勝手にド葛本社   作:めーけろー

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 軽く前回のあらすじを紹介すると、ひまわりが体調を崩したのが自分のせいだとし、正体を打ち明けるという葛葉に対し珍しく意見が合わない豚。2人は和解したものの豚は一時報告のため魔界へ帰って行った。一方社の会社ではドーラのおかげ(?)で業務活動が大幅に変わりなんと定時で上がれるようになった。そんなドーラはひまわりに「母」と呼ばれないことに悩んでいたが葛葉に焦らなくて良いと言われ、順序を踏んで徐々に呼んでもらえるようになるためにお互いの壁を無くすという結論に至った。その晩、葛葉はひまわりに。ドーラは社に、それぞれの正体を打ち明けた。特に驚きもせずに受け入れた社とは裏腹に、ひまわりは涙をながし葛葉を部屋から追い出した。


勝手にド葛本社 第九話「戸惑い」

 

 目をつぶってもひまわりの顔を思い出し、うまく寝つけなかった葛葉。どんな顔して朝いれば良いのか、なんて話したら良いのか、色々考えたがなにひとつ答えは出なかった。それでも起きて部屋から出なければいけない。ここでうずくまっている方が返って気まずいまである。どうしようそうしようと考えながらも体は真っ直ぐ階段を降り始めていた。この先にはひまわりがいる。どんな顔、どんな声で話そうか。

 

「あ、やっと起きてきた。おはよう葛葉。」

 

 まるで昨日の出来事がなかったかのように接してきたひまわりに、葛葉が気まずくなっていた。

 

「あ、おはよう…。」

 

 そっけないように返したつもりだったが驚きと焦りが顔に出ていたのが

洗面所で分かった。

 

「なんで、普通なんだ…?」

 

 ひとまず顔を洗って気を落ち着かせる。今の状態をひまわりに勘付かれるわけにはいかない。あっちが気にしていないようならこっちも同じように接しないといけないのだ。

 

「おっ、葛葉おはよう。」

 

 気を落ち着かせていると社が入ってきた。

 

「おはよう父さん。」

 

「歯磨きしたいんだが、良いか?」

 

「ごめんすぐ退けるよ。」

 

「すまんな。」

 

 葛葉が横に退けると社は歯ブラシを咥えたままネクタイや寝癖を直し始めた。

 

「父さんはさ、嫌なことがあった時とか次の日どうしてる?」

 

 葛葉は無意識にそんなことを聞いた。社は手を止めて葛葉の方を見る。そして再び手を動かしながら答える。

 

「うーん…。ふぉれはほういうほひ…。」

 

「なに言ってるか分かんないよ。」

 

 社は歯磨きを終え口をゆすいでから話し始めた。

 

「俺はそういう時とりあえず冷静になれるまでなにも考えないかな。あれ嫌だったなってなってる時はそれを鮮明に思い出せちゃうからすぐに同じ状態になるんだよ。だからなにも考えないでその記憶を薄れさせる。そしてから落ち着いて考え直すかな。」

 

「なにも考えないか…。」

 

「葛葉っぽく言うなら…。」

 

「ん?」

 

「焦るな、かな。」

 

 ニヤッと葛葉の方を向いて洗面所を出て行った。

 

「はぁ!?ちょ、待ってって!なんで知ってんだよ!」

 

 昨日ドーラに言ったことを改めて聞かされるとだいぶくるものがあった。

 

「…でも良いアドバイスにはなったな。」

 

 社のおかげで落ち着きを取り戻せた。そのままリビングへ戻る。

 

「おはよう葛葉。」

 

「おはよう母さん。」

 

 ドーラと朝の挨拶を交わし、何気ない会話をひまわりに振る。

 

「具合はどう?」

 

「うん。おかげですっかり治ったよ。今日からまた学校行くからよろしくね。あ、それと。」

 

 ひまわりは葛葉に手招きをした。

 

「どうしたの?」

 

「これなんだけど。」

 

 ひまわりがこっそり見せてきたのは小さな箱だった。

 

「なにこれ。」

 

「これひまがパパにいつも作ってるお弁当ってやつなんだけど、ドーラさんが食べたいって言うからみんなの分作ったんだよ。」

 

「へぇ、でもなんでこんな密かに渡すの?」

 

「それが、ドーラさんこれが超特別な食べ物と勘違いしててさ。見せたらすぐにでも食べ出しちゃいそうで…。」

 

「なるほどね。」

 

「だからお弁当ここに入れとくから、お昼に出して食べてね。」

 

 弁当を戸棚の隅に隠した。

 

「弁当がそんなに気になってたんだ。」

 

「そうらしくて、昨日夜お風呂は言った時に言われて…。」

 

「え、あっ。」

 

 ひまわりは突然下を向き、無言で2階へ駆け上がった。

 

「嘘、だろ…。」

 

 葛葉は初めてひまわりも昨日のことを気にしていたことを知った。どこかへいってた気まずさが舞い戻ってきた。それでもこのまま無かったことにはできないと思い、後を追って部屋を訪ねる。

 

コン、コン…

 

「姉ちゃん…、あのさ!」

 

 葛葉が話しかけたと同時に部屋のドアが開いた。

 

「ひま、もう学校行かなきゃだから…!」

 

 また顔を背けながら葛葉の横を早足で抜けるひまわり。

 

「待って!」

 

「っ…!」

 

「昨日の、話なんだけど…。」

 

 葛葉が昨日のことを確認し始めようとした時。

 

「ごめん、昨日体調悪くて変な夢見てさ。そこで葛葉に変なこと言われちゃって、それで勝手に気まずくなっちゃってるんだ。ほんとごめんね!」

 

 振り返ってそう言ったひまわりの表情には、どこか悲しさを感じた。

 

