ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
「関羽さん…」
夕食後、桃香は一人で陣内を歩いていた。
「あれ?劉備さん?」
「!皆さん!」
不意に声をかけられて周りを見てみると、少し離れた所にルフィ以外の麦わらの一味の8人が座り込んで話しているのが見えた。
「……あの…ルフィさんは?」
「あいつはまたどっか行っちまったよ…」
「ホントじっとしてるって事ができねェ奴だからなあいつは…」
「ま、陣からは出ない様にきつく言っておいたから、そこまで心配しなくていいと思うけど…」
サンジ、ウソップ、ナミがため息交じりに言う。
「そうですか…」
昼間の事があったので桃香は内心ほっとした。
「あの…」
桃香は何か話そうとするが、ルフィ以外の麦わらの一味とあまり話した事がなかった為、言葉に詰まってしまう。
「どうした?」
「……そういえば…皆さんって海賊なんですよね?」
悩んだ末、やっと絞り出した言葉がそれだった。
「ええ、そうだけど…」
「なんか…信じられないです…。ルフィさんなんて、どう見ても善人なのに…」
「ルフィは善人なんかじゃねェぞ」
ウソップがハッキリと否定する。
「え?」
「考えてみなよ劉備ちゃん」
タバコの煙を吹きながらサンジが口を開く。
「海賊っていうのはいるだけで、みんなに怖い思いをさせて苦しめるんだぜ。善人だったら海賊を名乗ったりしねェよ」
「でも、あんなに優しいのに…」
「劉備さん」
今度はロビンが口を開く。
「“大きな力”ってどういうものだかわかる?」
「え?」
「答えはね、『より多くの人に働きかける力』の事よ。
一騎当千の武者は、一人で沢山の敵を倒す。
優れた軍師は十人の兵で百人分の成果を出す。
財産家は沢山のお金で多くの人を雇い動かす。
力を持つ者は様々な手段で、大勢の人々の生活や行動を制限、支配する。武力、財産、食料、情報…。
例え私達と出会った百人の人間が私達を善人と言っても、一人の権力者が私達を知らない百万人に悪人だと伝えれば、私達は大人数にとって害悪な存在となる」
「そんな…」
「それが現実よ。現に黄巾党の件だって、権力者や大人数に対して害悪だから、犯罪者として討伐対象になっている。
逆に権力者や黄巾党の被害者が少人数になれば、反乱から政変になり、黄巾党は正義になるわ。
物事の善し悪しは多数決、それも都合の善し悪しで決まるのよ」
「…………」
「まァ…海賊や犯罪者という点を除いても、あいつは善人とは言い難いがな…」
―――――そうか…絶対に入っちゃいけねェ場所かァ………
―――――絶対入る気だ…
「確かにそうね」
―――――よし!じゃ船つけろ‼
―――――『冒険準備万端病』かお前は‼
「いるだけで騒ぎを起こす奴だからな…不思議なことに…」
―――――おいみんな‼海軍が来たぞォ‼
―――――お前らが連れてきてんだよ‼
「あいつは自由過ぎるからな…色々と…」
―――――おいルフィ‼こいつは何だ‼
―――――面白れェだろ、仲間にした
―――――したじゃねェよ、認めるか‼
「いつも後先考えずに動いて…」
―――――ムダだった
―――――『わかった』って言ったよな
―――――5分“待つ”とかムリだから
―――――そりゃそうか
「危険な事が大好きで…」
―――――お前は冒険と命とどっちが大事だァ‼
―――――命よ‼その次はお金
「言う事やる事、メチャクチャですもんね…」
―――――ゾロは酒が好きだから元気になるだろ‼
―――――どんな医学だ⁉それ‼
「おかげで何度死にかけたか…」
―――――あ、サンジ生きてたのか
―――――てめェのせいで死ぬトコだよ‼ちっとァ周りに気ィ配れ‼
