ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
~涼州、隴西郡~
その森の中の少し開けた場所で、ゾロは焚火の番をしていた。
翠は用事があると言って、席を外していた。
「おい、お前!」
「あ?」
2人の兵士が声をかけてきた。
「今この辺りでは二人の罪人を探している。容貌はこの人相書に書いてある」
そう言って役人は、小さく折りたたんだ紙を2枚渡してきた。
(手配書みたいなモンか?)
「連行してきた物には莫大な褒美を与えるそうだ。
情報だけでもいい。何か手掛かりがあったら、役所に通達するように。良いな?」
「ああ、わかった」
「それでは」
役人は去って行った。
「罪人か…いったいどんな奴だ?」
ゾロはその人相書を広げてみた。
「ん?」
▽
~その頃―――近くの河原~
「でりゃァっ!」
ガキン!
翠は、小さめの岩に槍を突き立てていた。
「くっそ~!ダメだ、全然刺さんねェ…」
息を整えながら、翠は以前、自分が華琳に捕まった時のことを思い出す。
(あの時…
『……今は頭は冷えたのか?』
『え?』
『どうなんだ?』
『まあ、だいぶ落ち着いたけど…』
『そうか、ちょっと伏せていろ』
『へ?』
『いいから伏せろ』
『?』
翠が言われた通り伏せると、ゾロは刀を1本抜き…
スパン!
『えっ⁉』
翠が閉じ込められていた鉄の檻を切り裂いた。
『他の奴にバレねェようについて来い。勝手なことはするな』
『…あ、ああ』
そしてゾロと翠は一緒に天幕を出ていった。
…鉄の檻を野菜みたいに斬ってみせた…あれができれば…)
それから翠は、その特訓として手ごろな岩を見つけては突き刺していた。
無論、ゾロ本人にもコツは訊いてみたが…
―――――鉄を斬るためには、
…としか答えなかった。
(ゾロが言っていたアレ…一体どういう意味なんだ?)
翠は特訓を止め、ゾロの所に戻ることにした。
▽
「ただいま~」
「おう」
「ん?ゾロ、何だその紙?どうしたんだ?」
「ああ、実はさっき…」
ガサッ
「「!」」
物音が聞こえ、2人は会話を止める。
「「…………」」
得物を手に取り、周囲を警戒する2人。
ガサガサ…
「…誰だ?」
「…どこにいる?」
翠がそう言ったその時…
「ここにいるぞ~っ♪」
「「⁉」」
手を高く上げ、何者かが近くの茂みから飛び出してきた。
「何だコイツは⁉」
「…おま…“たんぽぽ”ォ⁉」
「は?タンポポ?」
「翠姉様ァーっ!やっと見つけたァーっ!」
飛び出してきた何者かは、そう叫び翠に抱き着いた。
▽
「…で翠、何なんだコイツは?」
飛び出してきた少女は、翠に比べて明るい茶髪をサイドテールにしており、年齢は翠より年下である。
眉毛が太めで、顔立ちが何となく翠に似ている。
「こいつはあたしの従妹の“
「お姉様、この人誰?」
「こいつは“ゾロ”って言って、あたしと一緒に旅している異国の武芸者さ」
「へー…」
「?」
じろじろとゾロを見る蒲公英。
「…で、たんぽぽ。何でお前がこんな所にいるんだ?」
「そうだった!姉様、大変なの!」
「「⁉」」
▽
「隴西郡が占領された⁉」
「うん、一ヶ月くらい前に“
次々と城を落とされて、“
「誰だその2人は?」
「あたしの妹だよ。“鶸”は“
「たんぽぽは何とか逃げられたんだけど、その後もあちこちに監視の目があるから、見つからないようにするの大変だったんだよ…」
(そのワリには、派手に出てきたような気もするが…ん?)
