築はチャイカにドーラと葛葉のことを話した。するとチャイカはふぅ、と息をついてから話し始めた。
チ「またアンタのお節介が出たの?」
社「いやまぁ、ひまわりもいて欲しいっていうから…。」
チ「アンタ前もそう言ってたじゃない。娘が願ったから住まわせてるって、人はおもちゃじゃないんだよ」
社「別におもちゃなんて思ってないけど…。」
チ「例えの話!んで、何を聞きにきたの?」
築は気難しい顔をした。
社「…まだ、信用し切れてないんだ。ドーラさんは日本のことを知らない外国人ってのはわかってるんだけど、それを装った悪い人とかかもしれないって思ってる自分もいるんだ。葛葉くんは見た目が怖いしさ。」
チ「なるほどねぇ。それで、家に置いとくのが不安なのね。」
社「あぁ。」
チ「とりあえず、はいこれ。」
チャイカは築にコーヒーを渡した。
社「えっ、なんで?」
チ「アンタ残業明けでここ来たでしょ。これからいろいろ話すから脳を起こすのに必要でしょ。私の奢りだから構わず飲んで。」
社「すまない…。」
そう言ってチャイカがくれたコーヒーを飲む。
社「はぁ、お前の淹れたコーヒーは違うな。」
チ「嬉しいこと言うじゃない。ちなみに何と比べてんのよ。」
社「インスタント。」
チ「金払え。」
社「はははっ!」
チ「やっといつもの社に戻った。」
社「そう?」
チ「さて、じゃあさっきの話の続きをするわね。」
社「頼む。」
チャイカは息を整え、伝わりやすいように紙とペンを持ってきた。
チ「まず、アンタがここ。んでひまちゃんがここ。」
真っ白な紙の真ん中にそれぞれの名前を書いていく。
チ「これでとりあえずアンタらの関係図ができた。こっからアンタが書くの。」
紙とペンを築に渡す。
社「俺が?」
チ「だってアンタがその人達をどう思ってるかなんて知らないし、自分で書いた方がしっかり実感するでしょ。」
社「確かに…。」
築はドーラ達に対する今の印象を書く。
ドーラ・日本語はちょっと変だが外国人にしては上手い。好奇心旺盛。
葛葉・礼儀正しい。静かめ←会話が好きじゃないかも。
チ「ふーん、これが今の印象ね。これだけ見ると悪い人達ではなさそうってのは分かる。」
社「それに家に住まわせる代わりに家の家事を任せたんだけど、それもしっかりやっててくれてるんだよね。」
チ「尚更ね。」
チャイカが何か思いつく。
チ「これはアンタ次第だけど…。」
社「⁉︎…まぁそれが一番分かりやすくて簡単だけどね。」
チ「アンタが決めることだからね。」
築はしばらく黙り込んだ。
社「少々人として気が乗らないけど、悪い人達じゃないことを証明するには必要なことだと思うから…、やろう!」
チ「そうかい。」
社「色々準備しないとだからもう帰るわ!」
築は席を立って店を出ようとした。
チ「待ちな。」
そう言うとカウンター裏の部屋からがちゃがちゃと何かを持ってきた。
チ「アンタが必要なものってこれらでしょ?」
そこにあったのは小型のカメラとそれを遠隔で操作できる小型のパソコンだった。
社「え、そうだけど、なんで揃ってんの?」
チ「ふぅ。オカマには人に言えないものが3つはあんのよ。」
社「そうなのか…。」
チ「気にせず持ってって頂戴。ずっと店にあって邪魔なのよ。」
社「ありがとうチャイカ!」
ガチャン…
チャイカに礼を言い、店を後にした。
チ「…それで見たくないものが映ったらなんて、まぁそこまで踏まえての覚悟があったんでしょうね。」
築はチャイカにもらった機械類を持って帰路についた。
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ガチャ…
社「ただいま…。」
リビングの灯りは消え、家は静まり返っていた。それもそのはず、実際家に帰ってきたのは仕事が終わった21時から2時間後だったからだ。
社「あ、連絡しておくべきだった。」
キッチンには晩ご飯だった照り焼きチキンがラップかけて置いてあった。
社「冷たい…。せっかくひまわりが作ってくれたのに、ごめんな。」
