ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第47話 “超える約束”

その夜―――

 

「本当にごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって…」

 

「孫権殿…そう何度も謝らなくても…」

 

ルフィ、愛紗、鈴々、朱里、蓮華はある一室で話をしていた。

 

「そういうワケにはいかないわよ。何かお詫びをさせてちょうだい」

 

「…でしたら、孫権殿の琴を聞かせていただけないでしょうか?」

 

「え?」

 

愛紗の要求に目を丸くする蓮華。

 

「あ、それいいですね!」

 

朱里も賛同する。

 

「そんな事でいいの?」

 

「はい。家臣の皆様の話を聞いて、是非とも聞いてみたいと思いまして」

 

「ルフィさんと鈴々ちゃんもそれでいいですか?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「鈴々もそれでいいのだ」

 

「…わかったわ。それじゃあ…」

 

 

 

 

 

 

しばらくして、蓮華が琴を持ってきた。

 

「それじゃあ始めるわね」

 

(家臣の皆様が、他の誰にもマネできないと言っていた孫権殿の琴…)

 

(そうとう素敵な演奏なんでしょうね…)

 

「はァっ!」

 

そして、蓮華が弦をはじいた瞬間…

 

びよん!

 

「「⁉」」

 

とても琴の音とは思えない音が響き渡った。

 

ぶべん!ぎにょん!ごごん!ぼよん!みょん!ぼろん!

 

(こ、これは…)

 

(た、確かに他の誰かにマネできるものでは…)

 

そして、演奏が終わり…

 

「どうだったかしら?我ながら上手にできた方だと思うのだけれど…」

 

「え、えーと…(あ、あれで上手な方…)」

 

「はうう…」

 

愛紗と朱里がコメントに困っていると…

 

「すげェよ孫権!」

 

「頭の中にすっごく響いたのだ!」

 

ルフィと鈴々が絶賛し、拍手した。

 

「そう、良かったわ!」

 

(二人ともでかした!)

 

(ルフィさんと鈴々ちゃんの感性がズレていて良かったです…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻―――

 

城の一室に炎蓮、雪蓮、冥琳、雷火、粋怜、祭、思春、梨妟が集まっていた。

 

「部屋の警備は?」

 

「周泰とその手の者が固めております」

 

「なら大丈夫ね」

 

「陸遜はどうした?」

 

「大至急調べたいものがあると言って書庫に…」

 

「そう、じゃあここにいる者で軍議を始めましょう」

 

「今回の一件で孫静の裏切りが発覚したが…張昭、他の者についてはどうだ」

 

「はい。そろそろ来るかと…」

 

「失礼します」

 

何者かが入って来た。

その人物は…

 

「張紘殿、お待ちしておりましたぞ。して首尾は?」

 

「はい。この血判状に名を連ねた者達を処罰すれば、ひとまず反乱の芽は全て摘み取れるでしょう」

 

そう言うと張紘は、雷火に一冊の書を渡す。

 

「済まぬな、このような役目を頼んで」

 

「なァに、“江東の二張”と呼ばれたわしとそなたの仲。いくらでも汚れ役は引き受けましょう」

 

「汚れ役といえば、ルフィ君には悪いことしたわね」

 

「ったく、客人がいるときにこんなことするからだ」

 

「申し訳ありませぬ。急を要することであった故、三人も人をつけておけば大丈夫だと思ったのですが…」

 

「それにそういう事なら、わしらにも一言申せ。おかげで張昭が不要な無礼をしてしまったではないか」

 

「極秘中の秘だった故…」

 

「孫策、周瑜、張昭、おめェらは客人に無礼を働き、孫家に恥をかかせた!何らかの形で罰は受けてもらうからな」

 

「「「はい…」」」

 

炎蓮の言葉に3人は俯き返事をするのだった。

 

「それにしても、ルフィの身体のこと、本当にびっくりしたよね~」

 

「まさか異国の妖術使いだったとはな…」

 

孫静の件が片付いた後、愛紗はルフィの身体のことについて炎蓮達に説明した。

しかし、華琳の所での件があったため、ルフィが天の御使いであることは隠して説明したのだった。

 

