ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
~涼州~
その州境にある、少し大きな村にゾロと翠はいた。
「腹減ったな…」
「路銀は底をついちまったし…どうしたもんかな~?」
2人がそう言いながら村を歩いていると、人だかりが目に入った。
その前には1つの立て札がある。
「何て書いてある?」
「『大食い大会、本日開催。飛び入り参加歓迎。優勝者には賞金と豪華副賞あり』だってさ」
「なるほど、じゃあこいつに優勝して、路銀を稼ぐとするか」
「そうだな。あたしとゾロなら、どっちかは優勝できるだろ。ついでに腹いっぱいになるしな」
「言っとくが、やるからには手加減はしねェぞ」
「こっちだってそのつもりさ。お前なら相手にとって不足なし!勝負だゾロ!」
「望むところだ!」
そう言って火花を散らす2人であった。
▽
そして…
『皆さん!大変長らくお待たせいたしました!只今より毎年恒例の大食い大会を開始します!』
ゾロと翠が出会った武闘大会と同じ司会者、陳琳の進行のもと、大食い大会が始まった。
『試合は全部で四回。
制限時間、四半刻以内にどれだけ食べられるか競ってもらいます。
お腹がいっぱいになった人は、辞退しても構いません。
一回戦から三回戦までは、食べた量が一番少ない人が失格となります。
そして残った選手で最終戦を行い、最終戦で一番多く食べた方が優勝となります。
なお、今大会で使用される食品は、大陸各地に支店を構えます大規模飲食店、“
残ったのは大会関係者の方で、美味しくいたただきますのでご安心を』
こんな時代である。
食べ物を無駄にしない考えは、当然強い。
『それでは早速、第一回戦の方に参りましょう!第一試合の食品は
それでは早速、試合開始!』
ジャーン!
合図の銅鑼が鳴ると同時に、出場者達はいっせいに食べ始める。
そして、四半刻後…
『そこまでー!』
ジャーン!
再び銅鑼が鳴り、選手たちは手を止める。
『第一回戦、結果を発表します!
まず一位通過は、今大会最小…もとい最年少の出場者“
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
陳琳の発表に観戦客だけでなく、出場選手達も驚き、許緒と呼ばれた選手を見る。
ゾロや翠よりだいぶ年下で、ピンク色の髪を串団子のように縦長の二つ縛りにして立たせた、小柄な少女である。
『二位通過はゾロ選手と馬超選手が同着で七皿!三位は…』
「すげェなあの小さい子…」
「あの子、小さいのによく食べるな…」
陳琳は発表を続けるが、人々は体格からは想像できない食欲を持つ許緒に注目し、発表内容は全く耳に届かなかった。
「……小さいって言うな…」
そして人々の反応に、許緒は小声でつぶやくのだった。
その後、二回戦の
『さァ、大食い大会もいよいよ大詰め!最終戦に残ったのはこちらの三名!
まずは、ここ西涼出身の豪傑、馬超選手!
二人目は、はるばる異国より訪れた剣豪、ゾロ選手!
そして最後は、小さい身体からは想像できない驚異の胃袋の持ち主、許緒選手!』
「……小さいって言うな…」
『最終決戦は、美味過ぎなくて、不味過ぎない程々の味が売り込み文句の“
これをどれだけ食べられるかを競っていただきます!
それでは、準備が整ったところで試合開始!』
ジャーン!
合図と同時に、ゾロ、翠、許緒は饅頭を手に取り、次々と口へ運ぶ。
『さすが最終戦!三人とも怒涛の勢いで食べまくるー!』
試合が進む中、ゾロと翠は横目で許緒の様子をうかがう。
「あむあむ…もぐもぐ…」
(アイツ…全くペースが乱れてねェ…相変わらずスゲェ勢いだ…!)
(アイツ…今までもあたし達より沢山食べているはずなのに…!
あの体のどこにそんなに入るんだ?……グッ⁉)
…と、翠の顔が青くなり、手の動きが遅くなる。
(まずい…さすがにそろそろ限界が……。
ああ…この大会で食べてきた物が走馬灯のように…目の前を……。
あ、あたしはここまでなのか…?
