ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
ルフィ達が呉郡を出発した頃―――
ウソップは紫苑、璃々と一緒に旅を続けていた。
「お!城門が見えるぞ」
「中々大きな街のようですね。今夜はあそこで宿を探しましょう」
▽
ウソップ達は街へと入って行った。
「……何というか、活気がない街だな…」
「みんな元気ないね」
「…………」
「ん?どうした紫苑?」
「あ、いえ。何だかこの街の風景に見覚えがあるような気がして…」
「やめてってば!」
「「「?」」」
3人の耳に女の子の叫び声が聞こえ、見てみると…
「あの、いい加減にしてくれませんか?」
「か、母さん…」
「そういうワケにはいかねェんだよな」
親子らしき2人の女性が数人の役人に絡まれていた。
「あんたみたいな上玉、逃がす手はないぜ」
「おれは娘さんの方も中々好みだな」
どうやら役人達は自分達の色欲を満たす目的で、親子を連行しようとしているようだ。
「なるほど…この街に活気がないのは、役人がああだからか…」
「…ウソップさん、少し璃々のことお願いしていいかしら?」
「え?いいけど…」
ウソップが承諾するなり、紫苑は役人達に近づいて行き…
「あの…嫌がっているようですし、止めてあげていただけないでしょうか?」
役人の1人の腕をつかみ、やや強めの口調で訴える。
「何だ?こりゃまた上玉じゃねェか」
しかし、役人はひるむどころか、紫苑までもを標的にする。
「こいつも中々好みだな」
そして役人の一人が紫苑と、先に絡まれていた母親の方を交互に見ながら…
「これだけ上玉なら、二人とも全然問題ないな」
「ああ。まだまだイケるぜ」
「むしろおれは、これくらいの方が好みだしな」
ブチブチッ
「⁉」
その瞬間、ウソップの耳に何か嫌な音が聞こえた。
隣にいた璃々や先に絡まれていた親子の娘の方、役人達には何も聞こえていないようだが、ウソップの耳には確かに聞こえた。
そして、音の発生源である2人の母親からは、何かどす黒いオーラのようなものが立ち上がっているように見える。
「それはどういう意味でしょうか?」
「ええ。聞き捨てなりませんね」
「「「「「⁉」」」」」
その言葉と同時に、役人達も2人の様子がおかしいことに気付き、冷や汗を流し始める。
「か、母さん…?」
先に絡まれていた娘の方も、2人の放つ怒気に気圧され距離をとる。
「何が言いたいのでしょうか?」
「失礼な言葉のような気がしたのは何故でしょうか?」
「え、えっと…」
「お、おい」
「?」
役人が2人にたじろいでいる隙に、ウソップは娘の方に近づき話しかける。
「おれが隙を作って、あの二人を連れ出すから、お前はこの子を連れて一緒に来てくれるか?」
「う、うん。わかった…」
「あとコレつけておけ。璃々ちゃんも耳塞いでいろ」
「「?」」
そして、ウソップは娘に璃々を預け…
「さあ」
「話してください」
「いや…その…」
「“ウソ~ップ”…」
「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」
「“ノ~イズ”‼」
キャキュキュキュキャキィキィキィ~~~~~‼
「「「「っ⁉」」」」
「「「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ァァァァァ~~~~~⁉」」」」
「な、何だこの音はァ~~~⁉」
ウソップが黒板をひっかいて奏でた頭の痛くなる音に、役人達は耳を抑えて震え上がる!
