ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
呂蒙の試験当日の昼間、ロビンは雪蓮、冥琳と話をしていた。
「それじゃあ明日、例の旅芸人が来るのね」
「ええ。良い気分転換になりそうだわ」
「それにしても済まなかったなロビン殿。こちらの事情で何日も滞在させて…」
「構わないわ。陸遜さんや張昭さん達と話したり、孫権さんや呂蒙さんとの勉強会も楽しかったし」
「呂蒙って…親衛隊の?」
「ええ。呂蒙さんを知っているの?」
▽
その日の夜。
「…………」
「…………」
試験を終えた呂蒙は、蓮華が採点を終えるのを待っていた。
(……今日もロビン殿はいないのか…)
「呂蒙」
「は、はいっ!」
「試験の結果だけど…」
蓮華は寝台に腰掛ける。
「は、はい…」
呂蒙は蓮華の前に立つ。
「…………」
「…………」
「……合格よ!」
「!……よ、良かったァ…」
肩の力が抜け、呂蒙は蓮華と同じ様に寝台に腰を下ろす。
「もし不合格だったらどうしようかと…」
そのまま寝台に仰向けに倒れる呂蒙。
「―――っ!も、申し訳ありません!」
…と、そこで自分がやっている事に気づく。
「私ってば孫権様の前でこんな無作法を…!」
慌てて起き上がろうとするが…
「そのままでいいわ」
「え?」
「二人きりなんだもの、堅苦しい事は無しにして、寝転がって話し合いましょう」
そう言って蓮華も横になる。
「孫権様…」
「試験は七割以上で合格という事にしていたけれど、八割以上正解していたわよ。何か褒美をあげるわ」
「え?ご褒美ですか?」
「ええ、何か欲しい物はある?」
「……でしたら、欲しい物ではないのですが…お願いしたい事が一つ…」
「何?」
「このままずっと…私を…孫権様のお傍に仕えさせて頂けないでしょうか?」
「……それは駄目ね」
「え⁉」
呂蒙は悲しそうな顔になる。
「だってそれは、私があなたにお願いしたい事だもの。あなたへの褒美にはならないわ」
「孫権様…」
「試験、合格おめでとう」
「ありがとうございます」
そうしている内に、二人はいつしか眠ってしまった。
▽
「……ん…!…私ってばいつの間に眠っていたのかしら?」
蓮華が目を覚ますと、目の前に眠っている呂蒙の顔があった。
(きっとこの十日間、寝る間も惜しんで学問に励んでいたのね…)
このまま寝かせてあげようと思い、蓮華は一人で部屋の外に出て行った。
▽
(厠に行くくらいなら、別に護衛はいらないわよね…)
そう考え部屋の前を離れる。
(………っ⁉)
その途中で、何者かの気配を感じる。
(倉庫の辺りに誰かいる…?でも、何かおかしい…⁉一体誰が何を…⁉)
気になって倉庫の方に向かうと、何者かが戸に手を掛けている所に出くわした。
「貴様!何奴⁉」
「!チィッ!」
▽
「孫権様ァ!」
その頃、目を覚ました呂蒙は部屋に蓮華がいない事に気づき、慌てて外に飛び出した。
(……⁉今のは⁉)
倉庫の方で物音が聞こえ、呂蒙はそこへ向かう。
「⁉孫権様!」
そこでは蓮華が一人の男を取り押さえていた。
「呂蒙、曲者よ!手を貸して!」
「は、はいっ!」
無事、曲者は捕えられた。
▽
翌日。
「馬鹿者ォ!」
「っ!」
思春の執務室に呼び出された呂蒙を待っていたのは、思春の鉄拳制裁だった。
「貴様は勤務中に居眠りをしていたというのか⁉」
顔面を殴り飛ばされ、壁際まで吹っ飛ばされた呂蒙を思春は怒鳴りつける。
「相手がただの盗人だったから良かった様なものを!もし刺客だったら孫権様が殺されていたかもしれなかったのだぞ!何の為の護衛だ!」
「……っ!申し訳ありません…!」
涙を浮かべ、身体を震わせる呂蒙。
その原因は殴られた痛みよりも、自責の念による所が大きかった。
「失礼します!」
親衛隊の別の者が入って来た。
「何だ?」
「魯粛殿を中心に物品を確認した所、蔵の中から無くなった物はないとの事です。おそらく盗人が蔵に入ろうとした所を、孫権様が見つけたのかと」
「そうかわかった。賊の仲間が他にいるかもしれん、徹底的に尋問し、洗いざらい白状させろ」
「はっ!」
報告に来た者が部屋を出ると、思春は改めて呂蒙に向き直る。
「昨夜の警備を務めていた兵には皆、謹慎を命じてある。貴様も官舎で沙汰があるまで大人しくしていろ!」
「はっ!」
▽
その頃、雪蓮に招かれた例の旅芸人とその父親が、孫家の蔵を訪れていた。
「魯粛殿、持ち物を調べ終えました。どちらも凶器らしき物は所持しておりません」
明命が2人の身体を調べ終え、報告する。
「わかりました。さ、どうぞこちらの中から、好きな物をお選び下さい」
包はそう言って、用意した様々な楽器を示す。
「…………」
少女は少々迷っていたが、やがて一つの笛を選んだ。
くしくもその蔵は、昨夜盗人が入ったのと同じ蔵だった。
▽
(私は……大馬鹿者だっ……!)