だがたとえ…!敗北するとしても…!あたしは…前を向いて…た…お…れ……)
ドサッ…
そして翠は前を向き、皿に残っていた饅頭の山に突っ伏して倒れた。
(…翠が脱落したか…。あとはあの許緒とかいうチビとの一騎打ち…)
…と、そこでゾロは再び許緒の様子を覗う。
(!アイツ…残り3つで手が止まってる⁉)
そして自分の皿を見ると、同じく3つの饅頭がある。
(この3つを食えば逆転…)
そう思いゾロは饅頭に手を伸ばす。
しかし…!
「あむ」
「⁉」
そんな声が聞こえ、許緒を見ると…
「もぐもぐ…」
(なっ⁉)
残りの3つの饅頭を一気に平らげていた。
そして…
「おかわり♪」
ガタン!
その言葉を聞いた瞬間、ゾロの心は完全に折れ、椅子ごと地面に倒れこんだ。
(ちくしょう…やっぱ…ルフィみてェには…いかねェか…)
そんなことを思いながら、ゾロは自分の敗北を思い知るのだった。
▽
大会終了後―――
「…路銀は手に入らなかったな…」
「…ま、腹は一杯になったし、よしとするか…」
ゾロと翠は通りにあったベンチで休んでいた。
「あ!いた!お~い!」
「「?」」
何者かに呼びかけられ、振り向くと先ほどの許緒という少女が駆け寄ってきた。
「お前は…」
「さっきの…」
「ボクの名前は“
「あたしは“馬超”、字は“孟起”。武者修行者だ」
「“ロロノア・ゾロ”だ。こいつと同じ武者修行者だ」
「お前達中々やるじゃないか。大食いでボクにあそこまで張り合った奴は初めてだよ」
「あたしも、あんたみたいな化物じみた大食いは初めて見たぜ…」
「いや~それほどでも~」
翠の言葉に許緒は、どこかの5歳児のような照れ方をする。
「いや、褒めてないから」
「え、そうなの?」
「―――で、どうしたんだよ?わざわざ追いかけてきて」
「いやァ~こうして会ったのも何かの縁!これから三人で何か美味い物でも食べて、親睦を深めたいな~、と思ってさ」
「ってお前、まだ食べる気なのかよ…?」
「ウチの船長にも劣らねェ大食漢だなコリャ…」
「ああ、お金のことなら心配しなくていいよ。大食い大会の賞金で、ボクが奢るから」
「いや、そうじゃなくて…」
「何言ってんだ!」
「「「?」」」
ふと、子供の怒鳴り声らしきものが聞こえ、三人は会話を止める。
気になって声がした方に向かうと…
「借りた分はちゃんと返しただろ⁉」
「何言ってんだ?借金に利子が付くのはとうぜんだろ?」
裏路地の方で、許緒と同い年ぐらいの少年が1人、3人の大人と口論していた。
会話の内容から察するに、大人の方は借金取りのようだ。
「ほ~ら証文だってちゃんとあるぜ」
そう言って親玉らしき男が、懐から証文を取り出す。
「このっ!よこせっ!」
少年は証文を奪い取ろうとするが…
「お~っと、そうはさせねェぜ」
「くそっ!」
逆に捕まってしまう。
「おい、ちょっと痛い目に遭わせてやれ」
「おい、やめろ!」
「「「「⁉」」」」
さすがに見過ごせなくなり、ゾロ達は止めに入る。
「子供相手に大人気無ェマネしてんじゃねェよ!」
「そうだ!そういうのは親に直接言えよ!」
「弱い者イジメする奴は許さなぞ!」
「何だてめェら?」
「通りすがりの大食い修行者だ!」
「いや、それは…」
「お前だけだろ…」
「へん!大食いだが何だか知らねェが、余計なことに首突っ込むと怪我するぞ!」
「そうだ!とっとと帰れチビ!」
「…チビ?」
その瞬間、許緒の雰囲気が変わる。
「そうだチ~ビ!」
「…チビって…誰のこと?」
「あ?そこの桃色の髪の奴、お前に決まってんだろ!」
「…そうか…ボクのことか」
許緒の身体から、どす黒いオーラのようなものが溢れ出す。
「お前以外に誰がいるんだよチ~ビ!」
「…ボクのこと…チビって言ったな?」
「「「?」」」
借金取りの方も、ようやく許緒の様子がおかしいことに気付く。
「チビって…言ったな…⁉」
「い、言ったら何だよ⁉」
「ぶっ潰す!だあァァーーーっ!」
そう叫ぶと許緒はどこからか、
「そ、そんなのどっから出したァーーー⁉」
「でえェェーーーい!」
ドゴォン!
