ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第31話 “お金”

ナミと尚香が一緒に行動するようになってから数日―――

 

「ねえ、ナミ~…シャオお腹すいた~!」

 

「お腹すいたって、さっきお昼食べたばっかりじゃない!」

 

「あれだけじゃ足りないわよ~!もっと美味しい物たくさん食べたい~!」

 

「贅沢言わないの!お金は大切に使わないとダメなんだから!」

 

「何よ!ナミは泥棒なんだから、すぐにいくらでも稼げるじゃない!」

 

「ちょっ…⁉」

 

慌ててナミは尚香の口を押さえ、キョロキョロと辺りを見渡した後、小声で言い聞かせる。

 

「ちょっと…私が泥棒だって大声で言っちゃダメでしょう⁉」

 

「シャオには関係ないも~ん。言ってほしくなかったらシャオの言うこと聞きなさいよ」

 

「あんたねェ、立場わかってるの?」

 

「どういう意味よ?」

 

「私が泥棒だってバレたら、あんたも泥棒だと思われるに決まってるでしょう?」

 

「何言ってるのよ、シャオは孫家の末娘何だから、泥棒だなんて思われないわよ」

 

「…あのねえ、あんたお城にいたとき、街で泥棒なんてしていたの?」

 

「するわけないでしょう。欲しいものは買えば手に入るもの」

 

「でしょう?お姫様は普通、泥棒なんてしないの。『泥棒の仲間がお姫様なわけない』って皆そう考えるわよ」

 

「……それってつまり…」

 

「私が泥棒だってバレたら、あんたがお姫様だなんて、誰も信じないってこと」

 

「…じゃあナミが泥棒だってバレたら…」

 

「あんたも捕まって、牢に入れられて、鞭で打たれるわね」

 

「ひっ…!」

 

「わかった?」

 

「…は~い…」

 

「それから…」

 

「?」

 

「盗んだ財布にどれだけお金があるか分からないんだから、あまり儲からないのよ、泥棒は」

 

「あ、なるほど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その夜~

 

「ごちそうさま~」

 

「あ~美味しかった~!」

 

ナミと尚香は、飲食店で夕食を済ませた。

 

「一目見たときから、このお店はイケるって思ってたのよ!やっぱりシャオの目に狂いはなかったわね」

 

「髪飾りは安物だったけどね」

 

「う、うるさいわね!」

 

「でも、あんたの目利き、悪くはないわよ。

良いものに囲まれて育ったから、良いものを見極める目はあるみたいだし、私が物の見方教えてあげようか?

尚香ちゃん、きっと上達するわよ」

 

「本当⁉」

 

「ええ、ついでに物を盗むコツとか、人を出し抜いたり、上手く踊らせるコツも教えてあげるわよ」

 

「何それ面白そう!教えて!」

 

なんだかんだで2人は仲良くなっていた。

 

「私、厠に行ってくるわ。ついでに一仕事してくるから」

 

「は~い」

 

そう言うとナミは店の奥に姿を消した。

 

(ナミって結構話せる奴ね。ますます気に入ったわ!これでシャオを家に帰らせるなんて言わなければ、文句ないのにな~…)

 

尚香は不機嫌そうな顔になる。

 

(あ~あ、このまま家に帰るなんて、絶対にヤダ!

でも、ナミから逃げられそうにないし、お金は欲しいし、ナミをクビにしようとしたら…たぶんコワイだろうし…)

 

「あの…失礼」

 

「?」

 

3人ほどの男が、声をかけてきた。

 

「お前…いや、あなた様は孫家の末娘、孫尚香様ではありませんか?」

 

「そうだけど?」

 

「おお!やはりそうでしたか!」

 

 

 

 

 

 

「母様に?」

 

「はい。私共は一年ほど前、孫堅(そんけん)様にお世話になったことがあり、いずれそのお返しをさせていただきたいと思っていたのです」

 

「ここでその娘である尚香様に出会えたのは、まさに天が我らに与えて下さった、またとない好機!」

 

「どうか、私達を尚香様のお供に加えていただけないでしょうか?」

 

「もちろんいいわよ!ちょうど、今いるお供はクビにしようと思っていたところだし、シャオの家来にしてあげる!」

 

「ありがとうございます!では、宿をご用意いたしますので、ご一緒に!」

 

「わかったわ!けど、シャオの言うことはちゃんと聞きなさいよ!」

 

