ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
愛紗と趙雲が坑道内を探索していた頃―――
いつでも出陣できるように、準備をしていた公孫賛のところに、1人の文官が報告をしていた。
「ルフィ殿と張飛殿が?」
「はい…『あまりに暇だから自分達も、赤銅山に行って賊の隠れ家を探す』と…」
「我々が何日かけて探しても、見つからなかったのだぞ。それによく道を知らないまま行けば、間違いなく迷子になるぞ」
「私もそう言ったのですが、『いいから、場所を教えろ』と…」
「…それで、教えたのか?」
「はい…そしたら、あっと言う間に飛び出していきまして…」
▽
同刻、赤銅山の山中にて―――
「う~ん…」
「道がわからないのだ…」
飛び出していった2人は、案の定迷子になっていた。
「隠れ家があるはずなのに、全然建物がないのだ…」
「う~ん、もしかしたら木の上とかにあんのかな?」
「木の上に隠れ家があるのか?」
「ああ、おれも昔木の上に家作ったりしてたからな」
「でも木は沢山あるのだ…」
「そうだよな~…」
「そうだ!ルフィが首を伸ばして、上から探せば良いのだ!」
「おお!そうだよ!頭いいな鈴々!」
「にゃはは」
「よォし!“ゴムゴムの”…“展望台”!」
そう言うとルフィは真上に首を伸ばす。
そして、周りを見渡した後(頭が)降りてきた。
「どうだったのだ?」
「家はなかったけど、あっちに洞窟があったぞ!あれが隠れ家かもしれねェ!」
「じゃあ、行ってみるのだ!」
▽
坑道の隠れ家の、最も奥まった場所に牢屋はあった。
その中には4人の子供達が閉じ込められており、1人の賊が見張りをしていた。
「―――ったく、宴の時に見張り番なんてついてねェな…」
カタン
「?」
不意に物音がし、見張りの賊は音がした方を見る。
すると壁際から形の整った脚が現れた。しかも裸足である。
(おおっ⁉)
さらにほっそりとした腕が現れ、誘惑するように手招きをする。
(へへへ~♡)
すっかり色香に惑わされた賊は、警戒する事なくのこのこと壁の向こうへとおびき寄せられ…
「フゲッ⁉」
その美脚の持ち主、趙雲に仕留められた。
「これで鍵は手に入った…ついでにコレも貰っておこう」
そう言って趙雲は賊が持っていた牢の鍵と槍、剣を拝借するのだった。
▽
子供達を助け出した愛紗達は、趙雲を先頭に坑道の中を走っていた。
「娘よ、出口の検討はつかないのか⁉」
「すみません!私達も捕まった後すぐに目隠しをされて、牢屋に連れて行かれたので…!」
「そうか…!マズイ!」
趙雲達は前方の横道から歩いて来た、賊の1人に出くわしてしまった。
「いたぞー!こっちだー!」
愛紗達は慌てて引き返す!
しばらく走ると前方に光が見えてきた!
「!出口だ!」
▽
同じ頃、赤銅山の山中―――
「洞窟はあったけど…」
「これじゃあ中に入れないのだ…」
ルフィが上から見たときはわからなかったが、その洞窟の入り口は断崖絶壁のど真ん中にあり、ルフィと鈴々は近くの崖からそれを見ていた。
入り口付近には、数人が乗れそうな足場があるだけで、辿り着くのはまず不可能だった。
「どうするのだ?」
「よし、おれが飛んで中見てくる」
そう言うとルフィは近くの岩に摑まる。
「“ゴムゴムの”…」
「しまった!行き止まりだ!」
「「⁉」」
ルフィが飛ぼうとする寸前、洞窟から何人かの人が出てきた。
その内の2人は見覚えがあった。
「愛紗!」
「そんな所で何をしているのだ?」
「!ルフィ殿!鈴々も!」
それは坑道で出口を探していた愛紗達だった。
愛紗達が見つけた光は、この入り口に通じていたのだった。
愛紗達も向かいの崖にルフィと鈴々がいる事に気づき、大声で呼びかける。
「ルフィ殿!あなたの
「追い詰めたぞ!」
「「「「「「「「!」」」」」」」」
しかし、それよりも早く賊が追いついてきた。
「観念しやがれ!」
「クッ…!」
「「愛紗!」」
まず3人の賊が坑道内から、崖に突き出た足場へと出てくる。
愛紗と趙雲は応戦しようと、先ほど賊から奪った武器を構える。
ルフィと鈴々も愛紗達が危ない事を知り、何とか援護しようと考えるが…
バキィッ!
