ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
翌朝―――
ルフィ達は寺で朝食を食べながら、昨晩のことを話していた。
「何⁉アレは人間⁉」
「はい。間違いありません」
「おのれ謀りおって~!しかし、そうと分かれば、もう怖くないぞ!」
「…ということは、やはりそうと分かるまでは怖かったのですね」
「あ…」
美花に言われ、墓穴を掘ってしまったことに気付く愛紗だった。
「そもそもよく考えれば、人の仕業だとわかると思いますよ」
「孔明、どういうことなのだ?」
「いいですか?通行人を無差別に襲うのではなく、金目の物を持った人だけを襲う。これは明らかに、金目当ての人間の仕業です」
「なるほど~!言われてみればその通りだね~!」
「孔明ちゃん頭いいね~!」
「ただ…」
そこで朱里は周りを見渡して、自分達以外に人がいないことを確認すると、顔を近づけて小声で話す。
「私は、これはただの賊の仕業ではないと思います」
「どういうことですか?」
「化物が出たことで、あの関所は開ける時間を短くして、夜中に通る人を減らそうとしています。こうなると賊の獲物は少なくなってしまいますから…」
「確かに…それでは、ここに居座る意味がなくなってしまいますね」
「はい。ですからおそらく犯人は、通行人から物を奪うのではなく、物流を混乱させることが目的なのかと…」
「それで得するのは…」
「はい…何かしらの権力者に通じている人物です」
「なんと…!」
「でも…それなら夜だけじゃなくて、昼も通れなくした方がいいと思うのだ」
「あ、そういえばそうだよね~」
「何で夜だけなんだろ~?」
「考えられる理由としては…犯人は昼間は別のこと、それも多くの人の目に付くことをしているため、夜にしかできないからではないかと…」
「ということは…!」
「はい、犯人は昼間に人目に付く仕事をしている人物、それもこの集落か近隣の町村の人物である可能性が高いです…!」
「「「「「!」」」」」
「ですから、まずこの集落に怪しい人がいないか調べます。基本的には私が調べますから、皆さんは一緒に来て、私を護衛してください」
「よーし!」
「わかったよ」
「わかりました」
「了解なのだ」
「了解です」
朱里の言葉に
「あれ?ルフィ殿は…」
愛紗がルフィの返事が聞こえないことに気付き、全員が視線を向けると…
「ぐー…」
「「「「「「だああああっ!」」」」」」
いつの間にか眠っていたルフィに、思わず全員ズッコケるのだった。
「さっきから、会話に入ってこないと思っていたら…」
「どこまで話を聞いていたでしょうか?」
「いや、ルフィ殿は隠し事とかが苦手だから、知らない方が動きやすいかもしれないな…」
「確かにそうかもしれませんね…」
「ま、とりあえず朝食を終わらせ…あれ?」
愛紗の言葉に全員が納得し、朝食を再開しようと食卓の上を見ると…
「ない⁉全部食べられている!」
「お皿に取っていた分もなくなってるよ!」
そして全員の視線が1人の男に集中し、同じ結論に至る。
『こいつが全部食ったな』と。
「おのれ~!食べ物の恨み~!百倍返しなのだ~!」
「雷々も~!」
「電々もやるぞ~!」
…と、怒りのままに得物を手に取る3人。
「り、鈴々止めろ!」
「三人とも武器を下ろしてください!」
「はわわ~!皆さん屋内で、そんな物騒なもの振り回しちゃ駄目ですよ~!」
そんなこんなで朝食は終わった。
▽
朝食後、一行が早速調査に行こうとすると、玄関で掃き掃除をしている普浄にあった。
「おや、皆さん。お出かけですか?」
「はい。化物の件で少し調べ物を…」
「そうですか。いたた…」
「どうかしたのですか?」
普浄が痛がって右腕をなでる様子を見て、愛紗が心配そうに訊ねる。
「いえ。今朝、厠に行くときに転んで、ぶつけてしまいましてね」
「そうですか、お大事に」
▽
寺を出てしばらく行くと、私服姿の胡班にあった。
「胡班殿、おはようございます」
「あ、皆さん。おはようございます。ふわあァ…ああ、失礼…」
「いえ、お気になさらず」
「胡班さん、夜更かしでもしてたんですか?」
胡班の眠たそうな様子を見て、朱里が訊ねる。
