勝手にド葛本社   作:めーけろー

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 軽く前回のあらすじを紹介すると、急な雨により葛葉は築から頼まれひまわりを学校まで向かいに行った。その帰りに買い物を済ませ家に帰るとひまわりからお互いの関係について問われる。ひまわりは「姉」、葛葉は「弟」として過ごしていくことを決めた2人だった。ドーラは築のことを迎えに行くと言い、出かけて行った。その帰り、2人の会話を聞いていたドーラは築にその話をする。こうして築は「父」、ドーラが「母」と決まった。


勝手にド葛本社 第七話「事件」

全「いただきます!」

 

 今日の晩ご飯はひまわり特製カレーだった。

 

ド「んん!美味しい!」

 

ひ「ほんと!?嬉しいなぁ〜。」

 

社「ひまわりのカレーは世界一だな、ほんとに。」

 

ひ「パパまで〜。」

 

葛「いや、マジで美味いっす。」

 

ひ「葛葉まで!?」

 

 築がピクッと反応する。

 

ひ「あ、葛葉くん…。」

 

社「2人が姉弟の関係ということにしたのはドーラさんから聞いている。共に過ごしているのにお互い敬語なのも直すべきだと思っていたからな。」

 

ド「だからわしらもお主らの親になる!」

 

葛「…え?」

 

社「俺が父で、ドーラさんが母っていう設定ね。ドーラさんの言い方だとガチっぽくなっちゃうから。」

 

ひ「てことはパパがパパで、ドーラさんがママ…?」

 

社「まぁ、そういうことだな。」

 

 ひまわりはとても嬉しそうな顔をした。

 

葛「良かったね、ねーちゃん。」

 

ひ「うん!」

 

葛「じゃあ2人も敬語取らなきゃね。」

 

社「え?いや、大人には大人のタイミングってものが…。」

 

ド「何を今更。」

 

社「ドーラさんは最初から無かったから楽ですけど!」

 

ド「わしは尊敬する奴にしか敬語は使わん。」

 

ひ「ほら、パパ頑張って。」

 

社「ぬ〜…。」

 

葛「ほら、パパ頑張って。」

 

 ひまわりの言葉を若干煽り口調で繰り返す葛葉。

 

社「葛葉、お前…。」

 

ド「早く言え。」

 

社「ド、ドーラ…。」

 

ド「言えるじゃないか。何を迷ってるんだか。」

 

社「な、慣れねぇ〜。」

 

 何かに悶絶する築を横目に食べ進めていたドーラだったが、実は築の呼び捨てに心臓がずっとドキドキしていた。

 

ド「(なんでじゃ、ただ呼ばれただけなのに…。)」

 

 夕飯を食べ終え、各々片付けを始める。

 

ひ「後はひまとママで洗うから置いといて!」

 

ド「まま、と言われるのは慣れんな。」

 

社「じゃ、先に風呂入ってくる。」

 

葛「俺はちょっとテレビ見ても良いですか?」

 

社「あぁ、良いよ。それと敬語残ってるよ。」

 

葛「あっ。」

 

 葛葉は今日の急な雨について知りたいことがあったため、テレビを付けた。

 

ひ「ニュース?」

 

葛「天気を見たくて。」

 

ド「テレビはなんでもわかるんだな。」

 

葛「〔豚、聞こえてるか。〕」

 

 葛葉は豚にテレパシーを送る。

 

豚「〔はい、なんでしょう?〕」

 

葛「〔今日の雨についてだ。あれは魔物の仕業なのか?〕」

 

豚「〔証拠がないので言い切れませんが、ほぼそうです。〕」

 

葛「〔テレビも異常気象って言葉で片付けてやがる。今夜出る、準備しとけ。〕」

 

豚「〔え、出るって、何に?〕」

 

葛「〔この犯人探し。〕」

 

豚「〔急ですね。〕」

 

葛「〔人間に害を与えかねんからな。〕」

 

豚「〔…そうですか、わかりました。〕」

 

 葛葉はテレビを消し二階へ向かう。

 

ひ「何かあったの?」

 

葛「今日の急な雨はなんだったのかなって思って。」

 

ド「不思議な雨じゃったな。」

 

ひ「なんて言ってた?」

 

葛「ただの異常気象だって。」

 

 そう言って自分部屋へ戻った。

 

ガチャ…

 

葛「魔物については目星ついてるか?」

 

