ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第125話 “鳳雛の巣立ち”

 

すっかり日が沈んだ頃、ナミ達一行。

 

「…………」

 

愛紗はどこか寂しそうな表情を浮かべ、焚火を見ていた。

 

「愛紗さん?」

 

「どうかしたの?」

 

「あ、いえ…大した事ではないのですが…ルフィも鈴々も一緒にいない旅というのが、ちょっと久し振りだったので…。

ルフィに会う前は、こうして一人、旅の空の下にいるのが当たり前だったのに…。

あの二人がいないだけで、少し寂しい気がして…」

 

「私達と同じね」

 

「え?」

 

ナミの言葉に、愛紗は顔を上げる。

 

「私達も、ルフィに出会うまではずっと一人だったの…。『一人で戦って、一人で生きる』って、ずっとそう考えていて…」

 

「この世界に来て一人になった時、当然の様に『みんなと合流しなきゃ』って真っ先に思ったわ。

ルフィ達と出会う前では、そんな事考えられなかったわ…」

 

「……あのう、もし良かったら天の国でのルフィ達の話を聞かせて貰えませんか?」

 

「ええ、いいわよ」

 

「じゃあ…まずは私がルフィと出会った所から…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、夕食を終えた朱里は雛里と一緒に風呂に入っていた。

 

「背中があるから洗います~♪」

 

歌いながら朱里は雛里の背中を流す。

 

「これで良し!雛里ちゃん交代…」

 

「…………」

 

「雛里ちゃん?」

 

朱里が顔を覗き込むと、雛里は何か思いつめた様な表情をしている。

 

「!あ…うん…!」

 

「どうしたの雛里ちゃん?何か考え事?」

 

「ううん、何でもないよ…本当に…」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜中。

 

「う~ん…」

 

雛里と一緒に昔自分が使っていた部屋で寝ていた朱里は、不意に目を覚ました。

 

「……厠行ってこようかな…」

 

目をこすりながら寝台から降り立つ。

 

「……あれ?」

 

そこで朱里は、隣で寝ていた筈の雛里の姿がない事に気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(雛里ちゃんも厠に行ったのかな…?)

 

そんな事を考えながら厠に向かっていると…

 

カサ…

 

「?」

 

何かの物音が聞こえ、朱里はその方角に顔を向ける。

 

「え?」

 

すると背中に風呂敷包みを背負った人影が、倉庫から出てくるのが見えた。

 

(はわわっ⁉アレってもしかして泥棒⁉)

 

人影は辺りを見渡すと門に小走りで向かい…

 

「あわわっ⁉」

 

小さく悲鳴をあげて転んだ。

 

「え?今の声…」

 

聞き覚えのある声に朱里が人影に近づいてみると…

 

「雛里ちゃん?」

 

「っ⁉しゅ、朱里ちゃん⁉」

 

その人影の正体は雛里だった。

 

 

 

 

 

 

朱里はその場で話を聞いてみる事にした。

 

「どうしたの雛里ちゃん?こんな夜中に食べ物を沢山持って?」

 

雛里の風呂敷包みを開けてみると、中身は大量の保存食だった。

 

「……旅に出ようと思って…」

 

「旅って…どこに?」

 

「……南蛮に…」

 

「南蛮ってどうして⁉」

 

「……私のせいだから…」

 

「?」

 

「……南蛮象の臍の胡麻…私が失くしちゃったから…」

 

雛里は泣きそうな顔をしながら話し始めた。

 

「……昨日のお昼、水鏡先生に言われて、薬の材料がある部屋を掃除していたの…。

その時、開けっ放しになっていた引き出しの中の小物入れが気になって、開けて中を見てみたの…。

“㊙”って書いてあった赤い包みがあって、中が気になって開けたら…その時くしゃみをしちゃって、中の粉が飛んでっちゃったの…。

それで慌てた拍子に、足元にあった水桶をひっくり返しちゃって…南蛮象の臍の胡麻、全部駄目にしちゃったの…。

だから…だから私が南蛮に行って…南蛮象の臍の胡麻を採って来なきゃって…」

 

「雛里ちゃんの馬鹿!」

 

「っ!」

 

「それならどうしてちゃんと話してくれなかったの⁉」

 

「ごめんなさい…。せっかく来てくれたのに…南蛮象の臍の胡麻、私が駄目にしちゃったって聞いたら…朱里ちゃんもルフィさんも凄く怒ると思って…怖くて…」

 

