ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第21話 “大食い大会”

~涼州~

 

その州境にある、少し大きな村にゾロと翠はいた。

 

「腹減ったな…」

 

「路銀は底をついちまったし…どうしたもんかな~?」

 

2人がそう言いながら村を歩いていると、人だかりが目に入った。

その前には1つの立て札がある。

 

「何て書いてある?」

 

「『大食い大会、本日開催。飛び入り参加歓迎。優勝者には賞金と豪華副賞あり』だってさ」

 

「なるほど、じゃあこいつに優勝して、路銀を稼ぐとするか」

 

「そうだな。あたしとゾロなら、どっちかは優勝できるだろ。ついでに腹いっぱいになるしな」

 

「言っとくが、やるからには手加減はしねェぞ」

 

「こっちだってそのつもりさ。お前なら相手にとって不足なし!勝負だゾロ!」

 

「望むところだ!」

 

そう言って火花を散らす2人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…

 

『皆さん!大変長らくお待たせいたしました!只今より毎年恒例の大食い大会を開始します!』

 

ゾロと翠が出会った武闘大会と同じ司会者、陳琳の進行のもと、大食い大会が始まった。

 

『試合は全部で四回。

制限時間、四半刻以内にどれだけ食べられるか競ってもらいます。

お腹がいっぱいになった人は、辞退しても構いません。

一回戦から三回戦までは、食べた量が一番少ない人が失格となります。

そして残った選手で最終戦を行い、最終戦で一番多く食べた方が優勝となります。

なお、今大会で使用される食品は、大陸各地に支店を構えます大規模飲食店、“九々堂(くくどう)”から提供していただいております。

残ったのは大会関係者の方で、美味しくいたただきますのでご安心を』

 

こんな時代である。

食べ物を無駄にしない考えは、当然強い。

 

『それでは早速、第一回戦の方に参りましょう!第一試合の食品は麻婆豆腐(マーボードウフ)でございます!

それでは早速、試合開始!』

 

ジャーン!

 

合図の銅鑼が鳴ると同時に、出場者達はいっせいに食べ始める。

 

そして、四半刻後…

 

『そこまでー!』

 

ジャーン!

 

再び銅鑼が鳴り、選手たちは手を止める。

 

『第一回戦、結果を発表します!

まず一位通過は、今大会最小…もとい最年少の出場者“許緒(きょちょ)”選手!何と十四皿も平らげました!』

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

陳琳の発表に観戦客だけでなく、出場選手達も驚き、許緒と呼ばれた選手を見る。

 

ゾロや翠よりだいぶ年下で、ピンク色の髪を串団子のように縦長の二つ縛りにして立たせた、小柄な少女である。

 

『二位通過はゾロ選手と馬超選手が同着で七皿!三位は…』

 

「すげェなあの小さい子…」

 

「あの子、小さいのによく食べるな…」

 

陳琳は発表を続けるが、人々は体格からは想像できない食欲を持つ許緒に注目し、発表内容は全く耳に届かなかった。

 

「……小さいって言うな…」

 

そして人々の反応に、許緒は小声でつぶやくのだった。

 

その後、二回戦の焼売(しゅうまい)、三回戦の餃子(ぎょうざ)と、大食い大会は進み、いよいよ最終戦を迎えた。

 

『さァ、大食い大会もいよいよ大詰め!最終戦に残ったのはこちらの三名!

まずは、ここ西涼出身の豪傑、馬超選手!

二人目は、はるばる異国より訪れた剣豪、ゾロ選手!

そして最後は、小さい身体からは想像できない驚異の胃袋の持ち主、許緒選手!』

 

「……小さいって言うな…」

 

『最終決戦は、美味過ぎなくて、不味過ぎない程々の味が売り込み文句の“十万斤饅頭(じゅうまんきんまんじゅう)”!

これをどれだけ食べられるかを競っていただきます!

それでは、準備が整ったところで試合開始!』

 

ジャーン!

 

合図と同時に、ゾロ、翠、許緒は饅頭を手に取り、次々と口へ運ぶ。

 

『さすが最終戦!三人とも怒涛の勢いで食べまくるー!』

 

試合が進む中、ゾロと翠は横目で許緒の様子をうかがう。

 

「あむあむ…もぐもぐ…」

 

(アイツ…全くペースが乱れてねェ…相変わらずスゲェ勢いだ…!)

 

(アイツ…今までもあたし達より沢山食べているはずなのに…!