豚「まぁ魔術を使えるレベルですから、おそらく人獣型かと。」

 

葛「今回の雨の発生場所とかっては?」

 

豚「ここから北西にある山の頂上付近からだと。明らかな魔力を検知しました。」

 

葛「そうか。ていうか、お前そんな優秀だったっけ?」

 

豚「何を今更!もともと優秀ですよ!」

 

葛「へぇ。とりあえず出かけるには他のみんなが寝てからだな。」

 

豚「了解です。」

 

社「葛葉〜、風呂空いたけど入るか〜?」

 

 風呂を上がった築が階段下から葛葉にそう伝える。

 

葛「俺あとで良いから母さんたち入っちゃって〜。」

 

社「そうか〜。」

 

 すると豚が不思議そうにこちらを見ている。

 

葛「なんだよ。」

 

豚「いや、いつもは母上と呼んでいるので違和感が。言い分けてるんですか?」

 

葛「あー、なんだろ。そんな気はなかったんだけど、なんか母さんって方がしっくりくるんだよな。ドーラさんの場合だと。」

 

豚「へぇ、ラグーザ様にも人に合った対応ができるんですね。」

 

葛「…食うぞお前!」

 

 葛葉は自分でも気づかなかったことを豚に気付かされ、照れ隠しのために豚に背を向けた。

 

社「ひまわり、先にドーラと入って良いぞ。」

 

 洗い物を終えた2人は一緒に風呂場へ向かった。築は2人がそれを確認してからリビングの隠しカメラの位置を確認し始めた。

 

社「(ここから見ても分かりにくいのに、よく葛葉は見えたな。偶然だとしても完全に目が合った気がしたもんな。)」

 

 築は偶然だったとしてもと思い、カメラの位置を変えた。

 

社「ここなら大丈夫か…。」

 

 しばらくするとドーラたちが風呂から上がってきた。

 

ひ「ふ〜さっぱりした!」

 

ド「あ、築はまたコーヒーとやら飲んどるのか。わしも飲もう!」

 

社「お、ドーラもコーヒーの旨さに気付いたのかな。」

 

ひ「えぇ〜、あれただ苦いだけじゃん…。」

 

社「ひまわりにはまだ早いか。」

 

ド「ひまわりも飲めるように慣れば分かるもんじゃよ。」

 

ひ「なんで2人して子供扱いするの〜!もう葛葉に言ってくる!」

 

 そう言って勢いよく葛葉の部屋へと向かった。

 

社「やっぱりひまわりは元気な方が良いな。」

 

ド「いつも通りじゃないか?」

 

社「そう見えるようにしてるんだよ。」

 

ド「えっ?」

 

 ドーラは入れ終わったコーヒを持って築の前に座る。

 

社「ひまわりは昔から人前で笑顔を絶やさなかったんだ。それこそ自分の母親が亡くなった時もね。」

 

ド「悲しくなかったのか?」

 

社「アイツはひまわりと同じテンションでいつも遊んでいたんだ。だから俺よりも母親のほうが好きだったんだ。でも…。」

 

ド「なんで泣かなかったんだ?」

 

社「葬儀が終わって、いろんな親戚が帰った後に俺はひまわりが母親の写真の前で泣いてたのを見たんだ。ひまわりは人の前では泣かないんだ。

 

ド「そっか、でも築の前では泣かないんだろ?」

 

社「えぇ、ひまわりは分かってるんです。自分が俺の前で泣くと、俺が母親の分まで頑張ってしまうって。俺はそれで一回失敗してるんです。」

 

ド「なるほどな…。ひまわりは今も1人でってこと?」

 

 築はコーヒーを一口飲む。

 

社「今は誰かアイツのように心を開ける相手を見つけれたんでしょうね。だからひまわりの笑顔が心からのものになったんです。」

 

ド「…それは、分かるものなのか。」

 

社「ええ、ここにいればいずれか分かりますよ。」

 

ド「いずれ、か…。」

 

 そう言ってコーヒーを一口飲んだ。

 

ガチャ!

