ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
翌日の夕刻、皆は夕食を食べに食堂に集まっていた。
「メッシだーーー!……あり?桃香の奴、また来てねェのか?」
ルフィは一つだけ空いている席に気づく。
「はい…夕飯もいらないと言って…」
「ぽんぽん痛いのかな?」
「三食ともいらないだなんて…腸が引き千切れたりしていないといいけど…」
「怖ェーよ想像が!」
「でも、おれが昼間診てみようか訊いてみたら、大丈夫だって言ってたんだよな…」
「私も…お薬煎じましょうかって訊いてみたんですけど、病気じゃないからと…」
「病気でもないのに丸一日食べないだなんて、鈴々には考えられないのだ…」
「おれの料理が口に合わなかったりでもしたのかな?……はっ!まさか、心配して部屋に夕食を届けに行ったおれと二人っきりで食べたくてワザと⁉」
「てめェの頭の方がよっぽど病気だな…」
「あ゛ァ⁉」
「そういえば、この間お腹に手を当てて、ため息をついているのを見たけど…」
「私も…それが気になって、それと無く訊いてみたのだが、はぐらかすばかりでな…」
「具合は悪くねェのに腹が気になるって事か?」
「う~ん…ちょっとわからないですね…私お腹が無くなってから長いですから…」
「そういえばアンタって食べた物どこいってんだ?」
翠がそう言った直後、蒲公英がハッとした様子で立ち上がった。
「それってもしかして……妊娠⁉」
「「「「「「「「「「えェっ⁉」」」」」」」」」」
「あ…姉上が子を孕んだだと⁉」
「あ…相手は⁉相手は誰なの⁉」
ナミの一言にざわついていた空気がしーんと静まり返り、やがて一人のエロコックに視線が集う。
「⁉何でおれを見るんだよ⁉」
「何でと言われましても…」
「サンジ君ぐらいしか、やらかしそうな奴がいないでしょ」
当然の様に愛紗とナミが言う。
「いや、やらかしそうな奴つったらブルックだってそうじゃねェか!」
「いや無理ですよ。私その為の臓器がないですから」
「つーかそもそも妊娠だって決まった訳じゃねェだろ⁉」
「妊婦って赤ちゃんに腹を圧迫されるから、食欲が湧かなくなる事があるぞ」
「私も璃々がお腹にいた時、つわりがひどくて何も食べる気になりませんでしたね」
「ホラ見ろ。医者と経験者がそう言ってるじゃねェか」
「何が『ホラ見ろ』だ!」
「やめろお前ら!むやみに仲間を疑うな!」
「翠ちゃん⁉」
「サンジ、お前本当にやっていないんだな⁉」
「あ、ああ!勿論だ!」
「だったら構えろ!もしお前が噓をついているのなら、気の濁りでわかる筈だ!」
「ああ、わかった!」
そしてサンジは身構え、翠と真正面から向き合う。
(じ~~~……)
(ああ…♡翠ちゃん…♡そんな真っ直ぐに見つめられたら…♡でへへ…♡)
「……気が濁りだらけだった…。いやもう濁りしかなかった!やっぱりこいつがやらかしたんだ!」
「誤解だァ~~~!」
さらにその時、いつの間にか部屋を出ていたウソップと蒲公英が食堂に戻って来て…
「容疑者の部屋を調べた所、官能小説が大量に発見されました!」
「限りなく黒に近いわね」
「余計な事すなァーーー!」
「たんぽぽも台所を調べてみた所、食器棚の裏から性行為について書かれた本が発見されました!」
「ちょっと待て!それは本当に知らねェぞ⁉おれのじゃねェ!」
(はわわっ⁉それは私が隠したやつです!新しい隠し場所を考えないと!)
思わぬとばっちりを受ける朱里であった。
「……お前ら、さっきから何の話してんだ?」
…と、そこで先程から置いてけぼりにされていたルフィが口を開いた。
見ればゾロや鈴々、璃々も皆の反応の意味がわからず、話について行けてない様子である。
「だから、桃香さんのお腹にいる赤ちゃんが…」
「え?子供って桃から出てくんじゃねェのか?」
「アホか!光る竹を切ったら、そこから出て来るんだろうが!」
「違うのだ!
