ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
夜中―――
『愛紗!』
『⁉兄者⁉』
『愛紗、戦だ!村が襲われた!お前は寝台の下に隠れていろ!絶対に声を上げるんじゃないぞ!』
『!う、うん……!』
『ぐああっ!』
『⁉兄者ァァァァァ‼』
▽
「!夢か…」
雪蓮達が用意してくれた部屋で寝ていた愛紗は、自分の兄が亡くなったときの夢を見ていた。
「…どうして今になってあの夢を…それにまだ胸が苦し…い…?」
不思議に思った愛紗が自分の胸元を見ると…
「うにゃ~…」
寝ぼけて愛紗の寝台に入って来たのか、鈴々が胸の上で眠っていた。
「…お前が原因か…!」
「かーっ…」
「!」
不意に隣の寝台で寝ているルフィのいびきが聞こえ、思わず顔を向ける。
(ルフィ殿…)
―――――兄妹になるのでしたら…ルフィ殿には……その…私の…兄上になってもらえないでしょうか?
(あの時、私は何故あんなことを…?)
「くあ~…おまんじゅう…」
「ん?」
不意に鈴々の寝言が聞こえ、愛紗がイヤな予感を覚えた瞬間…
「かぷっ」
鈴々が愛紗の胸にかみつき…
「いだァーーーっ!」
愛紗の悲鳴がこだました。
▽
次の日―――
「ふわァ~…」
城のバルコニーのような場所で、雪蓮は一人お茶を飲んでいた。
「まだ、眠そうだな雪蓮」
「冥琳。ええ、昨夜はちょっと飲み過ぎたかしらね?」
「あのルフィとかいう男とずっと飲んで踊っていたからな。そうなって当然だ」
「どうしたのよ?まさかヤキモチ?」
「そうではない。しかし、相当あの者達が気に入ったようだな」
「ええ。あの関羽とかいう女、相当腕もたつようだし、このまま野に放っておくのはもったいないわね。
あと、あの張飛って子も面白いわね。あのまま大きくならないなら、庭で飼いたいくらいだわ」
―――――ワンワンなのだー!
「冗談はほどほどにしておけ…」
「でも、梨妟や粋怜もきっとそう思ってるわよ?」
「…確かにな…」
「孔明って子はかなり勤勉な子みたいだし、雷火の弟子に丁度いいんじゃない?」
「そうだな。…それで、あのルフィとかいう男はどうなんだ?一番息が合っていたように見えたが?」
「ええ!楽しいし強いし良いわね!気に入ったわ!…でも、だからこそちょっと残念ね…」
「?残念とは?」
「あの男、私の下に納まるような奴に思えないのよ。私と対等か、下手したら私の上に立つんじゃないかって、そんな気がするのよね…」
「…まさかお前がそこまで言うとはな…」
「それで…
「!」
「まさかそれが本題ではないでしょう?」
「…はい。
「ええ、そうね。それで、あなたはどう考えるの?」
「間者、それも
「我が軍に裏切り者がいるってワケね…。何か策はあるの?」
「一つ考えがあります。すぐにでも実行したいのですが、彼らに迷惑を掛けてしまわないか…」
「できるだけ早い方が良いけど、客人を巻き込むのはね…。かといって早く出て行ってなんて言えないし…」
「失礼します!」
そこへ兵士が1人やって来た。
「何事か?」
「たった今、
「そう、分かったわ。周瑜、話の続きはまた後で」
「ああ。私も、もう少し考えてみるとしよう」
▽
~その頃―――訓練場~
「ふんっ!」
バキッ!