そう言って雛里は泣き出してしまった。

 

「雛里ちゃん、私確かに怒ってるよ。でもそれは、雛里ちゃんが隠し事をしていたからだよ。ちゃんと正直に言ってくれたら、私絶対に怒ったりしなかったよ」

 

「…え?」

 

「だって私達お友達でしょ?」

 

「朱里ちゃん…」

 

「それから、雛里ちゃんルフィさんが言ってた事、忘れているでしょう?」

 

「え?……あ!」

 

―――――朱里はすげェ奴だから、それくらいで怒ったりしねェよ

 

「ルフィさんは私達よりももっと凄い人だもん、そんな事で怒ったりしないよ。…というよりむしろ…」

 

「?」

 

「とにかく、みんなが起きたら正直に話そう。ね?」

 

「うん…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて日が昇り、全員が起きた後、雛里は正直にすべてを話した。

 

「そういう事だったのか…」

 

「でも、くしゃみが出るのはどうしようもないと思うのだ」

 

「たんぽぽもご飯の時にくしゃみして、口の中の物が全部翠姉様の顔にかかって、すっごく怒られた事あるんだよね~…。

止める事なんてできないのにさ~…」

 

「せめて向きを変えるくらいはしようよ…」

 

「話はわかったわ。雛里、今度からは気を付けるのよ。それからそういう時は、すぐに私に話すようにね」

 

「はい…ごめんなさい…」

 

「ね、言った通りでしょ?正直に言ってくれたら、怒ったりなんかしないよ」

 

「うん…」

 

「…………」

 

「鈴々ちゃん?どうかしたの?」

 

「な、何でもないのだ!」

 

「まーでも、とりあえず南蛮象の臍の胡麻、ここにはねェんだよな~?」

 

…と、ワクワクあるいはそわそわといった様子でルフィが言う。

 

「だったらよ~南蛮まで行って採って来るしかねェよな~?」

 

「うわ~…露骨に嬉しそう…」

 

「ま、元々南蛮まで行きたくてコッチに来た様なモンだからなこいつは…」

 

「でもルフィの言う通り、南蛮に行くしかないと思うのだ」

 

「そうですね。危険な旅になるかもしれませんが、朱儁さんの為です!頑張りましょう!」

 

「うん!みんなで力を合わせれば、きっと大丈夫だよ!」

 

「……あのう皆さん、南蛮まで行かれるのでしたら、ここにもう一泊していかれませんか?」

 

「え?」

 

「ここの書庫に南蛮の地形を記した“平蛮指掌図(へいばんししょうず)”という巻物があるのです。

簡単なものですし、あまり奥地については描かれていませんが、あればきっと役に立つと思います。

私がその写しを作りますから、是非それを持って行って下さい。

それから南蛮は疫病の絶えない地域ですから、薬も沢山持って行った方がいいかと…」

 

「え⁉でも、そこまでして貰うのは…」

 

「南蛮は南方にある未開の地、その旅路はとても険しく、凶暴な蛮族が跋扈していると聞きます。

本当に危険な地ですから、皆様の身の安全の為に少しでもご助力をさせていただきたいんです。

もう一晩、待っていただけませんか?」

 

「…わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」

 

「それじゃあ、私はすぐに作業に移ります」

 

「じゃあ、今日の食事はおれが作ろうか?勝手に台所を使われたくないのなら、無理にとは言わないけど…」

 

「でしたら、お客様を使って悪いですが、食事はサンジさんにお願いします。朱里と雛里には、薬の調合をお願いしていいかしら?」

 

「はい、勿論です!いいよね雛里ちゃん?」

 

「…………」

 

「雛里ちゃん?」

 

「……あ、はい…!」

 

雛里は返事をしながら、不思議そうにルフィを見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、ルフィ達は水鏡の屋敷にもう一泊する事になった。

 

水鏡は書斎で地図の写しを作り、サンジは台所で食事の用意。

鈴々と蒲公英は外で稽古をし、桃香はその隣で素振り。

そして朱里と雛里は作業部屋で薬を調合し、ルフィがその様子を見ている。

 

「色んなのがあるんだなー」

 

2人が作る薬を見て、ルフィが呟く。

 

「南蛮は色んな病気が絶えない地域ですからね。色んな薬を沢山作っておかないと…。あ…材料なくなったから取ってきますね」

 

