ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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今回から、本編に突入します。



恋姫†無双編
第5話 “記憶”


ルフィと関羽が一緒に旅を始めてから、十日程が経過した。

 

「ふんっ!」

 

「ぐあっ!」

 

2人は稽古として、毎日組手をしていた。

 

「今日もおれの勝ちだな」

 

「くっ…」

 

ルールは“先に相手に一撃入れた方が勝ち”というシンプルなもので、今日までルフィが全勝していた。

 

「武術には自信があったのですが、ここまで差があるとは…」

 

「まァおれも相当鍛えてるからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

組手を終え、2人はまた歩いていた。

 

「おい関羽、なんかデケェ門があるぞ」

 

「中々大きい村の様ですな。今夜はあそこに泊まりましょう」

 

「よし!行くか!」

 

「―――と、その前に…」

 

「ん?」

 

関羽はどこからか縄を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ関羽…………何でおれの事縛るんだ?」

 

「この前、村に入った瞬間に行方不明になり、騒動を起こしたからです!」

 

そう、関羽はルフィを縄でぐるぐる巻きにしてから村に入ったのだった。

 

「まァいいや。メシにしようぜ」

 

「その前に宿を探さねば」

 

2人がそんな事を言いながら歩いていると…

 

「で、出たーーー!」

 

「何だ⁉」

 

「賊か⁉」

 

突然悲鳴が聞こえ、2人は身構える!

すると…

 

鈴々(りんりん)山賊団のお通りなのだーーー!」

 

「どいたどいたーーー!」

 

「あははははっ!」

 

前方から豚に乗り、赤い短髪に虎の髪飾りを着けた女の子を先頭に、6人の子供達がもの凄い勢いで走ってきた。

子供の内1人が“鈴”と書かれた旗を持っている。

因みに年齢は、全員10歳前後に見える。

 

「何だ?」

 

「子供?」

 

2人は呆気にとられて、その様子を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、ルフィと関羽は村の飲食店で食事をしていた。

 

「ああ、アレは名前の通り“鈴々”って子が頭領をやっている、悪ガキの集団だよ」

 

2人は食事をとりながら、先程の子供達について、店の女将から話を聞いていた。

 

「やっている事は畑荒らしたり、家畜に悪戯したり、食べ物盗んだりって感じだね。

そういえば、この間は庄屋さんのお屋敷の壁に、でっかい庄屋さんの似顔絵を落書きしていってね。

あれは傑作だったね。大人達にも大ウケだったよ」

 

「へー、楽しそうだな」

 

「何を呑気な!子供が山賊の真似事など…親は何をしているのだ!」

 

「……あの子…親はいないんだよ」

 

関羽が声を荒げると、女将は悲しそうな顔をして話し始めた。

 

「え?」

 

「?」

 

「数年前に賊がこの村を襲った時に、両親は殺されちゃってね…。

その後、母方の祖父さんに引き取られて、山奥の小屋で暮らしてたんだけど、去年その祖父さんも亡くなってね…。

今はあの子一人でその山小屋で暮らしてるんだ…」

 

「「…………」」

 

「あの子だって根は良い子なんだよ。今は、ちょっと羽目をを外しているだけなんだ。だから村のみんなも、目を瞑ってやっているのさ」

 

「そうだったのですか」

 

「アイツも色々あったんだな…」

 

「ところで女将、少々お願いがあるのですが…」

 

「何だい?」

 

「私達は旅の者なのですが、今日の宿が見つからず…寝床だけでも貸していただけないでしょうか?」

 

「ん~、納屋でよければ寝る場所は貸してあげられるよ。ただし、宿代の代わりに働いて貰うけど良いかい?」

 

「はい、構いません。ルフィ殿も良いな?」

 

「おう、いいぞ」

 

「 “るひい”?随分と珍しい名前だね。アンタよっぽど遠くから旅して来たのかい?」

 

「ああ」

 

「何でまた、そんな遠くから旅を?」

 

「海賊王になるためだ!」

 

「海賊?」

 

「!る、ルフィ殿、それは―――」

 

「あっはっは!馬鹿言ってんじゃないよ!海賊は海で暴れるモンだろ?山ん中にいてどうすんのさ?」

 

「ん?そういえばそうだな?」

 

(ほっ…)

 

どうやら女将は冗談だと思ったらしく、胸をなでおろす関羽だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方、鈴々山賊団アジトの山小屋にて―――

 

頭領の鈴々と手下の子供達が、今日の戦利品であるいくつかの茹で卵を山分けして食べていた。

 

「親びん、今日も大成功でしたね!」

 

「うん!大成功なのだー!」

 

