ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
「そういえば…少し訊きたいのだけれど…」
風鈴が口を開く。
「何ですか?」
「皆さんの中に、長安で李傕に監禁されていた、天子様と劉協様を助け出しくれた方がいると思うのだけれど…」
「ああ、おれだぞ」
「「!」」
ルフィが言うと、風鈴と楼杏は驚いた様にルフィを見つめる。
「あなたが…?」
「そうなの…?」
「ああ、そうだぞ」
「そうだったの…」
「…………」
「?」
二人はまたしばらく、ルフィの事をじーっと見ていた。
「何だ?」
「…!その…あなたには、ちゃんとお礼を言っておきたかったの」
「お礼?」
風鈴はルフィの方を向く。
「霊帝陛下と劉協様が、あなたのおかげで随分と変わられたから」
「変わられたとは?」
愛紗が訊ねる。
「さっき少し話したけれど、霊帝陛下は普段の生活も完全に管理されていて、自分で何かをしたり、考えたりする事がまずなかった。
それがここ数日は、誰かに言われるのを待たずに、自分で動く様になったの」
「まだ政には関心を持っていないけれど、自分の意志を主張し、押し通そうする様にもなった。
今までの陛下では考えられなかった事よ。
劉協様に訊いてみたら、きっとあなたのおかげだって言っていたわ」
「反面、十常侍達は相当困惑しているみたいだけどね…」
「特に趙忠殿なんか、天子様が宮殿の内外を問わずあちこち歩き回ったり、虫や動物を何でも触りたがるから、近頃は毎日の様に悲鳴をあげているらしいわ」
「確かに、そりゃ相当影響されているな…」
「ルフィは『なにもしない』とか『誰かの言う通りにする』っていうのを、取り除いた様な人間だからな…」
「さぞかしいい刺激になったでしょうね…」
ゾロ、ウソップ、ナミを始め、皆苦笑いする。
「劉協様もそうよ。あの方は直接国を支配する権威がある訳ではないから、天子様ほど干渉される事もなく、自分の意志や考えをしっかり持っていて、国や政への関心も高かったの」
「でも天子様の妹という立場上、何事にも与える影響は大きい。
だから、余計な知恵を付けない様に、十常侍達などによって行動を制限されていたの。
けど少し前に一計を案じて、陳留王に封じられる事で宮殿の外に出て、彼らの手の内から脱出したの。
今は私と楼杏さんで、政治の為の学問を教えているのよ」
「そっか、あいつ頑張ってんだな」
ルフィはどこか嬉しそうに言う。
「あれ?でも陳留って、たしか曹操さんが治めている街じゃないの?そこの王になったの?」
ナミが訊ねる。
「“王”っていうのは“太守”とかの官位とは違うものなの。
政治的な権限はないけれど、その領土の税収を自分の財産にする権利を有する爵位…“貴族の階級”の事なのよ。
天子様の一族や特別な手柄を立てた人間に与えられるの。
因みに、“王”は天子様の一族のみが名乗れる爵位で、それ以外の人は“
「王や侯が封じられた土地は“
爵位を貰った方はその街に移住するから、劉協様は今、曹操殿の城下町とは別だけど、陳留にある街で彼女達にもお世話になって、そこで暮らしているのよ」
風鈴と楼杏が説明する。
「ふ~ん…でもそんな制度があるんだったら、私達への報酬も黄金や武器じゃなくて、そっちでくれればよかったのに…」
「どうしてなのだナミ?」
「だって貰った物は全部使ったら何もなくなっちゃうけど、爵位を貰えば何回もお金が手に入るでしょ」
「あ!」
「う~ん…でも私は、その方が良いとは簡単には言い切れないかと思います…」
「朱里ちゃん?」
「いくら天子様をお助けしたとはいえ、何の身分もない者が高い爵位をいきなり貰うえば、それ面白くないと思う人は、沢山出て来ると思います。
そうなれば私達の義勇軍は、多数の権力者から敵視される様になって、兵は持ち堪えられなくなるかと…。
かといってあまり高くない官爵では、養う事ができる兵の数には限界がありますから、この軍は解散しなければならないでしょうし…。
何より今の世の中では、少しでも身分を持つと、同時に賄賂を贈る義務が生じる事が多いですから、すぐ剥奪されてしまうかと…」
「成程ね…」
「私も、孔明ちゃんの考えに同意するわ。
今回の報酬は、きっと趙忠殿や何進将軍、何太后様もその辺りを考慮して、手配したんだと思う。
あの人達、そういう所には知恵が回るから」
「正直に言うと、報酬を手配する途中や、ここに来るまでの道中も大変だったのよ。
盗賊は勿論、宮中の佞臣や各地の関所を管理している役人、長官達が何かと理由をつけて、おこぼれを貰おうとしたり、賄賂を要求したり…。
私達の部隊でなかったら、兵士達が略奪していたかもしれなかったわ」
朱里の言葉にナミは納得し、風鈴と楼杏も同意する。
「しかし…今までの話から考えると……コレ、本当に貰ってもいいのか?」
ウソップが報酬の目録を見ながら考える。
「確かに…コイツを貰っちまうと、おれ達がそいつらから賄賂を貰ったみてェになっちまうしな…」
「かといってつき返したりしたら、それはそれで厄介な事になりそうだしな…」
フランキー、サンジを始め、皆も考え込む。
「別に貰っていいんじゃないの?」
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
