ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
「………誇りのため…」
ウソップが出て行ったあと、黄忠はしばらく呆然としていたが…
「入るぞ」
「!」
1人の男が部屋に入ってくると同時に、我に返る。
「……何の用ですか?」
「頭から、首尾を見届けて来いって言われてな」
「…そうですか」
どうやら、誘拐犯の仲間のようである。
(危なかった…。もし私が飛び出して行ったら、この男に…)
黄忠は、娘のことをウソップに託し、自分はただひたすら待つことにした。
▽
~???~
数人の男が話をしていた。
「何も異常は無いか?」
「全く。なさ過ぎて退屈なぐらいだ」
「コトが上手くいったら、コイツはどうすんだ?」
男の1人が、部屋の隅でうずくまっている、幼い少女を指してそう言う。
「『とにかくトンズラすることを優先しろ。ガキはどうでもいい』だってさ」
「頭は今頃何をやってんのかね~?」
「な~んか上手いことを考えたから、それの準備をしてるそうだが…」
▽
(…ビンゴだ!)
その男達のやりとりを、ウソップが壁に張り付き、壁の穴から覗き見ていた。
彼の予想通り、昨日彼が立ち寄った茶店の向かいにある廃屋、その2階に短い紫色の髪を、左右で2つ縛りにした少女が監禁されていた。
(あの絵の女の子に髪型が似てるし、髪の色が黄忠と同じだ。あの子が娘の璃々ちゃんだな…!
にしても、“オクトパクツ”があってよかったぜ…。
まさかあいつらも2階の壁に張り付いて、覗いている奴がいるとは思うまい…!)
そう、ウソップは彼の発明品である、“オクトパクツ”という吸盤付きの靴を使い、壁に張り付いていたのだった。
(しかし、どうしたもんか?相手は1階に5人、2階に3人。
行列が始まるまで時間がねェ…かといって失敗すれば、あの子が………ん⁉)
悩んでいたウソップの目に、反対側の壁にある1つの窓が映った。
人1人が出入りするには、十分な大きさがある。
そして、誘拐された少女は、窓の近くにいた。
(…よし!これで行くしかねェ!覚悟を決めろ男ウソップ!)
ウソップはそう自分に言い聞かせると、弾を一つ取り出し…
(必殺“煙星”!)
部屋の中に投げ込む!
ボン!
「⁉ゲホゲホっ!」
「な、何だァ⁉」
(今だ!)
誘拐犯たちが混乱しているすきに、ウソップは部屋に飛び込み…
「こっちだ!」
「え?」
少女を連れ出し…
「トウッ!」
窓から飛び出す!
「フゲゴッ⁉」
ゴシャァ!
そして見事に、頭から着地した。
それでも、少女にはケガをさせずに守り切った。
「……お兄ちゃんだいじょうぶ?」
「……あ…ああ…ダイ…ジョーブだ…」
どう見ても大丈夫ではない様子でウソップは答える。
「どうした⁉何があった⁉」
「おい!ガキがいねェぞ!」
(!気付かれた!)
廃屋の中からそんな声が聞こえ、ウソップは急いで立ち上がる。
「見ろ!アイツだ!」
「あいつがガキを連れ出しやがった!」
「急げ!」
誘拐犯達もウソップに気付き、追いかけようとする!
「捕えろーーーっ!」
「「「「「「「おーーーっ!」」」」」」」
勢いよく廃屋の入り口から飛び出してくる誘拐犯達!
(もう来やがった!……だが、入り口はすでに―――まきびし地獄だ!)
「「「「「「「「痛だだだだだーーーっ!」」」」」」」」
飛び出してきた誘拐犯達は、思いっきりまきびしを踏ん付けてしまい、その場で足を抱え跳びあがっていた。
「今だ!くらえ必殺“火の鳥星”!」
そして鳥の形をした炎の弾を打ち出すウソップ!
「ぎゃーっ!」
「な、何だ今の⁉」
「よ、妖術か⁉」
「化物だ!」
「絶対そうだ!アイツの顔、どう見ても人間のモノじゃねェ!」
「うるせーーーっ!」
思わずツッコむウソップ。
しかし、その顔のこともあってか、誘拐犯達は大慌てで逃げて行った。
「ふー…なんにせよ救出は成功…」
深呼吸を一つするとウソップは立ち上がる。
「君が璃々ちゃんだな?」
「う、うん」
「急いで帰ろう。お母さんが待ってるぞ」
「…お母さんが!」
▽
~宿屋~
「そろそろだな」
「…はい」
男に言われて、黄忠は弓を用意する。
(ウソップさん…)
▽
(頼む!間に合ってくれ!)
