉える。
ほぼ同時に偵察機からの通信が途絶え、撃墜されたらしい事が伺えた。
「南から、約二百㌔地点です」
「はぁーい」
雪風は羽黒からの情報を元に島風に通信を飛ばす。
羽黒から直接送ってもらってもいいのだが、その場合島風とのやり取りが又聞きになるため、それはそれでやり辛くなるのである。
雪風としては、パーティーチャットとかあればいいのになと思わずには居られない。
『あー、あー……此方雪風。島風に通信。南方向、距離二百㌔付近に敵影発見。直ちに物資収集を中止し、撤収せよ……です』
『こちら島風。状況は了解した。収集物資は当初の目標の八割弱。これより現地を離脱する』
『重巡部隊と仮定しますと、最悪三十五ノットです。二百㌔とか三時間で追いついてきますけど、逃げ切れます?』
『なめんな……と言いたい所だけど、この荷物だと私でも三十ノットがせいぜいだわ。敵ひっぱって合流することになると思う』
『了解しました。最悪でも夕立に積み替える時間だけでも確保したいです。貴女の四十ノットは遊撃に使いたいので』
『判ったわ。急ぐ』
『こっちも合流に向かいますので海上で落ち合いましょう』
『ん』
雪風は通信を終えると、この場の仲間に声を掛ける。
「島風は重い荷物を牽引してきますので、三十ノットがやっとだそうです。コレだと重巡を振り切れませんから、此方からも出向いて距離と時間を稼ぎましょう」
「判った」
「急ぎましょう」
「ほぼ間違いなく撤退戦になります。支援無しで撤退戦とか正気の沙汰じゃありませんが、そんな無謀はコレが最後と信じて、皆で帰りましょう」
「今回持ち帰った機材があれば、きっと援護艦を作っても貰えるっぽい?」
「作ってもらえますよ、きっと」
穏やかな微笑で羽黒がまとめ、三隻が群島を飛び出した。
先頭の夕立が羅針盤妖精を回しながら、島風の位置を大雑把に割り出してゆく。
深海棲艦の出現以降、電子的な計器類の殆どが使用不能になり、航路には妖精さん頼みになってしまった。
こんなときまで奴らのご機嫌しだいという現状が、一行の心を重くするのであった。
§
雪風と羽黒。
二隻の幸運艦を擁するご利益かどうかは知らないが、第二艦隊主力部隊は無事、島風との合流を果たしていた。
互いに無傷なのは喜ばしい。
しかし島風の背後からは、既に目視出来る距離に船影が見えていた。
お互いが近海に揃っていながら、正確な位置の特定には目視と気配に頼らなくてはならない為にやや時間をロスしたのが響いている。
「おっそーい!」
「ご、ごめんなさいっ」
「島風! 羽黒さんを苛めない! うちの部隊の天使なんですから!」
「う……ごめん」
「とりあえずあたしが引っ張るっぽい? 早く早く」
雪風達は島風の腰に巻きつけた牽引用のロープを剥ぎ取る。
急ぎの作業のためにやや手荒くなってしまったのは致し方ない。
ついでに雪風が誤って、島風のパンツのゴムを切ってしまったのも致し方ない事だろう。
「なぁにすんのあんたはぁっ!?」
「あざとい格好してる島風が悪いのですっ。雪風は無実です!」
「あ、あざとっ!? お互い様でしょうが、スカートはきなよ変態が!」
「ワンピースです! それに履けば良いって訳じゃな――」
「雪風ちゃん、島風ちゃん」
「ひぃ!」
「止めよう? ね?」
「あ、はい」
急に大人しくなった雪島コンビ。
肩に置かれた手から伝わる波動のような何かが、絶対に逆らってはいけないと警告していた。
「ぐっ……重いっぽい」
「安全域に逃げ切ったら変わります。今は逃げましょ――」
雪風は最後まで言えなかった。
大きくて硬いものが高速で海面に落ちたのだ。
余波だけで凄まじい水しぶきを撒き散らし、瞬時にずぶ濡れになる一同。
四隻の真横に着弾したのは、敵艦砲の主砲であった。
わき目も振らずに離脱を開始する雪風艦隊。
発砲音と着弾までの時間からおよそ20000㍍で、戦艦主砲の射程内である。
戦艦の前方を固めるのは、深海棲艦の重巡洋艦三隻と軽巡洋艦二隻、そして駆逐艦が二隻。
最初の一発を皮切りに、二度、三度と立て続けに海面に爆音と衝撃が走る。
内心で舌打ちした雪風は、自分を中心にした広域の通信で呼びかけた。
『装甲の厚い羽黒さんを後衛に! 無秩序に転進したら唯のマトです。夕立を先頭にして単縦陣、島風は二番に入ってください!』
『此方夕立。船速は二十八ノットが限界っぽい』
『此方島風。陣形は了解。夕立、少し後ろから押してやるからもう少し頑張って』
『うーん……三十一まで上げてみる?』
『お願いします。とりあえず重巡は振り切れなくても、三十ノットを維持出来れば戦艦からは逃げられます。羽黒さん、堪えてくださいっ』
『了解です。皆さんの背中は、私が守ります』
一列になった事で敵から直接狙いやすいのは羽黒だけになる。
当然砲火も集中するが、来ると分かっている砲撃である。
