ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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今回からは、オリジナルストーリーナミ編です。




第52話 “九人の御遣い”

ウソップ達が河北を目指し、北上を始めた頃。

 

「へ~これが長江!」

 

ナミとシャオは揚州にいた。

 

「大きいわね~!」

 

想像していたよりも断然大きい長江に、目を丸くするナミ。

 

「どう?驚いた?すっごいでしょ!」

 

「確かにすごいけど…別にシャオが威張ることじゃないでしょ…」

 

「あ~…この景色を見ると帰ってきた実感が湧くわね!」

 

「それはいいけど…大丈夫なのシャオ?」

 

「何が?」

 

「あんた家出同然で飛び出してきたんだから、帰ったら大目玉くらうんじゃないの?」

 

「大丈夫よ。シャオは孫家で一番可愛がられている姫君だもの。

帰ってきたことを泣いて喜ばれることはあっても、叱られることなんてないわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く!あなたって子は!」

 

しかし、実際はシャオが言った通りになる筈もなく、帰ってきたシャオを出迎えたのは蓮華の説教だった。

 

現在、ナミ達は謁見の間におり、蓮華の背後には玉座に座った雪蓮、さらにその左右に冥琳と炎蓮が立っている。

 

「孫家の姫君たる者が、供もつけずに一人で出歩いて!何日も帰らずに!」

 

「蓮華姉様…それについてはシャオにも言い分が…」

 

「そんなものある訳ないでしょう!だいたいあなたは、いつも…」

 

「孫権様、もうそれくらいに…」

 

「周瑜…しかし…」

 

「そうよ蓮華、それ以上怒鳴りつけたらまた家出しかねないわよ?」

 

「…わかりました」

 

「あの…雪蓮姉様」

 

「どうしたのシャオ?」

 

「叔母様はどうしたの?」

 

「……どうする冥琳?客人のいる手前で話して良いものかしら?」

 

「ごまかした所で、おそらくあの者は大方の事情を察するでしょう」

 

「わかったわ。実はね…」

 

 

 

 

 

 

「…そんな…叔母様が…?」

 

実の叔母が自分の姉を殺めようとした一件を知り、シャオは思わず膝をついた。

 

―――――そしたらその日、お母さんが死んだわ

 

旅の途中で聞いたナミの過去話を思い出し、さらに怖くなる。

 

「シャオ、こういう事が起こりかねない時世だから、勝手に家を出たりしないで頂戴。いいわね?」

 

「はい…」

 

素直に反省するシャオだった。

 

「さてと…ナミとやら、妹が世話になったようね」

 

話を終えた雪蓮は、ナミの方に向き直る。

 

「この子の面倒をみるのはさぞかし大変だったでしょう?同情するわ」

 

「ああ、平気よ平気。普段もっと大変な奴らの面倒みてるから」

 

(今、『奴()』って言った?)

 

(小蓮様以上の者が複数いるとは…本当に大変そうだな…)

 

心の中で同情する、蓮華と冥琳だった。

 

「ナミ、孫家はあなたを歓迎するわ。その子の世話をして、無事に我が家に帰してくれた報酬は、後ほど渡しましょう」

 

「そうこなくっちゃ♪」

 

「それで、あなたに少し訊きたい事があるのだけれど…」

 

「何?」

 

「あなた―――“ルフィ”って男を知っている?」

 

「!あんた達ルフィの事知っているの⁉」

 

 

 

 

 

 

「そんな事があったのね…」

 

ナミは雪蓮から、ルフィが孫家を訪れた時の事を聞いた。

 

「あなたの雰囲気が、どことなく彼と似ている気がしたから聞いてみたけど、やっぱり仲間だったのね」

 

「でも安心したわ。ちゃんと誰かが付いているようで。あいつ1人だと何をしでかすか本当にわからないから…」

 

「全くだ…そういう奴を一人にさせると不安しかないからな…」

 

「気持ちを察するわ…」

 

「ちょっと冥琳!蓮華も何が言いたいわけ⁉」

 

「それで、ルフィはその“かんう”って人達と一緒に、北に向かっているのね?」

 

