ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
「くそォ!くそォ!」
チョッパー達が月を連れだしたその日の夕刻、張譲は自身の執務室で物に当たっていた。
床には書簡や割れた硯が散乱し、屏風や机がひっくり返っている。
「何たる失態!董卓に逃げられ…!そのうえ…!」
「随分と荒れているな張譲殿」
部屋に2人の男が入って来た。
「左慈!于吉!…これが荒れずにいられるか!董卓が我が手中から…!」
「そんなあなたに我々は吉報を持って来ましたよ」
「吉報だと⁉」
「ああ。―――郿塢城の設備が整った」
「!まことか⁉」
「ええ。それと僅かではありますが、我々の方で援軍を手配し既に虎牢関に向かわせました。多少の時間稼ぎはできるでしょう」
「そうかそうか!なら何の心配もいらないではないか!」
「そういう事です。今、最後の点検をしております。明日の夕刻には作動させられるでしょう」
「わかった。ではそれまではこの宮殿で過ごす最後の時間を満喫するとしよう」
「それでは」
左慈と于吉は部屋を出て行った。
▽
「…しかし、良かったのですか左慈?あの兵士達を全て虎牢関に向かわせて」
「弱すぎる奴や頭の悪い連中、才覚のない奴はこうした方が役に立つだろう?」
「それもそうですね。そういえば、
「あいつが?別に構わんが何故だ?」
「なんでも郿塢城がかなり気に入ったらしくてですね、あれを造ってくれた張譲殿に直接
「はっはっは!そうかそうか!確かに礼は面と向かって言うべきだ!律儀な男だな!」
「ええ、本当にその通りで」
「「はーっはっはっはっはっは!」」
▽
一方、洛陽の城門を脱出したチョッパー達は、虎牢関を通る道とは別ルートで汜水関へ向かっていた。
チョッパーは獣型に変身、明命は敵から奪った馬に乗って馬車と並走している。
「……もう追手は来ていないみたいですね…」
周囲を確認しながら明命が言う。
「それにしても…何で雪羅は洛陽にいたんだ?おれ、てっきり恋達と一緒に汜水関にいると思ってたぞ?」
「そうよ!いい加減説明しなさいよ!」
「「⁉」」
チョッパーが訊ねると同時に、詠も声を荒げて訊ねる。
「今までどこで何をしていたのよ⁉生きていたのならどうして早く戻って来てくれなかったのよ⁉ボクは…本当に心配で…」
そう言う詠の目には涙が浮かんでいた。
「…そうだな。すまなかった」
そして華雄は説明を始めた。
「チョッパーにもわかるように説明すると、お主が我々の下を離れてからしばらくして、鮮卑との戦があってな…」
「ああ。それで月達の軍が大分やられたから、軍を立て直す為に宮中入りしたって…」
「実は私はその鮮卑との戦で、撤退する際の殿を務めていたのだが、部下を逃がしつつ追手を食い止めている内に敵陣で孤立してしまったのだ。
だが、幸運にも連中の間で反乱が起き、その騒ぎに乗じて逃げ出せたのだ。
ただ、至る所に奴らの手勢がいたものだから、なかなか涼州に戻れず司隷から少し北に行った辺りに流されてしまってな…。
そこから何とか漢の領土内に流れ込めたのだが、そこで月が洛陽で暴政を布いているという噂を耳にし、何かあったのではないかと思い、流浪人に扮して街に潜んでいたという訳だ」
「そうだったんだ…。そうとう苦労してたのね…」
「すまないな詠、泣くほど心配させて…」
「ばっ…な、泣いてなんかいないわよ!ちょっと目に砂ぼこりが入っただけで…!」
「…詠よ、お主は相変わらずだな…」
「雪羅こそ…」
一行は寝る間も惜しんで汜水関に向かった。
▽
その日の夜、汜水関にある軍議の間にルフィ、ゾロ、ウソップ、サンジ、フランキー、ブルック、桃香、愛紗、鈴々、星、翠、朱里、雛里、鶸、蒼、桔梗、華琳、桂花、柳琳、栄華、風、稟、雪蓮、蓮華、冥琳、雷火、穏、亞莎、包、麗羽、猪々子、斗詩、真直、美羽、七乃、白蓮、燈、喜雨、黄祖、そして恋、ねね、霞が集まっていた。
「孫策様、虎牢関の様子を探っていた斥候が戻りました」
思春が報告に来た。
「虎牢関の兵士達が董卓に逃げられたと騒いでいたそうです」
「!それじゃあ…」
