ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第104話 “学問”

 

ある日、呂蒙は思春の執務室に呼び出された。

 

「ええっ⁉私が孫権様の部屋の警護を⁉」

 

「ああ。明日から、夕刻から夜明けまでの不寝番を務めて貰う。しっかり励むのだぞ」

 

「し、しかし私にその様な大役が…」

 

「親衛隊の者には、命令に対する質問も拒否も認められん!」

 

「!し、失礼しました!」

 

思春に叱責され、呂蒙はピシッと姿勢を整える。

 

「孫権様の警護の任!謹んで拝命致します!」

 

そう言って部屋を出て行こうとするが…

 

「あうっ⁉」

 

戸を開け損ねて額をぶつけてしまう。

 

「お、おい…大丈夫か?」

 

さすがの思春も心配になり訊ねる。

 

「だ…大丈夫です…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(はァ~…)

 

その日の夕方、勤務を終えた呂蒙は家である兵の宿舎に帰って来た。

 

(明日からの不寝番…大丈夫かな…)

 

「あら、お帰り呂蒙ちゃん」

 

宿舎の前で掃き掃除をしていたおばさんが声を掛けてきた。

足元には彼女の子供らしき男子と一匹の犬がいる。

 

「!管理人さん」

 

「?おでこに痣ができてるみたいだけど、大丈夫かい?」

 

「あ、はい。大した事ではないので」

 

「そうかい。ほら、あんたも挨拶しなさい」

 

そう言って管理人は男子を呂蒙の前に出す。

 

「………っ」

 

呂蒙は目を細めて顔を近づける。

 

「ひっ…!」

 

それが睨まれている様に感じたのか、男子は泣きそうな顔になり管理人の後ろに隠れてしまった。

 

「あらまァ…人見知りが激しいんだから…」

 

「うゥ…」

 

呂蒙は若干ショックを受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の夜、呂蒙は蓮華の部屋の入口の前に待機していた。

 

「あら?」

 

しばらくすると蓮華が戻って来た。

 

「あなた…」

 

「っ!ほ、本日より!孫権様の部屋の警備を務める親衛隊の“呂蒙(りょもう)子明(しめい)”と申します!」

 

大声で挨拶をする呂蒙。

 

「そ、そう…よろしく頼むわね…」

 

苦笑いする蓮華。

 

「はっ!」

 

「元気があるのは良いけど…もう夜も遅いし、あまり大声は…」

 

「っ!も、申し訳ありません!」

 

さらに声がデカくなってしまう。

 

「い、以後気を付け…」

 

「あら、呂蒙さん」

 

「!」

 

さらに聞き覚えのある声が聞こえ、見てみると…

 

「ロビン殿、どうしてここに…」

 

「今日はこれから、私と一緒に勉強するのよ」

 

「そ、そうだったのですか…」

 

「それじゃあ部屋の警備、よろしく頼むわね」

 

「は、はい…」

 

二人は部屋の中に入って行った。

 

「…………」

 

その夜、呂蒙が部屋の前で警邏をしている間、蓮華とロビンが書を朗読する声がずっと聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日、呂蒙は毎晩二人が入った部屋の前で警邏をしていた。

 

(孫権様もロビン殿も、毎晩欠かさず勉強しているな…。

それにしても…お二人の声、凛々しくて落ち着きがあって…どこか優しさがあって………っていけない!任務に集中しなくては!)

 

その後も、呂蒙は警邏をしながら、二人の声に聞き耳を立てていた。

 

(今の文ってどういう意味なんだろう?今度機会があったら、ロビン殿に訊いてみようかな?)

 

同時に、呂蒙は二人が学んでいる内容にも興味を示す様になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呂蒙、孫権様のご様子で変わった事はなどはないか?」

 

ある日、呂蒙は思春に報告をしていた。

 

「はい。ロビン殿と一緒に、毎夜勉学に励まれています」

 

「そうか。もし何か変わった事があったら、どんな些細な事でも報告するのだぞ」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、呂蒙はいつも通り警邏をしていた。

 

(……今日は書を朗読する声が聞こえてこないな。いつも欠かさず勉学に励んでいたのに…)

 

昼間思春に言われた事もあり、呂蒙は気になる。

 

(……ちょっとだけ覗いてみようかな…)

 

そう考え戸に手を掛ける。

 

「あら?」

 

「っ⁉」

 

その瞬間、戸を開けて出て来た蓮華と鉢合わせになる。

 

「ど、どちらに⁉」

 