あの体のどこにそんなに入るんだ?……グッ⁉)

 

…と、翠の顔が青くなり、手の動きが遅くなる。

 

(まずい…さすがにそろそろ限界が……。

ああ…この大会で食べてきた物が走馬灯のように…目の前を……。

あ、あたしはここまでなのか…?

だがたとえ…!敗北するとしても…!あたしは…前を向いて…た…お…れ……)

 

 

 

 

 

ドサッ…

 

そして翠は前を向き、皿に残っていた饅頭の山に突っ伏して倒れた。

 

(…翠が脱落したか…。あとはあの許緒とかいうチビとの一騎打ち…)

 

…と、そこでゾロは再び許緒の様子を覗う。

 

(!アイツ…残り3つで手が止まってる⁉)

 

そして自分の皿を見ると、同じく3つの饅頭がある。

 

(この3つを食えば逆転…)

 

そう思いゾロは饅頭に手を伸ばす。

 

しかし…!

 

「あむ」

 

「⁉」

 

そんな声が聞こえ、許緒を見ると…

 

「もぐもぐ…」

 

(なっ⁉)

 

残りの3つの饅頭を一気に平らげていた。

そして…

 

「おかわり♪」

 

ガタン!

 

その言葉を聞いた瞬間、ゾロの心は完全に折れ、椅子ごと地面に倒れこんだ。

 

(ちくしょう…やっぱ…ルフィみてェには…いかねェか…)

 

そんなことを思いながら、ゾロは自分の敗北を思い知るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大会終了後―――

 

「…路銀は手に入らなかったな…」

 

「…ま、腹は一杯になったし、よしとするか…」

 

ゾロと翠は通りにあったベンチで休んでいた。

 

「あ!いた!お~い!」

 

「「?」」

 

何者かに呼びかけられ、振り向くと先ほどの許緒という少女が駆け寄ってきた。

 

「お前は…」

 

「さっきの…」

 

「ボクの名前は“許緒(きょちょ)”、字は“仲康(ちゅうこう)”。大陸中を回って、大食い修行をしているんだ」

 

「あたしは“馬超”、字は“孟起”。武者修行者だ」

 

「“ロロノア・ゾロ”だ。こいつと同じ武者修行者だ」

 

「お前達中々やるじゃないか。大食いでボクにあそこまで張り合った奴は初めてだよ」

 

「あたしも、あんたみたいな化物じみた大食いは初めて見たぜ…」

 

「いや~それほどでも~」

 

翠の言葉に許緒は、どこかの5歳児のような照れ方をする。

 

「いや、褒めてないから」

 

「え、そうなの?」

 

「―――で、どうしたんだよ?わざわざ追いかけてきて」

 

「いやァ~こうして会ったのも何かの縁!これから三人で何か美味い物でも食べて、親睦を深めたいな~、と思ってさ」

 

「ってお前、まだ食べる気なのかよ…?」

 

「ウチの船長にも劣らねェ大食漢だなコリャ…」

 

「ああ、お金のことなら心配しなくていいよ。大食い大会の賞金で、ボクが奢るから」

 

「いや、そうじゃなくて…」

 

「何言ってんだ!」

 

「「「?」」」

 

ふと、子供の怒鳴り声らしきものが聞こえ、三人は会話を止める。

 

気になって声がした方に向かうと…

 

「借りた分はちゃんと返しただろ⁉」

 

「何言ってんだ?借金に利子が付くのはとうぜんだろ?」

 

裏路地の方で、許緒と同い年ぐらいの少年が1人、3人の大人と口論していた。

 

会話の内容から察するに、大人の方は借金取りのようだ。

 

「ほ~ら証文だってちゃんとあるぜ」

 

そう言って親玉らしき男が、懐から証文を取り出す。

 

「このっ!よこせっ!」

 

少年は証文を奪い取ろうとするが…

 

「お~っと、そうはさせねェぜ」

 

「くそっ!」

 

逆に捕まってしまう。

 

「おい、ちょっと痛い目に遭わせてやれ」

 

「おい、やめろ!」

 

「「「「⁉」」」」

 

さすがに見過ごせなくなり、ゾロ達は止めに入る。

 

「子供相手に大人気無ェマネしてんじゃねェよ!」

 

「そうだ!そういうのは親に直接言えよ!」

 

「弱い者イジメする奴は許さなぞ!」

 

「何だてめェら?」

 

「通りすがりの大食い修行者だ!」

 

「いや、それは…」

 

「お前だけだろ…」

 

「へん!大食いだが何だか知らねェが、余計なことに首突っ込むと怪我するぞ!」

 

「そうだ!とっとと帰れチビ!」

 

「…チビ?」

 

その瞬間、許緒の雰囲気が変わる。

 