冷たくなってしまったチキンをレンジに入れた時、皿の下から紙が落ちてきた。それはひまわりの字で書かれた手紙だった。
社「なんだこれ。ひまわり?」
そこにはこう書かれていた。『今日はドーラさんと一緒に買い物に行ったんだ!その途中に葛葉くんにあって今日の晩ご飯はお肉が良いって言ってたから照り焼きチキンにしてみたよ。二人とも美味しいって言ってくれて嬉しかった!その片付けの後にパパの分も作っておくとしたらドーラさんもやってみたいって言ったから教えて一緒に作ってみたんだけど、そしたらドーラさん料理上手なの!びっくりしちゃった。それでパパの分はほとんどドーラさんが作っちゃったんだよ!ドーラさんの手料理、ちゃんと味わって食べてね! ひまわりより』
社「これ、ドーラさんが…。」
築は驚いていた。今までひまわりの料理を食べてきて、見てきた築でもひまわりが作ったものだと勘違いするほどの出来だったからだ。
社「ドーラさんが作ってくれたのなら尚更勿体ないな。」
レンジで温め直したチキンを静かなリビングで食べ始めた。
社「…美味いな。」
築は食べながらどこにカメラを置くか考えていた。
社「そこしかないな。」
今日はカメラだけ仕掛け、残りは明日仕掛けることにして風呂に入りそして寝た。
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ひ「パパ〜?会社遅れるよ〜。」
社「あーい…。」
今朝はひまわりの呼ぶ声で目が覚めた。
社「ふあぁ…。」
ガチャ…
ド「きゃっ!」
寝ぼけたまま扉を勢いよく開けてしまったため、もう少しで廊下を歩いていたドーラさんにあたるところだった。
社「ご、ごめんなさいドーラさん!大丈夫でしたか?」
ド「大丈夫じゃ!わしも寝ぼけててぼーっとしてたのが悪い。」
社「ぶつけてなくて良かった…。」
朝から事故が起きるとこだった。ドーラは怪我はなかったが何かそわそわしていた。
社「どうしたんですかドーラさん?」
ド「あ、いやなんでもない!」
ドーラは焦りながら階段を降りていく。その途中で築は思い出す。
社「あ、ドーラさん。昨日の照り焼きチキン、とても美味しかったですよ!また何か作ってください。」
するとドーラの頬が少し赤くなった。
ド「…!」
ドーラは何も言わずに洗面所へ向かった。
社「どうしたんだろう?」
ひ「ドーラさん可愛い…。おはようパパ。」
社「おはようひまわり。ドーラさんなんかあったのか?」
ひ「…さぁ、何かあったんでしょうね。」
社「?」
社と同じタイミングで部屋を出ようとしていた葛葉はその全てを見ていた。
葛「(…青いね。)」
ひ「あっ葛葉くんおはよう!」
葛「おはようございまスーーー…。」
葛葉は昨日の夜にあったことを思い出してひまわりと目が合わせられなくなっていた。
社「おはよう葛葉くん。」
葛「おはようございます。」
ひ「なんかひまと反応違くない?」
葛「そんなことないっすよ…。」
ガララ…
そこに顔を洗い終わったドーラが入ってきた。
葛「お、おはようございます…。」
ド「おはよう葛葉殿。」
社「あの、ドーラさん。私何かしましたっけ…?」
ドーラはさっきのことを思い出して築のいない方を向く。
ド「い、いや。何も悪くないと思う…。気にしないでくれ。」
社「そうですか…。」
ひ「パパほんとに会社遅れるよ?」
社「あ、まずい!」
築は急いで顔を洗いに向かった。
葛「なんか朝から慌ただしいですね。」
ひ「昨日も帰りが遅かったらしいからその疲れが取れてないのかも。」
葛「大変ですね。」
ド「(『とても美味しかったですよ!』か。)…ンフフッ。」
ひ「ドーラさん、何か嬉しいことでもあったの?」
ド「えっ!いや、何も?…いつもと変わらんと思うぞ!」
ひ「そう?すごいニコニコしてたから何かあったのかなって。」
ド「そんなに顔に出てたのか⁉︎」
葛「すごいしっかりと。」
ド「〜!」
ドーラは真っ赤になった顔を隠しながらソファーの方へ逃げていった。
社「ふぅ、少し落ち着いた。葛葉くん次いいよ。」
葛「はい。」
社はチラッとテレビの前にあるソファーに顔を埋めているドーラを見る。