ウソップに言われ耳栓をつけていた娘と、耳を塞いでいた璃々も顔をしかめ、紫苑と母親の方も耳を塞いで震えている。
「今だ!逃げるぞ!」
「キャッ⁉」
「う、ウソップさん⁉」
「う、うん!」
「あたまいた~い!」
そしてウソップが2人の手を取り、全速力で逃げると同時に、娘も璃々を抱えて走る。
「ああ!アイツら逃げやがった!」
「いやでも…この場合、おれ達の方が助かったんじゃねェか?」
「た、確かに…」
▽
「ハァ…ハァ…どうだ?あいつら追って来てねェか?」
「…何とか逃げ切ったみたいだよ」
5人は路地裏に逃げ込んだ。
「大丈夫だったか璃々?」
「うん…まだちょっとあたまいたいけど…」
「悪かったな、この子のこと頼んで」
「いいよ。ボク達も助かったし…」
「あ、あの…何だかごめんなさいウソップさん。私、どうしてもああいう事を言われると、抑えられなくて…」
「ったく、勘弁してくれよ…。あのまま役人に手ェだしたら、とんでもないことになってたぞ?」
「それにしても、いきなり二人の女性の手を握って連れ出すなんて、あなたけっこう大胆なんですね?」
「そういう事を言う余裕があるのかアンタは…」
笑みを浮かべながらそう言う母親に、呆れそうになるウソップだった。
一息ついたウソップは、改めて2人の親子を見る。
二人とも青い髪に青を基調とした服を着ている。
母親の方は紫苑と同い年くらいで、髪も同じくらい長い。顔立ちはかなり整っているが、どことなく油断ならぬ雰囲気がある。
娘の方は、ウソップより少し年下で、眼鏡をかけており生真面目そうな雰囲気がある。
「ねえ、三人はここに住んでいるの?」
不意に娘の方が訊ねてきた。
「え?いや、旅人だけど…」
「そっか…」
「どうかしたのか?」
「ううん、ボクと母さんはちょっと用事があってこの街に来たから…」
「皆さんが住民だったら、詳しい話が聞けるかもしれないと思っていたので…」
「そうなのか」
「あの…お二人はここがどこか知っているのですか?」
「ええ。ここは荊州“
「長沙⁉」
「「「「⁉」」」」
郡名を聞いた途端、大声をあげる紫苑。
「ではここは…」
「お母さん?」
「ど、どうした紫苑?」
「きゃー!」
「「「「「⁉」」」」」
突然どこからか女性の悲鳴が聞こえた。
▽
「や、やめて下さい!私の女房ですぞ!」
「知ったことか!」
「あ、あなた~!」
一同が物陰に隠れながら様子を見に行くと、またしても役人が人攫いをしているところだった。
「ひでェな…この街の役人はあんなのばっかりなのか?」
「そういう奴らが大半だよここは…。そうじゃない人達は、みんな殺されるか、弱い立場になっているんだよ…」
「ええい!まどろっこしい!」
「!この声…!」
「え?」
紫苑の反応が気になり、ウソップは身を乗り出してよく見てみた。
すると、役人たちの後ろに天蓋付きの馬車があり、それに上質な着物を着た小太りの男が乗っていた。
「この男を一家まとめて死罪にしろ!女と財産はわしが全て没収する!」
「はっ!」
「ええっ⁉」
「そんなァ⁉」
悲鳴をあげる一家。
「女を奪うために一家全員を罪人扱いって…んなのアリかよ⁉」
「そんなに珍しくもないよ、ああいう権力者は…!」
「“
「韓玄…!」
「あの男が…!」
その名に反応する親子二人。
「どうしたお前ら…」
気になったウソップが訊ねようとしたその時…
「韓玄!」
「「「「⁉」」」」
紫苑の声が響き、見てみると…
「覚悟ォ!」
物陰から飛び出した紫苑が、弓を構え韓玄を狙っていた!
「紫苑⁉」
ウソップが驚愕の声をあげると同時に、紫苑は矢を放つ!
ヒュン!
矢は真っ直ぐに韓玄という男に向かって飛んでいく!
カキン!
「!」
しかし、一人の男が鎖のついた鉄球で矢をはじいた。
「おれは韓玄様の護衛、“
「…っ!」
「!お前、もしや紫苑か⁉」
紫苑が名乗る前に韓玄が喋った。
「!キサマが私の真名を呼ぶな!」
「楊齢!やつを捕えろ!決して殺すでないぞ!」
「はっ!」
返事をすると同時に楊齢は鉄球を構える。
「望むところ!」
それに対して紫苑も矢を構える!
「ダメだ!紫苑!」
しかし、ウソップが止めに入った。
「ウソップさん⁉」
「よく考えろ!下手したら璃々も巻き込まれるぞ!」
「っ!」
「逃がさんぞ!」
そう叫び、鉄球を投げつける楊齢!
ブン!
「うおっ⁉」
「きゃあっ⁉」
間一髪で躱す2人!
「くそっ!必殺“
ガガガガガガン!