…と、そこでゾロは先ほど役人から渡された人相書を思い出す。
「じゃあこれはそう言う事だったのか」
「それって…」
「さっきゾロが見ていた紙だよな?」
「お前がどっか行っている間に、役人が渡してきた人相書だ。お前ら2人の名前が書いてあったぞ」
「何だって⁉」
思わずゾロの手から、人相書をひったくり見てみる翠。
次の瞬間…
「…………」
翠は人相書を見ながら震えだした。
「…ゾロォ…」
その声と表情には悲しみが満ち溢れている。
蒲公英も人相書を見てみると…
「うわ…コレ…似せる気あるの…?」
その人相書には、次のような文が書かれていた。
『罪人“馬超孟起”並びにその従妹“馬岱”、この二名を捕えよ。
捕えた者には黄金千斤を与える。情報を提供した者にも報酬を与える。
特徴は“太い眉”と“茶色く長い髪”。馬超はその髪をうしろで、馬岱は本人から見て左側で結っている』
そしてその隣には2人の似顔絵がそれぞれ描かれているのだが…
「これが…あたしか?あたしって…こんなもんなのか?」
「…まァ確かに…こんなもんかもな…」
「□×∀◆$&#*@▲㊙〒※◎☆~~~…」
「言葉にしろ…わからねェ…」
その似顔絵がとにかくひどかった。
無論ゾロ達の世界と違い、写真があるわけではないので、完全に同じというワケにはいかないが、それでもひどかった。
まるで落書きのような人相書だった。
「そりゃあさァ~…あたしは醜い方だけどさァ~…コレはないだろォ~…せめてもっと人間の顔に見えるようにしてくれよォ~…」
そう嘆きながら地面に倒れ込む翠。
「いや、そこまで醜くはねェから立てよ」
「は…?」
悲しみの海に沈む翠に声をかけるゾロ。
「何言ってんだよ…ゾロだってさっきあたしの顔はこんなもんだって…」
「そりゃこの文に書いてある特徴だけ聞いたら、こんなもんだろうって話だ。
むしろお前は、十分美女に入る顔立ちしている方だと思うぞ?」
「…………」
「…………」
「◎※□■〒%$♂♀☆〇×◇~~~っ!」
「だから言葉にしろっつってんだろ!わかんねェ!」
(へ~~~…♪)
顔を真っ赤にして慌てふためく翠とゾロのやりとりを見て、ニヤニヤする蒲公英だった。
「んんっ!…で、話を戻すけど、鶸と蒼は韓遂に捕まってるんだな?」
「うん。たんぽぽとお姉様を捕まえてから、まとめて処刑しようとしているみたい」
「つまりまだ殺されてはいねェんだな?馬岱」
「その通りだよ。
あ、ゾロさんもたんぽぽのことは“蒲公英”でいいよ。翠姉様が真名を預けているみたいだし」
「そうか、わかった。…で、“蒲公英”どこに捕まっているかはわかるのか?」
「うん、ここからそんなに離れていないよ。あと、韓遂もそこにいるよ」
「まずはそこまで行ってみるか…」
▽
~
「あの城にいるのか…」
3人は一つの城の近くまで来て、木陰に隠れて様子を見ていた。
「城にいる兵士たちは皆韓遂に寝返っているよ。金城郡、隴西郡の他の城も全部そう。
だからこの城を取り戻したとしても、韓遂を逃がしたらまた大軍を連れて戻ってくるよ」
「鶸と蒼がまだ生きてるって聞いたときは喜んだけど、実際は人質として生かしてあるだけなんだろうな…」
「斬りこむか?」
「「いやちょっと!」」
ゾロの提案に2人はツッコんだ。
「話聞いてたのか⁉明らかにこっちに不利過ぎる状況だろ!色々と!」
「普通に斬り込むとかバカなの⁉翠姉様以上の脳筋なの⁉」
「誰が脳筋だたんぽぽ!」
「…………」
「とにかく、まず何か作戦を考えないと!あたしが何か考えるから、もう少し待て!」
「お姉様に考える脳みそなんてあるの?」
「それでも考えるから待てって!…ってどういう意味だたんぽぽ!」
「……そのまんまの意味?」
▽
~安故城、城内~
謁見の間の玉座にナマズのような髭を生やした男、韓遂は座っていた。
「馬岱と馬超はまだ見つからないか?」
「はい。申し訳ありません」
「まァいい。人相書も手配した。あとは時間の問題だ。
我々は後々、他の郡への攻撃も開始する。同時進行で準備を整えておけ。ぬかるなよ、“
「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」
韓遂の言葉に、旗本八旗と呼ばれた8人の男達、“
いずれの者も筋肉隆々、背丈は2メートル近くあり、とても強そうである。
「韓遂様!」
1人の兵士がやって来た。
「何だ?」
「馬超と馬岱が捕まりました!」
「まことか⁉」
▽
しばらくすると、1人の男が縛られた翠と蒲公英を連れてきた。
「うむ!まさしく馬超と馬岱だ!」
「この野郎!だましたな!」
「馬超軍の残党だからかくまってやるとか言って!」
「馬超様…」
「馬岱様…」
元々は馬超達の家来だったのか、周囲の家来達が何人か悲し気な表情をする。
「良いざまだな馬超、馬岱!明日の正午に馬休、馬鉄と共に公開処刑だ!
