勝手にド葛本社   作:めーけろー

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 軽く前回のあらすじを紹介すると、築は仕事帰りに親友のチャイカがやっているバーに寄っていた。そこで築は自分の悩みをチャイカ相談して隠しカメラで様子を確認すれば、と言われ実践する。翌朝、いつもの仕事をこなす2人。葛葉はその後豚の過去を知る。豚は禁術『イムルカ』を暗記していた。昼前になると外は急な雨が降り出した。


勝手にド葛本社 第六話「午後」

 昼休憩の終わりが近づき、カメラを閉じる築。

 

社「今のところ、何もやってないみたいだな。」

 

 築はいまだに罪悪感を抱いていたが、ドーラ達が何かしら悪さをするんじゃないかと疑いの気持ちも抱いていた。

 

ド「わし洗い物するから葛葉殿は戻って良いぞ。運んでくれてありがとう。」

 

葛「うっす。」

 

 葛葉が部屋に戻ろうとした時。

 

ピカッ!ゴロゴロ〜!

 

 大きな雷が起きたと同時に雨が勢いよく降ってきた。

 

ド「なんじゃ噴火か!?」

 

葛「うはぁァァァ!!!!」

 

 ドーラはもともと住んでたところが火山の集合地だったため噴火の際に起こる雷など驚くはずがないが、葛葉はビビリなのでその場にうずくまり情けない声を出していた。

 

ド「まさかこっちでも聞くことになるとは…、で、大丈夫か葛葉殿?」

 

葛「…クゥーン。」

 

 葛葉は静かに頷いていたが、大丈夫ではなかった。

 

ド「そうか。しかし、随分近かったな。」

 

 外を見れば空が黒く、雨が滝のように降っていた。

 

ド「洗濯物中に干しといて正解じゃったな。これはひどいの。」

 

葛「ふ、ふぅ…。」

 

ド「雨がすごいぞ。急に降ってくるんじゃな。」

 

葛「テレビつけてみて下さい。何かニュースやってませんか?」

 

ピッ

 

 すると緊急のニュースがやっていた。

 

ド「異常気象…?」

 

 ニュースによると、この時期の急な大雨は過去にも事例が無かったほどのことであり気象庁も原因が分かっていないという。

 

葛「なんか夏みたいな天気ですよね。」

 

ド「そうなのか?」

 

葛「大体7〜8月くらいってこっちだと夏っていう季節になるんですけど、その頃って急に大雨が降ってきたりするんですよ。」

 

ド「でも今って冬間近なんじゃろ?」

 

葛「はい。だから異常気象なんでしょうね。」

 

ド「おかしな天気ってことか。」

 

豚「(ラグーザ様、ちょっとお部屋に来てもらっていいですか?)」

 

葛「(分かった。)」

 

 葛葉は豚に呼ばれ部屋に向かう。

 

葛「なんだ?」

 

豚「この天気についてです。」

 

葛「ただの異常気象じゃないのか。」

 

豚「はい。これは何らかの魔物が起こしているものだと思います。」

 

葛「…は?」

 

豚「この人間界には魔界から来ている魔物が多くいます。大体は人に見つからないように過ごしていますが、中には見つかって『UMA』なんて言われたものもいます。」

 

葛「あのな〜、そんなことは知ってるけどだからって魔物のせいにするのは違くない?」

 

豚「良いですか?魔物達は人に危害を加えようとするものが多いんです。だから今こうして危害を…。」

 

葛「そんな妄想ごとは一人でやってくれ。」

 

豚「あ、ちょっとラグーザ様!」

 

バタン…

 

豚「あ〜、行っちゃった…。」

 

葛「ったく、くだらねぇ。」

 

ド「あ、葛葉殿!」

 

 リビングへ戻るとドーラに呼ばれた。

 

葛「どうしました?」

 

ド「さっきあれが鳴ったんじゃ。」

 

 ドーラが指さす先にあったのは電話だった。

 

葛「あぁ、出れなかったんですか?」

 

