ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第24話 “伏龍飛び立つ”

翌日―――

 

屋敷の庭にある円卓で、孔明は勉強をしていた。

 

「子曰く、学びて時に之を習う…」

 

その近くの建物の屋根で、鈴々は寝っ転がっていた。

最初は昼寝をするつもりだったのだが、昨夜のルフィとのやり取りが頭から離れず、眠れなかった。

 

(愛紗を助ける…)

 

 

 

 

 

 

「水鏡殿、孔明殿は本当にいい子ですね」

 

孔明が勉強している様子を、水鏡先生に塗り薬と包帯を変えてもらいながら、愛紗は見ていた。

 

「素直で賢くて、学問に熱心で、ちゃんとお手伝いもする」

 

「張飛ちゃんだっていい子じゃないですか」

 

「いやァ…鈴々は全然…」

 

「元気で明るくて、とってもお母さん思いで…」

 

「は?お母さん?」

 

「え?違うのですか?私はてっきり、張飛ちゃんは関羽さんとルフィさんの子供なのかと…」

 

「ち、違います!私達三人は義兄妹の契りを結んだものでして!

鈴々は子供ではありませんし、私とルフィ殿もそんな関係ではありませんし!

何でそんな勘違いを⁉

そもそも私は、あんな大きな子供がいる年齢ではないですし、子供を作るような行為はまだ一度も…!」

 

「ああ…!わかりました!わかりましたから落ち着いて!」

 

手をばたばたさせ、必死に否定する愛紗。

このままでは何かの拍子に足が悪化しかねないと思い、水鏡は懸命に愛紗をなだめた。

 

「でも…だとしたら、私は皆さんが羨ましいです」

 

「え?」

 

「あの子…朱里は、幼い頃に両親を失い、姉妹と一緒に、親戚の間をたらい回しにされていたんです。

その内に、姉妹とは離れ離れになり…その後、しばらくは私の師匠に当たる人のところに預けられていたのですが…。

師匠も亡くなって、こうして私と一緒に暮らしているんです」

 

「そうだったのですか…」

 

「関羽さんの言う通り、あの子は本当にいい子です。

聞き分けがよくて、我儘も言いません。

でも私には、それがあの子が辛い境遇の中で、自然と身についてしまった、悲しい性に思えるんです…」

 

「水鏡殿…」

 

「張飛ちゃん、とても二人に甘えてるでしょう?」

 

「!」

 

「血の繫がっていない義兄妹(きょうだい)で、そこまで心を開いているのが、私にはとても羨ましいの…」

 

「…………」

 

「愛紗~!」

 

「「!」」

 

ルフィが部屋に入って来た。

 

「足、大丈夫か?」

 

「今、薬を変え終わったところよ」

 

「そうか…本当にありがとうな。愛紗の足が治ったら、何か礼させてくれよ」

 

「お礼なんていいですよ。困ったときはお互い様ですから」

 

「いいえ、ルフィ殿の言う通りです。何かお礼をさせて下さい。でないと、私の気が済みません」

 

「そうですか…。では、怪我が治ったら、あの子…朱里を一緒に旅に、連れて行ってあげてもらえないでしょうか?」

 

「え?」

 

「あの子はとても学問に興味があり、それを世の中の役に立てたいと思っております。そのために旅をして、見聞を広めたいとも思っております。

私もあの子ぐらいの時に、見聞を広めるために旅をしていたので、あの子にも同じ様にさせてあげたいと思っているのです。

けれど、最近の世の中は物騒で、いくらあの子がしっかりしていても、あの年で一人旅というのは、あまりにも危ないので…。

本当は、私が一緒に旅に出られればいいのですが、私にはここでの仕事もあります。

だから、あの子も遠慮して言い出せずにいるんです…。

どうか、連れて行ってあげてもらえないでしょうか?」

 

「…水鏡殿はよろしいのですか?」

 

「…確かに、あの子が出ていけば、ここは寂しくなります。

でも、『旅に出たい』というのは、あの子が私に言った唯一の我儘。

家族として、その願いを叶えてあげたいのです」

 

「でも、それは無理だぞ」

 

「え?」

 

「ルフィ殿?」

 

「そういうのは、アイツが自分で行くって言わねえと…オバハンが…」

 

