ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

30 / 177
第八席分が完成したので、投稿します。
今作では孫尚香の話と黄忠の話は別々になります。




第30話 “無銭飲食と泥棒”

~とある町の飲食店~

 

「ちょっと~放しなさいよ~!」

 

「何言ってやがる!金を払え!」

 

1人の少女が店主に捕まっていた。

 

少女は薄い桃色の髪で、左右に大きなわっかを作るように結んでいる。

 

「そっちが食べさせてやるって言ったんじゃない!」

 

「そりゃ金を払ってもらう前提でだ!」

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

「「?」」

 

そこへ、1人の女が話に割り込んできた。

 

オレンジの短い髪で、肩に刺青を入れている。

 

「何があったのか、一番最初から話してちょうだい。悪いようにはしないから」

 

 

 

 

 

 

「…でシャオがお腹を空かせて歩いていたら、このおじさんが『おれの店で食っていけ』って言ったのよ」

 

「ところがこのガキ、食い終わった後で金がないって言いやがって…」

 

「あんたねえ、こんな小さな子がお金持って1人で歩いているワケないでしょう?

それにそんな言い方したら、奢ってくれると勘違いされてもしょうがないわよ!」

 

「そうよ!お金があったら、声に出すほどお腹が減る前に、ちゃんとお店で食べてるわよ!」

 

「うう…」

 

仲裁に入った女にも言われ、さすがに店主は分が悪くなった。

 

「これに懲りたら、強引な客引きはやらないこと、ましてや子供相手なんて論外よ!」

 

「へ、へい…気を付けやす…」

 

「…で、いくらなの?」

 

「へ?」

 

「この子のお代、私が払うわ。それなら文句ないでしょう?」

 

「ま、まァ…お金さえもらえれば…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女が金を支払い、女と少女は店を出た。

 

「あんたも、不用意に知らない大人について行ったりしたらダメだからね。

あと、無銭飲食やるならもっと上手くやんなさい。それじゃあね」

 

そう言うと女は立ち去ろうとするが…

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

少女に呼び止められた。

 

「?」

 

「あんた名前は?」

 

「え?“ナミ”だけど…」

 

「そう。ナミ!あんた中々見込みがあるじゃない!

気に入ったわ。シャオの家来にしてあげる!」

 

「は?」

 

いきなりそんなことを言い出す少女に、戸惑うナミ。

 

「えっと…シャオちゃんだっけ?話がサッパリ理解できないんだけど…」

 

「ちょっと!“シャオ”は真名なんだから、初対面で気安く呼ばないでよ!」

 

「自分でそう名乗ったくせに…。じゃあ、何て呼べばいいの?」

 

「そりゃあもちろん、家来なんだから“尚香(しょうこう)様”って呼びなさい」

 

「……じゃあ尚香ちゃん。家来になれっていうのはどういう意味?」

 

「そのまんまの意味よ!

ナミ!あんたは“江東(こうとう)”に覇を唱える“孫家(そんけ)”の末娘、“孫尚香(そんしょうこう)”様の家来になるの!

わかった⁉」

 

「はァ⁉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放っておくわけにもいかないので、仕方がなくナミは尚香と一緒に行動することにした。

 

「さ~て、晩御飯はどこで食べようかしら?」

 

「その前に宿を見つけないとダメでしょう」

 

「え~いいじゃない。シャオお腹すいた~!」

 

「……しょうがないわねェ…」

 

とりあえず、近くの茶店に入って、軽食をとることにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさま~!」

 

「ところで尚香ちゃん」

 

点心をたいらげた後、ナミは尚香に問いかけた。

 

「私はよその国の生まれだから、よくわからないんだけど…尚香ちゃんはどこかの大金持ちの娘なの?」

 

「あら、そうだったの。じゃあ教えてあげるわ。

“江東”っていうのはこの国、漢の南東にある“長江(ちょうこう)”っていう大きな川より東の地域を言うの。

シャオの母様はそこの“呉郡(ごぐん)”を治める太守様だったんだけど、その後も力を強くして、周囲の地域をどんどん配下にしていったの。

今は母様は隠居して、姉さまが太守になったんだけど、その後姉様は武力で周囲の領土を次々と制圧していったわ。

今じゃ揚州全域が、実質シャオ達の支配下になったと言っても過言じゃないのよ」

 

「その太守様の一族がさっき言ってた孫家で、尚香ちゃんはその末娘なの?」

 

「その通りよ!

