ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第49話 “そういう時は”

ウソップ達が燈、喜雨と出会った翌朝―――

 

「随分高いんだね…」

 

「税の取り立てが厳しくてね…これくらいじゃないと生活できないんだよ…」

 

「大変だな…」

 

ウソップと喜雨は買い出しをしていた。

 

「酷い連中だよ…。

自分達の贅沢の為だけに重い年貢をかけて、少しでも逆らえばすぐに死刑、美しい女はすぐに城に連れ去る…。

これじゃあ盗賊とおんなじさ…」

 

店番をしていた女性は目をつむり、涙を浮かべながら話した。

 

「盗賊よりはましだと思うよ」

 

喜雨が口を開いた。

 

「まだ良心がある人もいるし、ちゃんと政務や警護はしているんでしょ?

賊は何の苦労もしないで、ただ奪っていくだけ…本当に最低の連中だから…。

どっちも酷い奴らなのは変わらないけど…」

 

「……そうだね」

 

「…………」

 

「それで、買い物はそれで全部かい?」

 

「あ、そうだな…あとはその唐辛子と…生卵はないのか?」

 

「あいにく今日はないよ。腐ったので良けりゃあるけど」

 

「じゃあそれでいいから分けてくれないか?」

 

「え?別にいいけど…」

 

 

 

 

 

▽

 

 

 

 

 

「腐った卵なんて貰ってどうするの?それに唐辛子もそんなに沢山買って」

 

「これで武器を作るんだ」

 

「武器?そんな物で?」

 

「聞けーっ!町民どもーっ!」

 

「「?」」

 

大声が聞こえ、2人が見てみると、役人が人相書を手配していた。

 

「昨日、この街を訪れた“黄忠漢升”という女を探せとの御命令だーっ!

見つけた者には報酬が与える!匿った者は死罪となる!いいな!」

 

「……紫苑の奴、早速指名手配されちまったか…」

 

「……あの…ウソップさん…」

 

「何だ?」

 

「……ごめんね。紫苑さんの気持ちに付け込んで、こんな事させて…」

 

「っ⁉」

 

ウソップは思わず絶句した。

 

ウソップ自身、燈のやり方にそ(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)感(・)じ(・)はしていたが、喜雨がそれをここまでハッキリ言葉にするとは思っていなかった。

 

「驚いた?実の母をハッキリ悪く言った事に」

 

「ま、まァな…」

 

「ボク達は親子だからさ、よく仕事も一緒にやっていたんだよ。

一緒に偵察に行ったり、ボクの業務の担当が母さんになったりしてね。

だから母さんのああいう所は、何度も目にしてきたんだ」

 

「なるほど…」

 

「実はね…今回の作戦も母さんが提案したものなんだ」

 

「そうだったのか⁉」

 

「うん。自分達の所へ来る災いを、他所へ押し付けようなんて…凄く嫌な感じがしたけど、母さんの考えそうな事だって思った…」

 

「…………」

 

「母さんのああいう所は…正直ボクも……嫌いなんだ」

 

「……そうか」

 

「それに…母さんは……」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

▽

 

 

 

 

 

「私達が羨ましい?」

 

同じ頃、昨夜寝泊まりした廃屋で、紫苑と燈が話していた。

璃々は少し離れた所で、地面にお絵描きをしている。

 

紫苑は璃々に、少しこの街で燈達と仕事をする事になったと伝え、燈と喜雨は璃々にも真名を預けた。

 

「ええ、私はあの子に好かれていないから…。

紫苑さんは璃々ちゃんに愛されているし、ウソップさんとも仲良くて、家庭円満でしょう?」

 

「あ、いえ!ウソップさんは本当にただの旅の同行者で、そういう関係では…」

 

「あら、そうだったんですか。でも、仲が良いのは本当でしょう?やっぱり羨ましいわ」

 

「けど…燈さんと喜雨ちゃんだって、そんなに仲が悪い様には見えませんでしたけど…」

 

「……だから困っているのよ」

 

燈はわずかに表情を曇らせた。

 

