ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
今作では孫尚香の話と黄忠の話は別々になります。
~とある町の飲食店~
「ちょっと~放しなさいよ~!」
「何言ってやがる!金を払え!」
1人の少女が店主に捕まっていた。
少女は薄い桃色の髪で、左右に大きなわっかを作るように結んでいる。
「そっちが食べさせてやるって言ったんじゃない!」
「そりゃ金を払ってもらう前提でだ!」
「ちょっと待ちなさい!」
「「?」」
そこへ、1人の女が話に割り込んできた。
オレンジの短い髪で、肩に刺青を入れている。
「何があったのか、一番最初から話してちょうだい。悪いようにはしないから」
▽
「…でシャオがお腹を空かせて歩いていたら、このおじさんが『おれの店で食っていけ』って言ったのよ」
「ところがこのガキ、食い終わった後で金がないって言いやがって…」
「あんたねえ、こんな小さな子がお金持って1人で歩いているワケないでしょう?
それにそんな言い方したら、奢ってくれると勘違いされてもしょうがないわよ!」
「そうよ!お金があったら、声に出すほどお腹が減る前に、ちゃんとお店で食べてるわよ!」
「うう…」
仲裁に入った女にも言われ、さすがに店主は分が悪くなった。
「これに懲りたら、強引な客引きはやらないこと、ましてや子供相手なんて論外よ!」
「へ、へい…気を付けやす…」
「…で、いくらなの?」
「へ?」
「この子のお代、私が払うわ。それなら文句ないでしょう?」
「ま、まァ…お金さえもらえれば…」
▽
女が金を支払い、女と少女は店を出た。
「あんたも、不用意に知らない大人について行ったりしたらダメだからね。
あと、無銭飲食やるならもっと上手くやんなさい。それじゃあね」
そう言うと女は立ち去ろうとするが…
「ちょっと待ちなさい!」
少女に呼び止められた。
「?」
「あんた名前は?」
「え?“ナミ”だけど…」
「そう。ナミ!あんた中々見込みがあるじゃない!
気に入ったわ。シャオの家来にしてあげる!」
「は?」
いきなりそんなことを言い出す少女に、戸惑うナミ。
「えっと…シャオちゃんだっけ?話がサッパリ理解できないんだけど…」
「ちょっと!“シャオ”は真名なんだから、初対面で気安く呼ばないでよ!」
「自分でそう名乗ったくせに…。じゃあ、何て呼べばいいの?」
「そりゃあもちろん、家来なんだから“
「……じゃあ尚香ちゃん。家来になれっていうのはどういう意味?」
「そのまんまの意味よ!
ナミ!あんたは“
わかった⁉」
「はァ⁉」
▽
放っておくわけにもいかないので、仕方がなくナミは尚香と一緒に行動することにした。
「さ~て、晩御飯はどこで食べようかしら?」
「その前に宿を見つけないとダメでしょう」
「え~いいじゃない。シャオお腹すいた~!」
「……しょうがないわねェ…」
とりあえず、近くの茶店に入って、軽食をとることにするのだった。
▽
「ごちそうさま~!」
「ところで尚香ちゃん」
点心をたいらげた後、ナミは尚香に問いかけた。
「私はよその国の生まれだから、よくわからないんだけど…尚香ちゃんはどこかの大金持ちの娘なの?」
「あら、そうだったの。じゃあ教えてあげるわ。
“江東”っていうのはこの国、漢の南東にある“
シャオの母様はそこの“
今は母様は隠居して、姉さまが太守になったんだけど、その後姉様は武力で周囲の領土を次々と制圧していったわ。
今じゃ揚州全域が、実質シャオ達の支配下になったと言っても過言じゃないのよ」
「その太守様の一族がさっき言ってた孫家で、尚香ちゃんはその末娘なの?」
「その通りよ!