その頃呂蒙は、自室で自責の念に囚われていた。
(大事な警邏の途中で居眠りをして…!孫権様を危険に晒してしまうだなんて…!)
額を壁に激しく打ちつける。
(やはり学問なんかにうつつを抜かすべきじゃなったんだ…!ただ黙って部屋の前に立っていれば、それで良かったのに…!そうだ、もう書物を読む事なんてやめて…!)
「呂蒙さん」
「⁉ロビン殿!」
「呼んでも返事がないから、勝手に上がらせて貰ったわ」
「す、済みません…一度ならず二度までも…」
「構わないわよ。けど良かった。早まって首を吊っていないか心配だったわ」
「ず、随分と不吉な想像をされるのですね…」
呂蒙は冷や汗をかく。
「これ、孫権さんから」
そう言っていくつかの饅頭を差し出す。
「……私は警邏の任を怠り、孫権様を危険に晒してしまいました…。その様な物を受け取る訳には…」
「呂蒙さん、こういうのは、ちゃんと受け取ってあげるのが礼儀というものよ」
「……わかりました…」
呂蒙は饅頭を受け取る。
「…良かったら、ロビン殿も一緒に食べませんか?」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
▽
そして2人は窓際の卓に向かい合わせに座り、饅頭を頂いていた。
「……あの…」
「?」
「ロビン殿は学問を志した事を…後悔した事ってありますか?」
「……学問を志した為に、死にたくなっていた時はあるわ。それも何年もね…」
「え?」
何年もという言葉に呂蒙は驚きを隠せなかった。
「私が学んでいたのは考古学で、過去の生活や文明を明らかにする学問。けど、私のいた世界には、一つだけ犯罪となる行為があったの」
「犯罪ですか…⁉」
学問が犯罪となる事に異様さを感じ、呂蒙はますます驚く。
「それは“空白の百年”と呼ばれる、私の世界の政権が誕生する直前までの、どの文献にも記録がない時代の歴史を解明する事。
その歴史を解明する為には、世界を滅ぼせる程の恐ろしい兵器について書かれた文献を読み解く必要があった。
その為、世界を滅ぼす危険な行為として禁止されているの」
「けど、でしたら政権の管轄の下に行えば、危険も少なくなるのでは……!」
そこまで言って呂蒙は気づく。
「ま、まさか…」
「ええ。おそらく“空白の百年”は、私の世界の権力者にとって、何か都合の悪い事実。それを隠蔽する為に、解明を禁止したと私は考えるわ」
「…………」
「理由がどうであれ、政権が犯罪行為とすればそれは犯罪。
考古学者だった私の母や恩師、その同僚、近隣住民でさえ世界を滅ぼす凶悪な犯罪者として殺されたわ。
当時8歳だった私も、命を狙われた…」
「そんな…」
「命が助かっても、行く先々で凶悪犯として忌み嫌われ、命を狙われ続けたわ。
ずっと孤独で、誰も信用できない…歴史を解明したいという気持ちもあって、生き続けたけど死にたかったわ…」
「…………」
「でも今は違うわ」
「え?」
「今の私には、本当に心を許せる仲間ができた。
私が考古学を学んだ事も、何年も命を狙われ続けてきた事も、どれか一つでも違っていたら彼らとは出会えなかった…。
彼らでなければ…ここまで心を許す事もなかったわ…」
「…………」
「だから後悔はしていないわ」
「ロビン殿…」
「……あら?」
その時、外から笛の音が聞こえてきた。
2人が見てみると、いつもの男子が笛を吹いているのが見えた。
「…あれ?」
「呂蒙さん?」
何か気になる事があったのか、呂蒙は部屋の外に出て行く。
ロビンも気になって、その後に付いて行く。
「ねェ、ちょっといいかな?」
「呂蒙お姉ちゃん。なあに?」
「その笛、凄く立派で高そうだけど、どうしたの?」
「けさ、ひろったんだよ」
「拾ったって、どこで?」
「おやしきの蔵のそばだよ。きのう、どろぼうが入ったって言ってたから、気になって見に行ったんだ。そしたら、草むらに落ちていたの」
(草むらに…?もしかして孫権様が賊を取り押さえた時に落ちたのか…?)