 

ひ「聞いてよ葛葉!」

 

 突然の来客に驚き、瞬時に豚の方にダイブする葛葉。

 

葛「…どうしたのねーちゃん。」

 

ひ「パパ達がひまのことを子供扱いしてくるの!」

 

葛「それは〜、良くないね〜。」

 

 葛葉は下敷きになった豚をゆっくりと背中の後ろに隠す。

 

葛「〔早くインビジブルしろ!〕」

 

豚「〔インビジブル!〕」

 

ひ「どうしたの?」

 

葛「いや、一応部屋入る時ノックして欲しいかなって…。」

 

ひ「あ、ごめん。」

 

葛「うん…。」

 

ひ「あ、今日学校迎えに来てくれてありがとうね!改めてだけど。」

 

葛「面白かったから良いよ。あと、俺がねーちゃんの友達に貸した傘返してもらってね。」

 

ひ「あー、咲ちゃんに貸してたやつね。」

 

葛「咲っていうのか。」

 

ひ「笹木咲。結構近くに住んでる昔からの友達なんだけど、なんだか運が悪いのか不憫な子なんだよね。」

 

葛「他にどんな友達がいるの?」

 

ひ「あとはね〜、弓道部の…。」

 

 ひまわりは学校の友達の話を30分ほど話した。

 

葛「いろんな人がいるんだね、学校って。」

 

ひ「え、葛葉通ったことあるよね?」

 

 葛葉は学校がみんな共通して通うということを知らなかった。

 

葛「あー、結構休んでたんだよ…、その、体調面でね。」

 

 その場しのぎの言い訳を咄嗟に言う。

 

ひ「そうだったんだ!今は大丈夫なの?」

 

 信じた。

 

葛「大丈夫。だからあまり記憶無いんだけどね。」

 

ひ「…ところで葛葉って何歳なの?」

 

葛「え、ひゃ…。」

 

ひ「ひゃ?」

 

 歳など久々に聞かれたものだからつい、本当のことを言いそうになった。

 

葛「いや、えーと…。」

 

 するとテレパシーが伝わって来た。

 

豚「〔ひまわりさんは高1、人間界でいうところ16歳です!それを基準に考えてください!〕」

 

葛「俺は、15かな…。」

 

 豚のサポートもあり、相応な年齢を答えられた。

 

ひ「え!ひまと変わんないじゃん。良かった!弟的立場なのにひまより年上だったらどうしようかと思ってたんだよね!」

 

葛「ははっ。」

 

 葛葉は実年齢なんて言ったら大変なことになると実感した。それといつかは話さなければならないことも。

 

ひ「あ、結構話してたから時間が。明日も早いし、寝るね!おやすみ!」

 

葛「あぁ、おやすみ。」

 

バタン…

 

葛「ふぅ、危ねぇ。」

 

豚「全くです。」

 

葛「さっきのナイス。」

 

豚「ラグーザ様、それなんですが…。」

 

 葛葉は豚から日本での学校の制度について知らされた。

 

葛「…じゃあ俺は高1だったけど親の都合で引っ越してきて、それから家出した設定になるのか?」

 

豚「そうでないと中学卒業してないことになり、義務教育なんたらでアウトです。」

 

葛「めんどくせぇな。」

 

豚「もっとしたの年齢にすれば良かったのに。」

 

葛「仕方ないだろ。この見た目で13、14って言えるか。」

 

豚「だから無理やり弟設定を守ろうとしなくて良かったんですよ!」

 

葛「それだと姉ちゃんが困っちまうだろ。」

 

豚「はぁ…。」

 

葛「それより、下の2人は寝たか分かるか?」

 

豚「いえ、気配が残ったままなので…。眠気を誘うこともできますが。」

 

葛「ありだけど、体とかに影響は?」

 

豚「もともと妨害目的なのですが、力を加減すればいくらでも調整できます。」

 

葛「教えてくれ。使ってくる。」

 

 葛葉は豚から『スリープ』を教えてもらい、一階へ向かった。

 

社「…お、風呂か?」

 

 リビングにあるテーブルに向かい合って座りながらテレビを見ている2人がいた。

 

葛「うん。」

 

 葛葉はすれ違い様に2人に向け、『スリープ』を使った。

 

ド「ん、くぅ〜!」

 

 ドーラは大きく体を伸ばした。

 

社「どうしました?」

 

ド「いや、なんか眠くなってきた。」

 

社「確かにもうこんな時間ですし、俺も寝ようかな。」

 

 築はリビングを出て脱衣所へ向かう。

 

社「葛葉くん、俺たち寝るからね。」

 

 と、ドア越しに一言言って行った。

 

葛「ふぅ、これでよし。」

 

 葛葉は脱衣所を出てリビングに誰もいないことを確認して、テレパシーで豚を呼び家を出た。

 