「…あぁ、そっか。」

 

 葛葉は頑張って笑顔を保ったが、階段を駆け降りていくひまわりの後ろ姿を見た時、心が折れそうになった。

 

「あれ、どうしたひまわり。今日は早いな。」

 

「ちょっとやることがあるから早めに出るだけだよ。」

 

「そっか、気をつけてな。」

 

「うん。行ってきまーす!」

 

 ひまわりが出てから少しドーラと何気ない会話を交わした社。

 

「そろそろ俺も行くか。」

 

「わしのせいで色々変わってしまって申し訳ないが頑張ってくれ。」

 

「いやいやそんなにしょんぼりしないでよ。逆にありがたいんだから。」

 

「そうなのか…?」

 

「早く帰れて仕事が楽になってやりやすくなったのはドーラさんのおかげなんだから。」

 

「…さん、ね。」

 

「あっ、ド、ドーラのおかげ…、だよ。」

 

「うん、よし!」

 

 社は照れながらも徐々にドーラとの接し方を改めていた。

 

「じゃあ行ってきます。」

 

「あれ、その袋はなんじゃ。」

 

 社の手にはいつもの会社用の鞄のほかに、大きな袋があった。

 

「あぁこれは友達に借りていたもので今日返すんだ。」

 

「そうか。気をつけてな。」

 

「うん行ってきます。」

 

 ドーラは社を見送った後、キッチンに戻り朝の片付けをし始める。すると2階から葛葉が降りてきた。

 

「さっき築も会社に行ったぞ。」

 

「見送り忘れてた…。」

 

 そう言いながら廊下に向かう葛葉を見てドーラが話しかける。

 

「葛葉、調子悪いか?」

 

「…いや普通だよ。」

 

「なにかひまわりとあったのか?」

 

「…なんで。」

 

 ドーラは洗い物をしながら答える。

 

「うーん。朝2人で何か話してるかと思ってたら、ひまわりが急に二階に行って、それを追いかけるように葛葉も行ったし、その後ひまわりだけ降りてきてさっさと学校行ってしまったしな。」

 

「…母さんってさ、なんで毎回分かるの?」

 

 葛葉が敵わないように笑う。

 

「そりゃここの母じゃからな!」

 

「さすが。洗濯終わったら話聞いてよ。」

 

「うん、いいぞ。だからシャキッとしな。」

 

 葛葉は洗濯を素早く終わらせ、リビングでドーラに一部隠しながら昨日の話をする。そこにはドーラが準備したコーヒーが置いてあった。

 

「なにこれ。」

 

「コーヒーじゃ。」

 

「知ってるけど、なんで。」

 

「これ飲んだら落ち着くからな。わしが。」

 

「母さんがかい。」

 

 淹れてもらったので飲んでみる葛葉。

 

「…苦っ。」

 

「でも美味いじゃろ?」

 

「いや、苦い。あー、無理。」

 

「ありゃ。」

 

 しょうがないので葛葉の分もドーラが飲むことになった。

 

「そうだ、話してみてよ。」

 

「…昨日の夜、姉ちゃんと話してたんだけどその時に俺が言い方間違えて姉ちゃんと気まずくなっちゃってさ。それでさっきもう一度話そうとしたら、昨日体調悪かったから変な夢見たって、聞いてなかったことにされたんだよ…。」

 

「なるほどな。それで葛葉はもう一度話はしたいんじゃな、そのことについて。」

 

「うん。これは話さないといけないことだから。」

 

「そうか。」

 

 自分の分のコーヒーを飲み干し、葛葉の飲めなかった方に手をつける。

 

「…。」

 

 ドーラの顔が固まる。

 

「どうしたの?」

 

「ごめん葛葉。これ分量間違えてた。苦すぎる…。」

 

 ドーラも屈するレベルで苦かったらしい。

 

「あ、さすがに?お湯沸かして薄めてみたら。」

 

「うぅ、そうする。」

 

 ドーラは激苦コーヒーを持ってキッチンへ行く。

 

「夢にされちゃ困るな。どうするか。」

 

「そこなんだよね。」

 

「正面から一度謝ってみるのはどうじゃ?」

 

「えっ?」

 

「夢でのことなのになんで謝ってるんだろうってなるじゃろ。そうなったら夢じゃないことを伝えてもう一度謝るんじゃ。」

 

「謝る、か。」

 

「大事なことじゃぞ。」

 

「前置きを挟んでしまうからその場を長くさせてしまってるんじゃないか?それならスパッと話し始めてみるとか、変えていくんじゃよ。」

 

「…なるほど。さすが母さん。」

 

「昨日はわしがアドバイスされたからな。お返しじゃ。」

 

 ひまわりにどう接するかの話し合いをしていた少し前、社は出社前にチャイカのバーに寄っていた。

 

「これ借りてたカメラ。」

 

「…ん。」

 

「顔どうした。」

 

 社がチャイカの顔を覗き込むようにすると。

 

「あのねぇ!私の店は深夜から明朝まで営業してんの!ついさっき終わって寝るとこだったの。」

 

「な、それは悪かった…。」

 

「良いけどさ、これデータ消した?」

 

「あ、消してないやごめん。」

 

「良いわよやっとく。もう出勤でしょ?」

 

「すまん、じゃ行くわ。」

 

「はいはい。」

 

ガチャン…

 

 チャイカは社が出て行ったのを確認して店の鍵を閉める。そしてカメラのデータを抜き確認し始めた。

 

「…あらら、こんなにバッチリ写っちゃってる。社もいやらしい位置につけたわね。」

 

 カメラのデータには社が確認できていなかった日中の映像が残っていた。そこにはリビングで人目を気にしながら角、尻尾を出して日向ぼっこするドーラの姿が映っていた。

 

