ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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今回、作中で少し描写がありますが、今作の蓮華は今は髪が長い設定です。




第44話 “孫権仲謀”

夜中―――

 

『愛紗!』

 

『⁉兄者⁉』

 

『愛紗、戦だ!村が襲われた!お前は寝台の下に隠れていろ!絶対に声を上げるんじゃないぞ!』

 

『!う、うん……!』

 

『ぐああっ!』

 

『⁉兄者ァァァァァ‼』

 

 

 

 

 

 

「!夢か…」

 

雪蓮達が用意してくれた部屋で寝ていた愛紗は、自分の兄が亡くなったときの夢を見ていた。

 

「…どうして今になってあの夢を…それにまだ胸が苦し…い…?」

 

不思議に思った愛紗が自分の胸元を見ると…

 

「うにゃ~…」

 

寝ぼけて愛紗の寝台に入って来たのか、鈴々が胸の上で眠っていた。

 

「…お前が原因か…!」

 

「かーっ…」

 

「!」

 

不意に隣の寝台で寝ているルフィのいびきが聞こえ、思わず顔を向ける。

 

(ルフィ殿…)

 

―――――兄妹になるのでしたら…ルフィ殿には……その…私の…兄上になってもらえないでしょうか?

 

(あの時、私は何故あんなことを…?)

 

「くあ~…おまんじゅう…」

 

「ん?」

 

不意に鈴々の寝言が聞こえ、愛紗がイヤな予感を覚えた瞬間…

 

「かぷっ」

 

鈴々が愛紗の胸にかみつき…

 

「いだァーーーっ!」

 

愛紗の悲鳴がこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日―――

 

「ふわァ~…」

 

城のバルコニーのような場所で、雪蓮は一人お茶を飲んでいた。

 

「まだ、眠そうだな雪蓮」

 

「冥琳。ええ、昨夜はちょっと飲み過ぎたかしらね?」

 

「あのルフィとかいう男とずっと飲んで踊っていたからな。そうなって当然だ」

 

「どうしたのよ?まさかヤキモチ?」

 

「そうではない。しかし、相当あの者達が気に入ったようだな」

 

「ええ。あの関羽とかいう女、相当腕もたつようだし、このまま野に放っておくのはもったいないわね。

あと、あの張飛って子も面白いわね。あのまま大きくならないなら、庭で飼いたいくらいだわ」

 

―――――ワンワンなのだー!

 

「冗談はほどほどにしておけ…」

 

「でも、梨妟や粋怜もきっとそう思ってるわよ?」

 

「…確かにな…」

 

「孔明って子はかなり勤勉な子みたいだし、雷火の弟子に丁度いいんじゃない?」

 

「そうだな。…それで、あのルフィとかいう男はどうなんだ?一番息が合っていたように見えたが?」

 

「ええ!楽しいし強いし良いわね!気に入ったわ!…でも、だからこそちょっと残念ね…」

 

「?残念とは?」

 

「あの男、私の下に納まるような奴に思えないのよ。私と対等か、下手したら私の上に立つんじゃないかって、そんな気がするのよね…」

 

「…まさかお前がそこまで言うとはな…」

 

「それで…()()

 

「!」

 

「まさかそれが本題ではないでしょう?」

 

「…はい。

()()様、先日の賊退治に限らず、ここしばらくの戦では、必ずと言って良いほど、我々は待ち伏せ、奇襲を受けています」

 

「ええ、そうね。それで、あなたはどう考えるの?」

 

「間者、それも内間(ないかん)反間(はんかん)の仕業かと」

 

「我が軍に裏切り者がいるってワケね…。何か策はあるの?」

 

「一つ考えがあります。すぐにでも実行したいのですが、彼らに迷惑を掛けてしまわないか…」

 

「できるだけ早い方が良いけど、客人を巻き込むのはね…。かといって早く出て行ってなんて言えないし…」

 

「失礼します!」

 

そこへ兵士が1人やって来た。

 

「何事か?」

 

「たった今、孫権(そんけん)様の使いの者が参られました。もう間もなく戻られるそうです!」

 

「そう、分かったわ。周瑜、話の続きはまた後で」

 

「ああ。私も、もう少し考えてみるとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その頃―――訓練場~

 

「ふんっ!」

 

バキッ!

