ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
その夜―――
孫堅軍と黄祖軍は和睦し、孫堅の軍船は江夏の岸からある程度の距離をとり停泊。
そしてそれぞれの船団と陣で、酒宴が開かれた。
「母様も物好きよね…昨日まで戦をしていた相手の大将と飲むなんて…」
「まァまァ、このような世の中では、“昨日の敵は今日の友”というのも珍しくない事ですぞ」
「祭殿のおっしゃる通りです蓮華様。
私もいまだに、錦帆賊を率いて孫家と敵対していたことが、昨日のことのように思うことがありますから」
「だとしても、敵の大将と二人で飲むなんて普通する?」
「炎蓮様は普通じゃないですから~色々と…」
「よ~し!もう一勝負よ!」
「望むところ!」
そんな話をする蓮華達の隣で、ナミと粋怜は酒を片手に賭博をしている。
「それにしてもナミさん、本当によく飲まれますね~」
「あの酒豪さは母様にも劣らないんじゃないかしら?」
「そうじゃのう。あれほどの勢いで飲めるのなら、大殿の相手も務まるかもしれんのう」
「そうですね~。ようやく炎蓮様の酒の相手が見つかったかもしれませんね~」
「え?祭や粋怜だってかなりの酒豪なんだし、母様の飲み相手は十分務まるんじゃないの?」
「いや、わしらは以前大殿と飲み比べして負けたことがあってのう…。
大殿と互角に飲み合える者など、黄祖ぐらいしか知らぬのう」
「黄祖殿はそこまで飲まれるのですか?」
「うむ。あやつは大殿と同世代の輩の中で、酒・食事・狩り・戦・遊び、あらゆることで唯一大殿についていける者だったのじゃ。
そのうえ大殿が熱くなりやすいのに対し、あやつは常に冷静じゃから、抑え役には適任。
そのため何かと、一緒に行動させられることが多かったそうじゃ」
「腐れ縁というやつですかね~?」
そんなことを言いながら、穏は両軍の間を漂う一隻の屋形船を見るのだった。
▽
その頃―――
「かーっ!長江の流れに揺られて飲む酒はまた格別だなー!」
「貴様はどこだろうと美味い酒が飲めるだろうが…」
炎蓮と黄祖は両軍の間に浮かんだ屋形船の中で飲んでいた。
「しかし敵対している相手と共謀するなど…よくこんな策を思いついたのう…。
ましてや我々と何のやりとりもなく策を進めるなど、並大抵の思考ではないぞ…」
「ああ!その通りよ!おれは特別な奴なのさ!そこらの連中と一緒にすんじゃねェよ!」
「褒めたつもりは微塵もなかったのだが…」
「おれは型にはまるのは、好きじゃねェんでな!型破り!前代未聞!異常!イカレた奴!
そいつはおれにとってこれ以上ない褒め言葉だぜ!」
「私が貴様の策に乗らなかったらどうするつもりだったのだ?ましてや劉繇に協力し、貴様を討つ可能性もあったのだぞ?」
「お前とは長江を挟んで何年も睨み合ってきた仲だ。お前のことは味方と同じぐらいよくわかるし、信用できる。
そんなことはありえねェって思ってたぜ」
「言うのう…」
「んで、今回の戦利品だが、弓矢や弩は全部お前らにやる。おれ達は糧秣を貰う。他は山分けってことで良いな?」
「構わん。劉繇の扱いはどうする?」
「前に雪蓮があいつを叩きのめしたときは、見逃してやったが、こんな事をしでかした以上、放ってはおけねェからな。
朝廷に上奏して刺史の官位も解いてもらうことにした。あと揚州からも出て行ってもらう」
「そうか。気の毒な奴じゃのう。領土内にこんな暴れ者がおったがために、官位を失うとは…」
「おれを抑え込めねェような奴に、この先州刺史が務まると思うか?」
「……一理あるな」
「ああ、そうだ。ついでにちょっと訊いておきてェんだが…」
「何だ?」
「劉表の部下どもの間で、仲間割れが起きているってのは本当か?」
「……ああ、それは本当だ」
「ほう…」
「貴様も知っていると思うが、劉表様には息子が二人いる。前妻が生んだ劉琦様と今の妻が生んだ劉琮様だ。
お二人とも聡明で、能力については申し分ないのじゃが、劉琦様は生まれつき病弱で、『あまり重荷を背負わせると、身が持たないのではないか?』と懸念する者が多い。
