ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第五席編です。
今回もルフィ達の出番はありません。




第15話 “トントン”

ゾロと翠が涼州を目指す事を決めたその日の昼間、その涼州のとある山中で1人の少女が数人の山賊に襲われていた。

 

少女は少し紫がかった白髪で、ウェーブがかかった髪をしており、白い着物を着ている。

 

「酷い…私を騙したんですね…。村に案内すると言って…」

 

「別に騙しちゃいねェよ。ちゃんと道案内はしてやるさ…。ただし、村じゃなくて天国にな…」

 

「天国…やはり私を殺すつもりなのですね…」

 

「違う違う、天国って言ってもあの世じゃねェよ。とっても気持ちの良い…」

 

「おい、お前ら」

 

「あ?誰だよ、邪魔すんじゃね…え…」

 

不意に後ろから声をかけられ、山賊達が振り返ると…

 

「その子に何をする気だ?」

 

全身を茶色い毛で覆われた、図体のデカい、どう見ても人間ではない何かがそこにいた。

 

「「「ば、化物ォ~~~っ⁉」」」

 

山賊達は大慌てで逃げて行った。

 

「あ…ああ…!」

 

山賊達は逃げ去ったが今度は目の前の化物に恐怖し、少女はその場に座り込んでしまう。

 

「…よし」

 

「―――っ!」

 

化物がこちらに歩み寄ってくるのを見て、少女は思わず目をつむる。

 

すると…

 

「大丈夫かお前?」

 

「……?」

 

思いのほか優しく声をかけられ、少女が恐る恐る目を開けてみると…

 

「…え?」

 

「よかった、どこもケガしてないみたいだな」

 

何ともかわいらしい二頭身の動物が、少女の身体を触って調べていた。

 

「……(たぬき)?」

 

「トナカイだおれはっ!ホラッ、角っ!」

 

急に怒りだして、頭の角を主張する謎の動物。

 

(あれ?あの帽子…)

 

その時、その動物がかぶっている白いバツ印がついたピンク色の帽子が目に入り、さっきの化物も同じ様な物を被っていた事を思い出す。

 

「あの…もしかして、山賊を追い払ってくれたのは…」

 

「ああ、おれだぞ。ほらっ」

 

「ええっ⁉」

 

その動物はそう言うと、一瞬で先程の化物の姿に変わって見せる。

 

「おれは“トニートニー・チョッパー”。お前は何ていうんだ?」

 

「私はと……“トントン”といいます…」

 

「そうか、よろしくな。トントンはこんな所で、何やってるんだ?」

 

「あ…はい。実は、この辺りに化物が出る村があると聞きまして、その村に向かう途中だったんです」

 

「ああ、おれのいる村に来る途中だったのか」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、その山からさほど離れていない街。

そこの大きなお屋敷の廊下を、1人の女性が歩いていた。

 

緑の髪で眼鏡をかけた、知的な雰囲気がある女性である。

 

「あの子ってば…また抜け出して…」

 

「おや?“賈駆(かく)”ではないか」

 

廊下の角で鉢合わせた、銀色短髪の豪快そうな雰囲気がある女性が声をかけてきた。

 

「“華雄(かゆう)”将軍」

 

「どうしたのだ?何やら浮かない顔だが?」

 

「実は“(ゆえ)”が…“董卓(とうたく)”様がまた屋敷を抜け出して…」

 

「いつものアレか?お忍びで庶民の暮らしの様子を見行くという…」

 

「おそらくね…」

 

「全く…太守たる者が、仕事を放りだしてふらふら出歩くとは…」

 

「領民と直に触れあって声を聞くことは、決して悪い事ではないわ!立派な政務の内だし、むしろ見習うべき所よ!」

 

「なら別に良いではないか?何をそんなに苛立っている?」

 

「だって、ここんとこ地方の賊退治に人手を取られて、逆にこの辺りの治安が悪くなってきているのよ!