羽黒は的確な着弾予想と位置取りで回避を続け、後衛を維持し続けた。
しかし時間の経過と火線の集中は比例していく。
深海棲艦も、徐々に羽黒の回避行動に慣れていった。
一時20000㍍を切りかけた敵戦艦との距離を何とか25000㍍まで広げたとき、ついに敵重巡洋艦の砲撃が羽黒を小破に追い詰めた。
『羽黒さん!?』
『まだ、まだ大丈夫です』
『むぅ……』
現状はまだ、雪風の経験の中では最悪からは程遠い。
しかし好転する手を打てないままに時間が過ぎれば、事態は悪化の一途を辿るだろう。
雪風は想定していた最悪のケースより、一つだけ現状で有利な要素を思い出す。
それは敵の重巡洋艦の速度が、想定していた三十五ノットより遅いことだ。
先ほどから酸素魚雷と10㌢砲で駆逐艦と軽巡からなる先頭集団を潰しながらの撤退戦だが、その間で思ったほど重巡とこちらの距離が詰まっていない。
無論少しずつは追いつかれているのだが、このまま何とか敵戦艦から30000㍍離れるまで重巡に取り付かれなければ、逃げ切れる公算が高いのだ。
『島風ぇ!』
『う?』
『進行方向から見て右方向に展開して、一翼を形成してください!』
『了解。位置は?』
『三番の私と四番の羽黒さんを基点に、正三角形になる等距離で。それで羽黒さんに集中する火線を分散させます。死ぬ気で避けて下さいね!』
『了解。そういうの、十八番だわ』
輸送船を押していた島風が抜けたことで、艦隊の速度が二十八ノットまで低下する。
雪風が代わりに押せればいいのだが、撤退戦の指揮を続ける以上此処から離れられない。
此処までの戦闘だが、相手の戦艦の攻撃性能は高いとは感じない。
最早25000㍍を超える遠距離とはいえ、今だ一発も砲撃を的中させていないのだ。
問題は回避力であり、おかしなソナーでも積んでいるのかと思うほどに魚雷が全く当たらない。
この時雪風、羽黒は手持ちの魚雷を使いきっており、代償として敵軽巡と駆逐艦は航行不能に陥っていた。
追いかけてくるのは戦艦一隻と重巡洋艦三隻のみ。
『各員、損害を報告してください』
『こちら駆逐艦夕立、損失なしっぽい』
『此方重巡洋艦羽黒。主砲三基損傷』
『……こちら駆逐艦島風、連装砲ちゃんが二基小破』
雪風の位置で見ていると分かるのだが、右翼を作った島風には敵の攻撃が羽黒より多く降り注いでいる。
敵からすれば、最後の決戦戦力に見えるのだろう。
この艦を落とせば、最早反撃の戦力はない。
それは全くの正解であったから、この短時間で島風の攻撃能力を多少でも削られたことは痛かった。
報告してきた時の島風の声も、その事を悔しそうに滲ませていた。
どこまで行っても、駆逐艦は駆逐艦。
他の船なら問題にならないようなカス当たりでも、深刻な被害になるのである。
むしろ戦艦に率いられた重、軽巡と駆逐艦部隊に追撃を受け、なお誰も沈んでいないだけでも十分に奮戦していると言えたろう。
じりじりと敵重巡から包囲網を絞られ、しかし逆に戦艦を引き離しながらの逃避行。
距離と時間の天秤は危ういバランスで傾き続け、しかし雪風達はギリギリの所で幸運の女神のキスを勝ち取った。
重巡洋艦三隻が包囲網を完成させた時、雪風達は戦艦との距離を32000㍍まで稼ぎ出したのだ。
『夕立はそのまま撤退してください! 雪風、島風、羽黒さんは、このまま迎撃戦に入ります』
『うー!』
『了解しました』
『……』
最悪三隻沈むかもしれないが、このまま夕立さえ逃がせれば雪風達の勝ちである。
夕立が不満そうにしていたのが気になるが、とりあえず真っ直ぐ逃げてくれているのでよしとする。
島風、雪風、羽黒の三隻は申し合わせたように夕立に一番近い敵重巡に集中砲火を浴びせ、中破状態に追い込んだ。
コレで夕立に追いつくには、自分達三人を倒していかなければならない。
しかし返礼も苛烈を極め、8inch砲の至近弾を回避しきれず雪風、羽黒が中破。
島風本体は辛うじて小破で被害を食い止めたが、連装砲ちゃんは三基とも大破するという甚大な被害を受けてしまう。
続く雷撃戦では敵重巡部隊の魚雷を全員が回避し、島風の放った魚雷が最初に中破させた一隻を轟沈に追い込んだ。
被害は大きい。
だがもっと深刻なのは弾数であり、撤退戦で消耗していた分が災いし、雪風達の攻撃手段はつき掛けていた。
「此処までですね、離脱します」
「うー」
「はい」
砲撃戦が出来る距離から逃げ切るのは難しい。
全員で戻ることが出来るかは分からない。
しかし雪風はあくまでなんでもない様にそういうと、再び発砲された8inch砲をかいくぐる。
島風、羽黒もそれぞれの方向に離脱を開始し、敵重巡との距離を開けつつあった。
その瞬間、雪風の背中に冷たい汗が浮かび上がる。
知性や理性よりも感性が仕事をして雪風に濃密な轟沈のイメージが浮かび上がる。
「……」
死ぬ。
殺される。
沈む。
目の前の重巡の攻撃か?
