ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

49 / 178
第49話 “そういう時は”

ウソップ達が燈、喜雨と出会った翌朝―――

 

「随分高いんだね…」

 

「税の取り立てが厳しくてね…これくらいじゃないと生活できないんだよ…」

 

「大変だな…」

 

ウソップと喜雨は買い出しをしていた。

 

「酷い連中だよ…。

自分達の贅沢の為だけに重い年貢をかけて、少しでも逆らえばすぐに死刑、美しい女はすぐに城に連れ去る…。

これじゃあ盗賊とおんなじさ…」

 

店番をしていた女性は目をつむり、涙を浮かべながら話した。

 

「盗賊よりはましだと思うよ」

 

喜雨が口を開いた。

 

「まだ良心がある人もいるし、ちゃんと政務や警護はしているんでしょ?

賊は何の苦労もしないで、ただ奪っていくだけ…本当に最低の連中だから…。

どっちも酷い奴らなのは変わらないけど…」

 

「……そうだね」

 

「…………」

 

「それで、買い物はそれで全部かい?」

 

「あ、そうだな…あとはその唐辛子と…生卵はないのか?」

 

「あいにく今日はないよ。腐ったので良けりゃあるけど」

 

「じゃあそれでいいから分けてくれないか?」

 

「え?別にいいけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「腐った卵なんて貰ってどうするの?それに唐辛子もそんなに沢山買って」

 

「これで武器を作るんだ」

 

「武器?そんな物で?」

 

「聞けーっ!町民どもーっ!」

 

「「?」」

 

大声が聞こえ、2人が見てみると、役人が人相書を手配していた。

 

「昨日、この街を訪れた“黄忠漢升”という女を探せとの御命令だーっ!

見つけた者には報酬が与える!匿った者は死罪となる!いいな!」

 

「……紫苑の奴、早速指名手配されちまったか…」

 

「……あの…ウソップさん…」

 

「何だ?」

 

「……ごめんね。紫苑さんの気持ちに付け込んで、こんな事させて…」

 

「っ⁉」

 

ウソップは思わず絶句した。

 

ウソップ自身、燈のやり方に()()()()()()()はしていたが、喜雨がそれをここまでハッキリ言葉にするとは思っていなかった。

 

「驚いた?実の母をハッキリ悪く言った事に」

 

「ま、まァな…」

 

「ボク達は親子だからさ、よく仕事も一緒にやっていたんだよ。

一緒に偵察に行ったり、ボクの業務の担当が母さんになったりしてね。

だから母さんのああいう所は、何度も目にしてきたんだ」

 

「なるほど…」

 

「実はね…今回の作戦も母さんが提案したものなんだ」

 

「そうだったのか⁉」

 

「うん。自分達の所へ来る災いを、他所へ押し付けようなんて…凄く嫌な感じがしたけど、母さんの考えそうな事だって思った…」

 

「…………」

 

「母さんのああいう所は…正直ボクも……嫌いなんだ」

 

「……そうか」

 

「それに…母さんは……」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達が羨ましい?」

 

同じ頃、昨夜寝泊まりした廃屋で、紫苑と燈が話していた。

璃々は少し離れた所で、地面にお絵描きをしている。

 

紫苑は璃々に、少しこの街で燈達と仕事をする事になったと伝え、燈と喜雨は璃々にも真名を預けた。

 

「ええ、私はあの子に好かれていないから…。

紫苑さんは璃々ちゃんに愛されているし、ウソップさんとも仲良くて、家庭円満でしょう?」

 

「あ、いえ!ウソップさんは本当にただの旅の同行者で、そういう関係では…」

 

「あら、そうだったんですか。でも、仲が良いのは本当でしょう?やっぱり羨ましいわ」

 

「けど…燈さんと喜雨ちゃんだって、そんなに仲が悪い様には見えませんでしたけど…」

 

「……だから困っているのよ」

 

燈はわずかに表情を曇らせた。

 