「っ!」
そこではルフィと粋怜が手合わせをしていた。
近くには鈴々と祭もいる。
「参ったわ。ルフィ君って腕力だけじゃなくて、本当に強いのね」
「驚いたのう、粋怜がここまでやられるとは…」
「でも、あのお姉ちゃんもすっごく強いのだ!」
「当然よ。伊達に宿将やっているワケじゃないもの」
「お~い!孺子!」
「ん?」
そこへ炎蓮がやって来た。
「今から山に狩りに行くんだが、一緒にどうだ?」
「おう!行く行く!」
「鈴々も行くのだ!」
「ちょっと、張飛ちゃんはこれから私と手合わせするんでしょう?」
「あ、そうだったのだ」
「じゃあそのガキは明日だな」
「鈴々はガキじゃないのだ!」
「どっちでもいい!行くぞ孺子!」
「おう!」
そして2人は訓練場を離れて行った。
「楽しみだな~!くまとかいるのか?」
「ああ、うようよいるぞ!たまに虎なんかも出て来るな」
「トラも出んのか!」
「お?虎と聞いてもビビんねェのか?」
「ああ!昔よく狩って毛皮売ってたから」
「おお!そうか!」
「…すっかり仲良しね、あの二人」
去っていく2人の様子を見ながら、粋怜が呟いた。
「何というかあの孺子、どことなく大殿や雪蓮様と似たところがあるのう」
「鈴々もそんな気がするのだ」
▽
~同刻―――書庫~
朱里は、雷火と穏に書庫を案内してもらっていた。
「わあ~~~っ!こんなに沢山の書物、初めて見ました!」
華琳の城の書庫よりも書物が多い、孫家の書庫に朱里は驚いていた。
「政治や軍略にかかわるものはもちろん、天文や農耕、史書や暦、医学にかかわるものまであるんですよ~」
「もしかしてお二人は、ここにある書物を全て読まれたのですか?」
「はい」
「孫家の文官として当然のことじゃ」
「すごいです!私ももっともっと沢山の書物を読んで、いろんな知識を得たいです!」
「ほほう!孔明殿は勤勉じゃのう!良いことじゃ!」
嬉しそうにする雷火。
「孔明ちゃんは書を読むのが好きなんですね~」
「はい!新しい知識を得ることがとても楽しくて!」
「そうですよね~…。
書を読むと~新しい知識という快楽が波のように押し寄せて~♡それが身体の奥までしみわたって~♡ああ~♡」
頬を赤く染め、身体をくねらせる穏。
「…あの、私そこまでは…」
ドン引きする朱里。
「こやつはコレがなければ言う事なしなのじゃがのう…」
▽
~城の廊下~
「それでは孫策どのには御姉妹が?」
愛紗は梨妟と一緒に城内を歩いていた。
「うん。長女が雪蓮で、次女が“孫権”様、三女が“
孫権様は別の所へ遠征中で、孫翊様は中央から官職と爵位を貰ってから、別の州に移り住んで、それ以来戻ってきていないの。
使者を通じてやり取りはしているけどね。
…あと、一番下の孫尚香様は数日前に家出をして、行方不明なの…」
「そ、それは心配ですな…」
「まあね…。孫翊様と孫尚香様はわからないけど、孫権様はその内紹介できるんじゃないか…」
…と、そこで外から馬の鳴き声などが聞こえ、梨妟が近くの窓から様子を覗う。
「噂をすれば…」
「それでは…」
「うん。孫権様が帰って来たみたい」
▽
「ハァ…ハァ…」
1人の女性が呉の城の廊下を、謁見の間に向かって走っていた。
雪蓮と同じ色の長い髪をしており、赤い冠のようなものを被っている。
バァン!
「姉様!」
謁見の間に着いた女性は、勢いよく戸を開ける。
「え…?」
そこには玉座に座った雪蓮、左右の控えた冥琳と孫静がいた。
「どうしたのよ“
「あ、あの…姉様が怪我をされたと聞いて…」
「怪我といってもかすり傷よ」
「そ、そうでしたか…」
「孫権様!孫策様!」
…と、そこへ2人の女性が“孫権”こと“蓮華”の後ろから部屋に入ってくる。
1人は藍色の髪を頭頂で小さくお団子にした目つきの鋭い女性、もう1人は長く真っ直ぐな黒髪をした小柄な女性。
「“
「“
「!そ、“
2人が手を合わせ挨拶するのを見て、慌てて挨拶をする蓮華。
「お帰りなさい。今回の遠征、ご苦労だったわ」
「「はっ!」」
「……はい……」
「…蓮華、何か言いたそうだけど、どうしたの?」
「姉様…姉様はどうして…」
バタン!
「「ただいまーっ!」」
「「「⁉」」」
蓮華が何か言おうとした瞬間、またもや勢いよく扉を開け、誰かが入って来た。
蓮華たちが振り返ると、大きなイノシシを一頭ずつ背負い、傷だらけになったルフィと炎蓮が立っていた。
「おお、蓮華!帰って来たのか!」
「母様!と…」
「その男はルフィといって、旅の武芸者よ。今回の私の遠征に助太刀してくれた者の一人で、お招きしたのよ」
「…そうなのですか」
「誰だ?」
「おれの娘で雪蓮の妹の孫権だ。んで、あいつは甘寧、そっちが周泰だ」
「そっか。よろしくな」
「それにしてもどうしたのよ?母様が狩りでそんなボロボロになるなんて」
「確かに珍しいですな。それにルフィ殿の方も随分とやられているようで」
「「これはコイツのせいだ」」
…と、互いを指さして言うルフィと炎蓮。
「てめェが『おれの肉だ!』とか言って、おれのこと殴ったんじゃねェか!」
「お前の方が先に『おれの獲物だ!』つって、蹴っ飛ばしてきたじゃねェか!」