「ぐおっ⁉」
ウソップの反撃にひるむ楊齢。
「逃げるぞ紫苑!お前ら2人も璃々と一緒に来い!そこの一家も今のうちに逃げろ!」
「は、はい!」
「全員で紫苑を―――あの女を捕えろ!」
「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」
韓玄の命令を受け、他の役人達も紫苑を標的に動き出す!
「必殺“超煙星”‼」
ボウン!
「うわっ⁉何だァ⁉」
「ゲホゲホ…」
「ゴホッ…」
一瞬で視界が真っ白になり戸惑う韓玄たち。
そして視界が戻った後には、ウソップ、紫苑、そして最初に狙われていた一家も全て消えていた。
▽
その夜―――
「どう?周囲の様子は?」
「今のところは大丈夫そうだよ」
ウソップ達5人は一軒の廃屋を見つけ、そこで夜を過ごすことにした。
「紫苑、璃々は?」
「ぐっすり眠っているわ」
「そうか」
璃々の頭をなでながら、紫苑は答える。
「……なァ紫苑、あの韓玄とかいう男は何者で、お前とアイツとの間に何があったんだ?」
「…………」
「そうね。できれば私達も聞かせて欲しいのだけれど」
そう言ってウソップ達3人は、紫苑を問い詰めるように訊ねる。
「……わかりました。お話ししましょう」
▽
璃々を部屋の隅に寝かせ、紫苑は話し始めた。
「あの男は韓玄。長沙郡を治めている太守です。
そして……主人を…璃々の父親を…私の夫を殺した張本人なんです…!」
「「「⁉」」」
「数年前、私と主人はこの街で武官として働いていました。
ある日、長沙郡の太守となった韓玄が領主として居座るようになり、あの男による暴政が始まりました。
その頃は私や主人をはじめ、多くの臣下が必死に諌めていたため、この街の荒れようも、今ほどひどくはありませんでした。
まだ璃々が生まれたばかりの頃のことでした。
ある日、近隣の太守の軍がこの街に攻め入って来ました。
韓玄の命令で主人が出陣し、敵の大将と一騎打ちをすることになりました。
しかし相手の大将も強く、勝負は長引きました。
結局、その日に決着はつかず、勝負は翌日に持ち越しになりました。
翌日、主人は再び一騎打ちを挑みました。
その途中、主人が乗っていた馬の脚が折れ、主人は地面に投げ出されてしまいました。
敵も味方も私も、主人が殺されると思いました。
しかし相手の大将は『明日、馬を替えて再び勝負をしよう』と言って、去って行ったのです。
その後、主人は落馬した失態を韓玄に責められ、明日は弓矢を、それも毒を塗った矢を用いるように言われました。
主人は偃月刀の使い手でしたが、弓の腕も優れていました。
その夜、主人はひどく悩んでいました。
『あの男は今日私を殺せたのを、改めて決着をつけようと見逃してくれた。
義侠心を持つ立派な武人だ。
あのような武人とは、せめて堂々と勝負して決着をつけたい。
だが、主君の命に背くようなマネもしたくもない。
どちらも私の誇りに反する。私はどうすれば…』
次の日、主人は弓を携えて出陣しました。
しかし主人は矢を番えずに弓を二回鳴らし、三回目に矢を放ち相手の頭巾に命中させました。
主人は借りを返した後、改めて決着をつけようとしたのです。
しかし韓玄はこのことに腹を立て、主人を謀反人として打ち首にしました。
私をはじめ、多くの臣下が反対しましたが、聞き入られませんでした。
その後、主君から引き上げの命令が出たらしく、敵軍は引き上げました。
その数日後のことでした。
私は韓遂の部屋の近くを通った時、ある会話を偶然聞いてしまったのです。
『お前のおかげで上手くいったよ』
『弓を使わなければ命令違反、使えば相手の義を踏みにじったとして処刑、どちらに転んでもあいつを始末できる。
いい策だっただろう?』
『ああ、わざと足の弱い馬を用意した甲斐があった。
これでアイツの妻、黄忠をおれのモノにできる。お前には本当に感謝しているぞ』
相手の方はわかりませんでしたが、間違いなく韓玄の声でした。
敵が攻めてきたのも、主人が死んだのも、韓玄の企みだったのです。
主人は、その誇りを踏みにじられ、利用されて殺されたのです。
そして私はその日、闇夜に紛れて璃々を連れて逃げだしました。
そして今日、この街に戻ってきて、私は知りました。
私が去った後、韓玄は同じように自分の都合で罪を捏造して、人を殺していたのだと…!