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
突然嫌な音が響き、愛紗達が乗っていた足場が崩れた!
「「「きゃァァァァァ⁉」」」
「「「うわァァァァァ⁉」」」
愛紗に趙雲、村の娘や子供達も皆真っ逆さまに落ちていく!
「うわァァァァァ⁉」
「た、助けてくれー!」
愛紗達と同じ足場に乗っていた賊達は必死に、坑道内に残っていた仲間の足に摑まり、助けを求めるが…
「うわっ!やめろ!」
「手を放せ!」
「俺達まで巻き込まれるだろ!」
「ええっ⁉」
「そんなァ⁉」
無慈悲にも手を叩き落される。
その様子を見ていたルフィは―――
「鈴々!おれの足しっかり持ってろ!」
「わかったのだ!」
そう叫び、崖に身を投じた。
▽
(くそっ!この高さでは助からん!)
落下していく中、趙雲は自分の命運が尽きた事を悟り、思わず目を閉じる。
すると―――
「⁉」
不意に落下が止まり、目を開けてみると…
「なっ⁉」
「んぎぎぎぎぎ……!」
ルフィが胴体と首を伸ばし、趙雲の服を口にくわえていた。
同じように落下していた愛紗や娘達も、ルフィが伸ばした腕でぐるぐる巻きにされ、しっかり摑まれていた。
「こ、これは…?」
「おおおおおっ!」
そのままルフィは全員を引き上げた。
「ふ~…間に合った…」
「た、助かりましたルフィ殿…」
「な、何今の…?」
「体が…伸びた…?」
「お、お主は一体…?」
趙雲達はルフィの身体が、人間とは思えないほど伸びていた事に驚く。
「た、助かったのか…?」
「い、生きてるよな…おれ達?」
「⁉」
後方から大人の男の声が聞こえ、趙雲が見てみると、一緒に落下していた賊達がそこにいた。
「お、お主賊まで助けたのか⁉」
「だって、ほっといたら死んじまうだろ」
「そ、それはそうだが……」
ルフィの行動に趙雲は驚いたような、呆れたような顔をした。
「さて…」
「「「⁉」」」
愛紗はその3人の賊に武器を向ける。
「形勢逆転だな。どうする、まだやるか?」
「う…」
愛紗と趙雲は落下しつつも武器を放さなかったが、賊の方は武器を放り投げ丸腰となっていた。
「わ、わかった、降参するよ…」
「これじゃあ勝ち目ねェし…」
「助けて貰った恩もあるしな…」
「…なら良い」
「おい!あいつら生きてるぞ!」
「!」
声の方を見ると、洞窟の中から数人の賊がこっちの様子を見ていた。
「あいつらまさか、官軍の間者か何かか?」
「マズイ!隠れ家のことがばれるぞ!」
「お頭に報告だ!」
「…どうやら、急いで公孫賛殿に報告する必要がありそうだな」
「しかし、間に合うか?」
「よし!お前ら先に行ってろ!」
「ルフィ殿は?」
「あいつらブッ飛ばしてくる!“ゴムゴムの”…“ロケット”!」
そう言うとルフィは洞窟へ飛んで行った。
その様子を見た後、愛紗は賊に向き直る。
「おい貴様ら」
「は、はい!」
「坑道の出入り口がどこに通じているか、わかるな?」
「は、はい。一応、出入り口の場所は全部把握しています」
「では、この辺りの太守の屋敷まで道案内して貰うぞ。良いな?」
「はい」
「なァ…二人共…」
愛紗が賊と話をつけると、趙雲が訊ねてきた。
「あの男は…一体?」
「ルフィは―――天の国から来た人間なのだ!」
「…“天の国”…⁉」
鈴々の答えに趙雲は、またもや驚いた。
▽
坑道でルフィは大勢の賊に囲まれていた。
「間者を送るとは生意気なマネしてくれるじゃねェか」
「お前一人…丸腰で戻って来るとは、いい度胸だな」
「こっちには百人以上の兵がいるが、お前一人で相手するつもりか?」
「ああ。そのつもりだぞ」
賊の問いかけに、ルフィは拳を握りながら答えた。
▽
愛紗達は賊に案内をさせ、公孫賛の屋敷へと急いでいた。
「あとは道なりに進めば、太守様の治める街の南門に出る筈です!」
「そうか!」
「なァ、本当に良かったのか?」
走りながら趙雲が愛紗に訊いてきた。
「何がだ?」
「あの男を一人で賊の隠れ家に置いてきてだ!」
「心配ない!」
「ルフィは鈴々達の中で一番強いのだ!あんな奴ら何人いたってちょちょいのぷ~なのだ!」
