ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第149話 “群雄動く!”

ある日の冀州渤海郡、麗羽の城。

 

「※〇◆✕∀▼♂♀%~~~っ!」

 

城中に誰かの奇声が響き渡った。

 

「れ、麗羽様どうしたんですか⁉何か今、とても文字では表せない様な声が聞こえましたけど⁉」

 

奇声を聞いた猪々子は声の主である麗羽がいる部屋へ飛び込む。

 

「キイィィィ~~~!」

 

「…………」

 

するとそこには全裸のまま何らかの文らしき物を踏みつける麗羽と、その傍らで困惑して立っている真直がいた。

 

「…えっと真直…これどういう状況?」

 

「ほら、麗羽様朝廷から命じられていた北方の賊退治をずっとほったらかしにしていたでしょう?そしたら…」

 

「至急参内して弁明せよ⁉しかも我が身に縄を打って詫びれですって⁉そのうえ官爵を剥いで逆賊扱いだなんて…!」

 

「それで怒り心頭って訳…」

 

「…で、何で麗羽様は全裸なんだ?」

 

「私が文を届けたのが按摩の最中だったからよ…」

 

「董卓め~~~!涼州の田舎娘の分際で~~~!朝廷の慈悲で宮中に迎え入れられた身でありながら朝廷を牛耳り、あたかもわたくし達を自分の家来の様に~~~!」

 

「あの~麗羽様~…」

 

そこへまたしても文を手にして斗詩がやって来た。

 

「何ですの斗詩さん?」

 

「何進将軍から文が届いたのですが…」

 

「何進将軍から?」

 

麗羽は文を受け取り読み始める。

 

「………⁉何ですって⁉」

 

「麗羽様?どうしましたか?」

 

「文醜さん!顔良さん!田豊さん!今すぐ諸侯に(げき)を飛ばしなさい!」

 

「ええっ⁉檄って……何でしたっけ?」

 

「「「だああああっ⁉」」」

 

猪々子の言葉にズッコケる3人。

 

「もう文ちゃん!」

 

「兵を興す時にその行動が正しい事を主張する文の事よ!」

 

「ああ、そうか!…で、その檄を飛ばしてどうするんですか?」

 

「打倒董卓の檄を飛ばすのよ!袁家の旗の下、大陸各地の諸侯の兵力を集めて洛陽に攻め入り、朝廷を乗っ取り悪政を布く逆賊董卓を討つのです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兗州陳留郡、華琳の城の中庭。

 

そこでは春蘭が一抱え程の大きさの鉄の塊の前に剣を構えて立っていた。

 

周りには季衣と華侖もいる。

 

「すゥー………ハァーーーッ!」

 

ザン!

 

春蘭は深呼吸を一つして剣を振るい、鉄の塊を斬りさく。

 

「おおー!凄いっす春姉ェ!」

 

「兄ちゃんの技、使える様になりましたね!」

 

「だが断面が荒く切り口に無駄な破壊が多い…。それにコレを常時使える様にならなければ戦場では役に立たん。

もっと集中力をつけねば…!」

 

「春蘭様ー!華侖様と季衣もー!」

 

春蘭が再び剣を構えようとした時、城内から流琉が呼び掛けてきた。

 

「おう、どうした流琉?もう飯の時間か?」

 

「いえ、そうではなくて…華琳様がお呼びです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春蘭達が謁見の間に行くと、そこには正面の玉座に腰掛ける華琳、左右に控える桂花、柳琳、栄華、風、稟、そして玉座の前に立つ秋蘭、凪、真桜、沙和、香風と曹操軍の首脳陣が揃っていた。

 

「皆、揃ったわね」

 

「曹操様、何かあったのですか?私や夏侯淵などの一族や軍師だけでなく許緒達までも呼ぶとは…」

 

「ついさっき袁紹から檄が届いたのよ。董卓討伐の檄がね」

 

「袁紹から⁉」

 

「それで…いかがなさるおつもりです?」

 

「…………」

 

秋蘭は問いかけるが華琳は答えない。

 

「袁紹が盟主というのは気に入りませんが、この戦で董卓を取り除けば朝廷の中枢に深く取り入る事ができるかと」

 

