ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第十席編です。




第43話 “江東の孫家”

「くんくん…」

 

「どうした鈴々?そんなに鼻をひくつかせて?」

 

「何か、空気の匂いが変わったのだ」

 

「ここはもう長江の近くですからね。河の水の匂いが、空気に混ざっているんでしょうね。

もっと東に行けば、潮の匂いもしてくると思いますよ」

 

ルフィ達一行は、揚州に入っていた。

 

「ここ、海が近いのか?」

 

「はい。ここ揚州は大陸の東端にある州の一つで、その先には海が広がっています」

 

「そっか~海か~…」

 

海と聞いて、元の世界で船旅をしていた時の懐かしさがこみあげてきたのか、嬉しそうにするルフィ。

 

「む?」

 

「どうした愛紗?」

 

「何か聞こえたような?」

 

「ん?」

 

愛紗に言われルフィ達も耳を澄ましてみると…

 

「…かかれー…」

 

キィン…

 

「おおーー…」

 

ガキィン…

 

「…太刀音なのか?」

 

「それにこの声…?戦でしょうか⁉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひるむなァーーーっ!放てェーーーっ!」

 

とある場所で官軍の将らしき女性が部隊の指揮し、賊と戦っていた。

 

薄い桃色の長髪に日焼けした肌をしている。

 

「よし!このまま突撃して一気に…うっ!」

 

そのまま剣を振り上げようとするが、左手の手首にある傷を抑えて唸る。

 

「“雪蓮(しぇれん)”!無理はするな!」

 

隣にいた黒い長髪で眼鏡をかけ、同じように日焼けした肌の女性が慌てて制止する。

 

「“梨妟(りあん)”頼めるか⁉」

 

「まかせて“冥琳(めいりん)”!“太史慈(たいしじ)”隊突撃ィーーーっ!」

 

短い茶髪でやはり日焼けした肌の女性が隊を率いて突撃する。

 

「不覚だわ…!不意打ちとはいえ、私が傷を負うなんて…」

 

「それなら私にも責任がある。まさかこんな所で待ち伏せに会うとは…!」

 

「梨妟の部隊だけで敵を蹴散らすのは難しいわ。早く応急処置をして!私も…!」

 

「いや、雪蓮はさがっていろ。私が指揮を執る」

 

「“孫策(そんさく)”様!“周瑜(しゅうゆ)”様!」

 

1人の兵士が駆け寄ってきた。

 

「何事⁉」

 

「賊の様子がおかしいです!急に動きが乱れだしました!」

 

「何ですって⁉」

 

「私が行って様子を見てくる!お前は手当てが済むまで大人しくしていろ!」

 

「わかったわ…」

 

「よし!孫策隊、周瑜隊は私に続けーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして賊は討伐され、冥琳と呼ばれていた黒髪の女性は、雪蓮と呼ばれていた桃色の髪の女性に戦況報告をしていた。

 

「何者かが賊軍の後方から斬りかかり、助太刀してくれたってわけね?」

 

「そういうことだ」

 

「それで、一体誰が我が軍に味方してくれたの?」

 

「いま梨妟が連れて来る」

 

「お待たせーっ!」

 

梨妟と呼ばれた茶髪の女性が連れてきたのは、1人の男と1人の女と2人の少女、ルフィ達一行だった。

 

「お招きにあずかり光栄です。私は“関羽雲長”」

 

「おれは“モンキー・D・ルフィ”」

 

「鈴々は“張飛翼徳”なのだ」

 

「“諸葛亮孔明”です」

 

「始めまして。私はこの軍の指揮官“孫策伯符(そんさくはくふ)”よ。

こっちの眼鏡をかけているのが軍師の“周瑜公瑾(しゅうゆこうきん)”、こっちは武将の“太史慈子義(たいしじしぎ)”よ」

 

“雪蓮”ことは“孫策”、“冥琳”こと“周瑜”と“梨妟”こと“太史慈”を4人に紹介する。

 

