ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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今回から第三席編に入ります。



第11話 “袁紹と曹操”

ルフィ達に星が加わってから十数日―――

 

一行は、山中で仕留めたイノシシで食事をしていた。

 

「しかし、ルフィ殿の強さには本当に驚かされるな」

 

肉を食べながら、星が言う。

 

「私と鈴々も出会ってから何度も組手をしているが、一度も勝てずにいるからな。

伸縮自在の身体を除いても、ルフィ殿はかなりの実力者だ」

 

「天の国の人間は、みんなそんなに強いのか?」

 

「いや、愛紗達だっておれのいた世界でも強い方だと思うぞ。

まーあそこには、おれより強い奴もいっぱいいるし、剣だったらゾロやブルックの方がスゲェけどな」

 

「その二人はルフィの仲間なのか?」

 

「ああ」

 

「ルフィ殿のお仲間…早く見つかると良いですね」

 

「お主達、こんな話を知っているか?」

 

「「「?」」」

 

「昔、()の王だった夫差(ふさ)は戦で父を失ったとき、薪の上で寝る事で、その痛みから復讐の誓いを新たにし、父の仇である(えつ)の王勾践(こうせん)を破った。

その後、夫差に降伏した勾践も苦い肝を()めることで、敗北の悔しさを忘れない様にする事で、後に夫差への復讐を果たしたという」

 

「成程…それで星、それは今の話と何の関係があるんだ?」

 

「いや、特に関係ないが」

 

「だあああああっ⁉」

 

愛紗は思わずズッコケた。

ルフィと鈴々は無視して肉をかじっている。

 

「―――しかし天の国の剣士か…是非とも一度手合わせを願いたいものだな…」

 

星はそう呟きながら、空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくし!…さすがに野宿続きで体が冷えたか?」

 

その頃、ある森の中を天の国の剣士、“ロロノア・ゾロ”は歩いていた。

 

「…にしても、あいつらどこ行きやがったんだ。いつもいつも、すぐ迷子になりやがって…」

 

実際はいつも迷子になっているのはコイツの方なのだが…そんな事を言いながらしばらく歩き、ゾロは森を抜けた。

 

「……あれは…街か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冀州(きしゅう)渤海(ぼっかい)郡のある街の宮殿で、1人の女性が風呂に入っていた。

 

風呂はとても広く、浴槽や周囲の装飾も精巧に作りこまれており、見るからに大金持ちの屋敷であることがわかる。

そもそもこの時代では風呂を沸かすのはとても重労働で、水や薪を大量に使用するため、入浴自体かなり贅沢である。

 

やがて女性は風呂から上がり、使用人の女性たちに服やタオルを持ってこさせる。

入浴中、頭に巻いていたタオルをとると、腰にまで届く長い金髪の縦ロールがあらわになる。

 

彼女は“袁紹(えんしょう)本初(ほんしょ)”。

渤海郡の太守である。

 

袁紹がそのまま寛いでいると、3人の女性が部屋に入ってきた。

 

「“文醜(ぶんしゅう)”さん、“顔良(がんりょう)”さん、“田豊(でんほう)”さん、三人揃ってどうなさいましたの?」

 

袁紹が3人に訊ねる。

 

「袁紹様、“曹操(そうそう)”殿がお目通りしたいと出向いております」

 

白っぽい長髪で、一部を左右に黒い布でお団子にした、眼鏡をかけた女性、“田豊(でんほう)元皓(げんこう)”が答えた。

 

「お風呂に入ってようやく目が覚めたというのに…朝からあんないけ好かない小娘と顔を会わせなきゃならないなんて…」

 

「…って、もうお昼じゃないですか」

 

緑の短髪で、頭にハチマキのように青い布を巻いた女性、“文醜”が呆れたように言う。

 

「睡眠不足はお肌に悪いんですわよ」

 

「「「…………」」」

 

袁紹の言葉に苦笑いする3人。

 

「と、とにかく…我が領内に逃げ込んだ賊を成敗するために、わざわざ出向いて来たのですから、お会いしないわけには…」

 

「わかっていますわよ…!」

 

