ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第131話 “帝位簒奪”

ルフィ達の一行に焔耶が加わり、8人での南蛮への旅が始まった。

 

その道中…

 

「?何だアレ?」

 

「「「「「「「?」」」」」」」

 

ルフィが何かを見つけた。

 

見ると少し離れた場所を、大量の荷車が列を成して進んでいた。

 

「随分と大荷物の行列だな。一体何の荷物だ?」

 

「おそらく、朝廷への貢ぎ物だろう」

 

サンジの呟きに焔耶が答える。

 

「朝廷への…」

 

「貢ぎ物?」

 

「ああ。益州は周辺を険しい地形に囲まれているから、今まではだいぶ免除されていたんだが、董卓が朝廷を牛耳ってから急に取り立てが厳しくなってな…。

『今まで免除されていた分も合わせて納めろ。さもなくば官爵を剥奪する』という強迫までされたらしい…」

 

「ええっ⁉」

 

「だからここ数日は、ほぼ毎日の様に金品を徴収し、輸送隊が益州を出ているんだ」

 

「それじゃあ…これも董卓の命令なのか?」

 

「董卓さんが…どうしてそんな事を?」

 

「劉備殿達は董卓をご存じなのですか?」

 

「うん。前に会った事があって…とても優しそうな人だったんだけど…」

 

「朱儁殿が見せしめとして処罰された事といい、洛陽で一体何が起こっているんでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、洛陽の王宮にある一室にて…

 

「お呼びでしょうか?」

 

董卓軍の筆頭軍師である詠がある人物に呼び出されていた。

 

「賈駆、“郿塢城(びうじょう)”の工事が遅れているって話を聞いたんだけど?」

 

椅子に座りそう話し掛けるのは彼女の主の月―――ではなく、宮殿を追われたと噂されていた張譲だった。

 

「郿塢城は造りが複雑なうえ、装飾などもかなり豪華であるが故、かなりの費用と人員を必要としています。さすがに限界が…」

 

「賈駆…僕はそういう話を聞きたいんじゃないんだよ」

 

「っ!」

 

「工事、予定通りに進めてくれるよね?さもないと…」

 

「わかりました。では、軍備費の徴収という事でお触れを出し…」

 

「一々面倒だと思わないかい?」

 

「……兵を向かわせ、民から工事費を強奪します」

 

「それでいいんだよ」

 

「それから……人員は他の文官達にも手伝わせますので…」

 

「いいだろう。ああそれと、()()()()の製造の方はどうなっている?」

 

「そちらの方は既に生産基準量分は完成しています」

 

「そうか、なら一安心だ。もう行っていいよ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(くそっ…!くそうっ!)

 

張譲と話した後、詠は悔し涙を流しながら廊下を歩いていた。

 

(ボクのせいだ…!何もかも!

 

 

 

 

 

今年の春の暮れの頃、鮮卑の軍勢が漢に攻撃を仕掛けてきた。

朝廷は月にこれを討伐する様に命令を出し、ボクと雪羅は兵を率いて迎撃に向かった。

 

最初は有利に戦を進める事ができていたけれど、ある日から兵の間で流行病が出て、ろくに戦う事ができなくなってしまった。

 

『賈駆様、我が軍の前線が鮮卑の軍に突破されました!』

 

『っ!』

 

『わかった。お前は下がって指示を待て』

 

『はっ!』

 

『……賈駆よ、やはりここら辺が潮時…』

 

『いえ、まだよ!まだ何か策がある筈…!』

 

『流行病の為、兵の半数が歩くのがやっとといった状態なのだぞ。これでは策の弄しようもないだろう』

 

『でも、ここで退いたら鮮卑は間違いなく漢の内部にまでなだれ込んで…』

 

『だからこそ、今は一刻も早く兵を退き、国境の守りを固めるべきだろう!あそこに残っている呂布の軍と合流すれば、侵攻を食い止める事は十分できるだろう⁉』

 

『……そうね…確かに今はそれが最善の策だわ…』

 

『よし、ならばお前は今すぐに撤退の準備を始めろ』

 

『“お前は”って…華雄将軍、あなたは?』

 

『幸い、私の部隊の者は流行病に罹っていない者が多い。調子に乗っている連中の鼻っ柱をへし折ってやるぐらいなら、十分だろう』

 

『あんたの部隊って二千人ぐらいしかいないじゃない!万を超える様な軍勢相手に何ができるってのよ⁉』

 