ひ「…パパ、ドーラさんに何したの?」
横で弁当を準備しているひまわりが小声で聞いてくる。
社「いや何もしてないよ!ただ朝部屋から出た時にぶつかりそうになったぐらいだよ。」
ひ「それでこの状態にはならないでしょ。その時にほんとはぶつかってたんじゃないの?」
社「でもなんで顔が赤くなるんだ?」
ひ「まぁ、その〜、当たったんじゃない?」
社「ドアが?」
ひ「…ドーラさんの胸が。」
社「なっ⁉︎そんな感触なかったぞ!」
ひ「いいから早く謝ってきなよ!」
築はひまわりに急かされるようにドーラのもとへ向かう。
社「あの〜、ドーラさん?」
ビクッ!
ド「な、なんじゃ…?」
社「その、朝のことなんですけど…。」
ド「…んっ!」
社「すいませんでした!」
葛「…なんで?」
築がドーラに対し土下座したタイミングでリビングに帰ってきた葛葉はその場の状況が理解できずにいた。
ひ「パパがね、ドーラさんに対してやらかしちゃったの。」
葛「えぇ⁉︎」
弁当の用意を済ませ他の準備をしながら築のことを遠い目で見て説明するひまわり。
葛「俺が顔洗ってる間に何が…。」
ド「…え?」
社「この通りです!すいませんでした!」
ド「な、何に対して謝ってるんじゃ?」
社「朝部屋のドアを開けてドーラさんにぶつかりかけた時に、その、ドーラさんの胸に触れてしまったことです…。」
葛「(あれ?ぶつかってなかったよな。)」
ド「…え?」
社「あの時、葛葉くんも見ていたよね!」
葛「はっ⁉︎(いや当たってないようにも見えたし、当たってるようにも見えた。これはどっちを言うべきだ?でも社さんもひまわりさんも全てを認めてる顔をしてるから!)…はい、あなたはあの時触れていました。」
社「…。」
ひ「…。」
葛「…。」
三人が黙り込みながらドーラの反応を待つ。
ド「あの時にわしの胸を触ったのか?」
社「…はい。」
築は怒られること、幻滅されることを覚悟していた。
ド「…そんなことで謝らなくても良いのに。」
社「そんな事⁉︎」
ド「別に胸なんかに触れるのは構わんぞ?」
社「ぇ?」
その瞬間、キッチンに立っていたひまわりが猛スピードでドーラをリビング廊下へと連れ出す。
葛「ヤベェ女人だ。」
ちなみに築はドーラの爆弾発言をもろに受け、思考が停止していた。
3分後…
ひまわり達が戻ってきた。
社「ドーラさん、大丈夫ですか?」
するとドーラの顔が再び真っ赤になり。
ド「さっきのはダメじゃ‼︎」
と言ってまたソファーに顔を埋めた。
社「…でしょうね。」
ポカンとしてる築に近づく葛葉。
葛「社さん、会社。」
そんなことが起きた今日の朝だった。
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社「行ってきまーす!」
築はそれから急いで着替えて出勤して行った。
ひ「なんとか間に合ったかな?」
葛「結構ギリギリでしたね。」
ド「なんだか申し訳ない気がする…。」
さっきのことを気に病んでいるドーラに対し二人が声をかける。
ひ「まぁ、あれはパパも悪かったんだし。そんなにドーラさんが思うほどでもないよ。」
葛「今後気をつければいいと思いますよ。」
ド「そうか…?」
ひ「うん!」
葛葉が時計を確認する。築のことで頭がいっぱいになって気付いていなかったががひまわりが学校に行く時間になっていた。
葛「あれ、ひまわりさんも時間大丈夫ですか?」
ひ「あっ、まずい⁉︎」
ひまわりは身につけていたいたエプロンを急いで脱ぎ、自分の部屋に向かった。
葛「親子だなぁ…。」
ド「…。」
葛「(ん?)」
葛葉は『親子』という言葉にドーラが反応したことに気づいた。
葛「ドーラさん、何か…。」
ひ「遅刻だぁ〜!」
気になりましたか?、と聞こうとしたが勢いよく階段を降りてきたひまわりに邪魔されて言えなかった。
ひ「葛葉くんそこのお弁当取って!」
葛「はい、どうぞ。」
ひ「ありがとう!」
そのままバタバタと玄関で身だしなみを整えて家を出て行った。
ひ「行ってきます!」
バタン!
