ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
第5話 “記憶”
ルフィと関羽が一緒に旅を始めてから、十日程が経過した。
「ふんっ!」
「ぐあっ!」
2人は稽古として、毎日組手をしていた。
「今日もおれの勝ちだな」
「くっ…」
ルールは“先に相手に一撃入れた方が勝ち”というシンプルなもので、今日までルフィが全勝していた。
「武術には自信があったのですが、ここまで差があるとは…」
「まァおれも相当鍛えてるからな」
▽
組手を終え、2人はまた歩いていた。
「おい関羽、なんかデケェ門があるぞ」
「中々大きい村の様ですな。今夜はあそこに泊まりましょう」
「よし!行くか!」
「―――と、その前に…」
「ん?」
関羽はどこからか縄を取り出した。
▽
「なあ関羽…………何でおれの事縛るんだ?」
「この前、村に入った瞬間に行方不明になり、騒動を起こしたからです!」
そう、関羽はルフィを縄でぐるぐる巻きにしてから村に入ったのだった。
「まァいいや。メシにしようぜ」
「その前に宿を探さねば」
2人がそんな事を言いながら歩いていると…
「で、出たーーー!」
「何だ⁉」
「賊か⁉」
突然悲鳴が聞こえ、2人は身構える!
すると…
「
「どいたどいたーーー!」
「あははははっ!」
前方から豚に乗り、赤い短髪に虎の髪飾りを着けた女の子を先頭に、6人の子供達がもの凄い勢いで走ってきた。
子供の内1人が“鈴”と書かれた旗を持っている。
因みに年齢は、全員10歳前後に見える。
「何だ?」
「子供?」
2人は呆気にとられて、その様子を見ていた。
▽
数分後、ルフィと関羽は村の飲食店で食事をしていた。
「ああ、アレは名前の通り“鈴々”って子が頭領をやっている、悪ガキの集団だよ」
2人は食事をとりながら、先程の子供達について、店の女将から話を聞いていた。
「やっている事は畑荒らしたり、家畜に悪戯したり、食べ物盗んだりって感じだね。
そういえば、この間は庄屋さんのお屋敷の壁に、でっかい庄屋さんの似顔絵を落書きしていってね。
あれは傑作だったね。大人達にも大ウケだったよ」
「へー、楽しそうだな」
「何を呑気な!子供が山賊の真似事など…親は何をしているのだ!」
「……あの子…親はいないんだよ」
関羽が声を荒げると、女将は悲しそうな顔をして話し始めた。
「え?」
「?」
「数年前に賊がこの村を襲った時に、両親は殺されちゃってね…。
その後、母方の祖父さんに引き取られて、山奥の小屋で暮らしてたんだけど、去年その祖父さんも亡くなってね…。
今はあの子一人でその山小屋で暮らしてるんだ…」
「「…………」」
「あの子だって根は良い子なんだよ。今は、ちょっと羽目をを外しているだけなんだ。だから村のみんなも、目を瞑ってやっているのさ」
「そうだったのですか」
「アイツも色々あったんだな…」
「ところで女将、少々お願いがあるのですが…」
「何だい?」
「私達は旅の者なのですが、今日の宿が見つからず…寝床だけでも貸していただけないでしょうか?」
「ん~、納屋でよければ寝る場所は貸してあげられるよ。ただし、宿代の代わりに働いて貰うけど良いかい?」
「はい、構いません。ルフィ殿も良いな?」
「おう、いいぞ」
「 “るひい”?随分と珍しい名前だね。アンタよっぽど遠くから旅して来たのかい?」
「ああ」
「何でまた、そんな遠くから旅を?」
「海賊王になるためだ!」
「海賊?」
「!る、ルフィ殿、それは―――」
「あっはっは!馬鹿言ってんじゃないよ!海賊は海で暴れるモンだろ?山ん中にいてどうすんのさ?」
