ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第46話 “異議”

~謁見の間~

 

ルフィは、そこの玉座の真正面に、両腕を縄で縛られて立っていた。

 

玉座の右には雷火、左には蓮華と冥琳が立っている。

 

ルフィの周囲は粋怜、祭、思春、明命、梨妟達武官と兵士達に囲まれ、愛紗と鈴々は近づけないようにされていた。

 

愛紗と鈴々の隣には、炎蓮と孫静もいる

 

そこへ穏に連れられ、朱里も到着した。

 

「どういうことですか⁉ルフィさんが孫策さんを暗殺しようとしたって⁉」

 

「張昭。説明を」

 

「うむ」

 

蓮華に言われ、雷火は説明を始める。

 

「孫策様が襲われた時、この男は狩りのために山にいた。

そしてその山は、孫策様が襲われた現場から、さほど離れてはおらん。

途中で抜け出して城に戻り、孫策様を襲うことは十分に可能なのだ!

そのような場所に素性の知れぬ者がいたのならば、疑うのが当然じゃ!」

 

「当然なんかじゃありません!そこにはご家中の方が一緒にいたはずでは⁉」

 

「確かに案内はしていたが、ずっと一緒にいたワケではないと言っておる。そうじゃな?」

 

「はい。山に入ったすぐ後で、ルフィ殿は一人で行動し始めました。

私は彼を追いかけましたが、少なくとも孫策様が襲われたと思われる時間は、姿を見ておりません」

 

「わしも自分が仕留めた獲物を取りに、一人その場を離れておったからのう。

その男が無実だと証明することはできん」

 

「私も…関羽や張飛とはずっと一緒だったけど、ルフィのことは…」

 

「でも、それだけでルフィを犯人と決めつけるのはおかしいのだ!」

 

「そうです!おかしいです!」

 

そう言うと朱里は、祭と思春に向き直る。

 

「今、甘寧さんはルフィさんを探すために、黄蓋さんは獲物を取りに行くために、一人でいたと言いましたね?」

 

「…孔明殿、何が言いたい?」

 

「孫策さんが襲われた時、あなた達も犯行が可能な場所に、一人でいたという事ですよね?」

 

「何⁉」

 

「キサマ!私達は孫家に仕える身だぞ!我々が孫策様を暗殺するなど…!」

 

「孫家に仕える身だからではないですか⁉」

 

「「⁉」」

 

「聞いたところによると、黄蓋さんは孫堅さんの代から仕えていた宿将、甘寧さんはどちらかというと孫権さんの腹心に近い立場だとか。

先代の方との方針の違い、自身の身に近い方の立場を上げたいという考え、孫家と関わりの少ない赤の他人よりも、動機はありそうだと思いますが?」

 

「キサマァ!」

 

怒り狂った思春は腰につけていた曲刀、“鈴音(りんいん)”を抜き、剣先を朱里の眉間に突きつける!

 

「武人をそこまで侮辱して!タダで済むと思うなよ!」

 

「侮辱しているのはどちらだ!」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

突然、愛紗が大声を上げた。

 

「甘寧殿!そなたが誇り高き武人だというのなら、我らも同じだ!

私の義兄(あに)であるルフィ殿を、確たる証拠もなく罪人扱いなど、それこそタダで済まぬぞ!」

 

「“誇り高き”じゃと?笑わせるな!」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

今度は雷火の声が響いた。

 

「孫権様、わしは証拠がなくとも、この者達が犯人だという確信を持っております」

 

「それは何故だ?」

 

「孺子、お主賊だそうじゃな?今朝、孫権様達との会話を聞いておったぞ」

 

「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」

 

「ああ、そうだ」

 

「張昭、それがあなたの言う確信?」

 

「いかにも。

賊などという下等な連中とその仲間の誇りなど、所詮口先だけの物!

孔明殿の弁がいかに優れていようとも、賊の仲間である以上聞く価値などない!

忠義の士と犬畜生にも劣るような輩がおれば、どちらが犯人かなど一目瞭然!