 

 

 

 

 

「…おまえがふれへいっへほひくても、おれはひはつれてけねェほ(お前が連れ行てって欲しくても、おれ達は連れてけねェぞ)…」

 

「…確かに、その通りです。あの子も皆さんに遠慮して、残るかもしれませんしね…」

 

(私ハ何モ見テイナイ私ハ何モ見テイナイ私ハ何モ見テイナイ私ハ何モ…)

 

何故かボロボロになったルフィの横で、青ざめ、ガタガタと震えながら、必死に現実逃避をする愛紗の姿があった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜―――

 

「ほう…水鏡殿が作る薬は、そんなによく効くのか」

 

「はい。ですから麓の村の人に頼まれて、薬を届けに行くこともあるんですよ」

 

愛紗は身体を拭きに来た、朱里と話していた。

 

「私、先生みたいに沢山の人の役に立てるようになりたいんです。でも、そのためにはもっと色々なことを学ばないと、って思って…」

 

「そうなのですか。孔明殿は本当にいい子ですな」

 

そう言って朱里の頭をなでる愛紗。

 

「ああっ!失礼!水鏡殿がしていたものだからつい…」

 

「いえ。私、なでなでされるの好きですから」

 

「そうですか…」

 

「実は…水鏡先生は私ぐらいの年の頃から、旅に出て見聞を広めていたそうなんです」

 

「!」

 

その言葉を聞いて、愛紗は昼間の話を思い出した。

 

「それで…先生みたいになるために、私もいつか旅に出て見聞を広めたいと思っているんです」

 

「そうなのですか…良ければ、私達と一緒に来ませんか?」

 

さりげなく誘ってみる愛紗。

 

「いいえ。私には先生のお手伝いがありますし、関羽さん達にご迷惑を掛けるワケにはいきませんから…。

それに、今は何かと物騒ですし、世の中が平和になって、私がもっと大きくなって、先生にお世話になった恩返しをして…私が旅に出るのはそれからです…」

 

「…そうですか…(ルフィ殿の言う通り…孔明殿が一緒に行きたいと言う、きっかけが必要だな…)」

 

愛紗と朱里がそんなやり取りをしている様子を、扉の隙間から鈴々が見ていた。

 

「…………」

 

しかしその表情は、昨日のようなふくれっ面ではなく、様々な感情が入り混じった複雑なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフィ達が水鏡先生の屋敷を訪ねてから、3日が経った。

 

「湿布をしてからもう三日になるのに、なかなか腫れが引かないわね…」

 

ルフィ達4人は愛紗の足の様子を診ていた。

 

「こんな時、サロンパ草があればいいのだけれど…」

 

「“さろんぱそう”って何なのだ?」

 

「こうした腫れに、とても良く効く薬草よ。白い小さな花が咲く草で、その葉をすりつぶして使うの」

 

「でしたら先生!私がサロンパ草を採ってきます!」

 

「でも、サロンパ草が生えているのは随分と山の奥よ」

 

「大丈夫です!何度か先生と行ったところだから、場所は覚えていますし…」

 

「そうね…私が一緒に行ければいいのだけど、今日は麓の村に薬を届けに行かないといけないし…」

 

「じゃあ、おれが一緒に行くよ」

 

「いえ、ルフィ殿が一緒だと却って足を引っ張ります」

 

ハッキリと言い切る愛紗だった。

 

「お願いします先生!行かせてください!」

 

「…わかったわ。それじゃあ朱里、お願いできるかしら?」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷を出発し、山道を進む朱里。

その後を、小さな人影がつけていた。

鈴々である。

 

(あいつにだけいいカッコはさせないのだ。

こうやって後をつけて、あいつが採った薬草を横取り…じゃなくて!

薬草が生えている場所に着いたら、鈴々が先に摘んで、一足早く持って帰るのだ。

そうすれば愛紗に…

 

 

 

 

 

『愛紗!サロンパ草なのだ!』

 

『おお!偉いぞ鈴々!さすが私の妹だ!』

 

 

 

 

 

…えへへ♪)

 

愛紗に褒められる自分の姿を想像し、思わず顔がにやける鈴々。

 

「はわっ⁉」

 

「⁉」

 

前方で朱里の悲鳴が聞こえ、前を見てみると朱里が転んでいた。

 

「あう~…どうして何もないところで、転んでしまうのでしょう…」

 

全くもって不思議である。

 

(何もないところで転ぶなんて、とんだドジなのだ。

あいつ足も遅いし、これならあいつが薬草を摘んだ後からでも、余裕で先回りできるのだ)

 

自身の勝利を確信し、にやける鈴々。

 

しかし…

 

―――――孔明が愛紗を助けるのを、鈴々が助けてやれば、鈴々も愛紗を助けてやれるだろ?