それなのに供もつけずに一人で出歩いて…。

おまけに近くの山には、凶暴な熊とかが出るとかいう訴えもあるし…物価の上昇で民の不満は募っているし…。

流行病や飢饉で病人が絶えない村もあるし、戦やら土砂災害やらで怪我人は絶えないし…!」

 

話しながら、思わず髪をぐしゃぐしゃと掻き回す賈駆。

 

「賈駆よ、そんなに悩んでばかりいては寿命が縮まるぞ」

 

「……華雄将軍、あなたは悩みがない分、さぞかし寿命が長いのでしょうね」

 

「ああ!私は長生きする質だからな!」

 

「………はァ…」

 

皮肉が通じず、ため息をつく賈駆であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、チョッパーとトントンは一緒に村に向かっていた。

すでに村の近くまで来ており、周囲には畑が広がっている。

 

因みに今、チョッパーは二頭身の獣人型になっている。

 

「それじゃあチョッパーさんは、その“ヒトヒトの実”っていう果物を食べて、変身したり、人間の言葉を喋れる様になったのですね」

 

「ああ」

 

「そういえば…あの、さっきは本当にごめんなさい…。助けてくれたのに、怖がったりして…」

 

「いいよ、慣れてるから」

 

「おや、チョッパーさん」

 

近くで畑を耕していた男性が声をかけてきた。

 

「薬草集めはいかがでしたか?」

 

「まァ、ぼちぼちかな?それより、脚はもう大丈夫なのか?」

 

「はい。おかげさまで仕事に戻れました」

 

「そうか。けど、再発するかもしれないから、今はまだ無理をしたらダメだぞ」

 

「はい」

 

「……チョッパーさんってお医者さんなんですか?」

 

「ああ、おれは船医なんだ」

 

「船医ってことは船乗り…!」

 

そこまで言いかけて、トントンは急に黙ってしまった。

村の入り口から見える大きな屋敷、その門前に巨大な岩が置かれているのが目に入ったからだ。

 

「……あれは…」

 

「…この村を襲っている、化物の仕業なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トントンは村の庄屋屋敷で、庄屋様から話を聞く事にした。

チョッパーも同席している。

 

「では庄屋様、化物が出るというのは本当なのですね」

 

「はい。事の始まりは三ヶ月ほど前でした。

ある日、この屋敷の門に白羽の矢が撃ち込まれ、それに結び付けられていた矢文に『今宵、村の外れにあるお堂に食べ物を供えよ。さもなくば、村に災いが降りかかるであろう』と書かれていたのです。

その時はただの悪戯(いたずら)だと思い、放っておいたのですが…翌朝、門前にあの大岩が置かれていたのです。

とても人の力で持ち上げられる様な物ではなく、化物の仕業に違いないと考え、その夜慌ててお堂に食べ物を供えました。

それからは七日から十日おきに、催促の矢文が撃ち込まれる様になりまして…」

 

「そうだったのですか…」

 

「何度か旅の武芸者や力自慢の若者に、化物を退治してもらおうとしたのですが…皆歯が立たず、()()うの体で逃げ帰ってくる始末でした…。

お役人様にも訴えてみたのですが…『そのような不確かな事に、手を煩わせるな』と逆にお叱りを受けまして…」

 

「そんなひどい事を…!」

 

「⁉」

 

役人の対応を聞き、声を荒げ立ち上がるトントン。

その様子を見てチョッパーが驚いていると、トントンは冷静になり席に座り直した。

 

「化物が現れるのは必ず真夜中である為、しかと姿を見た者はいないのですが…。

ある者は『身の丈は三(じょう)で、赤く光る眼をしていた』と言い、またある者は『鋭い牙と爪を持ち、全身毛むくじゃらで恐ろしい唸り声を上げていた』とか…」

 

「なんと恐ろしい…」

 

「あの…庄屋さん」

 

チョッパーが申し訳なさそうに話を遮った。

 

「おれ、そろそろ往診に行かないといけないんだけど…」

 