借金取りたちの目の前に叩きつけられた鉄球は、地面に大きくめり込む。
さらに衝撃で周囲の建物が崩れた。
「…………」
「「「ひっ…」」」
許緒は邪悪なオーラを出したまま、無言で借金取り達を睨みつける。
その目は口よりも雄弁に語っていた。
『次は当てる』と。
「に、逃げろーーーっ!」
親玉がそう叫ぶと同時に、借金取り達は少年をその場に放り投げ、逃げて行った。
▽
「アイツら本当にずるいんだ…」
その後、ゾロ達は歩きながら少年から事情を聞いた。
「いつの間にかヘンな証文を作って、借りた金額が何倍も大きくなってたり、『返すのに時間がかかった分だ』とか言って、もっと金を返させたり…皆困ってるんだ。
今回だって、借りたときは『今回は利子はいらない。借りた分だけ返せばいい』って、言ってたはずなのに…。
それで…『返せないなら、代わりに姉ちゃんをよこせ』って…」
「ひどい連中だな!」
「くそォ、そうと知ってたらマジでぶっ潰してやったのに…!」
話を聞いて、翠と許緒は怒り出す。
「ゆ…許せねェ…!」
ゾロにいたっては拳を握り、全身を震わせて怒りを表している。
「な、なんか…随分怒ってるな、ゾロ」
「他人事とは思えねェんだよ…!」
―――――貸すわよ。利子3倍ね
―――――あんた“約束”の一つも守れないの?
「ああ…!今思い出しても腹が立つ…!」
(な…何があったんだ?)
気にはなったが、翠はそれ以上聞かないことにした。
▽
しばらく行くとゾロ達は、1本の大きな杉の木の下にある、少年の家にたどり着いた。
「姉ちゃんただいま」
「おかえりなさい。あら?」
家の中で仕事をしていた、少年の姉が出迎えた。
「その人達は?」
▽
「そうだったのですか。弟の危ないところを助けていただき、本当にありがとうございます」
少年から話を聞いた姉は、お礼を言ってゾロ達に頭を下げる。
どうやら両親はすでに他界し、この姉弟は2人だけで暮らしているらしい。
「姉ちゃん、この人達、旅の途中なんだって。
まだ宿は決まっていないみたいだから、お礼に今晩、ウチに泊まってもらおうと思うんだけど」
「そうね。是非、泊って行ってください」
「そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「ありがとうな」
「じゃあ、宿代としてこれ…」
そう言って許緒は、大食い大会の賞金を取り出す。
「いいえ!そんなことをしていただく訳には…」
しかし、姉はそう言って断る。
「え~、何でだよ姉ちゃん。このお金があれば、借金ももう少し返せるのに」
「何言ってるんですか!
この人達に泊まってもらうのは、あなたを助けてもらったお礼としてなのですよ!
それなのに宿代などを貰っては、お礼にならないでしょう!
そもそも、あなたが軽はずみなことをしなければ…」
「…………」
姉が弟に説教する様子を、翠は食い入るように見つめていた。
「どうした翠?」
「あ、いや…ちょっと妹達のこと思い出して…(あいつら、今頃どうしてるのかな?)」
もうすぐ会える、自分の妹達を想う翠だった。
今作では、許緒と張遼が初登場する話と、愛紗と鈴々がケンカする話は、別々にすることにしました。