ド「うん。」

 

葛「なんか用があったんならまたかかってきますよ。」

 

プルルルルル…

 

葛「ほら。」

 

ド「出てみてくれ。」

 

ガチャ

 

葛「はい。」

 

 電話に出ると相手は築だった。

 

社「葛葉くんか?良かったそっちは停電とかしてないんだな。」

 

葛「今のところ雷は一回だけですね。」

 

社「洗濯物とかは?」

 

葛「早めに雨雲に気付いて部屋の中で干してます。」

 

社「えっ⁉︎部屋干しできたの…、すごい、ありがとう。」

 

葛「うっす…。」

 

ド「(誰と話しておるんじゃろうか?)」

 

社「それで本題なんだが、ひまわりの迎えに行って欲しいんだ。」

 

葛「え、まだ早くないですか?」

 

社「それが学校が停電してしまって復旧に時間がかかるらしく、雨もひどいから早く帰らせるらしい。」

 

葛「なるほど、もう向かったほうがいいですか?」

 

社「そうだな、ひまわり傘持って行ってないから持っていってくれ。」

 

葛「了解です。」

 

社「ありがとう。頼んだ。」

 

ガチャ

 

ド「誰だった?」

 

葛「社さんでした。」

 

ド「そうか、何の用じゃった?」

 

葛「学校がこの雨で早めに帰すことになったからその迎えを頼まれました。」

 

ド「もう行くのか?」

 

葛「はい。」

 

 葛葉はひまわり用の傘を持って迎えに行った。

 

葛「雨強っ。」

 

 当然ひまわりの学校の場所は知らないため千里眼を使い学校へ飛んで行く。

 

葛「あれか。」

 

 大きめの丘の上にひまわりの姿を見つけた。学校の校門前に降りてひまわりを待つことにした。

 

キーンコーンカーンコーン…

 

 学校のチャイムがなるとゾロゾロと生徒達が出てくる。

 

葛「(ここにいればひまわりさんも気付くだろう。)」

 

 しばらく待っていると何かに気づく。

 

葛「(なんかめっちゃ見られる。何でだ、ここって待つ場所じゃないのか・いやでもそんなこと書いてないしな…。)」

 

 なんて考えているが通り過ぎる生徒達が葛葉の魅力に惹かれていることに気づくことはなかった。

 

葛「…ん?あれひまわりさんか?」

 

 下駄箱のところでバタバタしている二人組を見つける。片方はひまわりでもう片方は笹木だった。

 

葛「あのピンク髪はひまわりさんの友達か。」

 

 葛葉は校門を通り昇降口に向かう。

 

ひ「雨で帰り早くなったのは嬉しいけど、濡れて帰れって言ってるみたいだよね。」

 

笹「ええやん早く帰れるだけでも。」

 

 二人は靴を履きながらどうやって帰るか話していた。

 

葛「(ここにいれば気づくかな。)」

 

 葛葉は会話を邪魔しないように声をかけずにいた。

 

笹「ひまちゃんはどうやって帰るの?うちは濡れて走って帰るつもりだけ…、ど?」

 

 立ち上がって外を見るとそこに見知らぬ青年が傘を持って立っていた。(笹木視点)

 

ひ「それじゃ風邪ひいちゃうよ。下のコンビニで傘買う予定だから咲ちゃんも…。」

 

 顔を上げるとそこに傘を持った葛葉がいた。(ひまわり視点)

 

ひ「葛葉くん⁉︎」

 

笹「知り合い⁉︎」

 

葛「どうも。社さんに迎えを頼まれてきました。」

 

笹「パパ公認⁉︎」

 

ひ「そうなの?わざわざありがとうね。」

 

葛「あ、これひまわりさん用の傘です。」

 

笹「え、ひまちゃんコレいたのか…?」

 

 そう言って小指を立てる笹木。

 

ひ「ち、違うよ!」

 

葛「(何で小指?)」

 

笹「パパに頼まれて迎えにくるのはコレでしょ⁉︎」

 