「徹底的に嫌われているわけでも、好かれているのでもない…だからどうしていいか解らないのよ。

私が優しくしても、煙たがるだけでしょうし…」

 

「……燈さんは何とかしたいとは思わないの?」

 

「それもよく解らないわ…今のままで問題がある訳ではないもの。少なくとも政についてはね。

あの子は、私が為政者として優秀な事はよく解っているから…理にかなっていて、冷徹で的確な考え方をしている事はね…。

今回の作戦や―――私が徐州を売り渡そうとしている事についても」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、ウソップと喜雨。

 

「売り渡すって……?」

 

「昨日話したでしょ?陶謙様はもう長くないって。だから、跡取りが問題になっているんだ。

陶謙様には子供が二人いて、二人とも決して悪い人ではないんだけど、今の世の中で徐州を守っていけるだけの人物ではないって、陶謙様も本人達も家臣達も、みんなそう思っているんだ。

だから母さんは、外から相応しい人物を招き入れて…」

 

「そいつに徐州を治めて貰おうって考えているのか…」

 

「うん。決して悪い考えではないってわかってはいるよ…。

でも、ボク達は本来ならご子息様を支えていくべきなのに……そんな簡単に主を変えて…これじゃあ裏切りも同然だよ…。

正直言って、わからないよ…何でそんな事を考えられるのか…」

 

「……捨てちまえよそんな母親」

 

「……え?」

 

「あの女、胡散臭いとは思っていたが、聞いた限りじゃただのロクでなしじゃねェか。

そんな奴と一緒にいたって、良いことなんかねェよ。

お前だっていつ捨てられるかわかんねェし、良い評判つかねェぞ。

どうせあいつに、そこまで情がある訳でもねェんだろ?

これ以上嫌な思いする前に、あんな薄汚ねェ小悪党さっさと縁を切って…」

 

パァン!

 

突然、乾いた音共にウソップの頬に痛みが走った。

 

喜雨がウソップの頬をひっぱたいたのだ。

 

「―――何も…何も知らないくせにっ!」

 

「…………」

 

「それ以上母さんを―――悪く言うな!」

 

目をつむり、顔を真っ赤にして喜雨は叫んだ。

 

「確かにボクだって母さんに思う所はあるよ!

でも、あの人はいつも一生懸命だった!今回の作戦だって―――全部、徐州の民の事を考えての事だ!

あの人はやっている事は、酷な事かもしれないけど!ボクは―――」

 

「あいつの事が好きで、信じているんだろ」

 

「………え?」

 

「だったら…それでいいじゃねェか」

 

―――――おれは親父が海賊である事を誇りに思っている‼勇敢な海の戦士である事を誇りに思っている‼

 

「お前がそう思っているなら…迷う必要なんてないだろ」

 

「あ……」

 

そう言われて、喜雨自身も初めて気が付いた。

自分が無条件に燈を好いている事を、燈を信じている事を。

 

「お前があいつを好きで、信じていたいなら、ただ()()()()()()()じゃねェか」

 

「……でも、ボクが母さんに思う所や、嫌いな所があるは本当だし…。

好きでいるって…具体的にどうするのか…わからないよ…」

 

「簡単さ、偽らなければいいんだ」

 

「え?」

 

「今おれにしたみたいに、馬鹿にする奴はひっぱたいて、あいつが母親で、立派な為政者である事を誇りに思っていればいいんだよ。

誰に何を言われてもな」

 

「……うん。わかった」

 

「さて、だいぶ話し込んじまったな。急いで帰るか」

 

「うん。……あの、ウソップさん」

 

「ん?」

 

「母さんのことを悪くいったの…ボクのためなんだよね…?