「そういえば、この間の落書き消されちゃっていたね」

 

「ケッサクだったのにね」

 

「ね~」

 

「なァに、今度はもっとすっごい事をしてやるのだー!」

 

「おお!」

 

「さっすが親びん!」

 

「鈴々山賊団、最高ォー!」

 

「「「「最高ォー!」」」」

 

そう言って子供達はまた笑いだすが…

 

「あ、もう夕方だから帰るね」

 

「僕も」

 

「あたしも」

 

「…………」

 

本格的に日が沈み始め、手下の子達は小屋を出て行く。

 

手下の子供達が家に帰るのを、鈴々は山小屋の外に出て見送った。

 

「じゃあ親びん!また明日ー!」

 

「「「「また明日ー!」」」」

 

「うん!また明日なのだー!」

 

別れの挨拶をして鈴々は1人、静かになった山小屋に戻る。

 

「…明日になれば、またみんな来るのだ…明日になれば……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、村のとある納屋にて―――

 

「屋根の下で寝るの久しぶりだな」

 

「そうですな。花が咲き始めたとはいえ、まだまだ冷えますからな。屋根と壁があるのはありがたいです」

 

「ぐ~っ…」

 

「…もう寝てしまいましたか……」

 

宿代代わりに働いたルフィと関羽は、女将に案内された納屋で寝ようとしていた。

納屋の窓からは、すでに月が高く登っているのが見える。

 

関羽は横になるなりすぐに眠ったルフィの隣で、寝そべりながら顔を覗き込む。

 

(壁と屋根があるのもありがたいが…隣に誰かがいるというのも、ありがたいな……)

 

そんなことを思いながら、関羽も眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お兄ちゃ~ん、早く~』

 

『お~い、待て愛紗(あいしゃ)

 

とある野原で兄妹(きょうだい)らしき2人が遊んでいた。

 

『キャッ!』

 

『愛紗!』

 

あまりに急いだせいか、少女が転んでしまう。

急いで少女に駆け寄る兄。

 

『愛紗、大丈夫か?』

 

『だい…じょうぶ…わたし…つよいもん……!』

 

目に涙を浮かべつつも、少女は泣かないように歯を食いしばる。

 

『そうか、愛紗は強いな。―――でもな愛紗、本当に辛かったら、いつでもおれを頼っていいんだぞ。おれは愛紗のお兄ちゃんなんだからな』

 

『……うん!』

 

 

 

次の瞬間、周りの風景が野原から建物の中に変わる。

 

『愛紗!』

 

『⁉兄者⁉』

 

『愛紗、戦だ!村が襲われた!お前は寝台の下に隠れていろ!絶対に声を上げるんじゃないぞ!』

 

『!う、うん……!』

 

兄に言われ、少女は急いで寝台の下に潜り込み、恐ろしさのあまり目を閉じる。

 

⦅兄者…兄者……!⦆

 

『ぐああっ!』

 

『⁉』

 

悲鳴が聞こえ、少女が目を開けると―――

 

『!兄者ァァァァァ‼』

 

兄の亡骸が目の前にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

ここで関羽は目を覚ました。

 

窓からは僅かに朝日が差し込んでいる。

 

「……夢か……」

 

そう、一連の出来事は関羽の夢。

夢の中で“愛紗”と呼ばれていた少女は幼い頃の関羽。

その兄は関羽の実の兄であり、夢の内容は過去に実際に起きた関羽の記憶だった。

 

子供の頃、戦で両親と兄が死んでから、関羽は1人で生きてきた。

武芸を身に付け学問を学び、それを世の中の役に立てようと旅に出た。

そして、その後もずっと1人だった。

 

「ぐ~っ…」

 

「…………」

 

隣で寝ているこの男に出会うまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ!」

 

掛け声とともに、関羽は空中に高く放り投げられたソレに向かって刃物を振るう!

 

スパパパパパン!

ストトトトトン!

 

そして空中で見事に切り刻まれたソレ……1本の大根はまな板の上に落下した。

ちなみに先程の“刃物”というのは、無論包丁である。

 

「大したモンだけど…もうちょっと普通に切れないかい?」

 

「ちゃんとした料理は、あまり経験がなくて…」

 

関羽は女将に言われ、店の仕込みを手伝っていた。

ちなみにルフィは山に柴刈りに行っている。

 

「まァ良いさ。その調子でどんどん切ってくれ。それが終わったら、店の掃除を頼むよ。」

 

「はい」

 

「ただいまーっ!」

 

店の外からルフィの声が聞こえ、女将が迎えに行く。

 

「お帰り、ご苦労さ―――!」

 