ひ「違うって!」

 

葛「(コレって何だ?)」

 

笹「見せつけられた…、じゃあとはお二人で。」

 

 そう言ってきていたパンダのパーカーを被り帰ろうとする笹木。

 

葛「待って下さい。」

 

笹「…何すか?」

 

葛「傘、ないんすか?」

 

笹「…ない!」

 

葛「じゃあこれ使って下さい。」

 

 葛葉は使っていた方の傘を笹木に渡す。

 

笹「え。」

 

葛「もう一本あるんで使ってもらって。」

 

笹「…ありがと。良いのひまちゃん。」

 

ひ「良いよ?」

 

笹「ふーん。じゃ相合い傘楽しんでね。バイバーイ。」

 

ひ「なっ!」

 

 そう言って猛スピードで走って行った。

 

葛「なんか元気いっぱいな人ですね。」

 

ひ「う、うん。」

 

葛「俺たちも帰りますか。」

 

ひ「…。」

 

葛「どうしました?」

 

ひ「なんでも、ないよ。」

 

葛「そうですか。」

 

 ひまわり佐々木に言われたことで今起きていることを理解してしまっていた。

 

ひ「(咲ちゃん何であんなこと言うかな…、顔真っ赤で葛葉くんのこと見れないよ。)」

 

 ひまわりにとって相合い傘は異性とは初めてのことであり、とても恥ずかしがっていた。友達とは全然違った感覚だった。

 

葛「(ひまわりさんの方、ちょっと肩濡れてる。この傘小さいのか。)」

 

 葛葉はそっとひまわり側に傘を傾けた。気付けば雨は落ち着いてきていた。

 

ひ「あ、あの!」

 

葛「どうしました?」

 

ひ「商店街で買い物して良い?」

 

葛「了解っす。」

 

 商店街は上に屋根があり、傘を畳んで歩いた。

 

ひ「今日はどうしようか。何かある?」

 

葛「そうですねぇ、寒いんであったかいものが食べたいですね。」

 

?「おやひまちゃん彼氏かい?」

 

 八百屋のおばちゃんが話しかけてきた。

 

ひ「違うよおばちゃん!」

 

八「何恥ずかしがってんの!食べたいの聞いちゃってるくせに!」

 

ひ「それは…、でも違うよ!」

 

八「そうなの?おばちゃんの早とちりだったかしら。あ、お兄さん。寒いんだったらカレーとか良いわよ!」

 

葛「カレー、良いですね。」

 

ひ「そう、じゃカレーしよ!おばちゃんなに安い?」

 

八「任せな!これ、これ、これ。はい、500円!」

 

 人参、ジャガイモ、玉ねぎ、ほうれん草などが入った袋を渡された。

 

ひ「えっ、安すぎない⁉︎」

 

八「良いのよ、ひまちゃんの未来の彼氏見れたんだから。」

 

ひ「だ、だから違うって!」

 

八「毎度!」

 

葛「良かったですね、安くて。」

 

ひ「うぅ、恥ずかしい。」

 

 ほとんど話を聞いてなかったせいで全く恥ずかしくない葛葉だった。

 

ひ「お肉はあるから、帰ろうか。」

 

葛「あ、持ちますよ。」

 

ひ「ん、ありがとう…。」

 

 商店街を出ると雨は少し弱まっていた。

 

葛「変な天気っすね。」

 

ひ「こんな天気初めてかも。」

 

 ひまわりも空を見上げて呟く。そしてまた傘をさし2人肩を並べて帰路に着く。

_________________________________________

 

ひ「ただいま〜!」

 

葛「ただいま。」

 特に会話もなくそのまま家についた2人。するとリビングからドーラが出迎えてくれた。

 

ド「おかえり2人とも。雨どうじゃった?」

 

葛「途中夕飯の買い出しで商店街寄ってるうちに弱くなったんでそんなでもなかったですよ。」

 

ド「そうなのか?」

 

 なぜか不安げな顔をしているドーラ。

 