「董卓の悪事は既に広く世に知れ渡っております。これを取り除くことは天の意志であり、国を救う事に他なりません。

曹操様の名を世に知らしめる良い機会かと」

 

「この戦に出陣すれば民からの聞こえは良く、朝廷からも高く評価されます。また集った諸侯に我が曹操軍の威を見せる事が可能かと」

 

「ここしばらく各地の賊討伐が重なり財政は厳しい所ですが、朝廷と民からの信頼と得られるものは多く、出陣して損はないかと」

 

桂花、稟、柳琳、栄華が順に意見する。

 

「ふむ…程昱、あなたはどう思う?」

 

華琳は風の方を見る。

 

「ぐー…」

 

「ちょっと風⁉軍議中なんですから居眠りしないで下さいよ!」

 

「おおっ!」

 

「…程昱、あなたの意見は?」

 

「軍師は主の心が定まらない時に意見するのが役目。それがすでに決まっている時に申し上げる事はございません」

 

「成程…」

 

風の話を聞いた華琳は笑みを浮かべ…

 

「徐晃、あなたは残ってここを守って頂戴。他の者は皆出陣の準備を!」

 

「シャンはお留守番?」

 

「ええ。私達が出ている間、負傷した兵の復帰の為の訓練をお願いしたいの。それに…」

 

「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」

 

「…何だか嫌な予感がするのよね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

揚州呉郡、雪蓮の城、謁見の間。

 

正面の玉座に座る雪蓮の前に炎蓮、蓮華、小蓮、冥琳、雷火、粋怜、祭、穏、思春、明命、梨晏、亞莎、包、大喬、小喬ら孫策軍の首脳陣が集められていた。

 

「袁紹を盟主とした反董卓連合のう…」

 

雷火は難しそうな顔をする。

 

「諸侯の動きを探ってみた所~袁紹の人望のなさ故か~大半の者は日和見を決め込んでいる様です~」

 

「ま、そうじゃろうな…」

 

「あの袁術ちゃんの従姉なだけあるわね~…」

 

穏の報告に祭と粋怜は苦笑いする。

 

「いずれ孫家が天下を獲る為には中原への足掛かりが必要。此度の件はそれを得るには絶好の機会かと」

 

「それじゃあ動くべきかしらね?」

 

冥琳の言葉を聞き、雪蓮はそう言う。

 

「姉様、少しよろしいでしょうか?」

 

「何かしら仲謀?」

 

「黄巾党の本隊を討伐して以降、ようやく我が領内には目立った反乱もなくなりました。今は内政を固めて力を蓄える絶好の機会です」

 

「成程ね…」

 

「ですから()()()()()()()()()()()、私はここに残って足元を固めておきたいと思います」

 

「…あなたも言うようになったわね。それじゃあ留守は仲謀に任せて…」

 

「いや、ここにはおれが残る」

 

「母様⁉」

 

「大殿、頭でも打ちましたか?」

 

「天変地異が起こる前兆かしら?」

 

「孫策様、此度の出陣は控えた方が良いやもしれませぬ…」

 

「ババアども…揃いも揃って失礼だぞ?」

 

炎蓮は雷火、粋怜、祭の言葉に腹を立てる。

 

「では何故その様な事を引き受けようと?」

 

「なァに、ただ単に留守番ってのは隠居した奴の役目だって思っただけだ。

それに蓮華、おそらくこの連合には今後天下を狙う輩、つまり今後の孫家の敵どもが朝廷に取り入ろうと集まる筈だ。

良い機会だからそいつらの顔を覚えて来い」

 

「母様…わかりました!」

 

「それじゃあ仲謀も出陣するとして…尚香、あなたはどうする?」

 

「勿論、雪蓮姉様達と共に行きます!」

 

「決まりね!すぐさま出陣の用意を!」

 

「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

益州、成都郡の城、謁見の間。

 

麗羽からの檄が届いて以降、ここでは日夜出陣するか否かの議論が行われていた。

 

「いや、出陣するべきではない!」

 

「そうです!此度の反乱で楊懐(ようかい)将軍、高沛(こうはい)将軍などは討死、黄権(こうけん)将軍は行方不明、張嶷(ちょうぎょく)将軍は重傷を負ってしまいました!