「徹底的に嫌われているわけでも、好かれているのでもない…だからどうしていいか解らないのよ。

私が優しくしても、煙たがるだけでしょうし…」

 

「……燈さんは何とかしたいとは思わないの?」

 

「それもよく解らないわ…今のままで問題がある訳ではないもの。少なくとも政についてはね。

あの子は、私が為政者として優秀な事はよく解っているから…理にかなっていて、冷徹で的確な考え方をしている事はね…。

今回の作戦や―――私が徐州を売り渡そうとしている事についても」

 

「え?」

 

 

 

 

 

▽

 

 

 

 

 

再び、ウソップと喜雨。

 

「売り渡すって……?」

 

「昨日話したでしょ?陶謙様はもう長くないって。だから、跡取りが問題になっているんだ。

陶謙様には子供が二人いて、二人とも決して悪い人ではないんだけど、今の世の中で徐州を守っていけるだけの人物ではないって、陶謙様も本人達も家臣達も、みんなそう思っているんだ。

だから母さんは、外から相応しい人物を招き入れて…」

 

「そいつに徐州を治めて貰おうって考えているのか…」

 

「うん。決して悪い考えではないってわかってはいるよ…。

でも、ボク達は本来ならご子息様を支えていくべきなのに……そんな簡単に主を変えて…これじゃあ裏切りも同然だよ…。

正直言って、わからないよ…何でそんな事を考えられるのか…」

 

「……捨てちまえよそんな母親」

 

「……え?」

 

「あの女、胡散臭いとは思っていたが、聞いた限りじゃただのロクでなしじゃねェか。

そんな奴と一緒にいたって、良いことなんかねェよ。

お前だっていつ捨てられるかわかんねェし、良い評判つかねェぞ。

どうせあいつに、そこまで情がある訳でもねェんだろ?

これ以上嫌な思いする前に、あんな薄汚ねェ小悪党さっさと縁を切って…」

 

パァン!

 

突然、乾いた音共にウソップの頬に痛みが走った。

 

喜雨がウソップの頬をひっぱたいたのだ。

 

「―――何も…何も知らないくせにっ!」

 

「…………」

 

「それ以上母さんを―――悪く言うな!」

 

目をつむり、顔を真っ赤にして喜雨は叫んだ。

 

「確かにボクだって母さんに思う所はあるよ!

でも、あの人はいつも一生懸命だった!今回の作戦だって―――全部、徐州の民の事を考えての事だ!

あの人はやっている事は、酷な事かもしれないけど!ボクは―――」

 

「あいつの事が好きで、信じているんだろ」

 

「………え?」

 

「だったら…それでいいじゃねェか」

 

―――――おれは親父が海賊である事を誇りに思っている‼勇敢な海の戦士である事を誇りに思っている‼

 

「お前がそう思っているなら…迷う必要なんてないだろ」

 

「あ……」

 

そう言われて、喜雨自身も初めて気が付いた。

自分が無条件に燈を好いている事を、燈を信じている事を。

 

「お前があいつを好きで、信じていたいなら、ただそ(・)う(・)す(・)れ(・)ば(・)い(・)い(・)じゃねェか」

 

「……でも、ボクが母さんに思う所や、嫌いな所があるは本当だし…。

好きでいるって…具体的にどうするのか…わからないよ…」

 

「簡単さ、偽らなければいいんだ」

 

「え?」

 

「今おれにしたみたいに、馬鹿にする奴はひっぱたいて、あいつが母親で、立派な為政者である事を誇りに思っていればいいんだよ。

誰に何を言われてもな」

 

「……うん。わかった」

 

「さて、だいぶ話し込んじまったな。急いで帰るか」

 

「うん。……あの、ウソップさん」

 

「ん?」

 

「母さんのことを悪くいったの…ボクのためなんだよね…?

