ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第114話 “急襲”

ブルックが黄巾党の本陣に潜入した頃、張三姉妹は自分達の天幕―――舞台裏に当たる場所で飲茶していた。

 

「………?」

 

「どうしたの人和ちゃん?」

 

「姉さん達、何だか外が少し騒がしくない?」

 

「え?」

 

「みんなが応援の練習でもしてるんじゃないの?」

 

『天和さ~ん!地和さ~ん!人和さ~ん!』

 

「!あの声って…」

 

3人が天幕の外に出てみると…

 

「皆さ~ん!お久しぶりで~す!」

 

「「「ブルックさん!」」」

 

 

 

 

 

 

3人はブルックを天幕に招き入れ、話す事にした。

 

「外が少し騒がしかったのは、あなたが来たからだったのね」

 

「ええ。では久しぶりに下着見せて貰ってもよゴブッ⁉」

 

「一度も見せた事ないわよ!」

 

言い切る前に地和はブルックのこめかみを蹴り飛ばした。

 

「よ…ヨホホ……皆さん相変わらずで…」

 

「あんたも全く変わってない様ね…」

 

「まァ…皆さんを取り巻く状況は、だいぶ変わってしまったようですけど…」

 

よろよろと立ち上がりながらブルックは言う。

 

「うん…本当にね…」

 

天和は少し悲しそうに言う。

 

「……それで、どうしてここに来たのよ?」

 

やや敵意のこもった様子で地和は訊ねる。

 

「まァ…まずは少しお話しませんか?」

 

そう言うとブルックは自身の頭に手を伸ばし…

 

「えーっと…」

 

頭蓋骨の頭頂部を開け、中をまさぐる。

 

「「「えーーーっ⁉そこそうなってるのーーーっ⁉」」」

 

「あ、あったあった」

 

驚く3人をよそにブルックが中から取り出したのは…

 

「貝?」

 

一つの巻貝だった。

 

「これは私の世界にある音を記録する事ができる貝、“音貝(トーンダイアル)”というものです」

 

「音を?」

 

「はい」

 

ブルックが貝殻の殻頂を押すと音楽が流れ始める。

 

(わァ…素敵な音楽…)

 

天和は思わず聞き入る。

 

「皆さんには一度話した事がありましたね…。

私が昔、今とは別の海賊団に所属していた事。

一頭の仲間のクジラを、ある場所に置き去りにしてしまい、私が彼との再会の為に旅を続けている事。

これは私のかつての仲間達が、私が彼との再会を果たせた時に『私達は最期まで楽しく旅をしていた』という言伝として、私に託した音楽です…」

 

(本当に楽しそうな歌…。

……そうだ…こんなふうに、聞いてるみんなが楽しくなれる様な…こんな歌…。私達の夢だった…)

 

天和は目を閉じ、僅かに涙を浮かべる。

 

「私が奇跡的に“ヨミヨミの実”で黄泉返る事ができたから良かった様なものの、それが無ければ彼は独りぼっちのまま、永遠に帰ってこない仲間を待たなければなりませんでした…。

それに私も、生き返った後はたった一人で、50年間も海を漂わなければなりませんでした…。

私に後を託す事しかできなかったかつての仲間達も、本当に悔しかったと思います…。

海賊の私が言えた義理ではないかもしれませんが、人の死というのは…本当に辛いものなのです…」

 

「「…………」」

 

「私達だってむやみに人を死なせたくはありません…。

けど、私達との戦いが原因で死んでしまう人は、少なからずいるでしょう。

戦が起きれば、敵も味方も確実に沢山死んでしまいます。

このまま皆さんが官軍と武力衝突すれば、皆さんの味方―――皆さんの音楽を愛してくださっている方達が大勢死んでしまいます…。

…皆さんはそれでいいのですか?」

 

「………っ!」

 

「「…………」」

 

「人を死なせたくなければ、戦が起きる前に止めるが一番確実なのです。

皆さんへの刑罰もできる限り軽くなるよう、私からも頼んでみます。

降伏していただけませんか?」

 

「……言いたい事はそれだけ?」

 

地和は冷たく口を開く。

 

「…………」

 

「冗談じゃないわよ!降伏なんて―――」

 

「……もうやめよう」

 

「「⁉」」

 

地和の言葉を天和が遮った。

 