ただでさえ李厳(りげん)彭義(ほうぎ)らが裏切った事で益州内は混乱しているのですよ!」

 

「しかし、劉璋様は天子様の一族!董卓を討伐する事は天子様を救う為の戦!何もしない訳にはいかないかと!」

 

「だが、益州は険しい山に囲まれている故、都に向かうだけでも重労働になりますぞ!」

 

「今まで外部との争いがなかった為、財政はまだ十分余裕があるでしょうに!」

 

「そもそも袁紹の言い分なんか信用できません!」

 

「だが董卓の悪政は既に周知の事、それを討伐する事が悪い訳はない!」

 

「うーむ…どうすれば…」

 

「劉璋様!一つよろしいでしょうか⁉」

 

「厳顔!申してみよ!」

 

「この打倒董卓の戦は朝廷と天下の万民を救う為の戦、何もしない訳にはいきませぬ。

しかし、今は益州の内政を充実させる必要があるのも事実。

故に、まずはわしが先遣隊として出陣し、その間に残りの者は内部の安定化に務めます。

さらに戦況が有利であれば、より多くの兵を出して朝廷に大きく取り入れば良いかと」

 

「ふむ…異論のある者は?」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

「異論はないようだな。では厳顔、益州軍の先遣隊として出陣せよ」

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、巴郡の城で桔梗は美花、雷々、電々に軍議の事を伝えた。

 

「…では、基本厳顔様の兵だけで出陣すると」

 

「うむ。幸い巴郡はそこまで反乱の影響はなかったからの。孫乾、お主はわしと一緒に来い」

 

「御意」

 

「糜竺と糜芳はわしらがいない間巴郡を頼む」

 

「「わかりました!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涼州、隴西郡の城。

 

「董卓さんを倒す?」

 

「うん…」

 

蒼と鶸は麗羽からの檄を手に考え込んでいた。

 

「あの董卓さんがそんな酷い事をするなんて…」

 

「私も…にわかには信じられないけど…」

 

「……ねェ鶸ちゃん…私、その連合に参加するべきだと思う!」

 

「え⁉」

 

「董卓さんが本当にそんな事をしているのか確かめた方がいいし、嘘だったらどうしてそんな噂が流れているのかを知りたい!

それにもし本当なら、同じ涼州出身の私達がけじめをつけるべきだと思う!母様やお姉ちゃんだってきっとそう言うよ!」

 

「蒼…。うん!そうだね!出陣しよう!」

 

「よし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豫州、汝南郡、美羽の城。

 

「…以上が袁紹さんからの檄ですけど、いかがなさいますか?」

 

「断ったりしたらまためんどくさい事になりそうじゃしの…。出陣するしかあるまい…」

 

七乃が読み上げた檄文を聞き、美羽は溜息をつきながら言う。

 

「でも美羽様、そこまで悪い話ではないかもしれませんよ?」

 

「どういう事じゃ七乃?」

 

「最近美羽様が真面目に政務をする様になったから、兵もちゃんとした者が増えて我が軍は強化されています。

上手く行けば袁紹さんより活躍できるかもしれませんよ?」

 

「成程のう!よーしなんだかやる気が出て来たぞ!七乃出陣の準備じゃ!」

 

「はーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幽州、北平郡、白蓮の城。

 

白蓮が出陣の準備をしていた。

 

「出陣の準備はどうだ?」

 

「はっ!武器、兵糧、その他全て滞りなく進んでおります!」

 

「予定通り出陣できるかと!」

 

「そうか!よーし…今こそ我が白馬陣が活躍する時だ!もう影が薄いだなんて言わせないぞ!」

 

(……ハァ…)

 

意気込む白蓮に対し、隣にいた白馬は冷たく溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徐州、小沛(しょうはい)

 

燈と喜雨が輜重隊の手配をしていた。

 

「母さん、糧秣の準備終わったたよ」

 

「お疲れ様喜雨。陶謙様への報告は私がしておくから、あなたは少し休みなさい」

 

