ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
ナミと尚香が一緒に行動するようになってから数日―――
「ねえ、ナミ~…シャオお腹すいた~!」
「お腹すいたって、さっきお昼食べたばっかりじゃない!」
「あれだけじゃ足りないわよ~!もっと美味しい物たくさん食べたい~!」
「贅沢言わないの!お金は大切に使わないとダメなんだから!」
「何よ!ナミは泥棒なんだから、すぐにいくらでも稼げるじゃない!」
「ちょっ…⁉」
慌ててナミは尚香の口を押さえ、キョロキョロと辺りを見渡した後、小声で言い聞かせる。
「ちょっと…私が泥棒だって大声で言っちゃダメでしょう⁉」
「シャオには関係ないも~ん。言ってほしくなかったらシャオの言うこと聞きなさいよ」
「あんたねェ、立場わかってるの?」
「どういう意味よ?」
「私が泥棒だってバレたら、あんたも泥棒だと思われるに決まってるでしょう?」
「何言ってるのよ、シャオは孫家の末娘何だから、泥棒だなんて思われないわよ」
「…あのねえ、あんたお城にいたとき、街で泥棒なんてしていたの?」
「するわけないでしょう。欲しいものは買えば手に入るもの」
「でしょう?お姫様は普通、泥棒なんてしないの。『泥棒の仲間がお姫様なわけない』って皆そう考えるわよ」
「……それってつまり…」
「私が泥棒だってバレたら、あんたがお姫様だなんて、誰も信じないってこと」
「…じゃあナミが泥棒だってバレたら…」
「あんたも捕まって、牢に入れられて、鞭で打たれるわね」
「ひっ…!」
「わかった?」
「…は~い…」
「それから…」
「?」
「盗んだ財布にどれだけお金があるか分からないんだから、あまり儲からないのよ、泥棒は」
「あ、なるほど」
▽
~その夜~
「ごちそうさま~」
「あ~美味しかった~!」
ナミと尚香は、飲食店で夕食を済ませた。
「一目見たときから、このお店はイケるって思ってたのよ!やっぱりシャオの目に狂いはなかったわね」
「髪飾りは安物だったけどね」
「う、うるさいわね!」
「でも、あんたの目利き、悪くはないわよ。
良いものに囲まれて育ったから、良いものを見極める目はあるみたいだし、私が物の見方教えてあげようか?
尚香ちゃん、きっと上達するわよ」
「本当⁉」
「ええ、ついでに物を盗むコツとか、人を出し抜いたり、上手く踊らせるコツも教えてあげるわよ」
「何それ面白そう!教えて!」
なんだかんだで2人は仲良くなっていた。
「私、厠に行ってくるわ。ついでに一仕事してくるから」
「は~い」
そう言うとナミは店の奥に姿を消した。
(ナミって結構話せる奴ね。ますます気に入ったわ!これでシャオを家に帰らせるなんて言わなければ、文句ないのにな~…)
尚香は不機嫌そうな顔になる。
(あ~あ、このまま家に帰るなんて、絶対にヤダ!