ごめんね。そんなことさせたうえ、ひっぱたいたりして…」

 

「違う」

 

「え?」

 

「そういう時は…“ありがとう”って言うんだよ」

 

「……うん、そうだね。ありがとう、ウソップさん」

 

「いいさ。さ、急ぐぞ」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃屋の門前。

 

買い出しから戻ったウソップは、紫苑と燈と璃々が食事を作っている間に、早速武器の作成をしていた。

 

「ねえ、ウソップさん。これ何を作っているの?」

 

ウソップが作業しているすり鉢を覗き込みながら、喜雨が訊ねる。

 

「おれ様特性“唐辛子星”だ」

 

「“とうがらしぼし”?」

 

「ああ。こうやって唐辛子を粉末状にして、団子にしてな。

これを顔にぶつければ、唐辛子の粉が目、鼻、口に入って、相手は…」

 

「ふェっくしょん!」

 

ぶわっ

 

「ギャアアアァァァ‼目がァァァ‼鼻がァァァ‼辛いィィィ‼」

 

「うわあああ⁉ごめん!ウソップさん!」

 

「ウソップさん、喜雨ちゃん、ご飯でき…ってウソップさん⁉」

 

「ど、どうしたの⁉」

 

「ウソップお兄ちゃんだいじょうぶ⁉」

 

紫苑達が食事の支度を終え2人を呼びに向かうと、ウソップが目、鼻、口を押え、大量の涙を流しながら地面を転げまわるという、何とも奇妙な光景があった。

 

「あ、ああ…大丈夫だ…(視界が狭くなるから外してたけど、せめてゴーグルだけでもつけるか…)」

 

反省するウソップだった。

 

 

 

 

 

 

「皆さん、コレを見て下さい」

 

食事をとりながら、紫苑は木片に書いた地図を2人に見せる。

 

「私がうろ覚えで書いた物ですけど、これがこの街の大まかな地図です。

韓玄の屋敷は北門の付近にあるココ、その周辺は兵の宿舎や食料庫、酒倉、武器庫、宝物庫、馬小屋になっているわ」

 

「重要な物は自分の周囲に置いているって訳だね…」

 

「ええ。一応、他の場所にあるそういった重要な建物の場所も記しておいたけど、場所や造りが変わっている可能性もあるし、兵の配置とかもちゃんと確認しておいた方が良いと思うの。

だから、これから偵察に行く必要があるわ」

 

「それは私が行きましょう。作戦の責任は私にあるから、私がちゃんと確認して、作戦を考えるわ」

 

燈が立候補する。

 

「そうね。でも、燈さんは軍師だからそこまで武術は得意でないでしょうし、護衛に私が…」

 

「いや、紫苑は街に出ない方が良い」

 

「うん。さっき買い出しに行った時、紫苑さんの人相書が出回っているのを見たから、紫苑さんは作戦の時までじっとしていた方が良いと思うよ」

 

「そうですか…」

 

「そうなると…」

 

「護衛はおれが行くしかねェな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてウソップと燈が街に繰り出したのだが…

 

「うふふ…」

 

「お、おい…燈…」

 

燈はどういう訳かウソップと腕を組み、ぴったりくっついて歩いていた。

 

燈がかなりの美女であるため、ウソップもドギマギしてしまう。

 

「何でしょう?」

 

「もう少し離れてくれねェか?」

 

「うふふ、奥手なんですね」

 

「お前が大胆なんだよ…!」

 

「だってせっかく若い殿方と二人きりなんですもの。少しくらいこういう事もしたいじゃない」

 

「…相手が三枚目だとしてもか?」

 

「あら、私は人を見かけだけで判断したりはしないのよ」

 

「……確かにお前なら、もっと色んな所をよく見るだろうな…」

 

「喜雨も結構あなたの事結構気に入ってるみたいだし、新しい父親が欲しいとは思っていたのよ。

女手一つであの子を育てるの、本当に大変だったんだから」

 

「……確かに、大変そうだな…」

 

「……ええ、本当にね…」

 

燈の顔がわずかに暗くなった。

 

「あの子といる時も、ずっと為政者として勤めている事が多かったから…私のそういう所を理解して…」

 

「そういう付き合い方になってしまった、って訳か…」

 

「ええ。ウソップさんも私にあまり良い印象はないんじゃない?