「孫策というのはもしや“江東の虎”と呼ばれた“孫堅(そんけん)”様の娘である、“江東の小覇王”の…」

 

「ええ、その孫策よ」

 

「そのような名声高きお方にお目通りいただけるとは、感激です!」

 

「そう堅くならないでちょうだい。

私はあなた達にお礼が言いたくて呼んだのだから。

我が軍に加勢してくれたこと、心から感謝するわ。お礼に、我が孫家の屋敷に招待するわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~っ!これが長江か~!」

 

「でっかいのだ~!」

 

雪蓮達に招かれたルフィ達は、長江の岸に来た。

 

「天然の防壁と呼ばれる長江…書物や地図で知ってはいましたが、実際に見るのは初めてです!」

 

「旅に出て良かったですな、孔明殿」

 

「はい!」

 

「さ、あなた達も乗って!ここから河を下って()郡まで行くわよ!」

 

雪蓮に呼ばれ、ルフィ達が一緒に乗船すると…

 

「孫策様~!周瑜様~!」

 

「お疲れさまでした~!」

 

2人の少女が雪蓮と冥琳を出迎えた。

 

双子のようで、どちらも雪蓮よりやや色の濃い桃色の髪を左右でお団子にしている。

お団子をまとめている布には、それぞれ片方に“大”、“小”と一文字ずつ大きく書かれている。

 

「紹介するわ。彼女達は双子で、たれ目の方が姉の“大喬(だいきょう)”、つり目の方が妹の“小喬(しょうきょう)”。

大喬は私の、小喬は冥琳の侍女と補佐をしているの」

 

「「よろしくお願いしま~す!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

船が出航してしばらく―――

 

「うう~…」

 

「うにゃ~…」

 

「気持ち悪いです~…」

 

愛紗達3人は船酔いを起こしていた。

 

「船に乗りなれていない者は、みんなこうなるのよね」

 

「しかし、あの者は元気だな…」

 

そう呟く冥琳の視線の先には…

 

「うっひょ~~~!デッケェな~~~っ!こんなでっかい河があんのか~~~っ!」

 

帆柱の先端に登って大はしゃぎするルフィの姿があった。

 

「ルフィ殿はその……船乗りだったことがありまして…」

 

「それで慣れているのか」

 

「船旅も随分と久しぶりだそうですから、楽しいんだと思いますよ…」

 

「そっか~。でもだとしたら、あなた達も少しは船に慣れておいた方が良いんじゃない?」

 

「確かに。もしあの男がまた船乗りに戻ろうとすれば、その時はあなた達を置いて行かなければならなくなってしまうな」

 

「妻と娘達を置いて父親一人で旅だなんて、淋しいもんね」

 

「へ?妻?娘?」

 

「あれ?ルフィと関羽って、夫婦なんじゃないの?それで張飛と孔明が、二人の子供なんじゃ…」

 

「ち、違います!私とルフィ殿と鈴々は義兄妹の契りを交わした者で!孔明殿はただの旅の同行者で!」

 

「ああ!わかった!わかったってば!」

 

慌てふためく愛紗を必死になだめる梨妟だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~呉郡~

 

「着いたわよ」

 

「は~…やっと降りられるのだ~…」

 

呉の港に着き、一行が船を降りると…

 

「雪蓮様~冥琳様~お帰りなさいませ~」

 

「遠征、ご苦労様でした。雪蓮」

 

緑の髪で眼鏡をかけたゆっくり目な口調の女性と、雪蓮と同じ色で髪の長い女性が出迎えた。

 

「出迎えご苦労“(のん)”。伯母上もわざわざどうも。この者達が、報告書にあった…」

 

「関羽さん達ですね~。初めまして~、軍師を務めております“陸遜伯言(りくそんはくげん)”と申します~」

 

穏と呼ばれた女性が自己紹介をする。

 

「私は孫策の伯母で、“孫静幼台(そんせいようだい)”といいます。皆さんもご一緒にお屋敷へどうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお!雪蓮様!」