「何言ってるのよ姉さん⁉降伏なんてしたらちぃ達はもう歌えないのよ⁉」

 

「ただ歌う事ができればいいの⁉」

 

「っ⁉」

 

「天和姉さん…」

 

「…………」

 

「こんな事して歌ったって…私達の夢は叶わないよ…。私達が夢見ていたのは…歌う事自体じゃなくて…歌って…みんなを…楽しく…」

 

「「…………」」

 

「…………」

 

「……条件は?」

 

「!」

 

「人和ちゃん…」

 

「……降伏の…条件は?」

 

「……どうすれば…ちぃ達が降伏したって認めてくれるの?」

 

「……ちぃちゃん…!」

 

「ヨホホ…!」

 

 

 

 

 

 

「金仙丹?」

 

「確かに…私達にあの道具を渡した人が持って来て、道具に入っているのと取り換えていたわね」

 

「それなら…奥にあるちぃ達の道具に入っているわよ…」

 

ブルックは3人に連れられ、天幕の奥へと向かう。

そこは舞台上に連結しており、例の妖術の道具が置かれていた。

 

「これらが“拡声器”っていう、暗示機能がついている道具よ」

 

「⁉これは…」

 

「その辺りの外装が外れる様になっていて、そこから金仙丹を取り出していたわね」

 

「ふむ…」

 

人和の言う通り、外装の一部を取り外すと中に金色の延べ棒があった。

しかしそれはブルックがよく知る美しい黄金ではなく、どこか妖しさや禍々しさが感じられる金色だった。

 

ブルックは天和と人和にも手伝って貰い、すべての拡声器から金仙丹を取り出した。

 

「持って来たわよ」

 

取り出し終わると、別の場所にしまっていた命令を伝える道具がしまってある箱を手にした地和がやって来た。

 

「ちぃ姉さん時間かかり過ぎよ…」

 

「だっていつも人和が管理しているから、どこにしまってるかわかんないんだもん」

 

「鍵付きの戸棚の上から二番目の段にしまってあるって前に言った筈よ⁉」

 

「あのー…失礼」

 

「何?」

 

「ひょっとして、その箱にしまってあるのは“マイク”という、金属の棒に球体がくっついた道具ですか?」

 

「え⁉そうだけど…」

 

「どうしてわかったの?」

 

「……あの、音を記録する道具の方も見せて貰ってもよろしいでしょうか?」

 

「別に構わないけど、あれには金仙丹は使われていない筈よ。実際、取り換えていた様子もなかったし」

 

「ええ、ただちょっと気になる事が……っ!危ない!」

 

「きゃあ⁉」

 

突然ブルックは仕込み杖を抜き、天和を抑え込んだ!

 

キィン!と金属同士がぶつかる様な音がした直後、床に短刀が転がり落ちる。

 

「⁉な、何よあんた達⁉」

 

「「「⁉」」」

 

地和の声に3人がその視線の先を見ると、白装束に白い頭巾、白い仮面を着けた者達が数名、剣や槍、短刀や偃月刀など様々な武器を手に立っていた。

 

「張三姉妹を殺し、その罪を屍の御遣いに着せる事で黄巾党の連中を煽ろうと思ったが失敗か?」

 

「なァに、あの三人の死体さえあればいいだけの事、まだ続行可能だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、黄巾党の陣付近で待機していたルフィ達。

 

「ウソップ殿、黄巾党の陣の様子はどうだ?」

 

愛紗が訊ねる。

 

「まだ特に何かがあった様には見えねェが…」

 

「そうか。ロビン殿の方は?」

 

「何回か場所を変えて様子を探っているけど、特に騒ぎは起きていないわね…」

 

「騒ぎがないって事は、今まさに話し合いの途中って事でしょうか?」

 

…と、桃香。

 

「すでに声をあげる間もなく殺されている可能性もあるわよ」

 

「何でもかんでも悪い方向に考えるのやめろ…」

 

馬車の外からゾロがツッコむ。

 

「張三姉妹の天幕を直接覗く事ってできないの?」

 

「何回か試しているのだけれど、物が多くてよく見えないわ。それに人の出入りが多いから目立つ場所には咲かせられないし、人の声も多くて聞き取る事も…」

 

「どこに目を付ければいいのかわからないのは痛いですね…」

 

朱里がそう呟いた時だった。

 

「ちょっと待って!」

 