ひ「どうかしたの?」

 

ド「それが、さっきまた築から電話がきてひまわり殿の学校付近が雨で大変なことになってて心配なんだってきたから、わしも心配じゃったんじゃ。」

 

ひ「えっ⁉︎そんなことなかったよね?」

 

葛「学校から商店街って近かったですけど、そんなことにはなってなかったですよ。」

 

ド「わしも築も2人が無事だから良いけど、どう言うことなんじゃろうか…。」

 

ひ「とりあえずひま、お風呂入ってくるね。雨でちょっと濡れちゃったから。それから夜ご飯の準備しよ!」

 

葛「じゃあこれ運んでおきますね。」

 

 ひまわりは風呂へ、ドーラはリビングに、葛葉は自分の部屋へとそれぞれ向かった。

 

バタン…

 

豚「あ、お帰りなさいラグーザ様。」

 

葛「なぁ、雨を操る魔物っているのか?」

 

豚「え?」

 

葛「…信じたくないけどさっきのお前の話、あながち間違いじゃねぇかも知んないぞ。」

 

豚「ほらやっぱり!で、雨というか天候を操る魔物ですがそのような魔物はいませんね。ですが。」

 

葛「何だよ。」

 

 豚が何かに気付く。

 

豚「…天候に関する魔術が2つ。1つはアルバダ、もう1つはイムルカにあります。」

 

葛「まさかだろ。」

 

豚「そのまさかです。アルバダは天候を移動させる術、イムルカは天候を呼び起こす術なんです。」

 

葛「アルバダの合わせ術なんてのは?」

 

豚「規模が違います。これはアルバダとイムルカの合わせ術です。」

 

葛「…てことはここ(人間界)にイムルカを知ってる奴がいるってことか?お前の他に。」

 

豚「認めたくないですが、そういうことです。」

 

葛「…早めが良い。今夜だ、準備しとけ。」

 

豚「まさか…!」

 

葛「確認しに行くだけだ。」

 

豚「分かりました。」

 

コンコン…

 

葛「⁉︎」

 

ガシッ!

 

豚「(え?)」

 

ムギュッ…

 

豚「(ブヒッ!)」

 

葛「はい。」

 

ガチャ…

 

ひ「あ、ひまお風呂上がったから葛葉くんも入ってね。」

 

葛「あー、俺はまだ良いっすよ。」

 

ひ「ダメだよ!風邪ひいちゃうから!」

 

 少し言葉に力が入り体のバランスを崩してしまい、ひまわりが倒れかけた。

 

ひ「あっ!」

 

ガシッ…!

 

ひ「うぅ…。えっ、葛葉くん⁉︎」

 

 ひまわりがバランスを崩したとき、葛葉が咄嗟に支えていた。

 

葛「危ないですよ、そこ。若干出っ張ってるんで。」

 

ひ「う、うん。ありがとう…。」

 

葛「…なんか買い物の帰りから様子が変なんですけど、どうかしました?」

 

ひ「あのさっ、変なこと聞いて良い?」

 

葛「良いですよ。」

 

 ひまわりは顔を上げ、葛葉に聞く。

 

ひ「ひまと一緒にいるとき、どうしたら良い?」

 

葛「…どうって?」

 

ひ「なんて言うんだろう…、えーと。さっきはさ、ほら、か、彼氏って言われてじゃん。ああゆうの、葛葉くん嫌がるだろうから否定できる関係を証明できる呼び方、的なやつ。」

 

葛「なるほど…。」

 

ひ「やっぱ変だよね、ごめん…。」

 

葛「いや確かに大事なことですよね。学校に行った時も言われましたし。誤解を招くようなことは否定しとかないと後々迷惑になりますからね…。ひまわりさんの。」

 

ひ「えっ!別にひまは迷惑とかじゃないんだけど、葛葉くん的にはどうなの?」

 

葛「ひまわりさんが迷惑じゃないなら別に…。」

 

ひ「…。」

 

葛「…。」

 