 

「!」

 

不意にルフィの言葉を思い出し、うつむくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく行くと、吊り橋がかかっている谷川についた。

 

「うう…」

 

下を見て思わず足がすくんでしまう朱里。

 

(何をぐずぐずしているのだ?

そうか!あいつきっと高いところが苦手なのだ。だから怖くて吊り橋が渡れないのだ)

 

「先生と一緒に来たときは、いつも手を引いてもらっていたけど…。でも、関羽さんのためだもの!頑張らなくちゃ!」

 

そう言って朱里は吊り橋を渡り始める。

 

「うう…頑張らなくちゃ…」

 

橋をかけている縄に捕まりながら、少しずつ進んでいく朱里。

 

(…吊り橋を渡るのにいつまでかかっているのだ…?)

 

「あっ!」

 

(?あいつ急に立ち止まってどうしたのだ?…あっ!)

 

よく見ると、吊り橋の真ん中あたりで、踏み板の一部が抜け落ちていた。

 

「怖くない…怖くない…」

 

(ああ~…!)

 

朱里は必死に足を伸ばして、板が抜けた部分を渡る。

 

「はふ~…」

 

時間はかかったが、朱里は無事吊り橋を渡り終わった。

 

(はァ~よかった…。やっと終わったのだ~…)

 

この時、鈴々は自分でも気づかぬうちに朱里を心配し、無事渡り切ったことに安堵していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~…」

 

それから朱里は、またしばらく山道を進み…

 

「あ!あった!」

 

ついにサロンパ草を見つけた。

 

「でも…」

 

しかし、サロンパ草があったのはそそり立つ絶壁の中腹だった。

 

(あいつ高いところが怖いし、体力もないから、あそこまで登るのは無理なのだ。

あいつがあきらめて帰ったら、鈴々がサロンパ草を摘んで帰るのだ)

 

隠れて様子を見ていた鈴々はそう思う。

 

確かに、サロンパ草が生えているところまで登るのは、朱里には厳しいだろう。

 

しかし…

 

「よいしょっ…!」

 

(あ!)

 

朱里は崖を登り始めた。

 

「よいしょっ…んしょ…はわっ⁉」

 

足を滑らせて、落ちそうになる朱里。

 

(ど、どうせ途中で怖くなって、帰るに決まっているのだ…)

 

「よい…しょっ!…あ!はわわ~⁉」

 

思わず下を見て怖くなり、大きくよろめいてしまう朱里。

 

(あ!危ないのだ!)

 

「はァ…はァ…よいしょ…」

 

何とか体勢を整え、再び登りだす。

 

(な、何でなのだ?何であいつ、あんなに頑張るのだ?高いところ怖いくせに…どうしてあんなに…一生懸命…)

 

―――――私、先生みたいにいろんな人の役に立てるようになりたいんです

 

(愛紗の…役に立ちたいから?…愛紗のために…)

 

―――――孔明を助けてやればいいじゃねェか

 

「…………」

 

「もう…少し…」

 

朱里がサロンパ草に手を伸ばし、つかもうとしたその時―――

 

バキッ

 

「あっ⁉」

 

「あっ!」

 

朱里が足場にしていた岩が崩れた。

 

「はわ~~~っ⁉」

 

まっさかさまに落ちていく朱里!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ!