葛「で、どの方向だ。」

 

豚「あっちです。」

 

 指差す豚を服に入れてトンっと軽く地面を足で弾く。空高く飛び上がると背中の羽を広げ言われた方角へ飛び向かう。夜の空はどこか魔界と似ていた。

 

葛「あ〜なんか魔力を感じる。」

 

豚「あ、それワタシです。『コンパス』って言う術使ってるんで。」

 

葛「ん〜気のせいだったわ。」

 

 気づけばひまわりの学校の真上にいた。

 

葛「…なぁ、確かこの辺だって言ったよな。」

 

豚「そうですね。あ、その建物の後ろにある山でしょうか。」

 

 豚が言うのは学校の裏にある山だった。

 

葛「…まさかな。」

 

豚「何か言いました?」

 

葛「降りるぞ。」

 

 羽をたたみ山の中腹あたりの開けた場所に急降下する。地面ギリギリまで落ちるとそこに

誰かがいるのが見えた。

 

葛「誰だ?」

 

 大きく羽を広げ、ゆっくりと着地する。こっそりと動く影は2つあった。そのうちの1つがこちらに近づいてくる。

 

?「その姿、人間では無いな。」

 

葛「お前らが今日の大雨の犯人か?」

 

?「どうやら相当高貴な身分なのか質問が多いな。」

 

葛「何のためにやってんだ?」

 

?「…。」

 

葛「答えろよ。」

 

?「そろそろ口を慎めよ。蝿の分際で。」

 

 その一言であたり一体に強烈な敵意が広がった。

 

葛「蝿ってのは、自己紹介か。」

 

?「止まらぬ口は力尽くで閉じてやろう!」

 

 そいつは懐にある短剣に手を伸ばす。

 

?「待て!」

 

 もう1人が止める。

 

?「申し遅れた。私は『レユル』。そっちは『カール』だ。お主の名は?」

 

葛「アレクサンドル・ラグーザ。これは携帯食の豚だ。」

 

レ「ふむ、確か吸血鬼一族の一家の名だったはず。」

 

カ「ケッ!そんな貴族さんが何の用だ。」

 

葛「今日の大雨の犯人はお前たちか?」

 

レ「…それを聞いてどうする?」

 

葛「内容によっちゃ、さっきの続きをしないといけなくなる。」

 

カ「何でお前がそんなことをするんだよ。」

 

葛「お前には関係ないだろ。」

 

カ「ただの食糧である人間に何でそんな苛立ちを覚えるか。」

 

 その発言を聞いた葛葉の敵意が殺気に変わる。

 

レ「なら構えよカール。吸血鬼、教えてやる。私たちは今急激な魔力不足なのだ。あの雨はただの雨でなく催眠効果を付与してある。もうそろそろ下の学校に集まってくる頃だ!」

 

 レユルとカールは学校の方へ向かって飛んでいった。

 

葛「まずい!」

 

 葛葉も急いで学校へ向かう。すると校庭には沢山の人が集まっていた。降りて確認してみると皆、意識が朦朧としていた。

 

レ「これで分かったか、吸血鬼アレクサンドル。」

 

 声の方向を見ると学校の屋上に何やら呪文を唱えている2人がいた。

 

葛「お前ら!」

 

 葛葉が飛びかかろうとした時、豚が葛葉を呼ぶ。

 

豚「ラグーザ様あれ!」

 

 豚が指さした方向にいたのは、ひまわりだった。

 

葛「何で…!」

 

 そこで葛葉は学校からの帰り道でひまわりの肩が少し雨に当たっていたのを思い出した。

 

葛「あの時か…‼︎豚、ひまわりさんを頼む。」

 

 葛葉は豚を置き、学校の屋上目がけ勢いよく飛んだ。

 

リ「恩を受けた人間でもいたか?」

 

 葛葉はその勢いのままリユルに飛びかかる。それを横にいたカールに抑えられた。

 

カ「剣を持たずに何ができる!」

 

 カールに払われる葛葉。屋上際のフェンスを掴み、枝のように折った。

 

カ「どんな怪力だよ。」

 

 折ったフェンスに魔力を流し、不格好だが鋭利な剣を作った。構えて斬りかかる葛葉。短剣で応戦するカール。しかしカールの短剣が折れ、蹴り飛ばされる。

 

リ「ほぅ、カールを退かしたか。」

 

 次にリユルに向け攻撃を仕掛ける葛葉。

 

ガキンッ!