「どうしたのロビン⁉」

 

「陣の中が明らかに騒がしくなったわ!」

 

「何だと⁉」

 

「あ!張三姉妹の天幕から誰か出て来たぞ!」

 

「本当かウソップ⁉誰だ⁉ブルックか⁉張角ちゃん達か⁉」

 

「ブルックと…たぶん張三姉妹だ!けど…様子がおかしい!」

 

「おかしいとは⁉」

 

「ブルックの奴…ヘンな奴らから張三姉妹を守る様に戦っている!」

 

「ヘンな奴らって…誰なのだ⁉」

 

「わかんねェ!けど、全員白い服に白い頭巾、白い仮面をつけている!」

 

「何だと⁉それはきっと太平道の奴らだ!」

 

華佗が叫ぶ。

 

「おそらく、張三姉妹の動向を探る為に、何人か潜入していたのだろう!」

 

「黄蓋殿!」

 

愛紗が叫ぶ。

 

「すでに鏑矢は放った!周泰は⁉」

 

「今、チョッパー殿と一緒に向かいました!我々はどうします⁉」

 

…と、凪。

 

「おれが飛ぶ!お前ら後から来い!」

 

ルフィはそう言うと馬車の屋根に上り…

 

「“ゴムゴムの”…“ロケット”‼」

 

張三姉妹の天幕に向かって飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨホホッ!ヨホッ!」

 

その頃、ブルックは数十人の白装束達から張三姉妹を守る為に奮闘していた。

 

「な、何だあいつら⁉」

 

「一体どうなってんだ⁉」

 

突然舞台で謎の集団との乱闘が始まった為、その場にいた黄巾党の党員達は困惑している。

 

「みんな逃げてー!」

 

「危ないからとりあえずこの舞台から離れてー!」

 

「巻き込まれない内に早くー!」

 

張三姉妹はありったけの声で叫び、避難するよう促している。

 

「“夜明け歌(オーバード)・クー・ドロア”‼」

 

「ぐああっ⁉」

 

「くっ…さすが天の御遣い…!強い…!」

 

「だが…せめて回収を…!」

 

「“ゴムゴムの”ォ~…」

 

「!皆さん伏せて!」

 

「「「⁉」」」

 

微かな自分の船長の声に気付いたブルックは、張三姉妹を半ば強引に押し倒す。

 

「⁉何のつも…」

 

「“大鎌”‼」

 

「「「「「「「「「「ぐあああああっ⁉」」」」」」」」」」

 

その声に気付かなかった白装束達は、大きく伸びたルフィの両腕によって吹っ飛ばされた。

 

「あなた…確かブルックさんの船長さんの…」

 

「ルフィだ!大丈夫だったかお前ら⁉」

 

「ええ、なんとか…」

 

「ルフィさん、来てくれて助かりました…。他の皆さんは?」

 

「もうすぐ来る筈だ。そういやどうなったんだ説得?」

 

「あ、はい。天和さん達は降伏する事を決めてくれて、それで例の金仙丹を回収していたのですが、そこへこの方達が襲ってきて…」

 

「そうか、何となくわかった。…で、これからどうすんだ?」

 

「とりあえず、こちらに向かっている皆さんと合流しましょう。

それから黄巾党の皆さんを集めて、天和さん達から降伏する事を伝えて貰おうと思います。

天和さん達もよろしいですね?」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その少し前、連合軍の本陣、天幕。

 

「……時間的にそろそろ話し合いは終わっている頃だと思うのだけれど…」

 

「まだ何の報告もないとはね…」

 

向かい合わせに椅子に座った華琳と蓮華が呟く。

 

「ブルック殿、大丈夫でしょうか?袋叩きにされて、粉々になっていたりしてないといいですけど…」

 

「呂蒙さん…あなた最近ロビンさんの怖い想像をする所が感染(うつ)ってきていませんか?」

 

包が呟いたその時だった。

 

「お姉様!」

 

柳琳が天幕に飛び込んで来た。

 

「何事か⁉」

 

「鏑矢が上がりました!数は三本!想定外の事態が発生した様です!」

 

「何ですって⁉」

 

「孫権様!」

 

今度は明命が飛び込んで来た。

 

「黄巾党の陣を見張っていた所、ブルック殿が何者かから張三姉妹を庇う様に戦闘を始めました!

