ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
~謁見の間~
ルフィは、そこの玉座の真正面に、両腕を縄で縛られて立っていた。
玉座の右には雷火、左には蓮華と冥琳が立っている。
ルフィの周囲は粋怜、祭、思春、明命、梨妟達武官と兵士達に囲まれ、愛紗と鈴々は近づけないようにされていた。
愛紗と鈴々の隣には、炎蓮と孫静もいる
そこへ穏に連れられ、朱里も到着した。
「どういうことですか⁉ルフィさんが孫策さんを暗殺しようとしたって⁉」
「張昭。説明を」
「うむ」
蓮華に言われ、雷火は説明を始める。
「孫策様が襲われた時、この男は狩りのために山にいた。
そしてその山は、孫策様が襲われた現場から、さほど離れてはおらん。
途中で抜け出して城に戻り、孫策様を襲うことは十分に可能なのだ!
そのような場所に素性の知れぬ者がいたのならば、疑うのが当然じゃ!」
「当然なんかじゃありません!そこにはご家中の方が一緒にいたはずでは⁉」
「確かに案内はしていたが、ずっと一緒にいたワケではないと言っておる。そうじゃな?」
「はい。山に入ったすぐ後で、ルフィ殿は一人で行動し始めました。
私は彼を追いかけましたが、少なくとも孫策様が襲われたと思われる時間は、姿を見ておりません」
「わしも自分が仕留めた獲物を取りに、一人その場を離れておったからのう。
その男が無実だと証明することはできん」
「私も…関羽や張飛とはずっと一緒だったけど、ルフィのことは…」
「でも、それだけでルフィを犯人と決めつけるのはおかしいのだ!」
「そうです!おかしいです!」
そう言うと朱里は、祭と思春に向き直る。
「今、甘寧さんはルフィさんを探すために、黄蓋さんは獲物を取りに行くために、一人でいたと言いましたね?」
「…孔明殿、何が言いたい?」
「孫策さんが襲われた時、あなた達も犯行が可能な場所に、一人でいたという事ですよね?」
「何⁉」
「キサマ!私達は孫家に仕える身だぞ!我々が孫策様を暗殺するなど…!」
「孫家に仕える身だからではないですか⁉」
「「⁉」」
「聞いたところによると、黄蓋さんは孫堅さんの代から仕えていた宿将、甘寧さんはどちらかというと孫権さんの腹心に近い立場だとか。
先代の方との方針の違い、自身の身に近い方の立場を上げたいという考え、孫家と関わりの少ない赤の他人よりも、動機はありそうだと思いますが?」
「キサマァ!」
怒り狂った思春は腰につけていた曲刀、“
「武人をそこまで侮辱して!タダで済むと思うなよ!」
「侮辱しているのはどちらだ!」
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
突然、愛紗が大声を上げた。
「甘寧殿!そなたが誇り高き武人だというのなら、我らも同じだ!
私の
「“誇り高き”じゃと?笑わせるな!」
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
今度は雷火の声が響いた。
「孫権様、わしは証拠がなくとも、この者達が犯人だという確信を持っております」
「それは何故だ?」
「孺子、お主賊だそうじゃな?今朝、孫権様達との会話を聞いておったぞ」
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
「ああ、そうだ」
「張昭、それがあなたの言う確信?」
「いかにも。
賊などという下等な連中とその仲間の誇りなど、所詮口先だけの物!
孔明殿の弁がいかに優れていようとも、賊の仲間である以上聞く価値などない!
忠義の士と犬畜生にも劣るような輩がおれば、どちらが犯人かなど一目瞭然!