「そうだチ~ビ!」

 

「…チビって…誰のこと?」

 

「あ?そこの桃色の髪の奴、お前に決まってんだろ!」

 

「…そうか…ボクのことか」

 

許緒の身体から、どす黒いオーラのようなものが溢れ出す。

 

「お前以外に誰がいるんだよチ~ビ!」

 

「…ボクのこと…チビって言ったな?」

 

「「「?」」」

 

借金取りの方も、ようやく許緒の様子がおかしいことに気付く。

 

「チビって…言ったな…⁉」

 

「い、言ったら何だよ⁉」

 

「ぶっ潰す!だあァァーーーっ!」

 

そう叫ぶと許緒はどこからか、(とげ)付きの巨大な鉄球とハンマーが鎖でつながった、けん玉のような武器、ガンダ…ではなく“岩打武反魔(いわだむはんま)”を取り出し、放り投げる!

 

「そ、そんなのどっから出したァーーー⁉」

 

「でえェェーーーい!」

 

ドゴォン!

 

借金取りたちの目の前に叩きつけられた鉄球は、地面に大きくめり込む。

さらに衝撃で周囲の建物が崩れた。

 

「…………」

 

「「「ひっ…」」」

 

許緒は邪悪なオーラを出したまま、無言で借金取り達を睨みつける。

その目は口よりも雄弁に語っていた。

『次は当てる』と。

 

「に、逃げろーーーっ!」

 

親玉がそう叫ぶと同時に、借金取り達は少年をその場に放り投げ、逃げて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツら本当にずるいんだ…」

 

その後、ゾロ達は歩きながら少年から事情を聞いた。

 

「いつの間にかヘンな証文を作って、借りた金額が何倍も大きくなってたり、『返すのに時間がかかった分だ』とか言って、もっと金を返させたり…皆困ってるんだ。

今回だって、借りたときは『今回は利子はいらない。借りた分だけ返せばいい』って、言ってたはずなのに…。

それで…『返せないなら、代わりに姉ちゃんをよこせ』って…」

 

「ひどい連中だな!」

 

「くそォ、そうと知ってたらマジでぶっ潰してやったのに…!」

 

話を聞いて、翠と許緒は怒り出す。

 

「ゆ…許せねェ…!」

 

ゾロにいたっては拳を握り、全身を震わせて怒りを表している。

 

「な、なんか…随分怒ってるな、ゾロ」

 

「他人事とは思えねェんだよ…!」

 

―――――貸すわよ。利子3倍ね

 

―――――あんた“約束”の一つも守れないの?

 

「ああ…!今思い出しても腹が立つ…!」

 

(な…何があったんだ?)

 

気にはなったが、翠はそれ以上聞かないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく行くとゾロ達は、1本の大きな杉の木の下にある、少年の家にたどり着いた。

 

「姉ちゃんただいま」

 

「おかえりなさい。あら?」

 

家の中で仕事をしていた、少年の姉が出迎えた。

 

「その人達は?」

 

 

 

 

 

 

「そうだったのですか。弟の危ないところを助けていただき、本当にありがとうございます」

 

少年から話を聞いた姉は、お礼を言ってゾロ達に頭を下げる。

 

どうやら両親はすでに他界し、この姉弟は2人だけで暮らしているらしい。

 

「姉ちゃん、この人達、旅の途中なんだって。

まだ宿は決まっていないみたいだから、お礼に今晩、ウチに泊まってもらおうと思うんだけど」

 

「そうね。是非、泊って行ってください」

 

「そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

 

「ありがとうな」

 

「じゃあ、宿代としてこれ…」

 

そう言って許緒は、大食い大会の賞金を取り出す。

 

「いいえ!そんなことをしていただく訳には…」

 

しかし、姉はそう言って断る。

 

「え~、何でだよ姉ちゃん。このお金があれば、借金ももう少し返せるのに」

 

「何言ってるんですか!

この人達に泊まってもらうのは、あなたを助けてもらったお礼としてなのですよ!

それなのに宿代などを貰っては、お礼にならないでしょう!

そもそも、あなたが軽はずみなことをしなければ…」

 

「…………」

 

姉が弟に説教する様子を、翠は食い入るように見つめていた。

 

「どうした翠?」

 

「あ、いや…ちょっと妹達のこと思い出して…(あいつら、今頃どうしてるのかな?)」

 

もうすぐ会える、自分の妹達を想う翠だった。

 

 

 




今作では、許緒と張遼が初登場する話と、愛紗と鈴々がケンカする話は、別々にすることにしました。


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