そんな中、ナミは悩む様子もなくそう言い切る。
「だってこれは、この間のお礼として私達にくれるんでしょ?だったら貸し借りが無しになるだけなんだし、受け取っても何の問題もないでしょ?」
「あー!そうだよな!これこの間のお礼なんだもんな!」
「成程な…!」
「ナミ殿の言う通りですな!」
「ふふっ…そうですね!」
「さっすがナミさん!」
ナミの言葉に、ルフィや愛紗、風鈴達も皆笑い出す。
「…………」
しかし、桃香だけは暗い表情をしていた。
「桃香ちゃん?どうかしたの?」
「いえ…私、何も知らなかったんだって思って…」
「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」
「私、今の世の中が乱れていて、大変な事になっているってのは知っていたんです。
でも、私にとってそれは山賊が暴れたり、大勢の人が苦しい思いをしているって事で…。
そういう政治の乱れや権力者の横暴は、全然頭になかったんです…」
「劉備殿…」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
「立派な働きをした人や能力のある人が正当に評価されなかったり、功績を称えられて恩賞を貰っても素直に喜べなかったり、正しい事や間違っている事がちゃんと判断されなかったりしてるって…。
だから、私が考えていた『世の中の為』っていうのが、もの凄く小規模な事だったんだなって…」
「……桃香ちゃん」
そう言う桃香に、風鈴は優しく語り掛ける。
「確かに世の中が乱れている根源は、政治の乱れであり、為政者達の悪政にあるわ。
けど、世の中が平和だという事の証明になるものは、民の暮らしの中にしか存在しないわよ」
「………!」
「戦がなくても、国庫が豊かでも、賄賂が横行していなくても、民が苦しんでいる世界には平和は存在しない。
だから『世の中の為』というのが『世の中に生きる民の為』というのは、私は決して間違っていないと思うわ」
「風鈴先生…」
「そうだよ桃香」
「ルフィさん…」
「偉い奴も、そうでない奴も、みんな笑ってられる国だからいいんじゃねェか。偉い奴の事ばっか考えたってダメだよ」
―――――おお‼ゴミが来たぞ‼
―――――
―――――あいつらは己を特別な人間だと思ってやがる、その他の人間はゴミとしか見てねェ‼
―――――お前さえこの国に来なければアラバスタはずっと平和でいられたんだ‼
―――――これが国民の義務なんですよね…‼ごめんなさい‼
「……はい!」
2人の言葉で、桃香は安心した様に笑った。
その後も、ルフィ、桃香達は風鈴、楼杏と語り合った。
その内日が傾いて来たので、その日は二人とその軍は桃花村に泊まる事になった。
せっかくなので、義勇軍の鍛錬や運営について、二人から色々と助言を貰う事にしたのだった。
▽
翌日、出発する風鈴と楼杏をルフィ達は村の入口まで見送りに来た。
「それじゃあ、また機会があったら会いましょうね」
「はい!きっとまた来てくださいね!」
「昨日は色々と助言をいただき、ありがとうございました!」
「白湯達にもよろしくな!」
桃香、愛紗、ルフィが風鈴と挨拶する
「翠さん、蒲公英ちゃん!元気でね!」
「楼杏も元気でな!」
「またねー!」
楼杏は翠、蒲公英と挨拶する。
「……ルフィさん、関羽さん、張飛ちゃんも」
「「「?」」」
風鈴が3人を呼び、顔を近づける。
「桃香ちゃんは弱い所もあるけど、根はとても強い子なの…。だから……あなた達で支えてあげてくれる?」
「おう!任せとけ!」
「必ずや!」
「任せるのだ!」
「ありがとう!」
そして2人は馬に跨る。
「桃香ちゃーん!皆さーん!お元気でー!」
「また会いましょうねー!」
「先生達も!お元気でー!」
「またなー!」
▽
「ねェ、楼杏さん」
2人が出発してからしばらくして、風鈴が話しかけた。
「何?」
「あのルフィっていう人の事、どう思う?」
「正直、想像していた人物とは全く違っていたわね」
ルフィの容貌を思い出しながら呟く。
「劉協様が救世主と言う様な方だから、私はてっきり、身の丈は十尺ぐらいあって、虎や狼を思わせる様な身体で、威風堂々とした豪傑を想像していたわ」
「私は
「そのどちらでもなかったわね」
「そうね」
2人は思わず顔を合わせて笑い合う。
「まァ、私達は彼とはろくに話もしていないから、何とも言えないけれどね」
楼杏は苦笑いする。
「ええ。…でも、少なくとも彼は英雄の資質を二つ備えていると、私は感じたわ」
空を仰ぎながら風鈴は言う。
「英雄の資質?」
「彼は人を集める事ができる、そして人を動かす事ができる」
「成程…確かにそれは、素晴らしい資質ね…」
「ええ。一見簡単に思うけど、本当の意味で人を集め、動かす事は誰にでもできる事じゃない。
私、あの人とその仲間を信じてみようと思うの。
桃香ちゃんが歩み寄って、劉協様達を動かしたあの人達をね…」
「そうね。私も正直、彼の事は嫌いではなかったし、興味も湧いたわ。彼らは信頼してみてもいいと思うわ」
2人は馬を並べ、語り合いながら帰路につくのだった。
また十日ほどしたら、今度こそロビンの話を投稿します!