『……撤退の時間稼ぎくらいならできるだろう?』

 

『っ!雪羅!あんたまさか…!』

 

『何か勘違いをしていないか?私は貴様らの為に捨て石になる気など毛頭ないぞ。少々暴れたりないから、連中に一泡ふかして来るだけだ』

 

『でも…!』

 

『心配するな。私はこんな所で死んだりなどしないさ。何せ私は…長生きする質だからな』

 

 

 

 

 

あの負け戦から、雪羅は行方不明になった…。

 

幸い、恋達と合流した後、鮮卑の軍の動きが乱れ始め、連中は意外と簡単に引き上げて行った…。

その後ボク達は、疲弊した軍の立て直しに力を入れる事にした…。

丁度そんな時に、洛陽の政務官達からの手紙が来た。

 

手紙の内容は、ボク達が洛陽の宮中で兵として働き、その代わりに軍を立て直す為の援助をしてくれるというものだった。

 

向こうがボク達を手駒として利用するつもりなのはわかっていた。

ならボク達もそれを逆手にとって相手を利用してやればいいと思った。

 

けど、向こうの企みや力量はボク達の想像を遥かに超えていた。

 

 

 

 

 

ボク達が都入りして数日後、月は宮中に呼び出された。

 

当然ボクや恋、霞にねねも供として一緒に宮殿に向かった。

 

そしてボク達が謁見の間に続く廊下に入った時…

 

『⁉きゃあ⁉』

 

『月⁉』

 

月が立っていた床が突然動き出し、月の姿は廊下の奥へ流されていった。

ボクや恋達が立っていた床は逆方向に動き出して、ボク達と月はどんどん引き離されていった。

 

『月!』

 

『追いかけるで!』

 

恋と霞は何とか床の動きに逆らって月を追いかけようとした。

 

でもその時、白装束を着て顔を隠した奴らが二人、どこからともなく現れて立ち塞がった。

 

『邪魔!』

 

『どきや!』

 

当然恋と霞はその二人に向かって行った。

対して相手の一人は素手、もう一人は片手に透明な爪を纏い迎え撃って来た。

 

恋達なら負ける訳ないと、ボクもねねも恋達本人もそう思っていた。

 

『ふんっ!』

 

『うあっ⁉』

 

『ふふふ…』

 

『ぐあっ!』

 

けど、素手の奴は振り下ろされた恋の戟を軽く弾き返し、霞の攻撃ももう片方の相手に爪で吹き飛ばされてしまった。

 

その間に、月の姿は廊下の奥へと消えて行った。

 

『董卓殿の身柄はこちらで預からせて貰う。今日はこれ以上用はない。大人しく帰れ。下手な考えを起こせば…わかっているな?』

 

『………っ!』

 

素手の方はそう言うと、もう一人の方を連れて去って行った。

 

 

 

 

 

あれ以来、月がボク達の前に姿を現す事は二度となかった…。

 

月が宮中に囚われの身となった上、恋や霞でも歯が立たない様な手勢がいる以上、ボク達は張譲の言いなりになるしかなかった。

対して張譲達は、ボク達に追い落されたかの様に公の場から姿を消した。

 

苦しむ民から搾り取った富は全て自分の手中に収め、悪政を敷いた汚名や恨みは全て月に擦り付ける。

最初からこれが狙いだったんだ…。

 

……流行病が出た時、チョッパーがいてくれたら、もっと的確な処置や指示をしてくれてたのかな…?

そうすれば、こんな事にはならなかったのかな…?

 

…いや、流行病が出た時点ですぐに撤退するべきだったんだ!

そんな事、チョッパーがいなくても、少し考えればわかりそうな事だったのに…!

 

全部ボクのせいだ!ボクが決断を誤ったせいで…雪羅はいなくなってしまったし、月も守れなかった…!)

 

悔し涙を浮かべながら詠は王宮の本殿を出て、自分達が寝泊まりしている離へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、詠達董卓軍の首脳陣が使っている離の一室で…

 

「あー!霞!また昼間からこんなに飲んでいたのですかー!」

 

「仕事が終わった後の酒ぐらい別にええやろ!」

 

「だからって飲み過ぎですぞー!」

 

ねねの言う通り、霞の周りには空になった酒瓶が十本以上転がっている。

 

「やかましいわ!毎日毎日税や軍備費の徴収ちゅうて、かよわい民を虐めて強盗まがい!

