ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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タイトルの通り、あの子が登場する回です。




第23話 “はわわ”

山道を歩いていくルフィ、愛紗、鈴々。

その後ろから、少し距離を置いて歩いて来る星。

4人の間には気まずい空気が流れ、星の顔は明らかに不機嫌だった。

 

「なァ、星…まだ怒っているのか?」

 

「…怒っているのではない。ひどく不機嫌なだけだ」

 

「…やっぱり怒っているではないか…」

 

何故このようなことになっているのか?

ことの始まりは少し前、昼食時のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食時―――

 

ルフィ達一行は、一軒のラーメン屋で食事をしていた。

 

『美味かった~!』

 

『ごちそうさま~なのだ~!』

 

『あ~美味しかった!』

 

ルフィは満腹ではないが、路銀の都合上、1人1杯までと強く言われているため、1杯で食事を止める。

 

『あれ?』

 

…と、ここで鈴々が(かわや)に行った星のラーメンのどんぶりを見る。

 

『星、メンマ残しているのだ』

 

『ここのメンマ美味しいのにもったいない…』

 

『じゃあ、おれが食う!』

 

『鈴々も食べるのだ!』

 

『では私も』

 

そう言って3人は星が残したメンマを全て食べた。

 

しかし、これがいけなかった。

 

少しして、厠から星が戻ってきた。

 

『ぬあァ~~~~~⁉』

 

空っぽになった自分のどんぶりを見て、星は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

『むゥ………!』

 

『『『⁉』』』

 

そしてメンマを食べた犯人3名を、無言で睨むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、星はずっとご機嫌斜めなのである。

 

「星!お主が厠に言っている間に、お主のメンマを食べてしまったことは謝る!この通り!」

 

「…………」

 

愛紗は手を合わせて謝るが、星は何も言わない。

 

「残っていたから、てっきり嫌いなんだと思って…!な!」

 

「あ、ああ…」

 

「うんうん!」

 

「…逆だ」

 

「「「…!」」」

 

「…大好物だったから、最後に食べようと思って…大事にとっておいたのだ…」

 

「「「…………」」」

 

食べ物の恨みは恐ろしい…。

 

「ルフィ殿が食い意地張ったことするからですぞ!」

 

「そうなのだ!」

 

「お前らだって食ったじゃねェか!」

 

「だからそれは…」

 

「メンマ…」

 

「「「⁉」」」

 

3人で罪の擦り付け合いをするが、星の嘆きと恨みが混ざったような呟きと、冷たい視線から理解する。

全員同罪だと。

 

「そ、そうだ!夕食にまた拉麺を食べよう!次は私のメンマをやるから!」

 

「り、鈴々のも食べていいのだ!」

 

「おれのもやるから!おれの肉も食っていいから!…1個だけ…」

 

何とか機嫌を直してもらうとする3人。

ルフィにいたっては、自分も好物を横取りされることで、痛み分けにしようと提案する。

 

「…人とメンマは一期一会…。どうやったところで、すでに失われたメンマは…もう戻ってこない…」

 

「「「…………」」」

 

しかし星はそれでよしとせず、嘆くようにそんなことを呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして―――

 

「分かれ道か~」

 

一行の前には2本に分かれた道があった。

 

「どっちに行ったものかな~…?」

 

「…………」

 

…と、愛紗は星に話しかけるが、星はそっぽを向いて返事をしない。

 

「こういう時は鈴々にお任せなのだ!」

 

そう言うと鈴々は、道の真ん中に蛇矛を突き立て、手を合わせる。

 

「むう~~~…!」

 

カタン

 

蛇矛が右の方に倒れた。

 

「こっちなのだ!」

 

「は~い!じゃあそっちにくぞ~…!」

 

愛紗はわざとらしく声を出して、星の方を見るが…

 

「…………」

 

やはり、無反応だった。

 

「…はァ…」

 

そして一行は気まずい空気のまま、右の道を進むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メンマ…」

 

「「「…………」」」

 

3人と星が少し距離を置いて進む。

しばらく行くと霧が出てきた。

 