私があの時…逃げずに韓玄を止めていれば…この街はこんな事には…!」
「そうだったのか…」
「主人を殺された恨みはもちろんあります…!
でも、もうそれだけじゃなくて…!
あの時逃げた後悔や…!何より力で誰かの愛する人奪って、無理やり自分のモノにするなんて…!
もう何もかも許せなくて…!思わず…!」
大粒の涙を流しながらも、怒りに体を震わせる紫苑。
「……あの、あなた達」
すると、母親が声をかけてきた。
「私達と手を組みませんか?」
「え?」
「?」
「母さん⁉」
▽
「自己紹介がまだでしたね。私の名は“
紫苑が落ち着くのを待って、陳珪と名乗った女性が話を始めた。
「陳珪ってもしかして徐州の名家、陳家の…?」
「はい。その陳珪です」
「ではそちらの子は…」
「“
「あなたが陳登殿だったのですか。あなたの訪れた村は、必ず農業が発達すると有名ですよ」
「そんな大したことじゃないよ。実際に頑張っているのは農家の皆さんだし…」
謙遜しつつも、嬉しそうにする陳登。
「私は“黄忠漢升”、あそこで寝ているのが娘の“璃々”です」
「おれは“ウソップ”。異国の出身で、色々あって紫苑達と旅をしている」
「異国の人なんだ。どうりで見慣れない格好していると思った」
「だろうな。それで、手を組むってのは一体…?」
「はい。順を追って説明しましょう。黄忠さんは、徐州刺史の“
「はい。最近は体調を崩されることも多いとか…」
「その通りです。そして陶謙様のお命はもう長くありません。
そのことは噂になり、他の州や郡にも伝わっております。
そしてその話を聞き、これは好機と考え、徐州の侵略を企んでいる者達がいるのです」
「ひょっとして、それが韓玄?」
「いいえ、韓玄は自分の贅沢にしか興味がなく、領土の拡大は考えていません。侵略を目論んでいるのは、この周辺の他の太守達です」
「それじゃあ、お前らは何でここに?」
「こういう事です。
ここ荊州は、太守どうしのにらみ合いが絶えない地域です。
それ故、徐州を手に入れ、領土拡大を目論む者が多いのです。
しかし、そのような輩は荊州のどこかに領主が倒れた領土があれば、必ずそこに狙いを替えるでしょう」
「!それじゃあ、あなた達は…」
「はい。最も民の反乱の意志が強いこの街で、太守韓玄を暗殺し、反乱を起こす。
そして周辺の太守達の目を、ここへ向けるために来たのです」
「「!」」
「私達は目的のために、この街の地理や兵、韓玄の屋敷、城の造りなどについての情報が必要なのです。
黄忠殿がここに勤めていたのならば、情報を得やすくなります。
黄忠殿も韓玄を討つことができます。
手を組んでいただけないでしょうか?」
「…………」
「「…………」」
「…お、おい…しお…」
「……ウソップさん…」
「―――っ!……わかった、お前に任せる」
「ありがとうございます」
「「…………」」
「協力させてください」
「ありがとうございます」
こうしてウソップ達は、韓玄の暗殺作戦に協力することになったのだった。
「ところでお二人とも」
「何でしょうか?」
「私達の名前なのですが、名で呼ぶと身元がバレて、怪しまれる可能性があります。
ですから、真名をお預けしますので、私達のことはそちらで呼んでください」
「いいのか?会ったばかりなのに」
「ええ。“
「うん。偽名だと慣れないし、命の危険があることに協力してくれるなら、それくらいしても良いと思う」
「そういう事ですので。私の真名は“
「ボクは“喜雨”だよ。よろしくね」
「でしたら、私も真名をお預けします。私の真名は“紫苑”です。どうぞよろしくお願いします」
「おれは真名はねェから“ウソップ”でいい。よろしくな」
燈、喜雨登場回です。
燈こと陳珪ですが、今作では徐州の陶謙の家臣となりました。
恋姫原作では豫州沛国の相、正史でも同じだったそうです。
でも、横山三国志をはじめ、陳登と一緒に徐州にいる描写が多いんですよね。
それで考えた結果、徐州の方がストーリーを作りやすかったので、こうなりました。