せめてもの情けだ、今夜は同じ牢獄で、最後の時を過ごすがいい!
お前には後で報酬をやろう。それから明日の処刑後の宴にも招待しよう」
「そりゃありがてェ」
「二人を牢へ連れていけ!それからこの男に部屋を用意しろ」
「はっ!」
▽
「今夜はここをお使いください」
「悪ィな。ついでにちょっと訊きてェんだが…」
「何でしょうか?」
「ついでだから、あの馬超って女の妹のツラを見ておきてェんだが、あいつらを入れた牢屋ってのはどこにあるんだ?」
「それでしたら、この城の南東の一番端っこにあります」
「そうか、わかった」
「では、ごゆっくり」
そう言って部屋に案内した従者がいなくなるの見ると、翠と蒲公英を捕まえてきた男、ゾロは部屋を出て行った。
▽
~牢獄~
そこに2人の少女が捕まっていた。
「「…………」」
どちらも翠にと同じ太い眉、髪型も同じポニーテールだが1人は翠よりもやや低め、もう1人はやや高めの位置で結っている。
前者が馬休こと鶸で、後者が馬鉄こと蒼である。
「おいキサマら、今日この牢獄に囚人が二名追加されることになった」
「え?」
「連れて来い!」
そして連行されてきたのは…
「お姉ちゃん⁉蒲公英⁉」
「明日の正午、キサマら四人は処刑される。せいぜい今夜は、悔いのないように過ごすのだな」
兵士達は見張りを残して去って行った。
「姉さん…蒲公英…どうして…」
「鶸、今は何も聞かないでくれ…」
▽
~安故城、とある馬小屋~
「ほれ、たんとお食べ」
1人の男が馬に餌をやっていた。
「お前達も残念だろうな…あんなにお前達を大切にしてくださった、馬超様達が処刑されてしまうなんて…。おれも悲しいよ…」
「おい、そこのお前」
「ん?」
いつの間にか、戸口に一人の男が立っていた。
「この城の南東にある牢獄に行きてェんだが、どう行けばいい?」
「南東の牢獄?だったら、ココを出て左にずーっといった後、突当りを右に真っ直ぐ行けば着くぞ」
「そうか、ありがとう」
男は出て行った。
「誰だったんだ一体?」
馬の飼育係は仕事に戻るが、ふと手を止める。
「…おれ左に行けって言ったのに、あの男、今右に行かなかったか?」
▽
~牢獄~
「ねェお姉様…」
「何だよたんぽぽ?」
「ずっと聞きたかったんだけどさ…お姉様とあの男の人ってどういう関係なの?」
「どういう関係って…」
「え⁉男⁉」
途端に目を輝かせ、話に食いつく蒼。
「何⁉ついにお姉ちゃん恋人ができたの⁉」
「は、はあァ⁉」
顔を赤らめ、慌てふためく翠。
「ばっ…な、何言ってんだ⁉そ、そんなわけないだろ⁉」
「え~違うの⁉お姉様が男と一緒にいるなんて、今まで考えられなかったから、たんぽぽてっきり…」
「あたしは武者修行してるんだっての!」
「え~でも結構いい男だったじゃんあの人。それに年頃の男女が二人っきりで旅してるのに何もないなんて…」
「へ~かっこいい人なんだ…」
「そういうんじゃないっての!そ、それに…あたしがそんな風に見られるわけないだろ⁉」
「でもあの人、翠姉様は十分美人に入るって…」
「あ、あんなの冗談に決まってるだろ!る、鶸もなんとか言ってくれよ!」
「…私としては、姉さんにはこうなる前に身を固めて欲しかったんだけど…」
「~~~っ!」
▽
~馬小屋~
「おい!ちょっと道を訊きてェんだが、南東にある牢獄ってのにはどう行けば…」
「ああ、それなら…ってアンタさっきの…」
「あ?」
▽
~牢獄~
「年頃の男女が二人っきりで旅…♪」
「もう逢引っていうか、駆落ちだよね~♪」
「だから違うっつってんだろ!」
ちなみに馬家の女子達による恋バナが続いている間、牢番達はというと…
「おい、あんな好きに会話させておいていいのか?」
「いや、でも…もうちょっと続き聞きたくねェか?」
「確かに…」
どうやらこの牢番達、結構恋バナ好きのようである。
「え~?じゃあ子作りとかも一度もしていないの?」
「するかァ!」
「混浴とか裸の付き合いは?」
「してない!」
「接吻も?」
「してない!」
「抱きしめたりとかは?」
「してな……」
そう言いかけて翠は、華琳の陣でゾロに泣きながら抱き着いたことを思い出す。
「…………っ!」
「「したんだ…♪」」
「ち、違う違う違う!アレはその…そういうのじゃなくてこう…アレなやつで…!