(それでケンカになったのか…)
額に手をつき、ため息をつく冥琳。
「二人ともよしなさいよ…」
「…………」
2人が口論していると、不意に蓮華がルフィに近づいて行き、正面から睨みつけた。
「…随分と仲がいいようね」
「ん?」
「孫家に取り入って何を企んでいるのか知らないけど、あまり調子に乗らないでちょうだい!」
「?“取り入る”?」
「ボロが出て、首を刎ねられないうちに出て行った方が身のためよ!」
そう言うと、蓮華は謁見の間を出て行った。
「?何だ?」
「まったくあの子ってば…相変わらず頭が固いんだから…」
「知らねェ男が留守の間に、妙に家族に馴染んでいたから警戒しているだけだ。気にすんな」
「?」
ルフィはずっと頭に疑問符を浮かべていた。
▽
その夜―――
蓮華達の遠征の勝利を祝して、またしても宴会が開かれた。
宴にはルフィ達4人も招かれた。
「今宵は江東一の歌姫“大喬”と…」
「“小喬”が…」
「「歌いまーす!」」
「オラァ!もっと食え!おれと孺子が一頭ずつ仕留めてきたから、山ほどあんぞ!」
「おいひいのだ!」
ひたすら食いまくる鈴々と炎蓮。
「おいどうした“
「祭様~!もう勘弁してください~!」
「情けないわね~これくらいの酒で~」
「いいからもう少し静かに飲め~…」
酔いが回った宿老達に捕まっている“周泰”こと“明命”。
「孔明ちゃ~ん、私達はこっちで静かに書について語り合いましょうね~」
「はい」
そこに巻き込まれないように、避難する朱里と穏。
「あの、太史慈殿。孫策殿の姿が見えないようですが?あと孫静殿や孫権殿、周瑜殿も」
「用があるって言って、さっき一緒に行っちゃったよ」
宴が盛り上がる中…
「……ションベンしてくるか…」
ルフィは静かにその場を離れた。
▽
「ん?」
厠に行ってきたルフィが、宴会場へ戻ろうと渡り廊下を歩いていると、庭の少し離れた所に4人の人影が見えた。
「何だ?」
気になって近づいてみると、そこにいたのは雪蓮、蓮華、甘寧、孫静だった。
「姉様はどうしてそこまで戦を好むのです⁉」
「蓮華!何を言うのです!それは全て、孫家の栄華のために…!」
蓮華を叱責するように孫静が言う。
「確かに戦いを重ねた結果、孫家の名は近隣に響き、領土も増えました!
しかし、そのために国の礎である民は疲弊し、このままでは…」
「遠からずに滅びると?」
「―――っ!そ、そういうわけでは…」
「雪蓮!」
…と、そこへ冥琳がやって来た。
「何、冥琳?」
「少し話がしたいのだがいいか?」
「ええ。蓮華、悪いけど話の続きはまた後で…」
「いえ、もういいです…」
「…そう」
雪蓮は冥琳と一緒に去り、孫静もどこかへ行ってしまった。
「蓮華様…」
「…………!誰⁉」
突然、蓮華がルフィの方を向いた。
「おれだよ」
「あなた…!」
「キサマは…」
「お前、あいつのこと嫌いなのか?」
「っ!」
突然の質問に、蓮華は面喰ってしまうのだった。
▽
「茶だ」
「ありがとう」
その後、3人は甘寧の私室に移動した。
「お前、あいつのこと嫌いなのか?」
甘寧から受け取った湯飲みをすすりながら、ルフィは改めて蓮華に訊ねた。
「……嫌い…なのかもしれないわね…」
蓮華はゆっくりと語り始めた。
「少し前に家督を譲り受けてから、姉様は毎日のように戦に明け暮れた。
周辺の郡太守、仕舞いには州牧である
揚州の内部をほとんど統一した後は、各地の賊退治に明け暮れた。
その結果領土は広がり、孫家の力は大きなり、その名声も広がった」
「…………」
「だが、その代償として怪我人や死者は絶えず、毎年のように莫大な遠征費がかかっている…!
民は土地を耕すこともできなくなり、困窮し始めている…!
姉様があそこまで戦にはしらなければ、もう少し民は安堵の時を、平和な時を過ごせるのに…!」
「……それはちょっと甘いんじゃねェか?」
「…え?」
「あいつが戦うのは敵がいるからだろ?
お前が戦いたくなくても、敵は襲ってくるし、そうなったらココで戦うことになるぞ?」
「あ…!」
「その方がみんな困るんじゃねェか?」
「…………」
(そ、そんなこと…考えたことなかった…)
「ルフィ殿~!」
蓮華と甘寧が呆気に取られていると、遠くから愛紗の声が聞こえてきた。
「あ!愛紗が呼んでる。おれ行くわ。じゃあな」
そう言うなり、ルフィは部屋を出て行った。
「…………」
「……不思議な男ですな」
「……そうね。間が抜けているようで、私よりも先を見据えた考えができている…」
「人は見かけによらずとは、よく言ったものですな」
「…………」
一応、解説を入れておきます。
孫子の兵法書には、間者には5つの種類があるとされていました。
郷間:敵国の住民を間者として使うこと
内間:敵国の役人を間者として使うこと
反間:敵が送り込んできた間者を、買収して利用すること
死間:敵に偽の情報を流す間者のこと
生間:生きて本国に戻り、情報をもたらす間者のこと
今作では、冥琳は軍議に関わる者の中に間者がいると考え、内間か反間の仕業だと考えたワケです。