「ありがとう。…でも、この連合に参加して本当に大丈夫なのかな?」

 

「喜雨は不安なの?」

 

「うん…。だって盟主があの袁紹だし、それに届いた檄文『天子の密詔を受け』とか書いてあったけど嘘臭いし…」

 

「まァ、やってる事が正しいなら、その辺はあまり気にしなくても良いんじゃない?」

 

「…それもそうだね」

 

「それにこの戦、きっとこの先大陸を支える柱となる人物を見定める良い機会になると思うわ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荊州、江夏郡、黄祖の城。

 

黄祖は劉表の使者と面会していた。

 

「劉表様が反董卓連合への参加を?」

 

「はい。それ故、黄祖様にもすぐに兵を集め加わる様にとの事です」

 

「わかった。すぐに準備すると劉表様に伝えろ。お主も疲れておるだろうから、今日はもうこの城で休み、明日の朝出発するといい」

 

「はっ!ありがとうございます」

 

(荊州の外の事情には極力関わろうとしない劉表様が出兵を決断するとはのう…。

それに漢に尽くしてきた袁家が形だけとはいえ朝廷に刃を向けるとは…。

勝敗がどうなろうとも、この戦で大陸の未来は大きく変わるだろうな…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び冀州渤海郡。

 

各地の諸侯に檄が届く頃には、当然麗羽達も出陣の準備を進めており、麗羽達4人は城壁の上から兵馬や輜重隊の様子を確認していた。

 

「田豊さん、準備の方はあとどれくらいでできまして?」

 

「後は馬の飼葉だけで明日には全て整うかと。…所で袁紹様」

 

「何ですの?」

 

「提案なんですが、桃花村の劉備殿とルフィ殿にも檄を送ってはいかがでしょう?」

 

「あのお二人に?」

 

「はい。雑軍とはいえ天子の一族と天の御遣いのお二人がこちら側にいれば、この連合軍の正当性も高まるかと」

 

「私も賛成です。黄巾の乱以降、桃花村義勇軍の噂は朝廷でも話題になっている様ですし、あの人達が味方についてくれたら心強いかと」

 

「あたしも賛成だな!袁紹様人望ないから少しでも多くの人手がいてくれた方が…」

 

「文醜さん!何か言いまして⁉」

 

「あ、いえ…何でもないです…」

 

「でも確かに…味方は多いに越した事はありませんわね。田豊さん、至急桃花村義勇軍へ檄を飛ばしなさい!」

 

「はい!」

 

こうして、少し遅れてルフィ達の所にも反董卓連合の檄が送られたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、桃花村にも檄が届き、ルフィ達“麦わらの一味”と桃香、愛紗、鈴々、星、翠、紫苑、朱里は会議を行う事になった。

 

因みに雛里達は蒲公英と璃々に村を案内して貰っており、朱儁は美以達にもみくちゃにされた疲れで、寝込んでいる。

 

「『…檄文到ランノ日、ソレ速ヤカニ奉行サルベシ』。以上が袁紹さんからの檄文です。簡単に言うと『苦しんでいる人々を助ける為に一緒に戦おう』という事ですが…」

 

「鈴々達は苦しんでいる人を助ける為の義勇軍だから、戦った方が良いとは思うけど…」

 

「問題はその戦う相手だな…」

 

朱里が読み上げた檄文を聞き、鈴々と星を始め全員考え込む。

 

「月がそんな悪い事をするなんて…」

 

「チョッパーさんからしてみれば、戦いたくはないでしょうね…」

 

チョッパーの様子を見てブルックが言う。

 

「どうします?」

 

朱里の問いかけに最初に答えたのは…

 

「行きましょう!」

 

桃香だった。

 

「ここで考えていても、私達は何もわからないまま董卓さんは討伐されちゃうでしょうし、だったら参加して、必要なら董卓さんを助けられる様に動くべきだと思います!」

 

「そうだな!取り敢えず行ってみようぜ!」

 

桃香の言葉にルフィも賛同する。

 

「確かに…。董卓さんの暴政が嘘なんだとしたら、あの子の身に危険が迫っているのかもしれないし…!」

 