璃々を抱きかかえ、村へ急ぐウソップ!
▽
「構えろ」
「…はい」
狙いを定める黄忠。
▽
走りながら、ウソップは考えていた。
(マズイな…!もし行列がまだだとしても、見物人はもうかなり集まってるだろうし…!
宿屋まで行ってたら間に合わなねェぞ、どうする?……そうだ!)
▽
婿らしき、傘のついた馬車に乗った人物が、宿屋の窓から見えた。
「来たな。頼むぞ」
「は、はい…」
矢を
▽
ウソップが街に着いた頃には、彼の予想通り、見物人による人混みが出来ていた。
警備の人間もおり、大通りを横切ろうとすれば、不審者として取り押さえられてしまうだろう。
(あそこから狙ってるなら…あの辺りからなら…!)
街に着いたウソップは、行列が通る大通りと平行に走り出す!
▽
「おい!何をやっている!」
黄忠は、できるだけ矢を撃たず、待っていたが…
(これ以上は…もう無理…)
あきらめて、再び狙いを定めようとしたその時…
「!」
鼻の長い青年に抱きかかえられ、こちらに手を振る自分の娘の姿が、目に映った。
(あ…ああ…!)
「おい!どうし…」
「っ!」
バキィッ!
「がっ⁉」
黄忠に振り返りざまに殴り飛ばされ、誘拐犯の一味の男は気を失った。
その後、結婚式は無事に終わった。
誘拐犯の大半は逃げてしまったが、黄忠が捕まえた1人の男は役人に引き渡された。
その男の口から、今回の暗殺を企てた、領主の側近のこともバレ、逮捕されたのだった。
▽
その後、街の外にて―――
「ウソップさん…本当に何とお礼を言ったら良いのか…」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「いいよ、お礼はもう十分すぎるほど、言ってもらったし。
それに言っただろ、おれは自分のためにやっただけだって」
「あの…ウソップさんはこれから、どうするつもりなのですか?」
「また、旅を続ける。逸れちまった仲間がいるから、まずそいつらを探さねェと」
「よろしければ、私達も同行させてもらえないでしょうか?」
「え?」
「実は、私達が暮らしている村も、治安が悪くなってきて、離れる住民が増えていたのです。
だから、私と璃々も近いうちに村を離る予定だったのです。
どこに行くか、行き先も決まっていませんでしたし、ウソップさんが他国から来た方なら、この辺りのことに詳しい私は、きっと力になれると思います。
どうでしょうか?」
「気持ちは嬉しいんだけど…一つ問題があってな…」
「問題?」
「おれは…海賊なんだ」
「え⁉」
「いくら何でも、賊なんかと一緒にいたら迷惑がかかるし、あんた達だって嫌だろう?だから…」
「…いいえ、私は構いません」
「え⁉」
「たとえ海賊でも、ウソップさんは私達を助けてくれました。
自分の誇りのためだと、自分の仲間に顔向けできないと言って。
それに今の世の中では、賊だとか役人だとかいうのは、あまりアテになりませんから…。
だから、私はウソップさんとその仲間を信じます。
璃々もそれで良い?」
「うん!お兄ちゃんわるい人じゃないもん!」
「…そういうわけですから、同行させてもらえないでしょうか?」
「…そうか、ありがとうな。それじゃあ、よろしく頼む」
「はい、では改めて自己紹介を…。私は“黄忠漢升”、真名は“
これからはどうぞ、紫苑とお呼びください」
「璃々は“璃々”でーす!」
「おれは“ウソップ”。“紫苑”、“璃々”ちゃん、これからよろしくな!」
こうして、ウソップ、紫苑、璃々の3人旅が始まったのだった。
麦わらの一味で子供の相手が上手くできそうなのって、ナミ、ウソップ、ロビンだと思うんです。
あとは、チョッパーとブルックが出来なくもないかなといった感じです。
そのため、紫苑、璃々と行動させるのは、この3人の誰かにしようと思っていました。