葛「い、いや、やっぱ決めときましょう!」

 

ひ「そ、そうだね!」

 

 何だか恥ずかしくなった空気に負け、お互いの関係性を決めることになった。

 

葛「とりあえず、何か案ありますか?」

 

ひ「うーん、兄妹、姉弟、友達、くらいかな?」

 

葛「姉と妹、どっちだが良いですか?」

 

ひ「え、葛葉くんは兄と弟どっち?」

 

葛「…同時に言いますか?」

 

ひ「…良いよ。」

 

葛・ひ「せーのっ。」

 

葛「弟。」

 

ひ「おねぇちゃん!」

 

 見事に別れた。

 

葛「決まりっすね。」

 

ひ「うん!」

 

葛「じゃあ俺風呂入ってきます。」

 

ひ「あ、そうだったね!」

 

 部屋を出る時、葛葉がふと気づく。

 

葛「…てことは俺はひまわりさんのことを『姉』呼びしないといけないんですよね?」

 

ひ「あ、確かに。」

 

葛「どう呼んだらいいっすか?」

 

ひ「それはもう葛葉くんが呼びたいように。」

 

葛「じゃあ、『姉ちゃん』で…。」

 

ひ「お、おぉ…。」

 

葛「ぐっ、何だこれ恥ずかしっ!」

 

ひ「それならひまも『くん』外さないとじゃない…?」

 

葛「別にこれからも付けなくて良いですよ。」

 

ひ「く、『葛葉』…?」

 

葛「…ふっ。」

 

ひ「あっ!何で笑ったの‼︎」

 

葛「いや、なんか面白いっすね…。」

 

ひ「ヒドいよ⁉︎」

 

葛「ハハッ、まぁこれからよろしくお願いします。姉ちゃん。」

 

ひ「この際、敬語もとろうよ。葛葉。」

 

葛「…言うのも言われるのも、慣れるのに時間要りますね。これ。」

 

ひ「む、葛葉も敬語とってよ!」

 

葛「えぇ〜、わ、分かったよ…。」

 

ひ「姉弟間で敬語はないでしょ!」

 

葛「…慣れていきま、いくよ。」

 

 2人の関係性をしっかり決めて、また一つ信頼が強くなった。リビングへ降りるとドーラが電話をしていた。

 

ガチャ…

 

ひ「パパから?」

 

ド「あぁ、何だか築の方も雨が強くなってきたらしくたくしー?とかばす?とか使うから遅くなるってさ。」

 

ひ「パパも傘持って行ってなかったのか。」

 

葛「急でしたからね。」

 

ド「んー、わし迎えに行ってこようかな。」

 

ひ「外くらいし、危ないし、まずパパの会社知らないでしょ?」

 

ド「前行ったことあるぞ?」

 

ひ「え⁉︎そうなの?」

 

ド「ここ初めてきた時にな。」

 

 ドーラは人間界に来たときに降りたビル群が築のいる会社だと思っていた。

 

ひ「なら大丈夫かな…?パパ残業のことなんか言ってた?」

 

ド「今日はみんな7時くらいに終わるらしいって言ってたな。」

 

ひ「今から迎えに行ったらちょうどじゃない?」

 

葛「そんな会社近いの?」

 

ひ「ん〜、ひまも行ったことないからわかんないけどパパ曰く一本道って言ってた。朝も40分くらい前に出かけるもん。」

 

ド「それならわしも準備して出ようかな。」

 

ひ「そうだね。こっち来て!」

 

 ひまわりはドーラを連れ2階へ上がって行った。少しすると着替えの済んだドーラが降りてきた。

 

葛「準備できたんすね。」

 

ド「うん、だけどいちいち着替えるのはここの決まりなのか?」

 

葛「それもありますけど、あんまり素の状態で外行く人いないっすよ。」

 

ド「確かにみんな何か着ていたな…。」

 

 ひまわりが遅れて降りてくる。

 

ひ「ふぅ、ぴったしだね!」

 

ド「これ勝手に来て良かったのか?」

 

