ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第132話 “洛陽の暗雲”

 

泰山の麓の村。

 

ゾロ達は登山に入る前に買い物をしていた。

 

食料等を買い足したゾロ達はある店から星が出てくるのを待っていた。

 

「ついに…ついに手に入れたぞ!」

 

星は小さな箱を手に小走りで出て来た。

 

「秘伝の味、特選メンマを!」

 

…と、星はメンマの入った箱を高々と掲げる。

 

「よかったな…」

 

「たかがメンマでそんな大袈裟な…」

 

「メンマを舐めるなァァァーーーっ!」

 

「「「「っ⁉」」」」

 

翠の言葉に大声で喝する星。

 

「良いかお主ら?身近過ぎて気がつかないかもしれないが、メンマとは実に奥が深い物なのだぞ。まずメンマ職人は…」

 

「なんか語り始めたぞ?」

 

「どうしましょう?」

 

「長くなりそうだし、置いてこうぜ」

 

「そうだな。星なら迷う事はないだろうし…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって王宮のある廊下。

 

「はー…はー…」

 

ひどく疲れ切った様子の瑞姫が歩いていた。

服はあちこち破れて泥だらけになっており、とても皇后とは思えない格好である。

 

「疲れた…張譲のやつ…!」

 

恨めしそうに歯嚙みする。

 

「ははは…」

 

「もう一杯…」

 

不意に少し離れた場所から賑やかな声が聞こえてきた。

 

(張譲達また宴会してるのかしら?)

 

そんな事を考えながら宴会場らしき部屋を覗く。

 

(うわ…)

 

瑞姫の予想通り、そこでは張譲と彼の取り巻き達が宴会をしていた。

 

巨大な酒瓶がいくつもあり、山海の珍味や果物、一匹丸ごと料理された牛、豚、ニワトリなどが大量に出され、食器は全て金銀、象牙、玉で作られている。

真ん中では何人もの楽女や踊子が歌舞音曲を披露している。

張譲は黄金の冠を被り、宝石や真珠で飾り付けられてた服と靴を身に着けて、愉快そうにしていた。

 

その様子を見て瑞姫は…

 

(……趣味悪い…)

 

羨ましいとかよりも先にそう思ってしまった。

 

当然彼女も贅沢は好きであったが、どちらかというと自分の好みかどうかを重視する性格であり、金額や稀少さなどは二の次だった。

 

目の前の光景は確かに贅沢この上ない状況ではあったが、この中に混ざりたいとは思えなかった。

 

「おや?何太后様ではないですか」

 

「!」

 

張譲が瑞姫に気付き、声を掛けて来た。

 

「服がだいぶ汚れているようですが…郿塢城の工事にでも行っていたのですか?」

 

「…ええ、まあ…」

 

「それはそれはご苦労様です。あなたが毎日の様に石運びをしているとは、ここ数日王宮に出入りしていないあなたの姉上は想像がつかないでしょうね」

 

「そうね…」

 

張譲の言う通り、月達董卓軍が宮中入りした以降、傾や楼杏、風鈴などはほとんど王宮に入る事が無くなり、瑞姫は郿塢城の建設現場で石運びをやらされていた。

 

「何太后様…あなたがまた皇后としての扱いを受けたいというのであれば、許可してあげてもいいのですよ…」

 

「…………」

 

「ただし皇后を名乗る以上、ちゃんと皇帝の妃として自覚を持っていただかねばなりませんがね…」

 

「ご冗談を…」

 

瑞姫はそそくさとその場を去って行った。

 

「ちっ…大人しく僕に抱かれていればいいものを…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まったく、冗談じゃないわよ!いくら私でも贅沢の為に身体を売ったりしないわよ!」

 

張譲のもとから離れ、庭園に来た瑞姫はイライラした様子でそう言った。

 

実はこの人、肉屋を営んでいた頃から色仕掛けで何人もの男を躍らせてきたが、実際に触らせた事は一度もなかったのである。

 

「贅沢な暮らしができると思ってって宮中入りしたけど、失敗だったかしら…。

お金が多いのは良いけど、好みの物があまりないんじゃ使いようがないし…肉屋だった頃もそれなりにお洒落とは十分楽しめていたし…。

挙句の果てにこんな血みどろまみれの地獄絵図に巻き込まれるなんて…」

 

そこまで言うと大きなため息をつく。

 