「霧だな」

 

「どんどん濃くなってくるのだ」

 

「まったく()()がないな。…な~んちゃって~♪」

 

「…………」

 

愛紗は何とか空気を換えようとするが、星は全く反応しない。

 

「…はァ…」

 

「「…………」」

 

また少し進むと、霧はますます濃くなり、辺りは木や茂みが多くなってきた。

 

「…マズイな。ここまで霧が濃いと、道を外れても分からんぞ」

 

「お化けとかでるかな~?」

 

同じ様に霧に包まれていた、スリラーバークを思い出し、ルフィはそんなことを呟く。

 

「ひっ…⁉」

 

「る、ルフィ殿!変なことを言わないでください!

鈴々!離れるなよ!しっかり固まって歩くぞ!」

 

「わ、わかったのだ!……あれ?星はどこにいるのだ?」

 

「「え?」」

 

鈴々に言われ、ルフィと愛紗が後ろを振り返ると、星の姿が見えない。

 

「お~い!せ~い!」

 

「星!そこにいるのか?」

 

「星!いい加減、機嫌を直して、返事をしてくれ!」

 

しかし、何も聞こえない。

さらには、気配すら感じない。

 

「いかん!本当に逸れたようだ!」

 

「急いで探すぞ!」

 

「了解なのだ!」

 

そう言って3人は星に呼びかけながら、来た道を引き返す。

 

「お~い!せ~い⁉」

 

「どこだ~⁉」

 

「返事をするのだ~!」

 

しかし返事は返ってこない。

 

「星!聞こえていたら…きゃあ⁉」

 

「愛紗⁉」

 

「どうしたのだ⁉」

 

「ルフィ殿!鈴々!小さい崖になっているようです!気を付けて!」

 

どうやら愛紗は、足を滑らせて小さい崖に落ちてしまったようだ。

ルフィと鈴々は慎重に崖を下り、愛紗と合流する。

 

「愛紗!」

 

「大丈夫なのか⁉」

 

「なァに、これくらい…っ!」

 

「どうしたのだ⁉」

 

「おい!しっかりしろ!」

 

「ど、どうやら足を挫いたようです」

 

「ええ⁉」

 

「どうする?」

 

「下手に動くより、霧が止むのを待った方が良いでしょう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃星はというと…

 

「メンマ…」

 

いまだにメンマのことで頭が一杯だったため、ルフィ達の気配がないことにも気づかず、1人で歩いていたが…

 

「……あれ?」

 

徐々に霧が晴れ、視界が開けてくると同時に、3人と逸れてしまったことに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフィ達の方も、少しずつ霧が晴れてきた。

 

「だいぶ霧が晴れてきたな…」

 

「あ!あそこに家があるのだ!」

 

鈴々が指さした方を見ると、近くの小高い丘の上に一軒の屋敷があった。

 

「助かった…あそこで少し休ませてもらお…っ!」

 

愛紗は歩き出そうとするが、足の痛みでうずくまってしまう。

 

「愛紗!」

 

「おれがおぶってくよ」

 

「すみませんルフィ殿…」

 

ルフィは愛紗を背負い、鈴々が愛紗の偃月刀を持ち、家を目指すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人は鈴々が見つけた屋敷の門前に着いた。

 

「たのも~!たのも~なのだ~!」

 

「は~い」

 

鈴々が呼びかけると返事が聞こえ、少し門が開く。

 

ギィ…

 

すると中から、鈴々と同い年くらいの、ベレー帽のようなものを被った少女が現れた。

 

「はわわ⁉」

 

「“はわわ”?」

 

少女はそう叫ぶと、慌てて屋敷の奥へと走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はわわ~!“水鏡(すいきょう)”先生大変です~!」

 

少女は奥で、屋敷の主人らしき女性に事情を伝える。

 

「どうしたのですか“朱里(しゅり)”?」

 

「旅の方が訪ねて来られたのですが、怪我をしているようなんです!」

 