「はい。周泰達は成功したと思われます!」
「「「「「「「「「「おお!」」」」」」」」」」
安堵と歓喜の声が部屋全体に響き渡る。
「よかった…!」
「ひ…一安心なのです…!」
「いや~!ゾロ達が来てくれてホンマに助かったで~!」
霞は喜びながら隣に座っているゾロと肩を組む。
「マリモてめェ誰に許可を得て張遼ちゃんと肩を組んどんじゃクルァ!」
「お姉ちゃん、あの張遼って人ゾロさんと距離近そうだし警戒しておいた方がいいよ」
「な、何の警戒だよ⁉何の⁉」
蒼の言葉に慌てふためく翠だった。
「失礼します」
今度は流琉が入って来た。
「ナミ殿達が戻られました!」
▽
チョッパー達が戻った後、月は一人連合軍の首脳陣達の前に連れ出された。
軍議の間の上座には麗羽と美羽が座り、左右に他の者達が立ち並ぶ。
その真ん中で月が正座し首を垂れていた。
「董卓さん、面を上げなさい。敵軍の将といえど、あなたは張譲に利用された被害者。わたくし達は相応の礼をもって対応いたしますわ」
「…………」
麗羽の言葉に月は頭を上げる。
「連合軍の諸侯の皆様に、一つお願いしたき議がございます」
「言ってみなさい」
「私は此度の件で罪のなき多くの民草を苦しめました。その罪、万死に値するもの…。どうか…その罪に相応しい罰を我が身にお与え下さい…!」
「月⁉何言ってんだよ⁉お前は何も悪くないだろ⁉」
「チョッパーさんの言う通り、わたくし達は皆、今回の件は張譲の仕業と伺っておりますが?」
「愚かにも奸物の策に嵌って囚われの身となり、臣下に悪行をせしめた事こそ私の罪…。なにとぞ…厳しい御裁きを下されますよう、伏してお願いいたします…!」
そう言って月は再び頭を下げる。
「良い覚悟ね…」
「確かに…張譲の策略とはいえ、民は納得しないでしょうね…」
雪蓮と華琳がそう呟いた時…
「月!」
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
何者かの声が聞こえ、見ると入口に詠、恋、ねね、霞、華雄が立っていた。
「どうしてボク達に黙ってこんな事を⁉」
「詠ちゃん…みんな…。本当にごめんなさい…。私、話しを聞くまで何が起きていたのか全然知らなかった…!
こんな事になるなら…みんなをそんなに苦しめる事になるなら、捕まったときに潔く自害するべきだった…!」
そう言って月は目に涙を浮かべる。
「月…。―――袁紹殿!及び連合軍の諸侯の皆様!此度の件で罪があるとするならば、張譲の脅迫に屈し悪政に加担したボクの方です!」
そう言って詠は手を合わせ、月の隣に跪く。
「ですから…罪を問うならボクに…!」
「詠ちゃん、臣下の罪は主君の責任だよ…。だから、私が罪に問われるべきなの…」
「でも…!」
「袁紹殿、もし我が罪に相応しい裁きを下していただけないのであれば、自ら命を絶って罪を償いする所存です!」
「やめてくれよ2人共!おれそんな事させる為に助けたんじゃねェよ!」
「っ!チョッパー…!」
チョッパーの言葉に、2人の表情に迷いが生じる。
己の命を用いてでも罪を償いたいという思いは立派ではあるが、それは身の危険を顧みず2人を助け出したチョッパーの思いを無下にする行為でもあった。
罪悪感とチョッパーへの申し訳なさの板挟みになった2人は何も言えなくなり、他の者もどう収めていいのかわからず黙り込んでしまった。
すると…
「…確かにてめェのせいで大勢の奴がヒデェ目に遭わされたし、おれ達も大迷惑を被ったな…」
「ちょっとゾロ!」
「ゾロォ!」
「ナミさん、チョッパーも待て…」
声を荒げる2人をサンジが止める。
「だがそれはテメェがあいつらに捕まって人質になるっつう失態を演じたからだ。罪を犯したからじゃねェ」
「…?」
「罪を犯したなら罰を受けるのは当然だが、失態ならそれを補う功績を立てて埋め合わせをするべきだ」
「ですが…実際に私のせいで…」
「てめェまだ自分が言ってる事がわかんねェのか⁉」
「⁉」
「てめェは本来今後一生かけて償いをしなきゃいけねェ所を、罪悪感に耐えられねェからって話をすり替えて、この場で罰を受けて終わらせようとしてんだぞ!