「ちょっと外の空気を吸いたくなって…」

 

「お、お供しま…す…」

 

その時、呂蒙の目に部屋の奥で書き物をしているロビンの姿が映る。

 

「…?どうかしたの?」

 

「あ、いえ…今夜は書を読む声が聞こえなかったので、学問をしていないのかと思ったのですが……書き取りをしていたのですか?」

 

「ええ。読むだけでなく、書き写す事でより理解を深める事ができるのよ。自分が理解し易い様に言い換えたり、書き加えたりする事もできるしね」

 

「成程…」

 

「ねェ呂蒙さん」

 

「「?」」

 

ロビンが話に入って来た。

 

「あなた、前に書庫にいた事があったけど、もしかして学問が好きなの?」

 

「え?えっと…書物に少し興味がありまして…」

 

「それなら、私達と一緒に勉強しない?」

 

蓮華が提案する。

 

「へ?」

 

「あら、それはいいわね」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

そして、呂蒙は2人に流されるまま、部屋に招き入れられ机に向かっていた。

 

「え、えーと…『孫氏』…」

 

「『孫氏曰く』よ」

 

背後には家庭教師の様に蓮華が立っている。

 

「は、はい!『孫氏曰く兵とは国の』だい…」

 

「『兵とは国の大事なり』」

 

「『兵とは国の大事なり』…し、『死生の地、存亡の道、察せざるをべからざるなり』」

 

「はい、まずはそこまで。戦は国の存亡を決める重大な事。

だから兵の生死を決める戦場や行軍の進路を決める時は、よく考えなければならないという事よ」

 

蓮華が説明する。

 

「成程……ってこんな事をしていて良いんですか⁉」

 

それまで2人に流されていた呂蒙は、そこで我に返る。

 

「こんな事をしていては、お二人の学問の妨げになってしまうのでは…」

 

「そんな事はないわ。人に教える為には、より深く理解する必要があるから、これも立派な勉強になるのよ」

 

…と、ロビン。

 

「ですが…私には警邏の任務が…」

 

「だったら、尚更一緒に勉強した方がいいんじゃない?」

 

「え?」

 

「そうね。入り口で立っているより、隣で勉強していた方が確実に私を守れるもの」

 

「そ、それは…」

 

正論である為、反論できない呂蒙。

 

「それじゃあ、次を読んでみて」

 

「は、はい。『兵は詭道なり』…」

 

その日から、呂蒙の警邏は三人での勉強会に変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

「『故に』…えーと…」

 

その日の夜も、蓮華が呂蒙に教える形で勉強会を行っていた。

 

「どうしたの呂蒙?そこに書いてあるの、読めない様な字ではないと思うのだけど…」

 

あまりにも頻繁に呂蒙の朗読が止まる為、蓮華は疑問に思う。

 

「……ねェ呂蒙さん」

 

「何でしょうロビン殿?」

 

「あなたもしかして、目が悪いんじゃないの?」

 

「え…あ、申し訳ありません…。

私の目付きが悪い事は自分でもよくわかっているのですが、これは機嫌が悪いとか、気に入らない事があるとかではなく、生まれつきのもので…」

 

「そうじゃなくて、物がよく見えていないんじゃないかって事よ。だから顔を近づけたり、目を細めたりしているんじゃないの?」

 

「え?」

 

「確かに…考えられるわね」

 

そう言うと蓮華は、呂蒙が座っている机と対角線上にある部屋の隅に移動し、指を2本突き立てる。

 

「呂蒙、そこからこの指が何本かわかる?」

 

「からかわないで下さい!いくら学がなくても数くらいは数えられます」

 

「そういう意味じゃないわよ…。とにかく、何本か言ってみて」

 

「えっと………二本……いや三本?……やっぱり二?」

 

「やっぱりちゃんと見えていないみたいね…」

 

「で、ですが…私の職務は親衛隊ですから、目が見えなくても…」

 

「でも、正確に見えないと相手との距離を見誤って、攻撃を避け切れない可能性もあるわよ」

 

「あ…!」

 

ロビンに言われて思い当たる節があるのか、呂蒙はハッとする。

 

「今度、あなたの務めが休みの日に、眼鏡を買いに行きましょう」

 

「はい………えっ⁉」

 

蓮華の言葉に目を丸くする呂蒙。

 

「私も一緒に行っていいかしら?」

 

「勿論よ」

 

「えっ⁉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、昼間。

3人はお忍びで城下町の市場に来た。

 