「ん?そういえばそうだな?」
(ほっ…)
どうやら女将は冗談だと思ったらしく、胸をなでおろす関羽だった。
▽
その日の夕方、鈴々山賊団アジトの山小屋にて―――
頭領の鈴々と手下の子供達が、今日の戦利品であるいくつかの茹で卵を山分けして食べていた。
「親びん、今日も大成功でしたね!」
「うん!大成功なのだー!」
「そういえば、この間の落書き消されちゃっていたね」
「ケッサクだったのにね」
「ね~」
「なァに、今度はもっとすっごい事をしてやるのだー!」
「おお!」
「さっすが親びん!」
「鈴々山賊団、最高ォー!」
「「「「最高ォー!」」」」
そう言って子供達はまた笑いだすが…
「あ、もう夕方だから帰るね」
「僕も」
「あたしも」
「…………」
本格的に日が沈み始め、手下の子達は小屋を出て行く。
手下の子供達が家に帰るのを、鈴々は山小屋の外に出て見送った。
「じゃあ親びん!また明日ー!」
「「「「また明日ー!」」」」
「うん!また明日なのだー!」
別れの挨拶をして鈴々は1人、静かになった山小屋に戻る。
「…明日になれば、またみんな来るのだ…明日になれば……」
▽
その夜、村のとある納屋にて―――
「屋根の下で寝るの久しぶりだな」
「そうですな。花が咲き始めたとはいえ、まだまだ冷えますからな。屋根と壁があるのはありがたいです」
「ぐ~っ…」
「…もう寝てしまいましたか……」
宿代代わりに働いたルフィと関羽は、女将に案内された納屋で寝ようとしていた。
納屋の窓からは、すでに月が高く登っているのが見える。
関羽は横になるなりすぐに眠ったルフィの隣で、寝そべりながら顔を覗き込む。
(壁と屋根があるのもありがたいが…隣に誰かがいるというのも、ありがたいな……)
そんなことを思いながら、関羽も眠った。
▽
『お兄ちゃ~ん、早く~』
『お~い、待て
とある野原で
『キャッ!』
『愛紗!』
あまりに急いだせいか、少女が転んでしまう。
急いで少女に駆け寄る兄。
『愛紗、大丈夫か?』
『だい…じょうぶ…わたし…つよいもん……!』
目に涙を浮かべつつも、少女は泣かないように歯を食いしばる。
『そうか、愛紗は強いな。―――でもな愛紗、本当に辛かったら、いつでもおれを頼っていいんだぞ。おれは愛紗のお兄ちゃんなんだからな』
『……うん!』
次の瞬間、周りの風景が野原から建物の中に変わる。
『愛紗!』
『⁉兄者⁉』
『愛紗、戦だ!村が襲われた!お前は寝台の下に隠れていろ!絶対に声を上げるんじゃないぞ!』
『!う、うん……!』
兄に言われ、少女は急いで寝台の下に潜り込み、恐ろしさのあまり目を閉じる。
⦅兄者…兄者……!⦆
『ぐああっ!』
『⁉』
悲鳴が聞こえ、少女が目を開けると―――
『!兄者ァァァァァ‼』
兄の亡骸が目の前にあった。
▽
「!」
ここで関羽は目を覚ました。
窓からは僅かに朝日が差し込んでいる。
「……夢か……」
そう、一連の出来事は関羽の夢。
夢の中で“愛紗”と呼ばれていた少女は幼い頃の関羽。
その兄は関羽の実の兄であり、夢の内容は過去に実際に起きた関羽の記憶だった。
子供の頃、戦で両親と兄が死んでから、関羽は1人で生きてきた。
武芸を身に付け学問を学び、それを世の中の役に立てようと旅に出た。
そして、その後もずっと1人だった。
「ぐ~っ…」
「…………」
隣で寝ているこの男に出会うまで。
▽
「ハァッ!」
掛け声とともに、関羽は空中に高く放り投げられたソレに向かって刃物を振るう!
スパパパパパン!
ストトトトトン!