青いボブカットの女性、“顔良”に急かされ、袁紹は服を着て支度を整えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謁見の間で金髪を縦ロールのツインテールにした少女、“曹操(そうそう)孟徳(もうとく)”が待っていた。

身体は小柄だが目つきは鋭く、かなりの威風を備えている。

 

ようやく出てきた袁紹は台座の上の椅子に座り、曹操に話しかける。

 

「朝廷の命令とはいえ、わざわざ“陳留(ちんりゅう)”からご苦労な事ですわね、曹操さん」

 

「ええ。本来な私が出る必要はないけれど、賊共が逃げ込んだのが、あなたの領地だというなら、話は別…」

 

「…!」

 

「放っておいたら、賊が逃げてしまうものね」

 

「ちょっとそれはどういう意味ですの?」

 

「袁紹…あなたが賊退治もろくにできない、無能な領主だと言っているのよ」

 

「なっ…!」

 

「貴様!袁紹様に対して無礼であろう!」

 

主を侮辱する発言に、文醜が怒り出す。

 

「いくら()()()()()でも言って良い事と、悪い事が…」

 

…が、口を滑らせてさらに主を侮辱してしまう。

 

「ちょっと文醜さん!それはどういう事ですの⁉」

 

「あっ!スミマセン…勢いあまってつい本音が…」

 

「何ですってェ⁉」

 

弁明しようとするも、却って火に油を注いでしまう。

 

「無能な主に間抜けな家臣とは良い組み合わせね。恐れ入ったわ」

 

曹操はさらに皮肉を言うが…

 

「どうだ!参ったか!」

 

バカにされている事に気づいていない文醜は、得意げに胸を張る。

 

「ちょっと!文ちゃん!」

 

「私達今、馬鹿にされたのよ!」

 

「へ?そうなの?」

 

「ぷぷっ…!」

 

「~~~っ!」

 

曹操はとうとう笑いを堪えきれなくなり、袁紹は恥ずかしさと悔しさで物凄く不機嫌になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く!あなた達のせいで大恥かいたじゃありませんの!」

 

謁見が終わった後も、袁紹はご機嫌斜めだった。

 

「『あなた達』って…」

 

「私達は何も…」

 

「でも良いんですか“麗羽(れいは)”様?」

 

「何がですの“猪々子(いいしぇ)”さん」

 

周りにいるのが親しい者だけになったため、“袁紹”こと“麗羽”と“文醜”こと“猪々子”は互いを真名で呼び合う。

 

「賊退治ですよ。全部曹操にやらせちゃって…」

 

「そんな汚れ仕事、あの小娘に任せておきましょう。

それより“斗詩(とし)”さん、“真直(まぁち)”さん、武闘大会の方はどうなっていますの?」

 

「はい。出場者は大勢集まり、会場設営の方も滞りなく進んでおります」

 

「まだ、飛び入り参加者の募集は行っていますが、予定通りに開催できるかと」

 

麗羽に言われ、“顔良”こと“斗詩”と“田豊”こと“真直”は答える。

 

「ふふふ…大会の優勝者をわが軍に将として迎え入れ、軍を強化すれば私の天下への大きな前進となりますわ!

そして今度こそあの金髪クルクル小娘に一泡吹かせてやりますわ!おーほっほっほ!

さあ、猪々子さん!斗詩さん!真直さん!わたくし達も大会開催に向けて、準備しますわよ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって城下町の大通り。

 

先程、麗羽達と謁見していた曹操が部下達と馬に乗り、城外に設営した自軍の陣に向かっていた。

 

連れているのは3人。

赤い服を着て下半身まで届く長い黒髪、前髪をオールバックにし、1本のアホ毛が生えた女性“夏侯惇(かこうとん)元譲(げんじょう)”。

水色の服に水色の短髪で、左半分の前髪をバックにしている女性“夏侯淵(かこうえん)妙才(みょうさい)”。

顎まで届く長さの茶髪に、猫耳が付いた緑のフードを被った小柄な女性“荀彧(じゅんいく)文若(ぶんじゃく)”である。

 

「“華琳(かりん)”様、袁紹殿の様子はいかがでしたか?」

 