「あたしも賛成だ!西涼出身のあたしとしては、事実がどうあれ、同郷の董卓の事を見て見ぬ振りするのは性に合わねェしな!」

 

「形はどうあれ、洛陽に兵を挙げるのであれば、腐敗した朝廷を一新する好機!世の中を変える為に立ち上がった私達なら、なおさら戦うべきです!」

 

「政権を大きく変える事ができるのなら、おれ達が“天の御遣い”としての役割を果たすべき時なのかもしれねェな…!それで元の世界に帰れる可能性があるなら、参加する価値はある!」

 

ナミ、翠、紫苑、サンジも賛同し、残りの者達も頷く。

 

「そうと決まれば、早速出陣の準備ですな!一応、朱儁殿や鳳統殿達にも話しておきましょう!」

 

愛紗の言葉を皮切りに、全員準備に移るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洛陽の宮殿。

 

ルフィ達に檄が飛ばされた頃には、麗羽が都へ攻め入る為の兵を招集している話は洛陽にも届いていた。

 

「何ィ⁉袁紹が反乱の兵を挙げただと⁉」

 

詠から報告を聞き、張譲は怒りを露わにする。

 

「すでに諸侯に檄を飛ばし、曹操や孫策、袁術などがそれに応じて兵を動かしたそうです」

 

「朝廷に歯向かう身の程知らずめ!こちらの兵力は⁉」

 

「先日、劉協様が邪馬台国へ向かわれた際に護衛として二千、何進が北方の賊退治に八千の兵を連れて行った為、残りの兵はおよそ十九万。

既にその内九万の兵を呂布、張遼、陳宮らと共に汜水関(しすいかん)へ向かわせました」

 

「いや、それだけでは不十分だ。残りの十万の兵を虎牢関(ころうかん)に向かわせろ。あと、作らせておいた例の兵器も全て虎牢関に運べ。

それから何進と劉協の護衛だった兵達にも、任務が終わり次第反乱軍の背後を突くように言っておけ」

 

「よろしいのですか?それでは宮廷の守りが手薄になってしまうかと…」

 

「なァに…宮廷は近衛兵(このえへい)が固めているし、汜水関と虎牢関が破られなければ問題はない。

それとも手元から兵がいなくなると都合が悪いか?」

 

「…っ!わかりました」

 

その時、柱の陰で誰かが盗み聞きをしていた事に2人は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洛陽の宮殿、物置。

 

空丹と瑞姫が話していると、黄が中に入って来た。

 

「主上様!瑞姫殿!朗報です!」

 

「なに趙忠?」

 

「袁紹が反乱の兵を挙げたそうです!上手く行けば隙を見て脱出できるかもしれません!」

 

「本当⁉︎」

 

「瑞姫殿、脱出口には心当たりがあるというのは本当ですね?」

 

「ええ。あとは姉様も上手くやってくれれば…」

 

「とにかく、いつでも決行できる様に心の準備だけはしておきましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洛陽の街の城門。

 

見張りの兵達が立ち話をしていた。

 

「袁紹が反乱軍を率いて洛陽に攻め込んで来るんだってな…」

 

「果たしてどうなる事やら…」

 

「…………」

 

その会話をマントを羽織った一人の流浪人が物陰から盗み聞きしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

汜水関の一室で恋、ねね、霞は地平線を見つめながら話していた。

 

「ほんじゃまァ…基本的には籠城。時々恋が奇襲を仕掛けるっちゅう事やな」

 

「はい。反乱軍がどれ程の数かわかりませぬから」

 

「全部…倒す…」

 

「恋殿…」

 

「月を守る為だから…仕方ない…」

 

恋はそう言って部屋を出て行った。

 

「恋…」

 

「恋殿…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある島国の王の館。

 

謁見の間で白湯、楼杏、風鈴はその国の王が戻るのを待っていた。

 

「劉協様、確認しましたが、やはり我が国と貴国との交易で相談する様な案件は見当たりませぬ」

 

戻って来た邪馬台国の王、卑弥呼が伝える。

 

「ではどうして私にこの様な通達が?」

 

「何者かの意図を感じますな…。少し占ってみましょう。誰か用意を」

 