「そういえば気になってたんだけど…」

 

ふと、粋怜が疑問の声をあげる。

 

「「「「「「「?」」」」」」」

 

「昨日の夜、孫権様はどうして孫静の後をつけていたの?」

 

「確かに…作戦は孫策と周瑜しか知らなかったんだよね?」

 

「それでしたら…」

 

「何か知っているのか甘寧?」

 

「昨日、ルフィ殿の裁判が終わり、私と孫権様で孔明殿の様子を見に行ったとき…

 

 

 

 

 

『孫権殿、お願いとは?』

 

『さっき、姉様が助かったことを知って、ルフィ殿の無実もほとんど決まって、それで少し落ち着いてきたのだけれど…その瞬間、伯母上から何か嫌な感じがしたの…』

 

『孫静殿から?』

 

『嫌な感じがした?』

 

『私自身も、よく解らないのだけれど…なんだか、今回の件と無関係とは思えなくて…伯母上のことを少し探りたいの。

今夜だけでいいから、協力してくれないかしら?』

 

 

 

 

 

…という事がありまして…」

 

「“嫌な感じがした”か…」

 

「そういえばあの子って、昔からその手の勘が妙に鋭かったわよね」

 

「客人が来た時、まだ赤子だった孫権様があまりに大泣きするので調べてみたところ、凶器を隠し持っていたこともありましたな」

 

「曲者が侵入した時も、真っ先に気付いておることが多いしのう…」

 

「私達と鍛錬する時も、まれにだけど、完全に決まったと思った攻撃を防いだり、避けたりすることがあるわよね」

 

「何故防げたのかを訊ねると、決まって『何となくそんな気がした』と言っておったのう」

 

「ただの勘だとしても、そこまでいくと侮れませんな…!」

 

炎蓮、雪蓮、冥琳、雷火、粋怜、祭の話を聞き驚く思春。

 

「その孫権様についてですが、今回の件で思わぬ成長を見られましたな」

 

「うむ。冷静でいられないからわしに委ねるなど、少し前の孫権様では考えられなかったのう」

 

「それに孫策様がただ戦を好んでいるワケではないと、理解していただけだようじゃしのう」

 

「どうやら孫権様は、私が思っている以上に成長しているようですな」

 

安心したように言う冥琳。

 

「ええ、今回の一件で私も確信したわ」

 

「確信?」

 

「私が血まみれの手で築いたものを、あの子は必ず守ってくれるってね」

 

「…孫策様、あまり不吉なことを言わないでくだされ」

 

「不吉?」

 

冥琳の言葉に疑問符を浮かべる雪蓮。

 

「それではまるで、あなたが志半ばで倒れてしまうようですぞ」

 

「ああ、ごめんごめん。でも大丈夫。あの子に譲るのは私が天下をつかんだその後よ」

 

「孫策様…」

 

「面倒ごとをあの子に全部押し付けて、それで私は隠居生活で遊びまくる!

それをしないで死ねるワケないでしょう!」

 

「「「「「「「だああァァっ⁉」」」」」」」

 

炎蓮以外の全員がズッコケた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日―――呉の港~

 

「もっとゆっくりして欲しかったんだけどね…」

 

「我々にも旅の続きがありますから」

 

ルフィ達は孫家を去ることにした。

 

この時代では船の出港はそう頻繁にできることではなく、天候によって中止になる可能性も高い。

そのため、もともと船を出す予定があり、出航が可能な今日、出発することにしたのだった。

 

そして今、炎蓮、雪蓮、蓮華、冥琳、雷火、粋怜、祭、思春、明命、梨妟、大喬、小喬に見送られ、船に乗ろうとしている。

 

「ルフィ殿、関羽殿、張飛殿、孔明殿、今回の件は本当に申し訳ありませんでした」

 

深々と頭を下げる冥琳。

 

「周瑜殿、もう十分謝っていただきましたから」

 

「いや、やはり客人であるそなたらを巻き込むようなことは、絶対に避けるべきだった。

私の過信ゆえの過ちだ」

 

