GB 作:ねるねるねるね
カモメの鳴き声が聞こえ、開けた窓からは涼しい風が入り込んで、なんとも気持ちの良い朝だ。扉を叩く音と叫び声さえしなければ。
「武蔵くーん!?」
「今月の支払いまだっすかー?」
何故に借金取り。この声は時田先輩に寿先輩。この二人に取り立てられるなんて地獄でしかない。淵の厚いボストンメガネをかけて直ぐに扉を開けた。
「なんなんすか!?」
「お、出てきたか」
「逆にお前は今何時だと思ってるんだ」
俺は部屋の時計を見た。時刻は12:00直前。
「11:55分頃すかね」
「大学生は8:00には起きとくもんだ」
「きついっすね」
大きな欠伸をしてぐしゃぐしゃに乱れた髪をゴムで纏める。
軽くシャワーを浴びてリビングに出ると既にみんな昼食を食べていた。
「あ、武蔵。おはよう」
「おはよう千紗。みなさんもおはようっす」
「おはよう武蔵くん。それにしても武蔵くんはロングスリーパーね」
「休みの日は大体昼まで寝ちゃうっすね」
「中学の時からそうだよな」
昨日、大学に置き去りにしてきた伊織だが戻ってきていたらしい。食卓の兄貴の隣の空いた席に座って朝食もとい昼食を食べ始める。
「それにしてもなぁ飲み会まで空いちまったなぁ」
何故か残念そうな顔をしている先輩達。予定でも潰れたのだろうか。
「そうだなぁ」
そして二人の顔が俺と兄貴のいる方向へ向く。
「お前ら、夜までどうする?」
「何故そこで俺らに振るんですか」
「じゃあ別の用事があるのか?」
「今日は飲み会に参加しないって決めたんです」
確かに兄貴はこっちに来てからずっと外泊続きでそろそろ奈々華さんあたりに注意される頃だろう。先輩達も身を引くだろうと見ていると時田先輩が兄貴の首元を掴んだ。
「お前はなんのサークルに入ったつもりだ!」
えぇー。ダイビングじゃないのかよ。
「えぇー!?ダイビングじゃないの??」
その時、奈々華さんが口を挟んだ。
「伊織くん!もううちに来て三日目だけど知ってる?」
「えっと何をですか?」
「自分の部屋」
兄貴が白目を剥いている。
「兄貴、やっちまったな」
「大学生になって浮かれるのは分かるけど三日連続夜遊びなんてダメ」
「確かにそうですね。奈々華さんの言う通りです!と言うことで今晩は不参加です!」
明らかなドヤ顔で兄貴は先輩にそう言った。
「ま、仕方ない。武蔵は当然行くよな?」
「俺は予定もないしいいっすよ」
「よし。しかし伊織は不参加かー」
「いや〜ほんとすいませんね〜」
気持ちなんて微塵もこもっていない謝罪の言葉だ。
「ま、武蔵も行くんだし人数は足りるだろうさ。今日の飲み会は青海女子大との交流会だけどな」
兄貴の顔がまた白目を剥いている。
「兄貴。いや〜ほんとすいませんね〜」
「くそ!!弟にあおられる日が来るとは!」
俺は兄貴を煽った後、食卓を離れた。そして部屋着から着替えて、今日の夜の為に少しお洒落をして再びリビングに行くとそこには全裸になって奈々華さんに土下座をする兄貴がいた。
「ここまでしても許してもらえませんか!!」
「どうしたよ兄貴」
「おい伊織、何があった」
俺と先輩が訪ねると伊織は言った。
「俺思い出しました!自分がなんのサークルに入ったのかを!」
「いやダイビングじゃん」
「ダイビングだろ」
「いいえ!そんなものに入った覚えはありません!」
「素晴らしい掌返しだな」
「手首がねじ切れんばかりだ」
「もはや兄だと思いたくねぇ」
「お願いします!奈々華さん」
「えっと、取り敢えず顔上げて服を着て」
カオスだ。裸の土下座と慌てる奈々華さんとそれを囲む俺達と冷ややかな目で兄貴を見る千紗と。しかし何故に服を脱いだ。
「大体、どうして服脱ぐのよ」
千紗と疑問点が被った。
「表裏のない誠意を示す為です!!」
「遊びたいのはわかるけど、、」
「ですが大将!」
「駄目です!!」
「そこをなんとか!」
「駄目なものは駄目!」
「どうしたら許可が下りるんだ」
場所を移して段ボールだらけの兄貴の部屋に俺達は集まっていた。
「あそこまで言われたら諦めな」
「いやだ!俺は諦めないぞ!」
「一体何がお前をそこまで突き動かしているんだ?」
「恥ずかしながら性欲です」
「本当に恥ずかしいな」
「そんなことよりどうやって奈々華さんを説得するかです!」
俺達は部屋を見回した。段ボールだらけでまだ荷ほどきすらされていない。
「お、取り敢えず荷ほどきをすませる」
「けどそれだけじゃ、、」
「不足か?」
「ならお前が自立した一人の男であると示せる部屋を作れば良い」
「んなこと言われても、、、」
俺と先輩達は顔を見合わせて悪い笑みを浮かべた。
「仕方がない!」
「可愛い後輩の為に人肌脱ぐとするか!」
「兄貴が一人の男だと分かるような部屋作りをしてあげよう」
取り敢えず兄貴を外に出した俺らは部屋の中で話していた。
「武蔵、お前AV持っているか?」
「うす」
俺は自分の部屋の引き出しの一番下を抜いた。中にはびっしりと入ったAVの数々。
「お前みたいな色男でも見るもんは見るんだな」
「逆に見てないほうがきもいっすよ。俺のは海外の友達に貰ってこっそり持って帰ってきたやつだから無修正っすよ」
「ほう。今度貸してくれないか?」
「あはは」
そんな会話をしながらAVを並べていく。そして並べ終わり、兄貴を呼んだ。自信満々で部屋を開けた先に広がるAVの数々。固まる兄貴と奈々華さん。俺は笑い声をなんとか堪えた。奈々華さんが早足で立ち去った後、俺達は隠れていた所から出てきた。
「兄貴、いい部屋だろ?」
「どうだった?伊織?」
「バッチリだろー?」
「このド畜生共がぁ!!」
そして腹を抱えながら部屋を出て、隣にある自分の部屋に入った。そして数分後、俺の部屋の扉が勢いよく開いた。
「わぁって千紗じゃん。どしたよ?」
「伊織が、なんか、そういうビデオを見てた」
「あぁー。まだ続いてたんだ」
顔を真っ赤にした千紗が椅子に座る。
「本当に伊織も武蔵も変わったね」
「それを言うなら千紗も奈々華さんもっしょ」
「なんか武蔵がお姉ちゃんにさん付けしてるの面白いね」
「確かにね」
10年ぶりなら嫌でも変わってる。性格も外見も。
「武蔵は昔はすごい大人しかったよね」
「そうだっけ」
「うん。そうそう。穏やかなのは今も変わっていないみたいだけど」
「千紗はもう少し賑やかだったな」
「そうかな?外見は伊織が男子っぽくなって武蔵が女子っぽくなった」
「ん?どう言うことさ?髪が長いから?」
「まぁそれもありそう。伊織は男前って感じで武蔵は色男って感じ」
「違いが分からね、、、」
「どっちも良さがあるってこと」
「なら良いかな」
どうでもいいような話を繰り返していると隣から絶叫が聞こえた。
「またバカやってる」
「だな」
「まぁ楽しそうな大学生活になりそうだな」
「そうなるといいね」