 

「っ!」

 

そこではルフィと粋怜が手合わせをしていた。

 

近くには鈴々と祭もいる。

 

「参ったわ。ルフィ君って腕力だけじゃなくて、本当に強いのね」

 

「驚いたのう、粋怜がここまでやられるとは…」

 

「でも、あのお姉ちゃんもすっごく強いのだ!」

 

「当然よ。伊達に宿将やっているワケじゃないもの」

 

「お~い!孺子!」

 

「ん?」

 

そこへ炎蓮がやって来た。

 

「今から山に狩りに行くんだが、一緒にどうだ?」

 

「おう!行く行く!」

 

「鈴々も行くのだ!」

 

「ちょっと、張飛ちゃんはこれから私と手合わせするんでしょう?」

 

「あ、そうだったのだ」

 

「じゃあそのガキは明日だな」

 

「鈴々はガキじゃないのだ!」

 

「どっちでもいい!行くぞ孺子!」

 

「おう!」

 

そして2人は訓練場を離れて行った。

 

「楽しみだな~!くまとかいるのか?」

 

「ああ、うようよいるぞ!たまに虎なんかも出て来るな」

 

「トラも出んのか!」

 

「お?虎と聞いてもビビんねェのか?」

 

「ああ!昔よく狩って毛皮売ってたから」

 

「おお!そうか!」

 

「…すっかり仲良しね、あの二人」

 

去っていく2人の様子を見ながら、粋怜が呟いた。

 

「何というかあの孺子、どことなく大殿や雪蓮様と似たところがあるのう」

 

「鈴々もそんな気がするのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~同刻―――書庫~

 

朱里は、雷火と穏に書庫を案内してもらっていた。

 

「わあ~~~っ!こんなに沢山の書物、初めて見ました!」

 

華琳の城の書庫よりも書物が多い、孫家の書庫に朱里は驚いていた。

 

「政治や軍略にかかわるものはもちろん、天文や農耕、史書や暦、医学にかかわるものまであるんですよ~」

 

「もしかしてお二人は、ここにある書物を全て読まれたのですか?」

 

「はい」

 

「孫家の文官として当然のことじゃ」

 

「すごいです!私ももっともっと沢山の書物を読んで、いろんな知識を得たいです!」

 

「ほほう!孔明殿は勤勉じゃのう!良いことじゃ!」

 

嬉しそうにする雷火。

 

「孔明ちゃんは書を読むのが好きなんですね~」

 

「はい!新しい知識を得ることがとても楽しくて!」

 

「そうですよね~…。

書を読むと~新しい知識という快楽が波のように押し寄せて~♡それが身体の奥までしみわたって~♡ああ~♡」

 

頬を赤く染め、身体をくねらせる穏。

 

「…あの、私そこまでは…」

 

ドン引きする朱里。

 

「こやつはコレがなければ言う事なしなのじゃがのう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~城の廊下~

 

「それでは孫策どのには御姉妹が?」

 

愛紗は梨妟と一緒に城内を歩いていた。

 

「うん。長女が雪蓮で、次女が“孫権”様、三女が“孫翊(そんよく)”様で、四女が末っ子で“孫尚香”様っていうの

孫権様は別の所へ遠征中で、孫翊様は中央から官職と爵位を貰ってから、別の州に移り住んで、それ以来戻ってきていないの。

使者を通じてやり取りはしているけどね。

…あと、一番下の孫尚香様は数日前に家出をして、行方不明なの…」

 

「そ、それは心配ですな…」

 

「まあね…。孫翊様と孫尚香様はわからないけど、孫権様はその内紹介できるんじゃないか…」

 

…と、そこで外から馬の鳴き声などが聞こえ、梨妟が近くの窓から様子を覗う。

 

「噂をすれば…」

 

「それでは…」

 

「うん。孫権様が帰って来たみたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

1人の女性が呉の城の廊下を、謁見の間に向かって走っていた。

 

雪蓮と同じ色の長い髪をしており、赤い冠のようなものを被っている。

 

バァン!