葛・ド「行ってらっしゃい。」
葛「…。(気まずい。)」
ド「あ、さっき何を言いかけたんじゃ?」
気になった表情で聞いてきた。
葛「あぁ…、いや、大したことじゃないんで忘れていいですよ!」
ド「そうか。聞きたくなったらいつでも聞いてくれ。」
葛「はい…。あ、じゃあ俺洗濯してきますね…!」
気ごちなさを隠せずに、その場から立ち去ることしかできなかった。
葛「はぁ、あの人と二人になると会話ができなくなるのなんでだ?他と違う何かを感じるんだよなぁ。」
謎に生まれる気まずい状況、それがなんでなのか色々考えてみたけど今じゃ何もわからなかった。そんなことを思いながらいつも通りの仕事をこなして行った。
ド「今日は昨日よりも少ないな。」
今朝の弁当と朝食で使った食器洗う。
ド「(それにしても朝のは自分でも驚いた。初めての料理ではあったが「美味しかった」と言われただけなのに、心臓がおかしいくらい鼓動したからの…。)」
ドーラは今朝の動悸がなぜ起きたのか分からずにいた。
ド「(あ、昨日のてれびを見ていた時にもなったな、今まではなかったのに。まだ人間界に慣れてないせいかなぁ…。)」
こちらもまた色々考えては疑問に思っていた。それから10分ほど経った。葛葉は洗濯し終わった物を干すため外に出ていた。
葛「ん?なんか午後から雨降りそうな感じがする…。」
真上は綺麗な青空なのに遠くの空に真っ黒な雲が広がっていた。
葛「これ、乾くか?」
一応全て干したが、乾くまでに雨が降りそうだった。葛葉は不安そうにリビングへ戻る。そこではやることを終えたドーラがテレビを見ていた。
ド「あ、おかえり葛葉殿。」
葛「うっす…。なんか、天気、悪くなりそうですねぇ〜。」
ド「そうなのか?」
葛「遠くの空が真っ暗でしたから。…ドーラさんは今何を見てるんですか?」
葛葉は自らふった天気の話が良い判断であったが、そんなに広げられないことに気づいた。
ド「いや、特にやることがないから適当につけてるだけじゃ。これ見てるだけでこっちのことがわかるからな。」
葛「そうなんですね。あの、もし良かったら天気予報とかって見てもいいですか?」
葛葉はどうしても気になる今後の天気を知るため、ドーラに頼む。
ド「天気予報…?そんなものがあるのか、見て良いぞ!わしも見てみたい。」
そう言って葛葉にテレビのリモコンを渡す。
葛「ありがとうございます…。(えーと、貸してもらったのはいいけど天気予報ってどこで見れるんだ?この数字でも適当に押してたら出てくるか?)」
葛葉は1〜12のチャンネルボタンを順々に押していく。
ド「…。」
葛「…。」
ドーラが次々に変わっていく画面を食い入るようにみている横で全然天気予報が見つからないことに焦りを感じてる葛葉。
ピッ…
葛「スゥーーーー…。」
全てのチャンネルを回しても天気はやってないわ、一部チャンネルは見れないわで心底焦っ裏が増している葛葉。
ド「天気予報はないのか?」
葛「アッ、いや、あの〜、まだ…、みてないとこあるんで、そこにあると思います…。」
ド「ふ〜ん…。」
葛葉が焦っている理由は、自分が見てたテレビを貸してやったのになんで早く天気予報を見せないんだよ!、とドーラが苛立っていると勝手に勘違いしているからである。実際ドーラは自分の知らないテレビの使い方をこっそりと葛葉を見て学んでいるのである。
葛「(早く見つかって!お願い!ドーラさんの視線を感じるたび焦ってくるから!)」
その時葛葉の頭の中に直接声が聞こえた。
豚「〔ラグーザ様!天気予報を見る方法がわかりました!〕」
豚が魔力で語りかけてきた。