 

「はわわ~~~……あれ?」

 

急に落下が止まり、朱里が下を見ると…

 

「んぎぎぎ~~~…」

 

「張飛ちゃん⁉」

 

鈴々が朱里を受け止めていた。

 

 

 

 

 

 

鈴々は朱里を地面に下ろした。

 

「どうしてここに?」

 

「ど、どうしてって…た、たまたま通りかかったのだ!」

 

そっぽを向きながらそう答える鈴々。

 

「こんな山の中をたまたま?…もしかして私の後を…」

 

「そ、そんなことより早くサロンパ草を摘むのだ!」

 

必死でごまかす鈴々。

 

「鈴々が採ってくるから、お前はここで待ってるのだ!」

 

そう言って崖を登る鈴々。

 

「よっ…ほっ…はっ…」

 

「…………」

 

その様子を朱里は、心配そうに見上げる。

 

しかし、鈴々は軽々と崖を登り、サロンパ草を採って降りてきた。

 

「ほらなのだ」

 

「え?」

 

鈴々はサロンパ草を朱里に差し出した。

 

「でもこれは張飛ちゃんが…」

 

「鈴々は手伝っただけなのだ!お前の方が頑張ったんだから、これはお前が愛紗に持っていくのだ!」

 

またもやそっぽを向いてそう言う鈴々。

 

(それにコレは…愛紗を助けるためにやったことで、鈴々がほめられるためにやったことじゃないから…だからコレでいいのだ…)

 

「…張飛ちゃん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、2人は一緒に山を下りて行った。

吊り橋のところまで戻ったとき、朱里がまた怖がって、立ち止まるの見た鈴々は…

 

「ほら…一緒に渡ってあげるから、さっさと来るのだ」

 

手をつないで、一緒に渡ってあげた。

 

吊り橋を渡り終わってからしばらくして…

 

「張飛ちゃんって優しいんですね」

 

「な、何を言っているのだ!お前が…あ」

 

…と、そこで鈴々は吊り橋から、ずっと朱里と手を繋いでいたことに気付き、慌て手を放した。

 

「お前がぐずぐずしているから、仕方がなかっただけで…鈴々は別に優しくなんかないのだ!」

 

またまた、そっぽを向きながらそう言う鈴々。

 

「あの…張飛ちゃん!」

 

「?」

 

「私…張飛ちゃんのこと、真名で“鈴々ちゃん”って呼んでもいいですか?」

 

「なっ⁉………お、お前がそうしたければ、好きにすればいいのだ!

でも、鈴々はお前のこと、真名で呼んだりなんかしないのだ!

それでもいいなら、勝手にすればいいのだ!」

 

「はい!鈴々ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい朱里」

 

屋敷に帰ってきた2人を、先に戻っていた水鏡が出迎えた。

 

「水鏡先生!サロンパ草です!」

 

「まあ!一人で採ってこれたのね!」

 

「いいえ!」

 

「え?」

 

そこで朱里は、鈴々の手を取り…

 

「鈴々ちゃんが手伝ってくれたんです!」

 

「まァ、そうだったの…」

 

「………っ」

 

鈴々は照れ臭そうに、俯くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その夜~

 

「これで良し」

 

2人が採ってきたサロンパ草で早速薬を作り、愛紗の足に塗った。

 

「たぶん、明日のお昼にはもう歩けるようになっていますよ」

 

「そんなに良く効くのですか?」

 

「ええ」

 

「そうですか。孔明殿、わざわざ採ってきてくれて、ありがとうございます」

 

「いいえ」

 

「それから…鈴々も」

 

「!」

 

「孔明殿から聞いたぞ。よくやったな」

 

「……り、鈴々は愛紗の妹なのだから当然なのだ!」

 

「ふふ…」

 

「あはは…」

 

「にしし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

「すっかり腫れが引きましたね。もう歩いても大丈夫でしょう」

 

「よかったな愛紗」

 

「でも、大事をとって今日一日はまだ休んだ方が良いでしょうね」

 

「そうですか。それではルフィ殿、鈴々。明日には出発するから、今日の内に支度を終えておくのだぞ」

 

「ああ」

 

「わかったのだ」

 

「…………」

 

その時、一緒にいた朱里の顔が少し曇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鈴々ちゃん…明日出て行っちゃうんですね…」

 

鈴々が支度をしていると、部屋の入り口から様子を見ていた朱里が、話しかけてきた。

 

「うん!愛紗の足が治ったから、もうここにいる理由はないのだ」

 

「そうですよね…」

 

「?(孔明?)」

 

(せっかく、仲良くなれたと思ったのに…)

 

「…………」

 

「…………」

 