「社の周りから感じた魔力はこのファイヤードレイクのだったか。会いに行こうかしら。ドーラちゃん。」

 

 チャイカは静かにカメラを閉じドーラの正体を知った。

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 朝のSHRが終わり1時間目の準備をしているひまわりのもとに笹木がやってきた。

 

「ひまちゃんいる〜?」

 

「どうしたの?」

 

 笹木に呼ばれ廊下へ出る。

 

「昨日大丈夫やったん?ひまちゃんが休むなんて珍しかったからさ。」

 

 どうやら心配で見にきたらしい。

 

「ごめんね、急に体調崩しちゃって。」

 

「なにが原因やったん。」

 

「あ…。」

 

 ひまわりは昨日葛葉に言われたことを思い出す。

 

「…お風呂上がった後に髪乾かさず寝ちゃったからかな!」

 

 なにもなかったように笑いながらそう答える。

 

「そうやったんか〜。朝見かけた時話しかけようか迷ったんよ。でもなんかくらい顔してたからさ。」

 

「え、そんな顔してたの?」

 

「気づいてなかったん?なんかすごい顔してたよ。だから何かあったんかなって。」

 

 ひまわりは自分が気づかずに昨日からのことを引きずっていた。

 

「でも、もう大丈夫だよ。すっかり元通り!」

 

 これ以上笹木に心配されたくなかったひまわりは精一杯元気なアピールをしてみせた。

 

「ならええんやけど。」

 

「もう授業始まるから戻るね。」

 

「うん。またね。」

 

キーンコーンカーンコーン…

 

 学校のチャイムが鳴り担当の先生の号令とともに授業が始まる。それでもひまわりは笹木に言われた言葉が気になって集中できずにいた。

 

「(そんな顔に出てたんだ。もしかしたら今日の朝も…。)」

 

「本間、聞いてるか?」

 

「あ、すいません…。」

 

「珍しいな。お前がボーッとしてるのは。まぁいい、教科書のここ読んでくれ。」

 

「はい…。」

 

 そんな調子のまま昼を迎えていた。いつものように笹木と弁当を食べるため学校の誰も使わない屋上に出るための階段上に向かう。

 

「おっ、キタキタ。」

 

 すでに笹木が待っていたようですぐに弁当を食べる準備をし始めた。

 

「うち昨日1人でここで食べてん。そしたらひまちゃんから今日休むって言われるっていう。」

 

「あはは、ごめんって。」

 

「授業中見つけたすごいこと教えようと思ってたのに。」

 

「また何か見つけたの?」

 

 笹木は授業中に自信が大好きな魚について調べている。

 

「今回は一昨日買った本に載ってた生き物についてなんやけど…。」

 

 ひまわりのお昼はいつもこうして過ごしている。笹木の新しく発見した出来事を聞きながら弁当を食べるのが日課なのだ。

 

「さすが咲ちゃん、目の付け所が違うね。」

 

「でしょ!やっぱうち天才なんだわ!」

 

「それを授業中にやらなければね。」

 

「授業中だからこそ気付くんよ、ってこの後体育や。うち着替えんといけないから先戻るね!」

 

 そういうと食べたゴミを片手に走り去っていった。

 

「ほんと元気だなぁ…。」

 

 ひまわりも片付けて教室へ戻った。一足先に教室へ戻った笹木はあることに気付く。

 

「(あ、ひまちゃんにこの前の傘返すの忘れてた。帰りでいっか。)」

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 ドーラはリビングでテレビを見て、葛葉もその隣でボーッとしながら見ていた。すると何気なく見ていた番組が終わり、とあるドラマが始まった。

 

「これ前見たやつじゃ。」

 

「前も見てたの?」

 

「いや点けたらちょうどやってて見ただけなんじゃが。」

 

 以前もやっていた熱い昼ドラの続きだった。

 

「あれ、この人さっき別の女の人と仲良く食事してなかった?」

 

「でも今度はまた違う女と買い物に行ってるぞ。」

 

「これは不倫してんね。」

 

「ふりん…?」

 

「なんかで見たけど、結婚してる身で他の女性と関係を持つことだったはず。この男性薬指に指輪してるのに別の人と会うときは外してるじゃん。こういうのは不倫の証拠だって兄貴が言ってた。」

 

「その不倫ってのはダメなことなのか?」

 

「うーん。人によると思うけど、結婚ってのがその人との愛を誓うわけだからどうなの?って話なんじゃないかな。」

 

「結婚か、となるとこの男はひどいことしてるんじゃな。」

 

「そうなるね。」

 

 内容を理解しより一層昼ドラにのめり込むドーラ。そんなドーラを横目に葛葉は自分の部屋に戻った。

 

「さて、俺はどうするべきか。」

 

 ひまわりに避けられている以上、自分から話しかけに行っても拒否られる可能性の方が高い。となると他の手段を考えねばいけない。

 

「こんな時豚がいりゃあな。」

 

 そんなことを思いながらふと目を閉じた。

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 ハッと目を開けると夕方4時になっていた。

 

「やべ、3時間も寝てた…。」

 

 リビングに降りるとドーラが何やら本を読んでいた。

 

「何読んでるの?」

 

「昨日ひまわりに借りた料理の作り方が載ってる本じゃなかなか面白くてな。そういえば洗濯物大丈夫か?だいぶ外寒いぞ。」

 

「あ、忘れてた。」

 

 葛葉は急いで取り込み始めた。ドーラも手伝ってくれたおかげでそんな時間はかからなかった。その時葛葉は微かに外から魔力を感じた。

 

「(ん?なんだこの魔力。近くに何かいる…。)」

 