華佗殿の話では、相手は太平道の手先だそうです!」

 

「!曹操殿!」

 

「ええ!すぐに我々も敵陣へ向かうわよ!」

 

「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明命が華琳達に報告を終えた頃、ルフィ達は舞台馬車に乗って来た桃香達と合流し、陣の入口に集まっていた。

そして、天和達が官軍に降伏する事を党員に伝えていた。

 

「…という事で、本日をもって黄巾党は解散し、私達はまたただの旅芸人に戻ります」

 

「大賢良師様が…ただの旅芸人って⁉」

 

「どういう事だ⁉」

 

「えーっと、皆さんと張角さん達、そしてこの国で何が起きていたのか、私から説明します」

 

困惑する者達も多い為、ブルックが前に出て説明する。

 

「ルフィ!関羽!」

 

「曹操殿!孫権殿達も!」

 

華琳達が駆けつけてきた。

 

曹操軍や孫権軍の主要な部将、軍師達も一緒にいる。

 

「どういう状況なの?」

 

「張三姉妹は降伏してくれる事になりました。それで今、ブルック殿達から事の一部始終を党員に説明している所です」

 

「そう。襲って来た太平道の奴らは?」

 

「すでに拘束しております」

 

「なら、ひとまずは安心かしら?」

 

 

 

 

 

 

説明が終わった後、張三姉妹は自分達の処遇についてその場で話し合う事になった。

 

黄巾党の党員達は全員捕虜として、兵士達に囲まれた状態で少し離れた場所に待機する事になった。

張三姉妹の本来の支持者達は『ブルックがついているなら』という事で納得し、太平道が流した噂をう吞みにして加わった者達は、張三姉妹がただの旅芸人だと知った事で熱が冷め、皆大人しくなった。

 

「そういえばブルック殿、例の金仙丹の回収はどうなった?」

 

華佗が訊ねる。

 

「あ、はい。それでしたら…」

 

…と、ブルックは頭蓋骨を開け、中をまさぐる。

 

「「「「「「「「「「えーーーっ⁉そこそうなってるのーーーっ⁉」」」」」」」」」」

 

今度は桃香達が驚愕する。

 

「なんとか太平道の方達が襲ってくる前に取り出す事はできたので、とっさにココに隠しました。

天和さん達が所持していたのは、これで全部です」

 

ブルックは華佗に金仙丹を手渡す。

 

「それが“金仙丹”?」

 

華琳が訊ねる。

 

「ああ。妖力を貯め込み供給する力ができ、そして持ち主の悪しき心を増幅させる作用がある。

どう作っているのかはおれも知らぬが、これはほんの欠片で、本体はとても大きい塊らしい。

それを削り取って加工して、持ち出しているんだ」

 

「それはどう処分すればいいの?」

 

「それは簡単だ。粉々に砕いてしまえばいい」

 

「それだけでいいの?」

 

「ああ。金仙丹の本体には、怨嗟の声を妖力に変えて貯め込む力があるが、この欠片はただ貯め込まれた妖力を供給する事しかできない。

貯め込んだ妖力が少なくなると徐々に黒ずんでいき、底をつくとただの黒い石になる。

本体の近くに置いておけば、また妖力が補充されるらしい」

 

「そいえば定期的に妖術使いが来て、少し黒くなっていたそれと新しい物を取り換えていたわ」

 

人和が呟く。

 

「この欠片が貯め込む事ができる妖力の量は、大きさによって決まるらしいから、砂粒程の大きさにしてしまえば、妖力があっても何の役にも立たな…」

 

「っ!危ねェ!」

 

「うおっ⁉」

 

華佗がそこまで言った時、突然ルフィが華佗を突き飛ばした。

そして次の瞬間、轟音と共に砂煙が舞い上がる!

 

「ぐっ⁉」

 

「きゃあ⁉」

 

突然の事に華佗は金仙丹を落としてしまった。

 

「⁉これは⁉」

 

やがて砂煙が晴れると、先程まで華佗がいた場所の地面が大きく割れていた。

 

「困りますねえ…」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

何者かの声が聞こえ、見ると一人の男が華佗の落とした金仙丹を拾っていた。

 

「これは貴重な物なのですよ」

 

「あなたは…」

 

「貴様は…」

 

「粉々にするなどとんでもない」

 

「「于吉!」」

 

人和と華佗が声をあげた。

 

 

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