「?」

 

女将の声が途中で止まり、気になった関羽は様子を見に行く。

 

「どうされましたか―――!」

 

そこには山のように薪を背負い、気絶した大きな猪を引きずるルフィの姿があった。

 

「…?どうした?」

 

「えっと…ルフィ殿、その猪は?」

 

「ああ、山歩いてたら襲ってきたからぶっ飛ばしたんだよ。んで、食おうと思って持って帰ってきた!」

 

「…猪を素手で仕留めるなんて、アンタ強いんだね…。官軍に入ればド偉い将軍様になれるんじゃないかい?」

 

「ん~、おれ偉くなるの好きじゃねェからな。柴刈りってこれくらいでいいか?」

 

「あ、ああ…十分過ぎるよ。じゃあ次は薪割を頼むね」

 

「わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶへェ~、食った食った」

 

「まさか、あの猪を一頭丸ごと食べるとは…」

 

仕事を終え、ルフィが獲ってきた猪で昼食を済ました2人は、村を散歩していた。

 

「そういえばルフィ殿」

 

「何だ関羽?」

 

「その…ルフィ殿が海賊だという事や、海賊王を目指しているとう事は、喋らないようにして欲しいのですが」

 

「ん、そうか?」

 

「はい。やはり賊だというのは、バレない方が良いですから」

 

「わかった!言わないようにする!」

 

「理解していただけましか…おや?」

 

ふと、前方にある大きな屋敷の門前に、人だかりがあるのが目に入る。

2人が気になって覗いてみると…

 

「いいですか!相手は大人でも手を付けられない暴れ者!子供とはいえ…」

 

屋敷の主人と思われる男が、数十人の役人と門内で話をしていた。

 

「どうかしたのですか?」

 

「今からお役人様に、鈴々ちゃんを捕まえて貰うんですって」

 

関羽が訊ねると、近くにいた女の人が教えてくれた。

 

「役人って…子供相手に大げさな…」

 

「庄屋様、この前の落書きが相当頭に来たらしくてねェ…。今度ばかりは堪忍袋の緒が切れたんだってよ」

 

「しかしお役人様も、本物の山賊相手にはビビッて手を出さないくせに、どうしてこういう時だけ…」

 

「鈴々ちゃん…捕まったら、どうなるかねェ…」

 

「さすがに殺したりはしないと思うけど…鞭で打たれたりはするかもねェ…」

 

「…………あの!少々宜しいでしょうか?」

 

関羽はしばらく黙っていたが、庄屋と役人達の話に割って入っていった。

 

「ん?何だいアンタ?」

 

「私は旅の武芸者で、名は“関羽”、字は“雲長”と申す者。

村の住民から、お話は伺いました。

子供相手にお役人様の手を煩わせるのも何ですし、ここは一つ私にお任せいただけないでしょうか?」

 

「確かにアンタ、中々物騒なモン持ってるが…腕は確かなのかい?」

 

「はい!いかに山賊を名乗ろうとも、所詮は子供。本物の山賊に比べれば大した事ないでしょう」

 

「あ…アンタもしかして最近噂の“黒髪の山賊狩り”かい⁉」

 

役人のリーダーらしき人物が思い出したように訊ねた。

 

「いや、まァ…自分から名乗っている訳ではありませんが…そう呼ぶ者もいるようで…」

 

関羽はまんざらでもなさそうに言う。

 

「「「「「「「「「「ええっ!?」」」」」」」」」」

 

それに対して庄屋と役人たちは、明らかにがっかりした様子で驚いた。

 

「美しい黒髪をなびかせた絶世の美女だって噂だったのに…」

 

「噂ってのはアテになんねェな…」

 

「……あのう、それはどういう意味でしょうか?」

 

関羽は若干目つきを鋭くし、こめかみをピクピクさせながら訊ねる。

 

「ところで、アンタの後ろにいるその男も武芸者か何かかい?」

 

庄屋が関羽の後ろにいたルフィを指さして訊ねた。

 

「ああ、おれはルフィ!海…」

 

「コラーーーッ!」

 

いきなり約束を忘れるルフィの頭を、関羽は思いっきり殴るのだった。

 

「…………」

 

そしてその時、近くの茂みで1人の子供が盗み聞きしていた事に、誰も気がつかなかった。

 




今作はプロローグ、恋姫無双編、真・恋姫無双編、真・恋姫無双 乙女大乱編、エピローグの5章編成となる予定です。

恋姫無双編は主にルフィ、ゾロ、ナミ、ウソップの話となり、中でもルフィの話が一番多くなると思います。

ご了承ください。

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