ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
山道を歩いていくルフィ、愛紗、鈴々。
その後ろから、少し距離を置いて歩いて来る星。
4人の間には気まずい空気が流れ、星の顔は明らかに不機嫌だった。
「なァ、星…まだ怒っているのか?」
「…怒っているのではない。ひどく不機嫌なだけだ」
「…やっぱり怒っているではないか…」
何故このようなことになっているのか?
ことの始まりは少し前、昼食時のことだった。
▽
昼食時―――
ルフィ達一行は、一軒のラーメン屋で食事をしていた。
『美味かった~!』
『ごちそうさま~なのだ~!』
『あ~美味しかった!』
ルフィは満腹ではないが、路銀の都合上、1人1杯までと強く言われているため、1杯で食事を止める。
『あれ?』
…と、ここで鈴々が
『星、メンマ残しているのだ』
『ここのメンマ美味しいのにもったいない…』
『じゃあ、おれが食う!』
『鈴々も食べるのだ!』
『では私も』
そう言って3人は星が残したメンマを全て食べた。
しかし、これがいけなかった。
少しして、厠から星が戻ってきた。
『ぬあァ~~~~~⁉』
空っぽになった自分のどんぶりを見て、星は顔を真っ赤にして叫ぶ。
『むゥ………!』
『『『⁉』』』
そしてメンマを食べた犯人3名を、無言で睨むのだった。
▽
それから、星はずっとご機嫌斜めなのである。
「星!お主が厠に言っている間に、お主のメンマを食べてしまったことは謝る!この通り!」
「…………」
愛紗は手を合わせて謝るが、星は何も言わない。
「残っていたから、てっきり嫌いなんだと思って…!な!」
「あ、ああ…」
「うんうん!」
「…逆だ」
「「「…!」」」
「…大好物だったから、最後に食べようと思って…大事にとっておいたのだ…」
「「「…………」」」
食べ物の恨みは恐ろしい…。
「ルフィ殿が食い意地張ったことするからですぞ!」
「そうなのだ!」
「お前らだって食ったじゃねェか!」
「だからそれは…」
「メンマ…」
「「「⁉」」」
3人で罪の擦り付け合いをするが、星の嘆きと恨みが混ざったような呟きと、冷たい視線から理解する。
全員同罪だと。
「そ、そうだ!夕食にまた拉麺を食べよう!次は私のメンマをやるから!」
「り、鈴々のも食べていいのだ!」
「おれのもやるから!おれの肉も食っていいから!…1個だけ…」
何とか機嫌を直してもらうとする3人。
ルフィにいたっては、自分も好物を横取りされることで、痛み分けにしようと提案する。
「…人とメンマは一期一会…。どうやったところで、すでに失われたメンマは…もう戻ってこない…」
「「「…………」」」
しかし星はそれでよしとせず、嘆くようにそんなことを呟くのだった。
▽
しばらくして―――
「分かれ道か~」
一行の前には2本に分かれた道があった。
「どっちに行ったものかな~…?」
「…………」
…と、愛紗は星に話しかけるが、星はそっぽを向いて返事をしない。
「こういう時は鈴々にお任せなのだ!」
そう言うと鈴々は、道の真ん中に蛇矛を突き立て、手を合わせる。
「むう~~~…!」
カタン
蛇矛が右の方に倒れた。
「こっちなのだ!」
「は~い!じゃあそっちにくぞ~…!」
愛紗はわざとらしく声を出して、星の方を見るが…
「…………」
やはり、無反応だった。
「…はァ…」
そして一行は気まずい空気のまま、右の道を進むのだった。
▽
「メンマ…」
「「「…………」」」
3人と星が少し距離を置いて進む。
しばらく行くと霧が出てきた。
「霧だな」
「どんどん濃くなってくるのだ」
「まったく
「…………」
愛紗は何とか空気を換えようとするが、星は全く反応しない。
「…はァ…」
「「…………」」
また少し進むと、霧はますます濃くなり、辺りは木や茂みが多くなってきた。
「…マズイな。ここまで霧が濃いと、道を外れても分からんぞ」
「お化けとかでるかな~?」
同じ様に霧に包まれていた、スリラーバークを思い出し、ルフィはそんなことを呟く。
「ひっ…⁉」
「る、ルフィ殿!変なことを言わないでください!