違う。
奴らにこんな殺気は出せない。
圧倒的に有利な状態で目の前に居る敵を見ても、尚雪風はそう思う。
この殺意の出所は……遠い……?
「止まってください!」
「え?」
「はいっ!?」
戦域に響く雪風の声に、思わず従った僚艦たち。
撤退を開始し、それが成功しつつあるこのタイミングで止まれというのは死ねというのに等しかった。
だけど雪風はまだマシだと思うのだ。
今自分が感じている殺気に比べれば、目の前の8inch砲の真正面で踊っていた方が安全だと断言出来る。
そんな事を考えながらなんとなく、夕立が去った方角を見る。
それ程遠くには行っていない。
まだ小さく姿が見える。
夕日を背に肩越しに振り向いていた。
その瞳が真紅に煌いていた気がする。
夕日のせいか?
確認する暇は貰えなかった。
次の瞬間雪風達の真横、ギリギリの位置を酸素魚雷が複数駆け抜け、二隻の重巡洋艦を大破、轟沈させていた。
「……え?」
誰が何をしたのか正確に理解したものは、三隻の中には居ない。
しかし歴戦の武勲艦達はこの好機を逃さず今度こそ本当に逃げ去り、半死半生で先行する夕立を追いかけるのだった。
§
鎮守府に帰港した雪風達は、あらゆる兵装を放り出してドックに向かう。
本来なら報告に向かいたいところだが、貴重な戦力である艦娘は、損傷が激しい場合は何よりも先ず入渠することが許されている。
どちらかというと入居中に提督が報告を聞きにくるのが一般的な光景であることのほうが多いのだ。
提督が男性の場合は、此処で大きな一悶着があるのは言うまでもない。
「あうぅー。死ぬかと思いました」
「何よ雪? もうへたばったの?」
「疲れもしますよ……指揮とか久しぶりなんですから」
「お、お疲れ様です」
損傷を受けた三隻が、修復培養液たっぷりのドックに浸かっている。
これに浸かっているだけで傷が癒えるという代物で、亡国の技術者が自国のアニメに影響されて作り出したモノである。
因みにその科学者は、本当は傷を癒すたびに強くなるという機能も作り出したかったようだが、志半ばで倒れていた。
「まぁ、皆無事でよかったっぽい?」
そう言ってドックの外で固形燃料を齧っているのは、唯一無傷だった夕立である。
雪風はぼんやりとその瞳を覗き込むが、いつもの翡翠の色だった。
「気のせい……かなぁ」
「雪ちゃんどうかしたー?」
「いいえ、夕立。最後の援護は助かりましたー」
「いいのいいの。あいつら、荷物抱えてるってだけで一番弾数残ってるあたしを無視しちゃってたっぽいから、隙だらけだったんだよねー」
「そういえばそうでした……雪風自身其処に気がつきませんでしたよぉ」
「私も先ず夕立は逃がすって頭しかなかったわ……」
そうしてしばらく浸かっていると、来訪を告げるベルが鳴る。
誰かは分かっていたが、念のために振り向いて確認する雪風。
「あ、しれぇとホテルさ……大和さんじゃないですかぁ」
「雪風!? 今ホテルといいました? 言いましたよね言ったわよね絶対言った!」
「そんな訳ないじゃないですかー。雪風は大和さんの事を本当に尊敬してるんですよー」
「そ、そうですか? 例えばその……何処を……」
「その『格好いい主砲』とか、『実はレアな水上観測機』とか、『高性能な副砲』とかぁ……あれ? そういえば見当たりませんねぇ」
「あうぅうううううううう」
崩れ落ちる大和。
その背中を夕立が擦り、慰めの言葉を掛けている。
駆逐艦に同情される戦艦というのも情けないものがあるが、開発初日で改修素材に回されかけた大和の心はボロボロだった。
「お帰りなさい雪風。随分とその……厳しい役目を申し付けてしまったようですね」
「そんな事はありません、しれぇ! 内容自体は普通の補給任務でした。しかしもう少し改善出来ると楽になるかなぁと思う部分も見えてきました」
「ふむ、教えてください」
「今回補給物資の搬入から撤退までの間、こちらの頭ががら空きだったのです。深海棲艦も空母を出してこなかったので生きて戻って来れましたが、出来れば空母が欲しいです」