 前回のこともあって魔物が人間界にいてもおかしくないということが分かったからか、どうしても不安な気持ちが葛葉に溢れていた。

 

「母さん、俺ちょっと出かけてくるね。」

 

「そうか?気をつけてな。」

 

「うん。」

 

 颯爽と家を出て魔力を感じた方へ飛んでいく。

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学校のチャイムが鳴りぞろぞろと下校し出す生徒たち。ひまわりは笹木と帰るため昇降口で待っていた。一通り下校する生徒の波が終えた頃、何かに警戒するように物陰に隠れながら笹木が向かってきた。

 

「何してるの、咲ちゃん…。」

 

「しっ!今うちの名前呼ばんといて!」

 

「え?」

 

靴入れの前までいくとササッと自分の靴を履いて準備する、

 

「何してんのひまちゃん!はよ!」

 

「なんでそんな急いでんの〜!」

 

「そりゃ、今日ぐんみちに放課後呼び出されたんよ。前サボった授業の補習を一緒にやるとか言われてさ。誰があのババアとなんかタイマンで授業したいねん。」

 

笹木が警戒していた理由をひとりでにベラベラ話してくれていたが、話に夢中で後ろに立つ人物に気付いていなかった。

 

「あの、咲ちゃん…。」

 

「大体あのババア化粧濃いねん。歳いってるくせに若作りしようとしてるのキツいわ〜。」

 

「男も知らないクソガキに言われたくないわ。笹木さん。」

 

笹木の肩をポンと叩き、引きつった笑顔で郡道先生が話しかける。

 

「アッ…。」

 

「私さ、放課後すぐ来てって言ったよね。」

 

「イヤ、アノ…」

 

笹木の顔色がみるみるうちに青ざめていく。

 

「これは誰のためでもない、あなたのためにやってることなのに。必要なかった?私オバサンらしいからお節介だったかしら?」

 

笹木の方に置いた手をギリギリと力を入れながら話す郡道先生。そして笹木は今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「郡道先生、補習したいです…。いや、させてください。教えてください。」

 

「そっか。じゃあ一緒にやろうか。」

 

そのままズルズルと引きづられるように職員室に連行されて行った。最後まで郡道先生は笑顔のままだった。

 

「咲ちゃん大丈夫かな。」

 

  一緒に帰るはずだったが連れてかれてしまったためしょうがなく一人で帰ることにしたひまわり。下校する生徒はほとんどいなくなり放課後の校舎は静まり返っていた。期末テストを2週間後に控えているため部活、生徒会等の諸活動も無くなりみんな真っ直ぐ帰ってしまうのだ。ひまわりはこれといって部活には入っておらず暇な時に友達の部活にお邪魔する程度だった。そもそもひまわりに部活をやっていられるほどの時間がないのが原因であるが、社が働いている以上家事をやらざるを得ないためしょうがないのであった。

 

「今日はなんにしようかな。」

 

 いつも通り商店街へ向かいながら晩ごはんのメニューを考えていると後ろから声をかけられた。

 

「ねぇ、お嬢ちゃん。」

 

 振り返ると汚れたボロボロの服を着てオレンジのニット帽を深く被った髪もボサボサの見るからに不衛生な男が俯きながら立っていた。

 

「どうかしました…?」

 

 恐る恐る話しかけるひまわり。すると男はスンスンと匂いを嗅ぐ仕草をし始める。ひまわりの体が瞬時に拒否反応を起こし後退りした。

 

「な、何してるんですか…?」

 

 ひまわりは引きながらも話しかけるが男は何も反応しない。それどころか意味不明なことを言い始めた。

 

「やっぱり、あの匂いがする。」

 

 男はバッと顔を上げてひまわりに飛びかかる。

 

「お前、あの吸血鬼匂いがする!」

 

 ひまわりの両腕を鷲掴む男。その衝撃でニット帽が落ちるとそこには人ではない獣の顔があった。

 

「ヒッ…!痛い!離して!!」

 

 必死に振り払おうとするが驚きと恐怖でやられた身体に力が入らず震えた声で叫ぶことしかできなかった。獣の顔はだんだんと変わっていき狼のような耳と口があらわになった。その口には鋭く尖った牙が光っていた。

 

「アイツはどこにいる!あの憎たらしい吸血鬼の場所を言え!」

 

「きゅ、吸血…鬼?」

 

「とぼけるな!お前からアイツの匂いがする!吐かなけりゃ左腕から取ってくぞ!」

 

 男はギリギリと腕を掴む力を強めていく。

 

「痛い…!折れ、る…!」

 

「早く言え!」

 

ヒュッ…

 

 一瞬ひまわりの目には赤い炎が目の前を通った。その炎は男の顔面に直撃すると同時に大きく燃え上がった。

 

「ぎゃあああ!!!!」

 

 咄嗟に飛び上がり顔を纏った炎を払い始めたおかげでひまわりの腕は折られる前に解放された。

 

「お前、何してんだ…。」

 

 その声を聞いた途端、ひまわりの体にあった恐怖はどこかへ消えていった。振り返れば黒く細い羽を広げ、透き通るくらい白い顔に赤く光る眼をした葛葉がいた。

 

「葛葉…。」

 

 葛葉はひまわりを見るなり睨み殺すような眼光を落としひまわりのそばに寄った。

 

「ごめん、姉ちゃん。」

 

「葛葉…、痛っ…。」

 

 ひまわりは握り折られかけた左腕をぐっと抱える。それを見た葛葉が大丈夫だからとひまわりの左手を取り『ヒール』と唱えた。さっきまであった腕の痛みが嘘だったかのように消えていった。

 

「ねぇ…。」

 

 ひまわりが何か尋ねかけた時、炎を払い終えた男が今度は葛葉に飛びかかる。あっ!っとひまわりが声を上げた時には葛葉が男の顔を片手で握り押さえていた。

 