それが済んだら過去の皇族貴族の墓を荒らして金銀財宝盗んで来いやで!酒でも飲まへんとやってられんわ!」

 

「た、確かにこんな意義のない仕事やりたくないのはわかりますが、恋殿だって堪えているのですから…」

 

「うるさいわよねね、霞。声が外まで聞こえているわよ…」

 

…と、そこへ戸を開けて詠が入って来た。

 

「詠…」

 

「おお詠、お疲れさん」

 

「霞こそお疲れ様。恋はまだ?」

 

「そろそろ戻ってくると思うのですが…」

 

「ただいま」

 

丁度そこへ恋も戻って来た。

 

「お帰りなさいなのです!食事の用意はできていますぞ!」

 

そう言ってねねは卓上にある肉まんじゅうが山盛りになった皿を指す。

 

「…………」

 

恋はまんじゅうに手を伸ばすが…

 

「これだけでいい」

 

「え?」

 

一つだけ手に取って出て行こうとする。

 

「最近、ご飯を食べても幸せにならない。だから、一つだけでいい。今日はもう部屋に戻って寝る」

 

「れ、恋殿ー!」

 

ねねが呼び止めるのも聞かず、恋は部屋を出て行ってしまった。

 

「…ウチも部屋に戻るわ」

 

「霞まで…」

 

「詠、ねね、安心しいや。月の命が掛かっとる以上、途中で投げ出したりはせえへん」

 

そう言って霞も出て行った。

 

「……片や食事の量が極端に減り、片や酒の量が極端に増えるか…」

 

「詠、お饅頭食べるですか?」

 

「一つだけ貰うわ。ボクもまだ仕事があるから戻るわね」

 

詠もまんじゅうを一つ手に取り出て行った。

 

「……張々達にでもあげるとしますか…」

 

ねねは皿を両手に抱え外に出る。

 

そこでふと足を止め…

 

「…その前に残っていた書簡の整理終わらせますか」

 

入口付近に皿を置いて中に戻って行った。

 

「…………」

 

するとどこからか現れた人影がそのまんじゅうを一つ奪い、どこかへと去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

一つの人影が周囲を警戒しながら、王宮の廊下をコソコソと駆け回っていた。

 

先程奪ったまんじゅうを始めとした食べ物や飲み水が入った瓢箪を両手に抱えている。

 

「…………」

 

その人物はある部屋の前に着くと、辺りを見渡しながら中に入って行った。

 

そこは物置で古びた調度品などが乱雑に置かれ、部屋全体がホコリまみれであちこちに蜘蛛の巣が張ってある。

 

そして、窓際にある椅子に誰かが腰掛けていた。

 

「主上様、食べ物をお持ちしました!」

 

部屋に入って来た黄は椅子に座っている空丹に呼び掛け、部屋にある机に食べ物と瓢箪を置く。

 

「…そう、ありがとう」

 

空丹は冷淡な口調でお礼を言うと飲食物に手を付けだす。

 

なぜこの様な状況になっているのか?

事の発端は朱儁が宮殿を追い出された数日後の事だった…

 

 

 

 

 

その日の朝、起きた空丹は自室の椅子に腰かけ、外を見ていた。

黄もいつも通り、空丹の隣に待機していた。

 

『黄、今日も空がきれいね』

 

『はい。この澄み切った空、まるで天下の安寧を現しているかの様…』

 

バタン!

 

『『⁉』』

 

そこへ突然戸を蹴破る様に開け、張譲とその他の宦官、数人の兵士達が入って来た。

 

『?一体どうしたの?』

 

訊ねる空丹に対し張譲は…

 

『霊帝陛下…いや劉宏!本日をもって貴様から帝位を剥奪し、この張譲が新たな皇帝となる!』

 

『え?』

 

『⁉』

 

『やれ』

 

張譲がそう言うと2人の兵士が空丹を捕え椅子から引きずり下ろす。

 

『い、痛い!やめなさい!一体何なのよ⁉』

 

混乱し足掻く空丹に張譲は歩み寄り…

 

『ふん!』

 

『いたっ!』

 

『⁉』

 

腹を蹴り飛ばした。

 

『ど、どうしたのよ⁉』

 

『劉宏、貴様は本当に不幸…いや馬鹿な皇帝だった』

 

『え⁉』

 

『いやはや…よくここまで我々の嘘や偽りを鵜呑みにできたものだ。感心してしまいましたよ!