「その笛がどうかしたの?」
(でも、蔵から無くなった物は何もないって……もしこれが蔵から持ち出された物ならどうして…?)
その時呂蒙の脳裏に、自分の言葉が浮かんだ。
―――――ですが、献上する魚の腹に短刀を隠し、それを用いて抹殺を成功させた例もありますし、笛の中に凶器を隠す可能性も…
「っ!まさかっ⁉」
「呂蒙さん⁉」
「ロビン殿!お願いが…!」
▽
その頃、孫家の宮殿。
雪蓮は謁見の間にある玉座に座り、旅芸人の少女とその父親を迎えていた。
周りには冥琳、大喬、小喬が控えている。
「本日はわたくし共の様な卑賎の輩に、拙い芸を披露する機会を与えて頂き、恐悦至極でございます」
親子揃って頭を下げながら、父親が言う。
「孫策様の様なお方の前で演奏させて貰えるとなれば、この子もさぞかし光栄でしょう。
つきましては、本人の口よりお礼の言葉を申し上げたく存じます。さァ…」
父親に言われ、少女は顔を上げ口を開く。
「…………」
しかし、声が小さく聞き取れない。
「どうしたの?聞こえないわよ」
「孫策様の御前で、緊張しておられるのやもしれませんな…」
「恥ずかしがらずに、もっと近くにいらっしゃい」
雪蓮に言われ、少女は笛を手に前に出る。
「………っ!」
そして雪蓮の近くまで来た時、少女の目が怪しく光り、手元が動く。
「“
「なっ⁉」
「ぐっ⁉」
「「「「⁉」」」」
次の瞬間、少女と父親の身体に6本ずつ腕が生え、2人を拘束する!。
「失礼」
同時に、部屋の戸が開きロビンが入って来る。
「ちょっといいかしら?」
そう言うと少女の腕にさらに2本の腕を咲かせ、少女の手から笛を奪い取る。
「……やっぱりね」
「!それは…!」
ロビンが笛を調べてみると、中に刃物が仕込まれていた。
「……孫策さん、構わないかしら?」
「ええ、いいわ。やっちゃって」
「“クラッチ”‼」
「「ぐあっ⁉」」
関節技を決められ、2人はその場に倒れた。
▽
「仕込まれていた刃物を調べてみた所、猛毒が塗ってあったそうだ」
その後、謁見の間でロビン、雪蓮、大喬、小喬が待っていると、冥琳が報告に来た。
「つまり昨夜忍び込んだ盗人は刺客の一味で、今日使う笛を、刃物を仕込んだ物にすり替える事が目的だった訳ね」
「誰しも盗人が入り込めば、物を盗る事が目的と思う。『楽器はこちらが用意した物を使う』という条件を、逆手に取られてしまいましたな…」
「きっとすり替えた楽器には、本人達しかわからない様に印が付いていたのでしょうね」
「身に寸鉄も帯びておらず、楽器はこちらが要した物である為、油断してしまいました…」
ため息をつく冥琳。
「またしてもあなたに助けられたわね。ありがとうロビン」
「お礼なら、今回は私ではなく呂蒙さんに言って頂戴」
「呂蒙に?」
▽
その頃。
(孫策様…どうかご無事で…!願わくば杞憂でありますように…!)
