ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
とある一軒の茶店で、1人の男が会計を済ましていた。
「はいよ、確かに受け取ったぜ」
立派なアゴひげを生やした店主が金を受け取る。
「あ、そうだ。ちょっと聞きてェんだけど」
客である、鼻の長い男が店主に訊ねる。
「何だ?」
「この辺で、行商が出来そうな場所ってあるか?」
「アンタ行商人なのか?そうだな…この道をもう少し行けばけっこう大きい街があるから、そこに行ってみたらどうだ?」
「そうか、じゃあ行ってみる。ありがとう」
男は店を出て行った。
▽
(…だいぶ路銀が乏しくなってきたな…次の街でも上手くいくといいんだが…)
鼻の長い男、ウソップはルフィ達と逸れた後、自分の持ち物と得意の舌先三寸嘘八百で物々交換や売却を行い、日銭を稼いでいた。
(…にしてもホントどうなってんだココは?字は読めねェし、通貨は違うし、海軍も全然見ねェし…)
そんなことを考えながら歩いて行くと、街の門が見えてきた。
(あれが茶店のオヤジが言っていた街かな?結構デカいな…)
ウソップが門を通ろうとすると…
「止まれ!」
「⁉」
門番に呼び止められた。
「キサマ、随分珍しい恰好をしているが…異国の者か?」
「は、はい!そうですが何か…?」
「……どう思う?」
「怪しいが、あまりにも目立ち過ぎないか?特にあの鼻」
「確かに…いくら何でも、あんなに目立つ奴なワケないか」
(…………?)
内心ビクビクしているウソップをよそに、2人組の門番は何やら相談し…
「あー…失礼したな。通っていいぞ」
「あ…そ、そうですか…」
とりあえず許可を得られたので、ウソップは街に入った。
(何だったんだ?)
▽
~その夜~
「ふ~食った食った!」
ウソップは一軒の飲食店で、食事を済ませた。
「あらまあ。綺麗に平らげてくれたね」
店の女将が1人、急須を持ってやって来た。
「お茶のお替りはいかが?」
「ああ、もらうよ。ありがとう」
「アンタ見慣れない格好してるけど、旅人かい?」
「まァ、そんなところだ」
お茶を注ぎながら、女将は話しかける。
「ひょっとして、アンタも明日の行列を見に来たのかい?」
「行列?」
「違うのかい?」
「何なんだ?その行列って?」
「実はね、ここの領主様の娘さんが、近くの町の領主様の三男と結婚するんだよ。
それで明日の昼過ぎに、婿入りしてくる息子さんの行列が、この店の前の大通りを通るのさ。
その行列がとても豪華なうえ、そのお婿さんがかなりの美形らしくてね。
噂を聞いて『それはぜひ見てみたい』って近隣の村からも人が集まって来てるんだよ」
「へ~結婚か、そりゃめでたいな!」
「ただねェ…」
「?」
突然、女将の表情と口調が暗くなる。
少し辺りを見渡した後、女将は顔を近づけて小声で話し出した。
「最近、妙な噂があるんだよ…」
「噂?」
「領主様の身内だか側近だかに、結婚に反対している者がいるらしいんだよ…。
それでそいつらが婿入りしてくる息子さんを、暗殺しようとしてるらしいんだ…」
「そ、そりゃ物騒だな…」
「せっかくの晴れ舞台に、いやになっちゃうよ…」
「あ!それでこの街に入ろうとした時、門番がおれを呼び止めたのか」
「ああ。その噂が流れ始めてから、領主様達も相当警戒してね。明日も十分な警備をつけるらしいよ」
「う~む…事前に計画を漏らすような奴らの暗殺が、成功するとは思えないが…。嫌な予感が拭い切れねェな…」
「まったくだよ…殺したり、殺されたり…もっと平穏に暮らせる日々が欲しいよ…」
▽
~翌朝~
「ん~いい天気だな~」
ウソップは朝早くに、宿泊した宿を出た。
(こりゃ結婚にはもってこいの日だな。さてと、おれもどっかで路銀稼ぎを…)
そんなことを考え、辺りをキョロキョロ見渡していると…
「あーっ!返せーっ!」
「⁉」
そんな声が聞こえ、見てみると髪飾りを売っている店の店主らしき人物が、空に向かって叫んでいた。
視線の先には、光るものをくわえたカラスが飛んでいる。
どうやらカラスに商品を盗られてしまったらしい。
(そういうことか!)
状況を理解したウソップは、自身の武器である特性パチンコ“カブト”と鉛球を取り出し、狙いを定める。
「(当てて殺しちまったら、後味悪ィな…。ここは頭スレスレを狙って、風圧で気絶させる!)必殺“鉛星”!」
そして鉛球を放つ!
鉛球は一直線に飛び、狙い通りカラスの頭の近くを通過する!
が…
「…え?」
その時、空に放たれたのは、ウソップの鉛球だけではなかった。
1本の矢が同時に、カラスの頭の近くを通過していったのだ。
ウソップの狙い通り、カラスは風圧によって気絶し、地面に落ちてきた。
「おっと!」
すかさずキャッチしたウソップは、同時に辺りを見渡す。
(あ!)