 

リ「『カウンター』。」

 

 葛葉は半透明の壁のようなものに攻撃を弾かれ、その衝撃が自分に返ってきた。

 

葛「…!」

 

リ「お前には今の状態じゃ勝てないからな。ここの人間をいただくとするか。」

 

 そう言うとリユルの足元の魔法陣が光りだし、下の人間たちから出てきたオーラ状の魔力がリユルに吸い込まれていった。

 

葛「ハァ!」

 

 また斬りかかるが魔力を蓄えたリユルに軽々と止められた。

 

リ「こんな弱い魔力で加工したものなど、おもちゃに等しいわ!」

 

 リユルは止めた剣を粉砕した。そして丸腰になった葛葉に魔術を向ける。

 

リ「これは『フレイム』。お前をすぐに灰にするものだ。もう魔力のないお前にとって楽に死ねるのは良いことだろう。さらばだ!」

 

 リユルは葛葉に向け『フレイム』を放った。その炎は葛葉の体を包み込み大きく燃え上がった。

 

リ「ふふっ、これで邪魔者はいなくなった。」

 

豚「ラグーザ様の仇!」

 

 豚はリユルに勢いよく飛びつく。

 

リ「なんだ、家畜風情に何ができる?」

 

豚「ラグーザ様は変わってきていたのに!お前が邪魔するんじゃない!」

 

 殴り続ける豚を掴みあげるリユル。

 

リ「先に邪魔をしたのはそっちだ。」

 

 そう言って豚を燃えてる葛葉の方へ投げ飛ばした。

 

豚「うぅ、ラグーザ様…!」

 

葛「泣くなよ豚。」

 

豚「!?」

 

 燃える火柱の中から葛葉の声が聞こえた。その瞬間、葛葉を包んでいた炎が右手に集まっていった。

 

リ「何!?」

 

葛「悪いけど、俺はこんなんじゃ死なないよ。」

 

 葛葉は右手に集まった炎をリユルに向け、唱えた。

 

葛「『フレイム』。」

 

 右手から放たれた炎はリユルの体を包み込み激しく燃えた。

 

リ「グアァァ!なんで、物理攻撃以外跳ね返せないはず!」

 

葛「それは『カウンター』だろ。俺のはただ周りにあった炎を集めて返しただけだ。」

 

豚「そ、そんな。」

 

リ「くっ!『ウォーター』!」

 

 リユルは苦しみながらも体に水をかけ消火した。

 

リ「ハァ、ハァ、今度こそお前を…!」

 

 リユルが持っていた杖を葛葉に向けた。

 

豚「『サンダー』!」

 

 豚が唱えたと同時に黒い空から一本の光が落ちた。その光は水で濡れたリユルの全身を巡り、消えた。

 

葛「何をしたんだ…?」

 

豚「濡れたコイツに雷を落としただけです。」

 

葛「感電、か。」

 

 さっきまで動いてたリユルは一瞬にして黒い塊と化した。

 

カ「リ、リユル様…。」

 

葛「まだ生きてたのか。」

 

豚「ラグーザ様、コイツは生かして話を聞きましょう。」

 

 そう言うと豚は拘束魔術で縛っていった。

 

葛「これで催眠は溶けるのか?」

 

豚「ワタシがこれからリユルと同じ催眠を使って自宅へ帰らせます。しかし…。」

 

葛「なんだ?」

 

豚「少しとは言え、魔力を吸われているので中には体調を崩すものもいるかと。」

 

葛「…なぁ、人間に魔力は無いよな。」

 

豚「えぇ。その代わり精神力を変換することで魔力になります。」

 

葛「だから体を壊す、か。まぁしょうがない。やってくれ。」

 

豚「はい。」

 

 この後豚により全員帰らせ、ひまわりとカールを連れ家に戻った。

 

葛「カールを頼む。俺はひまわりさんを。」

 

 催眠で寝た状態のひまわりを抱えながらベットへ寝かしに行く。

 

葛「これで、良し。」

 

 起こさぬようゆっくり下ろして布団をかけた。

 

葛「おやすみ、姉ちゃん。」

 

 自分の部屋に戻ると催眠がとけたカールを椅子にくくりつけ、話ができる状態になっていた。

 

葛「おい、話す気あるか。」

 

 カールは葛葉を睨むとそれからずっと下を向いていた。

 

葛「しゃべんねぇなら…。」

 