鈴々!離れるなよ!しっかり固まって歩くぞ!」
「わ、わかったのだ!……あれ?星はどこにいるのだ?」
「「え?」」
鈴々に言われ、ルフィと愛紗が後ろを振り返ると、星の姿が見えない。
「お~い!せ~い!」
「星!そこにいるのか?」
「星!いい加減、機嫌を直して、返事をしてくれ!」
しかし、何も聞こえない。
さらには、気配すら感じない。
「いかん!本当に逸れたようだ!」
「急いで探すぞ!」
「了解なのだ!」
そう言って3人は星に呼びかけながら、来た道を引き返す。
「お~い!せ~い⁉」
「どこだ~⁉」
「返事をするのだ~!」
しかし返事は返ってこない。
「星!聞こえていたら…きゃあ⁉」
「愛紗⁉」
「どうしたのだ⁉」
「ルフィ殿!鈴々!小さい崖になっているようです!気を付けて!」
どうやら愛紗は、足を滑らせて小さい崖に落ちてしまったようだ。
ルフィと鈴々は慎重に崖を下り、愛紗と合流する。
「愛紗!」
「大丈夫なのか⁉」
「なァに、これくらい…っ!」
「どうしたのだ⁉」
「おい!しっかりしろ!」
「ど、どうやら足を挫いたようです」
「ええ⁉」
「どうする?」
「下手に動くより、霧が止むのを待った方が良いでしょう…」
▽
一方、その頃星はというと…
「メンマ…」
いまだにメンマのことで頭が一杯だったため、ルフィ達の気配がないことにも気づかず、1人で歩いていたが…
「……あれ?」
徐々に霧が晴れ、視界が開けてくると同時に、3人と逸れてしまったことに気が付いた。
▽
ルフィ達の方も、少しずつ霧が晴れてきた。
「だいぶ霧が晴れてきたな…」
「あ!あそこに家があるのだ!」
鈴々が指さした方を見ると、近くの小高い丘の上に一軒の屋敷があった。
「助かった…あそこで少し休ませてもらお…っ!」
愛紗は歩き出そうとするが、足の痛みでうずくまってしまう。
「愛紗!」
「おれがおぶってくよ」
「すみませんルフィ殿…」
ルフィは愛紗を背負い、鈴々が愛紗の偃月刀を持ち、家を目指すのだった。
▽
3人は鈴々が見つけた屋敷の門前に着いた。
「たのも~!たのも~なのだ~!」
「は~い」
鈴々が呼びかけると返事が聞こえ、少し門が開く。
ギィ…
すると中から、鈴々と同い年くらいの、ベレー帽のようなものを被った少女が現れた。
「はわわ⁉」
「“はわわ”?」
少女はそう叫ぶと、慌てて屋敷の奥へと走って行った。
▽
「はわわ~!“
少女は奥で、屋敷の主人らしき女性に事情を伝える。
「どうしたのですか“
「旅の方が訪ねて来られたのですが、怪我をしているようなんです!」
「え⁉それは大変ね!」
▽
屋敷の客室に案内されたルフィ達は、愛紗を寝台に寝かせ、屋敷の住人である2人に事情を説明した。
「そうですか。それは災難でしたね。この辺りでは、急に濃い霧が出ることがよくありまして…」
屋敷の主である、愛紗より少し年上の髪を結った女性が、そう言いながら愛紗の足に薬を塗った。
隣には、先ほど門を開けてくれた少女が、乳鉢を持って立っている。
「これでいいでしょう。怪我が治るまで、ここで休んでいくといいでしょう。
その間に、逸れた方が見つかるかもしれませんし」
「かたじけない…」
「私は“
「“
「朱里、後はお願いしていいかしら?」
「はい」
返事をすると孔明は、愛紗の足に包帯を巻き始める。
“朱里”というのは孔明の真名のようだ。
「…世話をかけるな…」
「いえ……はい、出来ましたよ」
「あら、上手に巻けたわね」
「はい!いっぱい練習しましたから」
「そう、偉いわね」
そう言って、朱里の頭をなでる水鏡。
「えへへ」
「…………」
その様子をじっと見る鈴々。
「ん?どうした鈴々?」
「べ、別に何でもないのだ!」
「?」
▽
「あの、水鏡殿…手当てをしていただけるのはありがたいですが…ここまでしなくても…」
包帯を巻いた後、愛紗は寝間着に着替え、上から足をつるして固定させられた。
「何を言っているのですか。骨が折れていなかったのが、幸運なくらいなのですよ。足を動かさないようにしないと…」
「医者がそう言うんだから、そうしないとダメだろ」
「ルフィ殿まで…しかし、これでは…その…厠にも…」
「その時は、おれがおぶってくよ」
「⁉さ、さすがにルフィ殿には…!」
「?」
「だったら鈴々がおぶっていくのだ」
「そんなことをしなくても大丈夫ですよ」
そう言うと、孔明は寝台の下から何かを取り出す。
「こ、孔明殿…それは…」
孔明が取り出したのは、いわゆる
ちなみに材質は陶器製である。
「大きい方のときは、こちらもありますから」