すると、近くの宿屋の2階の一室で、1人の女が窓を閉じるのが見えた。
そしてその女の傍らには、弓あった。
▽
「ほらよ」
「ありがとうございます」
ウソップは、カラスから取り返した髪飾りを店主に返すと、改めて矢を放ったと思われる女がいる宿屋の方を向く。
(矢が飛んできた方向から考えても、やっぱりあの女が撃ったよな…。
カラスを狙って狙いがそれたのか、それともおれと同じように風圧で気絶させることを狙ったのか…………!)
…と、そこでウソップの頭にある考えが浮かんだ。
(き、昨日女将が言っていた…)
―――――それで明日の昼過ぎに、その息子さんの行列が、この店の前の大通りを通るのさ
例の行列が通る大通りと、女がいる宿屋を交互に見る。
大通りと直角に交わるように、一本の通りがある。
そしてその通りは、例の女がいる宿屋の真正面に伸びていた。
しかも、その女がいた部屋は、丁度通りに面している。
無論、宿屋から大通りまではかなりの距離がある。
しかし、ウソップは思った。
(おれなら…当てられる…!)
そして、先ほどの女が自分と同じように、カラスの頭スレスレを狙って撃ち、それを成功させたのだとすれば…
(あの女も…同じことが…!)
確信があるわけではないが、彼の勘は『間違いない』と言っていた。
(よ、よォし…!)
その結論に至ったウソップは…
(おれは何も知らな~い…何も気付いていな~い…知らぬ存ぜぬ~知らぬ存ぜぬ~…)
“見て見ぬフリ大作戦”を決行し、街から出て行こうとする。
が…
(だーっ!ダメだダメだ!ここまで色々気付いて、見て見ぬフリはやっぱりできねェ!)
頭を左右に激しく振り、逃げたい気持ちを振り払うと、ウソップは宿屋の方を向く。
(ま、まだそうと決まったワケじゃねェんだ!とりあえず話だけ聞いてみよう!)
そして、例の女を訪ねてみることにするのだった。
▽
~宿屋の一室~
「私に客?」
「はい…どうしましょう?」
「…わかりました。連れてきてください」
▽
「…さっき、私が弓を撃ったのを見てたんですか?」
「ああ。それで、同じ狙撃を得意とする者として、ぜひ話してみたいと思って」
「そうだったんですか」
ウソップが訪ねてみると、女は会うことを承諾してくれた。
ウソップよりもやや年上で、紫色の腰まで届く長い髪をしており、まさに大人の女性という雰囲気がある女だった。
部屋の中には弓が一つと、数本の矢が入った矢筒がある。
「おれは“ウソップ”。旅人だ」
「私は“
何だかさすまたのような物を持っていますが、それがウソップさんの得物ですか?」
「ああ。こいつは“パチンコ”っていって、ここに石とかを乗せて、それを…こう飛ばして撃つ武器なんだ。
こいつは、さらにおれが特別な改造を施した物で“カブト”って名前だ」
ウソップは実際にカブトを手に取り、狙撃の動作をやって見せる。
「そんな武器があるんですか…。あ!失礼しました。今、お茶を入れますね」
「あ…いや、いいよ。おれが無理やり押し掛けたのに…」
「いえ、遠慮なさらず」
「…じゃあ、お言葉に甘えて」
黄忠が台所に立つと、ウソップは窓を開けて話し出した。
「それにしても今日はいい天気だな~。大通りの方までよく見える」
「!」
「黄忠さんは知ってるか?今日の昼過ぎにあの大通りを、ここの領主様の娘に婿入りしてくる、息子さんの行列が通るんだってよ」
「…噂で聞きましたわ」
「けど、そのお婿さんの命を、狙っている連中がいるらしいぜ」
「…物騒ですね」
「まァ、しっかり警備もされているらしいから、大丈夫だとは思うけどな」
「…そうなんですか」
「しかしこっからじゃ、大通りを通る人の頭は、豆粒みてェだな」
「…遠いですからね」
「多分警備の連中も、こんなに離れた所から、動く人間の頭を狙い撃ちするのは、不可能だと思ってるだろうな」
「…そうですね」
「まァ確かに、それは飛んでいる鳥の頭の近くを、当てないように狙って撃つくらい、難しいだろうな」
(……バレてる)
そう考えた黄忠は、包丁を手に取り、素早く振り返る!
が…
ボン!