 

「姉様!」

 

謁見の間に着いた女性は、勢いよく戸を開ける。

 

「え…?」

 

そこには玉座に座った雪蓮、左右の控えた冥琳と孫静がいた。

 

「どうしたのよ“蓮華(れんふぁ)”?そんなに慌てて?」

 

「あ、あの…姉様が怪我をされたと聞いて…」

 

「怪我といってもかすり傷よ」

 

「そ、そうでしたか…」

 

「孫権様!孫策様!」

 

…と、そこへ2人の女性が“孫権”こと“蓮華”の後ろから部屋に入ってくる。

 

1人は藍色の髪を頭頂で小さくお団子にした目つきの鋭い女性、もう1人は長く真っ直ぐな黒髪をした小柄な女性。

 

「“甘寧(かんねい)興覇(こうは)”、只今戻りました!」

 

「“周泰(しゅうたい)幼平(ようへい)”、只今戻りました!」

 

「!そ、“ 孫権(そんけん)仲謀(ちゅうぼう)”、只今戻りました!」

 

2人が手を合わせ挨拶するのを見て、慌てて挨拶をする蓮華。

 

「お帰りなさい。今回の遠征、ご苦労だったわ」

 

「「はっ!」」

 

「……はい……」

 

「…蓮華、何か言いたそうだけど、どうしたの?」

 

「姉様…姉様はどうして…」

 

バタン!

 

「「ただいまーっ!」」

 

「「「⁉」」」

 

蓮華が何か言おうとした瞬間、またもや勢いよく扉を開け、誰かが入って来た。

 

蓮華たちが振り返ると、大きなイノシシを一頭ずつ背負い、傷だらけになったルフィと炎蓮が立っていた。

 

「おお、蓮華!帰って来たのか!」

 

「母様!と…」

 

「その男はルフィといって、旅の武芸者よ。今回の私の遠征に助太刀してくれた者の一人で、お招きしたのよ」

 

「…そうなのですか」

 

「誰だ?」

 

「おれの娘で雪蓮の妹の孫権だ。んで、あいつは甘寧、そっちが周泰だ」

 

「そっか。よろしくな」

 

「それにしてもどうしたのよ?母様が狩りでそんなボロボロになるなんて」

 

「確かに珍しいですな。それにルフィ殿の方も随分とやられているようで」

 

「「これはコイツのせいだ」」

 

…と、互いを指さして言うルフィと炎蓮。

 

「てめェが『おれの肉だ!』とか言って、おれのこと殴ったんじゃねェか!」

 

「お前の方が先に『おれの獲物だ!』つって、蹴っ飛ばしてきたじゃねェか!」

 

(それでケンカになったのか…)

 

額に手をつき、ため息をつく冥琳。

 

「二人ともよしなさいよ…」

 

「…………」

 

2人が口論していると、不意に蓮華がルフィに近づいて行き、正面から睨みつけた。

 

「…随分と仲がいいようね」

 

「ん?」

 

「孫家に取り入って何を企んでいるのか知らないけど、あまり調子に乗らないでちょうだい!」

 

「?“取り入る”?」

 

「ボロが出て、首を刎ねられないうちに出て行った方が身のためよ!」

 

そう言うと、蓮華は謁見の間を出て行った。

 

「?何だ?」

 

「まったくあの子ってば…相変わらず頭が固いんだから…」

 

「知らねェ男が留守の間に、妙に家族に馴染んでいたから警戒しているだけだ。気にすんな」

 

「?」

 

ルフィはずっと頭に疑問符を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜―――

 

蓮華達の遠征の勝利を祝して、またしても宴会が開かれた。

 

宴にはルフィ達4人も招かれた。

 

「今宵は江東一の歌姫“大喬”と…」

 

「“小喬”が…」

 

「「歌いまーす!」」

 

「オラァ!もっと食え!おれと孺子が一頭ずつ仕留めてきたから、山ほどあんぞ!」

 

「おいひいのだ!」

 

ひたすら食いまくる鈴々と炎蓮。

 

「おいどうした“明命(みんめい)”もっと飲まんか!」

 

「祭様~!もう勘弁してください~!」

 

「情けないわね~これくらいの酒で~」

 

「いいからもう少し静かに飲め~…」

 

酔いが回った宿老達に捕まっている“周泰”こと“明命”。

 

「孔明ちゃ~ん、私達はこっちで静かに書について語り合いましょうね~」

 

