ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

51 / 178
少し余裕ができたので、投稿ペースを上げようと思います。




第51話 “信じたいこと”

「な、何ィ⁉あんなに離れた所から⁉」

 

韓玄もようやくウソップの存在に気が付いた。

 

「韓玄様、念の為離れて…」

 

「わ、わかった!」

 

韓玄は一目散に逃げて行った。

 

「紫苑、そいつはおれが相手する!お前は韓玄を追え!」

 

「韓玄!」

 

「行かせん!」

 

追いかけようとする紫苑に、鉄球を振り上げる楊齢!

 

「“鉛星”‼」

 

「っ!」

 

「お前の相手はおれだ!紫苑!早く韓玄を追え!」

 

「は、はい!ウソップさん気をつけて!そいつの武器、普通じゃありません!」

 

そう言い残して、紫苑はその場を離れた。

 

「やってくれたな貴様!」

 

鎖を構え、ウソップと対峙する楊齢。

 

「おれに足止めされるお前の実力不足を恨むんだな!聞けェ」

 

「?」

 

「おれには一万人を超える部下がいる!そいつらは今、ここに向かっている!命が惜しけりゃ今のうちに逃げろ!」

 

「……そんな明らかな嘘で騙せると、本気で思っているのか?」

 

「(げっ…通じねェ!)く、くらえ鉄球野郎!」

 

「?」

 

「 “ウソ~ップ”…“呪文(スペル)”‼」

 

「?」

 

「棚の角に足の小指をぶつけた!」

 

「…………」

 

「耳たぶに針が刺さって突き抜けた!」

 

「…………」

 

「股間を机の角にぶつけた!」

 

「くだらねェ事してんじゃねェ!」

 

鉄球を振り回し向かってくる楊齢!

 

「ダメかー!」

 

「死ねェ!」

 

距離を詰め、鉄球を投げつける楊齢!

 

「くっ⁉」

 

(何⁉大きく動きもせずに避けた⁉)

 

(危ねェ!かすった!)

 

(コイツ…弱そうに見えて、かなりの実力者のようだな…)

 

(ヤバイ…コイツ強すぎる!まともに戦ったら絶対死ぬ!)

 

「どうやら、おれはてめェを舐めていたようだ」

 

「⁉」

 

()()()()()()を見せてやるぜ!」

 

そう言うと再び鉄球を投げる楊齢。

 

「うおお⁉」

 

またしても間一髪で躱すウソップ!

 

「⁉」

 

反射的に鉄球がぶつかった跡を見ると、その周囲が焼け焦げていた。

 

「な、何だこりゃァ⁉」

 

「驚いたか⁉この鉄球は高熱を纏い、ぶつかった物を焼き尽くすのさ!

コイツさえあれば、おれは天下無敵の豪傑になれること間違いないぜ!」

 

「…………っ!くそっ!」

 

背を向けて逃げ出すウソップ。

 

「逃げる気か?いや、距離を稼いで得意の遠距離戦に持ち込もうって考えか?そうはいくかよ!」

 

追いかける楊齢。

 

「待てー!」

 

「ひィィィ!」

 

「逃がすかァ!」

 

「ギャー!」

 

時折投げられる高熱鉄球を躱しながら、ウソップは逃げ続ける。

 

「“鉛星”‼」

 

「ふん!」

 

「必殺“手裏剣流星群”‼」

 

「当たるかァ!」

 

隙を見てウソップも反撃するが、全て鎖で弾かれてしまう。

 

「ひィィィ!」

 

追い詰められたウソップは一つの蔵の中に逃げ込む。

 

「それで隠れたつもりか⁉甘ェんだよ!」

 

蔵の扉は木製であるため、楊齢は容易に壊し中に入る。

 

中に入ると、そこには酒が入った大きな瓶が大量に置いてあった。

 

「酒瓶の中にでも隠れたのか?オラァ!」

 

鉄球で瓶を次々と破壊する楊齢。

 

(……よし…!)

 

その様子を天井の梁の上から、ウソップが見ていた。

手にはたっぷりと酒が入った大きな酒瓶を抱えている。

 

 

(狙い通りだ…後はこのまま…!)

 

そして酒瓶を抱え飛び下りるウソップ!

 

(喰らいやがれ!)

 

そのまま酒瓶で楊齢の頭を狙う!