「⁉ゲホゲホ…」
小さな破裂音と共に、辺り一面に白い煙が広がり、前が見えなくなる。
「ゲホゲホッ……こ、これは⁉」
「このパチンコの一番の利点はな…ある程度の大きさの物なら、何でも撃つことができるってことだ…」
「!」
「だからこんなふうに、弾に色々な細工をすることができるんだよ!」
煙幕が晴れ、視界が戻った黄忠の目に映ったのは、パチンコで自分の頭に狙いを定めているウソップの姿だった。
「今構えているのは、当たり所によっては一発で致命傷を与える弾だ!脅しじゃねェぞ!」
「……っ!」
観念した黄忠は、包丁を床に置いた。
▽
その後、ウソップが黄忠から事情を聞くと、とんでもないことが分かった。
「ええっ⁉娘さんが誘拐⁉」
「はい。数年前に主人を亡くした私は、幼い娘の“
ある日、私が用事で隣の村へ出かけて、家に帰ると璃々の姿がなく、代わりに一通の置手紙があったんです。
手紙には『娘を返してほしければ、我々の言う通りにしろ。変な考えを起こせば、娘の命はない』と書かれていました。
それで、私が手紙に書かれていた、待ち合わせの場所に行くと…
『…娘は無事なんですか?』
『今のところはな。キサマが我々の言う事を聞かなければ、すぐに死んでしまうがな…』
仮面をつけて、妙に立派な剣を腰に付けた男が一人いました。
『私に何をしろと…?』
『仕事一つ頼みたいのだ』
そして、今日ここの行列で、婿入りしてくる男を殺せと…」
「ひでェな…」
「どんな理由であれ、何の罪もない人の命を、こんな卑劣なやり方で奪うなんて…許されることではないかもしれません…。
でも、璃々は…私のたった一人の…大切な家族なんです…!
あの子を助けるには…こうするしか…!」
「…………」
涙を浮かべて訴える黄忠を見て、ウソップは何も言えなくなってしまう。
その時…
「……ん?」
部屋の隅にある棚の上に置かれた、数枚の紙がウソップの目に入った。
紙には、子供が描いたような絵が描かれている。
「なァ、これ何なんだ?」
「それは昨日、誘拐犯の仲間が持って来た絵です。娘が生きている証拠として、描かせた物のようで…」
「ふーん…」
何となくその絵を手に持って見てみるウソップ。
(花と木それに猫…この髪が長い女の人の絵は、黄忠を描いたのか。
じゃあこっちの髪を結んでいる女の子の絵は、自分を描いたのか?………ん?)
ウソップはその内の一枚の絵が気になり、黄忠に訊ねた。
「これは誰をかいたんだ?」
ウソップ見せた紙には、アゴひげを生やした男が描かれていた。
「それはわかりません…」
「わからないって…知ってる人じゃないのか?村の近所の人とか…」
「いえ、そのような男性は全く記憶になくて…」
「う~む…」
黄忠の言葉を聞き、ウソップは絵を凝視して考え込む。
「あの…その絵がどうかしましたか?」
「あんたの娘さんて、まだ幼いんだろ?」
「はい…」
「そんな小さい子が、ここまでちゃんとした絵を…ましてや、会ったこともない男の顔を描けるもんなのか…?
心なしか、あんたの絵や自画像よりも、上手に描けてる気がするし…」
「どういうことです?」
「もしかしてその子、監禁されている場所で、この男を見ながら描いたんじゃねェのか?」
「え?じゃあまさか、この男が誘拐犯⁉」
「いや、さすがに誘拐犯の仲間の顔を描いたものなら、渡したりはしねェだろうから…多分監禁場所の近くにこの男が…。
それにこの絵の男、どっかで見たような………。
あ!思い出した!おれが昨日寄った、茶店の店主だ!」
「え⁉」
「そういえばあの茶店、向かいに廃屋があったような…まさかそこに…」
「娘の居場所に心当たりがあるんですか⁉」
「⁉」
ウソップの言葉を聞き、黄忠は興奮した様子でウソップの両肩をつかみ、問いかける。
「どこですか⁉教えてください!すぐに私が行って娘を…!」
「落ち着け!誘拐犯に顔が知られているあんたが行ったら、それこそ娘さんが危ねェだろ!」
勢いに押されそうになりつつも、ウソップはなんとか黄忠を制止させる。
「そ、そんな…!」
「おれが代わりに行ってくるから、あんたはここで待ってろ!」
「え…?」
「幸いここからあの茶店まで、そんなに距離はねェ!上手くいけば、行列が始まる前に間に合うはずだ!」
そう言うなりウソップはパチンコを手に取り、急いで戸口へ向かう。
「あ、あの…!」
「何だよ⁉」
「ど、どうして…?」
「?」
「今、会ったばかりの…私のために…?」
当然のように、自分の代わりに娘を助けに行くと言った、ウソップの言動が信じられないらしく、黄忠は訊ねる。
「…おれの…誇りのためだ!」
「え?」
「あんたみたいな心優しい母親が、娘を人質に取られて、人殺しをさせられそうになってる…。
こんな状況を見て見ぬフリなんてしたら…おれはもう胸を張って生きられねェ!
故郷の友達にも、おれの仲間にも顔向けできねェ!
だからやるんだ!おれ自身のために!」
そう言って、ウソップは部屋を飛び出していった。
今回は黄忠とウソップの話でした。
ウソップ海賊団のことがあるからか、ウソップって子共の面倒見が良さそうなイメージがあるんですよね。