でも、ナミから逃げられそうにないし、お金は欲しいし、ナミをクビにしようとしたら…たぶんコワイだろうし…)
「あの…失礼」
「?」
3人ほどの男が、声をかけてきた。
「お前…いや、あなた様は孫家の末娘、孫尚香様ではありませんか?」
「そうだけど?」
「おお!やはりそうでしたか!」
▽
「母様に?」
「はい。私共は一年ほど前、
「ここでその娘である尚香様に出会えたのは、まさに天が我らに与えて下さった、またとない好機!」
「どうか、私達を尚香様のお供に加えていただけないでしょうか?」
「もちろんいいわよ!ちょうど、今いるお供はクビにしようと思っていたところだし、シャオの家来にしてあげる!」
「ありがとうございます!では、宿をご用意いたしますので、ご一緒に!」
「わかったわ!けど、シャオの言うことはちゃんと聞きなさいよ!」
「もちろんでございます!」
(悪いわねナミ、あんたとの旅は中々良かったけど、やっぱり家に帰りたくないの。あんたはもうクビよ)
そして尚香は、ナミへの解雇通知を書き、食卓に残して男達と店を出て行った。
▽
しばらくして―――
「ね~…宿はまだ~?」
「もう少々、辛抱ください」
シャオは男達と街を歩いていた。
「シャオもう疲れたんだけど…」
「…では、一休みしましょう。さ、お茶でもどうぞ」
「ありがとう。いただくわ」
そう言って尚香は、男が差し出したヒョウタンに口をつけた。
(あれ…?なんだか…急に…ねむ…く…)
▽
「……ん…あれ?」
「気が付いたか?」
「あら?あんた…っ⁉」
目が覚めたとき、尚香はイスに縛り付けられていた。
周りには先ほどの男達が刃物を持って立っている。
そして男達の様子が、明らかにさっきまでとは違った。
「ちょっと!あんた達!これはどういうことよ⁉」
「まだわかんねェのか?アンタの家来なるなんてのは大嘘だよ!」
「え⁉で、でも母様の世話になったって…」
「ああ、世話にはなったぜ。
アンタの母親のせいで、おれ達の盗賊家業は大失敗。いつかその
「⁉」
「あの女のことは、念入りに調べていたからな。娘がいることは知っていた。
まさかこんな所で、出会えるとは思なかったぜ」
「実の娘が人質とならば、あの女もうかつには動けねェだろ。
どっかの敵対勢力にアンタを売り渡して、協力を得れば、孫家丸ごと滅亡させられるぜ!」
「そ、そんな…」
「だが、その前に…」
そう言うと男達は尚香に近づく。
「な、何よ…⁉」
「やっぱあの女の娘なだけあって、なかなか上玉じゃねェか。ちょっと遊んでもらうぜ」
「い、いや…」
何をするつもりなのかを察し、尚香は必死に抵抗しようとするも、身動きが取れない。
「へへへ…」
「こ、来ないで…!」
「じゃあおれから…」
1人が服を脱ぎ始める。
「だ、誰かァーーーっ⁉」
ガン!
「「「⁉」」」
突然大きな音が響き、服を脱いでいた男が気を失い倒れた。
「な、何だ⁉」
「だ、誰かいるのか⁉」
ゴン!
「フゲッ⁉」
バキッ!
「ウゴッ⁉」
そして残りの2人も、轟音と共に気絶する。
しかし、辺りには誰もいない。
「な…何?」
「まったく…
「え、今の声って…」
「“
「え⁉な、ナミ⁉」
突然、何もないところからナミが現れた。
「な、何今の⁉ナミって妖術使いなの⁉」
「まァそんな所かしら…。で、尚香!」
「っ!」
「知らない大人について行っちゃダメだって、前にも言ったでしょう⁉」
「…はい…」
ナミに叱られ、素直に反省する尚香。
「私が間に合ったから良かったようなものの…少しでも何か違っていたら、大変なことになってたんだからね!」
「ごめんなさい…」
「…ま、いいわ。とりあえず、さっさと逃げましょう」
そして、ナミと尚香は男達を縛って逃げだすのだった。
▽
その後、宿を見つけて2人で宿泊した。
「…ねえナミ」
「ん?」
別々の寝台に潜り込んだまま、尚香が訊ねた。
「どうして私の居場所が分かったの?」
「あんたとあの男達が話しているのを、あのお店で見ていたのよ。それで、後をつけてきただけ」
「…何で、助けに来てくれたの?」
「私は尚香ちゃんの家来なんだから、尚香ちゃんを守るのは当然でしょ」
「でも…クビだって書置き残していたのに…」
「お給金も退職金も貰ってないのに、やすやすとクビにされるわけないでしょう」
「そう…。ナミ…」
「何?」
「ありがとう…助けてくれて…」
「…どういたしまして」
「あんたをクビにするって話、やっぱりなしだから…」
「当たり前でしょ」
「うん…」
「……ねえ」
「な、何よ?」
「尚香ちゃん、そんなに家に帰るの嫌なの?」
「そりゃあ、やっぱりいやよ。
…っていうか、ナミだって泥棒やるような人なんだから、家出ぐらいしたことあるんじゃないの?」
「……ええ、あるわよ。尚香ちゃんと同じくらいの年の頃だったかしら?