 

が…

 

「が…!」

 

「そんなことだろうと思ったぜ」

 

酒瓶が命中する前に楊齢の鉄球が瓶を砕き、ウソップの身体にめり込む。

 

そのまま蔵の入り口付近に吹っ飛ばされるウソップ。

骨にヒビが入り、口から血を流す。

 

「ぐ…」

 

「あーあ…酒で体中がびしょびしょだ。まあ、浴びる程飲んだと思う事にするか…」

 

そう言いながら楊齢はウソップの目の前に立つ。

 

「残念だったな。お前の狙い通りにいかず、お前はここで死ぬ。そしてあの女も韓玄様の手に落ちる!覚悟しろォ!」

 

そして楊齢は再び鉄球に熱を纏わせる!

 

「へ…へへ…」

 

「?」

 

突然、ウソップが笑い出した。

 

()()()()が心配だった…」

 

「あ?」

 

「他は全て狙い通りだったが…お前が()()を使ってくれるかどうか…それだけが心配だったぜ…」

 

「訳わかんねェこと言ってんじゃねェ!」

 

熱を纏わせた鉄球を振り下ろす楊齢!

 

「っ!」

 

またもやウソップは間一髪で躱し、鉄球は酒と粉々になった扉の木片が散らばる床に叩きつけられた。

 

「⁉」

 

次の瞬間、蔵の中に飛び散った木片、そして酒が燃え出す。

火は瞬く間に燃え広がり、一面が火の海になる。

 

そして楊齢の体も…その体にかかった酒も燃え出す!

 

「ギャアアアアア⁉」

 

「どうだァ!酒が燃えるなんて、知らなかっただろォ⁉」

 

一足先に蔵から逃げ出すウソップ。

 

「熱ィ熱ィ!水!水!」

 

楊齢も火達磨になりながら、鉄球を投げ捨てて蔵から飛び出す。

 

しかしそこは街のど真ん中であり、近くに水はない。

 

「安心しろ。命だけは助けてやるから、そこでじっとしていろ」

 

「ほ、本当か⁉アヂヂヂ!」

 

そう言うとウソップはその場を離れる。

 

「お、おい⁉ま、まだか⁉」

 

「ああ!今助けるから、そこでじっとしてろ!」

 

「は、早く!早く助けてくれェ!」

 

「動くんじゃねェぞ!狙いが定まらねェからな!」

 

「ね、狙い⁉っていうかお前どっから…⁉」

 

「よーっし!いっくぞー!」

 

そう叫ぶと、ウソップは近くの家屋の屋根の上で、大きな水瓶を抱え立ち上がる。

無論、水瓶にはたっぷりと水が入っている。

 

「“ウソップ”~…」

 

そしてウソップはそこから飛び降り…

 

「“大水(ブルー)”~…」

 

「⁉」

 

「“粉砕(パウンド)”‼」

 

ゴシャァァァ!

 

楊齢の頭に直撃した水瓶は粉々に砕け、水が飛び散る。

楊齢の体の炎はそれにより消えた。

 

そして大きな重い水瓶で頭を殴られた楊齢は、そのまま気絶した。

 

「……よし!急いで縛っちまおう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はァ…はァ…」

 

紫苑から逃げていた韓玄は一人、北門から脱出しようと、そのすぐ近くまで来ていた。

 

「……追って来てはいないな…!とにかくどこかに身を隠して……ぐっ⁉」

 

突然どこからか飛んできた矢が足に刺さり、韓玄はその場に倒れ込んだ。

 

「な、何⁉一体どこから⁉」

 

「私の弓の腕を忘れたのですか?」

 

「⁉」

 

声が聞こえ、目を凝らしてよく見ると、通りのずっと奥の方に弓を構える紫苑の姿があった。

 

「もう矢が二本しか残っていなかったので、先に足止めさせていただきました」

 

「し、しお…黄忠!」

 

そして紫苑は距離を詰め、最後の一本の矢を構える。

 

「誇りを利用され、踏みにじられた主人の恨み!あなたの暴政で苦しめられ、大切な人を奪われた人々の恨み!思い知れ!」

 

ドスッ!

 

「かっ…!」

 

矢は韓玄の胸の真ん中に刺さり、韓玄はその場に倒れた。

 

「……やった…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなもんか…」

 

ウソップは、仕留めた楊齢を縄でぐるぐる巻きにした。

そして見つからないよう、裏路地の物陰に隠していたその時…

 

「ウソップさん!」

 

「?」

 

誰かに呼ばれ、見てみると…

 

「燈!喜雨!璃々も!どうしたんだ⁉」

 

「あの後、近くの空き家に隠れていたんですけど、民百姓の暴動とそれを鎮圧しようとする兵士達との衝突が激しくなって…」

 

「巻き込まれそうになったから逃げて来たんだよ…!」

 