「ええ。今日は非番でしたので、昨夜は遅くまで読み物をしていたんです」
「あれ?胡班さん、その足の怪我どうしたの?」
胡班の足に擦り傷があることに気付いた、電々が訊ねた。
「ああ、さっきそこで転んで、擦りむいてしまったんです」
「へー」
「おお、胡班。関羽殿達も」
…と、そこへ王植がやって来た。
「皆さん、昨夜は大変だったようで…ふわあァ…ああ、失礼しました」
「お気になさらず。王植殿も夜更かしを?」
今度は愛紗が訊ねる。
「いえ、私は不眠症で…。そのせいで朝はいつもこうなんです」
「その分、
「ははは、確かにな。ああ、
「どうかされましたか?」
王植が左右の手をかいているのを見て、美花が訊ねた。
「あ、いえ。どうも今朝から手が痒くて…」
「虫にでも刺されましたか?」
「さあ?」
▽
その後、ルフィ達は孔秀に頼んで、役所の物置を見せてもらっていた。
「本当にここにあるものは、自由に使っていいんですか?」
「ええ。ここにあるのは、普段はあまり使わない物ばかりのようですし、化物退治の役に立つならどうぞ好きに使ってくださ…へっくし!」
「風邪でもひきましたか?」
孔秀のくしゃみを見て、美花が訊ねた。
「いえ、私は…へっくし!こういう埃っぽい場所が苦手で…へっくし!」
「そうだったのですか!では、あとは我々がやりますから、孔秀殿は外へ…」
「そうさせていただきます…」
「おや、皆さん!そこで何を?」
物置の外から声が聞こえ、見てみると韓福と孟坦がいた。
「韓福殿、孟坦殿」
「関羽殿達が化物退治に使う道具を必要としていたから、物置に案内していたのだ」
「しかし孔秀、お前はこういう埃っぽいところは…」
「ああ、その通り。だから今出てきたところさ」
「あーあ、顔すごいことになってるぞ…」
「そういう韓福殿も手が赤いようですが?」
韓福の両手を見て、孔秀が訊く。
「ああ、昨夜から妙に痒くてな…」
「あれ?孟坦さん、その右腕の怪我どうしたの?」
孟坦の右腕に布が巻かれ、血がにじんでいることに、雷々が気付いた。
「ああ、これか。昨日、鍛錬中に相手の使っていた木刀が割れて、その先端で怪我をしてしまってな」
「それは痛そうなのだ」
▽
物置で蓋つきの竹籠を見つけたルフィ達は、それを借りることにした。
その途中で卞喜と秦琪にあった。
「おや、皆さん」
「そんな大きな竹籠をもってどうしたんですか?」
「今夜、化物退治の餌を入れるのに使おうと思って、物置から持ってきたんです」
「そうでしたか」
「あの、お二人とも右腕に布を巻いていますが、どうかしましたか?」
愛紗が訊ねる。
「ああ。私は今朝、荷物を運んでいた時に、少し痛めてしまいまして。秦琪は今朝から、少し腕がしびれるようで…」
「ええ。おまけに私は寝冷えしたらしく、ちょっと寒気がしまして…へっくしょん!」
「それは大変だね」
「お大事にしてくださいね」
「はい」
「ありがとうございます」
▽
夕方―――
「孔明殿、これでいいですか?」
「はい。ありがとうございます」
朱里は美花に頼んで、昼間見つけた竹籠にある細工をしてもらった。
「孔明ちゃんに言われた通り、獣皮や絹、反物なんかを用意したよ」
「これくらいあれば足りるかな?」
「はい、充分です」
「それで孔明殿、犯人の目星はつきましたか?」
「はい!昨日の仕込みが役に立ちました!」
「よし!じゃあ今度こそアイツをブッ飛ばすぞ!」
「あ、ちょっと待ってください」
ルフィが意気込むと、朱里が一回止める。
「ちょっと気になる事があるので、今夜皆さんは私の作戦の通りに動いて下さい。絶対に勝手な行動はしないでくださいね」
「ああ、わかった」
(ルフィ殿は縛っておいた方がいいか?)
密かに、そんなことを考える愛紗だった。
「その作戦通りにやれば、化物を退治できるのか?」
「はい!十中八九、成功すると思います!」
「だったら、孔明を信じるのだ!」
「ありがとう鈴々ちゃん!ただ…」
「どうされました孔明殿?」
「はい…」
愛紗に訊かれ、朱里は懐から1本の羽を取り出す。
昨晩、美花のナイフに刺さっていたものだ。
「化物の仕組みが…どうやってあの化物を演じていたのかが、どうしてもわからなくて…」
朱里はそうは呟き、考え込むのだった
果たして、犯人は一体誰?