葛「〔教えてくれ!〕」
葛葉は豚が言う通りにリモコンを操作する。
ピッ…
葛「〔あった!〕」
豚が言うには、ドーラが適当に触った時にBSになっていたためそこを変えればみれる、と言うことだった。
葛「〔豚ナイス!〕」
豚「〔ふふん!〕」
葛葉は魔力を切り、豚との会話を遮断する。
葛「ドーラさん、これが天気予報ですよ。」
ド「おっ、見つかったのか。」
葛「これからの天気…、やっぱり雨が降るそうです。」
ド「洗濯物はどうするんじゃ?」
葛「午後から降るらしいんで、飯食ったら取り込まないとですね。」
ド「それじゃ乾ききらんだろう?」
葛「う〜ん…。」
するとまた豚の声が届いた。
豚「〔そんな事もあろうかと思って準備しときました!〕」
葛「〔何する気だ?〕」
豚「〔見ててください!〕」
豚がそう言うとテレビが一瞬暗くなった。その後画面が真っ白になり変な番組が始まった。
葛「〔なんだこれ?まさかお前が⁉︎〕」
豚「〔任せてください!〕」
突如始まった番組では簡単にできる家事の特集を行なっていた。
葛「〔おい、これが何になるんだよ!聞こえてんのか?〕」
豚の方で切ったようでこちらの声は届いていなかった。
ド「葛葉殿。今てれびで写ってるやつ、やれるんじゃないか?」
葛「えっ?」
葛葉は振り向き、テレビを確認する。そこには簡単にできる部屋干し講座が写っていた。
葛「部屋、干し…?」
ド「家の中で洗濯物を干せる物なのか?」
半信半疑のまま実際にやってみることにした。
葛「外の物干し竿を家中に持ってくる、らしいので手伝ってもらえますか?」
ド「いいぞ!」
テレビの通りに物干し竿を移動する二人。それを窓際にあった部屋干し用の金具にかけた。
葛「これで室内干しになるそうです。」
ド「ただ外から中に移動しただけだが、これで乾くのか?」
葛「乾かなかったら雨のせいにはなりますし、大丈夫でしょう。」
それから葛葉は自分の部屋に戻った。ドーラはリビングで再びテレビを見に戻った。
バタン…
葛「豚。」
豚「…はい。」
クローゼットからそーっと顔を出して返事をする。
葛「ちょっと出てこい。」
ガラガラ…
豚「…はい。」
葛「さっきのやつ、あれなんだ。」
豚は葛葉の前に正座し、一連の行動の説明をし始める。
豚「えー、あれは回復した魔力を使った遠隔操作魔術『リモートコントロール』です。主に操作したい物の構造を理解していれば大体のものをどこからでも操作できる術です。まず人間界のテレビという物の構造を分析し、それからこの術を使ってワタシの脳内を映しました。」
葛「…お前、有能じゃね?」
豚「そうですか?」
葛「人間界でのハプニングに対する対処が初めてとは思えねぇ。」
豚はここで葛葉が怒ってないことに気づき、ほっとする。
葛「ていうか、さっきの遠隔操作魔術は分かったけどその後の自分の脳内を映させたのってどうやったんだ?」
ほっとした顔をしていた豚だったが、それを聞いて顔が変わった。
豚「ラグーザ様。魔界に存在する魔術の全てを記してある『アルバダ魔術録』ってご存知ですよね?」
葛「あぁ、俺が父上から幼い頃に貰った魔術一覧本だろ。」
豚「そうです。そして魔界には使ってはいけない魔術があるのもご存知かと。その使ってはいけない魔術を禁術と言われるのですが、その禁術が記されている『イムルカ魔術録』というのが存在するんです。」
葛「イムルカ魔術録…?聞いた事ないな。」
豚「これは魔術でいう禁止行為、黒魔術に使われる術が載っている本なんです。別名『イムルカ禁術録』。」
葛「なんでお前そんなに詳しいんだよ。」