性根の腐った、下劣極まりない連中だというだけで、犯人だというには十分じゃ!」
「……張昭」
蓮華が静かに口を開いた。
「む?」
「確かにそなたの言う通りだな」
「さよう…」
「貧しさゆえに家を失い、やむを得ず賊に身を落とした輩よりも、賄賂を贈り身分を高め、無辜の民草を苦しめ、贅沢をする輩の方が、さぞかし立派であろうな」
そう言って雷火を睨みつける蓮華。
「⁉な、何を…⁉」
「張昭殿」
「?」
今度は思春が口を開く。
「今の言い分は、私も賛同しかねますが…」
思春もそう言うと刀を下げ、雷火を睨みつける。
「張昭よ」
「⁉」
「わしを忠義の士として庇い建てしてくれるのはありがたいが、そのような私的な好悪が混じったような弁は、忠義の士として賛同しかねるぞ?」
「確かに~。
ルフィさん達が賊だとしても、それが孫策様暗殺の犯人だという証拠にはなりませんね~。
それに、この方を処刑するために、今回の犯人にしようとすれば~真犯人を見逃してしまうかもしれませんしね~」
「ぐ…」
祭と穏にも反論され、分が悪くなる雷火。
「張昭!」
「!」
そこへさらに蓮華が怒鳴りつける。
「相手の立場や身分に惑わされ、客観的な判断を欠くなど、許されることではないぞ!
ましてや、そのような私情同然の考えで、裁きの場を乱すなど言語道断!
お前が賊を嫌っていることも、賊が悪であることも私は百も承知だ!
だが、そんな考えでこの者を犯人だというのならば、私も私情を持って、この者は犯人ではないと言わせてもらうぞ!
ましてやこの男は、姉様が招いた客人だぞ!
そのような者を無実の罪で処罰してみろ!孫家末代までの恥となるぞ!」
「…………」
蓮華の言葉に雷火は何も言えなくなり…
「張昭殿、いささか勇み足だったようですな…」
「……わかった。この男が犯人だという前提で、話を進めるのは止めよう。縄をほどけ」
冥琳に諭され、引っ込んだのだった。
▽
「では、改めて状況を整理しましょう」
ルフィの縄が解かれたことで和らいでいた空気が、冥琳の言葉で再び真剣なものとなった。
「そうね。狩場で単独で行動していたルフィ殿、黄蓋、甘寧だけでなく、城内で単独でいた者達も怪しいわ。
私室で一人琴の練習をしていた私も含めてね」
「いや、複数でいたとしても、結託してウソの証言をする可能性もある。
今のところ無実が確かなのは、赤の他人と一緒にいた関羽殿、張飛殿、孔明殿、張昭殿、陸遜、太史慈だけだな」
そう言って、冥琳は顔をしかめる。
「程普殿と周泰殿は無実ではないでしょうか?
兵の鍛錬と城壁での見張り、その場を離れていたら誰かが気付くと思います」
「そういえば、私が張昭さん、陸遜さんと書を読んでいた時、池にいる孫堅さんの姿がずっと窓から見えていました」
「確かに。では母様と程普、周泰も無実ということでいいだろう」
愛紗と朱里の言葉に頷く蓮華。
「あの~そういえば私、何度かお茶を取りに部屋を出たのですが~その度に孫権様の部屋の前を通りまして~琴を演奏する音がずっと聞こえていましたよ~」
「失礼を承知で伺いますが、何者かが代わりに演奏していた、ということはないでしょうか?」
朱里が問いかけるが…
「それはないですね~あれは間違いなく、孫権様の演奏でした~」
「成程…」
「そうか…」
「孫権様の琴の演奏を聞き間違えることはないな…」
「ええ、あの演奏は誰にもマネできないもの…」
「「「「「?」」」」」
穏の言葉に冥琳、思春、祭、粋怜が納得し、他の孫家の家臣達も頷く。
蓮華本人とルフィ達4人は首を傾げていた。
「「申し上げます!」」
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
そこへ大喬と小喬がやって来た。
「大喬!小喬!どうした⁉」
「まさか姉様の容態が悪化したのか⁉」
「いえ!その逆です!」
「孫策様の容態が持ち直しました!」
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
「まだ意識は朦朧としていますが、お医者様の話では峠は越えたとのことです」
「しばらくは絶対安静の状態ですが、熱が下がれば話をすることもできるとのことです」
「姉様…!」
「そうか!よかったなお前!」
「ええ…!」
安堵のあまり膝をつき、涙を流す蓮華。
「それから、刺客に襲われた時に顔を見たらしく、相手の顔はハッキリ覚えていると言っておりました」
「どうやらルフィ殿や我らの無実も証明できそうだな」
冥琳もほっとした様子で話す。
「はふ~…」
途端に朱里が目を回し、ふらつきだした。
「孔明さん!大丈夫ですか~⁉」
あわてて穏が支えた。
「孔明!大丈夫なのか⁉」
「安心して気が抜けたのじゃろう。寝室に運んでやれ」
(孔明殿、そうとう気が張っていたのね…。けど良かった、姉様も無事で、彼も無実で…)
涙をぬぐい、胸をなでおろす蓮華。
そのまま一つ深呼吸をする。
ドクン―――――
(……え?)