「もちろんでございます!」

 

(悪いわねナミ、あんたとの旅は中々良かったけど、やっぱり家に帰りたくないの。あんたはもうクビよ)

 

そして尚香は、ナミへの解雇通知を書き、食卓に残して男達と店を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして―――

 

「ね~…宿はまだ~?」

 

「もう少々、辛抱ください」

 

シャオは男達と街を歩いていた。

 

「シャオもう疲れたんだけど…」

 

「…では、一休みしましょう。さ、お茶でもどうぞ」

 

「ありがとう。いただくわ」

 

そう言って尚香は、男が差し出したヒョウタンに口をつけた。

 

(あれ…?なんだか…急に…ねむ…く…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん…あれ?」

 

「気が付いたか?」

 

「あら?あんた…っ⁉」

 

目が覚めたとき、尚香はイスに縛り付けられていた。

周りには先ほどの男達が刃物を持って立っている。

そして男達の様子が、明らかにさっきまでとは違った。

 

「ちょっと!あんた達!これはどういうことよ⁉」

 

「まだわかんねェのか?アンタの家来なるなんてのは大嘘だよ!」

 

「え⁉で、でも母様の世話になったって…」

 

「ああ、世話にはなったぜ。

アンタの母親のせいで、おれ達の盗賊家業は大失敗。いつかその復讐(お返し)をしてやろうと、好機を覗っていたところさ!」

 

「⁉」

 

「あの女のことは、念入りに調べていたからな。娘がいることは知っていた。

まさかこんな所で、出会えるとは思なかったぜ」

 

「実の娘が人質とならば、あの女もうかつには動けねェだろ。

どっかの敵対勢力にアンタを売り渡して、協力を得れば、孫家丸ごと滅亡させられるぜ!」

 

「そ、そんな…」

 

「だが、その前に…」

 

そう言うと男達は尚香に近づく。

 

「な、何よ…⁉」

 

「やっぱあの女の娘なだけあって、なかなか上玉じゃねェか。ちょっと遊んでもらうぜ」

 

「い、いや…」

 

何をするつもりなのかを察し、尚香は必死に抵抗しようとするも、身動きが取れない。

 

「へへへ…」

 

「こ、来ないで…!」

 

「じゃあおれから…」

 

1人が服を脱ぎ始める。

 

「だ、誰かァーーーっ⁉」

 

ガン!

 

「「「⁉」」」

 

突然大きな音が響き、服を脱いでいた男が気を失い倒れた。

 

「な、何だ⁉」

 

「だ、誰かいるのか⁉」

 

ゴン!

 

「フゲッ⁉」

 

バキッ!

 

「ウゴッ⁉」

 

そして残りの2人も、轟音と共に気絶する。

しかし、辺りには誰もいない。

 

「な…何?」

 

「まったく…()って(たか)って子供イジメてんじゃないわよ!」

 

「え、今の声って…」

 

「“蜃気楼(ミラージュ)”解除」

 

「え⁉な、ナミ⁉」

 

突然、何もないところからナミが現れた。

 

「な、何今の⁉ナミって妖術使いなの⁉」

 

「まァそんな所かしら…。で、尚香!」

 

「っ!」

 

「知らない大人について行っちゃダメだって、前にも言ったでしょう⁉」

 

「…はい…」

 

ナミに叱られ、素直に反省する尚香。

 

「私が間に合ったから良かったようなものの…少しでも何か違っていたら、大変なことになってたんだからね!」

 

「ごめんなさい…」

 

「…ま、いいわ。とりあえず、さっさと逃げましょう」

 

そして、ナミと尚香は男達を縛って逃げだすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、宿を見つけて2人で宿泊した。

 

「…ねえナミ」

 

「ん?」

 

別々の寝台に潜り込んだまま、尚香が訊ねた。

 

「どうして私の居場所が分かったの?」

 

「あんたとあの男達が話しているのを、あのお店で見ていたのよ。それで、後をつけてきただけ」

 

「…何で、助けに来てくれたの?」

 

「私は尚香ちゃんの家来なんだから、尚香ちゃんを守るのは当然でしょ」

 

「でも…クビだって書置き残していたのに…」

 

「お給金も退職金も貰ってないのに、やすやすとクビにされるわけないでしょう」

 

「そう…。ナミ…」

 

「何?」

 

「ありがとう…助けてくれて…」

 

「…どういたしまして」

 

「あんたをクビにするって話、やっぱりなしだから…」

 

「当たり前でしょ」

 

「うん…」

 

「……ねえ」

 

「な、何よ?」

 

「尚香ちゃん、そんなに家に帰るの嫌なの?」

 

「そりゃあ、やっぱりいやよ。

…っていうか、ナミだって泥棒やるような人なんだから、家出ぐらいしたことあるんじゃないの?」

 

「……ええ、あるわよ。尚香ちゃんと同じくらいの年の頃だったかしら?