豚は深呼吸をし、葛葉に隠していたことを話し出す。
豚「話は遡ること、ワタシがアレクサンドル家に侵入しラグーザ様に捕まった頃のこと。ワタシは元々、黒魔術に使われるはずの生贄だったんです。」
遠くにあったはずの雨雲がいつの間にか空全体を覆っていて次第に雨が降ってきた。
葛「お前が、黒魔術の生贄だった…?」
豚「はい。」
葛「お前は魔物だろ?」
豚「…正式には実態を持たない魔物がワタシの体に入って魔物化したってのが正しいですね。だから元はただの家畜の豚です。」
葛「今喋ってるのは豚の方か?それとも魔物か?」
豚「豚の方です。実態を持たない魔物というのただの魔物の魂です。元はワタシの体を乗っ取ろうとしたのでしょうが、弱すぎてワタシ自身が取り込んでしまいこうなりました。」
葛「だからお前は学習もするし、二足歩行で歩くし、喋るんだな。」
豚「そうです。」
葛「それでどうなったんだ?」
豚「ワタシが魔物化したのは生贄に使われる二日ほど前のことでした。今までなんかより物事を理解できるようになり、簡単に檻から抜け出せました。出口を探して彷徨っていると黒魔術を行う祭壇のようなとこへ出ました。その祭壇に置いてあったのが『イムルカ魔術録』でした。」
葛「…。」
豚「ワタシは好奇心でその本を開きました。たくさん記してある魔術を見ているうちにその魔術全てを覚えてしまったのです。」
葛「…は⁉︎お前、禁術全部覚えてんのか⁉︎」
豚は深く頷いた。
豚「自分でも驚きました。魔物化したことによって記憶力が大幅に高まった結果だと思います。」
葛「そのあとは?」
最初は興味持たずに聞いていた葛葉だったが、気づけば豚の話に釘付けだった。
豚「生贄がいないことに気づいた黒魔術師たちがワタシを探しにきました。ワタシは捕まらないように必死で逃げました。どこか入り口を探しながら。ちょうどワタシくらいの大きさで通り抜けれる穴を見つけたとき、奴らに見つかり捕まりましたが咄嗟に覚えたての魔術を使い、ワタシを掴んだ手を吹き飛ばしてなんとか逃げ出すことができました。」
葛「それから俺の家の敷地に迷い込んだのか。」
豚「そうです。何か大きなところへ隠れるつもりで訪れました。まさか大貴族の家だったなんて…。」
葛「まぁ、逆に俺らでよかっただろ?」
豚「そうでしたね、結果的には。」
豚は再びいつもの顔に戻った。
葛「それでさっきの自分の脳内を映した魔術ってのがその禁術なのか。」
豚「そういうことです。その術は自分の脳内を相手に移して考えを強制的に変えれる術なんです。」
葛「確かに悪用厳禁な術だな。そんなのが出回れば魔界どころか世界が終わっちまう。」
豚「だからと言ってはなんですが、この『イムルカ系』は使う際に『アルバダ』の3倍の魔力を消費します。」
葛「なるほど、連続使用はできないんだな。」
豚「なので、今すんごく疲れています…。」
ぐてっと横になる豚。
葛「てか、禁術をこんなしょうもないことに使うなよ…。」
豚「禁術と言われてますが、使い方次第では通常魔術と変わらないですから大丈夫ですよ。」
葛「そうなんか…?」
リビングからドーラの声が聞こえる
ド「葛葉殿〜、そろそろお昼の時間じゃぞ〜。」
葛「あ、もうそんな時間か。ちょっと行ってくるわ。」
豚「ラグーザ様、ワタシにも何か持ってきてください…。」
葛葉は手で返事をして部屋を出ていく。リビングに降りるとドーラが昼飯の準備をしていた。
葛「今日の昼飯ってなんですか?」
ド「おっ、今日はひまわりが『弁当』を作っていってくれたぞ!」
葛「社さんに朝作ってるやつですよね?」