習わしに従い長男の劉琦様を跡取りとするか、安泰を第一に劉琮様とするかで、完全に真っ二つに分かれてしまっておる」
「習わしなんかどうでもいいと言うつもりはねェが、能力や性格上、不向きな奴にやらせるべきではねェな」
「ところがな、劉琮様が跡取りになると、それはそれで厄介な事になるのじゃ…」
「厄介な事?」
「今の劉表様の妻には“
「つまりそいつの甥にあたる劉琮が跡取りになれば、政権もそいつの手中になる。
荊州が完全にそいつらに乗っ取られるってことか?」
「そういうことだ。
特に最近は物騒でのう…劉琦様の食事に毒が入っておるなど、ほぼ毎日のようにある。
劉琦様の支持者が命を狙われることや、妙な罪で処刑されること、不慮の事故や病で亡くなることも多い。
以前、ある文官が劉琦派の者の暗殺を企てたことがあってな。
私が未然にその文官を捕え、問い詰めたのだが、そやつはこうぬかしおった。『劉表様の命令で殺すことになったと蔡瑁から聞いた』とな」
「成程、そりゃ物騒だな…」
「まァ、私はこうして江夏におるおかげで、奴らから距離をとる事ができているがな」
「しかしまァ、義理とはいえ息子を殺そうとするような奴の手に渡ったら、荊州は終わりだな」
「そういう事だ」
「それで、その蔡瑁って奴は何者なんだ?」
「……今言った通り、劉表様の妻の兄だが?」
「とぼけんじゃねェ。お前程の奴が距離をとった方が良いと考えるような奴、そうそういるワケねェだろ。何者だ?」
「……今の段階では、得体の知れぬ奴としか言いようがないな。
あやつ自身、
「大きな力を持つ何か?……どっかの州牧か異民族、朝廷の誰かとかか?」
「いや…おそらくそれらよりも、もっと強大で
「ほう…」
「知りたいことはコレで全てか?」
「ああ。ところで訊いといて何だが、喋っちまってよかったのか?」
「もはや荊州のことは私ではどうすることもできん。外から誰かが荒療治をしてくれた方が良さそうだ。
それに蔡瑁のことは、誰かに話しておきたかったしな」
「そうか」
▽
和睦と宴を済ませた翌日、孫堅軍は早々に引き上げた。
そしてその数日後―――
~呉郡、謁見の間~
魯粛はそこの中央に立っていた。
正面の玉座には雪蓮、周囲には炎蓮、蓮華、シャオ、冥琳、雷火、粋怜、祭、穏、思春、明命、そしてナミが並んでいる。
「魯粛」
魯粛に話しかける雪蓮。
「はい…」
「あなた、戦に出るのは今回の出陣が初めてだったわよね?」
「はい」
「どうだった?初めての出陣は?」
「とても良い経験になりました」
「そう。それじゃあ本題に移りましょう。今日あなたを呼んだ理由だけど…」
「…はい(私は敵の策に乗せられて、出陣を進めてしまいました…。
結果的に勝利はしたものの、私のせいで孫家の軍を危険にさらしてしまいました…。
その罰はちゃんと受けなくては…)」
自分に言い聞かせると魯粛は目を閉じ、雪蓮の次の言葉を待つ。
「あなたを孫家の軍師として、正式に採用することにしたわ」
「はい…………へ?」
思わず目を丸くする魯粛。
「今回の功績は大きいし、何よりあなたには見どころがあるわ」
「え、功績って……私は敵の策に乗せられて…」
「結果として戦には勝利したじゃない」
「けどそれは…孫堅様の…」
「今回の戦の手柄は全てお前にやる。おれはそう言った筈だが?」
「ええ~。言いましたよ~」
「はい。私達もちゃんと聞いていました」
穏と粋怜が証言をし、出陣していた他の者達も頷く。
「お前には失態もあるが、今回は手柄の方が大きい。
それに今回は失敗したが目の付け所は悪くないし、その意欲的な姿勢は悪いものではない。
お前は磨けば必ず光る」
「…………!」
冥琳の言葉に魯粛はまだ驚いた顔をしていたが、その顔は輝きだし、だんだんと喜びに満ち始める。
「そういうワケだから。これからよろしく頼むわよ」
「……はい!お任せ下さい!私が必ず孫家に天下を取らせて見せましょう!」
「相変わらず大きく出るわね~。言っておくけど、軍師っていったって見習いだからね」
「見習いだろうが何だろうが、軍師になってしまえばこっちのものです!
