勝手にド葛本社   作:めーけろー

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「今日も今日とて残業か…」
 薄暗い会社のオフィスの中、1人パソコンのキーボードを叩く音が響いている。
退社時間はとっくに過ぎている。
私の名は『社築』(やしろきずく)
とある企業に勤めているサラリーマンだ。最近は会社が新しい事業を始めたせいで、残業が続いている。正直言って仕事を辞めたいほどキツいが、そうはいかない。娘のためにも仕事を辞めるわけにはいかないのだ。何より、常に家事を任せっきりだから何か恩返しのためにもこれ以上迷惑や面倒をかけさせたくないものだからな。



第一話「出会いは突然に」(社編)

社「もうこんな時間か…。」

 

 気づけば時計が0:00を過ぎ、1:00になりかけていた。私は電車通勤でもないためいくらでも残業ができるのだが、そんな事はしようとも思わない。家は近いわけでもないが電車を使うほどでもない。毎日歩きで帰っている。

 会社に残っているのは私1人だけなので、おおまかな見回りや戸締りを確認して、後は警備室にカギを置いて帰るのが流れだ。

 

社「ふぅ、この季節のこの時間は冷えるな…。」

 

  気づけば秋も過ぎ冬が訪れかけていた。風も冷たく、防寒着が欲しくなってくる。家までは1時間ちょっとで着くが、今日は帰り道のコンビニに寄りたい気分だ。あったかいコーヒーが飲みたいのだ。時折、冷たい風が頬や耳に当たって震える。私が冬が好きじゃない理由はこれだ。帰ったら娘が作っておいてくれた晩ご飯がある。あまり寄り道をして帰りたくはないが、今日は寒いから耐えられん。そんなことを思っているうちに最寄のコンビニへ着いた。

 

社「はやくコーヒーを買って帰ろう。腹も減ってきた。」

 

 私は温かいコーヒーが置いてある棚の隣にある美味しそうな弁当を横目にレジへ向かう。

ふと耳に店内放送されていたラジオが入ってきた。これからの天気や現在の気温などを話していた。ラジオによれば、現在気温は2°らしい。どおりで寒いわけだ。

 会計を済ませ、店の外に出る。車も少なくなり、暗く静まった町が妙に心地よい。私は缶コーヒーを一口飲んだ。

 

社「……はぁ、染みるわ。やっぱし寒い日のコーヒーは最高だな!」

 

 私はコーヒーを一口飲んだだけなのに寒く感じて来なくなってきた。体がどれだけ冷え切っていたのだろうか。しかし、そのホットな気持ちはだんだんとおかしいと感じ始めてきた。体の芯が暖かいのではなく体の外、主に頭上が特にあったかいのだ。私が飲んでいる缶コーヒーにこんな効力はない。何かがおかしい。そう感じてきた時、妙に暖かいと思っていた頭上から声がした。

 

?「それはそんなに良いものなのか、人間?」

 

 周りには誰もいないので私に話しかけている、一瞬でそう判断した。しかし、なぜ上から声がするのか、私はそんな疑問を抱きながら恐る恐る上を見上げた。

 そこにいたのは真っ赤な髪と目をした女性だった。しかし、どことなくおかしな部分がある。まず服装。マグマのようなウロコのようなゴロゴロした見た目の服。この時期には絶対寒いであろう格好だ。次に頭になにか2つ付いているのだ。ツノのような突起物が。容姿を観察していると、その女性からまた話しかけられた。

 

?「どうした、何かおかしいか?見た目は人間と同じだろう。」

 

私は理解するには何か話さなければ、と思った。

 

社「あ、あの、なんでコンビニの屋根の上にいるんですか?」

 

 とっさに出たのは簡単な問いだった。他にも聞きたいことはあった。が、頭が回っていなかった。不思議そうにこちらをずっと見ていた女性が動いた。

 

?「よっと、人間は屋根の上には乗らないのか。」

 