災いを押し付ける様な策を考えて、それにお二人を巻き込んだりして…」

 

「使える物は何でも使うっていうのは、悪い考えじゃねェと思うぞ」

 

「……主を変えようと考えるのは?」

 

「……徐州の跡継ぎの事か」

 

「ええ。喜雨から聞いたの?」

 

「大体はな。本来なら助けるべき未来の主君を捨てて、新しい主を得ようって考えてるんだってな」

 

「ええ」

 

「おれも気に入らねェな、その考えは」

 

「そうでしょうね」

 

「でも間違ってねェよ」

 

「…え?」

 

「こういう世の中で生きてりゃ、これ以上一緒に進めねェ奴、この先へ連れて行けねェ奴ってのは…どうしても出てくるもんさ…」

 

―――――メリー号はもう直せねェんだよ‼

 

「そういう奴を無理矢理連れて行ったって…互いを苦しめるだけだ…」

 

―――――大丈夫。もう少しみんなを、運んであげる

 

―――――だったらもう、眠らせてやれ…‼

 

―――――ごめんね―――もっとみんなを遠くまで、運んであげたかった………

 

「だから…間違ってねェよ…」

 

「……そう思う?」

 

「ただ…()()()()()()止めた方がいいと思うぞ」

 

「?」

 

「そんな飄々と笑っていないで、悩んで苦しんでる所…ちゃんと見せるべきだと思うぞおれは」

 

「それは…大勢の人の上に立つ人間がそんな事では…」

 

「確かに臣下や領民はそうかもしれねェけど…もっと身近にいる奴は違うんじゃねえか?」

 

「え?」

 

「“決断を下す”、“覚悟を決める”ってのは、迷いや躊躇いがあるからこそ…辛いからこそ必要な事だ」

 

―――――お前だけが辛いなんて思うなよ‼全員気持ちは同じなんだ‼

 

「そういう事を気まぐれで…簡単にやる様な奴なんて…信用するべきじゃねェし、連れて行く事も付いて行く事もするべきじゃねェ…」

 

―――――おれはこの一味をやめる

 

―――――お前‼まさか、あの時のあの()()()()信じてねェよな⁉長ェ付き合いだもんな‼あんな事本気で言うわけねェよおれが‼

 

「これからも身近にいて一緒に苦しんでいく奴なら、みっともなくてもハッキリと態度で示して、見せるべきだと思うぞ?」

 

―――――意地はってごべーーーん‼おれが悪がったァーーー‼

 

「お前の為にも、あいつの為にもな」

 

「……確かに、そうかもしれないわね…」

 

ドゴオオオン!

 

「「「「「「「「「「ギャアアア!」」」」」」」」」」

 

「「⁉」」

 

突然、轟音と共に大勢の悲鳴が聞こえ、2人は何が起きたのか確認しようと、音がした方を見る。

 

「反乱を目論むとは良い度胸だな。十人もいれば、おれに勝てると思ったのか?」

 

そこでは1人の男が立っており、周囲には十数人の兵士が倒れていた。

 

倒れた兵士達の体には火傷の様な跡があり、辺りには焦げた匂いが立ち込めている。

しかし、不思議な事に周囲には火の気が全くない。

 

「あいつは…昨日韓玄と一緒にいた鉄球野郎…!」

 

「確か…韓玄の身辺警護を務めている楊齢ね。一年ほど前に仕える様になったって…。

噂には聞いていたけど、相当腕が立つ様ね…」

 

「韓玄を討つ為には、アイツをなんとかしねェといけねェみてェだな…」

 

思わず冷や汗をかく2人だった。

 

 




唐辛子星:タバスコ星の材料が手に入らなかったため、即席の材料で作った代用品。唐辛子を粉末にする必要があるため作りにくく、使用時には風向きにも注意する必要がある。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。