そもそもあたしとあいつはそういう関係じゃなくて…!」
「でもそれって今の話でしょ?」
「そうそう♪これからどうなっていくかなんて、わからないワケだし~」
「ただの師弟関係だったのが、いつの間にか恋愛感情が芽生えて…」
「『おれ…いつの間にか師匠のこと、武人ではなく一人の異性として好きになっていました』的な…」
「だからちっが~う!それに…」
「それに?」
「師弟関係っていうんだったら…あたしの方があいつの弟子だ」
「「「…え?」」」
▽
~馬小屋~
「おい!この城どんだけ馬小屋があんだよ⁉」
「そんなにたくさんねェよ!アンタが何度も戻って来てるだけだろ⁉」
▽
そして時間は流れ…
~安故城、謁見の間~
「韓遂様、そろそろ…」
「ああ、馬超達の処刑の準備を始める!四人を連れて来い!」
▽
~馬小屋~
「…………」
「…………」
「…またアンタか」
「…おいお前」
「悪いけど、おれはもう行くよ。そろそろ馬超様達の処刑が始まるんだ。西涼の民として、ちゃんと見届けておきたいから…」
「何⁉もう始まんのか⁉」
「え?」
「もう
「あ、ああ…」
▽
~安故城、中央広場~
そこに処刑台が用意され、韓遂と旗本八旗をはじめとしたその部下達がいた。
そして縄で縛られた翠達が連行されてきた。
「馬超様…馬休様…馬鉄様…馬岱様…」
「何てことだ…」
「これも乱世の定めなのかね…」
処刑台を囲う領民、兵士達にも悲し気な空気が漂う。
「ねェ翠姉様…本当に大丈夫なの?たんぽぽ今更だけど不安になって来たよ…」
「あたしも心配だけど、もうどうにもなんないだろ⁉覚悟を決めろ!」
「姉さん?蒲公英?」
▽
「ほら、あそこだよ」
「助かった!よォし!」
▽
「ではこれより、処刑を開始する!」
そして処刑人が剣を構える。
その時…
「どけェ!」
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
何者かの声が響き…
「“百八
ドッゴォォォォォン!
斬撃が飛び、処刑台を切り崩す!
「「「「「「「「「「ぐわァ⁉」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「キャーッ⁉」」」」」」」」」」
「間に合ったか⁉」
「遅いんだよゾロ!」
そして斬撃を放った張本人、ゾロは翠達に駆け寄り縄を斬る。
「え?どういうこと?」
「こういう作戦だったんだよ」
疑問符を浮かべる鶸に蒲公英が説明する。
「鶸と蒼が人質に取られているうえ、韓遂に逃げられたら大変なことになるからさ。
姉様とたんぽぽがわざと捕まって、あの人が四人まとめて助けて、それから韓遂を捕える作戦だったの。
本当なら処刑が始まるずっと前に助けるハズだったんだけど…」
「この城が複雑すぎるんだよ!全然牢屋にたどり着かなかったぞ!」
「やっぱり迷ってたのかお前!」
「あの男、馬超達を連れてきた奴じゃあ⁉」
「最初からこのつもりだったのか⁉」
「ひっとらえろ!相手はたかが五人!あの男もまとめて処刑だ!」
「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」
そして韓遂の兵士達が一斉に襲い掛かる!
「まァとりあえず…」
「反撃開始だな!」
「鶸!蒼!戦える⁉」
「当然!」
「行っくよー!」
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