 軽々と身を操り2〜3m上から降りてきた。降りてきた彼女をもう一度見ると、とても魅力的な容姿をしていた。私はただ見惚れることしかできず、そこに立っていた。

 そして不思議そうにこちらを見ている女性は、気まずくなったのか色々話し始めた。

 

?「なぁ人間。お前さんにここを案内してもらいたいのじゃが、どうだ。わしもここにきたばかりで行くところもなければ、住む場所も友人もいないのじゃ。そこで近くにあったこの明るいところにおったのじゃ。」

 

 女性は普通の人間とは違うような、人間らしからぬことを聞いてくる。より一層、不信感を得た。とはいえ、会話を続けるためにこちらも色々聞く。

 

社「とりあえず、名前を聞きたい。私は社築だ。」

 

 自分の素性を明かせば、おのずと話してくれるだろう。

 

?「そうじゃな、申し遅れた。わしの名前は『ドーラ』じゃ。」

 

 紅い眼で私を見つめ、抑揚のある声だった。

 

社「ドーラ…日本人じゃない、のか。もしかして外国人とかかな?」

 

ド「外国といえば外国なのじゃが…まぁそれでも良いか。」

 

 ドーラは社が思った通り、相手が話しやすいことを話題として話せば自然と会話が始まった。しかし、このドーラという人に対し不信感しかない。ここはいっそさりげなく帰ろう。

 

社「そ、そうなんですね…!あっちょっともうこんな時間なので私帰りますね!時間も遅いので気をつけてください!それでは…‼︎」

 

ド「うん?あ、ちょっと待て!にんげ…社築‼︎」

 

 私は猛ダッシュで家に向かった。わざわざ遠回りをしたためか、思ったより疲れた。歳を取るのがこんなところにも影響してくるとは思ってなかった。

 

社「はぁはぁ…結局誰だったんだろう?ドーラとか言ってたが。まぁ彼女もどうにかやって行くだろう。」

 

 変な事があったせいで時間は3:00を過ぎていた。娘は完全に寝ているだろう。今日はいつもより疲れた。あの女性が気にかかるが、今日はもう寝よう。私は家の鍵をカバンから取り出し、鍵を開けた。

 

ガチャ…

 

ド「1番重要なことをわすれておったわ!社築‼︎」

 

 私は思わず言葉を失った。まさかいるとは思いもしなかったからだ。

 

社「えぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎‼︎い、いやなんで家の中にいるんですか⁉︎まさか泥棒だったりして…。」

 

ド「待て、違う!お前さんの娘に入れてもらったのじゃ‼︎」

 

 ん?てことは『ひまわり』が入れたのか⁉︎

 

ひ「あ!パパお帰りなさ〜い!!!」

 

 深夜というのにいつもと変わらない無邪気な声と笑顔で私を迎えてくれた彼女こそが、私の一人娘のひまわりだ。

 

ひ「このドーラっていう人がパパのお友達って言ってたからお家で待たせてたの!」

 

 あぁ、この無邪気な声で言われたら許してしまいそうになる。だが今回はダメだ。

 

社「…ひまわり、よく聞きなさい。今回は何も害はないけど、もしこれが泥棒とか悪い人だったらどうする?今度からはちゃんと…」

 

 私は少しだけ注意のつもりで話していたのだが、ひまわりの顔を見てみると…。

 

ひ「うぅ、パパぁ〜ごめんなさい〜…。」

 

 今にも泣きそうな顔をしていた。これには私の心が耐えられなかった。

 

社「よ、よしひまわり!分かればいいんだ。次から気をつけてな…!」

 

ひ「うん、ごめんなさい。パパ。」

 

 流石我が子。良い子過ぎて尊い。あぁ、昇天しそう。

 

ド「ところで、わしのことまた忘れてたじゃろ?」

 

社「スゥーーー、いやそんなことないですよ?ちゃんと気付いてました。」

 

 そういえばドーラさんいたんだった。私とひまわりが話している間、何か訴えているような目を私に向けていたような気がする。

 