 

「もう戻られましたか」

 

「その者達が報告にあった者達ですかな?」

 

「ええ、その通りよ」

 

一行が孫家の屋敷の門をくぐると、近くを歩いていた3人の女性が話しかけてきた。

 

その内2人は、ルフィや愛紗よりも少し年上で、一人は色白で水色の長髪、もう片方は日焼けした肌に長い白髪をしている。

3人目は鈴々や朱里と同じぐらいの背丈で、やや青みがかった長髪をしている。

 

「初めまして。私は“程普徳謀(ていふとくぼう)”」

 

「わしは“黄蓋公覆(こうがいこうふく)”じゃ」

 

「“張昭子布(ちょうしょうしふ)”と申す」

 

順に自己紹介をする3人。

 

「この三人は、母様が呉郡太守に任命されて、間もない頃からお仕えしている宿老なのよ」

 

「えっ⁉宿老⁉」

 

雪蓮の言葉を聞き、愛紗は驚きの声をあげ張昭を見る。

朱里も驚いた様子で張昭を見ている。

 

「へ~お前そんなに年上なのか。そうは見えねェけど」

 

「鈴々と同い年にしか見えないのにびっくりしたのだ」

 

「ルフィ殿!鈴々!」

 

慌てて2人の口を押える愛紗。

 

「し、失礼しました!」

 

「構わん。もう慣れておるわ。それにそこまで遠慮なく言われると、却って怒る気にもならん」

 

「コラァ!雪蓮!」

 

「「「「⁉」」」」

 

そこへ突然怒鳴り声が響いた。

 

「……きたわね」

 

そう言って露骨に面倒くさそうな表情をした雪蓮の視線の先には…

 

「オメェ!たかが賊退治ごときで怪我するったァどいうことだ⁉」

 

雪蓮と同じ髪の色で、声、身長、体格、とにかく色々とデカい女性がいた。

大股で歩き、見るからに不機嫌な様子でこちらに近づいてくる。

 

「あ、あの方はもしや…」

 

愛紗が冥琳に訊いてみると…

 

「雪蓮の母で、先代孫家の当主、“孫堅文台(そんけんぶんだい)”様だ」

 

愛紗の予想通りの答えが返ってきた。

 

「母様!使いの者に報告書を渡しておいたでしょう?」

 

「んなの読むの面倒くせェんだよ!それより、賊相手に怪我するようなやわな育て方した覚えはねェぞ!」

 

「だから…」

 

「オメェがそんななら、またおれが現役に……」

 

…と、そこで急に孫堅の言葉が途切れ、視線が雪蓮の後ろにいる愛紗達に向く。

 

「母様?」

 

「おい、雪蓮。そいつらは何だ?」

 

「今回の賊退治で私に加勢してくれた旅の武芸者よ。報告書に書いてあったはずだけど?」

 

「そうか…」

 

孫堅は愛紗達に近づいて行き…

 

「?」

 

ルフィの目の前で立ち止まった。

 

「……ほう」

 

そしてしばらくルフィを凝視した後…

 

「……おい孺子(こぞう)

 

「ん?」

 

「オラァッ!」

 

いきなり拳を振り下ろす!

 

「んっ!」

 

対してルフィも拳を振りかざし―――

 

ドォォォン!

 

両者の拳が轟音を立ててぶつかった。

2人は拳を交えたまま、静かに睨み合う。

 

「うそ…!」

 

「大殿の正拳を…!」

 

「正拳で受け止めおった…!」

 

その様子を見ていた宿老達3人は、驚きのあまり声を漏らす。

雪蓮達も開いた口が塞がらないという様子で2人を見ている。

 

愛紗達の方も、轟音が響く程力を込めたルフィのパンチを、正面から受け止めた孫堅の強さに驚いている。

 

「…孺子、名前は?」

 

「…ルフィ」

 

「お前、王にでもなるつもりか?」

 

「ああ!」

 