▽
~客室~
「う~ん…あれ?」
「あ!起きたぞ!」
「孔明殿!」
「気が付いたのだ!」
「ルフィさん、関羽さん、鈴々ちゃん。ここは…?」
「来客用の空き部屋です。孫権殿達が用意してくださいました」
「…思い出しました。私あの後、気を失って…」
「少しいいかしら?」
戸を開けて蓮華が入って来た。
思春も一緒にいる。
「孫権さん!」
「孔明殿!気が付かれたのですね!」
▽
「ルフィ殿、関羽殿、張飛殿、孔明殿、このような事態に巻き込んだうえ、濡れ衣を着せてしまい、本当に申し訳なかった」
「いいよ、前にも似たようなことあったし。それよりお前ら、おれのこと庇ってくれてありがとうな」
「な、何を言ってるの⁉」
「そうです!私があの時、ルフィ殿を見失わなければこのようなことには…!
礼を言われるような筋合いは…!」
「そう言っても無駄ですよ」
「ええ。ルフィさんはこういう人ですから」
「……ところで、あなた達に少しお願いがあるのだけれど…」
「「「「?」」」」
▽
その夜―――
城内にある雪蓮の寝室、そこに寝台で雪蓮は眠っていた。
キィ…
部屋の戸を開けて、何者かが入って来た。
「…………」
その者は寝ている雪蓮に近づき、懐から1本の針を取り出す。
「成程…」
「⁉︎」
突然、何者かの声が響く。
声の主は…
「その針には猛毒が塗ってあるのですか」
「………っ⁉︎」
寝台に横たわっていた雪蓮だった。
そして部屋に入って来たのは…
「ようやく尻尾を出しましたね…
伯母上」
孫静だった。
「伯母上…?」
「⁉」
さらに戸口の方から声が聞こえ、雪蓮と孫静が見ると…
「一体何を…⁉」
動揺している蓮華を先頭に、思春、ルフィ、愛紗、鈴々、朱里が部屋の入り口に立っていた。
「こ、これは一体…⁉そ、孫策…お前は…」
「『死にかけていたのではなかったのか』ですか?