社「あぁそういえば…では本題を…スゥ」

 

 意識が遠のいて行く。一安心したせいか、ドッと疲れが来てしまった。私はドーラさんの話を聞く前に、深い眠りについてしまった。

____________________________________________

 

 久しぶりにぐっすり寝れた。気づけば自分のベットの上だった。ひまわりが運んでくれたのだろう。まるで二日酔いのように昨日の記憶が曖昧だ。それほど疲れていたのだろうが、今日の目覚めはとても良い。連日の残業の疲れが全てきれいに取れている気がする。私は不思議だなと思いながらベットから起き上がり、いつも通り準備をしようとしてふと時計を見た。寝ぼけてでもいるのだろうか。何回も目をこすっても10:00にしか見えない。今日は土曜日だが普通に仕事がある。ちなみに出勤時間は8:00だ。まぁつまり、大・遅・刻☆

 

社「やっっっっっべぇぇぇ!!!!!!!大遅刻じゃねぇかー!!!!!」

 

 せっかく疲れが取れたのに朝からまた疲れてしまう。これでは意味がない。とにかく今は急がねば!私はいつも通りスーツに着替えて、鞄に荷物を入れ出社する準備をした。あとは顔を洗って、歯を磨いて会社に行くだけだ。あぁ、嫌な上司の顔が浮かぶ。この歳で遅刻で怒られるのは嫌だな。

 

社「ふぅ、ところでひまわりとドーラさんはどうしているんだろう?」

 

 まぁいい。今は出社が最優先だ。私は顔を洗いに部屋のドアを開けた。そこには見知らぬ青年がいた。

 

?「……………おはようございます?」

 

社「……………あぁ、おはよう。…いや、誰だお前⁉︎」

 

 頭が回らなくて、普通に会話してしまったが誰なんだ。こんな銀髪の赤い目をした青年なんて見た事がない。だが、なぜここにいるんだ?その先はひまわりの部屋だが…まさか⁉︎

 

?「ッスーーーーー…いや、あの〜えっと、ですねぇ…。」

 

 なにやら言葉に詰まっている。なにか隠してでもいるかのような…。ひまわりの親として、色々聞かなくてはならない。

 

社「君はなんでそこに…」

 

 私が質問しようとした時、自室から慌ててひまわりが出てきた。

 

ひ「ちょっと葛葉くん!ひまの部屋からで出ちゃダメだって…ぁ、パパ…。」

 

 最悪の空気だ。娘とその彼氏らしき男が朝、娘の部屋から出てきたところを偶然見てしまった気分だ。あぁ、今日は会社休もう。私はひまわりとその青年をリビングに来るように言って先に降りた。顔を洗い、気持ちを整え2人を待った。そして降りてきた2人をリビングにあるテーブルに2人を座らせた。まずはひまわりから話を聞こう。

 

社「ひまわり、この青年は誰なんだ?」

 

 ひまわりは少し黙り込んでから話し出した。

 

ひ「え〜とねぇ、話すと長くなるんだけど良い?」

 

 ひまわりは少し真剣な顔をした。私はこれは大事な話なのかと思い心の準備をした。ひまわりのこんな顔は初めて見た。

 

社「構わない。仕事は休んだからな、時間はたくさんある。」

 

ひ「じゃあ…。」

 

 ひまわりが話始めようとした時。

 

ガララッ!

 

ド「人間の『ふとん』というのはこんなにも寝心地がよいのか‼︎」

 

 ドーラさんが目をキラキラさせて、勢い良くリビングのドアを開けてきた。

 

ド「ん、なんじゃ。みんな集まって?」

 




私の平穏な土曜日はどこへ行ったのだろうか。ひまわりと2人だけの静かなこの家は一夜にして、活気あふれるようになった。今日は仕事よりも疲れる気がする。聞くこと、やる事がとても多い。これからの私の生活はどうなるんだか…。
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