「このまま燃やし尽くしてやるよ。」

 

 顔を握る手に力を入れかけた時、ひまわりにその手を押さえられ離してしまった。その隙を突いて男は颯爽と逃げていった。

 

「姉ちゃん…、なんで…。」

 

「なんではこっちだよ!あのままじゃ葛葉、殺す気だったでしょ?」

 

「姉ちゃんに危害を加えたんだし、当たり前でしょ?」

 

「葛葉のその目、赤く光ってる時の目、怖いよ…。」

 

 押さえた葛葉の腕に顔をうずめてそう言った。そのまま少し時間が経った。ひまわりが冷静になるまで葛葉は何も言わずにただ待っていた。

 

「ねぇ、ちょっと付き合ってよ。」

 

「うん。」

 

 何を考えていたのか葛葉には分からなかった。あんなことがあったのにひまわりの顔はほとんど変わっていなかった。ただ少し疲れているくらいで。連れてこられたのは商店街だった。いつものようにいろんな店の人からひまわりを呼ぶ声が聞こえてくる。

 

「今日、何が食べたい?」

 

「え、あぁ…。そんな腹減ってないんだよね。」

 

「ひまもなんだよね。じゃドーラとパパの分多めに買って行こうか。」

 

 商店街の中心の方へ向かうひまわり。そこには他の店の倍くらい人がたくさんいた。店の看板には「惣菜屋」と書いてある。

 

「惣菜?」

 

「これはもう作ってあるやつなんだ。時間ない時とかなんかもう一品欲しい時によく買っていくんだけど、この時間だと値引きが始まるから人がすごいんだよね。」

 

「今日はこれ買ってく感じ?」

 

「そうだね。作ってあるとは言ってもなかなかに美味しいから侮れないよ。」

 

 ひまわりは溢れ返る人の中に構わず入って行った。しばらくして大きな袋を持ったひまわりが人をかき分けて出てきた。

 

「随分買ったね。」

 

「残ったら明日の葛葉たちのお昼ご飯になるから。」

 

「なるほど。」

 

 ひまわりが重そうに持つ袋を何も言わずに持ってあげる葛葉。

 

「あーー!やっぱり付き合ってんじゃん!」

 

 その光景を偶然見てしまった笹木が2人を指差しながら大声を上げる。

 

「あれ咲ちゃん。補修は終わったの?」

 

「ちょうどさっき終わったんや!そんで帰りに寄り道してみたら2人でイチャイチャしてるとこ見てしまったんや!」

 

「別にイチャイチャなんかしてないよ。」

 

 ひまわりが笑いながら笹木の言ってることを訂正する。

 

「しとるやろがい!2人で買い物なんかしてさ!」

 

「違うよ。」

 

 笹木にそっと近づくひまわり。

 

「じゃあなんなん!」

 

「葛葉はひまの弟なの。」

 

 初めて他の人に弟として紹介された葛葉。そして初めて葛葉を弟として紹介したひまわり。笹木は嘘だと思ったがその堂々とした2人の姿に信じざるを得なかった。

 

「本当に言ってるの?」

 

「うん。これからもよろしくね、葛葉のこと。」

 

「いつから弟なの?」

 

「うーん、ドーラがきた日から?」

 

「ドーラ?」

 

「あ、そっか。まだ咲ちゃんには言ってなかったね。また今度ある時話すよ。」

 

「うん。」

 

 お互い納得したように別れの挨拶をして戻ってきた。そのまま家に帰ろうとした時。

 

「葛葉。これ返す。」

 

 笹木に呼ばれ振り向くと一昨日貸した傘を渡してきた。

 

「あ、ありがとございます。」

 

「ん、ほな。」

 

 用が済んだのか、パンダのパーカーのポケットに手を入れて鼻歌歌いながら商店街の反対側に歩いていった。やはり側から見ればカップルに見えるのだろうか。姉弟には見えないのだろうか。なんてことを思いながらも商店街の人たちにも聞かれてしまったため今更どうすることもできなかった。

 

「帰ろっか。」

 

 葛葉の袖を引いて商店街を出て行く。さっきまで人で賑わっていた商店街も2人を見るなり静かにざわめていた。なんとなく居心地が悪かった。家までの道を半分ほど歩いていたが夕陽が照らす住宅街に反射する2人の足音と買い物袋が揺れる音、それが2人の沈黙を強調していた。笹木と別れてから一言も話さないひまわり。葛葉の前を歩いているためどんな顔をしているのかも分からなかった。2人の間に開いた微妙な距離を縮めることなくひまわりの背中をただ見つめて歩いていった。

 

「ただいまー。」

 

「おかえり〜。あれひまわりも一緒だったの。」

 

「ただいまドーラ。うん、さっきそこであってね。買い物の袋持ってもらっちゃった。」

 

「そうだったのか。葛葉はどこにいってたの?」

 

「あー、まぁ散歩?」

 

 いい加減な理由だったがドーラは納得してくれたようだ。ひまわりは買ってきたものをとりあえずキッチンに置いて二階へ上がっていった。それを見ていたドーラが仲直りできたのか聞いてきたが正直よくわかんなかった。それは仲直りできているのかも、ひまわりが何を思っているのかも。

 身支度を整え夕飯の準備を始めると同時に社が帰ってきた。先に風呂に入ると言い真っ直ぐ風呂場へ向かっていった。

 

「今日は何作るんじゃ?」

 

「今日はね、色々あって疲れちゃったからほとんど温めるだけなの。作るとすればお味噌汁くらいかな。」

 

「わしが手伝えることはあるか?」

 

「うん。これお願い。」

 