朱里が淋しそうな顔をしているのに気付いた鈴々は、しばらく黙っていたが、やがて顔をあげ…

 

「…孔明、一緒に来るか?」

 

「え?」

 

「こ、孔明には、愛紗を助けてもらったから…孔明が一緒に来たいっていうなら、鈴々が愛紗達に頼んであげるのだ!」

 

「…いいんですか?」

 

「鈴々は別に構わないのだ!“旅は道ずれ世は”…“世は情けない”って言うし!」

 

「…ふふっ…!“世は情け”ですよ。…ありがとう鈴々ちゃん。私、鈴々ちゃん達と一緒に行きたい!」

 

「!わかったのだ!じゃあすぐに鈴々が…」

 

「ううん。私が自分でお願いするよ」

 

「そ、そうなのか?…で、でも孔明一人だと心配だから、やっぱり鈴々も一緒にお願いするのだ!」

 

「鈴々ちゃん…うん!一緒にお願いしよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いします!私も旅のお供にくわえて下さい!」

 

「鈴々からもお願いするのだ!」

 

「……関羽さん。朱里のこと、お願いしてもいいでしょうか?」

 

「……わかりました。孔明殿、一緒に行きましょう」

 

「水鏡先生!関羽さん!ありがとうございます!」

 

「よかったのだ!孔明!」

 

「うん!鈴々ちゃんもありがとう!」

 

そう言って、手を取って喜ぶ二人。

 

(まさか、鈴々が孔明殿に言わせてしまうとはな…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その夜~

 

「では水鏡殿、本当によろしいのですね」

 

「ええ。朱里のこと、どうぞよろしくお願いします」

 

「わかりました。この関雲長、諸葛孔明殿を責任もってお預かりします!」

 

「はい、ありがとうございます。…それにしても、あの子は恵まれていますね」

 

「え?」

 

「ここ数日、関羽さん達の様子を見て、私は朱里には是非とも、あなた達と一緒に行って欲しいと、そう思っていました」

 

「それは…どうして?」

 

「関羽さん、あなたと張飛ちゃんも、まだ気が付いていないのでしょうけど…ルフィさんと出会えたことは、本当に幸運なことだと、私は思いますよ」

 

「ルフィ殿が?」

 

管仲(かんちゅう)の聖と隰朋(しゅうほう)の智とをもってして、その知らざるところに至りては、老馬と蟻とを師とするを(かたし)とせず」

 

「え?」

 

「彼は自分の力不足を知り、優れた者の力を頼り、自分は自分で、可能な限りの力を尽くそうとすることができる人物だと、私は感じました」

 

「しかし水鏡殿、彼はそれを書物で学んだわけでは…」

 

「ええ、だからこそです」

 

「?」

 

「彼は書物を読むような人ではないでしょうから、別の方法で学んだのでしょう。

他者から直接聞いたのか、自分自身で考えたのか。

どちらにせよ書で学ぶことより、難しいことです」

 

「!」

 

「ましてや彼は、それを覚え披露するための知識ではなく、自身が生きるための知恵として使っています。

これほどのことができる人物は、そうそういません」

 

「…………」

 

「今はまだ、彼はその器を生かすための、人員や力が足りないようですが、一度それを手に入れれば、たちまち世界を大きく揺るがす人物になる。

私はそう考えています」

 

「水鏡殿…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌朝~

 

別れの挨拶を済ませ、ルフィ、愛紗、鈴々、そして朱里は出発した。

すでに水鏡の屋敷は、かなり小さくなっている。

 

「水鏡先せ~い!お元気で~!」

 

「孔明、ここからじゃ聞こえないのだ」

 

「…でも、もう当分会えないから…」

 

「じゃ、じゃあやっぱり…帰るのか?」

 

少しだけ悲しそうな顔をする鈴々。

 

「ううん。皆と一緒に行くよ」

 

「そ、そうか」

 

安心したように、鈴々の顔が明るくなる。

 

同時に、悲しげだった朱里の顔も明るくなり…

 

(水鏡先生、今まで本当にお世話になりました!私…頑張ります!)

 

そんな思いを胸に、朱里は仲間と共に道を進むのだった。

 

 




今作では、鈴々と朱里をもう少し友達みたいな感じにしたいと思い、こんな感じになりました。


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