GB 作:ねるねるねるね
電車から降りた俺の頬を潮風が撫でた。燦々と照りつける太陽が鬱陶しい。風に暴れる白い髪を掻き上げて、ずれたツーブリッジのサングラスを指で直した。俺は徐にスマートフォンを取り出して電話を掛ける。
「もしもし。ご無沙汰しています。北原です」
「しっかし武蔵もでかくなったなぁ!伊織は早速楽しんでるぞ!」
「兄貴と俺の迎え、連日申し訳ないす。兄貴迷惑かけてないすか?」
「いやいや!大丈夫だよ」
中学の卒業と同時に海外の高校に進学することを決めた俺は今まで四年間を海外で過ごしていたが費用的に日本に戻ることになり、日本の大学に進学することになった。日本の大学には特に興味も無く進路に迷っていた時一浪中の双子の兄の伊織に一緒に伊豆の大学に行くことを誘われて、二人で受かって進学することになった。そして今日から叔父さんの家で過ごすことになり、海外から直接向かった俺は兄の一日後に伊豆に着いた。
「武蔵は色男になったな!」
「いやいやそんなことないっすよ」
「これからは家族みたいなもんだから敬語はよせ」
「Okay」
「がはは!敬語じゃなくて英語ってか!」
「ははは」
他愛もない話をしているうちに車は止まった。
「ここが家だ。どうだ?ダイビングショップをしているんだ。いいもんだろ」
「いいねー」
「荷物は入った所にでも適当に置いとけー。大学まで送ってくぞ」
ダイビングショップ「Grand Blue」。ここが新しい俺の家か。荷物を置くために扉を開けると美人の店員に挨拶をされた。
「いらっしゃっいませー、、って武蔵くん!」
「あっ!奈々華さんすか?ご無沙汰っす」
サングラスをとって挨拶した。彼女はいとこの奈々華さんだ。昔から可愛かったがここまで美人になるとは思わなかった。
「荷物置かしてもらっていいすか?」
「いいよー。そこら辺に置いといてー」
「オーケー」
「これから大学?伊織くんと千紗ちゃんはもう行ったよ」
「千紗っすか!懐かしいなぁ」
「うんうん」
「じゃあ行って来るっす」
奈々華に見送られて、叔父さんに送られて俺は大学へと行った。そして兄がいるだろう機械工学科の教室へ行き、扉を開けた。まだガイダンスは始まっていないようで一安心しながら講堂の中を見回して兄の存在を探すが、見当たったのは兄によく似た露出狂の変態だけだ。
おかしい。もう一度見回すが変態しか見当たらない。そうこうしているうちに綺麗な女性が俺に手を振っていることに気がついた。
「武蔵ー久しぶり。千紗。覚えてない?」
「覚えてるよ。千紗。久しぶりだね。ねぇ兄貴知らない?」
「伊織はあれ」
千紗がいかにも嫌そうな顔で指す先には露出狂がいた。流石にきつい冗談だ。
「いやいや冗談きついって」
「冗談じゃないよ」
彼は俺と千紗が話す声が聞こえたのかこっちをみた。そして絶妙にキモい笑顔を浮かべたその顔は見慣れた兄の顔だった。
「Oh shit..」
ガイダンスが終わり、俺と千紗は兄貴より一足先に講堂を出た。
「あんなのほっといて行こ」
「そうだね」
苦笑いをしながら歩く。その時、兄貴の声が後ろから聞こえた。
「千紗ー!武蔵ー!お前らはサークル見学に行かないのかー?」
「兄貴。その格好どうしたよ?俺が日本出てる間に目覚めちゃったの?」
「とにかくその格好で話しかけないで!」
二人に言われて兄貴は自分の身体を一瞥した。
「確かにな。帰って服を着たいが帰り道が分からない。武蔵!服を貸してくれ!それか道を教えてくれ」
「悪いけど俺今日ワイシャツ一枚。これ脱いだら半袖の下着だけど日焼け止め塗ってないから無理だし道も知らないね」
「じゃあ千紗。服をくれ」
「半裸の男が服を脱げと迫っていて、、」
通りかかった大学職員に千紗が助けを求めると兄貴は逃げ出した。
「何やってんだか」
「行こ」
外へ出るとサークルの勧誘の声で賑わっていた。
「武蔵はサークル決めた?」
「まだかなぁ」