 ドーラとひまわりが仲良く夕飯を作り始めて葛葉がテーブルの準備をする。しばらくして社が風呂から帰ってくると買ってきた惣菜を温めて運ぶ。全てが揃って食べ始めた。

 

「今日は惣菜の日か。」

 

「ひまがあんまりお腹減ってないから何も思いつかなかったんだ。ごめんね。」

 

「でもここの惣菜は美味しいから大丈夫だ!」

 

「うん、このコロッケというのサクサクホクホクで美味いな!」

 

「喜んでもらえて良かった。たまにはこんなのもいいでしょ。」

 

 今日の惣菜は揚げ物だった。コロッケ、メンチカツ、唐揚げ、一口カツ、かぼちゃコロッケ等々。油っぽいおかずに対してほうれん草とじゃがいもの味噌汁がとても美味しかった。葛葉もメンチとコロッケを一個ずつ食べ、先に片付けて風呂へ入った。

 

「ふぅ…。」

 

 夕方の一連でドッと疲れた体を温かい湯が包んで癒してくれる。逃したヤツはどこへいったのか。またひまわりに危害を加えに来るかもしれない。そんな不安がずっと残っていた。風呂を上がりリビングへ行くとみんな食べ終わってドーラと社が皿を洗って片付けしていた。

 

「あれ、姉ちゃんは?」

 

「ひまわりなら部屋だな。次入るよう言ってきてくれる?」

 

「うん。おやすみ。」

 

「もう寝るのか?」

 

「まだ寝ないけど、あと部屋にいるからさ。」

 

「あぁ。おやすみ。」

 

「おやすみ葛葉。」

 

 2階へ上がりひまわりの部屋を訪ねる。

 

「姉ちゃん、上がったから風呂いいよ。」

 

 遅れてうん。と返事が返ってきた。何か言おうとしたがうまく言葉が出てこなかった。自分の部屋に戻り今日の反省をする。守ると決めたひまわりを早速危険な目に合わせてしまった。今日襲ってきたアイツはなんだったのか、考えていると部屋の窓から葛葉宛の手紙が入ってきた。

 

「魔界郵便!誰からだ。」

 

 差し出し名を見るとアレクサンドルと書いてあった。葛葉の家からの手紙だった。開いて見ると手紙が2枚は入っていた。1枚目の方は豚からの手紙で2枚目はアレクサンドル家の紋章で魔術式の封がしてあった。これができるのは家の当主のみ。父上からの手紙だった。まずは豚の方からの手紙を開いた。

 

「拝啓ラグーザ様。ワタシが魔界に戻って早一日が経過しますが何か大変なこととか起きてませんよね。そんなことはさておき、強制送還させたカールですが、魔界中央収容所で移動中に暗殺されました。」

 

「なんだって…!」

 

 一昨日学校で捕らえたカールが殺された?それじゃ目的がなんだったのか誰にも分からなくなってしまったじゃないか。それにしてもあの重警備で特殊な機構で魔術が使えない所で暗殺されたなんて。

 

「聞けた内容としては誰かに頼まれた、と言っていたそうです。レユルがそう言っていたと。わかったのはこれだけです。もう少し調べてからそっちに戻ります。豚より。」と書かれていた。

 

 カールが殺され、わかったことは後ろに誰かいること。誰に頼まれたのか、それが次に調べなきゃいけないことだ。豚からの手紙を閉じて 父上からの手紙を手に取る。すると紋章が浮かび上がり手紙を持つ指を浅く傷つけ血を落とす。するとアレクサンドル家のものと認証され手紙が開いた。

 

「サーシャ。お前が人間と共に暮らしていることを豚君から聞いた。」

 

 葛葉はスッと息を飲んだ。

 

「私は何も言わない。お前がやりたいこと、目標を持ってそこに居るのだろう。部屋でただ寝て過ごすだけのお前から成長する時だ。ただいつかはみに行きたいと思っている。それと魔王様との会議の結果、我々アレクサンドル家は魔界御六家という魔王様直属の傘下になった。これからはそれなりの地位なるからくれぐれも行動には気をつけろ。」

 

 父上は葛葉に対し何か変わる起点になればいいと思っているらしく人間界にいることは悪く思っていないとのこと。それより驚きなのがあの魔王様直属の家になったということだ。今の魔界のいち区画を任されたと言っても過言なくらいすごいことだ。

 

コンコン…

 

 咄嗟に手紙を隠し返事をする。

 

「…入って良い?」

 

 部屋をノックしたのはひまわりだった。葛葉は一瞬戸惑ったが中に入れることにした。ドアを開けると風呂上がりでパジャマ姿のひまわりが立っていた。

 

「どうぞ。」

 

「ん。」

 

 部屋の真ん中あたりまで入るとそこで立ち止まった。

 

「これから聞きたいこと聞くから、そこで答えて。」

 

 ドアを閉めひまわりの方を向く。

 

「全部答えるよ。」

 

 ひまわりはすーっと息を吐いて問いかける。

 

「葛葉は人間なの?」

 

「違う。俺は吸血鬼だ。」

 

「あの日、倒れてたのは血が切れたから?」

 

「人間界に来るときに魔力を使いすぎて空から落ちたんだ。」

 

「ひまのお家に泊まってるのって、ひま達の血を吸うため?」

 

「それは違う!あっ、ごめん急に…。」

 

 ひまわり達に危害を加えるためにいるんじゃない。これだけは勘違いされたくなかったからつい大声で否定してしまった。

 

「俺は吸血鬼だけど、血が苦手なんだ。こう言っても信じてくれるかわかんないけど、それでも姉ちゃんや父さん、母さん。それに周りの人には絶対危害は加えない。これは信じて欲しい。」

 