「ああ、もうそんな時間でしたか…。わかりました。村人達を宜しくお願いします」

 

「うん。それじゃあ行ってくる」

 

そう言ってチョッパーは部屋を出て行った。

 

「あの…チョッパーさんは一体?」

 

「はい…前に化物から催促があった日の事でした。

その夜も、村人達が何人かで化物退治に向かいましたが、やはり歯が立たずやられてしまいまして…。

その時、お堂の前で倒れていた所を、通りかかったチョッパーさんが手当てをして、村まで運んでくれたのです。

最初は化物の仲間ではないかと、我々も警戒していたのですが…。

助けられた者に言われ話を聞いてみると、高度な医学をお持ちの心優しい方でして…。

この村に医者がいない事を知ると『患者の面倒は最後まで診たい』と言い、この村で医者として働いてくれているのです」

 

「そうだったのですか」

 

「どうやらチョッパーさんは仲間と船旅の途中で気が付くと、この辺りの山中に一人で居たらしく…。

仲間を探して彷徨っていた所を、例のお堂の前で倒れていた村人達を見つけたそうです。

逸れたお仲間の事も心配でしょうに…」

 

「……本当に優しい方なんですね」

 

「実は…今朝、また化物から催促の手紙が届きまして…そしたら、チョッパーさんが、自分が戦ってみると仰いまして…」

 

「えっ⁉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、山賊を追い払った時の姿、人型になったチョッパーと幾人かの村人達は、食料を積んだ荷車を引いて例のお堂へ向かった。

 

「…ではチョッパーさん、くれぐれもお気を付けて」

 

「大丈夫だ。おれだってバケモノだ」

 

食べ物を供えると、村人達は帰って行った。

 

 

 

 

 

 

それから数分後、チョッパーが近くの木の陰に隠れて様子を見ていると…

 

(あ…!)

 

そいつは現れた。

全身が白い毛で覆われ、虎の頭、赤い目をしており、手には槍か鉈と思われる武器を持っている。

 

(ほ、本当にバケモノ…!あれ?でも…)

 

「…そこのお前」

 

(⁉気づかれた⁉)

 

「隠れ方……逆」

 

「⁉」

 

化物の言う通りであった。

 

身体を木の後ろに隠し、頭をちょっとだけ出す。

これが、木の後ろに隠れる時の正しい隠れ方である。

しかし、チョッパーは頭をちょっとだけ後ろに隠し、身体のほとんどを出していたため、全く隠れられていなかった。

 

言われたチョッパーは、慌てて正しく隠れなおすが…

 

「遅い。それに隠れきれてない」

 

すでにバレているうえ、身体が完全にはみ出しているため、無意味だった。

 

観念したチョッパーは化物と正面から対峙する。

 

「お前…人間だな?」

 

「!」

 

「その頭や毛からは匂いが全然しねェ。ただの被り物だろ」

 

「…バレた?」

 

「何でこんな事するのか知らねェけど、これ以上食べ物は持って行かせねェぞ!」

 

「食べ物は貰っていく…!」

 

そう言うなり、相手は得物を構え走り出す!

 

(⁉速い!)

 

横に薙ぎ払われた一撃を、チョッパーはトナカイ本来の姿、獣型に変形して躱す。

しかし、相手も避けられたと察した瞬間構えなおし、続けざまに数回得物を振るう!

 

「うおっ⁉」

 

徐々に避け切れなくなったチョッパーは、人型に変身し得物を受け止める。

 

(ぐっ…!すごい力だ…)

 

しかし、相手の想像以上の腕力に耐え切れず…

 

「…ハァッ!」

 

「!しまっ…」

 

相手が得物を振り上げた瞬間、抑えきれず腕を高く上げてしまい…

 

「…っ!」

 

「がっ…!」

 

無防備となった鳩尾に一撃をくらい、チョッパーは気絶してしまった。

 

「…貰ってく」

 

相手は、食べ物を持ち去っていった。

 

 


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