「ちがうよ。コウノトリがはこんでくるんだよ」
((((((((((駄目だこいつら…))))))))))
鈴々と璃々はともかく、ルフィとゾロの発言に一同は呆れ果てるのだった。
結局、真相は明日桃香も交えて改めて問いただそうという事になり、その日はそれで解散したのだった。
▽
夜中、いきなり無茶な断食を行った桃香は空腹のあまり眠れずにいた。
「うう~…もう駄目…我慢できないよ…」
▽
「何でもいいから…何か食べ物~…」
頭に風呂敷を被り、見るからに泥棒の様な格好で台所を物色する。
「あ…!」
少しして、戸棚の下の段に一つの壺を見つけた。
「あった~!」
中を覗いてみると、暗闇でよく見えないが確かに食べ物が入っているのが確認できた。
「ご馳走様~」
そして桃香はよく確かめもせずに中身を全部食べ、部屋へと戻って行った。
彼女は気付かなかったが、その壺には『趙私物』と書かれた貼紙がしてあった。
▽
翌朝。
「大変なのだーーー!桃香お姉ちゃんが赤ちゃん産みそうなのだーーー!」
鈴々の大声が屋敷中に響き渡った。
▽
「うっ…うう~…」
「姉上!しっかり!」
「おい!大丈夫か桃香⁉」
真っ先に駆けつけた愛紗とルフィが部屋に入ってみると、真っ青な顔の桃香が腹を抱え、苦しそうに寝台にうずくまっていた。
他の面々も次々と部屋に着く。
「い、医者ァ~~~~~!おれだーーーーーっ!」
「チョッパーさん診察を!朱里ちゃんはお湯を沢山沸かして!蒲公英ちゃんは清潔な布を!
ルフィさんと愛紗ちゃんと鈴々ちゃんは傍で励ましてあげて!ナミさんとロビンさんは手伝いをお願いします!」
「わかった!道具とってくる!」
「お湯沸かしてきます!」
「布だね!」
経験者である紫苑がテキパキと指示を出し、皆も動き出す。
「サンジ君は⁉」
「今朝早くに、村の食糧庫の備蓄を確認してくるって言って、出て行ったまんまだ…」
「他のみんなはサンジ君をひっ捕らえて来て!何が何でも責任取らせるわよ!」
「「「「「おう!」」」」」
ゾロ達も部屋を出て行く。
「道具とってきたぞー!」
入れ替わりにチョッパーが戻ってきた。
「チョッパー頼む!」
「おう!」
返事をするなりチョッパーは桃香の身体を調べ始める。
「覚悟しておいてね…お腹の出具合から見ても早すぎるわ…」
紫苑は顔を強張らせて言う。
「もしかしたら赤ちゃんは…最悪の場合桃香さんも…」
「何だ?」
「命が危ないって事よ」
「命が⁉子供を産むのってそんなに大変なのか⁉」
ロビンの言葉にルフィは驚愕する。
「一般的にはスイカを鼻から出すくらい痛いと言われているわ…」
「鼻からスイカ⁉そんなのおれだって無理だぞ⁉紫苑そんな大変な思いして璃々産んだのか⁉お前すげーな⁉」
「まァ…もう少しで璃々に会えると思えば頑張れましたから…」
「そういうもんなのか?」
―――――ノジコ‼ナミ‼大好き♡
「ええ、きっとそうよ…」
―――――生きて‼ロビン‼
「たぶんそうね…」
「ええ。子供を持つというのはとても幸せな事ですから」
(……子供を持つか……………
『だいぶ大きくなったな』
『はい…もうすぐ会えるのですね…私達の子に……』
『元気に生まれてくるといいな』
『私とルフィの子なのですから、元気に決まっているでしょう』
『そっか…そうだな』
『ふふふ…』
『ししし!』
…って何を考えているのだ私はァ⁉姉上が大変な時に‼
それに何で父親がルフィになっているのだ⁉私とルフィは義理とはいえ兄妹なのだぞ⁉そんな事許される筈が―――いや許されたとしても、私は決してルフィに対してその様な感情は…‼)
「どうしたんだ愛紗の奴?」
「何で壁に頭を打ちつけているのだ?」
「………あれ?」
「!チョッパーどうした⁉」
「姉上は⁉腹の子は⁉」
「いや…それが……これ陣痛じゃねェし、桃香妊娠してねェぞ?」
「「「「「「?」」」」」」
予想外の診察結果に、一同は目を丸くする。
「それでは何だというのだ?」
「たぶん食あたりだな。何か変な味や臭いがする物食べたか?」
チョッパーの問いかけに桃香は頷く。