そう言って、さらにアヒルの頭が付いたオマルというものを取り出す。
「もよおされたら、遠慮なく言ってくださいね」
「え、ええ…?」
純真とは時に恐ろしいものである…。
「………むう」
「?」
その時ルフィは、鈴々が頬を膨らませているのを見て、不思議に思った。
▽
その夜―――
ルフィ達は水鏡先生、朱里と一緒に食堂で食事をとることになった。
「すげ~!」
「これは美味そうだ!」
「美味しそうなのだ!」
円卓に並べられたたくさんの料理を見て、ルフィ達は驚く。
「今日の夕食は朱里が作ったんですよ」
「ほう、孔明殿は料理も作れるのか」
「すげェな、お前」
「お口に合うと良いのですが…」
「さァ、冷めないうちにいただきましょう」
「「「「「いただきまーす(なのだー!)」」」」」
「あむ…うめえ~!」
「うん!美味い!」
「美味しいのだ!」
「よかったです、気に入っていただけて」
「その年で、ここまでちゃんとした料理が作れるとは…。それに比べて鈴々は食べるばっかりで…」
「!り、鈴々だって料理ぐらい作れるのだ!」
「ほう、じゃあ何が作れるんだ?」
「う…おにぎりとか…おむすびとか…」
「ふふっ」
思わず朱里は笑い出した。
「それ、同じものじゃないですか…ふふふ」
「ふふふふふ…」
「ははははは…」
つられて皆も笑い出す。
「な、何でみんな笑うのだ~⁉」
「いいじゃねェか、それだけできりゃ。おれなんてもっとダメだぞ」
「ルフィ殿は作れるとしたら何ですか?」
「生肉」
「……できると思ってはいませんでしたが…ほ、本当に駄目なのですな…」
今度は思わず苦笑いをしてしまう愛紗だった。
「ああ。おれなんか本当にダメダメだぞ~。はっはっはっ」
「あははははは!」
「あむあむ…」
「…………」
ルフィと朱里は楽しそうに笑い、鈴々はいまだに不機嫌そうに食事をとり、水鏡はじっとルフィを見ていた。
▽
夕食後―――
(星の奴…無事だといいが…)
愛紗は星のことを心配し、寝台で寝ていた。
「あ~久しぶりのお風呂、気持ちよかったのだ~」
…と、そこへ鈴々が風呂から戻ってきた。
「なっ⁉」
風呂場から直接戻ってきたため、さすがに全裸ではないが、下着姿のままである。
「コラ!そんな格好でいては風邪をひくぞ!」
保護者らしく叱る愛紗。
「関羽さ~ん、お身体お拭きしますね~」
そこへぬるま湯を入れた、たらいと手拭いを持って朱里がやって来た。
「何から何まですまないな」
「良いですよこれくらい。困ったときはお互い様です。さ、服を脱いでください」
「あ…そ、その前に…」
「?」
「いや、その…
「ああ、これですね」
そう言って朱里は先ほどの尿瓶を取り出す。
「あの…お気遣いは嬉しいのですが、それは…ちょっと…」
「あ!大きい方でしたか!」
何のためらいもなく大声で言、オマルを取り出そうとする朱里。
やはり純真とは時に恐ろしい…。
「あ、いえ…その…り、鈴々頼めるか?」
「!わかったのだ!」
鈴々は愛紗を背負おうとする。
「あの、それでしたら…ちょっと待ってて下さい」
そう言って部屋を出ていく朱里。
「「?」」
▽
しばらくすると…
「おお!これは…!」
朱里が持ってきたのは、木製の車いすだった。
「足を怪我していても、移動できるように私が作ったんです」
「成程、これは便利ですな」
そして愛紗は車いすに乗り、朱里に連れられて厠へ行った。
「む~…」
▽
「む~…」
「ん?お~い、どうした鈴々?」
鈴々が膨れながら屋敷の中庭を歩いていると、同じように中庭を歩いていたルフィが声をかけてきた。
「…くやしいのだ…!」
「ん?」
「孔明ばっかり…愛紗に…」
「できねェことはできねェんだから、しょうがねェだろ」
「でも…鈴々だって…愛紗に…!」
「だったらよ…孔明を助けてやればいいじゃねェか」
「どうしてそうなるのだ⁉」
「孔明が愛紗を助けるのを、鈴々が助けてやれば、鈴々も愛紗を助けてやれるだろ?」
「え…?」
「できることしかできねェんだから、できることで助けてやればいいんだよ」
「…………」
「じゃ、がんばれよ~!」
そう言ってルフィは去って行った。
「…愛紗を助ける」
実のところ、鈴々は愛紗を助けることより、自分が愛紗に褒められることで頭がいっぱいだった。
その夜、鈴々はその言葉がずっと頭から離れなかった。
「…………」
その様子を近くの物陰から、水鏡が見ていたことに、2人とも気付いていなかった。
今作の執筆にあたって、真・恋姫夢想 革命とアニメ版恋姫無双を何回か見直しているのですが、朱里の声があまりにも違うので、どうしても違和感がありますね…。