「え⁉それは大変ね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷の客室に案内されたルフィ達は、愛紗を寝台に寝かせ、屋敷の住人である2人に事情を説明した。

 

「そうですか。それは災難でしたね。この辺りでは、急に濃い霧が出ることがよくありまして…」

 

屋敷の主である、愛紗より少し年上の髪を結った女性が、そう言いながら愛紗の足に薬を塗った。

 

隣には、先ほど門を開けてくれた少女が、乳鉢を持って立っている。

 

「これでいいでしょう。怪我が治るまで、ここで休んでいくといいでしょう。

その間に、逸れた方が見つかるかもしれませんし」

 

「かたじけない…」

 

「私は“司馬徽(しばき)”、“水鏡”と号しております。この子は…」

 

「“諸葛亮(しょかつりょう)”、字を“孔明(こうめい)”といいます」

 

「朱里、後はお願いしていいかしら?」

 

「はい」

 

返事をすると孔明は、愛紗の足に包帯を巻き始める。

 

“朱里”というのは孔明の真名のようだ。

 

「…世話をかけるな…」

 

「いえ……はい、出来ましたよ」

 

「あら、上手に巻けたわね」

 

「はい!いっぱい練習しましたから」

 

「そう、偉いわね」

 

そう言って、朱里の頭をなでる水鏡。

 

「えへへ」

 

「…………」

 

その様子をじっと見る鈴々。

 

「ん?どうした鈴々?」

 

「べ、別に何でもないのだ!」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

「あの、水鏡殿…手当てをしていただけるのはありがたいですが…ここまでしなくても…」

 

包帯を巻いた後、愛紗は寝間着に着替え、上から足をつるして固定させられた。

 

「何を言っているのですか。骨が折れていなかったのが、幸運なくらいなのですよ。足を動かさないようにしないと…」

 

「医者がそう言うんだから、そうしないとダメだろ」

 

「ルフィ殿まで…しかし、これでは…その…厠にも…」

 

「その時は、おれがおぶってくよ」

 

「⁉さ、さすがにルフィ殿には…!」

 

「?」

 

「だったら鈴々がおぶっていくのだ」

 

「そんなことをしなくても大丈夫ですよ」

 

そう言うと、孔明は寝台の下から何かを取り出す。

 

「こ、孔明殿…それは…」

 

孔明が取り出したのは、いわゆる尿瓶(しびん)というやつだった。

ちなみに材質は陶器製である。

 

「大きい方のときは、こちらもありますから」

 

そう言って、さらにアヒルの頭が付いたオマルというものを取り出す。

 

「もよおされたら、遠慮なく言ってくださいね」

 

「え、ええ…?」

 

純真とは時に恐ろしいものである…。

 

「………むう」

 

「?」

 

その時ルフィは、鈴々が頬を膨らませているのを見て、不思議に思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜―――

 

ルフィ達は水鏡先生、朱里と一緒に食堂で食事をとることになった。

 

「すげ~!」

 

「これは美味そうだ!」

 

「美味しそうなのだ!」

 

円卓に並べられたたくさんの料理を見て、ルフィ達は驚く。

 

「今日の夕食は朱里が作ったんですよ」

 

「ほう、孔明殿は料理も作れるのか」

 

「すげェな、お前」

 

「お口に合うと良いのですが…」

 

「さァ、冷めないうちにいただきましょう」

 

「「「「「いただきまーす(なのだー!)」」」」」

 

「あむ…うめえ~!」

 

「うん!美味い!」

 

「美味しいのだ!」

 

「よかったです、気に入っていただけて」

 

「その年で、ここまでちゃんとした料理が作れるとは…。それに比べて鈴々は食べるばっかりで…」

 

「!り、鈴々だって料理ぐらい作れるのだ!」

 

「ほう、じゃあ何が作れるんだ?」

 

「う…おにぎりとか…おむすびとか…」

 

「ふふっ」

 

思わず朱里は笑い出した。

 

「それ、同じものじゃないですか…ふふふ」

 

「ふふふふふ…」

 

「ははははは…」

 