卑弥呼が指示を出すと、何かの動物の骨が運ばれてくる。

 

「あれは何をしようとしているのですか?」

 

「牛や鹿の骨にひびを入れ、その形で占うのです」

 

白湯の質問に風鈴が答える。

 

「たァ!」

 

卑弥呼は掛け声とともに正拳で骨にひびを入れる。

 

「凄い占いね…」

 

「私が知っているやり方とは少し違うみたいね…」

 

楼杏と風鈴は戸惑う。

 

「むむっ!西の地の都に大乱の兆し在り!もしや…何者がか劉協様を災いから遠ざける為にこの様な嘘を…?」

 

「西の都…?それってまさか洛陽⁉」

 

「だとしたら陛下の身が危ないのかも!」

 

「お姉様が⁉皇甫嵩!盧植!今すぐ漢に戻って―――」

 

「お待ちくだされ!先程空を見た所、雲行きが怪しくなっておりました!今海に出るのは危険です!」

 

「そ、そんな…!」

 

「劉協様、陛下が心配なのはわかりますが劉協様のお命も大切です」

 

「卑弥呼殿の言う通り、天候を見て船を出しましょう」

 

「…わかりました」

 

「寝床と食事を用意します。あなた方は来るべき時にに備え、ゆっくりと体をお休め下さい」

 

「卑弥呼殿…感謝します」

 

「…………」

 

白湯は心配そうに西の方を向いて祈りだす。

 

(お姉様…どうかご無事で…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある平野。

 

傾の率いる官軍が布陣していた。

 

「何進将軍、よろしいでしょうか?」

 

傾の天幕に兵士が一人入って来た。

 

「何だ?」

 

「賊軍を撃退してからもう三日になりますが、何故仮病などを使って滞在しているのですか?」

 

「考えがあっての事だ。気にするな」

 

「はァ…」

 

「何進将軍!」

 

別の兵士が入って来た。

 

「どうした?」

 

「袁紹様の使いがこの文を持って来ました」

 

「見せてみろ」

 

傾は文を受け取ると一通り読み…

 

「おい、私の影武者と密使、精鋭兵を十名程集め、荷車と金銀を少々用意しろ!」

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

しばらくして人手が揃い、傾は指示を出す。

 

「お前は私の代わりに病気と称して寝台で寝ていろ。お前はこの手紙を皇甫嵩と盧植に届けてくれ。

お前達は私と一緒に商人に扮して洛陽に向かう。武器や鎧は上手く隠せ。

残りの者達には皇甫嵩、盧植の隊と合流して、二人の指示に従い洛陽に向かうよう伝えろ!」

 

「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある街。

 

「は~!終わった終わった~!」

 

舞台を終えた張三姉妹は控室で休んでいた。

 

「今日の舞台が終わったら、しばらくは休みだったわよねー!」

 

「久し振りにゆっくりできるね~」

 

「姉さん達、残念だけどそうはいかないかもしれないわ」

 

「人和ちゃん?どうしたの?」

 

「華琳様から手紙が届いたの。大きな戦が起こりそうだから兵の慰安と終戦後の大宴会の為に来て欲しいって」

 

「え~⁉やっと休めると思ったのに~!」

 

「仕方ないよちぃちゃん。それで、どこに行けばいいの?」

 

「洛陽だって」

 

「「…え?」」

 

想像以上に大きな街だった為、2人はしばらく開いた口が塞がらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荊州、水鏡の庵。

 

「では、この金額で買い取らせていただきます」

 

「うむ。ありがとう」

 

華佗は旅の路銀を手に入れる為、自作の薬をいくつか水鏡に買い取って貰っていた。

 

「華佗ちゃーん!やーっと見つけたわよー!」

 

…と、そこへ何者かが走って来た。

 

「あ、あの…あなたは⁉」

 

「私は貂蝉!華佗ちゃんの友人よ!」

 

「ああ。貂蝉殿、今回は一体どの様な用件で?」

 

「張魯様から文を預かって来たの」

 

 

 

 

 

 

「…何だと!だとしたら、一刻も早くこの事をルフィ殿達や曹操殿達に伝えねば…!」

 