「な…なんだァ…」
緊張が解け、一同はヘナヘナと座り込む。
「でも困ったな…食あたりの薬、この間全部なくなっちまったんだよな…。この時期じゃまだ薬草生えてるかわからねェし…」
「ここ数日、急に暖かくなって食べ物が傷みやすくなったから、それで患者が増えてたものね」
「とりあえず応急処置だけして、朱里と山に行ってみるよ」
「わかったわ。気を付けてね」
「でも、赤ちゃん産まれないの残念なのだ…鈴々もお姉ちゃんになれると思ったのに…」
「それは違うわよ。桃香さんの子供は鈴々ちゃんにとっては甥か姪だから、ルフィは伯父さん、愛紗さんと鈴々ちゃんは伯母さんになるのよ」
ナミが説明する。
「ちょっと待てェ!私がおばさんとはどういう事だ⁉」
「いや愛紗さん…どういう事って言われても…」
「私はまだ、おばさんと呼ばれる様な年ではない!甥や姪ができたとしても、断じてそうは呼ばせぬぞ!」
「お前ほんとそーゆーの気にするよな…」
ルフィを始め、愛紗の年齢へのこだわりに皆呆れるのであった。
▽
その頃、サンジ捜索班はと言うと…
「あのー…ちょっと思ったんですけど、サンジさん素直に付いて来てくれますかね?」
「あー…確かに昨日の事があるからな…」
「一理あるな…」
「任せておけ。おれに名案がある」
ウソップは自信満々に言う。
「「「名案?」」」
「あ、いた!お~い!サンジ~!」
「おお!翠ちゃん!どうしたんだ一体?」
声を掛けてきたウソップではなく、その後ろにいる翠に反応するサンジ。
「残りの女性陣が屋敷でお前を心待ちにしているから、すぐに戻って来てくれ」
「了解したァーーーーーっ!」
ウソップの言葉を聞くなり、サンジは一目散に屋敷へと向かって行った。
「成程」
「ウソップも中々頭が回るんだな」
「まァな」
「では、私達も屋敷に戻り……アレ?ゾロさんは何処に?」
「「「あ…」」」
▽
「…ったく、あいつらどこ行きやがったんだ?ただでさえコックを捜さねェといけねェってのに…」
▽
さらにその頃、屋敷の門前に一人の来訪者の姿があった。
それは…
「うーむ……華蝶仮面としてかっこ良く再登場しようと思い、わざと逸れたのはいいものの…。
登場する機会を掴めぬまま、ずるずるとここまで来てしまったが…。
いい加減そろそろ戻らんと、本当に忘れられかねんな…」
上のセリフからも想像できるように、霧の中で逸れた星であった。
「とはいえ、この常山の趙子龍、今更何の工夫もなく戻る訳には……。
いや待てよ、こういう時はヘンに凝った事をしようとすると、得てしてしくじるもの。
ここで滑っては目も当てられぬ、この際普通に……。
いや待て待て!『死中に活あり』という言葉もある!これだけ長期間の前振りを生かさぬ手はない!
ここは思い切って、勝負に出るべきか…⁉」
「おお、趙雲殿ではないか」
「っ⁉」
星がどうでもいい事を悩んでいると、背後から声を掛けられた。
振り返るとそこにいたのは…
「ん?お主は華佗。どうしてここに?」
華佗が立っていた。
華佗は背後に、布をローブの様に羽織り、フードの部分を深被りして顔を隠した女性を連れている。
「関羽殿達に頼みたい事があってな。村の住民から、関羽殿達はこの屋敷の一角に住んでいると聞いたのだが、ご在宅だろうか?」
「さ、さあ~…?ご在宅だと思うが、ひょっとすると出かけていたりしなかったり…」
「?」
「ぴゅ~…♪ぴゅ~…♪」
「あー!趙雲!」
「⁉」
星が口笛を吹いて誤魔化していると、門の中から声を掛けられた。
声の主は薬草採りに行こうとしていたチョッパーであり、後ろにはジト目をした朱里もいる。
「今までどこ行ってたんだよ?心配したんだぞ!」
「あ、ああ…済まなかったな…」
「何だ、趙雲殿は数日屋敷を離れていたのか。それならそうと…」
「あー!華佗じゃねェか!丁度良かった!お前針治療で食あたりって治せねェか⁉」
「ああ、治せるが…まさか病人か⁉」
「はい!桃香さんが食あたりを起こしてしまって…」
「何⁉」
「わかった!すぐに診てみよう!」