「それでも、もし血が欲しくて抑えられなくなったらひま達を襲うの?今日襲われた時みたいに…。」

 

 ひまわりの肩が震えている。今日のことなんとも思っていないなんてことはなかった。怖かったから思い出さないようにしていたのだ。

 

「俺ら吸血鬼は普段みんなで食べているような食事で十分な血は摂れてるんだ。過度な連続魔力消費、重度な怪我の回復とかすると足りなくなるくらい。」

 

「…本当に?」

 

 ひまわりが少しずつ葛葉の方を向き始める。

 

「俺は、ひまわりさんに助けられた恩がある!この恩を返すために俺はここにいさせてもらってるんだ。俺にしかできないことでこの恩を返すって決めたんだ。」

 

 葛葉の目がひまわり目を真っ直ぐ見つめる。その目にひまわりの心の中にあった葛葉への不信感が信じる気持ちに変わった。その安堵からか、気付けば葛葉に抱きついた。

 

「…!ひまわりさん…?」

 

「…ごめん、ちょっとこのままにさせて。」

 

 いきなりの出来事に驚いた葛葉だったが抱きつくひまわりの肩と声が震えているのが分かった。そっと抱きしめる。

 

「ごめんね、ごめん。本当のことを話して嫌われるのが嫌だったんだ。それで、色々危険な目に遭わせちゃったし、本当にごめん。」

 

 ぎゅっと葛葉を強く抱きしめる。ひまわりの気が収まるまで抱きしめあっていた。

 しばらくすると抱きしめる力が弱まった。葛葉は座ろうか。と言って抱きしめていた手を離しそのままベットの上に腰を下ろす。ひまわりは葛葉の左腕を離さないよう掴んでいた。

 

「さっきね、父上から手紙が届いてさ。俺の家が魔王様の直属の傘下に入れたんだ。」

 

「…魔王様なんて、ほんとにいるんだね。」

 

 ひまわりが左腕に埋めた顔をちょこっとだけ出した。

 

「うん。てかやっと顔見せたね。」

 

「あっ。」

 

 バッとまた顔を隠した。

 

「なんで隠すのさ。」

 

「…目腫れてるからやだ。」

 

「そんな事ないって。どれ見せてよ。」

 

 ゆっくりと顔を上げるひまわり。

 

「うぅ…。」

 

「泣くくらい不安にさせてごめんね。」

 

 瞼に溜まった涙をスッと拭う。するとまたひまわりが泣き出してしまった。ぐっとひまわりを胸に抱き寄せそのまま抱きしめる。

 

「ひまわりさんの中にある不安を全部今吐き出して。俺はここにいるから。」

 

 それからどれくらいだろう。葛葉の胸の中で声にならない声を出しながら泣き続けるひまわり。泣き止むまでずっと抱きしめ続ける葛葉。

 泣き止んだ頃には目の下を真っ赤にして葛葉に抱きついていた。泣き疲れたからかウトウトしだした。葛葉は抱きつくひまわりの手を優しく離し立ち上がる。するとおもむろに羽を広げ、爪が鋭く伸びる。

 

「これが本当の俺。」

 

「本物なんだね。この羽。」

 

「姉ちゃん立って。」

 

「え?」

 

 言われるがまま立ったひまわりの手をとってベランダから勢いよく飛び上がる。

 

「え、えぇ!うわぁぁぁ!!」

 

 羽を一回羽ばたかせると一気に上空に着いた。

 

「どう?空は。」

 

「ちょっと!めっちゃ怖いって!」

 

 浮いた足をバタバタさせて焦るひまわりを抱き抱える葛葉。

 

「ほら、これで大丈夫?」

 

「あっ、うん。ありがと…。」

 

 そのまま夜の空を飛び回り街の電波塔に降りた。

 

「これが、葛葉が見れる景色なんだね。」

 

「俺がいるからここから飛び降りても助けれるよ。やってみる?」

 

「ほんとに助けてくれるよね?」

 

「大丈夫だって。俺を信じてよ。どこにいたって必ず助けるからさ。」

 

「…じゃあ、よろしく!」

 

 ぽんっと塔の上から飛び降りる。

 

「うわぁぁ!」

 

 落ちながら見える夜景は普通じゃ見れない特別な景色だった。横じゃなく縦に流れるビルや車の光。とても綺麗だった。

 

「どう?綺麗でしょ。」

 

 逆さまで目の前に現れる葛葉。

 

「うん。でももうそろそろ怖いよ?」

 

「じゃ戻ろっか。『テレポート』。」

 

 さっきまで落ちていってたのに一瞬で塔の上に戻っていた。

 

「あれ、あれ?」

 

「ね、大丈夫だったでしょ。」

 

「何したの?」

 

「これから話すよ。」

 

 そういってまたひまわりを抱き抱え空に飛び上がる。家までの道を遠回りしながら人間界にきた経緯、自分の素性、魔力、魔術についてなど大体のことを話した。細かく言っても覚えられないくらい話したから必要に応じてその都度説明しようと思った。家に戻ってひまわりを下ろす。

 

「結構飛び回っちゃったなー。」

 

「魔力大丈夫?」

 

「飛ぶくらいじゃほとんど減らないから大丈夫。」

 

「気になることがあるんだけどさ。」

 

「何?」

 

 何かもじもじし出すひまわり。

 

「葛葉って寝る時逆さまに宙吊りになって寝るの?」

 

「寝ないね。それはこっちの世界で味付けされた吸血鬼の話だね。」

 

「そうなんだ。よかった〜。」

 

「さすがにできなくもないけど途中で落ちる気しかしないね。」

 

「そっか。じゃあさ。」

 

「うん。」

 

「今日ここで寝ていい?」

 

「は?」

 