性根の腐った、下劣極まりない連中だというだけで、犯人だというには十分じゃ!」

 

「……張昭」

 

蓮華が静かに口を開いた。

 

「む?」

 

「確かにそなたの言う通りだな」

 

「さよう…」

 

「貧しさゆえに家を失い、やむを得ず賊に身を落とした輩よりも、賄賂を贈り身分を高め、無辜の民草を苦しめ、贅沢をする輩の方が、さぞかし立派であろうな」

 

そう言って雷火を睨みつける蓮華。

 

「⁉な、何を…⁉」

 

「張昭殿」

 

「?」

 

今度は思春が口を開く。

 

「今の言い分は、私も賛同しかねますが…」

 

思春もそう言うと刀を下げ、雷火を睨みつける。

 

「張昭よ」

 

「⁉」

 

「わしを忠義の士として庇い建てしてくれるのはありがたいが、そのような私的な好悪が混じったような弁は、忠義の士として賛同しかねるぞ?」

 

「確かに~。

ルフィさん達が賊だとしても、それが孫策様暗殺の犯人だという証拠にはなりませんね~。

それに、この方を処刑するために、今回の犯人にしようとすれば~真犯人を見逃してしまうかもしれませんしね~」

 

「ぐ…」

 

祭と穏にも反論され、分が悪くなる雷火。

 

「張昭!」

 

「!」

 

そこへさらに蓮華が怒鳴りつける。

 

「相手の立場や身分に惑わされ、客観的な判断を欠くなど、許されることではないぞ!

ましてや、そのような私情同然の考えで、裁きの場を乱すなど言語道断!

お前が賊を嫌っていることも、賊が悪であることも私は百も承知だ!

だが、そんな考えでこの者を犯人だというのならば、私も私情を持って、この者は犯人ではないと言わせてもらうぞ!

ましてやこの男は、姉様が招いた客人だぞ!

そのような者を無実の罪で処罰してみろ!孫家末代までの恥となるぞ!」

 

「…………」

 

蓮華の言葉に雷火は何も言えなくなり…

 

「張昭殿、いささか勇み足だったようですな…」

 

「……わかった。この男が犯人だという前提で、話を進めるのは止めよう。縄をほどけ」

 

冥琳に諭され、引っ込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

「では、改めて状況を整理しましょう」

 

ルフィの縄が解かれたことで和らいでいた空気が、冥琳の言葉で再び真剣なものとなった。

 

「そうね。狩場で単独で行動していたルフィ殿、黄蓋、甘寧だけでなく、城内で単独でいた者達も怪しいわ。

私室で一人琴の練習をしていた私も含めてね」

 

「いや、複数でいたとしても、結託してウソの証言をする可能性もある。

今のところ無実が確かなのは、赤の他人と一緒にいた関羽殿、張飛殿、孔明殿、張昭殿、陸遜、太史慈だけだな」

 

そう言って、冥琳は顔をしかめる。

 

「程普殿と周泰殿は無実ではないでしょうか?

兵の鍛錬と城壁での見張り、その場を離れていたら誰かが気付くと思います」

 

「そういえば、私が張昭さん、陸遜さんと書を読んでいた時、池にいる孫堅さんの姿がずっと窓から見えていました」

 

「確かに。では母様と程普、周泰も無実ということでいいだろう」

 

愛紗と朱里の言葉に頷く蓮華。

 

「あの~そういえば私、何度かお茶を取りに部屋を出たのですが~その度に孫権様の部屋の前を通りまして~琴を演奏する音がずっと聞こえていましたよ~」

 

「失礼を承知で伺いますが、何者かが代わりに演奏していた、ということはないでしょうか?」

 

朱里が問いかけるが…

 

「それはないですね~あれは間違いなく、孫権様の演奏でした~」

 

「成程…」

 

「そうか…」

 

「孫権様の琴の演奏を聞き間違えることはないな…」

 

「ええ、あの演奏は誰にもマネできないもの…」

 

「「「「「?」」」」」

 

穏の言葉に冥琳、思春、祭、粋怜が納得し、他の孫家の家臣達も頷く。

 

蓮華本人とルフィ達4人は首を傾げていた。

 

「「申し上げます!」」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

そこへ大喬と小喬がやって来た。

 

「大喬!小喬!どうした⁉」

 

「まさか姉様の容態が悪化したのか⁉」

 

「いえ!その逆です!」

 