「あの…本当に良いんでしょうか?こんな事して…?」

 

「大丈夫よ。母様や姉様もしょっちゅうやっているし」

 

「ですが…」

 

「主様がそう言っているんだから、いいのよ」

 

「ロビン殿まで…」

 

呂蒙は心配そうにしている。

 

「もし…街に刺客が紛れ込んでいたりしたら…」

 

「心配ないわよ。腕利きの護衛がいるんだから」

 

「!孫権様…」

 

「何かあった時は、私を守って頂戴ね」

 

「はいっ!お任せ下さい!」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

「「…………」」

 

呂蒙は張り切るあまり大声を出してしまい、驚いた周囲の人々に注目されてしまった。

 

「……呂蒙さん。私もいるんだし、もう少し肩の力を抜いていいわよ」

 

ロビンは何かが心配になり、そう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、3人は眼鏡屋に着いたのだが…

 

「………っ!」

 

呂蒙は店に入らず、全身から闘気を滾らせて店の入口に仁王立ちしていた。

 

「……アレ、営業妨害になってないかしら?」

 

「あ、あはは…」

 

眼鏡を物色しながら苦笑いする蓮華。

 

「あ!これなんて良いんじゃないかしら⁉」

 

そう言って蓮華は円形の片眼鏡を手に取る。

 

「あら、素敵ね」

 

「呂蒙、こっちにいらっしゃい」

 

「は、はい…」

 

蓮華に呼ばれ、呂蒙は闘気を引っ込めて2人の傍に来た。

 

「これ、掛けてみて」

 

「きっと似合うわよ」

 

「は、はい…」

 

呂蒙は戸惑いながら右目に眼鏡を掛ける。

 

(わァ…)

 

その瞬間、一気に視界が鮮明になる。

 

「どうかしら?」

 

「はい、とっても素敵で…す…」

 

蓮華の呼ばれて振り向いた瞬間、今までにない程鮮明に顔が見え、思わず見とれてしまう。

 

「(蓮華様のお顔……こんなに輝いて…ロビン殿も凄く綺麗…)み…見え過ぎて困るくらいです…」

 

呂蒙は思わず顔を赤らめる。

 

「そう。それじゃあ、それにしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

買い物を済ませた3人は、屋台で昼食をとってから帰る事にした。

 

「このラーメン、美味しいわね」

 

「ええ、特にこのメンマ凄く美味しいわ」

 

「それはさる旅の武芸者が教えて下さった、秘伝の方法で作られたメンマなんですよ」

 

店主の男が説明する。

 

「…?何で武芸者がメンマを?料理人ならわかるけど…」

 

「きっと相当好きだったのでしょうね」

 

「…………」

 

「呂蒙?」

 

「呂蒙さん?」

 

ふと呂蒙の方を見ると、自分のどんぶりをじっと見つめており、ほとんど手を付けていない。

 

「あの…もしかしてお口に合いませんでしたか?」

 

店主も不安そうに訊ねる。

 

「あ、いえっ!そうではなくて…」

 

「「「?」」」

 

「視界が鮮明になって…今までずっと見ていた筈の物が、全部今までよりずっと綺麗に見えて…。

それにロビン殿が言った通り、距離がハッキリわかるようになったおかげで、物を食べたりするのも簡単になって…」

 

そう言って呂蒙はメンマを一切れ箸でつまむ。

 

「この眼鏡を買って…本当に良かったです…」

 

「そう、それは良かったわ」

 

蓮華がそう言った時…

 

「あら?」

 

どこからか綺麗な笛の音が聞こえてきた。

 

見ると、近くで一人の少女が笛を吹いており、隣には父親らしき人物がザルを持って立っている。

周囲には幾人かの見物人が集まっている。

 

「綺麗な演奏ですね」

 

「あれ程の腕を持つ者は中々いないわね…」

 

呂蒙と蓮華も褒める。

 

「最近流れ着いた、旅芸人の親子だそうですよ」

 

またも店主が説明してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方、不寝番の任務がない為、勉強会も休みとなったので、呂蒙は宿舎に帰って来た。

 

「管理人さ~ん!ただいま~!」

 

「お帰り呂蒙ちゃん。あら、素敵な眼鏡ね。良く似合っているわ」

 

「ありがとうございます!」

 

呂蒙は管理人とその後ろに隠れている男子の顔を見る。

 

(こんなに離れているのに、二人の顔もすっごくよく見える…!この子、こんな顔してたんだ…)

 