くだらないことでお母さん、お姉ちゃんとケンカしちゃって、家を飛び出したわ…」

 

「ほら、やっぱり…」

 

「そしたらその日…お母さんが死んだわ」

 

「え…」

 

「村を襲って来た海賊にね、殺されたの」

 

そしてナミは、静かに語りだした。

 

「その日まで、村はいたって平和だった。それにお母さんは軍で働いていたことがあって、強い人だった。

死んじゃうなんて…思わなかった。

村を襲った海賊は、村の住民達からお金を奪っていったわ。

『子供1人につき5万、大人はその倍。家族の人数分だけお金を出せ。足りない分は殺す』ってね。

私の家は貧しくて、お母さんの分しか払えなかった。

私とお姉ちゃんは拾われっ子で、お母さんに子供がいる証拠はなかった。

だから、私とお姉ちゃんがいないことにすれば、お母さんは殺されなかった。

でも、お母さんは娘がいるって、私達が家族だって言い張って、殺された」

 

そこまで言うとナミは左肩にある刺青と、その下に傷跡を握りさらに語る。

 

「その日から、私は海賊に捕まって働かされた。

大好きなお母さんを殺した、大嫌いな奴らの仲間として、大好きなお姉ちゃんにも会えないで…」

 

「…………」

 

「尚香ちゃんはお母さん達のこと、嫌い?」

 

「そんなわけないよ…!母様も、雪蓮(しぇれん)姉様も蓮華(れんふぁ)姉様も、(さい)粋怜(すいれい)雷火(らいか)や…家来のみんなのことも、大好きだよ…!」

 

「だったら、ちゃんと一緒にいなさい。いつかお別れしなきゃいけなくなる時までね。でないと、後悔するわよ」

 

「はい…」

 

「それから、お金は大切にしなさい。お金があれば、それだけで解決することもあるんだから」

 

「はい…」

 

「それじゃあ、また明日から尚香ちゃんの家に向かうから。良いわね?」

 

「はい…」

 

「じゃあ、おやすみなさい」

 

「…あのね、ナミ…」

 

「なあに?」

 

「シャオの真名はね“小蓮(しゃおれん)”っていうの」

 

(そっか…“しゃおれん”だから“シャオ”なのね)

 

「今日、シャオのことを助けてくれた褒美として、シャオのこと真名で呼ぶことを許してあげる…」

 

「そう…ありがとう“シャオ”」

 

「うん…それでね、ナミ…!」

 

「?」

 

急にシャオは寝台から身体を起こし、喋りだした。

 

「シャオにとってはね、家来のみんなも家族みたいなものなの…。

だから、その…真名も預けたし…ナミももう、シャオの家族みたいなものだから…!だから…!」

 

「………あはははははっ!」

 

突然ナミは楽しそうに笑いだした。

 

「な、何よ⁉」

 

「ごめんごめん…!」

 

ナミも上体を起こして、シャオに話しかける。

 

「ありがとうシャオ。でも大丈夫よ。私にはもう、家族みたいな仲間がちゃんといるから」

 

「え?」

 

「少し前にね、別の海賊が私の村を襲った海賊を倒してくれたの。それで、私は今そいつらの仲間になったの」

 

「そうだったの?」

 

「うん。今は訳あって、バラバラになっちゃっているけど、そいつらを探している途中なの」

 

「ふーん…。ねえ、ナミの仲間ってどんな奴らなの?教えて」

 

「良いわよ。仲間は8人いて、そのうち7人がバカよ」

 

「そ、そうなんだ…」

 

バカと言い切るナミに、若干戸惑うシャオ。

 

そしてその夜、2人は遅くまで楽しそうに話し合ったのだった。

 

 




連載前に今作の構想を考えていた時、「シャオはナミと行動させるしかない」と真っ先に思いました。


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