「孫策様の容態が持ち直しました!」

 

「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」

 

「まだ意識は朦朧としていますが、お医者様の話では峠は越えたとのことです」

 

「しばらくは絶対安静の状態ですが、熱が下がれば話をすることもできるとのことです」

 

「姉様…!」

 

「そうか!よかったなお前!」

 

「ええ…!」

 

安堵のあまり膝をつき、涙を流す蓮華。

 

「それから、刺客に襲われた時に顔を見たらしく、相手の顔はハッキリ覚えていると言っておりました」

 

「どうやらルフィ殿や我らの無実も証明できそうだな」

 

冥琳もほっとした様子で話す。

 

「はふ~…」

 

途端に朱里が目を回し、ふらつきだした。

 

「孔明さん!大丈夫ですか~⁉」

 

あわてて穏が支えた。

 

「孔明!大丈夫なのか⁉」

 

「安心して気が抜けたのじゃろう。寝室に運んでやれ」

 

(孔明殿、そうとう気が張っていたのね…。けど良かった、姉様も無事で、彼も無実で…)

 

涙をぬぐい、胸をなでおろす蓮華。

そのまま一つ深呼吸をする。

 

ドクン―――――

 

(……え?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~客室~

 

「う~ん…あれ?」

 

「あ!起きたぞ!」

 

「孔明殿!」

 

「気が付いたのだ!」

 

「ルフィさん、関羽さん、鈴々ちゃん。ここは…?」

 

「来客用の空き部屋です。孫権殿達が用意してくださいました」

 

「…思い出しました。私あの後、気を失って…」

 

「少しいいかしら?」

 

戸を開けて蓮華が入って来た。

思春も一緒にいる。

 

「孫権さん!」

 

「孔明殿!気が付かれたのですね!」

 

 

 

 

 

 

「ルフィ殿、関羽殿、張飛殿、孔明殿、このような事態に巻き込んだうえ、濡れ衣を着せてしまい、本当に申し訳なかった」

 

「いいよ、前にも似たようなことあったし。それよりお前ら、おれのこと庇ってくれてありがとうな」

 

「な、何を言ってるの⁉」

 

「そうです!私があの時、ルフィ殿を見失わなければこのようなことには…!

礼を言われるような筋合いは…!」

 

「そう言っても無駄ですよ」

 

「ええ。ルフィさんはこういう人ですから」

 

「……ところで、あなた達に少しお願いがあるのだけれど…」

 

「「「「?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜―――

 

城内にある雪蓮の寝室、そこに寝台で雪蓮は眠っていた。

 

キィ…

 

部屋の戸を開けて、何者かが入って来た。

 

「…………」

 

その者は寝ている雪蓮に近づき、懐から1本の針を取り出す。

 

「成程…」

 

「⁉︎」

 

突然、何者かの声が響く。

声の主は…

 

「その針には猛毒が塗ってあるのですか」

 

「………っ⁉︎」

 

寝台に横たわっていた雪蓮だった。

 

そして部屋に入って来たのは…

 

「ようやく尻尾を出しましたね…

 

 

 

伯母上」

 

孫静だった。

 

「伯母上…?」

 

「⁉」

 

さらに戸口の方から声が聞こえ、雪蓮と孫静が見ると…

 

「一体何を…⁉」

 

動揺している蓮華を先頭に、思春、ルフィ、愛紗、鈴々、朱里が部屋の入り口に立っていた。

 

「こ、これは一体…⁉そ、孫策…お前は…」

 

「『死にかけていたのではなかったのか』ですか?

私の意識がもうろうしていると聞き、またとない好機と思われたのでしょうが…」

 

「やっぱりお芝居だったんですね」

 

朱里が言い放った。

 

「ほう、孔明殿は気付いておられましたか」

 

そんな言葉が聞こえ、部屋の隅から冥琳と数人の衛兵が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌朝―――謁見の間~

 

その真ん中に、縄で縛られた孫静が正座させられていた。

 

周りにはルフィ、愛紗、鈴々、朱里、炎蓮、雷火、粋怜、祭、穏、思春、明命、梨妟、大喬、小喬が待機し、正面の玉座には雪蓮が座り、左右には蓮華と冥琳が控えている。

 