ひ「誰も着ることがないから大丈夫!」

 

 葛葉はひまわりの心の内を知っていたから少しその言葉が引っ掛かった。

 

ド「じゃあ行ってくる。」

 

 ドーラは傘を2つ持ち、社を迎えに行った。

 

ひ「行ってらっしゃい!気をつけてね!」

 

バタン…

 

葛「…あの服といい、前出かけたときの服って。」

 

ひ「うん、ひまのママが着てたの。」

 

葛「本当に良かったんですか?」

 

ひ「良いの。今はドーラさんがひまのママみたいだから。」

 

葛「…ですね。」

 

ひ「さ、夕飯の支度しよ!それと、また敬語になってるよ。」

 

葛「んっ、慣れねぇ…。」

__________________________________________

 

 家を出た直後のドーラ。すぐ近くの曲がり角を曲がり、姿を隠す。

 

ド「ここなら大丈夫か?」

 

 服を少し開け、背中から大きな翼を広げて空に勢いよく飛び上がる。

 

ド「久しぶりに飛んだな。さて、築の匂いはどこだ?」

 

 嗅覚を研ぎ澄ませ、正確な位置を探る。

 

ド「見つけた。あっちだな!」

 

 人目につかないよう雨雲の上まで飛んだおかげで服はほとんど濡れていなかった。大きな翼をはばたかせ、一直線に築の元へ飛んでいった。

_________________________________________

 

課「みんな今日は台風みたいな感じだから早めに上がって良いよ!」

 

 築の勤める会社の課長の声がオフィスに響き渡る。『お疲れ様』と1人、また1人と順々に帰宅し始める。

 

社「私もそろそろ帰ろうか。」

 

 素早くパソコンを閉じ、帰る支度を済ませる。

 

社「お疲れ様でした。」

 

 定時より早く会社を出るのはとても久々のことであった。今日ばかりはいつも残業を渡してくる課長も止めてこなかった。

 

社「さて、バスもタクシーも混んでるんだろうな…。」

 

すると聞き慣れた声で呼び止められる。

 

課「社くん!ちょうど良かった!」

 

 この感じは、と身構える。

 

社「何ですか?」

 

課「いやぁーね?今日付けの資料が間に合わなくってさ、君家近いしお願いしたいんだよね。」

 

社「私の他に残ってませんでした?」

 

課「それがみんな電車なもんだから残れなくてねぇ…。頼むよ社くん!」

 

 この課長は毎回同じ頼み方をする。一応残業代は出ているらしいがほとんど増えていなかった。築は会社の中でトップレベルの技術者だからか面倒な仕事を任されることが多い。今回のもその1つだ。

 

社「で、でもこのまま雨が強くなってったら私でも帰れなくなりますよ!」

 

課「はぁ、そん時は会社で寝泊りすれば良いじゃん。」

 

 急に態度を変えてきた。

 

課「俺の頼みだよ?素直に聞けよ。仕事ができてもこれじゃ、一生そのままだよ!」

 

 流石の築でも初めて手が出そうになった。

 

課「ほら鍵渡すから残ってやってこい!」

 

 強引に鍵を渡されかけた時。

 

「帰るぞ、築。」

 

 振り返ると、そこには傘をさしたドーラがいた。

 

社「ド、ドーラさん⁉︎何でここに!」

 

ド「傘持っていってないってひまわり殿が言うから迎えにきた。」

 

社「えっ、いや、よくここがわかりましたね…。」

 

ド「まあな。さ、帰るぞ。」

 

課「おい社!お前私の言うことを聞かんのか?平のお前なんてすぐ切れるんだぞ!」

 

社「…ドーラさん、俺やっぱり残業が。」

 

 するとドーラは無言で課長に近づく。

 

課「な、何だ!」

 

ド「ふっ。」

 

チリッ…

 

 ドーラが少し火を吹いて課長の髪を焼いた。

 

課「ひぇ…?」

 

ド「一度しか言わん。お前がやれ。」

 