「そうか…」

 

「この男…楊齢⁉」

 

「すごい…!ウソップさんが仕留めたの⁉」

 

「おうよ!おれにかかればこれくらい…」

 

「ウソップさん!燈さん達も!」

 

「紫苑!」

 

「お母さん!」

 

「!璃々!」

 

姿を見るなり、2人は互い真っ先に駆け寄り抱き合う。

 

「お母さァん!うえェェェん!」

 

「璃々…!ごめんね!恐い思いをさせて…!」

 

「紫苑…」

 

「紫苑さん…その…邪魔する様で悪いんだけど…一旦身を隠した方が…」

 

「!そうでした!皆さん…」

 

「オイ!あそこに誰かいるぞ!」

 

「あの女、まさか黄忠か⁉」

 

「⁉︎」

 

「マズイ!見つかった!」

 

「ここは逃げよう!」

 

喜雨の言葉に従い、ウソップが脚を怪我した燈を背負い、紫苑が璃々を抱き抱え一行は走る!

 

「逃げたぞ!」

 

「追え!他の奴らにも伝えろ!最優先であいつらを捕えるんだ!」

 

ウソップ達は街のあちこちを走り回り逃げ続けたが…

 

「ヤベェ!」

 

「見つけたぞ!」

 

「こっちにもいる!」

 

「後ろからも追いついてきました!」

 

回りこまれ、逃げ場を失った。

 

「くそっ!何か⁉何か方法は…⁉」

 

「四方の路地は全て敵だらけですね…」

 

「もう戦うしか…」

 

「そうだ!みんな!」

 

「「「「⁉」」」」

 

「おれの言う通りに動け!」

 

「え⁉」

 

「な、何を⁉」

 

「気を抜くなよ!勝負は一瞬だぞ!」

 

「包囲しろ!」

 

「必殺“超煙星”‼」

 

「うおっ⁉」

 

「ゲホゲホッ…⁉」

 

「な、何だこの煙は⁉」

 

「落ち着け!持ち場を離れるな!」

 

「そうだ!取り囲んでさえいれば、逃げられはしない!」

 

しばらくして煙が晴れ…

 

「よォし!一斉にかか…⁉」

 

兵士達は動きだすが…

 

「⁉い、いない⁉」

 

「ば、馬鹿な⁉どこへ消えた⁉」

 

「これだけの兵の間を通り抜けるなんて…⁉」

 

「煙が晴れるまで、そんなに時間はなかった!まだ近くに居る筈だ!」

 

「探せ!」

 

 

 

 

 

 

「……びっくりした…こんな風に逃げるなんて…」

 

兵士達が慌てふためく様子を、ウソップ達は近くの家屋の屋根の上で見ていた。

 

彼らがどうやって屋根に上ったのかというと…

 

 

 

 

 

『必殺“超煙星”‼』

 

『ウソップさん⁉何を…⁉』

 

『そして、“ウソップアーアアー”‼』

 

『お、お腹から縄が⁉』

 

『よし!かぎ爪は屋根にかかったな!』

 

『まさか、これで屋根に登る気⁉』

 

『でも、そんなに時間は…』

 

『みんな!急いでおれの体にしがみつけ!』

 

掌を地面に向けながら、そう言うウソップ。

 

『体に⁉』

 

『早く!』

 

『う、うん!』

 

『これでいいの⁉』

 

『おれが合図したら一斉に跳ぶんだ!』

 

『え⁉』

 

『わ、わかった!』

 

『せーのっ!』

 

そしてジャンプした瞬間―――

 

『“衝撃(インパクト)”』

 

『『わァ⁉』』

 

『『きゃあ⁉』』

 

もの凄い衝撃が放たれ、5人の体は真上に高く吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

そして、その衝撃とロープを利用し、5人は短時間で屋根の上に逃れたのである。

 

兵士達は屋根の上という逃走経路を失念しており、また煙幕があった短時間で梯子もない建物の壁を登るのは不可能だと考え為、5人を完全に見失った。

 

「ウソップさんって、本当に色んな物持ってるんだね」

 

「へへ…まあな…」

 

「ところでウソップさん…」

 

「何だ燈?」

 

「なんだか、腕が変な方向を向いている様な気がするんですけど…大丈夫?」

 

「へ?…………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~~~~⁉」

 

「だ、大丈夫じゃないみたいですね⁉」

 

「い、急いで直さないと!」

 

痛みに悶えながら、ウソップは自分の掌に仕込んだ衝撃貝(インパクトダイアル)を見て考えた。

 