冥琳は、昨日の雪蓮が刺客に襲われたというのが狂言だったこと、昨夜、孫静が雪蓮を暗殺しようとしたことを、皆に説明した。

 

「そういう事じゃったのか…」

 

「しかし、孔明殿はよく気付かれましたな?」

 

「確信があったワケではないんです。

ただ、孫策さんが襲われた時、見ず知らず人物のである、私達の無実がほとんど証明されていたことや、孫策さんの容態が回復した時、周瑜さんが『犯人が判明しそうだ』ではなく『無実が証明されそうだ』と言っていたことが気になっていました」

 

「成程…」

 

「それにしても伯母上…いえ孫静!何故このようなことを⁉」

 

いまだに信じられない様子で問いかける蓮華。

 

「何故ですと…?孫権、あなたも言っていたではないですか!

このところ戦続きで民は疲弊し、このままでは孫家は滅びると!」

 

「ですが、それはあなたも承知の上で賛同していたのでは⁉」

 

「身の安全のために黙っていましたが、賛同などしてはおらぬ!

あなたか孫翊が反乱を起こし、孫策を討つことも期待していましたが叶わなかった。それ故に自ら実行したまでです!

孫策!いかに大きなものを得ようとも、その過程で多くの血や涙を生み出せば、必ずそれはお前に牙をむくぞ!」

 

「覇道を歩むと決めたときから、それは覚悟の上です!

どれだけ血や涙を流し、恨みを買おうとも、汚名を被ろうとも、私には手に入れると決めた物があります!」

 

「…………っ!孫権!お前も分かっているであろう⁉孫策のやり方は間違っていると!」

 

「……確かに、姉様のやり方に思うところがないわけではありませぬ。

しかし、姉様の行動は、姉様なりに孫家のことを考えてのこと!それをないがしろにすることなどあってはなりませぬ!

私の務めは、孫家が滅びることがないように、姉様の隣で支えること!

姉様を殺め、玉座を奪う事ではない!」

 

「…っ!どいつもこいつも分かっておらぬ!そんな考えで…」

 

「くだらねェこと言ってんじゃねェぞ」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

突然、ルフィが口を開いた。

 

「孫策も孫権も、自分の信じたとおりに堂々とやっているだけじゃねェか」

 

口調は静かだが、声には怒りがこもっている。

 

「不満があるなら反対すりゃいいだろ!」

 

―――――おれと決闘しろォ‼

 

「痛い目に遭うのがイヤだからってやめる程度のくせに…!」

 

―――――お前がおれに‼勝てるわけねェだろうが‼

 

「何の覚悟も信念もねェヤツが、人の上に立とうとすんじゃねェ‼」

 

「「「「「「「「「「っ⁉」」」」」」」」」」

 

そう怒鳴るルフィの気迫に、孫静だけでなく、愛紗達や蓮華達も気押されそうになった。

炎蓮や雪蓮さえも手に汗を握った。

 

孫静もひるんでいたが、やがて怒りに体を震わせ…

 

「……キサマ」

 

ザン

 

「⁉縄が⁉」

 

「まだ刃物を隠し持っていたのか⁉」

 

「賊の分際でェ!」

 

短刀を振りかざし、ルフィに斬りかかる!

 

「ルフィ殿!」

 

「孺子!」

 

「危な―――」

 

が…

 

ギュン!

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

それよりも早く、ルフィは首を後ろに伸ばす!

 

「⁉」

 

「は⁉」

 

「え⁉」

 

「なっ⁉」

 

「何じゃアレは⁉」

 

「ちょっ⁉」

 

「な、何⁉」

 

「え、えええっ⁉」

 

「こ、これは…⁉」

 

「一体…⁉」

 

「う、嘘ォ⁉」

 

「く、首が…⁉」

 

「伸びて…⁉」

 

目の前の異様な光景に驚く炎蓮達。

 

「“ゴムゴムの”ォ……」

 

「………っ⁉」

 

当然、孫静も驚愕して思わず動きが止まり…

 

「“鐘”ェ‼」

 

ゴォン!

 

ドサッ…

 

ルフィの頭突きをモロに喰らい、気絶してしまった。

 

「あ~…スカッとした~!」

 

 


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