そして空中で見事に切り刻まれたソレ……1本の大根はまな板の上に落下した。
ちなみに先程の“刃物”というのは、無論包丁である。
「大したモンだけど…もうちょっと普通に切れないかい?」
「ちゃんとした料理は、あまり経験がなくて…」
関羽は女将に言われ、店の仕込みを手伝っていた。
ちなみにルフィは山に柴刈りに行っている。
「まァ良いさ。その調子でどんどん切ってくれ。それが終わったら、店の掃除を頼むよ。」
「はい」
「ただいまーっ!」
店の外からルフィの声が聞こえ、女将が迎えに行く。
「お帰り、ご苦労さ―――!」
「?」
女将の声が途中で止まり、気になった関羽は様子を見に行く。
「どうされましたか―――!」
そこには山のように薪を背負い、気絶した大きな猪を引きずるルフィの姿があった。
「…?どうした?」
「えっと…ルフィ殿、その猪は?」
「ああ、山歩いてたら襲ってきたからぶっ飛ばしたんだよ。んで、食おうと思って持って帰ってきた!」
「…猪を素手で仕留めるなんて、アンタ強いんだね…。官軍に入ればド偉い将軍様になれるんじゃないかい?」
「ん~、おれ偉くなるの好きじゃねェからな。柴刈りってこれくらいでいいか?」
「あ、ああ…十分過ぎるよ。じゃあ次は薪割を頼むね」
「わかった」
▽
「ぶへェ~、食った食った」
「まさか、あの猪を一頭丸ごと食べるとは…」
仕事を終え、ルフィが獲ってきた猪で昼食を済ました2人は、村を散歩していた。
「そういえばルフィ殿」
「何だ関羽?」
「その…ルフィ殿が海賊だという事や、海賊王を目指しているとう事は、喋らないようにして欲しいのですが」
「ん、そうか?」
「はい。やはり賊だというのは、バレない方が良いですから」
「わかった!言わないようにする!」
「理解していただけましか…おや?」
ふと、前方にある大きな屋敷の門前に、人だかりがあるのが目に入る。
2人が気になって覗いてみると…
「いいですか!相手は大人でも手を付けられない暴れ者!子供とはいえ…」
屋敷の主人と思われる男が、数十人の役人と門内で話をしていた。
「どうかしたのですか?」
「今からお役人様に、鈴々ちゃんを捕まえて貰うんですって」
関羽が訊ねると、近くにいた女の人が教えてくれた。
「役人って…子供相手に大げさな…」
「庄屋様、この前の落書きが相当頭に来たらしくてねェ…。今度ばかりは堪忍袋の緒が切れたんだってよ」
「しかしお役人様も、本物の山賊相手にはビビッて手を出さないくせに、どうしてこういう時だけ…」
「鈴々ちゃん…捕まったら、どうなるかねェ…」
「さすがに殺したりはしないと思うけど…鞭で打たれたりはするかもねェ…」
「…………あの!少々宜しいでしょうか?」
関羽はしばらく黙っていたが、庄屋と役人達の話に割って入っていった。
「ん?何だいアンタ?」
「私は旅の武芸者で、名は“関羽”、字は“雲長”と申す者。
村の住民から、お話は伺いました。
子供相手にお役人様の手を煩わせるのも何ですし、ここは一つ私にお任せいただけないでしょうか?」
「確かにアンタ、中々物騒なモン持ってるが…腕は確かなのかい?」
「はい!いかに山賊を名乗ろうとも、所詮は子供。本物の山賊に比べれば大した事ないでしょう」
「あ…アンタもしかして最近噂の“黒髪の山賊狩り”かい⁉」
役人のリーダーらしき人物が思い出したように訊ねた。
「いや、まァ…自分から名乗っている訳ではありませんが…そう呼ぶ者もいるようで…」
関羽はまんざらでもなさそうに言う。
「「「「「「「「「「ええっ!?」」」」」」」」」」
それに対して庄屋と役人たちは、明らかにがっかりした様子で驚いた。
「美しい黒髪をなびかせた絶世の美女だって噂だったのに…」
「噂ってのはアテになんねェな…」
「……あのう、それはどういう意味でしょうか?」
関羽は若干目つきを鋭くし、こめかみをピクピクさせながら訊ねる。
「ところで、アンタの後ろにいるその男も武芸者か何かかい?」
庄屋が関羽の後ろにいたルフィを指さして訊ねた。
「ああ、おれはルフィ!海…」
「コラーーーッ!」
いきなり約束を忘れるルフィの頭を、関羽は思いっきり殴るのだった。
「…………」
そしてその時、近くの茂みで1人の子供が盗み聞きしていた事に、誰も気がつかなかった。
今作はプロローグ、恋姫無双編、真・恋姫無双編、真・恋姫無双 乙女大乱編、エピローグの5章編成となる予定です。
恋姫無双編は主にルフィ、ゾロ、ナミ、ウソップの話となり、中でもルフィの話が一番多くなると思います。
ご了承ください。