「ええ。小さい子も連れていたし、あなた一人ならその内追いつけると思うわよ」

 

「それじゃあ追いかけるとしますか」

 

「でも、船が出るまではしばらく日数があるから、それまではここでゆっくりしていって頂戴。シャオと一緒にいた時の話も聞かせて欲しいし」

 

「ええ。そうさせて貰うわ」

 

「ねえ雪蓮姉様、そのルフィってどんな奴なの?」

 

「楽しい奴よ。シャオもきっと気に入るわ」

 

「へー、会ってみたーい!」

 

「!そうだ姉様、あの話を…!」

 

「!そうだったわね。ナミ、あなたにもう一つ訊きたい事があるのだけれど…」

 

「今度は何?」

 

「天の御遣いについてよ」

 

 

 

 

 

 

「乱世を終わらせる天の御遣い?」

 

「ええ、それについて書かれた書物が一つあるのだけれど…周瑜!」

 

「はっ!この書物によれば、天の御使いは九人おり、九つの流星と共に地上に降り立つと言われている。

“打撃と雷が効かず、伸縮する身体を持つ護謨の御遣い”

“三本の刀を携え、鉄をも切り裂く刀剣の御遣い”

“雲の行く末を知り、風雲雷雨を味方につける気象の御遣い”

“地平の先の敵をも射貫き、火炎の矢弾(やだま)を放つ射手の御遣い”

“黒き袴を身にまとい、その蹴撃で岩をも砕く剛脚の御遣い”

“獣の体に生まれ、人の智慧を授かりし獣人の御遣い”

“幾千もの腕を持ち、敵を逃さぬ千手の御遣い”

“鋼の肉体を持ち、五体が兵器と化す鋼鉄の御遣い”

“骸の体で生を持ち、隠なる剣を扱う屍の御遣い”

このように言い伝えられている。

何か思い当たる事はないか?」

 

「思い当たるも何も、私達の事を指しているとしか思えないわね…」

 

「やはりそうか…」

 

「仲間の中に思い当たる奴がいるし、私達がいたのが天の国でここが別の世界だとしたら納得できる事もあるし…」

 

そう言いつつ、ナミは腕に付けた記録指針(ログポース)を見る。

 

(“記録指針(ログポース)”が何の反応も示さない以上、“偉大なる航路(グランドライン)”じゃないのは間違いなかったけど、どうしてそんな場所に一瞬で移動したのか不思議だったのよね…)

 

「孫策様!少々宜しいですかな?」

 

…と、不意に扉を開け2人の女性が入って来た。

その片方は…

 

「張昭!どうしたのよ?」

 

「こやつがどうしてもお目通りをしたいと申しましてな…」

 

…と、雷火は困った様な顔をしながら、後ろにいる女を示す。

 

蓮華と同じくらいの年齢で、水色の短い髪に蓮の花の髪飾りを左右に付けている。

 

「あなたは確か…最近、新しく文官になった…」

 

「はい!()()新人文官の“魯粛(ろしゅく)”、字は“子敬(しけい)”と申します!

座右の銘は“先手必勝”!以後、お見知りおきを!」

 

「はいはい、よろしく。それで、一体何の用?」

 

「耳寄りな情報を手に入れたので、出兵を勧めに参りました!」

 

「出兵って…随分と大きく出たわね」

 

「はい!いずれは孫家の筆頭軍師になるつもりですから!」

 

(大した野心だな…)

 

苦笑いする冥琳だった。

 

「それで耳寄りな情報っていうのは何なの?」

 

「はい!荊州のことについてです!」

 

 

 

 

 

 

「劉表の配下達が内部分裂を?」

 

「はい。跡取りを長男の“劉琦(りゅうき)”殿にするか、“劉琮(りゅうそう)”殿にするかで、真っ二つに分かれているそうです」

 

「そんなの迷う必要ないじゃない。習わし通り長男を跡継ぎにすれば良いのに、どうして迷っているのよ?」

 

「劉琦殿は生まれつき病弱なんだそうです。

対して劉琮殿は健康体であられるため、『劉琮様を跡取りにした方が安泰なのでは?』と考える方も多いそうです」

 