 そう言って築の方へ戻っていく。

 

社「ドーラさん、何を?」

 

ド「内緒じゃ。」

 

 2人の後ろでは腰が抜け、その場に崩れ落ちる課長の姿があった。そのまま帰路へ着く2人。ビル街を抜け住宅地に入っていく。

 

社「そういえばその服…。」

 

ド「ん?これはひまわり殿が着てけってな。」

 

社「そうですか。久々に見たな、この服がぴったりな人…。」

 

ド「ひまわり殿にも言われたぞ、それ。」

 

社「ふふっ、やっぱ家族ですね。」

 

ド「…なぁ、築。」

 

社「はい?」

 

ド「わしらってどんな関係だ?」

 

社「…どんな?」

 

ド「今日家を出る前にひまわり殿と葛葉殿が互いの関係性を決めていたのが聞こえてな。」

 

社「へぇ、どんな風になったんですか?」

 

ド「葛葉殿が弟、ひまわり殿が姉らしい。」

 

社「あぁ、確かにそう言う感じの関係性ですね。」

 

ド「じゃろ?だからわしらってどうなるんじゃろうなって。」

 

社「あの子たちが姉弟なら、俺たちは夫婦になりますけど…?」

 

ド「悪くないな。」

 

社「あっ良いんだ。」

 

ド「築は嫌なんか?」

 

社「いや、ドーラさんが嫌じゃないなら良いですけど…。」

 

ド「じゃ、わしらは今から『夫婦』と言うことで!」

 

 なぜか嬉しそうにしているドーラだった。

 

社「ていうか、ここ懐かしいですね。」

 

 築がふと見上げるとそこには2人が初めてあったコンビニがあった。

 

ド「ここに着くんじゃな。」

 

社「え、ここ通らずに来たんですか?」

 

ド「あ、えっと、そこの下を通って行ったんじゃ!」

 

社「そうなんですね。次はこのコンビニの道を通っていくと早いですよ。」

 

ド「そうなのか、じゃあ次はそうする。」

 

 築は心のうちで「あ、また来てくれるんだ!」と思った。その後はお互い無言のまま家まで着いた。家のドラを開ける前に築は一言ドーラにお礼を言う。

 

社「ドーラさん、今日はわざわざ会社まで迎えに来てくれてありがとうございました。お陰で課長のいつもの仕事の押し付けや、バスで帰る費用も掛からなくなりました。何より迎えに来てくれたのが、嬉しかったです…!」

 

 ドーラは不意な築の照れ顔につられて顔を背けた。

 

ド「そ、そうか。わしは築に恩しかないからな…!こんなことで良いなら何度でもやるぞ!」

 

社「何度も、となるとあらぬ誤解がうまれそうなので…、時々とかなら、なんて…!」

 

 築が冗談と願望の混じったことを言う。

 

ド「まぁ、考えとく…。」

 

社「ふふっ、期待しときますね!」

 

 

ガチャ…

 

社・ド「ただいま〜。」

 

 ドアを開けるとカレーのいい匂いが漂って来た。

 

社「今日はカレーか。」

 

ド「かれーというのは美味いのか?」

 

社「人それぞれで味が違いますけど、美味しいですよ。特にうちのひまわりのは。」

 

ド「それは楽しみだな!」

 

ひ「あ!パパたち帰って来た!」

 

社「ただいま、ひまわり。」

 

葛「お帰りなさい、2人とも。」

 

ド「ただいま。葛葉殿、ひまわり殿。」

 

ひ「ひま達待ってたからお腹減ったよ〜。」

 

社「そうだな、すぐ着替えてくるから先に飯食べようか!」

 

ド「じゃあわしはひまわり殿の手伝いをしよう。」

 

葛「俺運びますよ。」




 こうして少しずつそれぞれの関係が深まっていった4人。ひまわりは姉として、葛葉は弟として、ドーラは母として、築は父として。ひまわりと築以外、血の繋がりはなくとも気持ちは家族として固まってきていた。
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