朱里は部屋を出て行った。

 

「にしても結局行けるんだな~!楽しみだな~!」

 

「……あのう…」

 

「ん?」

 

不意に雛里が手を止めて話し掛けてきた。

 

「ルフィさんは南蛮に行くの嫌じゃないんですか?」

 

「?全然」

 

「何でそんな事を訊くんだ?」といった様子でルフィは答える。

 

「だって南蛮って凄く暑いですし…」

 

「おれは暑いの好きだから平気だよ。あー…でも砂漠みてェなのはちょっと嫌だな…」

 

「病気が沢山ありますし…」

 

「おれは病気になんてならねェよ」

 

「毒蛇とか大蛇とかが沢山いますし…」

 

「へーそうなのか。美味ェのいっかな~?」

 

「虫が沢山いますし…」

 

「ホントか⁉ヘラクレスもいんのか⁉」

 

「…何より行った事がある人がほとんどいないから、何があるのか本当にわからないんですよ?」

 

「その方が面白ェじゃねェか」

 

「え?」

 

「だってよ、何があるのかわかんねェなら、何があるのか見てみてェじゃねェか!怖ェモン、美味ェモン、キレーなモン、面白ェモン、いっぱいあるかもしれねェんだぞ⁉」

 

「…………」

 

「それに、今まで誰も見た事がねェモンを自分が最初に見に行くんだぞ⁉それってスゲェ事じゃねェか!だから冒険は楽しいんだよ!」

 

「……冒険?」

 

「ルフィ~!」

 

部屋の戸を開けて鈴々が入って来た。

 

「蒲公英の稽古が終わったから、鈴々と組み手して欲しいのだ!」

 

「ああ、わかった。おれ行くわ」

 

「あ…はい…」

 

ルフィは鈴々と一緒に部屋を出て行った。

 

「…………」

 

残された雛里はしばらく手を止めたまま、今のルフィとの会話を思い返していた。

 

「……冒険…」

 

「雛里」

 

「!水鏡先生!どうしてここに?」

 

「墨が足りなくなったから取りに来たの。…所で雛里、少しいいかしら?」

 

「あ…はい…」

 

水鏡は雛里の正面に正座し、話し出す。

 

「昨日の夕食で象の話をした時の事、覚えている?」

 

「はい」

 

「ルフィさんやサンジさんは、どうして象の事を詳しく知っていたかわかる?」

 

「本物を見た事があるからです」

 

「そうね。じゃあ、南蛮象が本当は南蛮に住んでいる動物じゃないって説があったのは、どうしてだかわかる?」

 

「…南蛮に行って確かめた人がいるから?」

 

「そう。書物で読んだり、絵で見たり、話しで聞いたりするよりも、現地に行って実物を見た方が詳しく知る事ができる。

書物や人の話の情報が正しいのかどうか、確かめる事ができる。

旅に出て見聞を広める事が大切なのは、そういう理由がるのだけれど…他にももう一つ理由があるのよ」

 

「まだあるんですか?」

 

「ええ、それはね……まだ書物に書かれていない新しいものを、自分で見つけに行く事よ」

 

「!」

 

そこまで言うと水鏡は立ち上がり…

 

「雛里、旅に出て見聞を広める事はとても大事な事。大事な事は、ちゃんと自分の意志で決めるのよ」

 

「…………」

 

そう言い残して部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「水鏡先生、大変お世話になりました」

 

水鏡から地図と薬、さらには路銀や食料を分けて貰い、ルフィ達は出発しようとしていた。

 

「雛里ちゃんもお勉強頑張ってね」

 

…と、朱里は声を掛けるが…

 

「雛里ちゃん?」

 

雛里は俯いたまま返事をしない。

 

「……あ、あのっ!」

 

…と、突然雛里は顔を上げ…

 

「わ、私も一緒に連れて行ってくれませんか⁉」

 

真っ直ぐな目でそう言った。

 

「いや、あの…鳳統ちゃん、南蛮象の臍の胡麻の事なら本当に気にしなくていいから…」

 

「サンジさん」

 

「?」

 

「きっと、そんなんじゃないですよ」

 

桃香はそう言ってサンジの言葉を遮る。

 

「お、お願いします!わ、私も…私も冒険したいんです!」

 

強いまなざしで懇願する雛里に…

 