豚「ラ、ラグーザ様?」

 

葛「寝る。」

 

豚「…えっ?」

 

 そのままベットに飛び込み深い眠りについた。

_________________________________________

 

 朝起きるとカールと豚の姿が無く、クローゼットを開けてみると豚だけいた。

 

葛「あれ、カールは?」

 

豚「え、あ、おはようございます。えっと、カールは小さくしてこの瓶の中にいます。」

 

 見せてきたビンの中には確かに小さくなったカールがいた。

 

葛「魔術ってすげぇな。」

 

 顔を洗いに下へ降りると築に呼び止められた。

 

社「あ、葛葉くん。」

 

葛「おはようございます。」

 

社「あぁ。今日なんだが、実はひまわりの体調がよくないみたいだから学校を休むことにしたんだ。だから看病を頼めるか?」

 

 葛葉は急いで2階へ戻り、ひまわりの部屋へ行く。

 

葛「姉ちゃん入るよ!」

 

ガチャ!

 

 部屋に入ると先にドーラがいた。

 

ド「あ、おはよう。」

 

葛「姉ちゃんの具合は!?」

 

ド「そんな焦るほどでもない。ただ体がいつもより弱ってるだけだ。」

 

葛「それ、だけ?」

 

ド「あぁ、安心しろ。」

 

葛「良かった…。」

 

 ひまわりの様子を確認した葛葉は再び下へ行く。

 

社「と言うことだから今日は昼食も自分たちで頑張ってくれ。」

 

ド「何かわしらでも作れるものないんか?」

 

 ドーラが階段を降りながら問いかける。

 

社「お湯を入れて待つだけのカップ麺ならあったはず。」

 

葛「今日はそれで我慢しますか。」

 

社「あ、時間が。」

 

ド「今日はいつもより早いんじゃな。」

 

 築は急いで靴を履きながら玄関にある鏡で身嗜みを整える。

 

社「ひまわりの弁当がないから途中で買わないといけないんですよ。」

 

ド「なるほどな。」

 

社「じゃ、ひまわりのことお願いします。行ってきまーす!」

 

ド・葛「いってらっしゃーい。」

 

 築が家を出た後、2人は顔を合わせた。

 

ド「どうする?」

 

 葛葉は完全に自分のせいだと思い、ひまわりの世話を全部自分に任せて欲しいと頼んだ。ドーラは何か手伝うことがあれば言ってくれと言って、いつもの家事を始めた。

_________________________________________

 

 ひまわりのことで頭がいっぱいな葛葉はいつもの家事が全然手につかず、ぼーっとしがちだった。

 

ド「大丈夫か葛葉…?」

 

 自分の仕事を終えたドーラがいつもと違う葛葉を心配がり、声をかけてきた。

 

葛「あ、あぁ…、もう終わるんで大丈夫です。」

 

ド「なぁ、わしらは親子の関係になったんじゃから敬語を外そうって言ったじゃろ?」

 

葛「そうだった…。」

 

 何を話しても意識がここにないような反応をする葛葉。するとドーラは葛葉の頬を手で包む。

 

葛「…ほーあはん、はんへふは?」(ドーラさん、なんですか?)

 

ド「わしの手はあったかいじゃろう。いつも元気な葛葉も静かになってしまったらわしは悲しいぞ。」

 

葛「…。」

 

 カイロのように暖かいドーラの手。そのおかげで葛葉のマイナスな気は薄れていった。

 

ド「今のわしからすれば2人とも大事な家族なんじゃ。そう1人で抱え込むでない。」

 

葛「…うん、ごめん母さん。」

 

ド「ふふっ、初めて『母さん』と呼んだな。ひまわりもそう呼んでくれるかな。」

 

 葛葉は途中だった洗濯を終わらせた。

 

葛「これで終わった、と。」

 

 今日も昨日の雨雲の残りのせいで雨だったため部屋干しだった。リビングへ戻るとドーラが二階からちょうど降りてきたとこだった。

 

ド「あ、終わったのか?」

 

葛「うん。具合どう?」

 

ド「まぁ特に辛そうでもないし、これから楽になっていくじゃろ。」

 

 ドーラは前に社にやったように自分の尾の鱗をひまわりに振りかけてきたのだ。

 

葛「なら、安心だね。」

 

 ドーラは葛葉の浮かない顔を心配そうに見る。

 

ド「そうじゃ、葛葉。少しひまわりのそばにいてやってくれんか?」

 