男子の顔を覗き込みながら微笑む呂蒙。

今までと違い、睨みつける様な表情でない為、男子も怖がらずに笑い返した。

 

(眼鏡買って本当に良かった!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呂蒙が眼鏡を買った日から数日後の夜。

呂蒙はいつも通り不寝番の任務で、蓮華の部屋の前に立っていた。

 

「お疲れ様、呂蒙」

 

「孫権様!あれ?」

 

蓮華が部屋に戻ってきたが、今日はロビンの姿がない。

 

「今日は、ロビン殿は一緒ではないのですか?」

 

「ええ。今日は張昭、陸遜達と語り合うそうよ」

 

「そうですか」

 

 

 

 

 

 

しばらく勉強をした後、2人はお茶を飲んで休憩していた。

 

「えっ⁉ロビン殿はその内孫家を出て行かれるのですか⁉」

 

「ええ、姉様の容態が回復するまでという約束だったからね」

 

「そうですか…。孫策様の体調が良くなるのは喜ばしい事ですが、少し寂しいですね…」

 

「姉様っていえば…この間買い物をした時、笛を吹いていた少女がいたでしょ?

姉様、最近寝たきりであまりにも退屈だから、近々彼女を城に呼んで演奏して貰うらしいわ」

 

「え?大丈夫なのですか?その様ななどこの馬の骨ともわからぬ者を、孫策様の近くに呼び寄せて…」

 

「勿論、万が一の事もない様に、念入りに調べるそうよ」

 

「ですが、献上する魚の腹に短刀を隠し、それを用いて抹殺を成功させた例もありますし、笛の中に凶器を隠す可能性も…」

 

「ああ、呉王僚(ごおうりょう)を殺めた專諸(せんしょ)の話ね。さすが、学問をすると目の付け所が変わってくるわね」

 

「からかわないで下さい…」

 

「でも、周瑜の計らいで、その少女達には手ぶらで来させて、ウチの蔵にしまってある楽器で演奏させるそうよ。だから、安心していいわ」

 

「さすが周瑜様。私が思い付くような事は、とっくに考えておられるのですね」

 

「あら、あなた周瑜の上を行くつもりだったの?」

 

「っ⁉めめめ滅相もっ⁉」

 

慌てた拍子に呂蒙は椅子から転げ落ちてしまう。

 

「わ、私なんかいくら゛っ⁉」

 

さらに勢いよく立ち上がった拍子にスネをちゃぶ台の足にぶつける。

 

「が…学問を積んだ所で……周瑜様の足元にも……及ばないです…」

 

「りょ…呂蒙、大丈夫?」

 

「は…はい…」

 

「まァ確かに…我が軍の主要な軍師達に匹敵する智慧を身に付けるのは容易ではないでしょうけど、今のあなたの学力がどれ程のものか、試してみるのは良いかもしれないわね」

 

「試すと言いますと?」

 

「筆記試験をするのよ。私が作った問題をあなたが解いて……そうね、七割以上正解していたら合格というのはどうかしら?」

 

「ええっ⁉い、いきなりそんな事を言われても…!」

 

「勿論、今すぐではないわ。今日から十日後に行うのでどう?」

 

「……わ、わかりました…」

 

こうして、呂蒙は試験を受ける事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試験が決まってから、呂蒙は宿舎に帰った後や非番の日にも猛勉強を開始した。

 

「『敵を知り、己を知れば百戦しても危うからず』…」

 

「…………」

 

宿舎の管理人とその男子も、机にかじりつく呂蒙の姿を静かに見守っている。

 

「『静かなる事林の如く』…」

 

「張り切っているわね、呂蒙さん」

 

「⁉ロビン殿!」

 

いつの間にか部屋に入って来ていたロビンに呂蒙は驚く。

 

「呼んでも返事がないから、勝手に上がらせて貰ったわ」

 

「す、済みません…どうしてここに⁉」

 

「孫権さんに部屋を教えて貰ったの。これは差し入れよ。孫権さんと私から」

 

そう言ってロビンはいくつかの蜜柑が入った籠を渡す。

 

「あ…ありがとうございます」

 

「試験の事は聞いたわ。私達が教えた事が身についているか、拝見させて貰うわね」

 

「!は、はい!」

 

ロビンは部屋を出て行った。

 

(そうだ!これは孫権様達が私に教えた成果の試験でもあるんだ!よーし、頑張るぞー!)

 

ますます張り切る呂蒙。

 

そして十日はあっという間に過ぎて行った。

 

 

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