「…そうか……よし!行こう!」

 

ルフィは笑ってそう応えた。

 

「いいよな、みんな⁉」

 

「はい!」

 

「勿論です!」

 

「女の子が増えるのは大歓迎だぜ!」

 

「たんぽぽも勝手について来ちゃったから、駄目って言える立場じゃないし…」

 

「構わないのだ!『旅は道連れよ』……『妖怪なんて怖くない』なのだ!」

 

「…!ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

少しして、雛里も旅支度を終えて来た。

 

「朱里、雛里、餞別としてこれも持って行きなさい」

 

水鏡はそう言って朱里に羽毛扇を、雛里に先端に球状の羽毛がついた采配を手渡す。

 

「先生…これって…」

 

「先生がいつも大事にしていた…」

 

「二人共、くれぐれも身体には気を付けるのよ」

 

「…はい!」

 

「ありがとうございます!」

 

「皆さん、二人の事、よろしくお願いします」

 

「はい!勿論です!」

 

「おう!任せとけ!」

 

「水鏡先生、行ってきます!」

 

「ええ!沢山冒険してきなさい!」

 

新たに雛里を仲間に加え、ルフィ達は水鏡の庵を出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水鏡の庵を出てからしばらくして…

 

「羽毛扇~♪」

 

「えへへ~♪」

 

上機嫌になっている朱里と雛里を先頭に進んでいると…

 

「……あ、あの~…朱里…」

 

鈴々が申し訳なさそうに口を開いた。

 

「?鈴々ちゃん?」

 

「ちょ…ちょっと話があるのだ…」

 

「話?」

 

「「「「「?」」」」」

 

鈴々の様子がおかしいので、思わず全員が注目する。

 

「しゅ…朱里の硯…落として割っちゃったの……実は、鈴々なのだ…」

 

「はわーーーーーっ⁉」

 

瞬間、朱里の身体に雷に打たれたかの様な衝撃が走る!

 

「も…勿論わざとじゃないのだ!あれは不幸な事故で、これっぽちも悪気は…!」

 

顔を引きつらせながらそう言う鈴々に対し…

 

「そうですか…やっぱりアレは鈴々ちゃんの仕業だったんですね…」

 

朱里は不気味なほど穏やか口調でそう返す。

しかし、その身に纏っているオーラは穏やかではない。

 

「あれは水鏡先生のお古を譲っていただいた、とても大切な物だったんですよ…。なのにそれを…」

 

「あ…あの皆さん…」

 

「こ…これまずいんじゃ…」

 

「あ、ああ…」

 

「雛里、もうちょっとこっちに来い」

 

「あ…あわわ…!」

 

ルフィまでもが危険を感じ、二人から少し距離をとる。

 

「しゅ、朱里⁉どうしてそんなに怖い顔をしているのだ⁉正直に言ってくれたら怒らないって…!」

 

「それとこれとは話が別です‼」

 

ドン!と、まるでスーパー〇イヤ人のごとく怒りを爆発させる朱里!

 

「ごめんなさいなのだ~!」

 

思わず逃げ出す鈴々!

 

「待ちなさーい!」

 

当然朱里はそれを追いかける!

 

「許してなのだ~!」

 

「許しませーん!」

 

「許してなのだ~!」

 

「許しませーん!」

 

そのまま5人の周りでぐるぐる追いかけっこを始める2人。

 

「朱里ちゃん怖い…」

 

「全くもう…二人共子供なんだから…」

 

「どうすんだコレ?」

 

「ま、気が済むまでやらせるしかないんじゃない?」

 

「だな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにその日の夕刻、ゾロ達一行。

 

「…………」

 

明らかに不機嫌そうな星を先頭に5人は歩いていた。

 

「……なァ星、さっきから何怒ってるんだよ?」

 

翠が話し掛ける。

 

「別に怒ってなどいない」

 

「いや、でも…」

 

「さっきの夕食で、私が食べた拉麵だけメンマが一切れ少なかった事で、気分を害した訳ではない…!だから気にするな…!」

 

「…メンマ一切れ…」

 

「小せェ…」

 

「大人じゃなかったのかよ…」

 

「食べ物の恨みって、コワイですねェ…」

 

 





今作では雛里も旅に同行させようと思い、そのきっかけを作る為に2期編でルフィと雛里を仲良くさせておこうと考えていました。

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