それにシャオ達のご先祖様は孫武(そんぶ)っていう名前で、戦の達人だったのよ。

その人が書いた兵法書は、今でも多くの軍師が参考にしているわ。

つまり、シャオは由緒正しく、今もなお強大な力を持つ名家の令嬢、立派なお姫さまってワケ!」

 

「お姫さまねえ…(ビビとはだいぶ違うわね…)」

 

かつて仲間であったとある国の姫君と比較し、そう思うナミ。

 

「…その顔、信じてないわね…」

 

「じゃあ聞くけど、あんたがその孫家のお姫様だって証明できるものは何かあるの?」

 

「証明も何も、こうして本人がそうだって言ってるんだから、そうに決まってるじゃない」

 

「…なるほど、そこまでいくと逆に信用できるわ…」

 

「“逆に”ってどういう意味よ⁉“逆に”って⁉」

 

「でもそれなら、何でこんな所をお供もつけずに1人でウロウロしているのよ?」

 

「え?そ、それは…いろいろあるのよいろいろ…」

 

急に目をそらし、冷や汗をかき始める尚香。

 

「色々って?」

 

「い、いろいろはいろいろよ…。

い、一応言っておくけど『堅苦しいお城暮らしが嫌になって、家出同然に飛び出してきた』とかじゃないからね!絶対に違うからね!」

 

「…へ~そう、よく分かったわ」

 

「な、何よその目は⁉」

 

身勝手なことこの上ない理由に、呆れるナミだった。

 

「けど、尚香ちゃん。旅に出るんだったら、お金ぐらいちゃんと用意しなさいよ」

 

「そりゃあそれなりの路銀はもっていわよ。でも、前の街でコレを買ったから、無くなっちゃったの」

 

そう言って尚香は、頭に着けている金細工の髪飾りを指さす。

 

「―――って、路銀全部はたいてソレ買ったの⁉」

 

「だって、欲しかったんだもん。キラキラして綺麗でしょ?」

 

「はァ…こんな物のためにお金を使いきっちゃうなんて…なんて計画性のなさ…」

 

その髪飾りを手にとり、呟くナミ。

 

「お店でこれ見つけたときから『これはもう運命だ!買うしかない!』って一目ぼれしちゃって…って、えっ⁉」

 

自分の頭に着けていたはずの髪飾りが、いつの間にかナミの手にあったことに驚く尚香。

 

「ちょっと!返しなさいよ!」

 

慌ててひったくるように取り返す。

 

「尚香ちゃん、悪いけどそれパチもんよ」

 

「?何よ“ぱちもん”って」

 

「ちょっと貸して」

 

そう言ってナミは再び、髪飾りを手に取り…

 

「見てて」

 

それを爪でひっかく

 

ガリ

 

すると、金と宝石の表面の塗装が剥がれ、ただの木が現れた。

 

「ええっ⁉」

 

「ただの木に色を塗っただけ。そんなに価値はないガラクタよ」

 

「それじゃあシャオ騙されたってこと⁉」

 

「そう言う事ね」

 

「き~~~!くやし~~~っ!」

 

ドンと机を叩いて悔しがる尚香。

 

「さてと…じゃあ話は済んだし、一仕事も終えたし、騒ぎになる前に店を出ましょうか」

 

「?“仕事”?」

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

 

ナミと尚香が店をでた、まさにその瞬間だった。

 

「あれ⁉財布がない!」

 

「私もだわ⁉」

 

「あれ?おれもだ!」

 

尚香ちゃん、急いで離れるわよ

 

「え⁉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、人気のないところへ行くと…

 

「さてと、本日の成果はいかほどか?」

 

そう言ってナミは懐からいくつもの財布を取り出す。

 

「…………」

 

ナミがいくつも財布を持っていること。

さっきのお店での出来事。

気付かれぬ間に自分の頭から、髪飾りを取ったこと。

髪飾りが安物だということを、簡単に見抜いたこと。

そして、自分の食事代を立て替えてくれた後に、ナミが言っていた言葉。

 

―――――無銭飲食やるなら、もっと上手くやんなさい

 

それら一つ一つを踏まえ冷静に考えた結果、尚香はある結論にたどり着く。

 

「ナミ…アンタってもしかして…」

 

「私?海賊で泥棒よ」

 

尚香の予想通りの答えが返ってきた。

 

「ところで尚香ちゃん」

 

「な、何?」

 

「あんたの家来になるって話だけど…引き受けましょう!」

 

「本当⁉」

 

「ただし!行き先はアンタの家!そこにアンタを送り届けるからね!」

 

「ええ~⁉何よそれ⁉」

 

「尚香ちゃん?」

 

「⁉」

 

急にナミが尚香の両ほほに手を添え、顔を近づけてきた。

 

手にはすごい力が込められており、振り払うことができない。

そして表情は笑顔だが目が笑っておらず、それがものすごく怖い。

 

「あなた…私を家来として雇いたいんでしょ?」

 

「え、ええ…そうよ…」

 

「けどあなた、私にお給料として払うお金、持ってないでしょう?」

 

「う、うん…」

 

「でも、お姫様ならお家に帰れば、お金はたくさんあるわよね?」

 

「も、もちろんそうだけど…」

 

「だ・か・ら、家に送り届けるの。わかった?」

 

「は、はい…」

 

その時のナミは、それはそれは恐ろしい笑顔をしていたという。

 

(シャオもしかして…絶対に声をかけちゃいけない人に、話しかけちゃった…?)

 

後悔するような感情が沸き起こったが、すでに後の祭りだった。

 

 




今回はナミの話でした。
子供には優しいナミさん。
お金にはうるさいナミさん。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。