すぐに頭角を現して筆頭軍師に上り詰めて見せますよ!」
「期待しているわよ。ところで…」
「何でしょうか?」
「特に決まっているワケではないのだけれど、孫家の軍師や主将達はみんな真名を交換しているよ。
あなたもその仲間入りしたようなものだし、私達と真名を交換して欲しいんだけど…」
「はい!喜んでお預けしましょう!パオは“
「“ぱおわぱお”?長いし言いにくい真名ね…」
「ああ、いえ!真名は“包”で、パオは基本的に真名を預けた相手の前では、自分のことを“パオ”って言うんです」
「ああ、そういうこと。それじゃあ、改めてよろしくね“包”」
「はい!あ、ナミ殿もどうぞパオのことは“包”とお呼び下さい!」
「良いの?私は孫家の家臣じゃないけど」
「はい!共に出陣した仲ですし、天の御使い様に真名をお預けしておけば後々利潤になるでしょうし!」
「わかったわ。じゃあ遠慮なく呼ばせてもらうわね“包”」
「はい!」
「ああ。それから政務官としても、あなたを出世させることになったから」
「ええ⁉本当ですか⁉」
包の声にさらに歓喜が増す。
「ああ、本当じゃ。わしの直属の政務官にな」
「………へ?」
その間抜けな声と共に包はゆっくりと首を動かし、声の主―――雷火の方を見る。
「え?張昭様?な、何かの間違いでは…?」
「間違いではないぞ。わしも皆も同意の上での決定じゃ。
お主を一政務官からやらせようとしたのが間違いじゃった。
お主のような濃い者の手綱を、そこらの奴が握っておれるワケがなかったわ。
よって、今日からわしが直接しごいてやることにしたぞ」
「ひゃわわ⁉勘弁してくださいよ!
張昭様なんて可愛らしいのは外見だけで、中身は鬼以外の何でもないじゃないですか!」
「ほほう、お主はそんな風に考えておったのか…」
(((((((((全員そう考えているような気が…)))))))))
密かにそんなことを思う孫家の面々だった。
その間にも、雷火は包に近づきその襟元を掴む。
「さァ、早速仕事にかかるぞ!やることは山ほどあるのじゃからな!出世したくばキリキリ働け!」
「ひ~ん!わかりました~!わかりましたから引っ張らないで下さ~い!」
そして包は雷火に引きずられ、謁見の間を出て行ったのだった。
「……ねェ雪蓮姉様、本当にあいつを起用するの?」
「私も…少々不安なのですが…」
「ええ!私は気に入ったわよ!あの子の野心!」
「まァ口や性格はともかく、能力は普段の職務でも目を見張るものがありましたから、私も特に反対はしませんでした」
「しかし、あのような者を雷火殿に任せて良かったのでしょうか?」
「いいのよ。雷火もよく弟子が欲しいみたいなこと言ってたし、ああいう子は雷火に押しつ……教育してもらった方がおもしろ……よく育つでしょうし」
「姉様…今、本当は何て言おうとしたのですか?」
「まァ、あのような者は雷火に躾けてもらった方がよかろう」
「そうそう。雷火先生にきっちりお灸を据えて貰えば、丁度いい感じに育つでしょ」
そんなこんなで、“魯粛”こと“包”は孫家の軍師として起用され、雷火の指導の下働くことになったのだった。
▽
~数日後―――呉の港~
「それではナミ殿お元気で」
「ええ。皆さんもお元気で」
ナミは呉郡を立つことにした。
港には炎蓮、雪蓮、蓮華、シャオ、冥琳、粋怜、祭、穏、思春、明命、包が見送りに来ている。
「…………」
「ナミ殿、こちらが小蓮様のお世話していただいた謝礼です」
そう言って冥琳が小さな袋を差し出した。
「待ってました♪」
ナミが袋を受け取ろうとした、次の瞬間―――
バッ
「⁉」
「シャオ⁉」
シャオが突然その袋をひったくった。
「小蓮様!一体何を⁉」
「何って、ナミを雇ったのはシャオなんだから、そのお給金はシャオが預かるのは当然でしょ⁉」
「シャオ?」
「あなた何を言って…」
「と・に・か・く!ナミ!」
「?」
「こ、このお給金は…今はまだシャオが預かっておくから!…だから…その……」
しどろもどろになるシャオに対し…
「……わかったわ」
ナミはそう言うとシャオの前にしゃがみ込み…
「お給金は
「!うん♪」
(あらあら)
(シャオってば、悪い知恵つけちゃって…)
そんな2人の様子を、他の者達は微笑ましく眺めるのだった。
▽
そしてナミを乗せた船は港を出発した。
「達者でなー!」
「旅の安全を祈っているわー!」
「ルフィに会ったらよろしく言っておいて下さ~い!」
「ナミ~!またね~!」
「賭博勝負!今度は負けないわよ~!」
「また一緒に酒を飲もうぞ~!」
「お身体に気を付けて~!」
「今度はルフィ殿達とも一緒に来て下さい!」
「また来てくださいね~!」
「今度会った時はもっと偉くなっていますから!見ててくださいね~!」
岸から手を振る孫家の面々にナミも手を振り返す。
「それじゃあまたね~!」
やがて岸が見えなくなると、ナミは自然と舳先の方へ足を運んだ。
(さてと…追いつけるかしらね?)
そして逸れた仲間の足跡をたどり、北へ向かうのだった。
シャオの孫家への帰還、包と黄祖登場のオリジナルストーリーでした。
次回からいよいよ第十一席編に入ります!