「成程ねェ…」

 

「さらに最近、荊州の城で反乱がおき、太守が一人亡くなったそうです。

これによって荊州内の力関係が変わりましたから、各郡太守の皆様は自分の領土以外の問題では動かないでしょう。

つまり、荊州を攻めるには今が好機という訳です!」

 

「……おい」

 

炎蓮が話に入って来た。

 

「魯粛とかいったな?お前その話をどういう経緯で聞いた?」

 

「港で交易品の管理をしていた時に、商人さん達が話していたのを聞きました。

それで気になって、荊州の方から来た方に少し探りを入れてみたのです」

 

「そうか…」

 

炎蓮は少しあごに手を当て、何か考えた後…

 

「よし!出陣するか!」

 

「おお!わかっていただけましたか!」

 

「か、母様!他の者達の話も聞かずに、ましてや姉様や周瑜を差し置いて…!」

 

「まー良いじゃないの!それじゃあ早速支度を…」

 

「いや、今回の指揮はおれが執る。孫策、お前は留守番だ。周瑜と張昭もな」

 

「ええっ!」

 

「なっ⁉」

 

「どういう事ですか⁉」

 

「この前の一件の罰だ!今回は大人しくしていろ」

 

「……はーい…」

 

「承知…」

 

「了解しました…」

 

渋々返事をする3人。

 

「魯粛!お前には来て貰うぞ。今回の出陣の責任者だからな!」

 

「勿論です!私の大手柄!この目で見に行きますよ!」

 

「それとナミ、お前も来い」

 

「……は?」

 

「「「「……へ?」」」」

 

炎蓮の言葉に、先程から部屋の隅で我関せずの状態だったナミ本人はもちろん、雪蓮、蓮華、シャオ、冥琳も思わず声を漏らした。

 

「ちょ、ちょっと母様⁉」

 

「何を言っているのです⁉」

 

「ナミ殿は客人ですぞ!」

 

「だから客将として連れて行くんだよ。天の御遣いの一人の実力、この目で確かめさせて貰おうと思ってな」

 

「冗談じゃないわよ!私は可愛いし発育もいいんだから、戦になんて行くべきじゃないでしょ!」

 

「ナミ…前にも言ってたけど何なのその理屈…?」

 

「別に前線で戦えとは言わねェよ。ただちょっと能力(チカラ)を見せて、後方支援でもしてくれりゃ報酬ははずむぜ?

あと、戦場でお前が分捕ったモンは全部くれてやっても良いぞ?」

 

「是非ご同行させて下さい!」

 

「変わり身早っ⁉」

 

「決まりだな。あと連れてくのは程普、黄蓋、陸遜、周泰…」

 

「……母様」

 

「何だ尚香?」

 

「シャオも戦のできる年になりました。連れて行って下さい」

 

「シャオ⁉」

 

「「「「⁉」」」」

 

「…………」

 

真剣な声で頭を下げて頼むシャオに、ナミ、雪蓮、蓮華、冥琳、雷火は驚く。

炎蓮も驚いてはいないが、意外そうな表情をしている。

 

「……シャオ、本気か?」

 

「本気です」

 

「……そうか…よしわかった、連れて行ってやる!」

 

「ありがとうございます!」

 

「……母様、でしたら私も連れて行って貰えないでしょうか?」

 

「孫権様まで…!」

 

「わかった、連れて行こう。となると、甘寧も一緒に来るだろうな。そんだけいりゃ十分だろ。早速出陣の支度をしろォ!」

 

「「「はっ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、兵士、武器、馬、秣、食料などを整え、炎蓮、蓮華、シャオ、粋怜、祭、穏、思春、明命、魯粛、そして客将となったナミは呉の港を出発した。

 

雪蓮、冥琳、梨妟、大喬、小喬は留守番である。

 

目的地は長江に面している荊州の郡の一つ、江夏郡である。

 

その船の甲板にて…

 

「たっ!やあっ!たァっ!」

 

「ハァッ!」

 