ごめんね。そんなことさせたうえ、ひっぱたいたりして…」

 

「違う」

 

「え?」

 

「そういう時は…“ありがとう”って言うんだよ」

 

「……うん、そうだね。ありがとう、ウソップさん」

 

「いいさ。さ、急ぐぞ」

 

「うん」

 

 

 

 

 

▽

 

 

 

 

 

廃屋の門前。

 

買い出しから戻ったウソップは、紫苑と燈と璃々が食事を作っている間に、早速武器の作成をしていた。

 

「ねえ、ウソップさん。これ何を作っているの?」

 

ウソップが作業しているすり鉢を覗き込みながら、喜雨が訊ねる。

 

「おれ様特性“唐辛子星”だ」

 

「“とうがらしぼし”?」

 

「ああ。こうやって唐辛子を粉末状にして、団子にしてな。

これを顔にぶつければ、唐辛子の粉が目、鼻、口に入って、相手は…」

 

「ふェっくしょん!」

 

ぶわっ

 

「ギャアアアァァァ‼目がァァァ‼鼻がァァァ‼辛いィィィ‼」

 

「うわあああ⁉ごめん!ウソップさん!」

 

「ウソップさん、喜雨ちゃん、ご飯でき…ってウソップさん⁉」

 

「ど、どうしたの⁉」

 

「ウソップお兄ちゃんだいじょうぶ⁉」

 

紫苑達が食事の支度を終え2人を呼びに向かうと、ウソップが目、鼻、口を押え、大量の涙を流しながら地面を転げまわるという、何とも奇妙な光景があった。

 

「あ、ああ…大丈夫だ…(視界が狭くなるから外してたけど、せめてゴーグルだけでもつけるか…)」

 

反省するウソップだった。

 

 

 

▽

 

 

 

「皆さん、コレを見て下さい」

 

食事をとりながら、紫苑は木片に書いた地図を2人に見せる。

 

「私がうろ覚えで書いた物ですけど、これがこの街の大まかな地図です。

韓玄の屋敷は北門の付近にあるココ、その周辺は兵の宿舎や食料庫、酒倉、武器庫、宝物庫、馬小屋になっているわ」

 

「重要な物は自分の周囲に置いているって訳だね…」

 

「ええ。一応、他の場所にあるそういった重要な建物の場所も記しておいたけど、場所や造りが変わっている可能性もあるし、兵の配置とかもちゃんと確認しておいた方が良いと思うの。

だから、これから偵察に行く必要があるわ」

 

「それは私が行きましょう。作戦の責任は私にあるから、私がちゃんと確認して、作戦を考えるわ」

 

燈が立候補する。

 

「そうね。でも、燈さんは軍師だからそこまで武術は得意でないでしょうし、護衛に私が…」

 

「いや、紫苑は街に出ない方が良い」

 

「うん。さっき買い出しに行った時、紫苑さんの人相書が出回っているのを見たから、紫苑さんは作戦の時までじっとしていた方が良いと思うよ」

 

「そうですか…」

 

「そうなると…」

 

「護衛はおれが行くしかねェな」

 

 

 

 

 

▽

 

 

 

 

 

そしてウソップと燈が街に繰り出したのだが…

 

「うふふ…」

 

「お、おい…燈…」

 

燈はどういう訳かウソップと腕を組み、ぴったりくっついて歩いていた。

 

燈がかなりの美女であるため、ウソップもドギマギしてしまう。

 

「何でしょう?」

 

「もう少し離れてくれねェか?」

 

「うふふ、奥手なんですね」

 

「お前が大胆なんだよ…!」

 

「だってせっかく若い殿方と二人きりなんですもの。少しくらいこういう事もしたいじゃない」

 

「…相手が三枚目だとしてもか?」

 

「あら、私は人を見かけだけで判断したりはしないのよ」

 

「……確かにお前なら、もっと色んな所をよく見るだろうな…」

 

「喜雨も結構あなたの事結構気に入ってるみたいだし、新しい父親が欲しいとは思っていたのよ。

女手一つであの子を育てるの、本当に大変だったんだから」

 

「……確かに、大変そうだな…」

 

「……ええ、本当にね…」

 

燈の顔がわずかに暗くなった。

 

「あの子といる時も、ずっと為政者として勤めている事が多かったから…私のそういう所を理解して…」

 

「そういう付き合い方になってしまった、って訳か…」

 

「ええ。ウソップさんも私にあまり良い印象はないんじゃない?