 葛葉の口から素のは?が出た。開いた口が塞がらないという言葉がぴったりなほどポカンと口があきっぱだった。

 

「だからひまもここで寝るの。」

 

「な、なんで?」

 

「葛葉がひまを襲わないか証明するため。」

 

「姉ちゃん、自分でない言ってるか分かってんの?」

 

 驚きを隠せないままひまわりの言ったことを再確認させる。

 

「うん。まさかひまを襲うかもしれないの?」

 

「いや!絶対ない!けど、色々問題があるからダメ!」

 

「なーんで!良いじゃん別に。」

 

「良くないって!良いから自分の部屋戻って!」

 

 ひまわりは少し頬を膨らませ不満を露わにしながらジブの部屋に戻っていった。とおもったら、また顔を出して「次は何がなんでも葛葉の部屋で寝るからね!」と言って勢いよくドアを閉めていった。

 

「ひまわりさんらしいや。全く危なっかしい。それより、俺を信じてくれて良かった。」

 

 葛葉の中にあった大きな不安がすっきり消えてなくなった。そんな気がした。その安心感からか急に疲れに襲われ、気を失ったように寝てしまった。

___________________________________

 

「(ん…、あのまま寝ちったのか。)」

 

 気づけば朝になっていた。疲れのせいか体重い。

 

「(そんな疲れてたのか俺。人連れて飛ぶなんてなっれないことするもんじゃないな。にしてもなんか寝苦しい…。)」

 

 何かおかしい。誰かに言って助けをもらおう。そう思いベッドから出ようとする。

 

ずるっ…

 

 お腹の辺りで何かが動くのを感じた。恐る恐る布団をめくるとそこには自分の部屋に戻ったはずのひまわりがいた。

 

「…はぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎」

 

 勢いよくベットから飛び起きて現状を確認する。部屋のドアは閉まっている。ひまわりはパジャマのまま。特に何かがあったわけではないらしい。

 

「なんで俺のベットの中にいんだ⁉︎ちょっ、姉ちゃん起きろって!」

 

 何があったのか確認するためにひまわりをゆすって起こす。

 

「ん〜、なに〜…。もう朝…?」

 

「寝ぼけてないで起きろって!そんでなんでここにいるのか説明してくれって!」

 

 再びゆらし始める葛葉。

 

「ん〜、分かったって〜、起きるから〜…。」

 

「また寝るきじゃないだろうな?」

 

 そう思いゆらす手を止めると、スヤァと寝始めた。葛葉は痺れを切らしひまわりの首筋に向かい軽く魔術を放つ。

 

「『アイス』。」

 

「ひゃうん!!」

 

 葛葉の手から放たれた小さな氷の結晶はぐっすり眠るひまわりの首にヒットし、その感覚が一気にひまわりの脳へ送られる。さっきまで包まれていた眠気をすっきり飛ばし、一瞬でひまわりを起こさせた。

 

「…おはよう。」

 

「お、おはよう…。何したの?」

 

「氷で首筋冷やした。」

 

「めっちゃ目覚めた。」

 

「よかった。で、なんでここにいるの?」

 

「えっと〜、それはね…。」

 

 ひまわりが言いずらそうに話し始める。

 

「昨日自分の部屋に戻ってから今日あったこと思い出しちゃって全然寝れなくてさ。それで葛葉と話そうかなって部屋行ったら寝ちゃってたから、ついでに一緒に寝ようかな〜って。」

 

「途中まで良かったけど、最後でダメだわ。なんでベット入ってきちゃったの。ダメって言ったじゃん。」

 

「え〜、だって寝たかったんだもん。」

 

  危機感がなさすぎる。さすがに。これは一回ガツンと言ったほうが良いと思った。

 

「危ないからダメだって!姉ちゃんが思ってる以上に男ってのは危険なんだよ。何もないからなんて思って自分を危険に晒すなよ!」

 

 ビクッとひまわりの肩が動く。驚いた表情でこちらを見るひまわりだったが少し経って口を開いた。

 

「でも、葛葉は違うでしょ?」

 

「…!」

 

 その声は震えていた。ひまわりからしてみれば俺が襲わないかという確認のためであったということを思い出した。ただやり方がよくなかっただけ。ひまわりをまた不安にさせてしまった。

 

「俺は、しない。ただやり方がよくなかっただけ。今回のはダメって言ったのに入ってきちゃったでしょ。それがダメだったんだよ。」

 

「うん、ごめんなさい。」

 

「俺も。そこまで思ってるわけじゃないんだよ。ただ今後他の人にこういうことしちゃダメだっていうのを言いたかったんだ。」

 

 するとひまわりが。

 

「他の人にはしないよ絶対!こんなことできるのは葛葉だからだよ…。」

 

 葛葉をいかに信頼しているか、それが伝わった。

 

「それなら良い。ごめんね、怒って。」

 

「ううん、ひまがダメって言われたのにやっちゃったのが悪いから。」

 

 葛葉は少し考えて、ひまわりに告げる。

 

「今日。」

 

「え?」

 

「今日は良いよ。ここで寝ても。」

 

「いいの?」

 

「うん。それで分かってくれるなら。」

 

「やった!夜が楽しみ!」

 




 嬉しそうに飛び跳ねながら部屋を出ていった。その姿を一息つきながら見つめる葛葉。一通り伝えることを伝え、自分の正体を打ち明け、葛葉の中にあったひまわりに対する不安はすっきり無くなった。ひまわりがどれだけ自分のことを信頼してくれているのか、改めて身に感じた葛葉だった。ドーラは社に。葛葉はひまわりに。お互いが信頼できる相手に打ち明けた2人。今はまだみんなに打ち明けることはできない。が、これからの生活にとって大きな一歩であった。 
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