「…くくく」

 

「母様?」

 

「はーっはっはっはっは!良いじゃねェか孺子!気に入ったぜ!」

 

孫堅は急に上機嫌になり、仰け反って大笑いする。

 

「おれの名は“孫堅文台”!真名は“炎蓮(いぇんれん)”だ!この真名お前に預けてやる!」

 

「ちょっ⁉母様⁉」

 

「おれは“モンキー・D・ルフィ”。真名はねェ」

 

「そうか!歓迎するぜ孺子!大したもてなしはできねェが、ゆっくりしていけ!」

 

炎蓮はそう言うと、帰って行った。

 

「…まさか初対面でいきなり真名を預けるなんて…」

 

「…よほどあの男が気に入ったようだな」

 

「ま、大殿様らしいといえばらしいんじゃない?」

 

「「「…………」」」

 

雪蓮、冥琳、梨妟がそう言う隣で、炎蓮の迫力に圧倒された愛紗達は、しばらく無言で固まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜―――

 

ルフィ達の歓迎会ということで、大宴会が開かれた。

 

「鈴々!らいぶうまうらったじゃねェか(だいぶ上手くなったじゃねェか)!」

 

「ろうらのら(そうなのか)⁉」

 

当然、ルフィと鈴々はざるを持ち鼻に棒を入れ踊る。

 

「いいわねそれ!私もやる!」

 

「おれもやるぞ!」

 

「雪蓮様!大殿も…」

 

「おい、待て!」

 

「“雷火(らいか)”先生、ちょっと待って」

 

「何じゃ“(さい)”!“粋怜(すいれい)”も…!」

 

一緒に踊ろうとする雪蓮と炎蓮を止めようとした、“雷火”こと“張昭”を止める“祭”こと“黄蓋”と“粋怜”こと“程普”。

 

「何故止めるのじゃ⁉孫家の現当主と先代当主とあろう方が、あんな品のない…」

 

「雷火、よく考えるのじゃ」

 

「何をじゃ?」

 

「もしあの踊りを止めさせたら、大殿は次に何をしようとすると思う?」

 

「?…………!おお、うっかりしておった…」

 

「ここは一緒に躍らせておくのが吉じゃろう」

 

「ええ、あの踊りに夢中になってくれたら、宴は平和に終わりそうよ」

 

「むう…仕方ない、多少の品のなさは大目に見るとするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その頃―――呉の城、その一室~

 

そこで呉の文官達が数人、話し合っていた。

 

「ええい!これで今年何度目の戦だ!」

 

「これでは民が田を耕すこともできませんぞ!」

 

「おかげで税収も駄々下がりだ!」

 

張紘(ちょうこう)殿、あなたは我々の中で最も古参の臣であり、地位も高い。何とかなりませぬか?」

 

「何度も諫言してはいるのですが、周瑜や陸遜をはじめ、戦を推し進める文官も多く…恥ずかしながら私の力では…」

 

張紘と呼ばれた老父は、申し訳なさそうに返事をする。

 

「新参者どもめが…我ら譜代の文官を差し置いて政を左右しおって!」

 

「皆の者、かくなるうえはあの計画を…」

 

「孫策を亡き者にし、孫権(そんけん)様を当主とする」

 

「そして我らが補佐という形で、政権を牛耳る!」

 

「張紘殿もよろしいですな?」

 

「すべては孫家と揚州のため…致し方あるまい」

 

「では早速、血判状(けっぱんじょう)を」

 

「武官達の中からも同士を募りましょう」

 

「頭数が揃いましたら、実行に移しましょう」

 

「我らが政権を手に入れたときの、周瑜共の悔しがる顔が目に浮かぶわ!」

 

「「「「「はははははっ!」」」」」

 

(ふふふ…)

 

皆が大笑いする中、張紘は一人、どこか違う笑みを浮かべていた。

 

 




カンの鋭い方はお気づきかもしれませんが、今作の張紘さんはアニメ版の張昭さんです。


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