「さっさと逃げ出したい所だけど、私一人じゃねェ…。

せめて姉様がいてくれればいいんだけど、すっかり王宮への立入りは禁じられちゃったし…。

あーもう!張譲の奴~!なんか腹立ってきた!」

 

「ぬあああァァァーーー!」

 

「⁉」

 

突然どこからか叫び声と共に轟音が聞こえ、瑞姫は辺りを見渡す。

 

「はー…はー…」

 

見ると少し離れた場所で、黄が大きめの岩を剣で斬りつけていた。

 

「あら、趙忠殿」

 

「!これは何太后様」

 

「どうしたの?その岩に何か恨みでもあったの?」

 

「いいえ。岩に恨みがある訳ではないのですが、少々鬱憤が溜まっていたのでこの岩に八つ当たりしていました」

 

「へーそう。…その剣、私にも貸して貰える?」

 

「構いませんが…」

 

瑞姫は黄から剣を受け取ると…

 

「はあああァァァーーー!」

 

思いっ切り岩に振り下ろした。

 

「……何太后様も色々と溜まっておられた様ですね」

 

「ふー…ふー…まァね…」

 

「「……ん?」」

 

その時、二人は思わず互いの顔を見合わせた。

この2人はここ数日の宮殿内での出来事は全て把握しており、黄は瑞姫が石運びをやらされ張譲に肉体関係を迫られている事を、瑞姫は空丹が張譲に追い落された事を知っていった。

故に二人の頭には同じ考えが浮かんだ。

 

((もしかしてこいつとなら手を組めるんじゃ…?))

 

「何太后様、あなた張譲にお身体を弄ばれるのは望んでませんよね?」

 

「勿論よ。趙忠殿、あなた空丹様の為なら危ない橋も渡ってくれるわよね?」

 

「当然でございます」

 

「「ふふふふふ…」」

 

こうして、2人の腹黒女が手を組んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、洛陽の王宮、張譲の執務室。

 

張譲と黄が話をしていた。

 

「何進に褒美を?」

 

「はい。無能とはいえ一応兵権は彼女の手中にあります。

宮中では何太后様が人質同然となっておりますし、そこにほんの少し褒美を与えればいい様に動かせるかと…」

 

「ふむ…少しくらいは飴を与えておいた方がいいか…。一理あるな。何進の奴にもまだ使い道はあるし…。よし、何か褒美を与える様賈駆に伝えろ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洛陽の近くにある山中。

 

「そっちに回って退路を断て!」

 

「はい!」

 

傾が数人の兵を連れて狩りをしていた。

 

「よし!後は私に任せろ!」

 

「はっ!」

 

そのまま傾は向かって来たイノシシを自分の得物である鞭、黒豹(こくひょう)で仕留めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー!今日も良いできだったな!」

 

その後、傾達は仕留めた獲物を手に山を降りていた。

その後ろから同様に獲物を担いだ兵士達が続く。

 

「何進将軍、ここんとこほぼ毎日の様に狩りしてるよな…」

 

兵士の一人が小声で話し出した。

 

「たぶん他にやる事がないのと、何太后様の事で心労溜まってんだろ…」

 

「董卓将軍が来てからというもの、王宮への出入りはほぼ完全に禁止。何太后様がどうなっているのかわかんねェんだもんなー…」

 

「何太后様の味方だった十常侍は追い落されたしな…。どうなっている事やら…」

 

「実の妹の事だもんな…心配になるよ…」

 

「あの二人の事はあんまり好きじゃないけど、そこは気の毒だよな…」

 

「それにしても…狩りとか料理してる時の何進将軍って何か生き生きしてないか?」

 

「やっぱり元々肉屋だからか?」

 

「性に合ってるのかもな?」

 

「あと肉料理結構美味いよな」

 

「将軍になんかならないで肉屋やってた方が良かったんじゃないか?」

 

「おれ…少し前にそれ将軍に面と向かって漏らした事があんだけど、その時『そうかもしれないな』って真面目そうに言ってたぞ…」

 

「ホントかそれ⁉」

 

「少し前ならそんな事言ったら容赦なく処罰されてたのによ…」

 

「おい貴様ら、さっきから何をぶつぶつ言って…む?」

 

傾が兵士達の雑談に気付いた時、前方から兵が一人やって来た。

 

「何進将軍!明日至急参内せよと王宮より伝令です!」

 

「?一体何の要件だ?」

 

「さあ?私も詳しい事は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、傾が王宮へ向かうとすぐに詠が出迎え…

 

「この玉帯を私に?」

 