「はい」

 

そこに巻き込まれないように、避難する朱里と穏。

 

「あの、太史慈殿。孫策殿の姿が見えないようですが?あと孫静殿や孫権殿、周瑜殿も」

 

「用があるって言って、さっき一緒に行っちゃったよ」

 

宴が盛り上がる中…

 

「……ションベンしてくるか…」

 

ルフィは静かにその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

厠に行ってきたルフィが、宴会場へ戻ろうと渡り廊下を歩いていると、庭の少し離れた所に4人の人影が見えた。

 

「何だ?」

 

気になって近づいてみると、そこにいたのは雪蓮、蓮華、甘寧、孫静だった。

 

「姉様はどうしてそこまで戦を好むのです⁉」

 

「蓮華!何を言うのです!それは全て、孫家の栄華のために…!」

 

蓮華を叱責するように孫静が言う。

 

「確かに戦いを重ねた結果、孫家の名は近隣に響き、領土も増えました!

しかし、そのために国の礎である民は疲弊し、このままでは…」

 

「遠からずに滅びると?」

 

「―――っ!そ、そういうわけでは…」

 

「雪蓮!」

 

…と、そこへ冥琳がやって来た。

 

「何、冥琳?」

 

「少し話がしたいのだがいいか?」

 

「ええ。蓮華、悪いけど話の続きはまた後で…」

 

「いえ、もういいです…」

 

「…そう」

 

雪蓮は冥琳と一緒に去り、孫静もどこかへ行ってしまった。

 

「蓮華様…」

 

「…………!誰⁉」

 

突然、蓮華がルフィの方を向いた。

 

「おれだよ」

 

「あなた…!」

 

「キサマは…」

 

「お前、あいつのこと嫌いなのか?」

 

「っ!」

 

突然の質問に、蓮華は面喰ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「茶だ」

 

「ありがとう」

 

その後、3人は甘寧の私室に移動した。

 

「お前、あいつのこと嫌いなのか?」

 

甘寧から受け取った湯飲みをすすりながら、ルフィは改めて蓮華に訊ねた。

 

「……嫌い…なのかもしれないわね…」

 

蓮華はゆっくりと語り始めた。

 

「少し前に家督を譲り受けてから、姉様は毎日のように戦に明け暮れた。

周辺の郡太守、仕舞いには州牧である劉繇(りゅうよう)にまで戦を仕掛けた。

揚州の内部をほとんど統一した後は、各地の賊退治に明け暮れた。

その結果領土は広がり、孫家の力は大きなり、その名声も広がった」

 

「…………」

 

「だが、その代償として怪我人や死者は絶えず、毎年のように莫大な遠征費がかかっている…!

民は土地を耕すこともできなくなり、困窮し始めている…!

姉様があそこまで戦にはしらなければ、もう少し民は安堵の時を、平和な時を過ごせるのに…!」

 

「……それはちょっと甘いんじゃねェか?」

 

「…え?」

 

「あいつが戦うのは敵がいるからだろ?

お前が戦いたくなくても、敵は襲ってくるし、そうなったらココで戦うことになるぞ?」

 

「あ…!」

 

「その方がみんな困るんじゃねェか?」

 

「…………」

 

(そ、そんなこと…考えたことなかった…)

 

「ルフィ殿~!」

 

蓮華と甘寧が呆気に取られていると、遠くから愛紗の声が聞こえてきた。

 

「あ!愛紗が呼んでる。おれ行くわ。じゃあな」

 

そう言うなり、ルフィは部屋を出て行った。

 

「…………」

 

「……不思議な男ですな」

 

「……そうね。間が抜けているようで、私よりも先を見据えた考えができている…」

 

「人は見かけによらずとは、よく言ったものですな」

 

「…………」

 

 




一応、解説を入れておきます。

孫子の兵法書には、間者には5つの種類があるとされていました。
郷間:敵国の住民を間者として使うこと
内間:敵国の役人を間者として使うこと
反間:敵が送り込んできた間者を、買収して利用すること
死間:敵に偽の情報を流す間者のこと
生間:生きて本国に戻り、情報をもたらす間者のこと

今作では、冥琳は軍議に関わる者の中に間者がいると考え、内間か反間の仕業だと考えたワケです。


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