しかも、今ここでてめェを全ての悪行の黒幕として処罰してみろ!本当の黒幕共がそれをいい事に、有耶無耶にして責任逃れをしかねねェ!」
「!」
「てめェ自身が責任逃れをしたうえ、黒幕共を庇い立てする様なてめェの言い分は、何一つ筋が通ってねェだろうが!」
ゾロの言葉に月は最初戸惑っていたが、やがて涙を拭い引き締まった表情になる。
「……皆さん、今のゾロさんの言い分、どう思いますか?」
「そうねェ…。確かにこの場で死ぬよりも、迷惑を掛けたぶんちゃんと働いて貰った方が、私達としてはありがたいわね」
「それに董卓の死をこれ幸いにと、張譲達が責任逃れする可能性も否定できないわ」
「失態と罪を混同しない方が良いというのも、頷けますね…」
「仮に無辜の民草を苦しめた事が罪でそれを罰するとしても、この場で首を刎ねるより生涯罪を背負って生きる方が、こやつにとっては良い罰になりそうだしのう」
麗羽の問いかけに雪蓮、華琳、燈、黄祖はそう答える。
「決まりですわね。董卓さん、あなたが此度の一件に責任を感じているのであれば、今後は我々連合軍の監視の下、民草に尽くす事で償いをしなさい。
それから、この件についてこれ以上我儘を言うのであれば、その罪はあなたの臣下にまで及びますわよ。よろしいですわね?」
「心得ました!」
麗羽の言葉に、月は力強く答えた。
「では董卓さん、早速ですが償いとして明日の虎牢関攻略にご助力いただけますわね?」
「無論です!詠ちゃん!みんな!」
「承知しました!」
「チョッパー達、恋達を助けてくれた。だから、今度は恋達がチョッパー達を助ける!」
「喜んで戦うのです!」
「張譲の奴らァ…!コテンパンにしたるでェ!」
「主のご命令とあらば!」
▽
翌朝、義勇軍と西涼軍の合同軍の陣。
「うみゃ~…ふかふかのぷにょぷにょにゃ~」
美以が紫苑に膝枕して貰いながら、頭上の豊満な胸を満喫していた。
「大王しゃまそろそろこうたいするにょ!」
「ひとりじめはずるいにゃ!」
「そうにゃそうにゃ!」
「あはは…」
順番待ちしている子分達を見て紫苑は苦笑いするのだった。
因みにそのすぐ近くの天幕では焔耶、蒲公英、朱儁が朝食をとっていた。
「朱儁さん、お茶お代わり」
「ああ、わかった。…って、何で妾がお茶酌みをせねばならんのじゃ⁉」
「だって、いかにもそういう役割の格好をしているから…」
蒲公英の言う通り、朱儁は割烹着の様な三角巾を頭に着けていた。
「妾は好きでこの様な格好をしているのではない!これは猫耳を隠す為に仕方なく…」
「あのー皆さーん」
そこへ雛里がやって来た。
「どうした鳳統?」
「そろそろ虎牢関の攻略に向けて軍議を行うので、各軍の主力である将は全て来て下さいと…」
「そうか、わかった」
「やっとたんぽぽ達の出番だね!」
「どれ、久し振りに妾もひと暴れさせて貰うとしようかの」
そう言って焔耶、蒲公英、朱儁も立ち上がる。
「よーし!子分どもー!美以たちもいくにゃー!」
「「「にゃー!」」」
「え?も、孟獲さん達も来るんですか?」
「もちろんにゃ!美以たちは南蛮の大王とそのいちばんの子分どもにゃー!」
「ミケたちもえらいにょー!」
「いくさはまかせるにゃー!」
「にゃん…」
「え、ええ~⁉」
▽
数分後、軍議の間には今まで軍議に参加していた主将、軍師、腹心に加え、曹操軍の春蘭、秋蘭、季衣、流琉、華侖、凪、真桜、沙和、孫策軍のシャオ、粋怜、祭、思春、明命、梨晏、大喬、小喬、益州軍の美花、董卓軍の月、詠、恋、ねね、霞、華雄も集められた。
そして、義勇軍の紫苑、焔耶、蒲公英、朱儁と…
「…で、ついて来ちゃったんですが…」
雛里は申し訳なさそうに美以達を連合軍の首脳陣に紹介する。
「えっと…あなたが南蛮大王の孟獲さんですの…?」
麗羽が戸惑いながら訊ねる。
「そうにゃー!美以はえらいのにゃー!」
(ああ…♡なんて可愛らしい…♡)
(これはこれは…)
(にゃんこ…)
(ひ、人の姿をしたお猫様⁉)
(あの子達ならもふもふできるかな?)