「なるほど。今回の成果によっては、優先的に建造資材を回しましょう」
「燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイトがそれぞれ2400.1600.2400.2000程の収穫になります」
「予定の八割程の収穫ですか」
「作戦を完璧に成功させることが出来なかった事を、お詫びするしだいです」
「とんでもない。貴女達の修理や補給にかかる鋼材を差し引いたとしても十分な黒字です。お疲れ様でした」
「はい。ありがとうございます、しれぇ」
口頭での報告が済み、叱責がなかったことに安堵する雪風。
しかし後で詳細を業務日誌にまとめる事を要求されると、涙目になって崩れ落ちた。
「そういうのはもう大和さんがやってくださいよ、秘書なんですから」
「何を言っているの雪風。行った艦隊の旗艦が報告書を上げないで如何するのよ」
「その通りですけどぉ……」
「所で、皆さん何かお勧めの空母ってありません? 私そういうの詳しくなくて……」
上司の発言に、艦娘達はお互いを見合って相談する。
この鎮守府に迎える初の空母。
それぞれに思い入れのある仲間と組みたいと思うのは無理からぬ事だろう。
「此処はやはり、最大保有艦載機数を誇る加賀さんをお迎えするべきかと」
「馬鹿言っちゃ行けませんよ大和さん。正規空母を養う当てが何処にあるんですか? 此処はお財布に優しいみんなのお母さん、鳳翔さんに決まりです」
「雪風も寝言言うの止めなさいよ。今だって速度差で私が割り食ってるのに、さらに低速空母入れたら足並み揃わないじゃない。瑞鶴、翔鶴の足に期待したいわ」
「水上機母艦がいいっぽい?」
「夕立ちゃん渋いです……」
「羽黒さんは、何かご希望ってないんですかー?」
「あ……それじゃあ、大鳳さんで」
「「「「装甲空母!?」」」」
活発な議論を聞きながら、しかし口は挟まずに図鑑のページをせわしなく捲る提督さん。
艦娘達が艦名を挙げるとほぼ同時にページに付箋を貼っていく。
一通り出揃ったところで一同を見たが、誰もこちらを見ていなかった。
格好を付けてみただけに少し寂しい思いもしたが、とりあえず目的は達したので我慢した。
「非常に参考になりました。ありがとうございます」
「しれぇ……まとまりませんでした……」
「構いませんよ。どうせあの資材泥棒共のご機嫌しだいなんですから。寧ろどの娘が来てくれても、誰かの需要は満たせそうではありませんか」
「そう考えればお徳ですねー」
にっこりと笑う雪風の頭を反射的に撫でる提督。
二つ三つぽんぽんとやったところで、工廠に向かうと踵を返す。
大和もそれに続いていった。
去り際に扉の前で、ゆっくり休んでくださいねと告げると、提督はそのまま去っていった。
――雪風の業務日誌
ぶっしをあつめにいきました。
なんとまちぶせをうけました。
てきがいっぱいおいかけてきました。
みんなでぎょらいをまいてにげました。
とってもとってもこわかったです。
でもゆうだちがいちばんこわいとおもいました。
――提督評価
お疲れ様でした。
皆さんの様子から、きっと激しい撤退戦を繰り広げていたのでしょうね。
もう少しその様子を詳しく書いてくださると助かります。
貴女達の実績を、この業務日誌を忠実に再現して私が上に提出する報告書を作成すると、
フィクション小説にならざるを得ない現状があります。
夕立さんとは喧嘩でもしてしまったのでしょうか?
貴女のことですから深刻な心配はしていませんが、長引くようでしたら相談してくださいね。
少し書き溜めてから出そうかなともおもったのですが、妄想は熱い内が一番美味しいので投稿させていただきました。
後今日、ついにうちに加賀さんが実装されましたので、何かしらの行動でお祝いしたかったという作者の事情もありますw。
因みにこのSSは思い切り不定期更新です。
妄想ははかどれど、書き起こす作業中に力尽きることが多いのでどんどんペースは落ちていくと思われます><