「はい。陛下からこれまで仕えてくれた褒美だそうです」

 

「何故突然?」

 

「それは私も存じません。それから言伝を一つ」

 

「言伝?」

 

「『これからも朕の力になって欲しい』との事です」

 

「ふーむ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、屋敷に戻った傾は机に向かい、貰った玉帯とにらめっこしていた。

 

「やはり何か引っかかるな…。今日になって突然褒美を渡すなど…。

それに賈駆の様子も妙だ…。宮中は完全に董卓が支配しているらしいが、あいつの態度を見るととてもそうは思えん…。

そもそもあの張譲がこうもあっさり立場を追われるのも腑に落ちん…」

 

傾は将軍としての能力はお世辞にも高くはないが、元々商売をやっていた事もあって人の顔色を窺う能力はあった。

それ故、今日会った詠の態度や朱儁を追放した張譲の様子から、王宮内に関する噂に対して違和感を覚えていた。

 

「『これからも朕の力になって欲しい』か……む?」

 

その時傾は、玉帯の革の一部に切り込みがあり、縫い合わされている事に気付いた。

 

「?」

 

何となく傾は縫い合わせている糸を切り、切込みから中をまさぐってみた。

 

「…?何だ?」

 

すると中から字が書かれた布が一枚出てきた。

 

「!これは…⁉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、詠は張譲に呼び出されていた。

 

「……い、今何と…⁉」

 

「劉協を抹殺しろと言ったんだ」

 

「ちょ、張譲殿…流石にそれは…」

 

「嫌なのかい?」

 

「っ!」

 

「すぐに何進に命令を出せ。無論董卓からの命令をな」

 

「……わかりました…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詠はすぐに傾を呼び出し、命令を伝えた。

 

「私に劉協様を誅殺しろと?」

 

「はい。我が主より命令です」

 

「……賈駆よ。()()()()()()()()()に話して欲しいのだが…」

 

「何でしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「劉協に邪馬台国へ向かう様に通達を?」

 

「はい。『天子の一族を誅殺した事が万が一にも知られる事が無い様にしたい為、都から離した上で誅殺したい』との事でした」

 

「しかしそうなるとほぼ確実に皇甫嵩か盧植が護衛としてついていく事になると思うが、それで誅殺が可能なのか?」

 

「何進将軍曰く、『船に細工をし海難事故に見せかける。許可を得られるなら皇甫嵩と盧植の双方を護衛とし、同時に亡き者にしたい』との事でした」

 

「ふむ…まああの二人もその内誅殺するつもりだ。別に構わんだろう。何進の要望通り通達を送れ」

 

「はい」

 

「所で、郿塢城の建設工事はどうなっている?」

 

「洛陽の民への重税を始め、大陸各地より献上品の催促、軍備費の徴収により資金は十分賄えました。

さらに昼夜問わず人手を増員し働かせている為、予定通りに完成すると思われます」

 

「城が完成したら今の王宮にある糧食や財産は勿論、過去の皇族、貴族の墓から掘り出した財宝も全てそこへ運べ。

あと、完成した暁には大宴会を催すから、日を見て各地から名酒、名物を取り寄せるのだぞ」

 

「はい。所で、その郿塢城についてなのですが…」

 

「どうかしたか?」

 

「武具や馬の用意はしなくて良いのですか?いかに強固な城といえど、武器がなくては…」

 

「ああ、それなら不要だ。武器の類は別に当てがあるからな」

 

「わかりました」

 

詠は部屋を去って行った。

 

「……さてと」

 

詠が部屋を出た後、張譲は小物入れから何かを取り出した。

 

「城の工事は予定通り進みそうだ。そっちの用意はどうだ?」

 

〈準備は万全だ。兵器、資材、設備はいつでもそちらへ運べるぞ〉

 

「もうすぐだ…!もうすぐ完成する無敵の堅城、そして最強の兵器と兵士が―――天下を支配する力が手に入る…!感謝するぞ左慈よ」

 

〈それはお互い様だ。貴様のおかげで怨嗟の力が効率良く手に入ったからな。

もうしばらくしたらおれは于吉を始め、数名の手勢を連れて王宮に向かう。各地に散っている配下達は、各州刺史、州牧、太守宣戦布告した後、入城する予定だ〉

 

「了解した。天下を支配したら、毎日の様にあの城で酒宴を開いて暮らそうぞ!」

 

宮中に救う悪意は、いよいよその勢いを増していた。

 

 


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