「周瑜の言う通りじゃ、本当に申し訳なかった」

 

そう言って雷火も頭を下げる。

 

「あら、珍しいわね。いつもどれだけ罵詈雑言(ばりぞうごん)を言っても謝らない雷火先生が」

 

諫言(かんげん)を申すことと、無実の者を罪人扱いするのとでは話が別じゃ。

それからルフィ殿と関羽殿、張飛殿の誇り、孔明殿の聡明な弁と智謀を侮辱したことも謝ろう」

 

「いいよ。よくあることだし」

 

「ルフィが良いなら、鈴々もそれでいいのだ」

 

「私も気にしていませんから。ところで陸遜さんは?」

 

「何やら調べ物があるらしくてな、昨夜から書庫に閉じこもって出てこないのだ」

 

「そうなんですか…」

 

「孔明殿、お主さえよろしければ、またわしと書について語り合わぬか?」

 

「はい!その時はまたよろしくお願いしますね!」

 

「張飛ちゃん、また手合わせしましょうね!」

 

「楽しみに待っているから!」

 

「うん!程普と太史慈も元気でなのだー!」

 

「関羽、あなた達これからどうするつもりなの?」

 

「そうですね、とりあえず真っ直ぐ北へ向かい、幽州のあたりを目指そうかと」

 

皆が別れの挨拶をする中…

 

「ルフィ」

 

「ん?」

 

蓮華がルフィに話しかけてきた。

 

「今回は狂言だったけど、もし姉様が倒れたら私が孫家の当主になる」

 

「…………」

 

「ルフィは…私が姉様みたいに……姉様と同じようにできると思う?」

 

「それはムリだろ」

 

「っ!」

 

「お前は孫策じゃねェんだ。あいつにはなれねェ」

 

「……そう」

 

「だから、お前はお前で好きにやればいい」

 

「……え?」

 

「あいつと同じじゃなくても、スゲェ奴にはなれるし、違うともっとスゲェ奴になれるかもしれねぇぞ?」

 

―――――おれはいつかこの一味にも負けない仲間を集めて‼世界一の財宝をみつけて‼海賊王になってやる‼

 

―――――ほう…‼おれ達を越えるのか

 

「同じより、もっとすごい奴になる方が良いじゃねぇか!」

 

「……ええ!その通りね!」

 

 

 

 

 

 

そしてルフィ達が乗り、船が動き出した。

 

「それじゃァな!」

 

「皆さんお元気で!」

 

「またなのだ~!」

 

「お世話になりました~!」

 

「元気でな~!」

 

「また来てね~!」

 

「あなた方なら、いつでも歓迎しますから!」

 

「日々精進するのじゃぞ!」

 

「今度会う時は、私達ももっと強くなっているから!」

 

「達者でのう!」

 

「お体に気を付けて!」

 

「旅の安全を祈っております!」

 

「また一緒に狩りしようね!」

 

「今度はもっとゆくっりして行ってくださいね~!」

 

「街も案内しますから~!」

 

遠ざかる船に向かって、皆が口々に声をかける中…

 

「…………」

 

「蓮華?」

 

蓮華は一人黙って、俯いていた。

 

「……ルフィ!」

 

「?」

 

しかし、やがて顔を上げ…

 

「私の真名は(はす)(はな)って書いて“蓮華”っていうの!この真名、預かってくれる⁉」

 

「…………おう!わかった!」

 

「あら~?珍しいわね~?蓮華がそこまで心を許すなんて~!」

 

隣で見ていた雪蓮が笑い出し…

 

「ルフィ~!私の真名は雪の蓮で“雪蓮”よ~!私もあなたに預けるわ~!」

 

「そうか!」

 

「じゃあ私も!私は“梨妟”だから!よろしくね~!」

 

「おう!よろしくな~!」

 

「おい、貴様!」

 

「?」

 

「私の真名は“思春”だ。“思う春”と書く。この真名を貴様に預ける!

もし貴様が、我々の真名を預かるに値しない人物だったら、私が貴様の首を刎ねる!