ド「どうせならみんなの分作っちゃおう!って言ってたぞ?」
葛「じゃあ、今日の昼飯は弁当なんですね。」
ド「そうじゃ!もう温めたから運んで食べよう。」
葛「あ、温めてくれたんですね。ありがとうございます。」
葛葉はドーラから弁当を受け取り、テーブルに座った。
ド「いただきます!」
葛「いただきます。」
蓋を開けると半分はおかず、もう半分はご飯になっていた。
葛「すごい小さい、でもこれならどもでも食べれますね。」
ド「小さいがしっかり詰まってて美味しそうだ!」
葛「(ドーラさん知らない料理だらけだからか、食事の時テンション高いよなぁ…。分かるけど。)」
見た感じおかずの方には、野菜を使った物、小さなハンバーグ、それからウインナーが入っていた。
ド「なんだこれは?…ん、美味い!!」
葛「うん、美味しい。」
葛葉からしてみればハンバーグなどはいつも夕食に出ていた。どれも魔界で名のあるシェフが作っていた物だったが、それに劣らないほど美味しいと感じていた。
ド「どれも名が分からないが美味しいなぁ!流石ひまわり殿が作った料理じゃ!」
葛「この丸い肉はハンバーグと言われる料理ですよ。」
ド「葛葉殿、知っているのか?」
葛「どれも昔から食べていた物ですからね…。でもそれより美味しいですけどね。」
ド「そうか、葛葉殿は高貴な方じゃったな。」
葛「家柄なんてどうでもいいですよ。あんな堅苦しいもの…。」
ド「…そう言えばなんじゃが、なんで葛葉殿が家出したのか教えてくれんか?」
葛「…。」
葛葉が口籠ったのを見てドーラが察する。
ド「あ、言いたくないことじゃったら無理して言わんでいい。わしが興味本位で聞いたことじゃったから。」
葛「あ、いえ。言いたくなかったわけでなく、どう説明したらいいか…。」
ド「答えてくれるのか…?」
葛「そうですね簡単に言うと、元々家を出る気だったんです。」
ド「えっ?」
豚「えっ?」
その葛葉の発言はドーラだけでなく、二階で盗み聞きしていた豚も驚くものだった。
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社「ご馳走様でした。」
築は会社で昼飯を食べ終わり、残った昼休憩の時間に今朝家につけたカメラの映像を確認する。
社「これで見れるか?」
カメラをオンにするとリビングの映像が映った。ちょうど葛葉とドーラが弁当を食べながら話をしているところだった。
社「(二人に特に変な変化はないか…。普通に弁当食べてるしな。)」
築は自分がやっている行為に罪悪感を抱いていた。それもそのはず、チャイカに言われた考えというのは『これはアンタ次第だけど、自分の家にカメラを設置してそれでアンタが監視するってのはどう?』とう言うものだった。これは確かに実用的で一番簡単な方法であったが、彼らのプライベートを勝手に覗くと言う罪悪感が社にのしかかっていた。
社「(午前中は忙しくて見れなかったけど、何もしていないことを願おう。)」
そのまま見ているとドーラが立ち上がりキッチンの方へ向かった。どうやら食べ終わったようだ。
社「片付けか、ちょっとカメラ近づけるか。」
少しカメラを拡大させた時。葛葉と目があった。
社「(え!?気づかれた?)」
ド「葛葉殿食べ終わったら…、どうした?」
葛「ん、いやなんか目線を感じたんで。」
ド「?そうか。」
社「(これが若い子の動体視力なのか?)」
築はなるべくカメラをいじるのを控えた。
葛「(あの黒いのなんだ?)」
葛葉はそのカメラの存在に気付いていた。しかしそれがカメラであるということと、築が見ていることには気付いていなかった。