ゾロの言葉を皮切りに、ロビン、ウソップ、フランキー、チョッパー、ナミ、ブルック、サンジの順に様々な事を思い出し、不穏な空気が流れ始める。
「み…皆さん、そんなに苦労しているんですか?」
「ああそうだよ!死にかけるのは仕方がないとしても、もう少し安全ってモンを考えられねェのかアイツはァ⁉」
サンジはイライラしながらタバコをふかす。
「仕方がないって…」
「……おい劉備、おめェ何か勘違いしてねェか?」
ゾロが厳しめの口調で言う。
「勘違い?」
「おれ達の言う“仲間”ってのは『目的の為に共に死地に飛び込む存在』の事だ。ただの友達の事じゃねェ」
「っ!」
「ゾロの言う通りよ。ルフィが誰かを仲間に誘うという事は、自分の危険な旅に誰かを巻き込むという事」
「そもそも危険な目に遭いたくないのなら、海賊なんかなるべきじゃねェ。家の庭で冒険ごっこしてりゃいいんだ」
「私達はルフィさんの海賊王になるという夢を応援したいと思い、危険を承知で仲間になりました。
なのにルフィさんが『危ないから何もするな』と言うのであれば、それは裏切りにも等しい行為です」
「………っ!」
ロビン、フランキー、ブルックの言葉に桃香は絶句する。
「あいつは基本ふざけてるし、仲間も自分が気に入った奴を勧誘しているだけだが、仲間が必要な理由はちゃんと理解している」
「仲間が必要な理由?」
サンジの言葉に桃香は訊ねる。
「おれ達の敵は、武器を持って襲ってくる人間だけじゃねェ。
悪天候や凶暴な動物、病気に飢え、色んなものがおれ達を殺そうとしてくるんだ。
だから航海士や船大工や医者や料理人、何より頭数が必要になるんだ」
サンジに代わってチョッパーが答える。
「そうさ…!組織全体が、一人の人間の身体の様に動く必要がある…!足りない部分は補って、逆に害になる奴は切り捨てていかねェとダメなんだ…!」
誰かに言い聞かせるかの様にウソップが言う。
「私達は私達で目的があって海に出た。ルフィは海賊王になる目的の為に、私達の能力を必要とした。
私達はいわば、一種の利害の一致、損得勘定で仲間になってんのよ」
「そんな…!」
ナミの言葉に桃香はショックを受け立ち尽くす。
「……まァでも、安心しなよ劉備ちゃん。おれ達だって、利害が一致してりゃ誰でもいいってワケじゃねェよ」
「え?」
「まァ、単に利害の一致だけで悪党に成り下がるような奴はまずいねェよ」
「そうね。そこら辺の海賊だったら、仲間になるってだけで大損害だし」
「まーおれ様を配下に置くのなんて、並大抵の船長じゃ認められねェな!」
「ルフィじゃなかったら、おれを勧誘なんてしてくれねェだろうし」
「私も。大抵の人は私に会ったらまず殺そうとしたわ」
「ルフィは善人じゃねェが、いい奴ではあるからな」
「命を懸けて仕えて良いと思える人なんて、生涯に一度出会えるかどうかですよ。私二回会いましたけど!……あ、一回目は一度死ぬ前でした」
「…………」
「さてと…それじゃあおれは鈴々達の特訓に行ってくる」
「私は朱里ちゃんと軍備費の事話して来るわ」
「おれは見張りの交代の時間だな」
「じゃ、おれは食料の確認に…」
「おれは華佗と薬の調合をして来る」
「私は少し亞莎さん達と話して来るわ」
「おれは大工作業の点検だ。ブルック、今日はおめェも来てくれ」
「わかりました。それでは劉備さん、また明日、おやすみなさい」
「あ…はい、おやすみなさい…」
麦わらの一味はそれぞれ去って行った。
▽
「…………」
その後、桃香は再び、黄巾党の陣が見える崖沿いにやって来た。
陣には無数の篝火が焚かれ、近づく者を威嚇している様だった。
―――――あいつらはあんな遠い所にいるんだ。お前の声なんて聞こえるワケねェ
(本当に…遠いな…)
何故遠いのか?