(そういえばあの楊齢って奴の鉄球………まさか……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、兵士達の動きを見ながらウソップ達は地上に降り、また廃屋を見つけてその中で休んでいた。

 

「くー…」

 

「すゥ…」

 

「紫苑さんも璃々ちゃんも、ぐっすり眠っているわね…」

 

「相当疲れたんだろうな…」

 

「母さんは脚、大丈夫?」

 

燈の脚に巻かれた包帯を見ながら、心配そうに呟く喜雨。

 

「ええ。そんな深く刺さった訳ではないし、すぐに歩けるようになるわ。それにしても…驚いたわ」

 

「え?」

 

「喜雨があんなに駄々をこねたの、初めて見たもの」

 

「……ボクだってびっくりしたよ」

 

「え?」

 

「母さんがあんなに取り乱したの、初めて見たから…」

 

「……ええ。てっきり喜雨が大怪我していると思って…」

 

「でも…なんでだろう?」

 

「?」

 

「母さんがあんなに慌てているのを見て…ちょっと安心したような…嬉しいような気がする…。

どうしてだろう…?みっともない所を見ただけなのに…。

ボク…母さんのこと……嫌いだったのに…」

 

「……そうね。お母さんも喜雨が駄々をこねて、少し安心して嬉しくなっているわ。不思議ね…あまり仲良くなかったのに…」

 

「不思議なんかじゃねェよ」

 

「え?」

 

「ウソップさん?」

 

「親子ならそういうモンだよ。お前らが()()()()()()()()()()()()んだったらな」

 

「そうのもなのかな…?」

 

「……ある親子の話をしてやる」

 

「「?」」

 

「昔ある島の小さな村に、仲良しの親子が3人暮らしていた。

父親と母親と息子、とても幸せな家庭だった。

ある日、村に海賊がやってきて父親はその仲間になり、海へ出て行った」

 

「え⁉」

 

「…………」

 

「その後、母親は病気になって死に、息子はずっと1人で暮らしてきた。

けど、母親が病気になった時も、亡くなった後も父親は帰ってこなかった。

でも、子供も母も父親を恨む事はなかった。

ずっとずっと…その父親が大好きで、誇りに思っていた。

勇敢な海の戦士である父親をな…」

 

「「…………」」

 

「お前らが慌てたのも、駄々こねたのも、今安心して嬉しくなっているのも同じだ。

ただ、親と子が互いを大好きで、親子である事を誇りに思っているからだよ」

 

「「…………」」

 

「じゃあ、おれは少し街の様子見て来るわ」

 

ウソップはそう言って廃屋を出て行った。

 

「「…………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、韓玄が亡くなり、楊齢が行方不明となった結果、民百姓の反乱はますます激しくなり、さらに韓玄に反感を抱いていた兵士達も反乱に加担した。

 

暴政に加担していた武官、文官達は逃げ出すか殺され、楊齢も見つかり首を刎ねられた。

 

街の統治はしばらくの間、民がたてた領主の代理人によって行われる事になった。

 

太守がいなくなった長沙郡は周辺の太守から狙われ、荊州内の力関係は不安定となり、どの権力者も荊州外部を侵略する余裕はなくなった。

 

こうして燈の計略は成功したのだった。

 

 

 

そして、韓玄暗殺から数日後。

 

「……すごい荒れようだな…」

 

燈の脚も治り歩けるようになったため、ウソップ達は街から離れようと、隠れていた廃屋を出て中心街の方へ向かった。

そして反乱の結果、荒れ果てた街を見てウソップは呟いた。

 

「こんな所で暮らすなんて、大変そうだね…」

 

罰が悪そうに呟く喜雨。

 

「いやいや、これで良いんですよ」

 

「「「「「?」」」」」

 

不意に近くにいた老父が話しかけてきた。

 

「たとえ戦がなくとも、この街は平和とは言えませんでした。

暴政から紛争に代わり、紛争が終わった事で、ようやく平和を目指せるというものです。

この後領主が誰になろうとも、今までより酷くなる事はまずないでしょう。

だから、これで良かったんですよ」

 

「……そうか」

 

「ところで、皆さんあまり見ない顔ですけど…旅人ですか?」

 

「ああ、そうだ」

 

「だったら…『天の御遣い様の話』って知りませんか?」

 

「“天の御遣い様”って何だそりゃ?」

 

「この国に伝わる伝説上の人物です」

 

紫苑達がウソップに説明する

 

「天の国より現れ、乱世を治めてくれるといわれているんです」

 

「子供に聞かせるお伽話みたいなものだけどね」

 