災いを押し付ける様な策を考えて、それにお二人を巻き込んだりして…」

 

「使える物は何でも使うっていうのは、悪い考えじゃねェと思うぞ」

 

「……主を変えようと考えるのは?」

 

「……徐州の跡継ぎの事か」

 

「ええ。喜雨から聞いたの?」

 

「大体はな。本来なら助けるべき未来の主君を捨てて、新しい主を得ようって考えてるんだってな」

 

「ええ」

 

「おれも気に入らねェな、その考えは」

 

「そうでしょうね」

 

「でも間違ってねェよ」

 

「…え?」

 

「こういう世の中で生きてりゃ、これ以上一緒に進めねェ奴、この先へ連れて行けねェ奴ってのは…どうしても出てくるもんさ…」

 

―――――メリー号はもう直せねェんだよ‼

 

「そういう奴を無理矢理連れて行ったって…互いを苦しめるだけだ…」

 

―――――大丈夫。もう少しみんなを、運んであげる

 

―――――だったらもう、眠らせてやれ…‼

 

―――――ごめんね―――もっとみんなを遠くまで、運んであげたかった………

 

「だから…間違ってねェよ…」

 

「……そう思う?」

 

「ただ…そ(・)う(・)い(・)う(・)の(・)は(・)止めた方がいいと思うぞ」

 

「?」

 

「そんな飄々と笑っていないで、悩んで苦しんでる所…ちゃんと見せるべきだと思うぞおれは」

 

「それは…大勢の人の上に立つ人間がそんな事では…」

 

「確かに臣下や領民はそうかもしれねェけど…もっと身近にいる奴は違うんじゃねえか?」

 

「え?」

 

「“決断を下す”、“覚悟を決める”ってのは、迷いや躊躇いがあるからこそ…辛いからこそ必要な事だ」

 

―――――お前だけが辛いなんて思うなよ‼全員気持ちは同じなんだ‼

 

「そういう事を気まぐれで…簡単にやる様な奴なんて…信用するべきじゃねェし、連れて行く事も付いて行く事もするべきじゃねェ…」

 

―――――おれはこの一味をやめる

 

―――――お前‼まさか、あの時のあのジ(・)ョ(・)ー(・)ク(・)信じてねェよな⁉長ェ付き合いだもんな‼あんな事本気で言うわけねェよおれが‼

 

「これからも身近にいて一緒に苦しんでいく奴なら、みっともなくてもハッキリと態度で示して、見せるべきだと思うぞ?」

 

―――――意地はってごべーーーん‼おれが悪がったァーーー‼

 

「お前の為にも、あいつの為にもな」

 

「……確かに、そうかもしれないわね…」

 

ドゴオオオン!

 

「「「「「「「「「「ギャアアア!」」」」」」」」」」

 

「「⁉」」

 

突然、轟音と共に大勢の悲鳴が聞こえ、2人は何が起きたのか確認しようと、音がした方を見る。

 

「反乱を目論むとは良い度胸だな。十人もいれば、おれに勝てると思ったのか?」

 

そこでは1人の男が立っており、周囲には十数人の兵士が倒れていた。

 

倒れた兵士達の体には火傷の様な跡があり、辺りには焦げた匂いが立ち込めている。

しかし、不思議な事に周囲には火の気が全くない。

 

「あいつは…昨日韓玄と一緒にいた鉄球野郎…!」

 

「確か…韓玄の身辺警護を務めている楊齢ね。一年ほど前に仕える様になったって…。

噂には聞いていたけど、相当腕が立つ様ね…」

 

「韓玄を討つ為には、アイツをなんとかしねェといけねェみてェだな…」

 

思わず冷や汗をかく2人だった。

 

 




唐辛子星:タバスコ星の材料が手に入らなかったため、即席の材料で作った代用品。唐辛子を粉末にする必要があるため作りにくく、使用時には風向きにも注意する必要がある。

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