これ以上近づくと危険だから。
何故危険なのか?
黄巾党が兵力という力を持っているから。
(近づけないんじゃ…話し合いなんてできないよね…)
―――――聞いたところでは、袁術には面会するだけでも賄賂が必要になるそうですが…
(宝剣を取り戻す時だってそうだ…。
パイパイちゃんや袁紹さんのおかげで何とかなったけど、私一人だったら袁術さんに会う事すらできなかったんだ…)
―――――悲しいけれど、人の不幸を何とも思わない人間が世の中にはいる
(それに、もし話し合う事ができたとしても、誰も私の事なんて相手にしてくれない…。
力を持っている人からすれば、私は星の数程いる死んでもいい人間の一人…。
私の話を無視して……私を殺してしまった方が簡単なんだ…)
―――――小物は何もできねェ
(話し合いをする為の…話し合いをしないといけないと…話し合いで解決した方が得だって…そう思わせるだけの力がないと、話し合いなんかできない…!
曹操さん、孫権さんに袁術さん、そして関羽さんとルフィさん…これだけの力があっても、張角さん達と話し合う事ができない…!
この国を乱して、沢山の人を苦しめている人達と話し合うなら…それこそもっともっと沢山の力がないと…!)
桃香はその場に膝をつく。
(でも…その力っていうのは…!)
―――――人が生きる為には食物が必要で、家が必要で、その為には土地やお金が必要。そしてそれらを守る為の力が…
―――――力を持つ者は様々な手段で大勢の人々の生活や行動を制限、支配する。武力、財産、食料、情報…
(力を手に入れるって事は…!)
―――――おれ達の言う“仲間”ってのは『目的の為に共に死地に飛び込む存在』の事だ。ただの友達の事じゃねェ
―――――ルフィが誰かを仲間に誘うという事は、自分の危険な旅に誰かを巻き込むという事
(力を使うって事は…!)
―――――ルフィさんが『危ないから何もするな』と言うのであれば、それは裏切りにも等しい行為です
―――――何百人、何千人もの部下を死なせても、私が生きる事で何万、何十万もの命が救われるなら、私は生きなければならない
(私が力を持てば、私の決断で…関羽さん達が…大勢の人が…!)
―――――あなたは本当に私の様になりたいの?大勢の人の命を握り、それを
―――――大勢の民の命と生活を背負って、決断を下す事ができる二人の凄さが、今更になってようやくわかって来たわ
(でも…関羽さんは… ずっとそういう“力”が欲しかったんだ…!)
―――――初めて自分の無力さを―――自分が目の前にいる賊を退治する事しかできないという現実を…思い知らされたのです…
(領土や食料、お金に兵士、地位や権力が……国や政権と戦えるだけの力が欲しかったんだ…!)
―――――お前!愛紗が!あいつがどんな思いで力を欲しがって、手に入れて、使ってるかわかってんのかァ⁉
(それなのに私は…!簡単に小物のままでいいだなんて…!)
―――――でも、あいつらをバカにするのは絶対許さねェからな…!
(……ルフィさんの言う通りだ…!
こんな軽い気持ちで…!関羽さん達の仲間になろうとしていたなんて…!
みんなの覚悟を…!思いを…!もっと小さなものだと…!軽いものだと思っていた…!
私は関羽さん達を馬鹿にしていたんだ!)
桃香は泣き出した。
(私は…なんてひどい人なんだろう…!)
それは彼女が久しく流していなかった、自分の為の涙だった。
その夜、桃香は一人、涙が枯れるまで泣き続けた。
マンガ、アニメ、ライトノベル、ゲームを見ていると、「友達」と「仲間」がごっちゃになっている作品が多い様な気がするんです。
別にそれがダメとか嫌いとかいう訳ではないですけど、あくまでも組織的な仲間は目的の為にあるのであって、そこに私情同然の親愛や友情を過度に持ち込むのはちょっとどうかと思うんですよね。