つられて皆も笑い出す。

 

「な、何でみんな笑うのだ~⁉」

 

「いいじゃねェか、それだけできりゃ。おれなんてもっとダメだぞ」

 

「ルフィ殿は作れるとしたら何ですか?」

 

「生肉」

 

「……できると思ってはいませんでしたが…ほ、本当に駄目なのですな…」

 

今度は思わず苦笑いをしてしまう愛紗だった。

 

「ああ。おれなんか本当にダメダメだぞ~。はっはっはっ」

 

「あははははは!」

 

「あむあむ…」

 

「…………」

 

ルフィと朱里は楽しそうに笑い、鈴々はいまだに不機嫌そうに食事をとり、水鏡はじっとルフィを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食後―――

 

(星の奴…無事だといいが…)

 

愛紗は星のことを心配し、寝台で寝ていた。

 

「あ~久しぶりのお風呂、気持ちよかったのだ~」

 

…と、そこへ鈴々が風呂から戻ってきた。

 

「なっ⁉」

 

風呂場から直接戻ってきたため、さすがに全裸ではないが、下着姿のままである。

 

「コラ!そんな格好でいては風邪をひくぞ!」

 

保護者らしく叱る愛紗。

 

「関羽さ~ん、お身体お拭きしますね~」

 

そこへぬるま湯を入れた、たらいと手拭いを持って朱里がやって来た。

 

「何から何まですまないな」

 

「良いですよこれくらい。困ったときはお互い様です。さ、服を脱いでください」

 

「あ…そ、その前に…」

 

「?」

 

「いや、その…所謂(いわゆる)一つの…生理現象が…」

 

「ああ、これですね」

 

そう言って朱里は先ほどの尿瓶を取り出す。

 

「あの…お気遣いは嬉しいのですが、それは…ちょっと…」

 

「あ!大きい方でしたか!」

 

何のためらいもなく大声で言、オマルを取り出そうとする朱里。

やはり純真とは時に恐ろしい…。

 

「あ、いえ…その…り、鈴々頼めるか?」

 

「!わかったのだ!」

 

鈴々は愛紗を背負おうとする。

 

「あの、それでしたら…ちょっと待ってて下さい」

 

そう言って部屋を出ていく朱里。

 

「「?」」

 

 

 

 

 

 

しばらくすると…

 

「おお!これは…!」

 

朱里が持ってきたのは、木製の車いすだった。

 

「足を怪我していても、移動できるように私が作ったんです」

 

「成程、これは便利ですな」

 

そして愛紗は車いすに乗り、朱里に連れられて厠へ行った。

 

「む~…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む~…」

 

「ん?お~い、どうした鈴々?」

 

鈴々が膨れながら屋敷の中庭を歩いていると、同じように中庭を歩いていたルフィが声をかけてきた。

 

「…くやしいのだ…!」

 

「ん?」

 

「孔明ばっかり…愛紗に…」

 

「できねェことはできねェんだから、しょうがねェだろ」

 

「でも…鈴々だって…愛紗に…!」

 

「だったらよ…孔明を助けてやればいいじゃねェか」

 

「どうしてそうなるのだ⁉」

 

「孔明が愛紗を助けるのを、鈴々が助けてやれば、鈴々も愛紗を助けてやれるだろ?」

 

「え…?」

 

「できることしかできねェんだから、できることで助けてやればいいんだよ」

 

「…………」

 

「じゃ、がんばれよ~!」

 

そう言ってルフィは去って行った。

 

「…愛紗を助ける」

 

実のところ、鈴々は愛紗を助けることより、自分が愛紗に褒められることで頭がいっぱいだった。

 

その夜、鈴々はその言葉がずっと頭から離れなかった。

 

「…………」

 

その様子を近くの物陰から、水鏡が見ていたことに、2人とも気付いていなかった。

 

 




今作の執筆にあたって、真・恋姫夢想 革命とアニメ版恋姫無双を何回か見直しているのですが、朱里の声があまりにも違うので、どうしても違和感がありますね…。


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