「向こうでは部活とかやってたの?」
「まぁ色々やってたよ。バスケとかテニスとか。千紗は?サークル決めた?」
「私はダイビング」
「ダイビングサークルなんてあるんだぁ」
「うん。ほら、あれ」
千紗が指差す方向を見るとそこには二人のムキムキの男と奈々華さんが立っていた。そして奈々華さんが俺達に気付いた。
「千紗ちゃん!武蔵くんと会えたみたいね!武蔵くんは伊織くんと会えた?」
「最悪の再開でしたっすけどね」
「奈々華さんこれは?」
「ああ、伊織くんの双子の弟の武蔵くん。新入生よ」
「新入生、、、」
何故だか彼等の目つきが変わった気がする。
「新入生ゲットォォ!!」
俺は茂みで息を殺して先輩が立ち去るのを待つ。すると兄貴の姿が見えた。兄貴は俺を見て手招きをしている。
「武蔵!?こんなとこでどうした?」
「ダイビングサークルのマッチョに追われてる!」
「お前何やったんだ?」
「俺が聞きてぇ!」
「取り敢えずそっちに行けば逃げれる!」
「サンキュー兄貴」
俺が茂みから出てこっそりと歩きだした時突然背後から何者かに掴まれた。
「みぃつけたぁぁ!!武蔵くぅん!!」
「かくれんぼはおしまいだぁ!」
「「ヴェルカァァァム」」
「Holy shit!!!!!!」
筋肉と不快感が俺を締め上げ、悲鳴が響いた。
悲鳴を上げたあとのことは覚えていなかった。気づけば筋肉先輩達に囲まれていた。
「なぁお前も被害者か?」
伊織への殺意を抱きながらなんとか抜け出して帰る方法を考えている時、金髪の美形の青年が声を掛けてきた。デカデカとアニメのキャラクターがプリントされたTシャツが彼の美形をぶち壊していて、俺は若干引きながら返事をした。
「俺は今村耕平だ。北原に騙されたやつが他にもいたとは」
「俺は北原武蔵、伊織の双子の弟だ。よろしくな、コーヘー。兄貴がごめんね」
耕平と仲良くなって俺はこの集団を抜け出た。すると少し離れた所にもう一つテーブルがあり、千紗が飲んでいた。
「千紗か。良かった」
「武蔵はダイビングサークル入るの?」
「ダイビング自体に興味はあるしすごーくやってみたいけど出来ねーよ」
「なんで?」
「だって、アルビノじゃん?」
「お前らは兄弟そろって似ているな」
千紗と話しているとどこからともなく筋肉先輩が出てきた。
「改めて、俺は機械工学科の三年の寿竜次郎だ。よろしくな」
「どこが似ているんすか?」
「出来る出来ないでやることを決めている所だぞ。大事なのは出来る出来ないじゃなくてやりたいかやりたくないかだ。お前がやりたいと思うならやればいい。問題点を考えるのは後でいいさ」
この人にこんなことを言われるなんておもってなかった。生まれつき出来ないことが多くて、やりたいことの大半が出来なかった俺は出来ることだけを選んで生きてきた。周りの大人もそれを望んだ。だから俺はこんなことを言われて戸惑っていた。
「武蔵って昔っからなんていうか、ずっと浮かない顔してるよね。でもさ私達が海で魚捕まえた話とか、遊んだ話するとほんっとに喜んで、羨ましがって、決まっていいなー、俺にも出来たらなー。って言っててさ。今の武蔵も昔みたいに嬉しそうで羨ましそうな顔してる。どう?ダイビング。ウェットスーツは全身覆うから肌出さないし、マスクは紫外線カット出来るのもあるし」
そうだ。何も出来ない俺は話を聞くのが好きで、自分に置き換えて想像して楽しむのが好きだった。だけど今回は俺が体験出来る。置き換えるんじゃなくて俺自体が体験出来る。
「やりたいな。ダイビング」
「じゃあやろ」
こうして俺はダイビングサークルに入ることになったのだった。
「それはそうと武蔵くぅーん」
「乾杯をしなきゃダメじゃぁないかぁ!」
冷や汗が流れる。再び筋肉が俺を締め上げる。
「こうなったら自棄だ。コーヘー!兄貴を酔いつぶすぞ!」
「ああ!」
騒ぐ俺達を千紗は極めて微かな笑みを浮かべて見つめる。
「バーカ」
そう呟いた。