天下は安寧?大陸の民は皆幸福?我々十常侍が忠義の士?

本当は国中で多くの民を何十日もの空腹に苦しんでいましたよ!あなたと我々が毎日贅沢三昧するせいでね!

我々の悪行を止めようとした忠義の士や賢人は、皆あなたの無知のおかげで簡単に始末できました!

我々が伝える偽飾だけを見て、世の中の真実を何一つ知らない盲目の皇帝。我々が暴政を振るう為の実に都合の良い操り人形でしたよ』

 

『……?……⁉』

 

張譲を始め宦官達を信用しきっていた空丹は訳がわからず、完全に混乱してしまっていた。

 

『だが、貴様は最近生意気にも自分の意志を持ち始めた。この間は政で我々に口出しまでた。

邪魔になりかねん!何より貴様の後ろ盾はもはや不要となった!

よって今日よりこの張譲が皇帝となり、宮中の全権を我がものとする! 物置にでも放り込んでおけ!』

 

『痛い!やめなさい!放しなさい!』

 

空丹は兵士達に連れて行かれてしまった。

 

『……ちょ、張譲殿?』

 

『何だ趙忠?』

 

『だ、大丈夫なのですか?こんな急に帝位の簒奪をして…?』

 

『なァに、その辺りはちゃんと考えてある。流石に今あいつを殺しては服従しない者がいるだろうからな。

今はまだ生かしておいて皇帝のままでいて貰い、少しずつ天子の勢力を剥いでいく。あいつを殺すのはそれからだ。

いざという時の身代わりにも使えそうだしな。それに言ったであろう?あいつはもう不要だと』

 

『そ、それは一体どういう意味で…?』

 

『そのまんまの意味さ。もうすぐ天子の後ろ盾は不要になる…!

趙忠、そして同胞達よ!我々で天下を支配し、思うがままに生きようぞ!』

 

『『『『『『『『『『おおおおおっ!』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

それから空丹はこの物置部屋に閉じ込められてしまった。

特に見張られたり枷や鎖で繋がれている訳ではないが、部屋を出ても敵―――張譲の手の者が目を光らせており、何もできなかった。

 

食事は黄が張譲達の目を盗んで運んでくれたが、余り物しか手に入らない為量は限られており、一日中何も食べられない日も多かった。

 

「あ…」

 

夢中で食べていた空丹が不意に食事の手を止める。

 

「主上様?」

 

「これ…」

 

空丹は黄が持って来た食べ物の中にあったスモモを手に取りじっと見つめる。

 

「……ねェ()()

 

「何でしょう?」

 

「あの時張譲が言ってた事って本当なの?」

 

「え?」

 

「私達のせいで沢山の人が何日も食事ができなかったって…」

 

「っ⁉そ…それは…」

 

「正直に言いなさい」

 

「……はい。本当でございます…。張譲らと私は主上様を騙していました…」

 

「そう…」

 

―――――“ひどい”ってどんな事?

 

―――――メシを食えねェようにする事だ

 

「……私、酷い事してたのね…」

 

「えっと…主上様、何か御用は?」

 

「何もないわ。もう行って…」

 

「…はい」

 

黄は部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

物置を出て行った黄は終始無言のまま自室に戻り、部屋の戸を閉める。

 

「…………(あああああァァァァァ!)」

 

次の瞬間、黄は声にならない叫びを上げ、血の涙を流しながら膝から崩れ落ち両手を床に着ける。

 

(空丹様がァァァ!私の真名を呼んでくれないィィィ!)

 

多少歪んではいたものの、空丹を心の底から可愛がっていた黄にとって、それはとてもとても辛い事だった。

 

(張譲が空丹様を裏切ったあの日から、空丹様は完全に心を閉ざしてしまった!

張譲め!天子の威光を借りる以上空丹様に手出しはしない筈と考えていたが、まさか帝位の簒奪を企てるとは!

おのれ張譲!おのれ!おのれおのれおのれェェェ!)

 

張譲を恨んでいる様だが、半分くらいは自業自得でもある。

 

(…しかし泣いてばかりもいられない!あやつはいずれ空丹様を抹殺する事も企てている!それだけは何としてでも阻止せねば!

けどどうすれば?宮中の者達は皆張譲の顔色を伺って生きている始末…!

幸いなのは、張譲がまだ私が張譲の味方だと思い込んでいる事!何か…何か手はないものか…⁉)

 

 

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