夏侯惇が曹操の真名を呼び訊ねる。

 

「相変わらずよ…。名門の出である事に胡坐をかいて、自分の無能さに気付きもしない…。

あんな者が太守として踏ん反り返っているだなんて、この国の最後はいよいよ迫りつつあるわね…」

 

「しかし華琳様…いくら朝廷の命令とはいえ、わざわざ他人の領土まで賊退治に赴くなど、少々やり過ぎではありませんか?」

 

「確かにそうね…。でもね“秋蘭(しゅうらん)”、私が天下を取った暁にはここも私の領土となるのだもの。それを思えば、仕方のない事でしょ?」

 

「…確かに」

 

華琳の言葉に“夏侯淵”こと“秋蘭”はうなずくのだった。

 

「“春蘭(しゅんらん)”、兵の方はどうしている?」

 

「到着直後に準備をしておくよう伝えておきました。すでに出陣の支度は整っているかと」

 

華琳に訊かれ、“夏侯惇”こと“春蘭”は答える。

 

「そう。“桂花(けいふぁ)”、陣に戻ったらすぐに軍議を始めるわよ」

 

「はい。すでに斥候(せっこう)も出しておきましたから、すぐに情報を整理し、妙策を考えて見せます!」

 

華琳に言われ、“荀彧”こと“桂花”は自信満々に答える。

 

「期待しているわ。時間も物資も惜しいしすぐに……⁉」

 

そう言いながら城門を出ようとした瞬間、華琳は口を閉ざし、後ろを振り返ったまま動かなくなった。

 

「…華琳様?」

 

気になって家来の3人も後ろを振り返る。

すると華琳の視線の先には、自分達と入れ違いに入っていった1人の男がいた。

 

緑の髪で腹巻をし、何より特徴的なのが…

 

「刀を三本も持っているとは珍しいな。一本は口にでも咥えて使うのか?」

 

「…そんな馬鹿みたいな発想するの、アンタぐらいよ」

 

「なんだとォ⁉」

 

「姉者、桂花もやめんか」

 

秋蘭に諌められ、2人は口を閉じる。

 

「おそらく一本は誰かの形見とか、家宝だとかそういう理由で持ち歩いているだけだろう。

しかし華琳様…確かに珍しいものではありますが、そこまで気にする事はないのでは…」

 

「もしや、あの男が何か無礼を⁉」

 

はっとした様子で訊ねる桂花。

 

「いいえ、そういう訳ではないわ。……ただ…何故かしらね?気になるのよ…」

 

 

 

 

 

 

一方、華琳達と入れ違いに街に入ってきた男、ゾロは…

 

「さてと…とりあえず街に入ったものの…金はねェし、どうしたもんか…ん?」

 

そんなことを言いながら歩いていると、前方に人だかりがあるのが見えた。

よく見ると1本の立て札があり、それを見に人が集まっている様だった。

 

ゾロも近くに行き、立て札を見てみるが…

 

「……何て書いてあんだ?」

 

文章が全く読めない。

文法が知っているものと全く異なり、ただ漢字が並んでいるだけである。

そして漢字も、見た事がない字が半分程ある。

 

「『武闘大会、本日開催。飛び入り参加歓迎。優勝者及び準優勝者には賞金・豪華副賞有り』だってさ」

 

「?」

 

困り果てていると、背後にいた誰かが声に出して読んでくれた。

 

振り向くと、茶色い髪を長いポニーテールにした眉の太い女性がいた。

身長や年齢はゾロと同じくらいで、なんとなく男勝りな雰囲気がある。

 

「…って事は、これで優勝すれば金が手に入んだな」

 

「そうだけど…あんた本気で優勝する気か?」

 

「当然だ」

 

「残念だけど、そりゃあ無理だな」

 

「……何でだ?」

 

「優勝するのは、このアタシだからさ!」

 

「へェ…」

 

ゾロは面白そうな笑みを浮かべ、その女性が持つ十字の槍を見た。

 

 




…と、いうワケで今回はゾロの話となりました。
今作では、序盤は麦わらの一味は別々に行動するので、ゾロがルフィ達と合流するのは、だいぶ先になります。



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