少女が好きな栄華、小動物が好きな風と恋、猫が好きな明命と梨晏は早速魅了されていた。
「なんか…噂で聞いてたのとだいぶ違うな…」
「確か…背丈は一般的な人の倍で、目玉が三つあって頭に牛の様な角が生えているだったけ?」
「涼州では全身が真っ赤で口から火を噴き、腕が四本あるとか言われてましたね…」
「江東じゃ全身に棘があって、長くて毒のある爪が生えているって話だったよ…」
「ま、噂なんて所詮そんなもんだろ…」
美以達の姿を見て猪々子、斗詩、鶸、シャオ、白蓮が言う。
「夏侯淵や荀彧達は一度彼女達と共闘した事があったわよね?実力の方はどうなの?」
「まァ、個人の武勇なら一軍の将として申し分ない程度の実力はあります」
「身体能力は高いですし、そんじょそこらの将に劣る事はないかと」
「でしたら、十分主戦力として期待できそうですわね。蛮族とはいえ、ちゃんとした身分をお持ちの方ですし、出席を許可しましょう」
秋蘭と桂花の話を聞き、麗羽はそう言うのだった。
「では賈駆さん、虎牢関にいる兵について知っている限りの情報を教えて下さい」
「はい。元々の朝廷の軍はおよそ二十万おり、何進将軍と劉協様がそれぞれ八千、二千の兵を連れて離れている為、兵力は十九万となっておりました。
現在ではボク達と共に二万の兵が連合軍に降伏した為、虎牢関には十七万の兵がいる計算になります。
おそらく全体の指揮を執っているのは
「対して我々は、袁紹、袁術の軍勢が合わせて三万、曹操軍と孫策軍が各二万五千、公孫賛殿の北平軍と馬超殿達の西涼軍が各五千、各軍の先遣隊である厳顔、陳珪、黄祖の軍が各三千、劉備殿とルフィ殿の義勇軍が千、そして董卓軍が二万の計十二万です」
「敵はこちらより五万多い。それに籠城している敵を攻め落とすには、敵の三倍の兵力が必要と言われる。少々厄介だな…」
「それに虎牢関は十万の兵を配置すれば不落と言われる程の要害。まともに戦っては勝ち目はないぞ…」
詠と真直の話を聞き、白蓮と桔梗は厳しい表情をする。
「だが、妾は宮廷を追い出され、皇甫嵩や盧植が洛陽を離れている以上、そこまで優れた将も軍師もいない。策を用いて戦えば勝てぬ戦ではないだろう」
朱儁は強気な姿勢を見せる。
「それはボク達も同感です。ただ、お耳に入れたい事が…」
そう言って詠は何かの設計図を数枚卓上に並べる。
「これは?」
「張譲がボク達に造らせた兵器の設計図です」
「翠姉様!これって…!」
「ああ!」
「どうしたの?」
「この“鉄車”ってやつ見た事がある。前に韓遂が使っていたんだ」
「何ですって⁉」
「この鉄製の馬車の上から矢を射かけたり、槍を投げたりして来るんです。歩兵は轢殺されるし、弓兵や騎馬隊の攻撃も縁や盾で防がれて凄く厄介だったんです」
「こちらの兵器はわたくしも見覚えがありますわね…」
「本当曹洪⁉」
「はい。“連弩”といって一度に十の矢を撃つ事ができるとか…」
「成程ね…。他の兵器はどういうものなの?」
「これは“
こちらは“
これは“
そしてこれが岩を投げつけて攻撃する“
「どれも中々厄介ですね…」
「けど…雲梯や井闌などは向こうが攻め込んでこない限り警戒する必要はないし、こちらが籠城できるのならそれはそれで好都合よ」
柳琳は顔をしかめるが、華琳は強気な姿勢を見せる。
「どういう兵器かわかっている以上、対策を練る事も可能です。とにかく、それなりに準備をして…」
桂花が言いかけたその時だった。
「申し上げます!」
一人の兵士が慌てた様子で駆け込んで来た。
「何事か⁉」
「虎牢関に敵の増援が突如現れました!その数、およそ三十万!」
「何ですって⁉」
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」