くだらないことでお母さん、お姉ちゃんとケンカしちゃって、家を飛び出したわ…」
「ほら、やっぱり…」
「そしたらその日…お母さんが死んだわ」
「え…」
「村を襲って来た海賊にね、殺されたの」
そしてナミは、静かに語りだした。
「その日まで、村はいたって平和だった。それにお母さんは軍で働いていたことがあって、強い人だった。
死んじゃうなんて…思わなかった。
村を襲った海賊は、村の住民達からお金を奪っていったわ。
『子供1人につき5万、大人はその倍。家族の人数分だけお金を出せ。足りない分は殺す』ってね。
私の家は貧しくて、お母さんの分しか払えなかった。
私とお姉ちゃんは拾われっ子で、お母さんに子供がいる証拠はなかった。
だから、私とお姉ちゃんがいないことにすれば、お母さんは殺されなかった。
でも、お母さんは娘がいるって、私達が家族だって言い張って、殺された」
そこまで言うとナミは左肩にある刺青と、その下に傷跡を握りさらに語る。
「その日から、私は海賊に捕まって働かされた。
大好きなお母さんを殺した、大嫌いな奴らの仲間として、大好きなお姉ちゃんにも会えないで…」
「…………」
「尚香ちゃんはお母さん達のこと、嫌い?」
「そんなわけないよ…!母様も、
「だったら、ちゃんと一緒にいなさい。いつかお別れしなきゃいけなくなる時までね。でないと、後悔するわよ」
「はい…」
「それから、お金は大切にしなさい。お金があれば、それだけで解決することもあるんだから」
「はい…」
「それじゃあ、また明日から尚香ちゃんの家に向かうから。良いわね?」
「はい…」
「じゃあ、おやすみなさい」
「…あのね、ナミ…」
「なあに?」
「シャオの真名はね“
(そっか…“しゃおれん”だから“シャオ”なのね)
「今日、シャオのことを助けてくれた褒美として、シャオのこと真名で呼ぶことを許してあげる…」
「そう…ありがとう“シャオ”」
「うん…それでね、ナミ…!」
「?」
急にシャオは寝台から身体を起こし、喋りだした。
「シャオにとってはね、家来のみんなも家族みたいなものなの…。
だから、その…真名も預けたし…ナミももう、シャオの家族みたいなものだから…!だから…!」
「………あはははははっ!」
突然ナミは楽しそうに笑いだした。
「な、何よ⁉」
「ごめんごめん…!」
ナミも上体を起こして、シャオに話しかける。
「ありがとうシャオ。でも大丈夫よ。私にはもう、家族みたいな仲間がちゃんといるから」
「え?」
「少し前にね、別の海賊が私の村を襲った海賊を倒してくれたの。それで、私は今そいつらの仲間になったの」
「そうだったの?」
「うん。今は訳あって、バラバラになっちゃっているけど、そいつらを探している途中なの」
「ふーん…。ねえ、ナミの仲間ってどんな奴らなの?教えて」
「良いわよ。仲間は8人いて、そのうち7人がバカよ」
「そ、そうなんだ…」
バカと言い切るナミに、若干戸惑うシャオ。
そしてその夜、2人は遅くまで楽しそうに話し合ったのだった。
連載前に今作の構想を考えていた時、「シャオはナミと行動させるしかない」と真っ先に思いました。