「曹操殿や孫策殿は反董卓連合軍として洛陽に向かっているらしいわ!華佗ちゃんもそこへ急いで頂戴!」

 

「ああ…!だが、できれば真っ先にルフィ殿達に伝え、彼らに動いて貰いたいのだが…」

 

「あの…もしよろしければルフィさん達への伝言は私が承りましょうか?」

 

「水鏡殿⁉よろしいのですか⁉」

 

「はい。私の教え子達がルフィさん達と同じ村におりまして、近い内に様子を見に行きたいと思っていたのです」

 

「それはありがたい!では、ルフィ殿達への伝言は水鏡殿に頼むとしよう!おれは洛陽へ向かい、曹操殿達に伝える!」

 

「私はさらなる事態の変化に備えて、漢中に戻るわ!」

 

「お互い、道中気を付けて!」

 

「ああ!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桃花村。

 

麗羽からの檄が届いたルフィ達は出陣の準備をしていた。

 

「蒲公英の奴…見送りくらいしてくれてもいいだろうに…」

 

「出陣できないから拗ねてるんだよ。…ったく、いつまで経っても子供なんだから…」

 

焔耶はやや寂し気に、翠は呆れた様に言う。

 

「ん?おい鈴々、おめェのその背中のつづら何入ってんだ?」

 

フランキーと一緒に天幕や篝火の材料を用意していたゾロが訊ねる。

 

「わかんないのだ。でも弁当って書いた紙が貼ってあったから、きっと何か美味しいものが入っているに違いないのだ!」

 

「へェいいなそりゃ!後でおれ達にも分けてくれよ!」

 

「勿論なのだ!沢山入っているみたいだから、みんなで食べるのだ!」

 

「アウ!コーラに合う味だといいな!」

 

「…ったく、鈴々ちゃんも蒲公英ちゃんも進歩がねェな…」

 

その様子を見て、サンジは呆れるのだった。

 

「今回は私の初陣だね!」

 

「雛里ちゃん、一緒に頑張ろうね!」

 

朱里と雛里は互いを励まし合う。

 

「よーし!これで全部だな!」

 

その隣ではチョッパーと星が薬の用意をしている。

 

「張り切っているなチョッパー殿」

 

「当たり前だ!月達の身に何か大変な事が起きてるなら、おれが助けてやらないと!」

 

「ええー⁉孟獲ちゃん達も一緒に来るの⁉」

 

素っ頓狂な声をあげるナミ。

 

「せっかくだし、みやこにあるむねむねもけんぶつしていきたいにゃ!」

 

「だいじょーぶにょ!ミケたちはつよいにょ!」

 

「たたかいはまかせるにゃ!」

 

「にゃん…」

 

「ヨホホ!これは頼もしいですね!」

 

「朱儁さんはどうするの?」

 

ロビンが訊ねる。

 

「妾が追放された後、宮廷がどうなっておったかは気掛かりじゃったしの。同行させて貰うぞ」

 

「では、村の警備は周倉(しゅうそう)達に任せますので」

 

「はい。皆さんもお気を付けて」

 

張世平に挨拶する愛紗。

 

「いい?お母さん達が戻って来るまでいい子にしているのよ?」

 

「うん!お母さんたちもけがしないでね!」

 

「いいのか紫苑?璃々が心配なら村に残っても…」

 

「今はもう村が襲われる事もなくなりましたし、璃々もそろそろ留守番ができる様になってきましたから。何より…」

 

「?」

 

「私の方が留守番には飽きちゃいましたから!」

 

「そうか!」

 

紫苑とウソップも璃々に見送られ、馬に乗る。

 

「出発か桃香⁉」

 

「はい!準備は整いました!」

 

「そうか!よーし!」

 

ルフィは大きく息を吸い込み…

 

「行くぞォ野郎共ォー!出陣だァーーー!」

 

「「「「「「「「「「おおーーーっ!」」」」」」」」」」

 

こうして、海賊“麦わらの一味”と劉備玄徳率いる義勇軍も、洛陽へ兵を進めたのだった。

 




連続投降、いったん終了します。

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