「璃々もしっているよ」

 

「いや、その伝説の方じゃなくて…」

 

「「「「「?」」」」」

 

「天の御遣い様が、本当に現れたって噂があって…」

 

「「「「「え?」」」」」

 

「何でも何百人という賊をたった一人で退治してしまうような、とんでもなく強い旅の武芸者がいるようで…。

少し前に噂になった“黒髪の山賊狩り”の女と一緒に行動していたとか…。

まァその女は噂と違い、絶世の美女ではなかったそうですが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、某所。

 

「…………」

 

「どうした?愛紗?」

 

「いえ、なんかまた悲しいような、腹が立つような気がしまして…」

 

「「「?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天の御遣い様が実在する…?」

 

「ただ強い武芸者の噂に尾ひれがついただけなんじゃないの?」

 

「少なくとも、私達は何も知りませんわね…」

 

「そうですか…」

 

紫苑達3人はあまり関心が内容に返事をするが…

 

「……なァおい」

 

「何です?」

 

「その御遣いって…どんな格好をしていたか聞いてないか?」

 

ウソップがその話に食いついた。

 

「ウソップさん?」

 

「例えば…『ワラで編んだ帽子を被っていた』とか、『刀を3本持っていた』とか、『前髪で片眼が隠れていた』とか…」

 

「……そういえば藁の帽子を被っていたって…」

 

「!ど、どこにいるかはわからねェか⁉」

 

「か、かなり前に河北の方へ向かって行ったそうですが…」

 

「“カホク”?」

 

「黄河より北にある冀州、并州などの地域ことです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、ウソップ達は街を後にし…

 

「それじゃあ、ここでお別れですね」

 

「できれば、徐州まで来て頂きたかったのですが…お礼もしたかったですし…」

 

「ありがたいけど、やっと見つけた仲間の手掛かりだから、見失わない内に追いかけたいんだ」

 

「そうですか」

 

「それじゃあ気をつけてな燈、喜雨」

 

「…………」

 

「喜雨?」

 

ウソップ達が別れの挨拶をするなか、喜雨は一人俯いていた。

 

「……ねェ、ウソップさん」

 

「何だ喜雨?」

 

「この前ウソップさんが話してくれた、海賊になった父親の息子って…今はどうしているの?」

 

「……父親の後を追って、そいつも海賊になったそうだ。今は、そいつの仲間と一緒に旅をしてるらしい」

 

「……お父さんと同じ勇敢な海の戦士になったの?」

 

「ああ、そうだ。……いや違うな、勇敢な海の戦士になる為に、海に出たんだ」

 

「……そうなんだ。わかった」

 

そう言うと喜雨は目を閉じる。

 

「…………」

 

「…………」

 

そして…

 

「ウソップさん」

 

「何だ?」

 

「仲間を見つけたらさ、一緒に徐州に来てよ。ボクが育てた野菜、沢山ご馳走するから」

 

笑顔でそう言うのだった。

 

「おう!そうさせて貰うぜ!」

 

そして、ウソップ達と燈達は別々の道を進む。

 

「それじゃあなー!」

 

「またいつか!」

 

「二人とも~げんきでね~!」

 

「必ず来て下さいねー!」

 

「歓迎するからー!」

 

 

 

 

 

 

「喜雨、良かったの?」

 

「何のこと?」

 

「ウソップさんが言っていた、父親の後を追って海賊になった息子って…」

 

「うん、わかってる。ウソップさんの事なんだよね。

でもいいんだ。ウソップさんはボクが、信じたいって…信じるって決めた人だから…!」

 

「そう…じゃあ帰りましょうか」

 

「うん。母さん」

 

そんな会話をしながら2人の仲の良い親子は、東を目指す。

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、当面の目的地は決まったな」

 

「ええ、河北を目指しましょう」

 

「ウソップお兄ちゃんのなかま、いるといいね」

 

「そうだな」

 

そして、まるで親子のような3人は、そんな会話をしながら北を目指すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某所。

 

「韓玄がやられたか」

 

〈ああ、楊齢も死んだ。アイツの武器は一応回収したけどな〉

 

「なら良い。所詮あいつは目の前の贅沢にしか興味がない男、天下を揺るがす様な器ではない。

後の事も取り敢えず放っておいて良いだろう」

 

〈はい〉

 

(しかしあの武器を渡しておいた楊齢がやられるとは…あいつの使い方が甘かったのか、あるいは…)

 

 




ウソップ、紫苑、璃々、燈、喜雨のオリジナルストーリー完結です。
もうしばらくオリジナルストーリーは続きます。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。