それにシャオ達のご先祖様は
その人が書いた兵法書は、今でも多くの軍師が参考にしているわ。
つまり、シャオは由緒正しく、今もなお強大な力を持つ名家の令嬢、立派なお姫さまってワケ!」
「お姫さまねえ…(ビビとはだいぶ違うわね…)」
かつて仲間であったとある国の姫君と比較し、そう思うナミ。
「…その顔、信じてないわね…」
「じゃあ聞くけど、あんたがその孫家のお姫様だって証明できるものは何かあるの?」
「証明も何も、こうして本人がそうだって言ってるんだから、そうに決まってるじゃない」
「…なるほど、そこまでいくと逆に信用できるわ…」
「“逆に”ってどういう意味よ⁉“逆に”って⁉」
「でもそれなら、何でこんな所をお供もつけずに1人でウロウロしているのよ?」
「え?そ、それは…いろいろあるのよいろいろ…」
急に目をそらし、冷や汗をかき始める尚香。
「色々って?」
「い、いろいろはいろいろよ…。
い、一応言っておくけど『堅苦しいお城暮らしが嫌になって、家出同然に飛び出してきた』とかじゃないからね!絶対に違うからね!」
「…へ~そう、よく分かったわ」
「な、何よその目は⁉」
身勝手なことこの上ない理由に、呆れるナミだった。
「けど、尚香ちゃん。旅に出るんだったら、お金ぐらいちゃんと用意しなさいよ」
「そりゃあそれなりの路銀はもっていわよ。でも、前の街でコレを買ったから、無くなっちゃったの」
そう言って尚香は、頭に着けている金細工の髪飾りを指さす。
「―――って、路銀全部はたいてソレ買ったの⁉」
「だって、欲しかったんだもん。キラキラして綺麗でしょ?」
「はァ…こんな物のためにお金を使いきっちゃうなんて…なんて計画性のなさ…」
その髪飾りを手にとり、呟くナミ。
「お店でこれ見つけたときから『これはもう運命だ!買うしかない!』って一目ぼれしちゃって…って、えっ⁉」
自分の頭に着けていたはずの髪飾りが、いつの間にかナミの手にあったことに驚く尚香。
「ちょっと!返しなさいよ!」
慌ててひったくるように取り返す。
「尚香ちゃん、悪いけどそれパチもんよ」
「?何よ“ぱちもん”って」
「ちょっと貸して」
そう言ってナミは再び、髪飾りを手に取り…
「見てて」
それを爪でひっかく
ガリ
すると、金と宝石の表面の塗装が剥がれ、ただの木が現れた。
「ええっ⁉」
「ただの木に色を塗っただけ。そんなに価値はないガラクタよ」
「それじゃあシャオ騙されたってこと⁉」
「そう言う事ね」
「き~~~!くやし~~~っ!」
ドンと机を叩いて悔しがる尚香。
「さてと…じゃあ話は済んだし、一仕事も終えたし、騒ぎになる前に店を出ましょうか」
「?“仕事”?」
▽
「ありがとうございました」
ナミと尚香が店をでた、まさにその瞬間だった。
「あれ⁉財布がない!」
「私もだわ⁉」
「あれ?おれもだ!」
「尚香ちゃん、急いで離れるわよ」
「え⁉」
▽
しばらくして、人気のないところへ行くと…
「さてと、本日の成果はいかほどか?」
そう言ってナミは懐からいくつもの財布を取り出す。
「…………」
ナミがいくつも財布を持っていること。
さっきのお店での出来事。
気付かれぬ間に自分の頭から、髪飾りを取ったこと。
髪飾りが安物だということを、簡単に見抜いたこと。
そして、自分の食事代を立て替えてくれた後に、ナミが言っていた言葉。
―――――無銭飲食やるなら、もっと上手くやんなさい
それら一つ一つを踏まえ冷静に考えた結果、尚香はある結論にたどり着く。
「ナミ…アンタってもしかして…」
「私?海賊で泥棒よ」
尚香の予想通りの答えが返ってきた。
「ところで尚香ちゃん」
「な、何?」
「あんたの家来になるって話だけど…引き受けましょう!」
「本当⁉」
「ただし!行き先はアンタの家!そこにアンタを送り届けるからね!」
「ええ~⁉何よそれ⁉」
「尚香ちゃん?」
「⁉」
急にナミが尚香の両ほほに手を添え、顔を近づけてきた。
手にはすごい力が込められており、振り払うことができない。
そして表情は笑顔だが目が笑っておらず、それがものすごく怖い。
「あなた…私を家来として雇いたいんでしょ?」
「え、ええ…そうよ…」
「けどあなた、私にお給料として払うお金、持ってないでしょう?」
「う、うん…」
「でも、お姫様ならお家に帰れば、お金はたくさんあるわよね?」
「も、もちろんそうだけど…」
「だ・か・ら、家に送り届けるの。わかった?」
「は、はい…」
その時のナミは、それはそれは恐ろしい笑顔をしていたという。
(シャオもしかして…絶対に声をかけちゃいけない人に、話しかけちゃった…?)
後悔するような感情が沸き起こったが、すでに後の祭りだった。
今回はナミの話でした。
子供には優しいナミさん。
お金にはうるさいナミさん。