葛「え?どうして。」

 

ド「わしは築に言われたことをしないといけないのを忘れておった。その間に様子を見ていて欲しいんじゃ。」

 

葛「そうなんだ…。うん、分かった。」

 

 葛葉は早速ひまわりの部屋へ向かった。

 

ド「よほどひまわりのことが心配なんじゃな。」

 

コンコン…

 

葛「姉ちゃん、入るよ。」

 

ガチャ。

 

 この部屋に入るのも最初に寝泊まりした以来のことだった。

 

葛「具合どう?」

 

 葛葉は寝ているひまわりにそっと近づき、様子を見る。

 

葛「特に苦しそうでも無いな。良かった…、昨日のせいで姉ちゃんに変な影響が出てたらって、ずっと心配だったんだ。」

 

 初めて胸の内を話せて、葛葉はすっきりしていた。しばらくひまわりの顔を見つめてかあら立ち上がり、自分の部屋へ向かった。

 

ガチャ。

 

葛「豚、昨日捕まえたやつは?」

 

 クローゼットの中からカールの入った瓶を持った豚が出てくる。

 

豚「ここに。」

 

葛「準備しろ。」

 

 豚はテキパキと机と椅子をセットしカールを元に戻した。

 

葛「よぉ。話す気になったか?」

 

 カールはいまだに葛葉を睨んだまま答える。

 

カ「何で魔族が人間と暮らしている!」

 

豚「お前が質問するんじゃ…!」

 

葛「良い、答えてやる。その代わりに俺のにも答えろよ。」

 

 怒る豚を抑え、冷静に話す葛葉。

 

葛「俺が人間と暮らしている理由は、俺はここの人に助けられた。だからその恩を返すためにここにいるんだ。」

 

カ「人間如きに助けられるなど、魔族の恥だな!」

 

葛「次は俺の番だな。お前らは昨日何をしようとしていたんだ。」

 

カ「ハッ!俺が答えるとでも?」

 

 カールは葛葉からの質問に答えようとせず嘲笑っていた。

 

葛「答える、答えねぇじゃない。答えるしかねぇんだ。」

 

 その一瞬、部屋中に強大な魔力が溢れた。

 

カ「⁉︎」

 

豚「これは…!」

 

葛「答えろ。」

 

カ「その力でどうする気だ?俺を殺せば何も分からずじまいだぞ?結局は俺を殺せないただの威嚇ってわけだろ!」

 

 一度は圧に押されたが自分の立場を武器にして立ち上がってきた。

 

葛「分かった。豚、強制的にはかせろ。」

 

豚「了解です。」

 

カ「強制的…?まさかお前、イムルカの魔獣を使う気か!」

 

豚「時間切れだ。『コンフェション』。」

 

カ「ガッ…!」

 

 カールの体は電撃が走ったように跳ね、気を失ったように全身の力が抜けていった。

 

葛「昨日お前らは何してた。」

 

カ「…魔力回復のために人間を集め、あの場所を拠点に魔力回復所を設けるつもりだった。」

 

葛「何のために。」

 

カ「分からない。」

 

葛「誰かに命令されたのか。」

 

カ「分からない。」

 

葛「豚、こいつを魔界に送り返す。」

 

豚「良いんですか?」

 

葛「こいつを戻せば親玉が動くだろ。」

 

豚「ですが、これ以上の被害が出る可能性がありますよ。」

 

葛「あぁ。それも対策していく。」

 

豚「ではあとはワタシがやっておきます。」

 

 カールのことは豚に任せ、葛葉はひまわりの部屋へ戻る。

 

葛「…変なことに巻き込んでごめんね。姉ちゃん。」

 

 ドアの前でそう呟いてしまった。すると。

 

ひ「葛葉…?」

 

 部屋の中からひまわりの声がした。

 

葛「えっ⁉︎」

 

 驚いてドアを開けると、顔を赤らめたまま体を起こしていたひまわりがいた。

 

葛「起き、てたの…?」

 

ひ「うん、ついさっきね。」

 

葛「そうなんだ、それで、具合はどう?」

 

ひ「まだちょっと体が重いかな…。」

 

葛「そう…。お、俺母さん呼んでくるね!」

 

 葛葉が部屋を出かけたその時。

 

ひ「待って!」

 

葛「…!」

 

ひ「ねぇ、さっきのどういうことなの…。葛葉。」


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