シャオと明命が手合わせをしていた。

シャオは両手に一対のハート型のチャクラム“月下美人(げっかびじん)”を、明命は背中にさしてある刀“魂切(こんせつ)”を手に戦っている。

 

少し離れた場所ではナミ、蓮華、粋怜、思春が様子を見ている。

 

「へー…シャオって結構強いのね」

 

それまでシャオにはかよわい少女のイメージしかなかったため、武器を手に暴れる姿を見てナミは驚いていた。

 

「昔から身体を動かすのが好きで、武芸の稽古に好んで参加していたのよ。なんとなくわかるでしょ?」

 

「まァ確かに…」

 

「昔はずっと弓を腰に付けていたから、“弓腰姫(きゅうようき)”なんて呼ばれたりもしていたわね」

 

苦笑いしながら話す蓮華。

 

「…ところで、蓮華様」

 

「何、思春?」

 

「何故、今回の出陣に志願を?」

 

「確かに…蓮華様が自ら志願する事なんて今までなかったですよね?」

 

「別に大したことじゃないわ。シャオが行くって言いだしたから、つい心配になって付いて行こうと思っただけよ」

 

「成程…」

 

「それにしても、シャオ様もどうして出陣を志願したのかしら?」

 

「さあ?不思議よね…」

 

「―――ふう…。小蓮様、今日はここまでにしておきましょう」

 

「はーい!」

 

手合わせを終えたシャオは、ナミの所へ駆け寄ってきた。

 

「どうナミ?見てた?」

 

「ええ、すごかったわ!」

 

「そうでしょ~!えへへ~」

 

(シャオってば、すっかりナミ殿の事が気に入ったみたいね)

 

蓮華はそう思うのだった。

 

「ところでシャオ様、どうして今回の遠征の出陣を志願したんですか?」

 

「えっと…なんていうか…その……ちゃんと母様の傍に居たいって思って…」

 

「「「「?」」」」

 

(ちょっと薬が効きすぎたかしら?)

 

シャオの返答を聞き、そう考えるナミだった。

 

「しかし小蓮様、また腕を上げましたね。うかうかしていると、私も抜かれてしまいそうです」

 

「当然よ!シャオだって孫家の姫君、母様の娘なんだから!

もっともっと成長して、武芸だっておっぱいだって、明命なんか足元にも及ばないくらいになるんだから」

 

「なァ⁉ぶ、武芸だっておっぱいだって、そう簡単には追い抜かれませんよ!」

 

「へっへ~んだ!シャオは日々成長しているのよ!すぐに母様や姉様達みたいになるんだから!」

 

「……そうでしょうか?小蓮様のお身体の成長は、私と同じぐらいのような気がしますし、最終的には私と変わらないような体形になるのでは?」

 

「言ったわね!シャオの成長と明命の成長、どっちか上が勝負してやりましょうか⁉」

 

「望むところです!」

 

バチバチと火花を散らす2人!

 

「あんた達何をくだらないことで…」

 

「くだらなくなんかありません!」

 

「そうよ!おっぱい勝ち組は黙ってて!」

 

ため息交じりのナミの発言に、ますます気を荒くする2人。

 

「明命!今度は部屋で成長具合の勝負よ!」

 

「わかりました!」

 

そして2人は船内へと消えて行った。

 

「……ナミ殿…お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありません…」

 

「いいわよ別に」

 

「それにしてもシャオ様も明命も相変わらずよね~。胸の大きさなんてそこまで重要じゃないでしょうに…。

というより、動きにくくて邪魔なくらいなのに…」

 

「粋怜殿」

 

「「「⁉」」」

 

突然、それまで黙っていた思春が剣を抜き、粋怜に突きつけた。

心なしか、普段ただでさえ鋭い視線から、さらに光が消えているように見える。

 

「そこまで言うのでしたら…言って下さればいつでも切り取りますが?」

 

「…い、いえ…遠慮しておくわ…」

 

「わかりました。それとナミ殿」

 

「は、はい…」

 

「口は禍の元といいます。少々気を付けた方が宜しいかと」

 

「う、うん…わかった…気をつけるわ…」

 

(……思春…あなたもなのね…)

 

 


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