良いな⁉」

 

「おう!良いぞ!」

 

そして…

 

「“雪れ~ん”!“蓮華”ァ~!“梨あ~ん”!“思しゅ~ん”!またな~~~!」

 

船は進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

孫家一行が城へ戻る途中。

 

「くくく…」

 

「ふふふ…」

 

「な、何ですか⁉母様も姉様も、さっきからずっとニヤニヤして⁉」

 

「まさか蓮華が男に真名を預けるなんてね~」

 

「周りにそれほど親しい男がいなかっただけです!そんな特別なことでは…」

 

「けどさァ、初めて会った時はあんなに険悪だったのに、よくあそこまで仲良くなったと思うよ?」

 

「り、梨妟まで…!」

 

「いや~しかし安心したぜ!これでようやく、孫の希望が湧いてきたってもんだ!」

 

「ま、孫⁉」

 

「雪蓮は冥琳とばっかだし、蓮華は堅いから心配だったんだがな。一安心だ」

 

「大殿ってば、そんなにルフィ君が気に入ったの?」

 

「ああ!腕っぷし、性格、気迫、すっかり気に入っちまったぜ!いっそ、おれの夫に欲しいくらいだな!」

 

「それは勘弁して下さいよ…」

 

「大殿とあの孺子が夫婦では、わしらの身が持ちませんぞ…」

 

苦笑いをする粋怜と祭。

 

「確かに…雪蓮と夫婦になるのも避けて欲しいかも…」

 

「となると、やはり蓮華様だな」

 

「梨妟!思春まで!そもそも彼らが孫家に帰順するかどうか…」

 

「でも、孫家に加わっていただければ頼もしいですね」

 

「うむ。関羽殿や張飛殿の武芸や孔明殿の智も、このまま放っておくのは勿体ないのう」

 

明命の言葉に雷火も頷く。

 

「“勿体ない”ですか…」

 

「冥琳?」

 

「何じゃ?冥琳は勿体ないと思わんのか?」

 

「私は勿体ないよりも、“そうしなければ危ない”と思いましたな」

 

「“危ない”?」

 

「ええ。あの者達が孫家以外の場所で、あの才にふさわしい地位と力を手に入れたら、我らの強大な敵として立ち塞がる。

そんな気がしましてね」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

冥琳の言葉に全員が黙り込んだ。

 

その時だった。

 

「ああ~⁉もう行ってしまったんですか~⁉」

 

「穏⁉」

 

前方から一冊の書物を持った穏が走ってきた。

 

「どうしたのよ穏、そんなに急いで?」

 

「コレですよコレ!昨夜から書物の誘惑に負けては立ち上がり、負けては立ち上がり、ようやく見つけたんですよ~!」

 

「そこは誘惑に勝たねばいかんだろう…」

 

ため息をつく冥琳。

 

「とにかくこれを見てくださいよ~!」

 

「何だこれは?」

 

「これって…天の御遣いの伝説について書かれた書物じゃない」

 

「これがどうかしたの?」

 

「ここ読んでください~!」

 

そう言って穏は書物を広げ、その中の一文を指さす。

 

「何々…?『打撃と(いかづち)が効かず』…『伸縮する身体を持つ護謨(ごむ)の御遣い』⁉」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某所。

 

〈孫静が捕まった?〉

 

「ええ。孫策と周瑜の罠にはまってね」

 

〈お前との関連は知られていないか?〉

 

「そこらへんはぬかりないわよ。大丈夫」

 

〈そうか、なら良い。引き続き、お前は我々への情報提供に徹してくれ〉

 

「了解。私は下手に動いたりはしないから、安心して良いわよ」

 

〈当然だ。だからこそ、お前は我々の中で幹部に選ばれたのだからな。頼むぞ()()

 

「任せて頂戴」

 

 




第十席編、ひとまず完結です。

ナミとの合流、シャオの帰還を期待していた方もいるかもしれませんが、もう少し先になります。
申しわけありません。

この後は、数話オリジナル話を投稿したのち、第十一席編に入ります。

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