呂蒙は自室で、雪蓮の無事を強く祈っていた。
「呂蒙!失礼する」
「!甘寧様⁉」
思春が部屋に入って来た。
「貴様に知らせが三つある。まず一つ目、孫策様はご無事だ。お前の機転のおかげでな」
「!そうですか…」
その知らせを聞き、呂蒙は胸をなでおろす。
「次に二つ目だが、貴様は孫権様の親衛隊を外される事になった」
「っ!」
2つ目の知らせを聞き、呂蒙は涙を浮かべる。
「わかり…ました……」
「よって親衛隊の証であるその締込みを、今この場で没収する。貴様にそれを着ける資格はもうない」
「…はい…」
呂蒙はうな垂れながら締込みを外し手渡す。
―――――このままずっと…私を孫権様のお傍に仕えさせて頂けないでしょうか?
―――――だってそれは、私があなたにお願いしたい事だもの
(孫権様…申し訳ありません……叶わなくなってしまいました…)
「最後に三つ目だが…孫策様がお呼びだ」
「え…?」
「謹慎中ではあるが、特例として入城を許可するそうだ。直ちに迎え!」
「は、はいっ!」
▽
謁見の間に着いた呂蒙が雪蓮、冥琳から聞かされたのは…
「えっ⁉私を孫権様の軍師に⁉」
「ええ。孫家の筆頭軍師である周公瑾を欺いた策を見抜いたあなたの智謀、やはりあなたには軍師としての才があるみたいね」
「…?『やはり』…?」
「このまま埋めておくのは勿体ないわ」
「…といっても、最初は見習いだがな…」
「ですが…軍師でしたら陸遜様や魯粛殿がおるのでは…」
「軍師は多いに越した事はないし、それに隣であの子の手を握って支えてあげられる様な人物が誰か必要なのよ。私に周瑜がいる様にね」
「そ…孫策様…」
赤面する冥琳。
「しかし…それなら甘寧様が…」
「甘寧は真面目過ぎるから、隣で手を握る存在としてはちょっとね…」
「ですが…私なんかが…」
「心配するな。孫家の筆頭軍師、この周公瑾が選び抜いた人材なのだ」
「!」
「それとも…私の目を疑っているのか?」
「……いえ!この呂子明!軍師として頑張らせて頂きます!」
「そう。それじゃあ決まりね」
「孫家の首脳陣には後日正式に紹介する。とりあえず、今日はもう帰って休め」
「はっ!」
▽
(私が…孫権様の軍師に…)
「呂蒙さん」
「ロビン殿!」
謁見を終えた呂蒙が廊下を歩いていると、ロビンに出くわした。
「あの…先程は申し訳ありませんでした…。自分が謹慎中だからって、あの様な危険な事を頼んだりして…」
「別に構わないわよ。あれくらいの事なら慣れてるから」
「そうですか。……あの、ロビン殿」
「何?」
呂蒙の頭には、先程雪蓮が言っていた「隣で手を握って支えてくれる相手」という言葉が、強く残っていた。
そしてその言葉を聞いた時、蓮華の他に、もう一人頭に浮かんだ人物がいた。
「もしよろしければ、私と真名を交換して頂けないでしょうか⁉」
「…残念だけど、私は異国の出身で真名を持っていないの」
「あ…そ、そうだったんですか⁉で、でしたら私の事を…真名で“
「…わかったわ、“亞莎”さん」
「ありがとうございます!それと…」
「?」
「私…学問を志して良かったです!」
亞莎は笑顔でそう言うのだった。
「そう」
▽
その日の夕刻、思春は一人、城壁の上でたそがれていた。
手には呂蒙から没収した締込みを握っている。
「甘寧さん」
「ロビン殿…」
そこへロビンがやって来て、後ろから声を掛けた。
「良かったわね。以前から推薦していた部下がお眼鏡にかなって」
―――――ええ。呂蒙さんを知っているの?
―――――前々から甘寧が薦めていたのよ。親衛隊よりも軍師として物になるだろうから、周瑜の下で使ってあげて貰えないかって
「……学問にうつつを抜かす様な輩は親衛隊には不要。周瑜様の使い走りにでもしてしまおうと思ったまでだ」
「そう」
ロビンは立ち去った。
「…………」
思春がまた一人でいると、強い風が吹いてきた。
思春は僅かに笑みを浮かべ、その風に乗せて締込みを空に放った。
(呂蒙、高く…高く舞い上がれ…!その志の赴くがままに!天よりも高く!)
後日、亞莎が自分の締込みが宙を舞っているのを見て、大慌てで回収し処分するのは、また別の話。
やっと亞莎の真名を出せた。