「だが、何の武器も持たないで…」
「もともとルフィ殿は武器を使わん!だから問題ない!」
「なんと…!」
またしても驚く趙雲だった。
▽
坑道内。
「―――“槍”ィ!」
「ぐああっ!」
「この野郎!」
「一斉にかかれ!」
「「「「「「「「「「おおおおおっ!」」」」」」」」」」
「“ゴムゴムの”…“花火”!」
「「「「「「「「「「うぎゃァァァァァ!」」」」」」」」」」
▽
公孫賛の屋敷。
「成程、坑道を…。おい、そこの賊ども!」
「「「は、はい!」」」
「坑道の出入り口と、内部構造を詳しく教えろ!そうすれば多少は罰を軽くしてやる」
「「「は、はい!」」」
「公孫賛殿、可能な限り早くお願いします!」
「なァに心配するな、出兵の準備は既にできている。あとは道がわかれば良いだけだ!」
「そうですか」
「どうした関羽殿?あの男は強いのだから問題ないのだろう?」
「ええ、確かにルフィ殿は私達の中で一番強いのですが…一番頭が悪いのも彼なので…」
「成程…」
▽
「う~ん、困ったな…」
賊を全て片付けた後、ルフィは坑道で迷子になっていた。
「誰かに訊きてェけど、みんなぶっ飛ばしちまったからな~…。あ、そうだ!壁ブッ壊して出りゃいいんだ!」
▽
愛紗達は公孫賛の軍勢と一緒に、山中を進んでいた。
「すごい数の白馬ですな」
「公孫賛殿の白馬軍…実際に行軍を見るのは初めてだな…」
愛紗と趙雲がそんな事を話している隣で…
「『我が名は白馬将軍、公孫瓚!我が白馬軍の強さ、思い知るがいい!』…いや『我が白馬軍の恐ろしさ、とくと味わえ!』の方が良いか?」
「愛紗、あのお姉ちゃん何をやっているのだ?」
「鈴々、アレは気にしては駄目だ…」
「?」
ボコォォォォォン!
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
その時、突然近くの岩壁が吹き飛んだ。
「な、何だ!?」
皆が警戒していると、少しずつ砂煙が晴れ…
「よっしゃー!出られたー!」
ルフィが姿を現した。
「る、ルフィ殿⁉」
「おお、お前ら!何やってんだこんな所で?」
「それはこっちの台詞です!一体何を⁉」
「いや~賊は全員ぶっ飛ばしたんだけどよ、出口がわかんなくて壁ぶっ壊して出てきたんだ」
「お、おい…ちょっと待て…」
「?」
公孫賛が話に入ってきた。
「賊を全て倒したのか?」
「ああ、全員中でのびてるぞ」
「じゃあ私が戦う必要は…?私の出番は…?」
「ねェぞ」
「はは、そうか…まァ賊が成敗されたから、良しとするか…」
「?」
白馬にまたがり、ガックリと肩を落とす公孫瓚。
そして白馬も溜め息をつくのだった。
その後、賊は全員逮捕。
その坑道はいざという時の避難所として再利用される事になり、公孫賛が管理する事になった。
▽
翌朝、ルフィ達は公孫瓚のもとに一泊し、再び旅に出たのだが…
「お前、ホントによかったのか?おれ達と一緒に来て?」
「私達は仕官するつもりはなかったが、趙雲殿は公孫賛殿のもとにいれば、一角の将として名をあげることもできただろうに…」
そう。趙雲がルフィ達について来たのである。
「確かに公孫瓚殿は良い太守だ。だがそれだけだ。天下に覇を唱えられるような人物ではないし、影も薄い」
「か、影って…それはちょっと酷くないか?」
「この広い蒼天の下…私が仕えるべき主となる人物は、きっと他にいる。それに天の国の人間にも興味が湧いたし、何よりお主達といた方が、この先面白そうだ」
「…そうか」
「ふふ…」
「にゃはは」
「せっかくだから、私の真名を預けよう。これから私の事は“
「いいのか?」
「しばらく共に旅をする仲だ。それに…お主達ほどの武人なら、真名を預ける事に不満はない」
「では私の事もこれからは“愛紗”で構わん」
「鈴々の事も“鈴々”で良いのだ」
「おれは真名はねェから“ルフィ”でいい」
「わかった。―――では、私が仕えるべき主が見つかるまで、よろしく頼むぞ」
こうして、ルフィ達は新たに“趙雲子龍”こと“星”を仲間に加え、旅に出たのであった。