私の意識がもうろうしていると聞き、またとない好機と思われたのでしょうが…」
「やっぱりお芝居だったんですね」
朱里が言い放った。
「ほう、孔明殿は気付いておられましたか」
そんな言葉が聞こえ、部屋の隅から冥琳と数人の衛兵が現れた。
▽
~翌朝―――謁見の間~
その真ん中に、縄で縛られた孫静が正座させられていた。
周りにはルフィ、愛紗、鈴々、朱里、炎蓮、雷火、粋怜、祭、穏、思春、明命、梨妟、大喬、小喬が待機し、正面の玉座には雪蓮が座り、左右には蓮華と冥琳が控えている。
冥琳は、昨日の雪蓮が刺客に襲われたというのが狂言だったこと、昨夜、孫静が雪蓮を暗殺しようとしたことを、皆に説明した。
「そういう事じゃったのか…」
「しかし、孔明殿はよく気付かれましたな?」
「確信があったワケではないんです。
ただ、孫策さんが襲われた時、見ず知らず人物のである、私達の無実がほとんど証明されていたことや、孫策さんの容態が回復した時、周瑜さんが『犯人が判明しそうだ』ではなく『無実が証明されそうだ』と言っていたことが気になっていました」
「成程…」
「それにしても伯母上…いえ孫静!何故このようなことを⁉」
いまだに信じられない様子で問いかける蓮華。
「何故ですと…?孫権、あなたも言っていたではないですか!
このところ戦続きで民は疲弊し、このままでは孫家は滅びると!」
「ですが、それはあなたも承知の上で賛同していたのでは⁉」
「身の安全のために黙っていましたが、賛同などしてはおらぬ!
あなたか孫翊が反乱を起こし、孫策を討つことも期待していましたが叶わなかった。それ故に自ら実行したまでです!
孫策!いかに大きなものを得ようとも、その過程で多くの血や涙を生み出せば、必ずそれはお前に牙をむくぞ!」
「覇道を歩むと決めたときから、それは覚悟の上です!
どれだけ血や涙を流し、恨みを買おうとも、汚名を被ろうとも、私には手に入れると決めた物があります!」
「…………っ!孫権!お前も分かっているであろう⁉孫策のやり方は間違っていると!」
「……確かに、姉様のやり方に思うところがないわけではありませぬ。
しかし、姉様の行動は、姉様なりに孫家のことを考えてのこと!それをないがしろにすることなどあってはなりませぬ!
私の務めは、孫家が滅びることがないように、姉様の隣で支えること!
姉様を殺め、玉座を奪う事ではない!」
「…っ!どいつもこいつも分かっておらぬ!そんな考えで…」
「くだらねェこと言ってんじゃねェぞ」
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
突然、ルフィが口を開いた。
「孫策も孫権も、自分の信じたとおりに堂々とやっているだけじゃねェか」
口調は静かだが、声には怒りがこもっている。
「不満があるなら反対すりゃいいだろ!」
―――――おれと決闘しろォ‼
「痛い目に遭うのがイヤだからってやめる程度のくせに…!」
―――――お前がおれに‼勝てるわけねェだろうが‼
「何の覚悟も信念もねェヤツが、人の上に立とうとすんじゃねェ‼」
「「「「「「「「「「っ⁉」」」」」」」」」」
そう怒鳴るルフィの気迫に、孫静だけでなく、愛紗達や蓮華達も気押されそうになった。
炎蓮や雪蓮さえも手に汗を握った。
孫静もひるんでいたが、やがて怒りに体を震わせ…
「……キサマ」
ザン
「⁉縄が⁉」
「まだ刃物を隠し持っていたのか⁉」
「賊の分際でェ!」
短刀を振りかざし、ルフィに斬りかかる!
「ルフィ殿!」
「孺子!」
「危な―――」
が…
ギュン!
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
それよりも早く、ルフィは首を後ろに伸ばす!
「⁉」
「は⁉」
「え⁉」
「なっ⁉」
「何じゃアレは⁉」
「ちょっ⁉」
「な、何⁉」
「え、えええっ⁉」
「こ、これは…⁉」
「一体…⁉」
「う、嘘ォ⁉」
「く、首が…⁉」
「伸びて…⁉」
目の前の異様な光景に驚く炎蓮達。
「“ゴムゴムの”ォ……」
「………っ⁉」
当然、孫静も驚愕して思わず動きが止まり…
「“鐘”ェ‼」
ゴォン!
ドサッ…
ルフィの頭突きをモロに喰らい、気絶してしまった。
「あ~…スカッとした~!」